FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第二十五話 「蜥蜴の毒がもたらす悪夢」

~ 聖アダマ・ランダマ教会 ~

聖アダマ・ランダマ教会はウルダハに本拠を置く「ナルザル教団」が管理する教会である。
昔この辺りを活動拠点にしていた「アダマ・ランダマ」という商人の残した数知れない実績を讃えて作られた教会であり、古くから商売の神として崇められ御利益にあやかろうと商人達の来訪が絶えなかった。


逸話「聖アダマ・ランダマの籠」
商人アダマランダマは押しも押されぬ大金持ち。貧しい人々に銅貨一枚恵まないケチとして知られていた。しかし、彼をよく知る市場の人々は違った感想を抱いていた。アダマランダマは恵みこそしないものの、女の子が集めた貝殻だろうが、食い潰した前衛画家の作品だろうが、よい品には対価を惜しまなかったからだった。大籠を持って現れ、どんどん買ってくれる彼のおかげで、商人が集まり、特産品が育ち、市場はやがて近隣随一の規模にまで発展した。アダマランダマは、その生前のよさを称えられ、後にナルザルの聖人に列せられた。


しかしドライボーンが軍事拠点化し交易拠点としての機能が弱まるにつれて自然と商人達の来訪も少なくなり、教会は次第に商人向けの信仰施設ではなく「生者に説き死者を送る」という教会本来の活動が中心となり、死者を受け入れるため教会の周りに広い墓園が作られた。
信仰施設の役目を終えてからも、神として奉られている聖アダマ・ランダマの気前の精神は残されており、死人の受け入れ・埋葬を無償で行い続けている。


だがそのせいもあって第七霊災に巻き込まれた人の大量の死体や、その後に活発化し始めた蛮族に襲われた者、更には諸国から流入してくる難民の死体がここに運び込まれ、一時教会の前には埋葬を待つ死体の山が築かれた。

教会内にいるナルザル教団のものは少数しかおらず、信徒たちのボランティアもあって施設管理が行われていたが、毎日のように運び込まれてくる遺体の埋葬に追いつかず、防腐処理もままならないままで放置されていた死体が腐りだすことによって、酷い悪臭に包まれていた時期もあった。

さらにダラカブの落下で東ザナラーンが大地ごと大きく引き裂かれたことにより、死体を埋葬するための棺の材料となる「木材」をグリダニアから仕入れることもできなくなったため「ただ土を掘って埋める」簡易土葬にて埋葬せざろうえなかった。
様々な悪条件のせいで不衛生を極めた聖アダマ・ランダマ教会周辺は、悪臭だけでなく「伝染病」が大流行し、さらに多数の死者を誘発する結果を招いてしまう。

その後錬金術師ギルドが、防腐剤や消毒剤の他、伝染病への特効薬を作ったことで事態の悪化に歯止めがかかり、さらにハイブリッジ建設により本格的にグリダニアとの交易が再開され棺桶が作れるようになったため、ようやく聖アダマ・ランダマ教会の周りから露出する死体が消え去った。

しかしその時についてしまった悪い印象も今だに残っており、ドライボーンの周りには救いや死に場所を求めて難民や貧民が居つきだし、地元民との軋轢が生まれてきている。

また、聖アダマ・ランダマ教会においても変わらず人手不足が続いているため、朽ち果ててしまっている墓も野放しの状態が続いている。

 

閑話休題


私はドライボーンにある聖アダマ・ランダマ教会に着くと、赤い服を着た男のことを聞く。すると教会の者が「ここ数日毎日のように墓に訪れる男のことかしら・・・」と教えてくれる。
そして私はその者に墓の前まで案内して貰えないかと頼むと、快く応じてくれた。

私はその墓の前で待っていると、そう時を待たずにアルディスは現れた。


やっと来たな。
俺のいない間に、ウルダハもずいぶんと大変なことになっているらしいじゃねぇか。


と、アルディスはまるで他人事のように話す。
しかしその表情には、いつも見せているような軽々しさは無かった。
アルディスは名すら刻まれていない一つの墓の前に立ち、手に持っていた酒瓶のふたを開け墓石にかけた。
そして墓石の前に花束を置くと、静かに目をつむり手を合わせた。


ハハッ 久しぶりに来て見りゃ、随分と汚なくなったもんだ・・・・
あちらこちらの墓石は壊れちまってるし、その破片を墓石にしているところなんてのもある。
昔はもっときれいだったんだが、商人からの寄付も集まらなくなったって聞く・・・
やっぱり「無償」ってのは限界があるよなぁ・・・

 

まぁそんなことはいいか・・・
この土の下に眠ってるのは、7年前に死んだ先代の剣術士ギルドマスター・・・・・・ミラの父親だ。 頑固で偏屈で横暴で・・・・・・まったく、どうしようもねェクソジジイだったよ。
だが剣への情熱だけは世界一だった・・・。

そんなオヤジを敬っていたのはミラだけじゃねぇ。
俺にとっても・・・アイツにとっても尊敬できるオヤジだったはずだ・・・
無理難題ばかり押し付けてきて終始振り回されっぱなしだったけど、あのオヤジの元にいたからこそ、俺らはウルダハの頂点にまで上り詰めることが出来たことは間違いねぇ。

なのに・・・・!


ここまで感情をむき出しにするアルディスの姿を見るのは初めてだ。
アルディスが言う「アイツ」とはルルツの言っていた「ナルザルの双剣」の片割れのことだろう。剣術士ギルドの混乱に乗じて姿を消した男。
ここでアルディスがあの男のことを語り出したということは、今回の襲撃事件に関わりがあるからだろう。

私がそのことをアルディスに聞こうとしたとき、気配を感じて振り向いた。
そこには、まるで死人のような顔色をした一人の拳闘士の女がフラフラとした足取りで違寄ってきていた。

 

・・・・気を付けろ・・・あいつの目・・・普通じゃねぇ・・・


私は剣を抜き構える。
拳闘士の女?・・・・まさかこいつ、ブラックブッシュで手練れの剣術士を襲ったやつか?

女はブツブツ何かを呟きながらこちらに歩いて来る。
自分を見ている・・・というよりは構えた「剣」を見ているようだ。


ザナ・リエーガ・・・・・・。リーヴォルド様の・・・・・・影・・・・・・。
 アルディス・・・・・・お前を・・・・・・葬る・・・・・・。
 ・・・・・・お前・・・・・・危険な敵・・・・・・。


アルディス? 今この女・・・アルディスと言ったな・・・
だが、女は私の後ろにいるアルディス本人ではなく、私を・・・私の剣を凝視しているのはなぜだ?

 

リーヴォルト・・・やっぱり奴か・・・
すまねぇ! オヤジの墓標の手前もあって今日は剣を持ってきてねぇんだ。
アイツの始末はお前に任せた!


女は標的であるはずのアルディスに目もくれず、剣を帯刀している私めがけて一気に突っ込んでくる。

!!!

恐ろしく動きが早い!
3間ほどあったはずの間合いは瞬きの間に一瞬に詰められ、手に取り付けられたカギ爪を振ってくる。私はその攻撃を何とか躱すが、同時に足を払われてその場に倒れこんだ。
ヤバイッ!!
直感的に危険を感じた私はそのまま起きることなく横に転がった。
ザクッ 耳元で地面に突き刺す音がする。
間一髪でカギ爪の攻撃をよけ、急いで立ち上がる。

 

ゆらりと体勢を整え直した拳闘士の女は相変わらずブツブツと何かを呟きながら再び間合いを一気に詰めてくる。
私は剣を横に薙ぎ、拳闘士の女の突進を止めようとするが、

ザクッ

という肉を切る感触を剣に伝えながらも、女の突進は止まらなかった。

くそっ!!

女は瞬時に体勢を入れ替え、切られた腕とは反対側の手に付けたカギ爪を、私の顔めがけて一直線に突き出してきた。
私は顔を背けて攻撃を躱そうとするが、完全にはよけられずに「ザクッ」と顔をかすめた。

私は突進してきた女の体を受け止めて、そのままの反動を使って地面へと投げ落とした。
女の軽い体は自分の勢いも乗せられて、受け身もとらずに地面に叩きつけられゴロゴロと転がった。
しかし、女は何事もなかったかのようにゆらりとすぐに立ち上がる。

「まるで死人と戦っているかのようだった」

ブラックブッシュで剣術士から聞いた話を思い出す。

死を恐れず、ただ目的のためだけに前に向かってくる。
怪物ですら痛みに反応するというのに、傷つけても何事もなく向かってくる「人」を相手にするのがこんなにも怖いものだとは思わなかった。
普通ではない、何かに操られているかのように女は剣を持つ私に向かってくる。

ん・・・・これが毒の影響だとすれば?・・・・ならば・・・

私はとっさに袋からセヴェリアンの特製ポーションの取り出して、再び突っ込んでくる拳闘士の攻撃をぎりぎりで躱しながら女の口元めがけてビンのまま叩きつけた。

がしゃぁぁぁん!

力いっぱい叩きつけたビンは割れて、中に入っていた特製ポーションが幾らかが女の口の中に強制的に入っていく。
思わずそれを呑み込んでしまった女は立ち止まり、顔に着いた液体をぬぐった瞬間

が・・・・・ぎゃぁあっぁ!!!

と突然苦しみだした。

あぁっっ・・あぅ!・・・・が・・・ぐぁぁぁぁ!!

女は声にならない声を上げながら、地面に倒れこんで体を掻きむしりながら転げまわる。

毒によって操られているのならば、毒そのものを消してしまえばいい。
毒の種類によって解毒薬というものは変わってくるのだが、セヴェリアンの作った特製ポーションであればある程度なら効くかもしれない。

私はその推測に運命をかけてみたのだ。

よし・・・いまなら!
そう思った瞬間、私の視界がぐにゃりと歪んだ。

・・・・な・・・・に・・・

足がもつれて受け身も取れず顔から地面へと倒れこむ。

ま・・・・まさ・・・か・・・
毒・・・・あのカギ爪にも毒が塗られていたのか・・・・

意識だけでなく、体全体を乗っ取りにかかるかのように黒い感情が頭の中を染めていく。


アルディスを殺せ・・・・・・剣術士を殺せ・・・・・
誰一人残すことなく・・・・すべては・・・・リーヴォルト様の復讐のために・・・

 

抗うこともできずに、私の意識は真っ黒な闇の中へと堕ちて行った。

 

 

せ・・・・


殺せ・・・・・


アルディスを殺せ・・・


壊せ・・・・


壊せ・・・・


「    」を壊せ・・・・


折れ・・・・


折れ・・・・


憎き剣を折れ!!


黒一色に染められた救いのない世界の中は、淡々と繰り返される呪言だけに埋め尽くされている。耳を塞ごうが叫び声をあげようが、脳に直接響いてくる言葉からは逃げられない。

殺せ・・・殺せ・・・・殺せ・・・・
憎い・・・憎い・・・・憎い・・・・

周りを見渡しても何も見えず、逃げ出そうとしてもそもそも足が地についていない。
黒い液体の中に閉じ込められたかのように、憎しみの言葉で満たされた黒い海の中を何もできずに漂っていた。

その中には一切の救いも、一切の望みもない。

殺せ・・・殺せ・・・・殺せ・・・・
憎い・・・憎い・・・・憎い・・・・

どのくらいの時が経ったのだろうか・・・
これは夢の中なのか、それとも現実なのか・・・なぜ自分はこんなところにいるのか・・・・

生きることすら考えることが出来なくなるほど、呪いの言葉によって擦り切れてしまった思考は、いっそ自分もその黒い海の一部になろうとするかのように、次第に呪いの言葉に呑み込まれていった。
一度受け入れてしまうと、耳障りでしかなかったはずの呪いの言葉は、赤子に聞かせる子守唄のようにすっと脳に入っていく。

殺せ・・・殺せ・・・・殺せ・・・・
憎い・・・憎い・・・・憎い・・・・

全てをあきらめた私は、まるで悪魔の子宮の中に宿った赤子のようにうずくまり、わずかに残っていた自我すら閉じていった・・・・

 

 

 

 

突然、自分の周りを覆っていた闇に光が差し込んだ。
強烈な輝きを放つ光は永遠とも思えるほどに続いていた呪言の海を打消し、塗料を乱暴にぶちまけたように、黒から白へと世界を塗り替えていく。
白よりもさらに白く輝きを増していく光の渦に、私は目を開けることもできない。

そして大きな力によって動かされるように体が流れていく。
その流れは次第に速まり、どんどんと加速してく。
縛っていた「何か」から私を引き離すように、加速は止まらない。
光の中心へと吸い込まれていく私の意識は、いつの間にか自我を取り戻していた。

 

(がばっ!!)

うぁわぁぁぁぁぁっ!!!!!

がはっ!・・・はぁっ!・・・・はぁ!・・・はぁ・・・・

悪夢から覚めたかのように、私は大きく叫び声をあげた。
ぼんやりと霞む視界には、はっきりと認識できる物質てきなものが映っている。
それがただの「壁」であることを認識するまで、少しの時間がかかった。

戻って・・・・これた・・・のか?

私は自分の体を確認する。
体中が汗でびっしょりと濡れているが、手も足も体すべてを「認識」することが出来た。
しかしここがまだ夢の中なのか、それとも「現実」として続いてることなのかを判別することは出来なかった。

深呼吸をして、精神を落ち着かせる。
そして次第に脳が冷静さを取り戻し、今の世界が「現実」であることを受け入れた。


未だにズキズキと痛む頭を押さえながら、私はあたりを見回した。

・・・・・ここは・・・・どこだ・・・?

私が寝ていたところは、全く見覚えのない部屋だった。
部屋の中にはベッドが一つだけで他には何もない。
窓もなく、入り口のドアは鉄で作られた頑丈なものだ・・・。
例えるならば「独房」のような作りをしている。

それにこの匂いは?

スンスンと鼻を鳴らしながら息を吸うと、薬のような匂いが部屋中に充満していた。
その匂いはどうやら部屋自体に染みついているような感じだ。
ふと壁を見てみると、無数の傷のような跡がある。
ベッドから出ようと体を動かそうとするが、いまいち言うことを聞かない。
無理やり動いたせいで私の体はベッドから転げ、無様な格好で床に落ちた。

その時、鉄の扉の一部がスライドして、その隙間から一人の男がこちらを覗き込んだ。
その男は無言のままこちらをじーっと凝視していたが、スっと覗き窓が閉まり「ガチャンッ!!」とカギが開けられる音が鳴ったかと思うと「ギギギギッ」という耳障りな音を立ててドアがゆっくりと開く。
そして開いたドアの先には、セヴェリアンの姿があった。


くくっ・・・・なんて無様な格好をしているんだお前は。


まるで尺取虫のようにくの字に折れ曲がりながら床に這いつくばっている私の姿を見て、セヴェリアンは笑いをこらえきれない様子だった。
「おい、起こしてやれ」とセヴェリアンが言うと、後ろで待機していた白衣の者達が私を抱えベッドの上に乗せた直した。


それで、意識はどうだ?


とセヴェリアンは聞いてくるが「あぁ・・・うん」と曖昧な答えしか返せなかった。
私は未だに自分の状況を呑み込めていない。

私はなぜここにいる?
それ以前に私は何をしていた?

未だにぼんやりとする意識の中必死に記憶の断片を探したが、頭の中の一部がすっぽりと抜けおちてしまったかのように何も思い出すことができなかった。
セヴェリアンは私の困惑した表情を見ながら、何か考えているようだった。


ふむ・・・・思い出せないのか。
お前は自分がなぜここにいるのか、それ以前に自分が何をしていたのかどうなったのか。
そのすべてがわからないようだな。
よろしい。ではまず私の質問に答えろ。


「お前は誰だ?」


???


セヴェリアンは突然奇妙な質問を始めた。
私は困惑したが、自分の名を名乗った。


よし次「私は誰だ?」


セヴェリアンは続けて私に質問をする。
私は「セヴェリアンだろ?」と答えると、セヴェリアンの顔に変化があった。
「限定的なものか・・・」と呟いた後、その後自分のことについてや、錬金術師ギルドでのやりとり、自分が何のために動いていたかを事細かく質問してきた。
そのすべてに答えることはできた・・・・が、


そうか・・・なら最後の質問だ。
お前はドライボーンで赤い服の男に会ったか?


・・・・えっ?・・・・・・ドライボーン?


私は最後に投げかけられた質問への答えを詰まらせた。

ドライボーンに行った記憶がない。
いや・・・正確なことを言えばあるにはあるが、それは剣術士ギルドのエースを助けに行った時でそこで赤い服の男・・・・アルディスには会ってはいない。

・・・・・アルディス?・・・・そうだ、私はワイモンドから一通の手紙をもらい、そこに書かれていた「聖アダマ・ランダマ教会」に行こうとしていた。
そこにアルディスが待っていると確信して・・・・それから・・・私はどうしたんだろうか・・・?


