FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第七話 「凋落の故郷」 

スコーピオン交易所 ~

スコーピオン交易所はウルダハ西部、ナナモ新門を出てササモの八十階段と呼ばれる長い階段を下りた先にある物流集積拠点だ。ナナモ新門は霊災後に現国王であるナナモ・ウル・ナモ女王陛下の即位を記念して建設された新しい門である。その門を出てすぐのところにスコーピオン交易所はあるのだが、門と交易所の間は高い崖に隔たれ、八十段にも及ぶ階段はあるものの物流経路としては使い物にならないため、ウルダハへと向かう物品はすべて中央ザナラーンの玄関口であるナル大門へと迂回の上、搬入されている。そういった輸送事情に加え最近では西ザナラーンでの高級住宅地開発の本格化により、スコーピオン交易所事態のの中央ザナラーン側への移設も計画されている。

エオルゼア全土から集まってくる物品はスコーピオン交易所で一度荷卸しされ、品質の程度により仕分けされる。質の良いものはそのままウルダハへと運ばれ、B級品と呼ばれる質の悪いものや型落ち品などは、シルバーバザーや専門の買取店を通じて他地域へと送られるようになっている。

霊災後、資材不足の影響もあってか持ち込まれる物品の品質が急激に悪化していた。質の悪いもので街の中が溢れることを恐れたウルダハ商人達は、スコーピオン交易所において質の悪いものは受け入れはおろか買取自体を拒み始める。一方的すぎる選別に腹を立てた外部商人たちは持ち込んだ物品の持ち帰りを拒み、買い取ってもらえるまでスコーピオン交易所内に放置するという事案が多発した。
結局スコーピオン交易所の周辺は買い手のつかない物品で溢れる事態となり、その処理が問題となっていた。(不当に置かれた物品であれど所有権は商人にあるため、自由に処分することができないため)

事態を重く見たウルダハは

「正式な許可もなくスコーピオン交易所に置き去りにされた物品については、持ち主の有無にかかわらず、ウルダハの権限で処分を行える」

という火に油を注ぐような法令を発布する。当然外部商人から「あまりにも一方的すぎる」との批判が続出。そもそも仕分け自体がウルダハ側の独断によって判断されているため、不当にB級品と判断されて処分対象となったものが、実はこっそりウルダハ内部へと搬入され店頭に並んでいた事実も判明。結果ウルダハは商売の国にとって致命的な「信用低下」を招く結果となった。

一時は外部商人達の売買拒否によってウルダハの物流が止まってしまうほどの事態を招いた。その後すぐに法令は緩和されたものの完全な事態の収拾へと結びつくには至らなかった。以降「ウルダハ商人」対「外部商人」という図式が出来上がり、商売上での相互不信はくすぶり続け「自由な交易」を掲げるウルダハの財政を大きく傾かせる原因となっていった。

問題の解決を見いだせないスコーピオン交易所の現状に商機を見出したシルバーバザーのキキプは、受け入れを断られた物品の買い取りを開始する。市場価格に比べると買取額はかなり安いものの、質・量に関わらず一括買取も行ったため、金にもならない状態で放置するよりはましとのことで売り手が殺到。シルバーバザーにとっても霊災がもたらした外洋との交易路の断絶や漁業の崩壊によって集落は瀕死状態であったため、このB級品の売買は集落の存続をかけた最後の賭けでもあった。

キキプは霊災以後急激に増え続けていた難民や移民を相手にB級品を用いた薄利多売の商売を開始する。質こそ悪いが一流ブランド品も混じっていたことから商品は飛ぶように売れた。一品一品の利益は低いものの数に物をいわせた販売手法は大当たりし、死に体だったシルバーバザーは息を吹き返した。さらにウルダハにとっても不良物品の在庫解消に多大な影響をもたらしたため、この時点ではまだウルダハとシルバーバザーとの関係はお互いに良好であった。

買い取られた商品は一旦シルバーバザーにすべて運ばれていたのだが、B級品の販路がザナラーン全土に拡大するにつれ、次第にスコーピオン交易所にて仕分け完了後にそのまま各地に再出荷されることも多くなっていった。そしてこの頃に西ザナラーンの高級住宅地開発の計画が浮上、あわせて規模拡大と運送経路の改善を目的としたスコーピオン交易所の移転計画も持ち上がっていた。

