FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第六話 「武器と防具」

シルバーバザーでの2日目の朝。私は宿屋のベッドで目覚めむくりと起き上がる。

(うぅ・・・頭が重い。)

ベッドで寝たのにもかかわらず今日の目覚めはひどく悪い。昨晩は久しぶりに寝つきが悪く、今にしてもいつ寝ていつ起きたのかが分からないほど睡眠をとった感じがしなかった。ベッドから立ち上がろうとするのだが体全体が動くことを拒むかのように重い。それは疲労感・・・というものではなく、精神的な原因からくる倦怠感だ。

(なんだか懐かしいな・・・)

この健康的な思考を蝕む空虚感にも似た感覚は、あてもなく放浪していた時期によく感じていたものだ。

存在理由とか、生とか、死とか。

考えたところで始めから答えなど無い無意味な問いに、強引に思考を奪われていく感覚。それは孤独感や焦燥感、先の人生への漠然とした不安感から弱気になった時によく感じていた。ウルダハでの生活を始めてからは毎日が慌ただしくて余計なことを考える暇もなかったのだが。

(気が緩んでる証拠かな・・・・)

気合を入れな直すため顔を二度三度叩き、動きの鈍る体に活を入れる。
やる前からあれやこれや頭で考えていても仕方がない。結果は求めるものではなく自分の行動についてくるものだから。私は私にできることを精一杯やればいい。

 


宿屋を出ると、私が起きるのを待っていたキキプが立っていた。

「おはよう! あら・・・あまり寝られなかったのかしら。顔色があまり良くないようだけれど、大丈夫?」

キキプは心配そうに私の顔を伺う。私は「大丈夫」と答えたが、それでも心配そうに「昨日は無理させてしまったからねぇ・・」とキキプは申し訳なさそうに小さく呟いた。

「立ち話はなんだから朝食でもとりながらお話しましょ」ということでバザーの一角にある小さな食事処に案内された。出てきた食事はクイックサンドのものと比べると簡素で粗野な感じだった。「この町ではあまりいいおもてなしはできないのだけれど・・・・」と食事を見ながらキキプは自嘲気味に言う。しかしこの程度のものでも私にとってはごちそう中のごちそうだ。

腹が膨れるとそれまで感じていた不安感はどこへやら。陰鬱としていた気持ちもすっかり晴れていた。

やはり空腹感は人を弱らす。

ガツガツと嬉しそうに料理を食べる私を見ると、キキプも安心したように微笑み食事を始めた。

食事も一息ついたところで、さっそく本題に入る。キキプの話によると、シルバーバザーとスコーピオン交易所を行き来する商隊を狙った襲撃被害が多発している。出現場所は毎回違うが、どうやら人の往来が少ない時間帯を狙って襲ってくる。スコーピオン交易所にたむろする傭兵に商隊の護衛を頼みたいところだが、雇うだけの金がない。
(一度頼んでみたものの、シルバーバザー方面は物騒だからと法外な金銭を要求された)

外海との交易や漁業による収入が絶たれた今のシルバーバザーにとって、スコーピオン交易所から流れてくる訳ありの不良品や流行遅れの型落ち品の販売による収入だけが頼りになっている。アラミゴや他地域から流入してくる難民や移民が増加している現在、意外と顧客にはこまらないようだ。その生命線を狙い撃ちして襲撃してくることを思えば、犯人は考えるまでもない。表向きに立ち退きを迫る一方で、裏で集落存続の生命線を絶つことにより、外からも内からも圧力をかけてシルバーバザーを崩壊させようとしているのだろう。


目撃情報によると、襲ってきたものは「斧術士の男」ということだった。

(・・・・・だからといってあの時の男とは限らない。)

しかし本来スコーピオン交易所周辺の治安維持を行っているはず銅刃団に一切の動きがなく、さらに高級住宅地開発の元締めが私の想像する人物であるとするならば、それはもう確信に近い。噂ではクイックサンドでの一件で目立ち過ぎたその男は所属する傭兵団から除名され、新たな食い扶持を求めてこの付近を彷徨っていたらしい。

これは私の想像でしかないが騒ぎを起こした責任を取らせるため、元締めに「死んでもいい捨て駒」として拾われ、決して表に出ない闇仕事の専属として飼われているのではないかと思う。傭兵崩れの半端ものとなればいざというときに切り捨てやすい。