・・・・・


セヴェリアンは最後の質問に答えられず、考え込む私の姿を見て「もういいぞ」と一言いい、私がここに運び込まれた経緯を説明し始めた。


セヴェリアンの話によると、ここはフロンデール薬学院の施設で昔「薬物中毒」患者を治療のために収容・隔離していた病棟だということだ。
先日病院に赤い服を着た剣術士の男が、縄でぐるぐるに縛り上げた自分を抱えて現れた。その男の話によると「今は気絶しているが、目を覚ますと暴れる危険性がある」と伝え「襲撃者の毒に侵されている」と続けて話したため、この隔離病棟に運びこまれたということだった。そして私は目を覚ますと、何かブツブツと言いながら部屋の中で暴れまわっていたということだった。


体の自由が効かないのは毒のせいではない。
いや・・・間接的には毒のせいだが、お前は無意識のうちに体の力全てを解放していたんだ。
周りの壁についている傷跡はすべてお前がつけたものだ。
人の体というのは肉体の恒常的維持のために7割程度しか力を発揮できないようになっている。
我が錬金術師ギルドで取り扱っている「興奮剤」はその縛りを少しだけ緩和する薬で、それを服用すると一定時間力の制限が外れるのだが、薬が切れると肉体維持の縛りを超えて動いた体は悲鳴を上げ、全身が激痛で襲われるのだ。
痛み自体は回復薬で治っているが、お前の脳と体が同調してはおらんのだろう。
まぁじきに直るだろうから、無理に動こうとはしないことだな。

私はその言葉に従うように、ゆっくりと体をベッドに横たわらせた。

 

お前が侵された毒にはその薬と同じように、身体機能を書き換える効能があるようだな。
ただ、一度外れれば二度と戻すことが出来ないほど強力なものだったようだがな。

素手で石の壁に傷をつけるお前の姿はまるで化け物の様だったぞ!
回復薬を飲ませたから体自体の傷は治ってはいるが、体中から血を吹き出して歩いているさまは悪鬼そのものだったな!


と、セヴェリアンは喜々とした表情で嬉しそうに語る。


お前を運んできた男が「この男が持っていたポーションに似た液体を飲ませれば解毒するかもしれない」と言ったのでな、俺はピーンと来たんだよ。お前に持たせていたポーションの原料の中に、解毒効果のあるものが含まれているってな。

まずは実験と思って悪鬼と化したお前に試してみようかと思ったのだが、部屋に踏みいってお前を取り押さえるのは流石に面倒だったから、ポーションを霧状にして部屋の中に拡散してやったんだ。
そしたらお前が苦しみだしたかと思うと、ばたっと倒れこんで今に至るというわけだ。

・・・・その後色々と体を調べさせてもらったがな・・・・

とセヴェリアンは最後に不穏なことを小さく呟いた。


記憶障害が残っていることはわかった。
この毒に侵されると、その前後の記憶を失うようだな。
ということは、侵されている間中は「自分ではなくなる」ということだ。
このあたり、何か思い出せることは無いか?


セヴェリアンの問いに、ふと私は思い当ることがあった。
意識を失っている間中、ずっと悪夢を見ていたような気がする。
繰り返し続く呪言のような言葉の海に閉じ込められ、感情を黒く染められていた。
自分の意思を強引に上書きしていく呪いの波に、抗うこともできずに呑まれていった。


毒というのは単純に身体機能を侵すものであって、例え毒によって脳を侵されて精神異常を引き起こしたとしても、精神を特定の方向に誘導することが出来るものではない。
この辺りに引っかかっていたのだが・・・・どうやら呪詛の類を吹き込んだ触媒も仕込んであったということか。
こういった技術を持っているのは・・・・骸旅団ぐらいか?


・・・・骸旅団?


ふむ。骸旅団はアラミゴの最後の王にして、最悪の暴君だったテオドリックの親衛隊の名だ。
ガレマール帝国に攻め入られて国を失い、南ザナラーンに落ち延びてきた一部の残党が盗賊化している。
アイツらはどこで学んだのかは知らんが「毒学」に精通していて、様々な植物や動物の一部から色々な効果を持つ「毒」を精製する技術を持っている。
悔しいがその技術はフロンデール薬学院を超えるのだ。
高度な毒薬技術に加えて、精神誘導をもたらす呪詛との掛け合わせまで出来るとは・・・・


セヴェリアンは、自分ですら成しえない技術を持っている「骸旅団」と呼ばれる盗賊に対抗意識を燃やしているようだった。


とにかく、今は安静にしておけ。
動けるようになったら、もっと詳しく「毒」と「呪い」のことを聞くからな。

覚悟しておくように。

そう言い放って、セヴェリアンは部屋を出ていった。

第二十四話 「蠍の尻尾」

私はコッファー&コフィンへと戻り、剣術士ギルドから来た救援部隊と合流した。
そして怪我をした男を手配してもらった荷馬車に乗せて、フロンデール薬学院が運営している病院へと向かった。

~病院の解放について~

依然として減ることのない剣術士への襲撃事件について、事態の深刻化に苦慮していたウルダハ王政は、事態収拾の目途が立つまでの間、本来有料である病院利用を「襲撃にあった剣術士」に限り無償化することを砂蠍衆に提案。合議の末に可決されそれにかかる費用はウルダハ王政並びに砂蠍衆に名を連ねる豪商達による寄付金により賄われることとなった。

閑話休題


病院に着き怪我をした剣術士の身柄を引き渡す手続きを行う。
その際一人の錬金術師ギルドの者と思われる女が

「この方に例の薬は使用しましたか?」

と小声で耳打ちしてきた。

私は周りを見ながら小さく頷くと「わかりました・・・ごくろうさまでした」と何事もなかったかのように私のそばを離れ、怪我をした剣術士を連れて院内へと入っていった。

 

その後、私は剣術士ギルドへは戻らず剣術士ギルドの連中と別れてクイックサンドへと向かった。

この指輪・・・・モモディなら何か知っているのではないか?

今はミラに聞くわけにもいかないし、アルディスならわかるかもしれないがそもそも会う手段がない。
とすると、私の知人の中で知っていそうな人物を考えると、モモディ女史しか思い当たらなかった。

クイックサンドに着くと、モモディ女史の元へと向かった。


なんだかすごいことになってしまっているわね・・・


モモディ女史は神妙な顔をしながら私に話しかけてくる。


襲撃事件のおかげでウルダハを訪れる剣術士の冒険者の数が激減しているわ。
一部の有志が残って、不滅隊と協力して掃討に加わってくれているけれど、最近おかしな襲撃者も増えているらしいの。

不死人のように死を恐れないというか、だれかに操られて思考を失っているような連中だって話よ。
アルディスとは関係ないようだけれど・・・

まるで古代シラディハの不死の戦士達が、ウルダハへの復讐のため蘇ってきたかのようでなんだが気気味が悪いわ。


モモディ女史は今回の襲撃事件の気味の悪さから、ウルダハ全体を揺るがすような何か「大きなこと」が怒り始めているのでははないかと思っているようだ。
私は襲撃者が落としたかもしれない「蠍の刻印」の入った指輪をモモディ女史に見せて、見たことはないかと聞いてみた。


・・・・・ごめんなさい・・・見たことはないわね・・・
でも・・・とても趣味が悪い指輪ね・・・・一生の内一度でも、はめたいとは思わないわ。


モモディ女史はその指輪のことを知らないようだったが、


彫金師ギルドへ行ってみたら?
あそこは指輪を初めとする貴金属や宝石加工を生業とするギルドよ。
そこのギルドマスターなら何か知っているかもしれないわ。


私はモモディ女史の助言を受けて、彫金師ギルドへと向かう。


~彫金師ギルド~

彫金師ギルドは名門宝飾店「エシュテム」に併設された私塾である。
古くから豊かな鉱脈に恵まれたザナラーンにおいて、必然的に掘り出された鉱石や原石を加工する「彫金」の技術も古くより発展してきた。さらにウルダハが交易都市として栄えたこともあり、民を彩る華やかな装飾品への需要、また交易品としての需要の高まりにより、緻密にして精巧な彫金文化が花開いた。

ウルダハを代表する名門宝飾店「エシュテム」は現状に満足することに溺れず、常に新しい技術を取り入れることに余念がない。
また、東方など他地域の名工を招いて職人たちに技を伝授させるなど、常に新風を吹き込ませて「流行」を生み出し続けている。

さらに「エシュテム」の現オーナーであるロロリト・ナナリトの卓越した経営手腕により、今やエオルゼアだけでなく他地域ですら名前を知らぬものがいないほどの名門装飾店としての確固たる地位を築いている。
彫金師ギルドはその彫金技術の開発や、技術者の育成を主としている。

 

閑話休題

 

彫金師ギルドに入ると、受付にギルドマスターに会いたい旨を伝えた。
「入門希望の方ですか?」と聞かれたが「ある指輪を鑑定してもらいたい。今起こっている襲撃事件にかかわるものかもしれない」と言うと受付は「わかりました、ではこちらへどうぞ。」とすんなり通してくれた。


彫金師ギルドを運営するエシュテムは、ロロリトが運営する「東アルデナード商会」の傘下商店だ。
相手がどう思っているかはわからないが、正直なところ銅刃団絡みでちょっかいを掛けている自分がそのお膝元のギルドに情報を持ってくるのは気が引けた。
だが私はただの一介の冒険者だ。私ごときのことをロロリトが気にしていると思ってしまうのは、ただの自信過剰だろう。

銅刃団の女に忠告を受けてからというもの、目立って何かロロリトの邪魔になるような動きをしている覚えはない。この襲撃事件にロロリトが絡んでいなければの話ではあるが・・・

私は受付の案内を受けて、一人の若い女性の前へと通された。
だがその女性は傍らにいた魔法人形とバタバタと問答をしていた。

 

こ、こらっ!! なんで私のお尻をさわるんですかっ!!

女体ノ神秘ハ 神ノ最高傑作! 究極ノ美!

きやすく女性の体を触るのはいけないことなんですよ!!

せれん 尻大キイ 触りゴコチ バツグン!

失礼なっ!! お、大きくなんてありませんっ! 人並み・・・人並みですっ!!

デモせれん、オ菓子食ベスギ オ尻ハイイケド 指太ク ナッテ、 彫金デキナクナル! 注意!
アレレ? デモ せれん 胸ハ 太ラナイ ノハ ナンデ? 人体ハ フシギ!!

も~~ッ!!!!
このセクハラ人形~!!


私と受付がそばにいることに気が付かず、ポカポカと人形を叩いている若い女性。
そんなやり取りにも動じず、受付は「この方がギルドマスターのセレンディピティーです」と冷静に紹介してくる。
私は「はぁ・・・」としか答えられなかった。
受付の方が「コホンッ!!」と大きく咳ばらいをすると、やっと私たちの存在に気が付いたのか「きゃぁぁぁっ!!!」と大きな悲鳴を上げて驚いていた。

すす・・・すみません!!!
気が付きませんでした! これはまたお恥ずかしいところを見せてしまって・・・・
えっと・・・その・・・あのぉ・・・・お二人はどこから見てました?

恐る恐る聞いてくるセレンディピティーに対し「お尻を触っただのあたりからです」とこれまた冷静に答える受付。それを聞いたセレンディピティーは一気に顔を真っ赤に染めて「はわわぁぁぁ・・・」と変な声を出しながら、頭をくしゃくしゃにしながらその場にぺたりとへたり込んだ。


せれん 迂闊! ギルドマスターノ ジカク ナシ!!


すべての原因はこの魔法人形にあると思うのだが・・・・
魔法人形はさらに追い打ちをかけるように言葉を浴びせるとセレンディピティーは「ガンッ!」と無言で
魔法人形を叩いた。


ギルドマスター、お客様が見えられているのでそろそろお立ちください。


と、驚くほど冷静さを保ったまま受付の方がセレンディピティーを促した。
ただその言葉に棘があるというわけではなく、どちらかというと温かさを感じるものであったので私もほっとした。


はっ!! ジェマイム・・・とお客様? あぁっ!! すみませんでしたっ!


セレンディピティーは慌てて立ち上がり、くしゃくしゃになった髪を指で整えながら身なりをただした。


よ・・・ようこそ彫金師ギルドへ!! ご入門希望のお客様かしら!?

違います。

と間髪を入れず絶妙なタイミングで突っ込みを入れる受付。
ジェイマムと言ったか・・・・こいつ・・・なかなかできるな・・・。


えぇぇっ!!! では・・・なんの御用で?


おろおろと焦るセレンディピティーに私は「この指輪を見てほしい」と言いながら、蠍の文様の入った指輪を差し出した。


セレンディピティーは不思議そうに受け取り、色々な角度から指輪を見ていく。
指輪を見るセレンディピティーの顔つきは、先ほどまでの頼りなさは一切なく、若い身ながらギルドマスターとしての風格を感じさせるほどの迫力があった。


・・・・この指輪は何処で?


そう聞いてくるセレンディピティーに、今ウルダハ近郊で起こている剣術士だけを狙った襲撃事件と、その襲撃現場に残されていたであろう指輪を拾った話をした。


その話は私も知っています。とても不気味で・・・不可解な事件ですよね・・・。

でも・・・すみません。この指輪のことは私も分かりません・・・
なにせ私はここのギルドマスターになって日が浅いもので・・・
ただここで作られたものではないのは確かだと思います。
この指輪は私たちが取り扱うような装飾品の類ではありません。
造形もあまいし、彫金も雑・・・・リングの幅も特定の誰かに合わせて作られたものではなさそうです。
・・・・おそらく「何かの目的」のため作られたものでしょう。


「ここを見てもらってもいいですか?」とセレンディピティーは指輪のアームの部分を指さしてくる。
その先を見てみると、小さな棘のような突起が付いていた。


多分ですが、ここには「毒」が塗ってあるのではないかと思います。
どんな効果を持つ「毒」なのかは私たちではわかりませんが、この指輪をはめた瞬間に傷口から体に毒が打ち込まれる仕組みになっているんだと思います。
血が付いていないところを見ると、この指輪は未使用品なのでしょう。

それに蠍の紋様・・・多分ですが「繋がり」を表すものではないでしょうか?


・・・さすがはギルドマスターを任されるほどの人物だ。
先ほどまで見せていた「年相応」の女性の感じとは全く違う。
ものを見極める「審美眼」にとびぬけた才能を感じる。


せれん お尻イガイは未熟! ダケド オ胸イガイハ 発展途上!!


もぉぉぉぉ!!! ネジはまた余計なことを~!!

そういいながら、再びセレンディピティーと「ネジ」と呼ばれた魔法人形はバタバタと追いかけっこを始めた。
追いかけられる魔法人形に表情もなければ言葉に抑揚もないが、何か「喜んでいる」と感じさせるものがあったのは不思議だ。

私は受付のジェイマムに礼を言うと、報酬の入った金袋を差し出す。
だが、ジェイマムは受け取りを拒んでこういった。


この件は国家の大事に通ずること。惜しまず協力することこそギルドマスターの本意でありましょう。


そういって一枚の便箋を手渡してきた。


指輪についてわかったことを簡単にまとめてあります。
「毒」については錬金術師ギルドのセヴェリアン師をお尋ねになれたらよろしいでしょう。
あのお方・・・「毒」については並々ならぬご興味があるようですので・・・。


・・・・やはりこの受付、ただの者ではない。
こうなることを予想していたのか、私とセレンディピティーの会話の内容を書きまとめていたのだ。
決して前に出ることはないが、半歩後ろで事の全体を見極めて、必要に応じて指示される前に自らが動く。それをまるで当たり前のように自然に行うさまに、美徳を感じるほどだ。

私は受付のジェイマムに深々と礼をする。いまだ追いかけっこに夢中のセレンディピティーは私が帰ろうとするのを見て「お役に立てましたかっ!!」と叫んできた。
私は「ここにきて正解だった。ありがとう。」と感謝の言葉をいい、私は通いなれた錬金術師ギルドへと向かった。

 

錬金術師ギルドに入るとまず私は受付に挨拶をした。
ここ最近通い詰めだったためか、すでに顔を覚えられているようで向こうも軽く会釈を返してきた。
私はセヴェリアンがいつもいるあたりを指さすと、受付の者は「こくん」と頷いた。

 

私はそのままギルドの中に入っていき、セヴェリアンを見つけると後ろから声を掛けた。


ん? あぁ・・・お前か。なんだ、もうあれを持ってきたのか?
ならそこの奴に渡しておけ。


とセヴェリアンは一旦振り向いたものの、声をかけたのが私だと分かると再び作業に戻っていった。

 

「別件で来た」と話すが、セヴェリアンは無言のまま黙々と手を動かし作業に没頭していた。
その反応にすっかり慣れてしまっている私は、彫金師ギルドの受付が言っていた通り「毒について聞きたいことがある」と言葉を続けると、セヴェリアンのせわしなく動かしていた手がぴたっと止まり、顔だけをこちらに向け「ほう・・・・毒か・・・」と呟いた。

私はセヴェリアンに「蠍の刻印」の入った指輪を目の前に差し出し「どうやらここに毒が塗られているらしい」というと、面倒そうな面持ちではあったもののどうやら興味を惹けたようだった。
セヴェリアンは私の手から指輪を取ると、先に綿が付いた小さな棒を手に取り、棘の先端あたりを念入りに拭う。そしてその小さな棒を近くにいたギルドの者に渡し「分析してみろ」と指示を出した。

 

これをどこで?


