FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

新米中年冒険者の、パッとしない物語

戦斧を砕く剣風

 

剣術士ギルドへ入門し最低限ではあるものの剣術士としての装備も一式揃ったかげで請け負える依頼の幅も格段に広がった。そのおかげもあって仕事を通して自然と人との繋がりも広がり、仕事の依頼も増えるようになっていた。名前を覚えてもらえたり、街を歩いていると声をかけてくれたり、逆に客から依頼主を紹介してもらったりすると、自分が冒険者としてこの街に根付いてきたことを実感する。

ただ、肝心の稼ぎに繋がっているかというと、実はそうでもない。

依頼の内容は多岐に渡るものの、そのどれもが雑用の域を越えないレベルのものがほとんどのため「報酬」はあまり良くは無い。
今のところなんとか生活していけるほどの稼ぎは確保できてはいるが、御用聞きレベルの仕事は所詮水物なので、一旦途切れてしまえばすぐにじり貧になる。

(今はまだ目先の仕事をこなすことに精一杯ではあるが、より難しい相談事にも対処できるように自分を磨いていかなければ。)

そんなことを思いながら街中を歩いていると、

おーい!

遠くで自分を呼ぶ声がする。声のする方向を見ると丸眼鏡をかけた怪しげな青年の姿があった・・・・ワイモンドだ。

久しぶりだね! 調子はどうだい?

彼はへらへらとした笑顔で挨拶してくる。

(そんなの、私よりもあんたの方が知っているだろう?)

と言おうかと思ったがなんとか言いとどめた。どうも歳をとると皮肉を口にしたくなる。見張られているとはいえ仕事口の紹介で世話になっている身なのだから、ここは素直に感謝しておくべきだろう。「まぁ何とかやっているよ」と答えると、

謙遜すんなよ! いい冒険者がこの街に来たって評判になってるぜ。お前さんの仕事っぷりは評価されてるんだから自信持っていこう!

(やっぱり知ってるじゃないか・・・)

少々あきれ顔になる私を知ってか知らずか「それはそうと」とワイモンドは足早に話を切り変えた。

剣術士ギルドのセラが「お前さんを見かけたらギルドに立ち寄るように伝えてくれ」と言っていたな。何か急ぎの頼みごとがあるらしいが、しかし・・・ギルドマスターから仕事を依頼されるなんて、頼れる冒険者はやっぱり違うなぁおい!

ハハハッと笑いながら、私の肩をパンパンと叩いてきた。

おっと仕事の途中だってことをすっかり忘れていたよ。じゃあまたな!

ワイモンドは手を振りながら走り去って行った。

(風のように現れて、嵐のように去って行ったなぁ・・・)

つかみどころがないというか、つかませないようにしているのか。私は苦笑しながら剣術士ギルドへと歩みを向けた。

 

 剣術士ギルドへと向かう道中、ふと違和感を感じて視線を街の一角に移した。そこには斧を背中に担いだ体躯の大きな男に絡まれているおどおどと萎縮した男がいた。

(取り立てだろうか?)

商売に失敗したものが取り立て屋に追われている光景については、この街では別段珍しいことではない。しかしどうにも様子がおかしい。どちらかと言うと一方的に絡まれているように見える。そもそもあの恰好はウルダハでは珍しい。私は不審に思いながらもギルドに向かったが、その後の道中でも何度か同じような光景を見かけた。

 剣術士ギルドに入るないなや私を見つけたミラがさっそく声をかけてきた。

「おぉ、こりゃナイスタイミングだ!お前なら適任であろう依頼が来てるのだが、どう・・・・、なんだその顔は?」

ミラの話を聞いた私はどうも感情が顔に出てしまっていたらしい。気を取り直して依頼内容を聞く。

依頼主は冒険者ギルドのモモディ女史で、ここ最近外部から来た斧術士の一団が街のあちこちで問題を起こしているらしく「冒険者ギルドとしてこれ以上の狼藉は見過ごすことはできない」と忠告してまわってほしいとのことだった。

(ひょっとしてさっきの連中か?)

