FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第四話 「休息」

冒険者ギルドに行くと、モモディ氏が笑顔で迎えてくれた。

「あら遅かったわね。サンクレッドから聞いているわ。大活躍だったらし・・・・随分と顔色が悪いわね・・・大丈夫?」

モモディ女史は心配そうに自分の顔を覗き込んでくる。「大丈夫だと答える」がモモディ女史は「なるほどね・・・と」呟きながらキッと私を睨んできた。

「ちょっとそこに座りなさい。」

先ほどの笑顔は何処へやら一転厳しい表情を私に向け近くに空いていたテーブル席に座るよう言った。モモディ女史は近くにいた給仕に何かを頼んだあと自分と反対側の椅子に座る。

(???)

しばらくの間無言でこちらを睨むモモディ氏と対峙する。

(・・・気まずい、非常に気まずい。)

ほどなくして給仕が持ってきたホットワインとクランペットが目の前に置かれた。

「当店自慢の看板メニューよ。出来立てだから冷めないうちに食べて。」

ホカホカと湯気を立てかぐわしい香りを放つ料理に私の目は釘付けになる。それでも突然のことで状況を呑み込めない私は食べることを躊躇する・・・・が、

「いいから、た・べ・な・さ・い!」

まるで子供を叱るような口調で語尾を強めるモモディ女史。たまらず私はクランペットをフォークで乱暴に刺し一気に頬張った。

!!!!!

バターの香ばしい香りが口の中いっぱいに広がる。程よく甘く味付けされた生地はふっくらとして柔らかく、噛むたびにたっぷりとかけられていたメープルシロップがじゅわっと染み出してくる。

(止まらない・・・止めることができない!!)

堰を切ったように私はクランペットをガツガツと貪り始めた。その姿は空腹に餓えた犬が久しぶりにありつけた餌に飛びついている光景とそれほど大差なかっただろう。作法も礼儀もなくただただ本能のままに喰らいついた。満足な咀嚼もせず口いっぱいに詰め込んだクランペットを強引に呑み込もうとしたが、当然喉に詰まる。むせる私の目の前にそっと差し出されたホットワインを掴み、ぐいっと口に含む。

!!!!!!!!

ホットワインを口に含んだ瞬間、それまで喉を詰まらせていた生地にじわっ染み込みあっという間にしゅわっと溶けた。このホットワイン・・・ただワインを温めたものではない。砂糖で甘く味付けされているうえ柑橘系の果物を一緒に煮立てているのか、赤ワインのどっしりとした力強い酸味とオレンジ系のさっぱりとした切れ味のよい酸味が合わさり絶妙なほど調和していた。また隠し味としてシナモンが入れられているのか、後からくるさわやかな香りが口を通って鼻から抜ける。

(うまい!!!!!)

かなりの量があったはずの料理はあっという間に私の腹の中へと消えていた。

満足感と、満腹感に満たされた私は「ふぅぅぅ〜〜〜〜」と大きく息を吐きだしながら、椅子の背もたれに深くもたれかかった。思い返してみればこんな料理を食べたのはいつぶりだろうか?いつも食べていたのは、固くてボソボソした粗末なパンや、味付けもなくただ焼いた肉や魚。そしてそこらへんに生えている食べられる草や木の実ばかり。この料理の食材の一つ一つは食べたことはあるのだが、きちんと調理されたものを食べるのは本当に久しぶりだ。しかも出来立てで味付けも極上。贅沢と思って口にしてこなかったが、ここの住人はこんなおいしいものをいつでも食べられるのか・・・遠い目をしながら感慨に浸る私を見て、

「お気に召したかしら?」

と、にやけた顔をしながらモモディ女史は質問してきた。幸福感に包まれ油断しきっていた私はガタっと居住まいを正し「おいしかった」と答えた。

「ここには冒険者だけでなく商人や観光客もたくさん食べに来るけど、あなたほどおいしそうに食べてくれた人は数えるほどしかいないかも。ここの自慢の料理だからそんなに喜んでもらえると、こっちとしても腕を振るった甲斐があるわ。」

そういいながらモモディ女史は私の顔についていた食べカスを払い取りながら、フフッと笑う。

(・・・・なんとも恥ずかしい。)

