FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第五話 「銀色に輝く故郷」

シルバーバザーはザナラーン西部、金槌台地の南西にある小集落である。ウルダハにほど近い入り江にあるシルバーバザーはかつてザナラーン地方とバイルブランド島との交易を支える海の玄関口として、海運や漁業で賑わう交易中継点であった。シルバーバザーの近くには主要航路の象徴ともいえる巨大な灯台が立てられており、今もなお船舶の安全航行を見守っている。

日進月歩する造船技術の進歩に伴い、どんどんと大型化していく船舶を水深の浅いシルバーバザーの湾港では受け入れることができないため、増加の一途を辿っていた交易船に対しての船舶受入能力の不足による慢性的な海路渋滞が問題となっていた。

そこに商機を嗅ぎ取ったウルダハの大商人ロロリトは、新たな湾港開発計画に大規模な出資を行い、ウルダハ北西部にベスパーベイ港、陸路中継拠点としてホライズンを新設。以降大型船舶の受入が可能なベスパーベイ港に主要海運拠点としての地位を譲ることとなった。海の玄関口としての役割を終えたシルバーバザーではあったが、この時はまだベスパーベイも陸運輸送線の長さと陸路の整備不足という問題も抱えていた。
ウルダハにより近いというメリットを持つシルバーバザーは、その後も小規模の海運事業や豊富な海洋資源を利用した商売により賑わいを見せており、いい意味で住み分けができていた。

しかし、そんなシルバーバザーに悲劇が訪れる。

第七霊災時に起こった大規模な地殻変動により、シルバーバザーとバイルブランド島との間に広がるメルトール海峡の潮目が大きく変わってしまい、海の見た目からは想像ができないほど船舶航行の難しい海域と変貌していた。
そのせいでシルバーバザー行きの船舶はすべてベスパーベイ側に大きく迂回しなければならなくなっていた。

一方で第七霊災後にホライズンを中心とした物流経路の集中整備はほぼ完了しており、海路→陸路による物流環境が飛躍的に向上していたことで、ベスパーベイ港はシルバーバザーの物流量のすべてを受入可能となっていた。そのため運送距離のメリットを失った海運事業は時を待たずして崩壊。また潮流の変化は航路の断絶だけでなく主要産業であった漁業にも壊滅的な影響をもたらし、景気後退に追い打ちをかけた。生命線であった海運と漁業の二つを同時に失ってしまったシルバーバザーは、急速に衰退の一途を辿っていったのである。

それでもシルバーバザー出身の一部の人たちは故郷を守るために、ウルダハ市民を相手とした観光業や、スコーピオン交易所から流れてくる型落ち品の販売を中心として、細々と生活をしていたのだが、ここ最近本格的に始まった高級住宅地開発の波に飲み込まれてしまう。第七霊災以降、急激な人口増加の一途を辿っていたウルダハにはすでにゴブレット・ビュートという高級住宅地が存在するが、そのすべてが販売済みであり新たな住宅地開発が急務となっていた。
そこで目を付けられたのがシルバーバザー周辺の台地であり、地盤に不安はあるものの高台であるが故のロケーションの良さと、大灯台というランドマークの存在、そして何よりもシルバーバザーが有している湾港はヨットハーバーとしての活用も見込めることから、高級住宅用地としての開発が決定したのである。

以後シルバーバザーでは立ち退きを求める商人側と地元住民とで今もなお小競り合いが続いている。

 

閑話休題

私はウルダハを出てシルバーバザーに向けて歩みを進める。金槌台地に差し掛かると背の高い大きな杭打塔が何基も立ち並んでいた。金槌台地という地名の由来はこの杭打機から来ているものらしい。この杭打塔は鉱山資源の発掘のためのものと私は思っていたのだがどうやら違うらしい。第七霊災以降に計画が持ち上がった高級住宅地区開発のため、地盤強化を目的としてこの塔が建てられているとのことだった。確かにこの地域には切り立った深い谷が存在する。谷の底には「ノフィカの井戸」と呼ばれる水源がある。谷はこの川によって長い年月をかけて浸食され出来たものであろうが、ここまで深い谷になったことを思えば、地盤はさほど固くないのであろう。


金槌台地を抜けると目的地となるシルバーバザーが見えてきた。栄華を極めた歴史ある集落にしてはひどく寂れていて、どこか難民キャンプにも似た荒廃感が漂っていた。私は集落に入りこの町の顔役であるキキプを探すため住人に話しかける。しかしキキプの名前を出すと「あぁ・・」というようなそっけない態度で「知らない」と軽くあしらわれてしまった。その後何人かにも聞いたが皆同じく「知らない」と答えた。