当初ウルダハはシルバーバザーの交易中心地がスコーピオン交易所へと変遷していたことも考慮し、移転が計画されたスコーピオン交易所と共にシルバーバザーの中央ザナラーンへの移転を提案する。スピード感を持って開発を進めたいウルダハ側が提示した条件は破格のものであったが、あくまでも故郷存続に執着するキキプをはじめとする一部の住人が猛反発。結果移転交渉は遅々として進まず、宅地造成の開発事業は停滞を余儀なくされた。そのことが原因で、次第に良好な関係にあったシルバーバザーとウルダハは絡む糸のように拗れていった。

頑なに移転を拒み続けたキキプは、ウルダハ側がシルバーバザーの移転を急ぐもう一つの理由を見抜いていた。シルバーバザーを中心に急速に拡大するB級品市場は正規品の販売に大きな影を落としており、それはウルダハの大商人「ロロリト」率いる「東アルデナード商会」においても例外ではなかった。正規品の販売を阻害するB級品市場の成長を恐れたロロリトを初めとするウルダハの実権を握る砂蠍衆は、他国のギルドとも手を組みスコーピオン交易所とシルバーバザーとを合併させることにより、B級品市場の実権を奪取し市場操作による販売統制を目論んでいたのだ。

シルバーバザーにおいてはウルダハから出された破格ともいえる立ち退き提案に飛びついた住人が続出し人口は激減する。一見派手に見えるB級品販売だが薄利多売が故に仕事量の割に利幅が小さく、忙しさのわりに生活が一向に回復しないことに不満を持っていた住人が立ち退きに飛びついたため働き手が一気に減る事態を招いてしまう。
結果としてシルバーバザー側の商売も大きく減速。さらにはシルバーバザーによるB級品市場の独占状態を崩すため、ウルダハへと持ち込まれる仕分け対象の大幅な緩和と、大手商人主導によるB級品の取り扱いが始まったことにより過当競争が激化。シルバーバザーは優位性を一気に失い現在の状況と至っている。

 

 

 

 

スコーピオン交易所に入ると商人たちと荷捌き人との掛け声でウルダハのマーケット以上に騒がしい。活気に満ち溢れている・・・というよりは荷捌きに追われて鬼気迫る、といった方が正解かもしれない。どんどんと搬入されてくる荷物を受け入れる者、それを検査仕分けする者、値段の交渉を行う者、出荷準備を行う者の掛け声がゴチャゴチャに飛び交っており、それでも会話が成立しているのがいつも不思議でしょうがなかった。

実はこのスコーピオン交易所を仕切っているとオスェルとは仕事の依頼を通して顔見知りだった。オスェルは私の仕事っぷりがお気に召したのか扱いやすいカモが来たと思われたのかどちらかはわからないが、いつでも好意をもって向かい入れてくれる。ただここを通るたびに色々と理由をつけては仕事を押し付けてくるため、最近はなるべくスコーピオン交易所へは立ち入らないようにしていた。

オスェルはめざとく私を見つけるや否や、

「お~~いっ! 随分久しぶりじゃないか!また仕事をしたくて来たんだろう! 稼げる仕事なんていくらでもある、というか今すぐにでも取り掛かってもらいたいことがいっぱいあるんだが!」

と雑踏の中でも聞こえるような威勢のいい声で私を呼んだ。昔オスェルが慢性的な人手不足に嘆いていた時に「仕事を探している難民を雇えばいいんじゃないか?」と聞いたことがあったが「難民連中だと商品に手を付ける奴も多くて信用できない」と話していた事がある。過去色々とあったのだろう。

私はオスェルの元に行くと仕事をしに来たのではなくキキプからの依頼で来た旨を話す。オスェルはキキプの名前を聞くと途端に笑顔が消え、周囲をキョロキョロと見まわした後厳しい表情をこちらに向けた。そして後ろを向いてそこらへんに落ちていた紙に何かを書くと、私の胸に「どんっ!」と押し付けてきた。

