FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

新米中年冒険者の、パッとしない物語

~ササガン大王樹の下で~


中央ザナラーンの南側、刺抜盆地と呼ばれる一帯の中に一本の大きな樹がある。この地域の者たちはこの木を「ササガン大樹」と呼び親しんでいる。「ササガン」という名前の由来はウルダハの建国者「ササガン・ウル・シシガン」にあり、その雄大な出で立ちを偉大なる建国の王になぞらえてそう呼ばれるようになった。

富の都といわれるほどに発展したウルダハは元々ザナラーン一帯を支配していた古代国家「ベラフディア」の崩壊により生まれた国の一つである。そのベラフディアは第六霊災を引き起こす原因となった「魔大戦」の終結により、迫害から逃れるためにこの一帯に落ち延びた魔道士たちにより建国されたと伝えられている。


ベラフディアは水脈の発見と豊富な鉱山資源を元に大きく発展し、ザナラーン地域のほとんどを支配するほどの栄生を極めた。しかし「栄枯盛衰」の故事通りベラフディアは内政対立によりいとも容易く崩壊してしまう。崩壊のきっかけとなったのは「双子の皇子」による継承権争いだったらしい。
ベラフディアの崩壊後、この大樹の名となっている「ササガン・ウル・シシガン」によって現ウルダハは建国され、時を同じくして生まれたシラディハと長きに渡り争い続けた。この生まれを同じくする二つの国家は「力」の解釈が大きく異なっており、その違いが国の色を大きく分けていた。

一つは富と力、もう一つは知恵と力。

どちらがどちらの国であったからは言わずともわかるだろう。同じ血を引く兄弟でありながら対立し、国を崩壊させてもなお争いをやめなかった悲劇の物語。それは遠き過去の叙事詩。現存する資料も少なく今語られている歴史の真偽も定かではない。


しかし私は思う。その双子の国を思う気持ちは形は違えど同じだったのではないだろうかと。国の栄華は永遠ではない。一度綻び始めればまるで解れた糸のようにするするとほどけていく。国民に芽吹いた不安・疑念・不信は一気に国を侵し、いとも簡単に平和を蝕んでいくのだ。

国を守るため、民を守るため。
領土を守り、栄光ある国を存続させるため。
すべての不安を取り除き、民が笑って暮らせる国を守るため。

双子は国を継ぐものとして綻び始めた自分の国の行く末を考えなければならなかった。双子の違えてしまった信念。はじめはただの兄弟げんか程度だったかもしれない。それはやがて双子を対立させる大きな溝へと広がり、王位継承時の権力闘争へと変貌してしまった。そしてその対立を利用して権力構造の中心へと組み入ろうとするものの後押しをうけ、結局は国を分かち、悲しくも同族同士で血を流し争うことなってしまった。

結局ササガン率いるウルダハの勝利によりシラディハ国は滅亡。現在に至る。ウルダハにおいて英雄譚として語られるササガン大王の叙事詩。だが血を分けた双子の弟を討ち、一人となったササガン王の胸に去来したものは如何なるものであったのだろうか。

 


閑話休題

ウルダハ建国の王を称える「ササガン大樹」のたもとに一人の小さい少女を見つけた。薄桃色の粗末な衣装を身を纏い大樹の前で小さくうずくまっていた。少女は胸の前で手をあわせ、小さく何かを呟きながら一心に祈りを捧げている。しかしその雰囲気は祈るというより大樹に向かって何か告解しているように感じられた。

「誰じゃ!」

私の存在に気が付いたのか、少女は祈りをやめてこちらを向く。しかし厳しく向けられた視線はこちらには向いておらず、自分の奥に向けられているようだった。思わず私も視線につられて振り向くと、そこには銀髪の青年が立っていた。私は慌てて剣に手をかける。

気が付かなかった・・・

少女に気を取られていたとはいえ、この青年の気配を感じることができなかった。物腰の軽そうな風貌に似合わず相当の手練れではあるようだ。緊張で汗がにじみ出る。青年は警戒する私にかまわず、睨み続ける少女に向かって話し始めた。


どうやら少女と面識があるようで、会話の内容からすると青年もまたパパシャン氏からの依頼でこの少女の捜索を行っていたようだ。私はホッと胸をなでおろし、剣の柄からから手を外し警戒を解いた。パパシャンの元に戻るよう説得する青年の言葉を切るように、少女は帰還を嫌がっている。その姿は一見すると駄々をこねるわがままな子供のようではある。しかしながら少女の目には誓いを立てた者のような強い信念と同時に、深い後悔の念を宿しているように見えた。
深いため息をついた青年は、私もまたパパシャン氏からの依頼でこの少女を探していたことを知っていたようで「いつもこんな感じに振り回されてしまっていてね」と苦笑しながら私に経緯の説明を始めた。