シルバーバザーはそれほど大きな集落ではない。ましてや探しているのはこの集落の顔役である。誰か一人ぐらいは知っていてもおかしくはないのではないか?それなのにみんなが口を揃えるように同じ答えを返してくることに不自然さを感じる。私は住人に聞くのをあきらめ、ミラから聞いていた容姿を頼りに改めて探しまわった。

ララフェルの女性で髪は紫・・・

この町にもララフェル族は少なからずいたのだが、その容姿に当てはまる女性は見当たらない。違うとはわかっていたが思い切ってララフェルの女性に話しかけてみる。しかし帰ってくる答えは「知らない」という言葉だけだった。

あてを失いながらも探して回ったが、無駄に時間だけが過ぎ、いつの間にか夜になってしまっていた。

(今日の捜索はあきらめるとして、明日からはどうしたものか・・・)

とりあえず寝床になる場所を探していると、シルバーバザーの中心だったであろう場所でララフェルの女性と堅気とは思えない風貌の男が言い争っていた。すこし近寄って会話を盗み聞きしてみると、どうやら男は地上げ屋のようで自分の手下を使って強引に住人を立ち退きさせようとしているようだった。男は女性に何かを言い放つと、高らかに笑い声を挙げて立ち去っていく。

(紫色の髪のララフェル・・・)

どうやらその男と揉めていた女性こそ、私が探していたキキプのようだ。私はキキプに話しかける・・・と、

「何よあんた! あんたもあの男の一味かい!! ここは渡さないって何度言ったらわかるんだ! 早く出ていけ!!」

と、すごい剣幕で怒鳴られた。どうやら自分のことを地上げ屋側の者と勘違いしているらしい。私はキキプに落ち着くようになだめながら、ミラから預かってきた手紙を差し出す。

「なによこれ? 立ち退きの勧告書だったらタダじゃすまないわよ!?」

キキプは私の手から乱暴に手紙を奪い取ると、中身を確認する。

「あら・・・・あなたミラからいわれてきたギルドの方なの?怒鳴ってしまってごめんなさいね・・・。この町を訪れる人って、ああいう手合いが多いからすっかり勘違いしたわ。」

そういってため息をつきながら町の一角を指差す。さっきの男の手下なのだろうか?キキプが指さしたところには、住民に嫌がらせをするガラの悪い男たちの姿が見える。「あなた、この町のおかれている状況についてミラから聞いているかしら?」と聞かれ、私はうなずく。

「そう・・実はさっきの男はね、ここの地上げを取り仕切っている奴なの。今までは手下を使って嫌がらせに来る程度だったのだけれど、今回は偽の売買契約書をでっち上げて、町中の建物に差し押さえ証を貼って回っていたのよ。それも私がちょっとこの町を離れていた隙によ!」

キキプは再び怒りが込み上げてきたのか、半ばヒステリー気味に声を荒げた。「偽物と分かっているならそもそも効力はないのでは?」
と聞いてみると、

「その契約書が偽物だと証明してくれる場所がないのよ。司法組織なんてものはウルダハにも一応あるけれど、そこを牛耳っているのがこの偽の売買契約書を作った黒幕よ。そもそもそいつはウルダハを裏から支配する中心人物。訴えたところで追い返されておしまいなのよ。」

キキプは悔しそうに顔を歪め、深くため息をつく。

「さっき私がこの町を離れていたって言ったわよね。実はその時私はウルダハにこの町の現状を訴えにいっていたの。結果は・・・言わなくてもわかるわよね・・・。でもこのままだとこの町の建物がすべて壊されてしまう。
男は言っていたわ。これから解体屋が来て、貼り紙がある建物を全部取り壊すって!たとえ偽物でも証明する手段がなければ既成事実にはなるの。だから一刻も早く剥がしてしまいたいのだけれど、あいつの手下どもが見張っていて手が出せないのよ・・・町のみんなも抵抗する気もないみたいだし・・・。」

事態は一刻を争うようだ。取り壊しという名の無差別破壊は、目立つ日中を避けて夜に行われる。町に人が少ないとは思っていたが、どうやら人払いでもしていたのだろう。

(しかし・・・・)