「仕事の邪魔だ!冷やかしなら帰った帰った!」

と声を荒げて私を突き飛ばす。オスェルの突然の変化に呆然としながらも私はその場を一旦離れる。押し付けられた紙を見てみるとそこには、

夕刻二十一時 ウルダハ パールレーン

と殴り書きで書かれていた。

その日の夜、私は紙に書かれていた時間通りパールレーンで待っていた。そういえばここに来るのも随分と久しぶりだ。ランデベルドに挨拶をしようと思ったがどうやらいないようだ。陰鬱として剣呑な雰囲気がいつも漂うスラム街。私は少し前までここを根城にしていたがモモディ女史から宿屋の一室を与えられてからは、すっかり疎遠になってしまっていた。

ここは変わらないな・・・・

一人感慨に浸っていると背後に人の気配を感じ、「こっちを向くなよ・・・そのままの体勢で話をするぞ」と声がした。私はその声の主がオスェルだとわかると、そのままぼーっと街中を眺めるように装いながら話を始める。

「日中はすまんかったな。お前の口から突然キキプの名前が出るから驚いちまったぜ。今スコーピオン交易所じゃキキプとシルバーバザーの話題はご法度なんだよ。今ここの知り合いに変な奴がいねぇか見張ってもらってるが、まぁ用心に越したことはねぇしな」

オスェルは葉巻に火をつけたのか、甘い煙の香りが漂ってくる。

「ここ最近スコーオピオン交易所にいる銅刃団の連中がピリピリしていてな、シルバーバザー関係の話題を耳にするや否や、すげぇ剣幕で関係性を根掘り葉掘り聞いてくるんだよ。実際シルバーバザーを擁護した奴が、今後一切の商売ができなくなるほどの仕打ちを受けたとのうわさも出てる。」

「本当かどうかはわからんがな」とオスェルは付け加えた。

「表向きは今まで通りシルバーバザーとの交易はあるんだが、裏じゃかなりシビアな状況でな。このままだとあそことの交易自体がいつまで続くかわからなねぇってのが現状だ。」

私はその状態がここ二、三日から始まったことなのか、気になって聞いてみた。

「んー? まぁ銅刃団が出しゃばってきている状況になったのは最近といえば最近だが・・・なんだお前、何か心当たりがあるのか?」

私はシルバーバザーで起こったことやキキプと話をしたことを正直に話す。

「そうか・・・やばいやばいとは噂で聞いてはいたが・・・シルバーバザーももうこれまでかもな。」

オスェルの声のトーンが落ちるのがわかった。

「俺も実はシルバーバザー出身でな、アイツの爺さんや親父さんには随分と世話になったよ。俺に商売のいろはを教えてくれたのもアイツの爺さんだ。そん時のシルバーバザーはスコーピオン交易所やウルダハの市場よりも活気に満ちていてな、まるで毎日がお祭り騒ぎだったほどさ。そんな輝かしい故郷がまさか存続の危機に直面するとは想像もできんかったよ。

親父の仕事の関係でスコーピオン交易所で働くことになってからキキプとはしばらく疎遠になっていたんだが、霊災後に久しぶりに会った時にシルバーバザーの悲惨な状況を聞いたときは言葉も出なかったよ。キキプからはシルバーバザーに戻って一緒に再建を手伝ってほしいと懇願されたんだが、そん時はスコーピオン交易所も大変でな・・・・戻ってやることができなかったんだよ。

だがある日あいつがスコーピオン交易所で大問題となっていた不良品の山を、全部買い取るといって乗り込んできたときは本当に驚いたよ。追い詰められすぎて気でも狂ったかと思ったが、あいつの目は全く死んでいなかったどころか、シルバーバザー再建目指して燃えまくっていた。そん時に商売の話を色々したんだが、商魂のたくましさは爺さん譲りだなと関したものだったよ。あいつは商才に優れている、ただ・・・・運には恵まれていないがな。