 ふいに後ろから迫りくる経験したことのない殺気を感じ、思わず振り返った。その気配の主は振り向く私の視界をあっという間に追い越し、少女に向かって大きく嘶いた。青年もその殺気に気が付いていたらしく既に腰に携えていた短剣を構えていた。彼はこの見慣れないモンスターを「妖異」と呼んだ。これまでに戦ってきた獣とは根本的に違う「呪い」にも似た圧迫感が全身を刺す。

得体もしれぬ相手を前に体が硬直する。動悸も激しく動いてもいないのに息が上がる。まるで体全体が「恐怖」という鎖によって縛りあげられるようだ。

「くそっ! こんなのでは・・・・」

妖異を前に足のすくむ私をよそに、青年はやれやれといった感じで剣を構え軽快な動きでその妖異に飛び込んでいく。

「巻き込んですまないが、手伝いよろしく!!」

躊躇なく妖異に立ち向かっていく勇敢な青年の姿。それはあの時の自分のような無謀さとはまったく違う。相手を知り、己を知ってるからこそできるものだ。

(自分も負けていられない! この青年にではなく自身の弱さから逃げ回っている自分に今こそ打ち勝たなければ、この先には進めない!)

私は大きく声を張り上げ、青年の後を追うように妖異へと立ち向かっていった。

 

 

 

くそ・・想像以上だ・・・・

青年が「妖異」と呼んだ怪物の外殻は硬く、強く踏み込み打ち放つ渾身の一撃さえもまるで岩を打っているかのように弾かれた。まるで刃が立たないというのはこのことか。しかし私の想像を越えたのは妖異の硬さだけではない。むしろ青年の見た目からは想像できなほどの強さにひどく感心してしまった。

青年が構える一振りの剣は、刀身も短く剣術士が持つ剣としては頼りない。しかし休みなく繰り出される妖異の猛攻をいともたやすく躱し、そのお返しとばかりに短剣から放たれる一撃一撃はことごとく怪異の体を切り裂いた。苦悶に喘ぐ怪物はもはや私のことなど見向きもしない。自分の命を脅かす青年だけを執拗に襲っていた。

正直役に立てているかはわからない。それでも私は攻撃の手を緩めるわけにはいかない。確かに私の攻撃ではこの怪物を討ち果たすまでにはいたらない。しかしこの非日常な戦いを通して何か一つでも「強さ」を得たいのだ。

次第に青年の放つ攻撃で弱り始めた妖異の動きが鈍くなる。なんとか討ち倒せそうだ・・・そう思い始めた時、突然妖魔は青年との間合いを取るように後退する。

「逃がすか!」

青年も妖魔を逃すまいと距離を詰め寄ろうとしたが、

ギャァァァァァ!!!!

突然妖異が空気をつんざく悲鳴にも似た咆哮を上げた瞬間、周囲の空間が歪み始める。そして強引に捻じ広げられた歪みの中から、二体の魔物が現れた。現れた妖異は初めの怪物から比べると幾分小さいものの、同形の魔物だった。

「くそ! ここで増援とは! こっちのデカ物は俺が引き受ける。そっちの相手は任せた!!」

(俺にできるのか!?)

頭の中に一瞬戸惑いが湧きあがる。しかしそれは戦いの中において、一種の興奮状態にあった私の足を止めるほどではない。

(やらなければやられるだけだ!)

初めの一体と共に青年に向かっていく二体の妖異に向かって半ばやけくそ気味に飛び込んでいく。

(うおぉぉぉっ!!!)

渾身の力を振り絞り、振り下ろす一撃は、

ザクッ!!!!

という剣を握る手のひら全体に伝わるほどの手ごたえを返してきた。私の攻撃で体を引き裂かれた妖異は、たまらず悲鳴を上げる。その声につられてもう一体もこちらに敵意を向けた。

(落ち着け・・・こいつらは初めの一体ほど強くはない。常に正面をとらえて、囲まれないようにすれば何とかなる)

襲いかかってくる二体の妖魔の位置を見ながら体勢を変え、常に有利な位置取りを心がけながら一体一体を確実に「処理」していく。そして私が増援の妖異を片づけ終わる頃には、最初の一体も青年により討伐されていた。

 