そういった類いの治安維持はこの街の自警団の仕事ではないのかと聞き返したが、この街の自警団はここを支配する商人達が雇った寄せ集めの部隊であり、上からの命令がない限りよっぽどのことでないと揉め事には介入してこない。そもそもそれがうまい話とわかれば、悪事に目を瞑るどころか簡単に共謀する様な連中だから、全く当てにならないということだった。

「情報屋がまとめた資料を渡すから見つけ次第追い払ってくれ。あと終わったらモモディへも報告も忘れるな。それでは頼むぞ。」

資料を受け取ると私はセラに「この資料はワイモンドによるものかどうか?」と尋ねた。セラは「そうだが?」と不思議そうな顔をしながら答える。

(こりゃ一杯食わされたな・・・さすがというか所詮は情報屋の掌の上か・・・)

 資料によると、街で問題を起こしている連中は「最強戦斧破砕軍団」と名乗る傭兵崩れの集団のようだ。ネーミングセンスの無さにちょっと笑ってしまったが、この連中は旅行く商人の護衛を強引に引き受けては、護衛料として法外な代金を請求しているらしい。さらに厄介なことにこの辺りの警備を仕切っている銅刃団の一部と裏で結託しているようだ。銅刃団はタイミングを見計らって普段は大人しいモンスターを商隊にけしかけて襲わせ、破砕団がその襲撃から商隊を守ることによって、報酬を山分けするというマッチポンプを繰り返している。もちろん銅刃団の情報によって「手を出してはならない」商隊の選別もできるのだから、お互いの利害も一致するのだろう。そもそも銅刃団自体、外部の商隊に言いがかりをつけては口止め料という名で金をせしめ、小遣い稼ぎをする連中だ。街中での狼藉を銅刃団が見て見ぬ振りするのもうなずける。

 さっそく街中にでると相も変わらず一般市民にちょっかいをかけている斧術士を見つけてはギルドからの忠告を伝えまわった。忠告を受けた斧術士はブツブツと文句は言うものの街中で争いごとを始める気は無いようだ。

(多少のことは見逃すが騒ぎだけは起こすな)

とでも銅刃団に釘を刺されているのだろう。絡まれていた人から話を聞くと、一方的に見の覚えの無い難癖を付けられて慰謝料として金を払うよう脅されていた。

 資料によると街に入った破砕団の人数は5名。ということは、あと一人・・・・なのだが、これがなかなか見つからない。ひょっとしたら忠告を受けた仲間と共に既にこの街から出て行ったのかもしれない。
確認のため私は街中をもう一回りし、見当たらないことを確かめると私はクイックサンドに向かった。


 クイックサンドに入ると何やら騒がしい。どうやら客の一人が給仕に対して絡んでいるようだった。

(ん? ・・・あの服は?)

どうやら騒ぎを起こしていた客は私が探していた最後の一人だったようだ。灯台下暗し。というかまさか冒険者ギルドにいるとは。度胸があるというか怖いもの知らずというか。本人もここがどこだか分かっていてやってるのだろうが、銅刃団の後ろ盾があるとはいえ少しばかり調子に乗り過ぎてるんじゃないだろうか。しかしここは冒険者ギルド。他に誰か止めるものはいなかったのだろうか。

 店内を見渡してみたが、丁度タイミングが悪かったのか酒を飲みに来た普通の客ぐらいしか見当たらない。いや・・・一人腰に剣を携えている剣士らしき男を見つけたが我関せずな感じで幸せそうな顔をしながら酒をあおっていた。カウンターの奥にいるモモディに目を向けると、私の存在に気が付き少し驚いた顔をしながらも肩をすくめて見せた。

 やれやれいった感じでその男に話しかけると、大分酔いもまわっているのか一方的に前口上するばかりでいまいち話が噛み合わない。適当にあしらいつつ追い出そうとしたのだが、男は邪険に扱われたことに腹を立てたのか激高し、背負っていた得物に手をかけると大きく振り上げた。自分も慌てて剣の柄に手をかける。

お~お、クイックサンドもずいぶんと賑やかになったじゃねェか。パーティでも開こうってのかい?

それまで酒を飲んでいた剣士らしき男が立ち上がり、ゆっくりした動作で斧術士と私の間に割って入る。そのなんでもない所作の中には全く隙が無く、腰に下げている見事な剣を見ても相当の手練れなのだろう。勢いづいていた斧術士の男は、剣術士の男に襲い掛かろうとしたものの男の持つ剣を見るな否やたじろぎ始め、振り上げていた斧を下ろしてそそくさとクイックサンドから退散していった。

「ったく、ギルドで揉め事を起こす度胸があるようだから、少しは骨がある奴だとと思ったんだがな。ただの腰抜けだったか・・・・つまらねえなぁ。」


そういいながら右手に持っていた酒をぐいっと飲み干し、ふらふらと体を揺らしながら私に話しかけてきた。

「おいお前。正義感に駆られて止めに入る度胸は認めるが、自分と相手との技量の差を見極めてからやらんと今度は怪我だけじゃすまねぇぞ。そもそもお前の腰にぶら下げてる得物程度じゃ、あいつの斧の一撃を受け止めただけで簡単に折れちまっただろうよ・・・まぁ、お前のような無鉄砲馬鹿は嫌いじゃないけどな!」

