FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第十話 「華麗なる染色の世界」

「素晴らしい!! 素晴らしいわ!!」

そう言いながら、その変な人はつかつかと近寄ってくる。私はその変な人のあまりの迫力に身じろいでしまった。

「薫る戦いの残香、鉄と脂と血の臭い!実用一辺倒な防具であることを一切感じさせないその艶やかな色彩!冒険者でありながらオシャレに気を遣うその精神に私は脱帽よ!ちょっとこっちにいらっしゃい!」

その私の防具と似たような色彩の衣服に身を包んだ怪しい人は、こっちにこいといいながらも自分から近寄ってきて私の防具を無遠慮に触り始める。突然のことで逃げようと試みたが、思った以上に力が強くがっちりと掴まれて離れることができない。

「すごい・・・すごいわよこれ!  あなたっ!  これをどこで手に入れたのかしら!?」


興奮状態にある変な人はおもむろに顔をグイッと近づけてくる。近くで見ると思いのほか端正な顔立ちをした女性ではあるのだが、突然のことで気が動転していた私がそんなことに気が付くわけもなく、顔をいっぱいに背けながら「シルバーバザーの流れ品から手に入れた」ということを話す。

「嘘おっしゃいなぁっ!!  こんな芸術品が粗悪品と一緒にされているなんて信じられるものですかぁ!!」

なぜ私が問い詰められているのか意味不明だったが、とりあえず唾が飛んでくるので離れてほしい・・・私はその変な人に落ち着くよう説得し離れてもらうようお願いをした。

「失礼したわ・・・私興奮してしまうと見境がなくなってしまうのよね。」

私から離れた後「てへっ」と笑う変な人であったが、なにかこう・・・体の奥から湧き上がる寒気のようなザワツキが止まらない。私はなんとか落ち着いた変な人に改めてこの防具の入手経緯について説明した。変な人は私の説明を一通り聞くと、

「武具としての品質が素晴らしいだけでなく、こんなエレガンスな色彩センスをしているのに世の中に理解してもらえないなんて・・・どうかしてるわっ!!」

突然大声を上げる変な人。周りにいた人も驚いてこちらのことを奇異の目で見ている。周りからすれば同じ趣味の人同士が会話で盛り上がっているようにしか見えないだろうが。しかしこれから私は変な人がべた褒めしている防具を、地味な色への染色を依頼する予定なのだが・・・

(請けてもらえる気がしない・・・ただ普通に依頼しただけだと絶対に断られる。何か交換条件になるものは・・・・)

そういえばこの変な人は「人を探している」という話だった。私は変な人にそのことを聞いてみると、

 

「そうなの!  私はこの防具を作った職人のように、一流の技術を持ちながらも世の中に理解されずに埋もれてしまっている逸材を集めたくて旅をしているの。あなたこの職人のこと、些細なことでもいいから何か知らないかしら!?」

(よしこれだ・・・)

私は染色師に対してこの防具を作った職人についての情報を教える代わりに、防具の染色を依頼したい旨を伝える。

「えぇ・・・」

案の定ではあるが変な人は明らかに嫌そうな顔をする。私は「無理にとはいわない」と言って立ち去ろうとすると、

「ちょっと待ちなさいな!  まだやらないなんて言ってないでしょ!!  このせっかちさん!!!」

と目をカッと見開いて突然叫んだ。 驚きのあまり胃のあたりがしくしくと痛む。

「仕方がないわね・・・職人の情報と交換条件なら染色してあげてもいいけれど、手持ちの染料にあまりいい色がないのよね・・・」

そう言いながら、染色師は数種類の染料が入った缶を手前に並べた。

ピンク・イエロー・レッド・グリーン・・・・

なんというか・・・分かりやすいほど発色の強い染料ばかりで、茶色やグレーなどの落ち着いた色が全くない。今の色と対して変わらないような鮮やかな色ばかりを勧めてくる染色師の提案を、のらりくらりとかわしながらも無難な色を探していると、染色師の後ろに隠すように置かれた一つの缶を発見する。どうやらすごく落ち着きのあるブルーのようでこの中でいえばそれが一番地味な色のようだった。

私はその色を指定するや否や、変な人はすごく嫌そうな顔をして

「これはだめ・・・・・・・だって地味だもの」

と吐き捨ているように言う。それに続けて「こっちの色の方がいいわよ?」という提案に対して私は「その青だけでいい」と答えると、染色師は血相を変えて私に言い放った。

「ちょっと待ちなさい!  まさかすべての防具をこの地味な青で統一しようとか思ってないわよね?  地味なのは一億歩譲ったとしても、全部を同じ色にするなんてセンスのかけらも何もあったものじゃないわ!  染色師の私にそんな辱めを私せようなんて・・・・あなたひょっとして、私が屈辱に歪む顔をみて喜びを感じる人種の方なのかしら!?」

まるで私が変な人をいじめているかのように言いながら、地面にドサッと崩れ落ちる。

(あぁもう・・・・なんて面倒くさい・・・)

私はやっぱり「無理ならばいい」と一言いい、足早にその場を立ち去ろうとする。

「ちょっと! 誰が立ち去っていいといったぁ!!」

と、怒号にも似た大声で立ち去ろうとする私を呼び止める。近くにあった建物のガラスは染色師の放つ咆哮でビリビリと鳴動し、ベスパーベイ港の住人は我関せずとばかりに誰一人近寄ってこない。当の私はびっくりしすぎて、心臓の鼓動がなんかおかしくなっていた。