齢40歳近いおっさんが、女性の前でここまで恥を晒してしまうとは・・・

「さて・・・お腹もいっぱいになったことだろうし今度は私のお話を聞いてもらえるかしら?」

モモディ女史はコホンと軽く咳をして、真剣な目でこちらを見直す。私もその気迫に押されて改めて居住まいを正した。

「サンクレッドから話は聞いたけど、ちょっと無理し過ぎているんじゃない?あなたが何を焦っているのかは私にはわからない。でも無理を重ねたら元も子もないことはわかっているわよね。ただの雑用仕事だったらまだしも、冒険者のあなたが冒険中に倒れてしまったらそれは死に直結するの。」

あの時、サンクレッドに言われた言葉を思い出す。敵を退けた後ではあったものの、実際に倒れてしまった自分にとって耳が痛い。確かにあの後一人取り残された自分がどうなっていたかはわからない。

「休息はお金を払ってでもきちんと取りなさい。体が資本の冒険者にとって基本中の基本よ。

「備えあれば、憂いなし」

不利だと感じたら素直に引くぐらいの気持ちでいて欲しいのだけれど、冒険者である以上そうも言っていられないこともあるでしょう。もし無理を推してでも進まなければならないのなら、最低でもできる限りの備えを怠ってはいけないわ。そのためにもいかにうまく休養をとるかどうかも、冒険者に必要な資質の一つなのよ。」

モモディ氏の言葉が胸に刺さる。弱さから逃げ強さだけを求めた結果、私はまた大事なことを見失っていたのだ。

「負けるというのは負けないための準備を怠った結果でしかないの。でもたとえ勝てなくても命がある限り負けではないわ。死んだら負け。わかった?」

私は真剣な顔でうなずいた。

「よろしい! では、お説教はここまで! 実はね・・・・サンクレッドから宿を一室貸すように言われているの。」

そう言いながらモモディ氏は一つのカギを私に差し出した。あなたが妖異から守った女性はね、あなたが思っている以上にこのウルダハにとって重要な方なの。それこそ一食の食事と宿の提供ぐらいの礼では済まないほどにね。」

「まぁ詳しいことは言えないんだけれど・・・」とモモディ氏は小さな声で付け加えた。

「本当はもっとお礼をしたいのだけれど、ここは多くの冒険者を導く冒険者ギルド。
ギルドとしては何があろうと誰か一人に贔屓するわけにはいかないの。だからこれが最大限できる「報酬」よ。」

突然のことに驚きを隠せず躊躇する私を見て、

「あなた今、パールレーンを根城にしているらしいわね。まぁあそこのほうが居心地がいいなら無理にとは言わないけれど、たまには雑踏から離れて無防備になることも必要だと思うわ。宿屋はここの二階だから安全よ。よっぽど・・・あなたがこのギルドでは対処しきれないほど危険なものから狙われない限りは、だけれどね。」

改めて考える・・・余地もなく、この申し出を拒否をする理由が見当たらない。先の戦いで私はあまり役に立ったとは思えないのだが、報酬ということなら受け取らない手はない。というより屋根もベッドもある個室を得られるということは、根無し草だった私にとっては破格にも近い報酬だ。私はモモディ氏からカギを受け取る。

「ただし食事までは面倒見れないから、早く自立して自分のお金で食べに来なさい。安くはできないけど、おまけはいっぱいしてあげるから。」

そう言いながらモモディ氏はウィンクをする。時には優しく、時には厳しいモモディ女史を見ていると、荒くれ者の多い冒険者達に慕われている理由がわかった気がする。いつでもどんな時でも暖かく迎え入れてくれるこのギルドは、冒険者にとって一つのホームといえるのだろう。

帰れる場所がある。

たったそれだけでも心の支えとしては十分に大きいのだ。

私は早速用意された部屋に入る。決して広くはないが生活するには十分過ぎるほどだ。実のところ、飯を食べた後から眠気が半端ない。緊張から解放された体の疲労も限界だ。よろよろとベットに向かい倒れこむと、私はそのまま深い眠りに落ちていった。

(ベッドというのは、こんなにもやわらかいの・・・か・・・)

 

 

 


目が覚めると、ぼんやりとした視界の先に、見慣れない天井が浮かび上がる。

(えっと・・・ここはどこだったか・・・・)

いまいち脳が働いていないようで思考が鈍っている。体をゆっくりと起こしてまわりを見渡す。どうやらここは・・・・どこかの部屋のようだ。窓からは柔らかな光が部屋中に差し込んでいる。窓を開けるとウルダハのにぎやかな喧騒と共に、さわやかな風が室内に吹き込んでくる。空を見上げると随分と日も高くなっていた。