と聞いてくるセヴェリアンに「剣術士の襲撃現場近くに落ちていた」と伝えた。そして彫金師ギルドの受付から預かった手紙をセヴェリアンに渡した。セヴェリアンは渡した手紙を無言で読む。そして「これは彫金師ギルドの受付が書いたやつか?」と聞いてきたので「そうだ」と答えた。
そしてしばらくの沈黙の末、


うーーーーん・・・・・やはりあの受付は有能だな!

 

と突然声を張り上げた。


前々からあの女には光るものがあると感じていたんだが、ここまで要点のみを簡潔にわかりやすくまとめた文章を書ける奴なんてそうそうにいないからな。
こっちの無能な受付と交換してほしいと常々思っていて、一度うちに来ないかとオファーを掛けてみたんだが・・・・あの受付の女、最近就任したギルドマスターの小娘の世話があるからと断ってきたんだ。

「この私からの誘いを小娘の世話ごときで断るなどと言語道断だ!」 と怒鳴ってしまって以来、疎遠とはなっていたのだがな・・・。

セヴェリアンには珍しく「しまったな」というような顔をしながらも「あの女さえいれば俺はもっと研究に没頭できたのに」と嘆いていた。
私から言わせると仮にあの受付の女性がいたら、セヴェリアンはかえって行動と言動を厳しく管理されてしまうと思うのだが・・・・・それはあえて言わないでおこう。


話が逸れたな。指輪に付着していた「液体」については分析してやる。国の大事には全くを持って興味はないが、あの女に私の実力を知らしめるいい機会でもある。それにもしこれが人を操る類の「毒」であるとするならば、私にとっても一つの新しい研究テーマとなるだろうからな。
じっくりと時間を掛けて隅々まで分析させてもらうぞ!!

 

テンションが上がっているのかいつになく協力的なことが気になるが、やる気になってくれているのならそれに越したことはない・・・・まぁどうせやるのは弟子達なのだろうが、セヴェリアンが直々にやったとしたら完全にわかるまでは教えてくれないだろうし、しつこく聞くとキレられそうなので、有能な弟子たちにお任せしたほうが私にとっては助かるのも事実である。
私は少しでも何かわかったのなら連絡してくれといい、錬金術師ギルドを後にした。

 


その後、私は剣術士ギルドに戻ろうか悩んだ。分析結果が後日となる以上、これ以上の行動は意味がない。そういえば、いったいどのくらいで分析が終わるのか聞き忘れたな・・

そんなことを考えながら街中を歩いていると、


よう!! そこの冒険者!!

と威勢のいい声で呼び止められた。
私はその声につられて声の方を見るとそこには、ワイモンドが手を挙げて立っていた。

・・・・しまった。こいつがいたのを忘れていた・・・

ワイモンドはニコニコしながら私に向かって手を振っている。
彼はヘラヘラしていて、終始軽軽しい雰囲気を漂わせているが、素性の一端をも掴むことができないほど徹底して人格を装っている。
情報の収集と管理を生業とする「情報屋」というものはかくあるべきものなのだろう。
私は「人」としての彼を信用していないが「情報屋」としては高く評価しているつもりだ。

その彼ならば今回の事件について「何も知らない」ということこそ「あり得ない」だろう。そしてこのタイミングで私に出会い、声を掛けてきたということは「私が知りたい情報」を渡しに来たに違いない。


いやいや! なんだか大変なことになっているね!
ウルダハでこんなに大騒ぎになっているのは第七霊災以来じゃないかな!


まるでお祭り騒ぎを見ているような雰囲気で喜々として話してくるワイモンド。
私は溜息をつきながら「私はその時のウルダハのことは分からないが」と前置きし「これについて知っていることはないか?」と言いながらワイモンドに「蠍の刻印」が刻まれた指輪を見せた。

 

・・・・その刻印・・・どこかで・・・・


さすがウルダハの情報がすべて集まる男。一目指輪を見た瞬間に何か思い当たったようだ。
ワイモンドは私の手から指輪を取ると、蠍の刻印を見ながら「どこで見たんだっけなぁ・・・・?」と首をかしげながら記憶の断片を掘り起こしているようだった。


・・・・多分・・・多分だけど。
これは最近この辺りで力をつけている「アラクラン」って犯罪者集団の紋章に似ている・・・・ような気がするな。
だけどあの組織は裏で砂蠍衆や銅刃団と繋がりがあると噂されている集団だ。もしその噂が事実だったとして、特定の人物やウルダハにとって邪魔な集落の排除のために動くことはあっても、ウルダハ全体を揺るがすようなことを起こすとは考えられない。この騒ぎ自体、砂蠍衆にとって商売上でなんの得もないからな。


ワイモンドは少しまじめな顔をしながら、話を続ける。


実はこのウルダハ内でもかなり情報が錯綜していて、何が真実で何がガセなのか分らない状況なんだよ。
もっともらしいが情報の出どころ自体が不明だったり、ちゃんとしたところから聞いた情報がガセだったり、今混乱に混乱を極めている状況だよ。
剣術士の襲撃事件にアラクランが関与しているのか、そしてこの指輪が何を意味しているかは今の僕には判断ができない。情報屋の端くれとしては悔しい話だけれどね。


と、ワイモンドにしては随分と弱気なことを言う。
私はこの指輪についているかもしれない「毒」の解析を錬金術師ギルドのセヴェリアンに依頼してきたことを話し、何かわかったようだったら自分に教えてくれないかとワイモンドに聞いた。


へへっ! その程度のことならお安い御用だ!
あそこは国内外に口外できないような極秘研究をしているくせに、セヴェリアンのせいで情報統制ができずにガバガバだからな。あそこの情報なら俺に任せな!
しかもこの指輪の構造を見抜いたのが彫金師ギルドの新しいギルドマスターってなら、アラクランの関与も洗ってみなけりゃな!


何かわかったら必ず知らせる!
じゃあな!


と言ってワイモンドは自分の元から立ち去ろうとしたが、


あぁっ!! 本来の用件を忘れるところだった。


そう言いながらワイモンドは体を「グネッ」と曲げ、急旋回して私に向き直る。
だが無理に体を捻ったせいでどこかの腱を痛めたのか「痛たたっ・・・!」と言いながら突然地面に崩れ落ちた。

「大丈夫か?」と声を掛けると、


す・・・すまない・・・いたたっ・・・き、気にしないでくれ。


そう言いながら、ワイモンドは腰を抑えながらよろよろと立ち上がり、一枚の紙きれを懐から取り出し私に差し出した。


今君が一番会いたがっている人物からの手紙だ。彼が一番事情を知っていそうだけど、俺が聞いても「さあな」とだけ言って何も話してくれないし、彼に関する情報は前回に起きたクイックサンド襲撃事件の他には何も得られていないんだ。
まぁクイックサンド襲撃事件のように「懸賞金目当て」だったら調べるまでもないけど、今起こっている事件は同じなようで全く違うから関連がつけられなかったんだ。

でもこの手紙を預かったとき、君がこの襲撃事件解決において重要な立ち位置にいるってことは感じ取れた。君なら何か情報を持っていると思って話しかけたが、やっぱり正解だったようだね。

現時点でウルダハの将来は君にかかっているといってもいいだろう。
何とか解決の道筋を見つけてくれ。


そう言って、よろよろとその場を離れていくワイモンドを見送りながら、私は紙切れに書かれた文字を読む。そこには、

「聖アダマ・ランダマ教会」

とだけ書かれていた。

第二十三話 「剣術ギルドの光と影」

私は、さっそうとクイックサンドを出ていくアルディスの背中を見送った。


あなたも・・・無事の様ね。


後始末に追われながら、給仕に色々と指示を出し終えたモモディが、ため息をつきながら私に話しかけてきた。


アルディスったら、本当に昔から何一つ成長していないわ。
自分のやりたいように周囲を巻き込んで、悪びれもしないで去っていくの。
まぁ裏表のないサバサバした性格の上に、面倒見も良かったから不思議と人望は厚かったのだけれどね。
アイツが死んだって話、私はこれっぽっちも信じていなかったけれど、やっぱり生きていたわね。
でも、案の定問題ごとを抱えているようだけれど。


と、苦笑しながらモモディはアルディスが去って行った方を見ていた。
私はアルディスの過去が気になり、モモディに聞こうとしたが、


もうすぐ不滅隊の連中がここに着くわ。あなたも早く剣術士ギルドに戻りなさい。
でないと、今回の騒動の件で長時間拘束された挙句、色々と根掘り葉掘り聞かれるわよ?
まぁわたしとしては、その役をあなたが担ってくれた方が楽なんだけれどね!


と、冗談めかしく忠告してくる。
私はモモディの忠告に従い、逃げるようにクイックサンドを後にした。

 

もうミラ達は戻ってきているだろうか・・・
私が剣術士ギルドに着くと、入り口はまだ閉まったままで、扉に貼られた一枚の貼り紙がそのまま残っていた・・・・矢のおまけつきで。
私は刺さった矢を抜き取り、貼り紙を剥がしてくしゃくしゃと丸めた。


もう終わったのですか?


声をかけられふと横に目を向けると、そこにはルルツの姿があった。
私は襲撃者は撃退したと伝えると「そうですか」と言いながら剣術士ギルドの扉の施錠を解いた。

もっと時間がかかると思ったんだけど、案外と早かったのね。
まぁ・・・アルディスのことだから心配はしてはいなかったけどね。

モモディにしろルルツしろ、アルディスへの信頼は思いのほか厚いと感じる。
私と違ってそれだけ長い年月、同じ時を過ごしてきたのだろう。

アルディスはルルツもまた剣術士ギルドに長いこと籍を置いていると言っていた。
であるなら、アルディスのことについて知っていることを教えてくれるかもしれない。
私はいそいそとギルド内の開場準備をしているルルツに、アルディスのことを聞いてみた。


はぁ・・・まあここまで関わっちゃったのなら知らないのもおかしいかもね。
ミラ達が戻ってくるまでの間だけど、教えてあげる。

そう言って、開場準備を終えて元通りになったギルド内を確認して、受付に戻っていった。

しかしいつもと口調が違うな・・・こっちが本当のルルツか?

いつものふざけた様子のないルルツは私にとって新鮮であった。
そういえば、アルディスはルルツは見た目よりも年齢が何とか・・・と言っていた気がする。
とすると、あのふざけた口調は・・・若作り・・・


何か失礼なことを考えてるようだったら、蹴っ飛ばすよ?


と、鋭い眼光で睨みをきかせてくるルルツ。
私は「とんでもございません!」と全力で否定して、改めて話を聞く体勢を取った。


アルディスはね、もともとここのギルドで活躍していた剣闘士だったの。
アルディスが持っている剣はね、剣闘士としての功績を讃えられて王室より与えられた一対の剣。
刀身に「不滅」の言葉が刻まれた黒き鋼の剣は、もう一つの剣と合わせて「ナルザルの双剣」と呼びもてはやされた。

そう・・・実はもう一人アルディスと同じ剣を持つ男がいるの。
そいつもまたこの剣術士ギルドに所属していて、アルディスと共にこのギルドの黄金期を作り上げた男。
そしてその二人を育て上げたのが、ミラの親父さんよ。

アルディスはあの通り、適当で自分勝手で人の話を聞かない男だったけど、面倒見がよくて細かいことを気にしない性格だったから、ギルド内でもとても人気があった。
ギルドマスターの親父さんがまたすごい性格をしていたからね。アルディスという存在は下の者にとっていい緩衝剤になっていたの。

もう一方の男は、真面目で口数も少なく性格的に神経質で「近寄りにくい雰囲気」を漂わせていたから、剣闘士としての敬意はあっても、とっつきにくさから距離を置く人が多かったかな?

性格は正反対の二人だったけど、馬が合うのか二人は互いを認め合う友人として、お互いに強くなろうと切磋琢磨し続けた。
そしていつしかコロシアムのトップを争うところまで上り詰めたの。
二人の戦績はいつも拮抗していて「互角」のままずっと頂点に君臨し続けた。


でも、それもある事件をきっかけに崩れてしまった。
二人によって幾度となく繰り返された「一番」を決める勝負。
アルディスはついにその男に打ち勝ち「コロシアム」の頂に登りつめた・・・・

しかし、その後予想もしていなかった展開が待っていた。
勝利をつかんだはずのアルディスは八百長の嫌疑をかけられて追われ、ギルドマスターの親父さんはその混乱のさなか、何者かによって暗殺されてしまった。

八百長の嫌疑がかけられた剣術士ギルドの栄光は一瞬で地に落ちて、崩壊寸前にまでなった。
剣術士ギルドには、ギルドマスターも、アルディスも誰もいない。
ほとんどのギルドの者は剣術士ギルドを閉めることを進言した。
でもただ一人、ミラだけは存続を望んだの。

ただ・・・・あの子もまた人望がなかったからね・・・
結局ミラとともに残ったのは、入って間もないの若い子ばかりで、長くともに歩んできた連中は全部出て行ったわ。

でも、そこからのミラはすごかった。
親父さんを失って、ギルドのベテランたちもすべていなくなって、ギルドに汚名が着せられて。
ぼろぼろの状態だったけれど、このギルドが存続できるように一からあの子はあの子なりにろいろ考えて試行錯誤してきた。時には失敗を繰り返しながらも、決して折れることなく・・・ね。


その努力が実って、いまの剣術士ギルドがあるの。
剣術士ギルドは同じだけど、あの時とは全く違う、ミラがギルドマスターの「剣術士ギルド」よ。


私は「ルルツもその支えになったんだね」というと、ルルツは珍しく照れながら「私は受付しかできない能無しだから・・・って話の腰を折るんじゃないっ!」と答えた。


八百長」によって前のギルドは崩壊したけど、私は今でもそれが真実とは思っていない。
ギルドマスターの親父さんはそういう不正を一番嫌う人だったし、アルディスだって不正までして勝利を望むような奴じゃない。

もし・・・一番疑いがあるとするなら・・・・あの男・・・ね。


ルルツは顎に手を当てながら、眼光を鋭く光らせる。


あの男・・・剣術士ギルドが大変になっているにもかかわらず、突然に姿を消したの。
私は初め、アルディスと共にどこかに逃げたのかと思っていた。
そして、風聞でアルディスはどこか遠い地で捕まって殺されたと聞いていた。

でもこの前アルディスが再び戻ってきた。それはもう驚いたよ。
死んだと聞かされていた人間が、最後に会った時と変わらずヘラヘラして現れてんだから。
ミラも相当びっくりしたはずよ。だってミラ、アルディスだけには懐いていたんだからね。

アルディスがここに来たとき私に言った。
「ここに俺を狙った襲撃者が襲いに来る。その中にはあいつがいるかもしれないから急いでここを閉めろ。あいつはこのギルドに恨みを持っている。顔を知っているお前も殺されかねん。」

ってね。
逃げて行った奴に恨みを持たれる筋合いはないけれど、殺されるのはもっとごめんだ。
だから「始末」をアルディスにお任せしたんだよ。

でその時、私は確信したんだ。
あの男が「八百長疑惑事件」に深くかかわっているんだと。

真相を知っている者を排除しに、アルディスを追いかけてアイツもウルダハに戻ってきているんだ。


喋りながら、ふとルルツはうつむいた。


このことをミラに言うべきかどうか・・・
今の私には判断できない。

でも一番の被害者であるあの子にとって、一番の選択をとってあげたいと心から思うんだ。
なぁ・・・どうしたらいいんだろう?


ルルツは真剣な目をしながら、まっすぐに聞いてきた。
知らないほうが幸せなこともある。
もしミラ自身、その時のことが今もなお心の重しになっているのであれば、すべてを話して解放してあげればいい。だが過去の出来事から決別し、今を大事にしているのであれば、このまま言わないほうがいいだろう。

だがまだ何も終わっていない。

私はルルツに、アルディスが襲撃者を見て「はずれだ」と言っていたことを話す。
確かにあの襲撃者の中に、アルディスと同じ「剣」を持つ者はいなかった。


そう・・・


ルルツは悔しそうな顔をしながら地面を見つめた。


なら今はそのことをミラに言うのはやめよう。
剣術士を襲う集団と襲われたギルド所属者、そしてアルディスの登場とが続いて、今とても混乱していると思う。
ここであの男の話をしたら彼女、何を言い出すかわからないから。
だってミラって、あまり深く考えることが苦手だからね。


と、何かを思い出すようにフフッと笑った。
その表情は自分の娘をみて笑う母親のように穏やかで、慈愛に満ちていた。

私はその温和な感じを出すルルツに「長く見ているだけあって、まるで母親の様だな」というや否や、ルルツの顔が急に鬼のような形相になり、


剣術士ギルドのアイドル少女たる私に向かってなんてこと言いやがる!!


と言いながら私の顔に分厚い本を投げつけた。
油断しきっていた私は、笑顔のまま近距離から本の直撃を受け、倒れて悶絶する私のもとにつかつかと歩いてきたルルツは、「ゲシッ」と私の顔を足で踏みつけた。


アイドルは歳をとらない、そしてトイレにもいかない!!
分かったかこの朴念仁!!