ガハハハッ!と高笑いをした。そして私の剣を見ながら、


「お前はここの剣術士ギルドの一員かい? そうか・・・どうりでな。」

と感慨深そうに呟き神妙な表情で頷いていた。しばしの沈黙の後、男は自分の名を「アルディス」と名乗り、

「ここは名の知れた数多の荒くれものを束ねる冒険者ギルドだ。だからお前さんのような駆け出しが出しゃばらなくても、事は何の問題もなく片付いていたさ。ただまぁお前のおかげで、あのしつけの悪い斧術士の「命」が救われたことは間違いねぇがな。ちょいとやりすぎてしまっていたからな。あのまま暴れていたらただじゃ済まなかっただろうよ。
正直、救う価値もねえような汚ねえもんだが、命は命だ。

でもな・・・お前さんの命と引き換えにするようなもんではねぇことだけは心に留めておきな。個人的に無謀な馬鹿は嫌いじゃないとは言ったが、無謀で命を落とす大馬鹿者は冒険者としては失格だ。じゃあな新米。」

そう言い残して、アルディスと名乗った剣術士の男はクイックサンドから出ていった。


 男が言った言葉が妙に胸に残る。私は改めて言葉の意味を考え、真意に気が付いてハッと顔を上げた。

(そうか・・・・斧術士が斧を振り上げた瞬間、あの男が割って入ってきた理由。それは揉めごとの仲裁に入ったわけのではなく、私の命を守るためだったのか。あのまま斧術士と対峙していたら、振り下ろされる一撃によって私の剣は折られ、そのまま命を落としていたのかもしれない。それを予見した男は、あえて動いたのだ。)

調子に乗っていたのは、あの斧術士ではなくて私自身だった。相手を知り、逃げて行った斧術士のほうがよっぽど利口なのだ。

呆然自失で立ち尽くす自分の姿を見かねてかモモディが駆け寄ってきた。

「危険なことに巻き込んでしまってごめんなさいね。本来はこちらで対処すべき問題なんだけれど、あいにくみんな捜索に出払ってしまっていてね。まさかここで暴れるとは思ってもみなかったのよ。それに相手がわからない依頼に対してセラがあなたを寄越すとは思ってもみなかったの。もっと慎重にいくべきだったわ・・・」

モモディは私に対して頭を下げる。そんな姿を見て私は慌ててしまった。悪いのは奢った自分なのだ。謝られる理由はどこにもない。

「でも無事で何よりだったわ。こんなことで死なれてしまっては冒険者を束ねる身としては夢見が悪いもの。あなたにはこれからも、もっと活躍していってほしいと思ってるのよ!」

モモディはにこっと笑う。その笑顔を見た時私は少し救われたような気がした。

「それはそうと赤い服を着たあの男、名乗らなかったかしら?」

真剣な顔で聞いてくるモモディに名前を教えると、

「そう・・・やっぱり生きていたのね。ねぇ、アルディスに会ったことは、セラには言わないで。事情は説明できないのだけれど、今彼女を混乱させるわけにはいかないから・・・・・お願い。」

モモディは再び頭を下げた。よっぽどの事情があるのだろう。事情を知らぬ私は、不用意にこの件に触れてはいけない。私は頷きクイックサンドを後にした。

 

 

 

 冒険者ギルドでの一件以来、私は以前よりも積極的に街外の仕事を請けるようになっていた。街外での依頼はモンスターの討伐・駆除依頼が多いため今まで以上に危険が伴う。ただ依頼人が金を持つ商人達では無い場合も多く、金銭的な報酬は街中で受ける依頼より遥かに少ない。普通に考えれば危険の伴う誰もやりたがらない仕事ではあるのだが、戦闘経験を積むにはもってこいの仕事であることは間違いはない。
 街から一歩外に出るとこの世界は人以上にモンスター達で溢れかえっている。その大半はこちらから手を出さなければ特に害にはならないものが多いのだが、中には好戦的で縄張りに入るや否や問答無用で襲ってくるモンスターもいる為この手の「駆除」依頼は常に溢れているのだ。

 はじめはただがむしゃらに立ち向かっていたのだが、モンスターとの幾度とない戦いを通していつしか相手を見ながら戦えるようになっていた。相手との間合いの取り方や、攻撃動作からの先読み回避、弱点の把握、そして自分自身の攻撃の流れを作ることによってより無駄なく、よりリスクを避けながら最小限の行動で最大の攻撃を行えるように心掛けた。また他冒険者との共闘の機会もあり、先輩方の無駄のない動きを見ることも勉強になっている。

ある時、モンスター駆除完了を報告した際に、依頼人に尋ねられたことがある。

(なぜ誰もやりたがらない危険な相談事に、そんなにも一生懸命になってくれるんだい?)