ふぅ・・・なんとか片付いたな。まさか増援まで呼ぶとはな。君がいてくれて本当に助かったよ。

ご苦労様と青年は私にねぎらいの言葉をかける。正直なところ自分がいなくとも青年一人で対処できたのだろう。それほどまでに彼は強かった。

 安全になったことを確認できたのか、大樹の陰に隠れていた少女がひょっこりと顔を出してきた。

「やれやれ・・つくづく敵の多いお嬢様だ。」

「わ、わらわのせいではない! しかし、あ奴らはなんなのじゃ?」

「あれは・・・・」

青年は大樹の陰からのこのこと出てきた少女に対して、襲ってきた「妖異」の存在について説明を始めた。

「妖異」という存在は元々この世界には存在しないもの。それは「ヴォイド」と呼ばれる異世界に存在する魔物であり、この世界に豊富に存在するエーテルを喰らうため偶然に発生する「空間の裂け目」を利用してこちらの世界に現界することがあるらしい。
実際「インプ」や「ボム」など知恵や力の弱いものは、その裂け目からこちらの世界に現界し住み着いている妖異もいるが、今回襲ってきた妖異ほど強力な力を持つものとなると、人為的な儀式を行わない限りこちらの世界に現界することはできない。

青年の話を聞き少女の表情が曇る。今回の一件について何か思う節でもあるのだろうか。いや何もないならば普通は存在しないはずの妖異がこの少女を襲ってくるはずはない。この少女が何者であるかはわからないが、厄介な問題に巻き込まれていることだけははっきりと感じ取れた。

ふと消えゆく妖異の方を見るとそこには一つの大きな塊が落ちていた。

???

宝石のように青く光輝く石。それはクリスタルに似ていた。クリスタルの存在を青年に報告しようと思ったが、まだ少女と帰る帰らないで揉めていたのでやめた。

(あれだけのことがあったにもかかわらず気丈なものだ。だがあまりにも聞き分けが悪いと、子供であることを証明してしまっていることに気が付かないのだろうか・・・)

そんな二人をよそに私はとりあえずその石を拾いに歩きはじめる。そして石に手を伸ばし掴もうとした瞬間、急に体の力が抜けガクンッと膝が折れた。

なん・・・だ?

急速に視界がぼんやりと歪んでいく。意識は混濁し初め考えることすらままならない。体に力を入れようとも何かの力で体の自由を奪われたかのように動かない。
私はついにそのまま地面に倒れこんでしまった。遠くで自分を呼ぶ声が聞こえるが、耳鳴りがひどくてなんと言っているは聞き取れない。
そしていつしか私の意識は、深い闇へと沈んでいった。




私が気を取り戻したころには、既に日は傾いていた。

(っ・・・)

まだひどい頭痛が残っているものの何とか手足は動かせるようだ。

「気が付いたかい?」

声がする方を見ると青年と少女が立っていた。どうやら私が気を取り戻すのを待っていてくれたようだ。私はゆっくりと起き上がり、話を聞くとあれから1時間くらい気を失ってしまっていたらしい。

「とりあえずリリラお嬢様を操車長の元に送り届けたかったんだけど、君を置いてはいけないとおっしゃられるもんでね。かといってお嬢様をここに一人にするわけにもいかないから、結局君が目覚めるのを待っていたわけさ。でもお嬢様のあの取り乱しようは中々に見れるものでもないし退屈はしなかったよ。」

ふふっとまるで我が子の様を見てほほ笑む父親のような穏やかな表情で少女を横目で見ながら青年は笑う。

「なっっ!!! わ、わらわは身を挺して守護してくれたものを見捨てるほど薄情者では無いだけじゃ!! 無論、気絶したのがお前じゃったら捨てていったじゃろうがな!」

少女は羞恥で真っ赤に染まった顔を隠すように慌ててプイッと顔を背けた。

(なんとも情けない・・・守りにきて、気を失うとは・・・)

 しかし元々体調が優れなかったにしてもさっきのはなんだったのだろう。まるで一瞬にして生気を抜かれたかのようだった。気を失っている間、何か夢のようなものを見ていたような気がする。自分に対して何か語り掛けてきていたような・・・
しかしひどく疼き続ける頭痛が邪魔をして思い出すことができない。ただ「大きなクリスタル」「光の戦士」「闇」という単語だけが朧気に浮かんできた。

ふとあのクリスタルのことを思い出し落ちていた場所を見てみたが、既に無くなっていた。青年が拾ったのだろか? 