死んだところで、誰も困らない。

まあ理由はどうであれ、自分の人生を狂わせたのは自分自身の行いの結果なのだから、例え酷い末路を辿ったとしても同情の余地はない。

スコーピオン交易所に古い知り合いがいるの。名をオスェルって言うんだけれど、私の名前を出せば何か教えてくれるかもしれない。迷惑ばかりかけて本当に申し訳ないのだけれど、あなたならシルバーバザーを救ってくれると信じているわ。」

キキプは私に向かって深々と頭を下げる。

「あっ! あともし何か装備が必要だったら私に言ってちょうだい! とはいっても所詮は横流し品だから、あなたのお眼鏡に合うものがあるかはわからないけれど、昨日この町を守ってくれたお礼としてタダで譲ってあげるわ!」

とキキプは思い出したように提案してきた。私はもちろんその好意に預かり、品を見せてもらった。

キキプの言うとおり、質が悪くいまいちのものがほとんどだったのだが、数点だけ際立って仕立てのしっかりした装備を見つける。私がそれを選ぶと、キキプは「あなた結構見る目もあるのね」としきりに感心していた。

早速装備してみると、想像以上に体に馴染むことに驚いた。留め具や接合箇所の仕上がりも丁寧で、仕事に一切の妥協が感じられない。さらには、装甲を高めつつ体が動かしやすいようにいたるところに工夫がなされており、見た目以上に動きやすい。なぜこんな優良品が横流し品に混ざっているのか・・・・実はこの装備一式には、致命的な欠陥があるからだ。

それは・・・・絶望的に色のセンスが最悪なのである。

「それはリムサ・ロミンサにある有名な工房のもので、作った職人さんは新進気鋭の新人らしいの。ただ色のセンスだけが絶望的で、地味なものを無理やり作らせると途端に手を抜いて粗悪品しか作らない。自分の創作意欲を掻き立てる色を基準で装備を作るものだから、質はいいのに買い手が付かないから結局売り物にならずにここに流れてくるってわけ。
まぁ色を変えればいいだけなんだけど、そのためには一度分解しなければならない。こういった緻密に作り上げられたものをばらして組み立て直すには相応の技術が必要だから、結局誰もやらないのよね。」

改めて、自分の格好を見る。正直に言えばかなり恥ずかしい・・・・が、今は背に腹はかえられない。余計なプライドに囚われていると、自分自身で身を滅ぼす結果にしかならないからだ。

ただ・・・前着ていた服は捨てずに取っておこう。

「防具ばかり選んでいるけれど武器はいいの?」

そう聞いてくるキキプに「剣はあるから大丈夫」と私は答え、腰に下げていた剣を抜く。長年苦楽を共に歩んできた、手に馴染む一振りの剣。いつどこでこの剣を手に入れたのか定かではない。しかしそれは何度となくピンチから自分を守ってくれた。この剣こそ、

私がウルダハでの生活を始める際に、使わないと思って難民キャンプの露店に売り払ってしまった剣そのものである。

 

 

 

~ 回想 ~

「あ、ちょっと待て。」

シルバーバザーの一件の依頼を受け、剣術士ギルドを出ようとする私をミラは呼び止めた。

「お前にやった剣、まだ使っていたのか。もうボロボロじゃないか・・・まったく。装備を整えることの重要さをお前はわかってない。金も大事だがお前の命を守る道具はもっと大事なのだぞ!」

ミラはそういいながら、武具置場の奥から一本の剣を取り出し、こちらに戻ってくる。そしてその剣を私に差し出した。
どこかで見覚えのある・・・・どころではない。まさしくそれは私が以前使っていた剣そのものだった。ただ、目の前にある剣は私が使っていたものとは違い、刃こぼれの全くない新品と思えるほど綺麗なものだった。とすれば私が使っていた剣も目の前にある剣も、大量生産されたものであって今ここにあるものは私の持っていた剣に似た別物なのだろう。