今回の件についても・・・相手が悪すぎだ。あいつが今喧嘩を売っている相手はウルダハの商業を牛耳る「東アルデナード商会」のボスでもあるロロリトだ。お前も名前ぐらいは聞いたことあるだろう?
西ザナラーン一帯の高級住宅地化を推し進めている中心人物もそいつだ。二流品がウルダハの市場に出回るようになってからというもの、アイツがオーナーである高級店の売り上げが芳しくないらしくてな。手狭になってきた住宅地を一気に拡大することによって、外部からの金持ち連中を住まわせて高級品販売のテコ入れを狙っているらしい。

あそこらへんは高台になっていて見晴らしもいいし、近くにはきれいな水源もある。そしてなによりシルバーバザーを手中に収められれば港を利用した観光施設も建設できるから、金持ちを住まわせる高級住宅地には最高の立地なんだよ。

正直先のないシルバーバザーを手放して違う土地で新しい商売を始めたほうがいいんじゃないかってキキプに言ったら「お前は簡単に故郷を捨てるのだな!」なんて怒鳴られて引っ叩かれたよ。」

乾いた笑いをしながらオスェルは話を続ける。

「アイツの爺さんはシルバーバザーの長をやっていてそこの全盛期を作ったんだ。その後を引き継いだ親父さんも長を務めてたんだが、霊災の時に亡くなってしまってな・・・後を引き継いだキキプは先祖が守り続けてきたシルバーバザーを自分の代で終わらせてしまうのが怖いのさ。

「機を誤って仕損じるは商人の恥。古に囚われて新を求めぬは商人の死。」

この言葉は爺さんが残した商人としての心得の一つ。キキプは爺さんの言葉を完全に忘れている。過去へのこだわりを捨てて常に新しい道を開拓してこそ商人の本質なのにな。だが今あいつに何を言っても聞く耳を持たない・・・・」

溜息にも似た吐息を、葉巻の煙と共に吐き出す。姿を見ることはできないがオスェルは昔を思い出しながら今の現状を憂いているのだろう。

「すまん・・・話が逸れたな。怪しまれないうちに本題に入ろうか。お前が聞きたいのはシルバーバザー行きの商人を襲う男のことだよな。以前スコーピオン交易所にしょっちゅう出入りしている怪しい斧術士連中がいてな。そん時は銅刃団の連中とつるんで外部商人相手にセコイ商売をしていたんだよ。態度も悪いもんだからみんな煙たがっていたんだが、銅刃団がらみじゃ誰も文句も言えねぇ。
ただいつの間にやら姿を消していたんで安心していたんだが、ちょっと前にまたフラッと現れたんだ。そん時のアイツは何を考えてるかわかない表情で不気味で恐ろしかったよ。あれは自暴自棄になった危険な奴の目をしていた。関わったら終わりだと思ってみんな無視してたんだが、銅刃団の連中に追い出されるとまた姿を見せなくなったんだよ。で、襲われた商人から話を聞いたら、襲ってきたやつはその斧術士だってんだ。
なんかブツブツと人の名前を呟きながら、金になりそうなものだけ奪ってどこかに消えていったらしい。そのあと銅刃団の連中に斧術士の退治をお願いしたんだが、アイツは危険すぎて関わりあいたくないからと言って取り合ってはもらえなかった。そればかりかシルバーバザーと商売したがる奴を危険を冒してまで守る必要はない。
なんて言いやがったんだ。俺もさすがにあきれたぜ。

まぁ銅刃団なんてもんは、蓋を開けてみりゃあの斧術士とかわらねえような傭兵崩れの集まりだ。ましてやロロリトの手下だから、シルバーバザー絡みじゃ当然かもしれん。だが商人が襲われるっていう噂がでていること自体、商売上よくねぇってことも分かってほしいんだがな。

オスェルは葉巻の火を消し、

商人が襲われるのは、今日のように雨が降っている時が多い。
視界が悪くなるし、雨音で音もかき消されてしまうからな。
そんな日を狙えば、出会えるかもしれない。
シルバーバザーへの往来予定日のリストをやるから、これを参考にしてくれ。

シルバーバザーを救ってくれとは言わない。どんなに取り繕っても、あそこはもうすでに終わっているんだ。
だがキキプはそうじゃない。いくらだって始められる。
だからせめてあいつだけでも、救ってやってくれ。

そう言い残し、オスェルの気配は足音と共に消えていった。