今回の件、見て見ぬふりをしてしまえばそれで終わってしまう話なのかもしれない。実際のところここの住民は今の生活に疲れ果てていて、ここでの暮らしをあきらめている者の方が圧倒的に多い。キキプは一人この町を守るために戦っているようだが、それを応援しようとする者はこの町にはいない。

なにより、寂れ果てたこの町に何の打開策のないまま居続けても、不幸にはなれど決して幸せは訪れないだろう。立ち退きの条件は不平等なものかもしれないが、苦汁を飲んででも一から出直した方がチャンスはあるのかもしれない。
それにこの案件、私一人が安っぽい正義感をかざして首を突っ込むには危険すぎるのではないか?剣術士ギルドの後ろ盾があるとはいえ、ここを更地にしようとしている黒幕はウルダハの中心人物。自分ごときがしゃしゃり出たとしても、結局は潰されて終わりになるだろう。

迷いに揺れながら、キキプの顔を見る。さっきの男と対峙していた時の威勢は息をひそめ、不安と悔しさで泣き崩れそうになる顔を、必死に堪えているように見えた。

(どちらにせよ、ミラの顔馴染みであるこの人を放っておくわけにもいかない。私がここで引いてしまったらミラのメンツを潰してしまうことになる。)

私は改めて町の中を確認する。確かに建物の周りには差し押さえ証を守るようにガラの悪い奴らが見張っている。しかし武器を持たない一般住人しか相手にできないようなチンピラばかりで、さほど人数も多くはない。私がキキプと話しているにも関わらず、へらへらと不遜な笑みをしながらこちらに何の関心も寄せていないところを見ると、自分より弱い者を脅して優越感に浸りたいだけの程度の低い奴らばかりのようだ。応援を呼ばれて囲まれると厄介だが、一人一人対処すれば何とかなるだろう。

(やり方としては、少々卑怯かもしれないが・・・しかたがない。)

私はキキプから差し押さえ証の貼られた建物を聞く・・・・建物全部か・・・私は闇にまぎれ、差し押さえ証の前をうろつく手下たちに死角から飛び掛かり、騒がれないように口をふさいだうえで建物の影へと引きずり込み、鉄拳制裁を加えた。手練れと言っていたようだが実にあっけない。まぁ警戒すらしない素人など、所詮こんなものなのかもしれないが。結局何一つ手こずることなくすべての差し押さえ証を剥がしきった。

私はそれを持って町の門の前で解体屋を待っていた男に背後から忍び寄り、羽交い絞めにすると同時に短刀を首元に突きつけた。男は突然のことに動揺しているが決してこちらを向かないように脅し、男の震える手に剥がした差し押さえ証を強引に押し付けた。突然手渡された差し押さえ証を見た男はしばらくあっけにとられていたが、自分の手下が全員やられたことを理解すると「助けてくれ、見逃してくれ」と情けない声を上げて許しを請う。私はその男に、

「次にお前をこの街で見かけたら命は無いと思え。」

と脅しをかけ、開放するや否や男は一目散に走って逃げて行った。

町へ戻るとキキプは目に涙を浮かべながら感謝の言葉を伝えてきた。

「違うお願いで呼んだのに、面倒事に巻き込んでしまって本当にごめんなさい。でも今回の一件、久しぶりにすっきりしたわ! こんな町でも守ってくれる人たちがいるだなんて、この世の中も捨てたもんじゃないわね!」

先ほどまでの苦悶に満ちた表情から一転、何か新しい希望を見つけたかのようにキキプの表情は明るい。

「今日はもう遅いわ! お部屋を用意してあげるから今日はそこでゆっくり休んでちょうだい!」

そういって、キキプは宿の手配をしてくれた。私はキキプの案内を受けながら宿へと向かう。途中何人かのシルバーバザーの住人とすれ違う・・・が、住人から感謝の言葉をもらうことはなかった。それどころか「余計なことを」と非難めいた言葉を吐き捨てるように呟いている。

私はそのことに動揺を隠せなかった。

宿に着いてすぐ、私はベッドに座り込んで考え込む。今回の件でシルバーバザーの破壊は免れたが、結局はより大きな厄介事の呼び水となってしまっただけではないのか?あの男はこの件を絶対雇い主に報告する。そして次はより強引な手法で立ち退きをせまるだろう。それはひょっとしたらこの町の住人を死に追いやってしまう事態になるかもしれない。

(この町を守ることが、人を助けることにはならないのではないか? 本当に自分の判断は正しかったのだろうか・・・・)

私は胸に大きなわだかまりを残したままこの町での初日を終えた。