その小さな体躯に似合わず、やはりララフェル族の力はヒューランをはるかに超えている。
その小さい足に踏みつけられているにもかかわらず、顔は一切動かすことが出来なかった。
まぁ・・・ルルツの優しい本質が見れたから、これはこれでいいかと納得する私だった。


・・・・お前ら・・・一体何をやっているんだ。


襲撃者のアジト制圧から帰ってきたミラは、ルルツと私の姿を見て呆れていた。
ルルツは慌てて私から飛びのき「おかえりなさいッ!」とかわいらしい声を出そうとするが、動揺からからちょっと裏声になっていた。

私も起き上って、ミラに「お帰りなさい」という。


・・・・・ただいま。


と、ミラは納得がいっていないような表情で挨拶を返してきた。

 

 

納得のいかないような表情をしながら戻ってきたミラに、襲撃団アジト制圧の首尾はどうだったか聞いてみた。

ミラの話によると、
先に到着していた不滅隊によって既に制圧は終わっており、先行した不滅隊の話では留守を任されていた数名の者がいただけで、呆気ないほど簡単に作戦は終わったとのことだった。
その後不滅隊は増援部隊と合流し、戻ってくるであろう襲撃者集団の本体を待ち伏せるとのことで、剣術士ギルドの面々は戦わせずしてお役御免となったようだった。

アルディスにけしかけられ意気込んで現地に飛び込んでいったミラだったが、不戦という歯切れの悪い幕切れに振り上げた剣の下ろし場所にこまっているようだった。


私は「戦わないにこしたことはない」となだめたが、それでも機嫌が直ることはなく、終始周りに当たり散らす始末であった。

扱いに困っている私にルルツは小さな声で「放っておきなさいな」と助言をしてくる。


一旦取り乱すと始末に負えないの・・・ここがミラの一番の欠点かしらね
ミラの気持ちが落ち着くまで無理にとめないほうがいい。
高ぶった気持ちが落ち着けば、いつも通りに戻るよ。


長いことミラを見てきたルルツの言うことだ。
それが正解なのだろう。

 

 

それから数日後、聞いた話によると襲撃者集団のアジトに張り込んでいた不滅隊だったが、いつまで待っても本体が戻ってくることはなかった。その後クイックサンドへの襲撃者の急襲と、冒険者たちによる迎撃成功の一報が掃討作戦部隊にももたらされ、作戦は一応「完了」という形で幕を閉じた。

襲撃者集団の掃討により、剣術士を対象とした襲撃事件は幕を閉じた・・・・・かに見えた。

しかし新たにウルダハ近郊に流入した別の集団により、その後も剣術士への襲撃はあとを絶たず、潰してはまた新たに発生するという「いたちごっこ」が繰り返されていた。

一向に減る気配を見せない襲撃者の対応に苦慮する不滅隊は、銅刃団やアマジナの私兵組織である鉄灯団にも協力を依頼したが、銅刃団については団内で不義を働いたものの粛清と、規律強化のための再教育のため人員が不足中で、鉄灯団もまたナナワ銀山にて発掘されるクリスタル原石の盗難事件が発生中とのことで、協力ができる状態ではないと断られたらしい。

そのため現在では剣術士をはじめとし、ウルダハ内で「戦技」を主とする各ギルドから有志が集められ、いまだ収束をみない襲撃者の掃討に当たっている。

 

ミラっ! ブラックブッシュでまた剣術士が襲われたらしい!!


そう言いながら、剣術士ギルドの男が駆け込んでくる。


くそっ! 一体何が目的なんだあいつらはっ!


まるでヒステリーを起こしたようにガンガンと手すりを叩くミラ。
男はその姿に少し怯えながら、


今回襲われた剣術士は相当の手練れだったらしい・・・
だがいつもと違って、一人の格闘士の女にやられたってことだ。
アイツらも腕利きを揃えだしたのかもしれない・・・


男のその言葉に、ギルド内の空気が重くなる。
不滅隊やほかのギルドから人員を出しているとはいえ、一向に事態は収束しない。
襲撃者はいまや複数の集団が入り乱れ、剣を持つものを手当たり次第襲っている状況である。

目的も不明、主導者も不明。
クイックサンドを襲った襲撃者は「アルディス」を狙ってきたが、今の襲撃者達の目的はそうでは無いようだ。

しかし今回の襲撃事件・・・いつもと様子が違うな。

襲撃者といっても、そのほとんどは傭兵崩れでどこにも所属できないような「はみ出し者」の集まりでしかない。複数 対 一人では対処が難しいが、複数 対 少数 であれば容易に撃退できる程度の者達だ。
特に各ギルドから駆り出されている連中であれば、一人であっても勝てる。

だが今回は違った。
手練れの剣術士が、たった一人の襲撃者に負けたのだ。


と・・とにかく! その剣術士はコッファー&コフィンに何とか逃げ込んだらしいが、怪我をしてしまって動けないらしく、救援要請が出ている。
急いで回復薬を持って向かうよ!


そう言って棚に常備してある回復薬を取り出し、ギルドを出ていこうとする男を制止して「私が代わりに行く」ことを伝えた。
戸惑いながらミラと私の顔を交互に伺う男に「気にするな」と言い、私はミラに確認をとることなくギルドを出て行った。
ミラは私のことを見ようともせず、制止することもなかった。

 

実はあの一件以来、ミラは私に指示することが無くなった。
ことの発端はクイックサンドでの襲撃騒ぎに、私とアルディスが絡んでいたことをミラが知ってからだ。
モモディ女史の手回しもあってか、不滅隊経由で情報が漏れることはなかったのだが「人の口に戸は立てられぬ」という故事通り、騒ぎにいあわせた人のうわさ話を封じることはできなかった。

鬼の形相をしたミラに問い詰められたが、私はかたくなに「ただ居合わせただけ」と説明した。
しかし「アルディス」と一緒にいたことに意図を感じていたミラを納得させること叶わず「隠し事をするような奴を信頼できん」と吐き捨てられ、今に至る。


その後はずっと剣術士ギルドに顔を出しては剣闘士と手合わせをしながら修練に励み、時折舞い込んでくる襲撃情報に耳を傾けながらも、ミラの指示がない限りは決して自分から動くことはしなかった。

周囲にしてみれば、お互いの意地と意地との張り合いのように映っているようで、まるで腫物を触るかのような態度で接してくる。ただ私の思いも察してくれているのか、決して邪険に扱われることがないのは救いではあるが・・・・このことについては、どうやらルルツが裏で間を取りもってくれているようだった。

それに、私は意地を張るためにギルドに居続けているわけではない。


私が欲しいのは、末端の襲撃者達の情報ではない。
この事件には、必ず「首謀者」がいる。
それは多分、アルディスが追っている「本命」。

その「本命」を討ち果たすことこそ、たくさんのものを奪われたミラの敵をとることになるのだ。

あの一件以来アルディスはウルダハに姿を見せてはいないが、あの男は今も「本命」を探している。
そして、お互いにその「本命」に近づいた時、再び出会うだろう。

そのためにも、私は首謀者の糸口をつかまなければならないのだ。

今までとは毛色の違う今回の一件にその一片が残っていることを信じて、私はコッファー&コフィンへと向かった。

 

コッファー&コフィンに着くと、傷ついた剣術士は酒場の片隅で介抱を受けていた。

ぼろきれできつく縛られ血止めはしてあるものの傷は相当に深く、よくその傷でここまで逃げてこれたなと、感心してしまうほどにひどかった。

熱が上がっているのか呼吸が荒いものの「意識を失ったら二度と目を覚ますことはできない」と感じているのか、いつ切れてもおかしくない意識をかろうじて保ち続けているようだった。
私は急ぎ傷ついた剣術士の男のもとに駆け寄り、ギルドから持ち出したポーション・・・ではなく、セヴェリアンお手製の特製ポーションの方を男の口から流し込む。

するとまるで手品を見ているかのように、致命傷とも見える体に刻み込まれていた無数の傷は、みるみるとふさがっていった。

相変わらずこのポーションの効きはすごいな・・・。

単純な回復量だけでいったら、私が銅刃団の女から受け取ったエクスポーションを軽く超えている。
市販されているどんなに高級な回復薬とも違うその特製薬は、傷を癒すだけでなく毒や麻痺にも効果がある総合回復薬の様だった。

実は、初めにセヴェリアンに特製ポーションを作ってもらった後も、ずっと錬金術師ギルドに通っている。それはセヴェリアンと「ある契約」をしたからである。
私はパールレーンのランドベルドから「草の入った袋」を受け取り、セヴェリアンの元に持っていく。
その報酬として「特製ポーション」を受け取っている。

だが、その特製ポーションはウルダハで使用認可を受けていない「未認可薬」であり、表立っての使用は禁止されているらしい。効果の実証実験は終えているものの、未認可の理由は単純に「治験不足」とのことだった。
ただ効き目が強すぎて、健常者に使用すると逆に体調を悪くすることもあるとのことで、使用者は重傷者に限るとのことだった。

そこで、私はギルド内に備蓄しているポーションの中にこの特製薬を混ぜ「錬金術師ギルドからの支給品」との名目で、特製薬をギルドの連中に持たせていた。
評判は上々の様で、この薬のおかげで一命を取り留めた者も多く、目立った副作用もでていないようだった。

それでも、秘密裏に人体実験に加担していることは否めない。
確かに作ったのは錬金術師ギルドだが、使っているのは私だ。
もしこのことがバレでもしたら、私は剣術士ギルドを追い出されるどころか、ウルダハからも追放されるだろう。
そんな危険な橋だと分かっていながらも、助かる命ならば手段を問わずに助けたいと、私は思うのである。

すがった藁で、溺れ死ぬこともあるのだが、セヴェリアンが作った「真面目」な薬であるのならば、万が一も無いだろう。


特製ポーションの効力をもってしても、致命傷を負った男の傷は全回復とまではいかなかったが、痛みから解放されて落ち着きを取り戻した男に「大丈夫か?」と声をかけた。
男は「大丈夫だ・・・ありがとう・・・」と言葉を返しながらも、死線を彷徨い続けながら生きるために保ち続けた精神力は限界の様で、ぐったりと体を弛緩させ、息も絶え絶えのようだった。

この状態で聞くのは流石に酷か・・・・

私は男に「よかった」と言い立ち去ろうとすると、


お前・・・今回の襲撃の件を聞きに来たんだろ・・・・
俺は大丈夫だから、聞いてくれよ。


そう男は言い、無理やり体を起こそうとする。
その男をずっと介抱していた店員は、倒れないように支えながら男の意思に従った。


あの女・・・・とんでもねぇ強さだったよ。
俺もエオルゼア全土をまたにかけて魔物退治を生業にしてきたが、あそこまでの奴と出会ったのは初めてだ。
なにより、何か暗示にかけられているかのように目が座っていたよ。顔色も死人のように真っ黒だった。
ブツブツと何かを言いながら、防御なんてろくにせずにただただ攻撃してくるんだ・・・まるで不死人を相手しているような不気味な感じだった。

それに・・・女の持っていた武器にはどうやら毒が塗られていたようだ。
初めは何とか女の攻撃を避けていたんだが、次第に体が重くなっていって、視界も霞みはじめたんだ。

これはやばい・・・と思って、もつれる足を何とか動かしながらここまで逃げてきたんだが、その時に攻撃をもろに受けてしまってこのざまよ・・・


男は諦めたような顔でうなだれている。


だが、逃げる途中に投げた盾が女にあたったとき、何かを落としたようだったな・・・
もう拾われてしまったかはわからないが、何かの手掛かりになるかもしれない。
こんな姿でお前に頼むのも情けない話だが・・・頼む・・・・

敵を・・・・とって・・・・くれ

そういうと、なんとか保っていた精神力が限界に達したのか、がくっと体の力を失って倒れこみそうになる。それを介抱していた店員は何とか支えた。


傷は回復しているため、命には別状はないだろう。
私はコッファー&コフィンのマスターに、剣術士ギルドに使いを出して救援部隊を向かわせてほしいと打診する。

マスターは「まかされた!」と言って、一人の店員を使いに走らせた。
私は剣術士の男の介抱を改めてお願いし、コッファー&コフィンの外に出た。


まだ盾はそのままあるのだろうか・・・
ブラックブッシュ停留所へと向かう街道沿いを中心に、くまなく見て回る。
すでに拾われていたら終わりだな・・・と思いながらも、一縷の希望を胸に探した。
そして程なくして、街道の片隅に打ち捨てられたように地面に転がっている盾を見つけた。運がいいのか悪いのか、その盾は草の影に隠れるように転がっていた。
私はその盾を拾い上げ、その周りの草むらをくまなく見る。
落としたものが何かはわからない・・・・だが、逃げる途中で「落とした」と分かるものだ。
何か光るものかもしれない・・・

そしてしばらくの間、地面を這いつくばるように草をかき分けながら探すと、一つの指輪を発見した。


これ・・・は?

それは「サソリの刻印」が入った不気味な指輪だった。

 

第二十二話 「赤い剣術士」

 

セヴェリアンお手製の「特製ポーション」をもって剣術士ギルドへと戻ると、何やら中の様子が騒がしい。私はせわしなく指示をしているミラに、セヴェリアンからポーションをもらってきたことを報告した。すると「本当に作ってくれたのか!?」と驚きの表情をしている。
・・・・どうやらミラ自体もあまりあてにはしていなかったらしい。
ミラにこの特製ポーションを持ってドライボーンへと向かうことを伝えると、

「いや、ポーションはこいつらに持っていかせるからいい。それよりもだ! 剣術士ばかりを襲う集団の居場所が特定されたんだ。お前にはその討伐に向かってほしい。今回はうちの連中の他にも、不滅隊の応援部隊も一緒に来てくれる。不滅隊はすでに現地に向かった。お前もこいつらと一緒に急ぎ向かってくれ!」

そう慌ただしく指示をしてきた。

(やれやれ・・・休む暇もないな・・・)

と思ったその時、

「相変わらず男臭ェギルドだな、ここは。 お前らちゃんと風呂入ってんのかァ?」

と呑気なことを言いながら、腰に見たことのある剣を下げた剣術士が入ってくる。あれは・・・クイックサンドで出会った男だ。

「お前は ! アルディス!!」


ミラはその男を見て驚きの声を上げる。
しかしアルディスが「よっ」と軽く声を掛けると、驚きの顔から一転怒りの表情へと変わっていった。


「よぉミラ。元気そうじゃねェか。しばらく見ないうちにキレイになったんじゃねェか?」

「アルディス、貴様、どこをほっつき歩いていた!? そして何故、いまごろになって帰ってきた!? 答えろ!」

と、ミラはすごい剣幕でアルディスに問い詰める。

「そうカッカするなよミラ。 いわゆる自分探しの旅ってやつか?  俺、こうみえてもセンチメンタルなんだよな。」

「冗談は顔だけにしろッ! 金輪際、ギルドの敷居を跨ぐな! 今度私の前に現れたら、ニヤけた面をバッサリいくぞ!」

「お~お、眉吊り上げちゃって、まァ。 せっかくのいい女が台無しだぜ。ミラ。 ・・・・・わかったよ、そう怒るなって。さっさと退散するとするか。お~怖ッ。」

アルディスは肩をすくめながら、のらりくらりとミラの口撃を躱す。そして出て行こうとする間際に、アルディスは真剣な顔になりミラに向かって言い放つ。

「だがな、出ていく前に一つだけ言いたいことがある。剣術士を襲う集団の討伐に、なぜお前がいかない?」

「なっ!? 別に行かないわけじゃない!私はギルドの代表として指揮をしなければならないんだ!」

「そうは言ってもな・・・未熟とわかっている奴らに仕事を押し付けて、偉そうにしているようにしか俺には見えんがな。」

「・・・くそっ!! 突然現れたと思ったら好き勝手なことを言って!ここを捨てて出てったお前に何がわかる!」

そういって近くにおいてあった剣を手に取ると「お前はここに残れ!!」と私に言い放ち、ギルドを飛び出していった。呆気にとられる一同であったが、その後をギルドの男たちは焦るように追いかけていった。残れとは言われたが、私も後を追いかけようかと思案していると、

「待て。お前には話がある。」

と、アルディスに制止された。だが・・・と渋る私に対して

「大丈夫だ。あれでもミラは相当に強いからな」

と諭してくる。

「ここではちょっとあれだからな・・・今からクイックサンドに行くぞ。酒でも飲みながら話をしようじゃないか。」

アルディスは手で酒を飲むしぐさをしながら、剣術士ギルドから出ていこうとする。しかし私がここを出て行ってしまうと剣術士ギルドに誰もいなくなってしまう。私は留守番をしなければならないといったが、

「お前がここに残ったところで何をできることもないだろ。おいっ! ルルツ!」

アルディスは受付嬢のルルツに何かを伝えると、ルルツはびっくりしたように驚き、アルディスの話をうんうんと真剣に聞いていた。私の知っている内でルルツがあんなにまじめな応対をしている姿を見るのは初めてだ。

「今日はもう剣術士ギルドは閉めるとよ。どうせミラだって戻ってくるのは夜になってからだろうしな。」

いそいそと閉める準備をしているルルツ。
突然の展開についていけずにオロオロとしている私に

「何をしてるのですかこのグズ! ノロマ!」

と、ルルツは私の知っているいつもの口調で罵った。


(アルディスに一体何を吹き込まれたんだろうか・・・)