(昨日は確か・・・パパシャン氏からの依頼で少女を探して、見つけたと思ったら妖異に襲われて、銀髪の青年と共闘して、突然気を失って、クイックサンドでモモディ氏に叱られながらうまい飯を食って・・・)

断片的に浮かび上がる出来事を繋げて、一つ一つ記憶を呼び覚ましていく。

(あと・・・そうだ)

その後に報酬として自分専用の個室の鍵をもらって、部屋に入るや否や満腹感と疲労感に負けた私は、ベッドに倒れこんだまま寝てしまったのだった。

ぐぐっと延びをする。そしていまいち働いていない脳を叩き起こすため冷たい水で顔を洗った。疲れは少し残っているものの体調のほうはすこぶるいい。この感じだと少し体を動かせばいつも以上に本調子になるだろう。早速身支度を整えて一階へと降りる。

「あら、ずいぶんとお寝坊さんなのね。ふふっ、疲れはとれたのかしら?」

一階に下りるとモモディ女史が微笑みながら話しかけてくる。私は「昨日食べた飯の次に、最高の体験だった」と答えると「そんなこと言ったって何も出ないわよ!」と笑いながら言う。

ぐぅぅぅぅ・・・・・

クイックサンドに漂う香しい香りにつられて大きく腹が鳴る。昨日あれだけ食べたにもかかわらず、腹の中は既に空になっているようだ。そんな私を見てモモディ女史はクスクスと笑いながら「それで、何か食べてくのかしら?」と聞いてきた。
正直なところ、食事にかけられるお金がないので「あまり高くないものなら」と答えると、モモディ氏は「わかってるわ」と苦笑しながら私を席に座るよう促した。

しばらくして出てきたのは、厚く切られたベーコンがのったエッグトーストと少し不思議な緑色をした飲み物だった。毒々しいというほどの色ではないものの、お世辞にもあまりおいしそうには見えない。匂いは少し青臭くひょっとしたらケールをすりつぶした飲み物なのかもしれない。もしそうだったら朝から飲むには少し勇気がいる。

「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。確かに見た目はちょっと悪いけど、クイックサンドで人気の栄養満点ジュースなんだから!」

モモディ氏がそう言うならそうそう変なものではないだろう。思い切って飲んでみると、少しだけドロッとした食感でやはり青菜特有の青臭さはあるものの、オレンジの強い香りと蜂蜜のほのかな甘味がうまい具合にバランスを取っており、とても飲みやすい味になっていた。他にも隠し味に色々と入っているようで、気になった私は他に何が入っているのかを聞いてみたが「それは企業秘密よ♪」とはぐらかされてしまった。そして当然ではあるが、エッグトーストもまた絶品であった。


「ああ! やっと見つけた!」

朝から至福の時間を満喫していた私に一人の男が話しかけてきた。その男は剣術士ギルドのザザリックだった。

「最近街で見かけないからどこかでおっちんじまっているじゃないかってみんな心配していたんだよ。特にマスターなんて言葉には出さないけどすぐ態度に出るからわかりやすいのなんのって。」

ミラの態度が思い浮かんだのか、男はクククッと思い出し笑いをする。

「ちょっとでもいいからギルドに寄ってくれよ。あんたの無事な顔を見ればみんなも安心するからな!」

そう言ってザザリックはクイックサンドから出て行った。ザザリックとのやり取りを見ていたモモディ女史は「もうすっかりギルドの一員ね!」と言いながら嬉しそうに微笑んでいた。


食事を終えてクイックサンドをでると早速剣術士ギルドへと向った。ここ最近はずっと郊外を放浪していたこともあり、ギルドに寄るのはすごく久しぶりなような気がする。ギルドに入るや否や受付のルルツが「あーーーっ! 行方不明者はっけーーん!!」と私を指さしながら声高らかに叫んだ。その叫び声を耳にしたミラは驚きの表情でこちらで見たかと思うと、次の瞬間には冷静を装うかのように慌てて私から視線を外した。

「なんだお前、生きていたのか? とっくの昔にのたれ死んだと思っていたのだが、存外しぶといのだな!」

私がミラの元に向かうと、あたかも機嫌が悪いかのような口調で話しかけてくる。しかし落ち着かないといった感じで指を動かしながら、チラチラとこちらを盗み見ていた。

(・・・・ザザリックの言っていた通り、随分と分かりやすいな。)