「ふむ・・・・あまり驚かんようだな。私の感は外れていたのかな?」

私の反応が予想と違っていたのか、ミラは少しがっかりした様子で話を続けた。

「いやな、この剣は以前モンスターの襲撃から救った難民から礼として差し出しされた一本なのだ。払える金がないからってこれを出してきたんだが、こちらは別に報酬はいらないと断ってもどうしても受け取って欲しいというからしょうがなく受け取ったのだ。
このウルダハにあっては、ただより怖いものはないからな。借りは作りたくなかったのだろう。正直この剣をもらった時は、刃こぼれもひどい上に全体としてあまりにもぼろぼろだったんで、捨てようと思っていたところにお前がこのギルドに来たんだよ。

その時お前は私に言ったよな? 
持っていた剣は露店で売っぱらったって。」

そういえば、剣術士ギルドに入門する際、剣を持っていないことに恥じて素直に話をしたような気がする。

「それを聞いた時にふとこの剣のことが頭に浮かんでな。丁度備え付けの武具のいくつかを鍛え直すために、リムサ・ロミンサの工房に送る用意をしていた時だったから、ついでにその剣も一緒に修理に出していたんだよ。

これも何かの縁かなって思ってな。

しかし、これは本当にお前の剣だったのではないのか?ちゃんとよく見て見ろ。違うとなれば私はとんだ赤っ恥だ・・・。」

静かに焦るミラの姿に苦笑しながら、私は差し出された剣を受け取り軽く振ってみる。その感触はやはりとても懐かしい。持った時の手に馴染むような感触も、剣を振ってみた時の感触も、確かに似ている。
ただ私が記憶する剣の姿とはまるで別物のように隅々まで手直しがされているため、やはり自分のものと判断できなかった。ミラは確証を得られないというような微妙な表情をしている私をみて、

「なあ、その剣どうやら「一本もの」らしいぞ。少なくともこのエオルゼアにおいては、と前置きはつくが。ここの武具整備で昔から世話になっているリムサ・ロミンサの工房はかなり歴史が古く「生きる技術」の継承と「死んだ技術」の喪失を防ぐため、今までに工房で作り出してきた剣だけでなく、鍛え直してきた剣のすべての錬成情報を「技術録」としてまとめ続けているんだ。
その剣は一見するとどこにでもある普通の形をしているが、細かく見ていくと細工の様式が見慣れないものだったり、再現の困難な刃紋形状をしていたりと「技術録」の中にすら同じものはなかったらしい。

まぁ、材質については特別な素材が使われているわけではないので、在野の鍛冶師が気まぐれに作ったものかもしれない。しかし異常ともいえるほど細部までこだわりぬいて作られた一品であることは間違いないとのことだ。

たくさんの剣に魂を込め続け、名工として名が知れてきた技術屋からしても、この剣と向き合っていた時間だけは日々当たり前と思ってやってきたことを否定され、改めて剣に向かうことへの情熱を思い出させてくれた。

「こんな剣と出会わせてくれたことを感謝したい。」

なんてクサいことも言っていたよ。普段無口な頑固者のくせに、あんなにベラベラと喋る姿は本当に珍しかったよ。」

そう言いながらミラは思い出し笑いをする。私もあまりにボロボロ過ぎてわからなかったのだが、そうなるまで酷使しているにも関わらずどこも壊れていなかったことを考えれば、やはり相当なものなのだろう。

「剣は持ち主に似る・・というが、存外間違いではないのかもしれない・・・いや、お前のタフさから言えば持ち主が剣に似るといった方が正しいか?」

ミラは笑いながら私の胸をこぶしで軽く叩いた。思い返してみればその剣を使ってモンスターと対峙するだけでなく、石をどけるためにてこ代わりにしたり、壁の割れ目に突き刺し足場代わりとして乗っかったりと、かなり負担のかかることを平気でしていた。それでもなお壊れることのなかった相棒を私は見た目を優先して簡単に手放してしまったことに、今更ながら後悔した。

「まあこの剣がお前のものだったかどうかはこの際どうでもいい。この剣はお前にやる。しばらくの間はこの剣で十分だろう。修理費用については今回の依頼の報酬として先払いさせてもらう。完遂できなかったから返す、と言われても困るからな。必ず解決してこい。」

ミラの激励を受けて、再び手元に戻った相棒を手に私はシルバーバザーへと向かった。


~回顧終わり~