「ほら、受付がそう言ってんだからさっさと出る」


私はアルディスに強引に肩を掴まれ、クイックサンドに強引に連れて行かれた。



クイックサンドに入ると、いつもに比べて人が少ないことに気が付いた。確かに時間帯的には混みだす前には早い時間ではあるものの、いつもたくさんの冒険者で賑わっているクイックサンドにしては閑散としている。
私達が席に座ると、珍しいことにモモディ女史が注文を取りに来た。

お久しぶりねアルディス。あの一件ぶりってところかしら?」

そういいながら、水の入った器をテーブルに置いた。どうやらモモディ女史とアルディスは顔見知りであるようだ。

「ご機嫌麗しゅうモモディ。いつも変わらずお綺麗で」

と言いながらモモディ女史の手を取ると、軽く口づけをする。

「ふふっ、あなたは相変わらずね。」

こんなおばさんを口説くなんて、あなたかサンクレッドぐらいなものよ?  まあ残念だけど、お世辞で釣れるほど私は安い女じゃないけれど?」

「俺は女性の前では本当のことしか言わないポリシーでね。それともモモディは若い男性の方がお好きかい?  あんなヒョロヒョロの若造より、俺の方が女性を喜ばす自信はあるんだがね。」

そんな大人な会話が目の前で繰り広げられている。
冗談なのか、それとも本気なのか。
色恋沙汰に疎い私にはいまいち理解できない。


「それはそうと、久しぶりにモモディの手料理を食べたくてね。とびっきりのやつをお願いしたんだが?」

そう言ってアルディスは机の上に「どんっ」と大金が入っているであろう大きさの金袋を置く。モモディ女史はその大金を見たあと、動揺することもなくアルディスの顔を見る。
そしてモモディはアルディスの意図を察したのか「はぁ・・・」とため息をつくと「そういうことね」と呟き、テーブルから離れていった。
そして、他のテーブルに座っている客に何かを説明し始めた。

モモディの話を聞いた客は、慌てて飛び出していくもの、やれやれと言った感じで出ていくもの、はたまた頷きその場に留まるものと、人それぞれの反応を示していた。ただ、酒場に残るものには冒険者らしき者しかいない。

一通りテーブルを回った後、モモディ女史はアルディスに「これでいいかしら?」というと「迷惑をかけるな」とアルディスは答えた。そしてモモディ女史は私に対して「あなたも厄介な人に見染められたわね。」と言いながら、どこか哀れむような目で私を見ていた。

 

私は今の自分の置かれている状況が全く分からない。いや・・・ただアルディスという男の誘いでクイックサンドに飯を食いに来ているだけなはずだが、嫌な予感がしてならないのは何故なのだろう。私はアルディスに説明を求めたが「じきにわかるさ、気にするな」としか答えてくれなかった。

程なくして出来立ての料理と酒が運ばれてきた。おいしそうな湯気と共に食欲を掻き立てる匂いが充満する。アルディスはさっそく酒を手にして「俺たちの出会いに」と言いながら乾杯した。
その後しばらく、アルディスはクイックサンドの料理を食べては「ふほっ!相変わらず絶品だぜ!」なんて言いながらガツガツと料理に手を伸ばしては、グビグビと酒をあおった。私もアルディスの食いっぷりと鼻孔をくすぐる旨そうな匂いに負け、食事に手を付けた。

私達は、ウルダハやモモディ女史のことを話のネタに雑談をしながら、一通り出てきた料理を食べ終わると、一息ついたように酒をゆっくりと飲み干し、新しい酒を注文する。

「それにしてもお前、随分とミラの奴に信頼されているんだな。」


と、アルディスは急に切り出してきた。私はそんなことはないと謙遜するが、

「いや、あいつは人に頼ることを苦手にして生きてきた奴なんだよ。自分のことは自分でやらなきゃ気がすまねぇというか、自分の考えと違うことをするやつを平気で見下すような奴だった。まぁ自分の親父を一番の誇りにしていた奴だからな。
虎の威を借りるっていうかな、自慢の親父の娘である自分の意見は間違っていないと勘違いしていた「お嬢様」だったのさ。そんなんだから表向きはチヤホヤされながらも、周囲から孤立を深めていてな。親父さんの頼みもあって俺はそんなミラをかまってやっていたんだが・・・・

ある事件で親父さんが亡くなって、俺もこのウルダハから出て行かなきゃならなくなった。偉大な指導者を失った剣術士ギルドを閉めようかって話になったんだが、ミラは続けると言い出した。案の定、人望なんて皆無に等しかったミラについていく奴なんてほとんどいなくて、栄華を誇った剣術士ギルドは不名誉な烙印を押されて長き歴史に幕を閉じようとしていた・・・・が、

剣術士ギルドは未だこのウルダハにあるじゃねぇか!」

アルディスは運ばれてきた酒を受け取ると、一気に飲み干すように酒をあおった。そして嬉しそうに顔をほころばせて、話を続ける。

「二度とウルダハには戻ってくるつもりはなかったんだが、やっぱりミラと剣術士ギルドのその後が気になってこっそりと戻ってきたんだ。ついでに親父さんの墓参りもしたかったからな。剣術士ギルドがどうなっていようと、ミラがどうなっていようと俺は現実を受け入れる覚悟をしていたんだ。

で、どうだい!

確かに全盛期に比べりゃ小さくなっちまったし、昔いた奴も数えるほどしか残ってねぇ。だがそれでも親父さんや先代達が受け継いできた剣術士ギルドは今も残っている。
ここまで来るのにどれほどの苦労をしてきたのかはわからねぇ。
しかしだ、ミラは折れることなく自分の掲げた信念を突き通したってわけだ!

どうやら俺の取り越し苦労だったようだ。

人は人に出会うことによって変わっていく。そして別れることでまた強くなる。

若い奴ってのはそれが当たり前のように出来るからうらやましいぜ、ほんとによ。」

アルディスの目には少しだが涙のようなものが浮かんでいた。私は剣術士ギルドに戻って手伝うつもりはないのかと聞いてみるが、

それは藪蛇ってもんだろ。俺は一番つらい時期にあいつ一人を置いて出て行ったんだからな。どんな理由があれど、俺はもうアイツから信頼を獲得することはできねぇンだよ。だが、もしお前さえよければミラを支えてやってほしいと思ってるんだがな。」

そう言いながら、にやついた嫌らしい笑顔で私を小突いてくる。自分だってそんな柄じゃないというと、心底残念そうな顔をしながら、

「ほんと面白くねぇ奴だなぁ・・・お前は何を楽しみに生きてるんだ?  真面目に生きているだけじゃ、短い人生なのになんの楽しみもねぇんだぞ?」

なんて失礼なことを言ってきた。正直心外ではあったが、確かに一理はあるかもしれない。今までがつらい人生であったのならば、この先の人生を楽しむかどうかもまた自分の選択による。だが不器用な私にとってその選択をすること自体が難しいのである。
いまいちノリの悪い私をいじるのに飽きたのか、急に真剣な表情に戻り、

「俺もそろそろけじめをつけなきゃならねぇンだよな。いつまでも逃げ回っていたんじゃ、頑張ってきたアイツに顔向けできねぇ。だがやっぱり俺一人ではできねぇこともあるんだよ。

そこでだ・・・ミラも頼るお前に俺も頼らせてくれ。」

そう言いながら、腰に下げていた一振りの剣を手に取る。

「伝説の武具職人ゲロルトの最高傑作「フレンジー」。 コロセウムの英雄たちに贈られた名剣のひと振り・・・・・・俺には過ぎた得物だがね。 そしてもう一人、同じ剣を持っている男がいた。 かつてはミラと同じく、信念という名の炎をその瞳に宿した男だった・・・・・・。
いいか、頼みってのは・・・・・・」

その時、ドカドカと複数の人がクイックサンドに駆け込んできたかと思うと「ヒュンッ」という風切り音と共に矢が目の前を通り過ぎ、アルディスの持っていた酒の器に風穴を開けた。

「来たか・・・」

アルディスはそう呟いて、突然の攻撃に動じる様子も見せずに、矢で射貫かれて中身がすべて零れ落ちた器を残念そうにテーブルの上に置くと、乱入者の一団に目を向ける

「チッ・・・・はずれかぁ・・・まぁ・・・しゃあない。」

乱入してきた一団を見て、自分の予想と違っていたのか、とても残念そうな顔をしたものの、場内に残っていた周りの冒険者たちに目配せをしている。冒険者たちも目で合図をするように答えていた。

「剣術士アルディスだなッ!? 貴様の命、頂きに来たッ!」

襲撃者たちは、アルディスに対してご丁寧にも前口上をする。

「いやなこった、やんないよ。」

まるでやる気がなさそうな「ぐでっ」とした体勢で襲撃者の口上に答える。しかし、いつ襲い掛かられてもいいように、剣にはしっかりと手が掛けられていた。

「ほざくなッ! 覚悟しろッ!」

「やれやれ、冗談の通じないヤツらはこれだから。 酒を味わう暇もありゃしねェ。
まぁ・・・女に囲まれるのは嫌な気がしねぇが、小汚ねぇ悪党どもに囲まれたんじゃ酒を飲む気も失せるわな。何を覚悟すればいいのかわからんが、こんなところで揉め事を起こした自分たちの身は案じたほうがいいと思うがな。」

そう言ってアルディスはゆっくりと立ち上がると、まるですべてが打ち合わせされていたかのように周りに残っていた冒険者たちもまた各々が持つ武器を手に取り、立ち上がる。

「さて・・・襲撃者諸君。賞金首の俺を打倒して大金せしめようと集団で襲ってきたまではいい。だがな「どこの誰が」流したかわからんような情報に踊らされて、こんなところにほいほいと来るもんじゃあなかったな。
何処から流れてきた奴かは知らねぇが、荒事を起こすには時と場所を選んだほうがいい。」

と、突然解放されていたクイックサンドの扉が「バンッ!」という大きな音を立てて閉まる。そして「ガチャン!!」という甲高い音が場内に木霊した。

「突然のことに焦った襲撃者の一人が、閉まった扉を開けようとするがどうやら「外側」からカギが掛けられたらしい。私は改めて酒場の中を見渡すと、いつの間にやらモモディをはじめとする従業員の姿が忽然と消えていた。」


「くそっ! 図ったな!!」


「くくっ・・・その言葉は俺に言わせたかったんじゃねェのか?
ちゃんと周りを見てみろよ。ここが「どういうところなのか」ってのがわかるからよ。」

私はアルディスの言葉に釣られるように場内を見渡してみる。

(!?)

窓や灯具が少なく、いつも薄暗いクイックサンドなので、今の今まで気が付かなったが、柱や床、そして装飾品を改めてみてみると、無数の切り傷や、何かが刺さったであろう穴、そして大きく破壊されたのか、新しい木で継がれた跡など、酒場にしては穏やかではなさ過ぎるほどの痕跡で溢れかえっていた。


ようこそ「地獄の一丁目へ」・・・なんて安っぽい口上、俺に言わせた罪は大きいぜ!


そういって椅子を「ガンッ!」と蹴り飛ばし、闘いの合図を出す。
それに呼応するように冒険者たちは一斉に襲撃者達に襲い掛かった。


アイツらの狙いはこの俺だ!
俺が槍術士共をひきつけておくから、お前は冒険者と一緒に弓術士や呪術士どもを蹴散らしてくれ。なにこの人数だ。あっという間に終わっちまうよ。

そう言いながら「ヒューッ!!」と奇声を上げながら楽しそうに敵陣の中に飛び込んでいく。とはいえ襲撃者は、私たちと冒険者を合わせても倍以上の人数がいる。しかしアルディスは迷うことなく、一直線に敵へと肉迫していく。繰り出される攻撃や飛び向かう矢をいとも簡単に打ち払い、あっという間に間合いに入ったかと思うと、相手に防御を取らせる暇もなく一気に薙ぎ払う。
さらに、アルディスへと向けられる攻撃自体が自然と避けていくように見える。それは攻撃予測が神がかっているからなのか「攻撃する前にすでに避けられている」という摩訶不思議な光景であった。

私はアルディスへの攻撃に夢中になっている遠距離攻撃陣へと突っ込み、攪乱する。そして冒険者達と共に統制を失った襲撃者達を囲み、一人一人を確実に打倒していった。そしてクイックサンドでの闘いは、あっという間に圧倒的な勝利で幕を閉じた。

「なんだ・・・随分と不甲斐ねぇなあ。もちっと楽しませてくれてもいいのにな。」

そういいながらアルディスは近くにあった酒の入った器を手に取り、

「おぉ!!!」

と高らかに勝鬨を上げて、ぐびぐびと酒を飲みほした。戦闘に参加した冒険者達も合わせるかのように武器を高らかに上げて叫んだ。そして「カチャンッ」と音が鳴ると「ギギギッ」というきしむ音を立てながら閉じられていた扉が開く。そして扉の間からモモディがひょこり顔を出した。

あら、もう終わったのかしら?  随分とあっけないものね。

扉の外から様子をうかがっているモモディに対して、アルディスは大きく手を広げて喜びを表現する。

さすがはモモディ率いる冒険者ギルドだ!

活きのいい連中が揃っているもんだから、あっという間に終わっちまったよ!  まぁ、あまり派手に暴れ回られてもこっちは困るんだけれどね。

そう言ってモモディ女史は荒れた店内を見渡し「まだましな方かしらね」とため息をついた。そして、いつの間にか戻ってきていた給仕の者達は、先ほどアルディスがモモディに渡した金袋の中から金をとりだし、小分けにして戦闘に参加した冒険者たちに配っていった。そして金をもらった冒険者たちは「毎度あり!」と言いながらほくほくした顔で店を後にしていった。

「ほれ、これがお前の分だ。」

そう言ってアルディスは金の入った袋を手渡してくる。中身はずっしりと重く、労力の割には報酬はよかった。私はアルディスが、襲撃者がここを襲ってくることをなぜか知っていたこと、冒険者との連携が仕組まれていたのではなかと思うほど自然だったことがどうしても気になった。

「ん? 襲撃者がここを襲うことを知っていたのかって?・・・・しょうがねぇ。お前にだけはネタばらしをしておくか。あいつらがここを襲うように仕向けたのは俺だからな。ここを襲ってきた連中は、俺にかけられた懸賞金目当てでここらへんに流れてきた傭兵崩れの連中だ。
だが懸賞金つってもギルドが扱うような表立ったものじゃねぇ。
何せ俺は、とうの昔に「死んでいる」ことになっているからな。
今もまだ俺が「生きていること」をまずいと思う連中がいる。そういうやつらが、俺の首に懸賞金をかけているのさ。

どこからか俺がウルダハに戻っているという情報が流出してしまったようで、この街に俺の首を狙う連中が居着き出した。だが、金に目がくらんだ連中は流れ者が多いから俺の顔を知らねぇ。だから剣術士という剣術士に片っ端から喧嘩をふっかけていたんだよ。
ウルダハで俺を知っていてなお、突っかかって来るような馬鹿な奴はいないからな。
そしてなかなか俺を見つけることができないそいつらは、業を煮やしたのか「剣術士ギルド」を襲う計画を立てていたんだよ。いくらミラが頑張っているとはいえ、今のメンツであの襲撃者の集団と対峙することは難しい。特に狭い場所での乱戦ってのは、勢いがある方が必ず勝つ。なんせ逃げ場がないからな。

だから俺は、襲撃者が襲いにくる日に合わせて不滅隊に情報を流して、剣術士ギルドの連中と一緒に討伐に向かわせて剣術士ギルドの中を「空」にしようと思ったのさ。
受付のルルツは見た目はあれだが、先代の親父さんがギルドマスターだった頃から務めているベテランだ。当然俺のことも知っているから、事情を話せば簡単に察してくれる。まぁ・・・・歳のことは聞いてやるなよ・・・あいつ怒るとほんとに怖いからな。

話しが逸れちまったな。で、動き出しが早かったところまではよかったが、どうやらミラが討伐に向かわないようなことを知った俺は、尻を叩くために剣術士ギルドに顔を出したってわけだ。人員が手薄なところに一気に攻め込まれたんじゃ、ひとたまりもないからな。

まんまとミラを剣術士ギルドから追い出した俺は、ルルツに「ここに襲撃者の一団が襲いに来るから早よ逃げろ」といったんだよ。そして、一枚の貼り紙を渡して入口に貼らせたんだよ。

(クイックサンドで待っている アルディス」

というやつをな。
モモディの冒険者ギルドなら屈強な冒険者連中がいる。だが、もしいなかった時の保険もかねて、お前を連れまわしたのさ。ま、お前と二人だったとしても、あの連中ぐらいならどうにでもなったがな。」

ハハハッ と、笑えない冗談を言うアルディス。

(・・・・・冗談であってほしいと思うのは私の願望か?)

「で、まんまとあいつらは虎穴に誘い込まれたってわけさ。だが本当はあいつらみたいな傭兵崩れの寄せ集めじゃなくて「本命」をおびき寄せたかったんだが・・・ちょっと餌が足りなかったかなぁ?そのためにせっかく貼り紙に「名前」を残したんだがな。やはり「お膝元」では動かんか。

いずれにせよ今回の騒ぎで俺の存在が表ざたになった。時間かけないうちにまた別の手を使って襲いに来るだろう。そん時にはまたお前には手伝ってもらえないだろうか?