私も内心で苦笑しながら、謝罪の上でミラにここ最近の私の動きを説明した。

「そうか、郊外のモンスター相手に日々鍛錬に励んでいたとは殊勝なことだ。だがお前もギルドの一員なのだからたまには顔を出すようにしろ。ギルドにも人出は必要なのだからな。」

そう言いながらミラはやっと私の方に向き直る。そして私をまじまじと見たかと思うと「ほう?」と何かを感じ取ったようだった。ミラは一つ咳払いし、修練場で模擬戦を行っていた一人の剣士を指さす。

「あの男は剣闘士を目指していてな、ここのギルドでは一番の成長株だ。あいつと模擬戦をしてみろ。お前がどれほど強くなったかを見定めてやる。」

と言ってきた。今までただがむしゃらに戦いの中に身を置いてきたが、自分が昔よりどれだけ成長したのかを知るいい機会なのかもしれない。私はうなずきその男と対峙する。

自信に満ち溢れている男の姿を見ると、少し前の自分を思い出す。彼は成長株と言っていた。とすると負けることにあまり慣れていないのかもしれない。初めは小手調べといった感じに数回剣を交える。剣捌きは鋭く的確に隙をついてくるものの、いかんせん打ち込みが軽い。まぁ模擬戦ということもあるから本気で打ち込んではいないのかもしれないが、理不尽な戦いに身を投じてきた自分からすると幾分物足りなさを感じてしまった。
その後しばらく続いた膠着状態に痺れを切らした男は、フェイントを織り交ぜながら一気に攻めてきた。流れるようで美しい剣戟。が、やはり踏み込みが一段浅い。私はタイミングを見計らって大きく踏み込み男の懐に潜り込む。そして剣の柄で男の腹めがけて一撃を放った。
自分の勢いの上に私の踏み込み分が合わさった重い一撃を受けて、男は苦悶の表情を浮かべながらその場に膝をつく。

「それまで!」

ミラが闘いを止める。ミラの顔をうかがうとどこか満足げな表情で「上出来だ!」と称賛してきた。敗れた男は涙を流しながら悔しそうな表情で地面を見つめている。ミラはその男を一瞥しながら、

「あいつはもともと剣のセンスはあるのだが、剣闘士への憧れが強すぎて見世物の動きしかできないんだ。昔の剣闘士は単純に力と力のぶつかりあいだったんだが、外部からの客が増えるにつれていつしか客を喜ばすためだけの茶番も必要になってしまってな。例えばさっきのお前の闘い方だと、剣闘士の仕合ではいくら強くてもブーイングは必至だ。いまや闘技場での闘いは、力比べではなく富と名声を得る道具でしかないのさ。

しかし剣闘士としては強くても、いざ戦闘に出た時にまったく使い物にならないなんてことになってしまっては、多数の強者を輩出してきた剣術士ギルドの名折れだ。それをわからせるきっかけを与えてくれたことに感謝しよう。あいつはこれから強くなる。できればまたあいつの好敵手として稽古をつけてくれ。」

そういいながらミラは「ポン」と私の肩に手を置いた。そして「今のお前なら・・・」と呟きながら話を変えた。

「おまえ、シルバーバザーは知っているか?あそこに私の顔馴染みがいるのだが、どうやら厄介なことに巻き込まれているらしくてな。実はここ最近あそこを往来する商人が何者かに襲撃される事件が頻発していて、商売がままならなくなっている。そこで犯人を見つけ出して退治してほしいとの依頼が来ているんだ。」

確かシルバーバザーは西ザナラーンの沿岸部にある港町で、ウルダハと他地域を結ぶ交易中継地だったはずだ。その最重要交易路で襲撃事件が起きるということにどうにも不自然さを感じてしまう。商売人の国において弱みに付け込んで小銭を稼ぐことぐらいはあっても、商売の邪魔をする連中がのさばることができるほどウルダハの商人たちは甘くない。ましてや自警団を組織できるほどの力を持つ商人達が、利を害する存在を黙ってみているなんてことがあるのだろうか?

ミラは私の表情の変化を覗き見ながら、この一件の確信を話し始めた。

「剣術士ギルドではその件の情報収集をしていてな。襲撃を受けた複数の商人やその場に居合わせた人の目撃談を集めたのだが、どうやら犯人は黄色いバンダナを巻いた斧術士らしいんだ。」