私はその時こう答えた。

(今の私にとって、この一つ一つの経験が己を鍛えてくれる。だからより多くの経験を通して自身に試練を課したいのだ。)

経験不足は、経験することでしか補えない。
その思いは、確かに今の自分の主たる行動原理である。

しかし本音を言えば、あの時、あの場所で晒してしまった弱く醜い自分の姿から逃げたいだけなのだ。自覚なく、日々誰でもできる簡単な任務に囲まれ、自然と生まれていった「自分ならできる」という奢りと油断。あの時終わっていたかもしれない自分の姿を想像すると今でも身が震える。だから今、私はただひたすらに前だけをみることであの日の自分から目を背けているのである。


 全身を襲う倦怠感に負けて、私は思わず地面に座り込んだ。休む暇を惜しんで戦いに身を投じ続けた私の体は、既に悲鳴を上げている。歳を重ね、老いの始まっている体には若かりし頃の無限とも思えた体力など、どこにも存在しない。早い動きを思考しても、なかなか体が付いていかず時折大きな隙ができてしまうこともある。相手の攻撃に気が付かず、回避動作が遅れてしまうことも多々ある。

(冒険者を始めるにはいささか遅い)

薄々わかっていたことではあるのだが、本格的に始めてみるとそのことを身をもって感じてしまう。そしてそれ以上に差し迫った問題ごとがある。改めて握り直した剣を見る。連日の戦闘によって酷使した剣は、ところどころ刃こぼれをおこしていた。もともと防具としては心もとない服にしても、既にところどころ綻んでいる。定期的に修理しながら使ってはいるものの、この先のことを考えると新しい武具が必要だ。しかし、ここ最近はずっと実入りの少ない街外での依頼ばかりをこなしていたせいもあり、手元のお金も残り少なくなっていた。

どうしたもんかな・・・。

悲鳴を上げる体に鞭をうち立ち上がる。これから先のことに悩みながら街道を歩いていると、遠くから私を呼ぶ声が聞こえた。声がする方に目を向けると、ララフェルの男性がこちらに向かって手を振っていた。あれは以前から依頼をきっかけとして親交を深めているパパシャン氏だ。

 パパシャン氏は、利害関係が見え隠れする気の置けない者が多いウルダハにおいて、珍しいほど裏表のない気持ちのいい御仁である。
いつも明るくてまっすぐな性格であり、面倒見もいいことから、部下や周りの人からの信頼がとても厚い。

 めずらしく取り乱しているパパシャン氏から事情を聞くと、警備中だった令嬢が、いつの間にか行方不明になってしまったらしい。
いつも落ち着いているパパリモ氏の焦り様からすると、どうやらただ事ではないようだ。すでに他の冒険者にも捜索をお願いしているらしいが、まだ見つかってはいないとのことで、捜索に加わって欲しいとのことだった。

もちろんパパシャン氏の頼みとあっては断れない・・・・のだが。

ふと頭に、剣術士ギルドでの一件が蘇る。

これは自分にとって適任の事案なのだろうか? いやいや、今回は迷子になった令嬢の捜索をするだけだ・・・しかしパパシャン氏をここまで取り乱させる事態とは、ただならぬ事ではないのか?

もし、自分より強いものと出会ってしまったら?

もし、相手が複数で囲まれたらどうする?

もし・・・もし・・・・

頭の中がたくさんの不安で溢れかえる。結局いまだに私は引きずっているのだ。あの日に植え付けられたトラウマを。葛藤によって動きが止まってしまった私を、パパシャン氏は言葉を詰まらせながら不安そうに見ていた。

・・・考えていても仕方がない。

自分の手に負えない状況であれば、無理はせず報告に来ればいいだけの話だ。ほかの冒険者も捜索に出ているということであれば、一人ですべてを終わらせようとしなければ、何とかなる。

立ち止まってしまったら、結局は何も変わらないじゃないか。

私は決意して、私はパパシャン氏から令嬢の容姿などを聞き、急ぎ捜索へと向かった。