剣術士ギルドの将来にも関わるようなことなんだが、あいつらを巻き込むわけにはいかねぇんだ・・・。」

アルディスは真剣な表情で私に依頼をしてくる。まぁ問題ごとに巻き込まれるのはいつものことだ。ましてや所属する剣術士ギルドに関わることなのであれば、断る道理もない。

私が申し出を了承すると、アルディスはにかっと笑い、握手を交わした。

「アルディス! 騒ぎを聞きつけて不滅隊の隊員がこちらに向かっているらしいわ! 出ていくなら今のうちよ!」

モモディ女史が慌てた様子でアルディスに伝える。

「おっ、それはやべぇな・・・俺がここにいたんじゃ話がややこしくなっちまう。さっさと退散するか。
じゃあな、また近いうちに連絡するよ。」

そういいながら、アルディスは急ぎ足でクイックサンドから出て行った。

第二十一話 「天才という名の狂人」

錬金術師ギルドへ入ると、受付に剣術士ギルドの使いだということを告げ、セヴェリアンに急ぎの依頼があることを伝えた。だが受付は申し訳なさそうな顔をしながら、

「ギルドマスターから「絶対に人を通すな」と言われているので・・・」

とお断りされた。ここで受付と押し問答をしていても仕方がないのでギルドマスターはどれかを聞き、人物を特定すると受付の制止を無視してズカズカとギルドの中に立ち入った。
そして何やら怪しげな作業に没頭しているセヴェリアンの元へと行き、声を掛ける。しかし、セヴェリアンはこちらを見ようともしない。

(聞こえていないとは思えないのだが・・・・)

私は改めて声を張り上げて名前を呼ぶと、セヴェリアンは手を止めゆらりとこっちを向いた。

「・・・・・・・なんだお前は?」

まるで汚い虫を見るような目で私を睨みつけてくる。
私は改めて剣術士ギルドのミラの依頼で、急ぎ回復薬を作ってほしいということを伝えた。


「・・・・・ふん。」

セヴェリアンは何もしゃべらず鼻を鳴らし、作業に戻っていく。

(・・・・なるほど。確かにミラの言っていた通り一筋縄ではいかないようだ)

私は改めてセヴェリアンの手元にセラから受け取った紹介状を投げ入れ、ミラから言われた通り「バラすぞ」と脅した。
ピクリとその言葉に反応したセヴェリアンは作業を中断して、再びゆっくりとこちらに振りかえる。そして私の顔をじっと凝視し「はぁっ・・・・」と一つため息をつくと、

「たく・・・何たることだ、あの受付め!  面倒な用事は一切私に回すなとあれっっだけ言っておいたのに!
それにお前・・・剣術士ギルドの女に何を吹き込まれたか知らないが、この私が程度の脅しで動くと思ったのか?」

そう言いながらセラの紹介状を開封することなく、ビリビリと破り捨て偉そうに腕を組みをしながら私を見下してくる。

(確かに焦るあまり礼儀を欠いていたかもしれない・・・)

私は態度を変え、セヴェリアンに経緯を説明し、何とか薬を作ってもらえないかと懇願するが、

「そんな話、私に何の関係がある?  その男が苦しんで死のうが私には何の影響もない。」

セヴェリアンは不敵な笑みをしながら、私の反応を楽しむように答えた。

(これではらちが明かない。別の方法を考えた方が早いようだ・・・)

私はあきらめ、錬金術師ギルドを後にしようとする。
だがセヴェリアンは私の格好を見て何か思い当たることがあったのか、

「おい待て。 お前・・・魔物の死骸の中に残ったクリスタルを見たことがあるか?」

と質問してきた。

(クリスタル?  妖異が消えた後に残ったあの石のことだろうか?)

私は「あんたが思っているものと同じかはわからないが、見たことはある」と答えた。
私の答えにセヴェリアンは顎に手を当ててぶつぶつと何かを呟きながら、何かを考えていた。そして次第に顔に怪しい笑みが浮かぶ。

「気が変わった。この私が直々に特製ポーションを作ってやろう。だが「はいどうぞ」って渡せるほど簡単なものではないぞ?製作に少し時間がかかる。その間暇だろうから「お使い」をしてこい。
なに心配することはない。子供でもできるような簡単な雑用だ。」


あくまでも上からの物言いで言い放つセヴェリアン。正直腹立たしさはあったものの、文句のひとつでも言うものなら、すぐへそを曲げられてしまいそうだ。
私はしぶしぶではあったがセヴェリアンの申し出を承諾した。

セヴェリアンは「よろしい!」と一声上げると、近くにいた弟子と思われる男に「あの薬は出来ているのか?」と聞く。
「試作品であれば・・・・」と答える弟子と思われる男の言葉に少し被るように「それでいいから持って来い!」と乱暴に命令する。そして弟子と思われる男から液体の入った瓶を受け取ると、


「これをパールレーンにいる顔役の男に渡してこい。
名は・・・・・えっと・・・・・ラン・・・・ロンデベ・・・」

セヴェリアンは名前が出てこないことにイライラし始めたのか、こめかみを指で叩きながらその場をうろうろとし始める。私は「もしかしてランデベルドか?」と聞くと、

「そうだ! そいつだ! なんだ、知り合いなのか? それは好都合だな!」


と、乱暴にその瓶を投げてよこす。私は落とさないように慌てて瓶を掴んだ。おろおろとする弟子と思われる男の「まだ完成品ではないのにいいのですか?」という問いかけに対して、

「お前が心配することなど何もない。新薬開発というものには必ず「治験」が必要なのだ。元々価値のないあいつらが大勢の人の助けとなる「新薬」開発に貢献できるのだ。
感謝こそされても、恨まれる道理はない。例えどんな結果になろうとな。

あぁ! 貴重な研究の時間を無駄にしてしまった!  
もうこれ以上話しかけるなよ! 話しかけたらお前も新薬の実験台にするからな!」

セヴェリアンは、フンッと鼻を鳴らして作業へと戻っていた。私は弟子と思われる男を見ると、こちらの視線に気が付いたのか申し訳なさそうにお辞儀をしてきた。

(偏屈なギルドマスターの弟子になるのも大変そうだな・・・・)

と同情してしまう。私は弟子と思われる男に礼をして錬金術師ギルドを後にした。

 


錬金術師ギルドとフロンデール薬学院~

錬金術師ギルドは、ウルダハの学術研究機関である「フロンデール薬学院」の研究部門である。

フロンデール薬学院は元々「研究成果の秘匿」こそが絶対原則であり、その道理に従うあまり外部との接触を拒み続けたおかげで「秘匿の偽技」として異端視されてきた錬金術を、医学や薬学と統合した近代学問体系に再構築し、秘技とされていた錬金術の高度な知識と技術を一般学術として開放し、統合的な技術発展へと繋げる目的として設立された。

フロンデール薬学院は「薬学部」「本草学部」「博物学部」「臨床学部」「医学部」「法医学部」「兵医学部」の組織に分かれ、幅広い研究を専門的に体系わけしている

その名の通り「薬学」の研究による医療分野の技術向上を軸としているが、フロンデール薬学院はその研究成果として総合病院も開設しており、エオルゼア中において一番とも呼べる名医や技術者が揃っている。

ただし、フロンデール薬学院の総合病院は、治療費、入院費はすべて全額前払いという形態をとっているためか、ここを頼りにしてくるものは大抵金持ちの貴族か大商人の関係者ぐらいなものである。

しかしながら、フロンデール薬学院で経験を積んで育っていった者が、独立して医院や学校を開業し、エオルゼア全域で活躍していることを思えば、フロンデール薬学院の存在意義は大きいともいえる。

 

~セヴェリアン~

錬金術師ギルドのギルドマスターとなっているセヴェリアンだが、一般人の思い描く「秘密主義の錬金術師」のお手本ともいえるほど、偏執で独善的な性格を持つ。

昔のセヴェリアンは今ほど捻じれた性格をしていなかったのだが、第七霊災時に「ワ・ナージャ」という恋人を亡くしてしまってからというもの、「蘇生」という自身の研究に没頭するようになり、錬金術師ギルドの研究開発のほとんどは、その弟子の手によるものが多い。

※「蘇生」については既に「エーテル法」を用いた蘇生魔法が確立されているが、それは体内にエーテルが残っている(肉体と精神が繋がっている状態)わずかな時間にのみ可能な蘇生技術であり、死後一定時間を経過してしまった者の蘇生は出来ないとされている。
セヴェリアンは一度離れてしまった精神も、消えずにエーテルの本流の中を彷徨っていると考え、それを再び肉体に結び付け直す方法を研究している。

本人も錬金術師ギルドのギルドマスターの地位に縛られることを嫌がっているのだが「責任を持たせないと何をしでかすかわからない」という上層部の判断により「血縁者」という理由付けにて錬金術師ギルドの長としての役割を押し付けられている。
単純に他の部門から「煙たがられている」という噂もあるが真偽は定かではない。

しかしながら、セヴェリアンは稀代の錬金術師として天賦の才を持っているのは確かで、例え本人が直接研究にかかわっていなくとも、常に指示は的確であり、常識を常識としない「神の視点」とも評されるほどの独創力と着眼力も持ち合わせているため、錬金術ギルドで研究されているほぼすべてのものが、形となって積み重なっている。

ただ「慈愛」の精神は皆無であり、主に貧民や難民を使った臨床実験を行うなど、お世辞にも人道的とは言えない行為が目立ち、悪評の原因ともなっている。

「100人を救えるなら1人の命など数えるうちにも入らない」

という極端な思考原理を持っているともいえる。

 

わたしは錬金術師ギルドを出て、パールレーンへと向かう。

(あそこに寄るのも久しぶりだな。)

パールレーンは私がウルダハに来て始めて活動拠点とした場所である。
冒険者ではなくウルダハ内での便利屋稼業を主体としていた頃、金もない私はスラム街であるパールレーンで寝泊まりをしていた。
今では外での活動が中心となり宿屋に一室をもらって以来、立ち寄ることもなくなっていた。

・・・今思えばあの時、私が冒険者として危険に身を置くことになるなんて想像もしなかった。

「とにかく手に職を、そして安定した生活を手に入れる」


そう思ってウルダハまで来たというのに・・・
何処で何を間違ってしまったのか。
まぁ、今の生活も嫌いではないのだが・・・
それはいいとして、ランドベルドは元気にしているだろうか?

そんなことを考えながら歩いていたとき、ふと先程セヴェリアンが言った言葉を思い出した。

んっ? ランドベルドがパールレーンの顔役?
・・・確か

パールレーンに「顔役」というものはいない

と言ったのは、ランドベルド本人だったはずだ。
でも、セヴェリアンはランドベルドを「顔役の男」と言っていた。
これはどういうことだろうか?
まぁ・・・聞けばわかるか。


パールレーンに着くと、ランドベルドは相変わらず粗末な織物を敷いただけの床の上に座って、ぼーっと街を眺めていた。

「ひさしぶりだな」と声を掛けるが、ランドベルドは戸惑い、誰なのかを思い出そうと訝しげに顔を見ている。そして思い出したのか、


なんだあんたか。あまりに久しぶりに見たんですっかり顔を忘れていたよ。
いつの頃からかぱったり姿を見せなくなったから、どっかで死んじまったんだろうと思っていたよ。

そんなことを、けだるそうな声で話してくる。


確かに、ここにいた期間は短いうえ、なんの挨拶もなく消えたのだから忘れられていてもしょうがないか。私はランドベルドに、ここを出て行ってからのことを簡単に説明した。

そうか・・・お前、冒険者になったんだな。
・・・格好を見る限り、相当危ない橋を渡っているな。
まぁ・・お前が自分で選んだ道だ。俺がとやかく言うことなんて一つもねぇ。
ただ・・・ここに戻ってくることだけは無いようにしろよ。
冒険者なら、ちゃんと死に場所を選ぶことだ。


そう、忠告してくるランドベルドの言葉には、妙に重みがある。


で、俺に挨拶をしに来ただけなのかい?


そうだった。身の上話をしにここに来たわけではない。
私は錬金術師ギルドのセヴェリアンから預かってきた薬の入った瓶をランドベルドに差し出した。


おう、ありがとな。
これさえあれば熱病に苦しむ仲間を救うこともできるだろう。
しかし・・・冒険者になったというのに子供のお使いみたいな使いっぱしりをしてるたぁ、頭が下がるぜ。大方セヴェリアンの野郎に無理やり押し付けられたんだろうがな。


ランドベルドは憐れむような表情をしながら、私から薬の瓶を受け取った。
私は「この薬は試作品と言っていたが大丈夫なのか」聞いてみる。


ん? あぁ・・・そんなもんだろ。
ちゃんとしたもんを買える金なんてないからな。
ただで貰えるだけありがたいってもんよ。
それに、この薬はセヴェリアンの弟子が作ったやつだろ?
なら、よっぽどのことがねぇ限り変なことにはなんねぇさ。
もし何かあるとすれば、あいつらの機嫌を損なったときぐれぇよ。


私はランドベルドがセヴェリアンのことを随分と信用しているのだなと感心する。
人格的には破たんしているように見えても、仕事に妥協はないってことか。
だが「貧民は使い捨て」というような言いっぷりをしていたのだが。

私はつい気になって、ランドベルドに「なぜセヴェリアンのことをそんなに信頼しているのか」と尋ねてみた。


・・・・まぁ俺もここに住み着く前はお前と同じく冒険者家業をやっていたんだ。
だが、ある出来事をきっかけに「ヤバい薬」に手を出してしまってな。
以降、禁断症状からくる幻覚を見出すようになってからというもの、慢性的な精神錯乱状態に陥って、誰彼構わず人を傷つけた。そして、狩る側だった俺が「お尋ね者」として狩られる側にまわった。

そして銅刃団に捕らえられて、殺されようとしていた時にセヴェリアンと出会ったんだ。
「そいつは試験体となるから殺すな」って止めにはいって、おれは一命を取り留めたんだ。
アイツにとっちゃ体のいい実験体にしか過ぎなかったが、それでも命の恩人には違いねぇ。

当時、そのヤバい薬ってのがウルダハの闇市場に出回っていて、俺みたいな輩がたくさんいたんだよ。
それは一種の幻覚剤みたいなもんで、体に直接摂取すると嫌なことを忘れられるんだ。
初めは副作用もなくて軽い気持ちでやってたんだが、使っていくうちにだんだんと量が増えていってしまってな。いつしか俺はそれ無くしては普通に生活できない状態になっていった。
で、ある時ウルダハでそのヤバい薬の大々的な摘発が相次いで、闇にも街頭にも一切出回らなくなった。
薬がねぇとまともではいられねぇ俺は、襲い来る禁断症状に耐えきれずに思考がいかれちまったのさ。

セヴェリアンを初めとする錬金術師ギルドの連中は、そんな俺たち中毒者への解毒薬の開発に躍起になっていたんだ。普通こういう問題はフロンデール薬学院の連中が動くもんなんだが、ウルダハで大きな問題となったヤバい薬を作ったのは、実は錬金術師ギルドの連中なのではないかって噂が広がっていたんだ。
その噂に激怒したセヴェリアンは「俺たちだったら副作用のない完璧な幻覚剤を作ってる」と言い放って、質の悪い幻覚剤の副作用を治療する薬を開発するとともに、それを元にして副作用の無い幻覚剤の製作を始めようとしていたんだよ。
その解毒剤と、新しい幻覚剤の臨床試験体として、俺らのような中毒患者は貴重だからな。
結局、新しい幻覚剤の開発は元となる植物の栽培禁止令が公布されたことにより頓挫したようだがね。

それでも、長期間の解毒薬の投与を経て、俺も中毒症状から脱することができたんだ。
それこそ、何の後遺症もなく・・・な。

だが、精神はまともに戻れても社会的な地位ってのは「犯罪者」のままだ。
冒険者としても終わってしまったし、犯罪歴が付いた俺はまともな職に就くこともできねぇ。
そうして流れ着いたのがここ、パールレーンだったのさ。
ここには俺のように居場所をなくした連中がたくさん集まってきて、落伍者の吹き溜まりになっていったんだよ。

ランドベルドは煙草を取り出して火をつけ、ぷかーっを煙を吐く。
私は「そうしてここの顔役になったのか?」と聞いてみた。


顔役? 俺が? 冗談じゃない!
俺はこの掃き溜めを牛耳ろうってアホなことを考えちゃいねぇよ。
そもそも、ここパールレーンを管理しているのは誰でもねぇ、ウルダハの中心にいる砂蠍衆の連中よ。
死んでも誰も困らねぇ連中ってのは、後腐れもなく「使い捨て」にできるから案外便利なんだよ。
治安を大きく乱さねぇ程度に落伍者をここに集めて管理しながら「使いたい」ときに使っているのさ。

 

私はふと気になった。
たとえウルダハで「犯罪者」の烙印を押されていたとしても、体がまともなのであれば他の地で再起することも可能ではなかったのだろうか。


確かに、他の土地に移って新しい生き方を探すっていうことも考えたさ。
でもな、ここに集まってくる連中を見ているとなんかほっておけなくてな。
ここには俺と同じような奴もいれば、商売に大失敗して腑抜けになったもの、権力者にやられて骨抜きにされ者とか、体や精神を患って捨てられた者が集まってくる。
生きていくためなら奪うしかない、っていうやつは外に出て犯罪者集団の元に流れていくが、ここに残ったものは流民街でですら生きていけないような連中ばかりだ。


そんな奴らの世話をしていたら、なんだか変な情が生まれちまってな。
安っぽい同族意識ってのかな?
確かにここは社会の底辺で救いようがねぇところだが、俺にとっちゃ生きがいを感じれるところなのかもしれねぇ。いまさら冒険者に戻るつもりもねぇしな。


ランドベルドは吸い終わった煙草の屑を水の入った缶の中へと投げ捨てる。


まぁとにかくだ。
おめぇもいっぱしになったんなら、ぜってぇここに戻ってくることがあっちゃらなぇねぞ。
ここには救いの手を差し伸べてくれる神様なんてのはいねぇ。
代りに甘い言葉で闇へと貶める悪魔様はごろごろといるがな。

ウルダハで平穏に暮らしたければ、特に「ロロリト」には目をつけられねぇようにしな。
アイツは「排除」の為なら手段を選ばねぇ。たとえ犯罪集団を手を結んででも、執拗に襲ってくるぞ。


・・・・・もう手遅れな気がしているが・・・。
私はランドベルドの忠告に素直に頷き、別れを告げる。
と、ランドベルドは私に一つの袋を手渡し「これをセヴェリアンに渡してくれ」と頼まれた。
その袋は非常に軽く、中には草のようなものが入っていた。

 

錬金術師ギルドに戻り、私はセヴェリアンに報告をするため声を掛ける。
しかし、先ほどと同じように研究に没頭しているセヴェリアンは私の問いかけに答えることはない。
やれやれと思いながらも、私はまたセヴェリアンの手元にランドベルドから受け取った袋を置いた。
セヴェリアンはその袋の中身を確認すると、

おぉ!! でかした!!
これさえあれば研究がまた進むぞ!!