「相当疲労が溜まっていたみたいだね。戦いの最中に何度かケアルをかけてたんだけど、外面的な傷を癒すのと内面で蓄積する疲労を癒すのはまた別物だから。何があったかは知らないけど根を詰めすぎるのは良くないよ。しっかりと体調管理をして常にベストの状態を保ち続けることこそ、冒険者としては重要だ。死と隣り合わせの冒険者にとって、いざというときに力を発揮できないのは致命的だからね。」

少し厳しい表情で忠告をしてくる。しかしそのあとすぐに青年は表情を和らげ「あ・・今回の件がなければ休めてたのかな?」と言いながらチラッと少女を見る。

ぐぬぬ・・・」

少女は「何か言いたいけど言えない!」といったような歯痒そうな顔をしていた。

もしかしたらこういう嫌味のせいで少女は青年に対して素直になれないのかもしれない。「親子」というよりは「兄妹」に近いような感じだ。

私は自分が気を失う前に発見した妖異が消えた場所に落ちていたクリスタルの話をする。青年はしばらく不思議そうに聞いていたが、何か思う節があったのか私に二、三質問を返してきた。それは今だ私の頭の中でくすぶっている単語をピンポイントで言い当ててくるものだった。私の受け答えを聞いて何かを確信した青年は、貝の形をした小さなものを通して誰かと話をしているようだった。その最中に少女は恐る恐る私に声をかけてきた。

「もう・・・体調は大丈夫なのか?」

私は笑顔で「大丈夫だ」と頷いた。実際疲労感は残っているものの頭痛は大分軽くなっていた。

「すまぬな・・・わらわの身勝手な行動のせいでそなた達を巻き込んでしまった。」


申し訳なさそうに少女は謝罪してくる。この少女は本当は素直なのかもしれない。そんな少女が危険を承知の上周りの目を盗み一人でここに来た。理由はわからないが相当の覚悟があったのだろう。私は少女が無事であったことを素直に喜ぶと憑き物が落ちたかのように少女は、

「ありがとう。」

と柔らかい笑顔で答えた。会話を終えた青年がこちらに戻ってくる。途端に少女の顔は「不機嫌」の仮面をかぶる。その顔の変化を見た青年はやれやれといった表情で、

「すまない。ちょっと別件で呼ばれてしまってね。向こうも急を要するらしい。いやはや人気者のつらいところだね。お嬢様の従者がすぐこちらに来るよ。君は一緒について行って今回の件を操車長に報告してくれないかい? あと報告が終わったら冒険者ギルドのモモディのところにも顔を出してくれ。 それじゃ頼んだ!」

そう言い残して、青年は颯爽と帰っていった。

 

 

 その後すぐに迎えに来た少女の従者と共に、パパシャンの元へと戻った。無事で戻った少女の姿を見るな否やパパシャン氏は安堵し、感極まって涙を流していた。「申し訳ない」とパパシャンに謝罪する少女。もう二度と勝手なことをしないことを誓うと、少女は従者を伴ってウルダハへと戻っていった。ホッと胸をなでおろしていたパパシャン氏に改めて大樹のふもとで起こった一件のことを説明する。

少女は大樹のたもとで真剣に何かを祈っていたこと。
少女を見つけた時一人の青年と合流したこと。
突然妖異と呼ばれる怪物が現れ、少女を襲ってきたこと。
その妖異を青年がほとんど一人で打倒したこと。
そのあと私が突然意識を失ってしまい帰還が遅れたこと。
そして青年は、私に少女を託して去っていったこと。

私の話を聞くと、パパシャンもその青年と面識があるようで、その青年はサンクレッドどいう者でここしばらくウルダハでエーテルの調査の為滞在していること。そしてアマルジャ族によって召喚準備の進む蛮神「イフリート」に関して不滅隊と共に共同調査を行っているなど、知っていることを教えてくれた。
ただ話を聞く中で気が付いたのだが、どうやらパパシャン氏は青年に対して少女の捜索を依頼してはいなかったようだ。現れるべくしてして現れたのか、少女を見つけたところに偶然私が居合わせたのか。それとも別の「誰か」からの依頼だったのか。

エーテルを喰う妖異とエーテルを調査する青年。青年が誰かと話をしてすぐ従者が迎えに来た。しかしその話の相手はパパシャンではなかった。青年は自分自身身に覚えのない言葉を聞いて何かを納得していた。そして「また会うこともあるだろう」とも言っていた。

問題が一つ解決したかと思うと同時に、新たに二つ三つ謎が生まれる。ひょっとしたら自分の周りで何か厄介なことが起き始めているのではないか?そう感じながらもパパシャン氏と挨拶をかわし、自分もまたウルダハへと戻る。

青年は冒険者ギルドに行くようにと言っていた。そこに謎を解決する答えがあるのだろうか?