と、先ほどまでの態度は何処へやら、急にこちらに向き返り大手を振って喜んでいた。
私はその中身について聞いてみたが「ただの草だ。お前には関係はない」と、再び態度を変えた。
そして「特製ポーションはもうできているから、助手から受け取ったらさっさと出ていけ」とつっけんどんに言い放ち、再び作業へと戻っていった。

・・・・私は実は、あの袋の中に入っていた草を見たことがある。
あれは確か、ロストホープ流民街の洞窟の奥で栽培していた禁制品「夢想花」とよく似ていた。

 

 

第二十話 「渇きの大地の黒き蜥蜴」

わたしはチョコボポーターを利用し、急ぎドライボーンのある東ザナラーンへと向かった。
少しでも早く辿りつきたいところではあるが、道中ですれ違う可能性もある。
私は大きな街道を逸れないように、途中途中にある集落に寄っては門番に聞き込みをしながら移動した。しかし、どこの集落でも見かけてはいないと言われてしまう。


結局、道中で剣術士の護衛する商隊とは出会うことなく、私はドライボーンに辿りついてしまった。


ざわつく心を抑えながら、私は早速情報収集を始める。
しかし、窪地にあるドライボーンでは外の様子を伺い知ることが難しいせいもあってか、商人と剣術士を見かけたものは誰一人いなかった・・・とすると、ドライボーンにも寄っていないことになる。

街頭での聞き込みをあきらめかけた時、


ここら一帯を警備している不滅隊の連中なら何か知っているかもしれない。
あそこに詰所あるから行ってみるといい。


と、一人の男がわざわざ追いかけてまで教えてくれた。

 

不滅隊の施設の中に入ると、突然の訪問者である私を見て、隊長と思わしき人物を取り囲むように立っていた不滅隊の面々がざわついた。

私が剣術士ギルドの者であること。ウルダハへと向かう商人の護衛を請け負ったが、商人も護衛も未だ戻って来ないため捜索に来た。

ということを伝えると、不滅隊の隊長らしき人は「あぁ」と声を漏らし、警戒する不滅隊の隊員をたしなめて、部屋の外へと退出させた。

???

なんだろうか・・・確かにここはウルダハの軍隊ともいえる組織の施設だ。
だが、別に一般人は元より、冒険者が訪ねてくることなんて普通にあるだろうに。
まさか銅刃団よろしく、不滅隊もまたおかしなことになっているのか?


私の不審感を感じ取ったのか、不滅隊の隊長らしき人は、

いや、驚かせてしまってすまなかった。
実は今、ラウバーン局長から届いた勅令について話し合っていてな。
セキュリティ上、本部からくる勅令はすべからく部外へは秘匿しなければならない決まりになっている。
最近じゃガレマール帝国の間者が不滅隊に入り込んでいるって噂もあるくらいなんでね。

そこに君が突然の訪問してきたので、驚いてしまったんだよ。

万が一にも無いとは思うのだが、
なにか・・・・私たちの話を聞いてしまった・・・・とかいうことはあるまいな?


不滅隊の隊長らしき人はニコニコと笑っていたものの、こちらの表情から何か変化を探るような目つきでこちらをじっと見つめている。

そういう態度をとること自体、さらに怪しさが増すだけだということに気が付いていないのだろうか。
とはいえ、実際のところ何一つ聞いていないのだから「聞いていない」としか答えようがない。

私の表情の変化を神経質そうな目で読み取りながら、言葉に嘘は無いと思い至った隊長らしき男は、


君は商人とそれを守る剣術士についての情報を探しているとのことだったね。
実は先日、アマルジャ族に商人が襲われているという目撃情報を受けて、捜索に出たばかりだったのだよ。
街道沿いを中心にその近辺も含めて捜索したのだが、結局見つからなかったんだ。
街道近くには襲われた形跡すら無かったからな・・・
ガセだったのか、もしくはうまく逃げきったのだろうと思って捜索は打ち切ったんだが、そうか・・・見つかってはいなかったのか・・・


不滅隊の隊長らしき人は、わざとらしいほど大げさに嘆き、残念そうな顔をしながら話を続ける。


ここ東ザナラーン地域の東の方にはな、アマルジャ族の軍事拠点があるんだよ。


ドライボーンはアマルジャ族の領土侵略から守る最前線基地でもある。
だが・・・情けない話ではあるのだが、ドライボーンとアマルジャ軍陣屋との間に広がる草原地帯は、アマルジャ族によって実効支配されているんだ。


荷馬車ごと誘拐された、もしくは何かの理由で草原に立ち入ったせいで、アマルジャ族の手にかかったとなれば、こちらとしても手の出しようがない。
こんな言い方しかできなくて申し訳ないのだが、諦めてもらうしかないだろう。

 

不滅隊の隊長らしき人は、しまったな・・・とばかりに腕を組みながら唸っている。
私はどのあたりまでを捜索したのかを聞くと、街道沿いを中心としてその周辺の草むらの捜索は行ったとのことだった。それ以上内側については、うっかり踏み込んだところをアマルジャ族に見つかってしまうと、宣戦布告したと勘違いされる恐れがあるために捜索は行っていないとのことだった。


私は不滅隊の隊長らしき人に礼を言うと、踵を返して駐屯所から出ようとする・・・と、

「ちょっとまて」

と不滅隊の隊長に呼び止められた。


もし捜索に行くのであれば、我々も手伝おうじゃないか。
そう言って、周りで待機していた不滅隊の隊員に声をかけると、捜索に同行するように指示をした。

・・・・・監視か?

私はその申し出を深読みする。


理由はどうあれ、見つけられなかったのはこちらの落ち度だ。
一人より二人、二人より三人いたほうが見つかる確率は広がるだろう?
見つかった商人達を運ぶのも、どこからが不可侵領域となるか知る上でも、居ても困らないはずだ。
君の自由に使ってもらっていい。

頼んだぞ? お前たち。

不滅隊の隊長らしき男の命令に「ハッ!」と大きな声を出して敬礼する。

私は一抹の不安を感じつつも、その申し出を断ることもできずに、不滅隊の隊員を連れて捜索に出た。

 

~ ハイブリッジ ~

ハイブリッジは東ザナラーン地域の北東部、ウェルウィック新林とドライボーン地区の境目にある峡谷にかけられた橋である。


元々この辺りはザナラーン平原の一部であったが、第七霊災時、ダラカブ落下の衝撃で起こった地殻変動により大陸ごと地割れを起こし、今のような渓谷が出来上がった。
その後、グリダニアとの交易路の確保のために木で組まれた簡易的な橋が建設された。

しかし谷の深さにしては貧弱だった上、断続的に起こる小規模な地震で不安定に大きく揺れる橋は「通るのも命がけ」との悪評が経ち、怖がって往来を拒むものも多かった。
それもあって、ウルダハは巨額の建設費用を投じて石による強固な橋へと架け替えを行った。

ハイブリッジの建設作業時に、渓谷の断面の一部に石造のような人工物の一部を発見、度重なる発掘調査の結果、それはベラフディア王朝時代の遺跡と断定された。


ハイブリッジの建設費用にて財政を圧迫されていたウルダハは、それが大きな観光資源になると予想。
ウルダハは元より、グリダニアからの観光客の集客も期待して、ハイブリッジに渓谷遊覧用の飛空艇発着場も併設したが、予想に反して集客にはつながらなかった。
というのも、この辺りにはキキルン盗賊団の根城があり、アマルジャ族へと売り飛ばす目的としての誘拐騒ぎが頻発しているため、のんびり観光に来ようと思う一般人はいなかったのである。

 

閑話休題


私はまず不滅隊の隊員たちとハイブリッジの前まで行き、荷捌きを行っている人に剣術士が護衛する商隊を見ていないか聞き込みから始めた。
すると「その商隊のことかどうかはわからないが・・・」という前置きをしたうえで、一つ一つを思い出しながら話しを始めた。


荷捌き人の話によると、
若い剣術士の男が護衛する商隊がここを通る際に、つい先日にあったハイブリッジ防衛戦でついた生々しい被害の跡を見て、ショックで貧血を起こしたのか地面にへたり込んでしまった。
それで、少しの間気持ちが落ち着くまでここで休憩していったとのことだった。
あまりにも顔が真っ青だったものだから、なんとなく記憶に残ってしまっていたらしい。
出発したその後についてはわからない。

とのことだったが、商隊が出発した後すぐに天候が変わったので、心配はしていたらしい。


ハイブリッジを通過して、ドライボーンへは来ていないことを考えると、行方不明となったのはその道中に限られてくる。北西側にゴールドバザーはあるが、そこへ寄り道することは考えにくい。
とすれば・・・・やはりこの草原の中か・・・・あまり考えたくないがアマルジャ族の連中に捕まったかのどちらかだろう。

考えていても仕方がない。私は荷捌き人に礼を言い、情報料として金を渡した。
受け取った荷受人は「これで新しい毛生え薬が買える!」と大喜びしていた。
・・・・その頭ではもう・・・いや・・・・これ以上はやめておこう。


私はまずは目撃情報のあったところを中心に捜索を始めた。
不滅隊の隊員に、すでに捜索を終えているところを聞きながら一つ一つ確認していく。
しかし、東ザナラーンは平坦で遠くまで見渡せるとはいえ、足元に生える低い草木やゴロゴロと点在している大きな岩のせいで死角も多く、決して探しやすいとは言える環境ではなかった。


幾ら荷馬車が大きいとしても、死角に倒れていたとしたら、すぐそばまで近寄らない限り発見することはできないだろう。また不滅隊の隊長が言っていた通り、アマルジャ族のテリトリーで不用意には近寄ることが出来ない範囲も多いため、商隊自体を見つけることはできそうになかった。

人を探したのでは見つからないか・・・
私は捜索方法を切り替え、足元を見ながら不自然なところが無いかを重点的に探した。
もし、荷馬車が街道から外れたのであれば、不自然に草や木が倒れていたり、車輪の轍があるはずだ・・・

私の狙いは当たり、ほどなくして不自然になぎ倒された枯れ木を発見する。
傷ついた幹を見る限り、人の手でできるものではない。
不滅隊の者は、近くに放牧されているアルドゴートの仕業を疑っていたが、この傷は硬いもので引きずらないとできない傷だ。

不滅隊の隊員に、周りにアマルジャ族の連中がいないかどうかを警戒してもらいながら、傷跡を辿るように地面に残る痕跡を探していった。
そして、街道から大きく離れ岩の段差から落ちたせいで壊れたとみられる、横倒しになった荷馬車を発見した。


私は急ぎその馬車へと駆け寄り、横倒しになった荷台の中を見てみると、傷ついて身動きの取れない剣術士の男と、介抱する商人の姿を確認した。

商人は私の姿を確認すると、一瞬「ヒッ」と怯えたものの、私がヒューランだと分かると「助かった!!」と大きく声を上げて喜んだ。
剣術士もまた、私の姿を見ると「よかった・・・」と小さく呟き、なんとか繋ぎとめていたのであろう意識を失って倒れた。
私は気を失った剣術士を背負い、商人と共に荷台から外に出る。そして、不滅隊の隊員から受け取った水の入った袋の一つを商人に渡し、もう一つの水袋のふたを開けて剣術士の顔にかけた。

若い剣術士は、無意識の中でも水の気配を感じたのか、ぱくぱくと口を動かして水を飲もうとしている。
私は若い剣術士の口元に、ポーションの入った瓶の口を当てて少しずつ飲み込ませた。

しばらくすると、若い剣術士の男の意識は回復し、目を覚ました。
不滅隊の隊員から今行える最低限の手当てを受けて、落ち着きを取り戻した剣術士に今回の経緯を聞いた。


若い剣術士の男によると、
トランキルを出発して、ハイブリッジを越えたあたりで突然天候が悪化。強風吹き荒れる雷雨の中を急ぎドライボーンに向けて移動していたが、北側の山の方から突然矢による攻撃を受けた。
運悪く矢を体に受けたチョコボはパニックになり暴走。
制御が効かないまま草原内部へと暴走し、窪みになっているこの場所に落っこちた。

荷馬車が落下する際、衝撃で大きく投げ出される商人を何とか抱きかかえたまではよかったが、露出する岩肌に叩きつけられて怪我をしてしまった。

その後、商人の力を借りて何とか荷馬車の中へと移動した。
雷雨がやんだ後も、襲撃から身を守るためずっとここに身を潜めていた。

商人はこの草原の中にいることの意味を知っていたらしい。
アマルジャ族に襲われる恐怖のため、外に助けを呼びに出られない状態だった。
とのことだった。


若い剣術士の男はすべてを話し終えると、自分の不甲斐なさに打ちひしがれた様子で、ぐったりとうなだれる。目からはポロポロと涙を流し、悔しそうに歯を食いしばっていた。
私はそんな若い剣術士の男に「よく商人を無傷のままで守ってくれたな」と優しく声を掛けた。

天候が悪く視界と聴界が効かない中、どこから襲われたかすら把握できない状況で、暴走する荷馬車から商人を怪我ひとつさせずに守り、今の今まで生き延びたということ自体、僥倖に近い。


私は剣術士の男を背負うと、不滅隊の隊員に商人を送り届けることをお願いし、ドライボーンまでの帰路に着く。若い剣術士の男の傷はポーションだけでは直せないほど酷く、意識はあるものの痛みで動けそうにもなかったため、怪我の療養のため、宿屋の一室を借り若い剣術士の男を留まらせた。

一通りの段取りを終えた私は、不滅隊の施設に顔をだし、隊長らしき男に礼を言った。
隊長らしき男は「見つかってよかった。我々が役立てたこともな。」と喜んでいた。
私は剣術士の男の容体を伝え、いい回復薬がないか聞いてみたが、少し前に起こったハイブリッジでの大規模な戦闘の時に、備蓄分はすべて使ってしまったとのことだった。

私は宿へと戻り、店主に宿代とは別に金を渡し、戻ってくるまでの間の剣術士の世話をお願いして、急ぎウルダハへと戻った。

 

剣術士ギルドに戻ると、私はミラのもとに駆け寄り、商人の護衛をしていた剣術士の男を見つけたこと、道中で何者かに襲われ、重傷を負ったこと、商人は無事なことを伝えた。

先日の槍術士のこともある。
私はミラに剣術士の男が襲われた時の状況をこと細かく説明し、無事商人を守ったことを強調した。


ミラは私の話に少し納得のいかない表情をするものの、

・・・・そうか。
なんにせよ早く回復薬を届けなければならないな。
だが、今ここにはお前の持っているものと同じものしかないのだ・・・
お前を使ってばかりで申し訳ないのだが、錬金術師ギルドへ行って急ぎ特製の回復薬を作ってもらえるよう依頼をしてきてもらえないだろうか?

・・・ただ、あいつは偏屈な奴だからな・・・
一応紹介状を書いておくから、断られても無理矢理でもいいから直接渡せ。もしそれでも嫌がるようだったら、


バラすぞ」といえばしぶしぶでも受けるだろう。

 

 

第十九話 「剣を狙うもの」

あれは・・・・

私はこちらに逃げる剣術士の男と面識がある。
あれは剣術士ギルドに所属している男だ。


私は剣を抜き、逃げる剣術士と入れ替わるように槍術士の男たちの前に立ちふさがる。
こいつ等は・・・シェーダー族か?

シェーダー族は、グリダニアに広がるティノルカの森林地帯(黒衣森)に古くから住んでいた先住民「エレゼン族」の一派だ。

エレゼン族をはじめとする人間種は、森の精霊を恐れて「ゲルモラ」と呼ばれる都市国家を形成し長らく営んでいたが、地上を支配していたイクサル族が精霊の怒りを買い「ゼルファトル大渓谷」に移住したことをきっかけとして地上に入植し、今のグリダニアが生まれた。

しかし、シェーダー族はその際、地上に出るのを拒み続けた者たちの末裔であり、特に後に入植してきた「ヒューラン族」を快く思っていないためか、過剰に敵視しているものも少なくない。
変化を拒み、時代の流れに取り残されたシェーダー族は、生活苦から野盗に身を落とすもの多く、自分の行為を正当化している傾向がある。


グリダニアとザナラーンは地続きとなっているとはいえ、グリダニアの地から出ることを嫌がるシェーダー族がここまで来ること自体珍しい。
シェーダー族の男は私が剣術士だと分かると、槍の矛先をこちらに向けた。
どうやら先ほどの剣術士だけを狙っているわけではないらしい。


シェーダー族の男たちは問答無用で襲ってくる。
相手は槍術士。間合いの違う武器を相手に戦うのは非常に困難だ。
逃げてきた剣術士の男の加勢を期待したいところだったが、どうやら私の後ろで腰を抜かしているらしい。

迂闊に飛び込んでは槍の餌食になる。
私は槍術士の男たちとの間合いを確かめながら攻撃をかわす。
撃ち筋を見る限り、攻撃自体は単調でそれほど熟練した使い手ではないようだ。槍は攻撃範囲が広いが、重量があるため片手で振るうことはできない。それに持ち手のどちらかは必ず体の前に来る。
そこを狙えば・・・


私は敵視を保ったまま流民屈の中に槍術士達を誘い込む。
雑多な物で溢れる流民屈の中では、長尺の槍では満足に振るうことができない。
私は挟撃されないように注意しながら、隙をみながら一撃離脱で腕や手を狙い撃ちしていく。

走りながらの攻撃では、一撃の威力は低い。
しかし、少しでもいい。
繰り返しでも相手の腕にダメージを与えれさえすれば、勝機はおのずとこちらに向かってくる。
剣の間合いとは言えないほど広い間合いを取りながら、相手の攻撃に合わせるようにカウンターを当てていく。

そして、シェーダー族の男たちの攻撃が鈍ってきたところを見計らって、一気に間合いを詰めて一人目の胴を撃った。そのままその男の後ろに回り込み、もう一人の突きを回避する。
味方にあたりそうになる槍を、無理やり止めようとするその隙を見逃さず、私は低い体勢から二人目の胴から肩にかけてを斬り上げた。

浅いか!

シェーダー族の男は槍を捨て、咄嗟に体をひねったことで、私の一撃は皮一枚を切る程度の浅いものとなった。
しかし、これ以上の戦いは不利とわかるや否や、シェーダー族の男たちは逃げていった。


私は逃げていくシェーダー族の後姿を見ながら剣を収め、襲われていた剣術士の元へと駆け寄った。


た・・・・たすかったよ・・・・
ありがとう・・・


私は男に襲われた経緯を聞いてみた。


いや、理由も何もないよ。
突然現れたと思ったら急に襲ってきた。
ただそれだけさ。


剣術士ギルドの男はホライズンにて商隊護衛の依頼を受けて移動中だったとのことだ。
男自身シェーダー族に狙われる理由もなければ、襲われるような問題に首を突っ込んでいるわけでもないようだ。

金目当てというわけでもなければ、特定で狙ったわけでもない。
通り魔にしては、堂々としすぎている。
確かにシェーダー族はヒューラン族を目の敵にしている傾向があるが、わざわざこんなところまできて襲う理由があるのだろうか?


私はとりあえず剣術士ギルドへと戻ろうと促すが、


すまん・・・・逃げる途中で足をひねってしまってね・・・・
助けてもらった手前で・・・言いにくいんだが・・・・手を貸してくれないかな?

情けない顔で剣術士ギルドの男は懇願してくる。
やれやれと思いながらも男に手を貸し、私たちは剣術士ギルドへと戻った。

 

剣術士の男に肩を貸しながら、剣術士ギルドに入る。


はっ!? ・・・・・これはまさか・・・・・禁断の愛!!?


なんて素っ頓狂なことを抜かし、頬に手を当てて顔を赤らめるルルツは放っておいて、ミラの元へと向かった。私達に気が付いたミラは、あきれながら


久しいじゃないかこの野郎。
お前は一体どこをほっ・・・どうした!?


もう一人の剣術士の男がけがをしていることに気が付いたのか、血相を変えて駆け寄ってくる。


私は剣術士の男を床に座らせると、まずこの男の治療をお願いする。
そして、別の剣術士の者の手で治療が行われるのを確認し、ミラに改めて事の経緯を説明した。


くそっ・・・剣を持っていればお構いなしかっ!


ガンっ!

ミラは悔しそうに壁を叩く。どうやらこの一件について何か知っているようだ。
私は一体何が起きているのか、ミラに聞く。

ミラによると
ここ最近、ウルダハ近辺にて剣術士が何者かに襲われる事件が頻発している。
理由は不明。
襲われるのは剣を持ったヒューラン族ということだけ。
これまでに何人もの襲撃者を撃退したものの、事態の収まりをみない。
銅刃団や不滅隊によりウルダハ周辺の警護は強化されているものの、監視の穴を突くように襲ってくるため中々効果は上がっていない。

ということだった。


今まではうちの連中が襲われることはなかったんだが・・・・


あねさん・・・すいやせん・・・・


お前もお前だ!
襲撃者の一人や二人ぐらい、一人で撃退してこないか!
あまつさえ逃げる途中で足を挫くとは・・・剣術士ギルドの者としてなんと情けない…


ミラはケガを負った剣術士の男に檄を飛ばす。
私は突然襲われたこと、相手は複数の槍の使い手だったことを話し、ミラをなだめた。


・・・いや、すまん・・・・取り乱してしまった。
・・・だが、お前はそいつらを一人で撃退したのだろう?
・・・・・悔しいじゃないか。こいつらに剣を教えているのは誰でもない、私だ。
そいつらが襲撃者風情を相手に逃げ帰ってきているようでは、私自身の技量不足を突き付けられているということなのだからな。


ミラは悔しそうに唇を噛む。


アイツがここを出てって以来、私は闘剣士を育てることだけに躍起になってきた。
剣術士ギルドによって長年守ってきた輝かしい闘剣士の歴史を汚さぬよう、それはもう必死にな。
しかし、私は闘剣士の育成に固執してしまったせいで、命のやり取りを含まない「見世物」の剣技は磨けても、命を懸けた実戦の技量を積まさせることを怠ってしまっていたんだ。

それに気が付かせてくれたのはだれでもない、お前だ。

それ以来、私は積極的に街の外での護衛任務や、モンスターの討伐依頼を請けるようにしてきたんだ。
しかし、実践経験の乏しい連中ではなかなか成果が上がらなくてな・・・

命のやり取りが怖くてやめていった奴も多い。
この先私は、どうしていけばいいのだろうか・・・


がっくりとうなだれるミラ。
私はかける声も見つからず、ただただ立ち竦むことしかできなかった。


いや・・・すまんな。
久しぶりに帰ってきたのに、こんな情けないところを見せてしまって・・・
今日はもう疲れただろうから、明日またここに寄ってくれないか?
そのくらいの時間はあるのだろう?


私は頷き、剣術士ギルドを後にした。

 

クイックサンドに戻ると私を見つけたモモディ女史が

「おおい!」

と大きく手を振っている。
私は少し照れくささを感じながらも、モモディ女史の元へと向かった。


随分と久しぶりじゃない!
あまりにも戻ってこないから・・・その・・・・どうかしちゃったかと思って心配していたんだから。


思えば、モモディ女史からベスパーベイにある「砂の家」に手紙を届ける依頼を請けてから、随分と日が経ってしまっていた。
モモディ女史は私の無事を心から喜んでくれていた。そして、私の格好を見て、


どうやら染色師の方には会えたようね!
うんうん・・・・・素敵じゃない!


モモディ女史は染色後の装備の色を褒めてくれた。
本当に、この人には感謝の言葉だけでは足りないものをたくさん貰っている。
モモディ女史を守るために命を捨てなければならない状況になれば、私はすすんで命をかけるだろう。


でも・・・・・既に随分とくたびれてしまっているのね。
本当に、いったいあなたはどんな冒険をしているのかしら。


モモディ女史は苦笑する。
私もモモディ女史に言われて気が付き、改めて自分の防具を確認してみた。

ここを出てからというもの、命がけで盗賊団のアジトを潰し、妖異のゴーレムと闘い、銅刃団と盗賊の残党と闘い、そしてシェーダー族の襲撃者と闘った。
思えば、そのどれもが一歩間違えれば即死につながるようなものばかりだ。今生きてここに立っていることが奇跡に思えてくる。

それは、この剣とこの盾、そしてこの防具があったからこその命なのかもしれない。

私はすでにこの武具たちに愛着が沸いているようだ。
確かにボロボロになってきてはいるものの、まだまだ変える気にはならなかった。


モモディ女史は、武具を見る私の顔を見ながら、小さく「フフッ」と笑った。
そして、依頼料の支払いも兼ねて、とのことでクイックサンドの料理をふるまってくれた。
コッファー&コフィンの料理もうまいが、やはりここの料理が一番だ。

安心してくつろぎながらゆっくりと食べられるというのは、当たり前でいて何物にも代えられない極上のスパイスだ。

私はむしゃむしゃと出てくる料理に手を付けながら、ぐびぐびと酒をあおる。
そして、食べ終えるとともに急激に襲ってきた眠気に打ち勝つことができず、そのまま宿にある自室へと戻り、気を失うようにベッドへと倒れこんで眠った。

 


翌日、私は身支度を整えて剣術士ギルドの元へと向かった。
その途中、ばったりと(?)ワイモンドと出会った。


よぉ!! 久しぶりだね!! 冒険者!

何だかこの感じ、とても懐かしい。
この男の醸し出す「気の置けない」雰囲気は、アイツのものと似ていた。
・・・・・・レオフリック。


噂には聞いているよ!
随分と派手に大活躍しているようじゃないか!


ニコニコと笑いながら大げさなジェスチャーをつけながら話をしてくる。
どこまで知っている・・・いや、こいつのことだ。
たぶん全部知っているんだろう。

私はそんなこともないと謙遜すると、


ハハッ!! 謙虚さってのは大事なもんだ!
それを忘れた奴が「傲慢」になっていくんだからね!
だけど、見ている人はちゃんと見ているよ。

困ったことに、人ってのは目立ちすぎるのもあんまりよくない。
ここはそういったことに面倒くさい街だからね。
だから「ほどほど」が一番さ!


何だろうか・・・・能天気に軽口を言っている風なのに、何か警告ともいえるようなメッセージが含まれているような気がする。
ふと、銅刃団の女の言葉を思い出す。

「詮索をするな」

そういえば、ロロリトが自分を「気にしている」とも言っていた。
ということは、私はロロリトに「邪魔もの」として目をつけられてしまったんだろう。
それをこの男は私に対して「警告」しているように思える。


私はワイモンドに「忠告ありがとう。以後気を付けるようにするよ。」
と返した。するとワイモンドは「なんのことだい?」とおどけて見せた。


そして私は先を急ぐからとワイモンドから離れようとしたとき、


おっと! そういえば君宛てに預かっているものがあるんだったよ。


そういいながら、ワイモンドは私に一枚の便箋を手渡してきた。

??

その便箋を受け取り、差出人を確認する・・・が、表にも裏にも何も書いていなかった。
私は訝しみながらその便箋を受け取ると、ワイモンドは私の耳元まで近寄り、


「また会おう」だとさ。


と呟くと、手を振りながら颯爽と去っていった。

私はしばらく立ち竦んでいたが、その便箋を胸に仕舞うと、はぁ・・・と溜息をつく。
しかし、何故だか顔がにやついて仕方がない。
私もまた、アイツに毒されていたのかもしれないな。
なんて思いながら、再び剣術士ギルドへと向けて歩き出した。

 

剣術士ギルドに入ると、ミラは落ち着かない雰囲気でうろうろとしていた。
そしてギルドに入ってきた私を見つけると

いいところに来た!
実は頼みたいことがあるのだが・・・

と、慌てながら話をしてくる。


実は、黒衣森の南部森林にあるトランキルから、ここウルダハまでを行き来している行商人から、護衛の依頼を請けていてな。
本当は私が行く予定だったんだが、不滅隊の本部から「ここ最近起きている剣術士の襲撃事件についての対策会議」に招集されてしまってな・・・。

私の代わりにうちの「エース」に行ってもらったんだが、一向に戻ってくる気配がないんだよ。
東ザナラーンあたりからこっちに来た連中に話を聞いてもみたんだが、見ていないといわれるばかりで。

過保護なのは承知の上だが、ドライボーンのあたりまで行ってみてきてくれないか?
ここ最近の剣術士襲撃もある。今はもうお前にしか頼れないんだ・・・頼む。

不安そうな表情のまま、私に頭を下げるミラ。
私はあわてて頭を上げるように言い、快くその願いを請けた。


そして私は、ミラの依頼を請けて、ドライボーンへと向かった。

 

 

~ ドライボーン ~

ドライボーンはザナラーン地方の東側、北にグリダニアに属する黒衣森の南部森林にほど近い所にある軍事拠点である。

元々ザナラーン地域はサヴァナ気候帯上にあり、全体的に「渇きの大地」とも呼ばれるほどに気温が高い。気候は大きく夏場の雨季と冬の乾季に分かれているものの、夏場は特に海側から流れ込む湿気と、一部地表に露出しているティノルカ森林地帯から流れる大量の地下水によって、空気は思いのほか湿潤であり、肌に粘りつくような厳しい暑さが特徴である。

気候に似あわず水が豊富なザナラーンではあるものの、地下水は硬い岩盤の下を流れている上、地表の土壌はその岩盤が風雨によって風化し堆積したものであるため、植物が育つために必要な有機物に乏しく、農業には適さない土地となっている。特に南ザナラーンは砂漠化が進んでおり、その影響はウルダハまで迫っている状況にある。

東ザナラーンは海から離れているせいもあり、中央・西ザナラーンに比べると空気は乾燥している。空気が澄んでいる影響もあってか太陽から直接地表へと届く日射量も多く、肌を刺すような暑さが特徴的である。ただし、日陰に入ると思いのほか涼しいため、慣れてしまえば湿度の高い中央・西ザナラーンよりもすごしやすい。


ドライボーンの由来となった「乾いた骨」というのは、太陽の日射と極度の乾燥状態により、この地で行き倒れてしまうと体の水分が蒸発し、干からびてミイラの様になることから来ている。
ただし最近では、第七霊災の影響で大きく地割れを起こしたことにより、ティノルカ森林地帯から流れてくる地下水が露出したことで湿度が上がり、ごくまれに雷を伴う雷雨となることもある。


ドライボーンは元々、北に栄えるグリダニアとの国境に近く、ウルダハとグリダニアを結ぶ交易中継地点として栄えていた。
ドライボーンは窪地にあり、平原の多い東ザナラーンとしては唯一ともいえる、強い日差しから身を守ることの出来る天然の洞穴が開いていたほか、一部地下水脈が露出していたこともあり、自然と集落として発展していった経緯がある。


厳しい気候によって食料資源に乏しいこの地域で度々起こる飢餓問題を解決するため、ラノシアからドードーが持ち込まれていたが、ドライボーンの厳しい環境においてなかなか繁殖には至らず、今はより高効率で環境適応に強いクルザス産のアルドゴートが放し飼いにされ、ドライボーンの食糧事情は一定の安定を見せている。

しかしながら、一部のアルドゴードが野生化し独自にテリトリーを作り、暴れることがあるため、その討伐に苦慮している現状にある。

 

ドライボーンにある聖アダマ・ランダマ教会は、偉大なる商人とされた「アダマランダマ」を聖人と讃えて、ナルザル教団によって建築された信仰建築である。
アダマ・ランダマはこの地を活動の拠点として、商人として成功したことから、死後「商売の神」としてこの教会に奉られ、教会にはその商運にあやかろうと多数の商人が訪れていた。


しかし、南からはアマルジャ族の領土侵攻、北はグリダニアとのウェルウィック新林をめぐる国境線問題により、ドライボーンは次第に商業拠点としてよりも、軍事拠点としての重要性が増していった。
バザーが開かれていた洞穴内部は不滅隊により接収され、警備隊が多数常駐することにより、ただでさえ狭いドライボーン内部での商隊の往来が制限されることとなり、次第に交易中継点としての機能を失っていった。

軍事拠点化するライボーンを嫌った商人達は、ドライボーンの北側にある山岳地帯へと移り住み、ゴールドバザーを開いた。