「芸術品を地味な色一色に染めてしまうなんて、こんな拷問ありえないわ・・・でもでも・・・この素晴らしい防具を分解してその技術の一端を垣間見るいいチャンスでもあるし、職人の居場所を聞けたら直接会いに行くことだってできる。あぁ・・・私の中で悪魔が甘い声で囁いているわ。どうする・・・・どうするの私っ!!」

本人は心の中で呟いていると思っているのかもしれないが、考えていることすべてが口から言葉となって漏れ出ていた。グギギギギ・・・・と歯を食いしばって眉間にしわを寄せる変な人の顔は、もはやこの世の者とは思えない恐ろしさがあった。早くしてもらえないかな・・・とそわそわしていると、

「いいわ・・・あなたの希望通りに染色し直してあげる。だから職人の情報を教えなさい・・・・」

と、まるで地獄の底から這い出る怪物のような声が響き渡った。私は恐怖に怯えながらも、リムサ・ロミンサにある武具を扱うギルドに所属している新進気鋭の職人が作ったもので、ギルドの名前はわからないがウルダハの剣術士ギルドが懇意にしているところだから行けばわかると思うと伝えた。

「そう・・・・・・じゃあ脱ぎなさい」

へっ?

突然のことで思考が止まる。その時なぜなのかはわからないが、私の人生はこれで終わるという確信めいた何かを感じ取った。

「あたりまえでしょ。あなたがそれを着たままで染色が出来るわけがないじゃないの。
それにそんな芸術品、神のセンスを持つ私でも染色には丸三日はかかるわよ。」

ちゃんと聞けば当たり前のことだった。ここで脱ぐのはどうかとも思ったがこれ以上話がこじれるのはごめんだ。私は言われるがままこの場で防具を脱ぎ、変な人に手渡した。ジロジロとなめまわすような視線で鳥肌が立つ。

「三日後のお昼にここに来なさい。一秒でも遅れたらこれ全部 「水玉模様」 にしてやるから・・・いいわね!!」

そう言い残して、私の防具を担ぎ上げてどこかへと消えていった。

(・・・寒い)

肌着一丁となった私を町の人はさっきとは違った目で私を見ている。吹きすさぶ風も視線も冷たい。おそらく同じ趣味の人同士がちょっとした趣向の違いで言い争いを初め、負けた私がみぐるみを剥がされた・・・とでも思っているのかもしれない。防具屋で何か簡単な服を買おうかとも思ったが、金がもったいないし荷物にもなるので我慢することにした。
宿屋に着くとあまりにも不審者過ぎる私を泊めてはもらえないのではないかと危惧したが、先ほどの一部始終を宿屋の主人も見ていたようで「お気の毒だったね」と一言いいながら、暖かく向かい入れてくれた上にローブを一着貸してくれた。歳をとったせいか、ちょっとした優しさが最近やたらと胸に染みる私だった。

染色作業が終わるまでの間、特にやることもないので暇つぶしにベスパーベイの周りを見て回ることにした。まずはベスパーベイの北側に向かうと、ほどなくして不滅隊が駐屯する関所があった。話を聞くとこの先にはウェストウィンドという岬があり、そこは現在帝国軍の前線基地となっているとこのことだった。現在ガレマール帝国とエオルゼア諸国は休戦状態にあるものの、帝国軍の軍事拠点がこれほど近くにあるというのは驚きである。目と鼻の先に敵対勢力の拠点があるにもかかわらず、十分な防衛力を発揮できるとは言えない関所があるだけ。さらに言えば、大型艦の入港可能なベスパーベイは軍事転用が十分に行える重要拠点であるはずなのに、ここまで無防備をさらしている状況に疑問を感じえない。

黒い噂というのは常にあるので「どれが真実でどれが嘘なのか」を見抜くことは大変難しいのだが、この状況を鑑みればロロリトが帝国と繋がっているというトンデモな噂もあながち間違いではないのかもしれない。この先へ進むには危険を感じたため、私は一度ベスパーベイへと戻り今度は足跡の谷へと向かった。

足跡の谷には、ウルダハの祖の国であったベラフディア国時代の遺跡群が広がっている。現在もその多くが水没しているが、建築物の遺構がたくさん存在しているここはザナラーン地方の歴史を知る上でも重要なところである。今まさにウルダハの呪術士ギルドによって遺跡調査がなされているようで、遺跡の周りにはローブを身にまとった呪術士らしき者達が遺跡に張り付いて発掘作業を行っているようだった。ただ不自然なほど銅刃団の護衛が多いことが気になる。重要な遺跡調査というのはわかるのだが、それにしても警備に張り付いている人数が大げさだ。銅刃団がいるとまた何か悪だくみでもしているのだろうかと勘繰ってしまうのだが、さすがにそれは考えすぎだろうか。

足跡の谷からベスパーベイへとは行かずに海岸線に出る木道を進んでいくと、古くからある漁村「クレセントコーブ」という集落がある。ここもシルバーバザーと同じく第七霊災の影響で漁業に壊滅的なダメージを受け、現在は近海で取れるわずかな魚とシルバーバザーと結んでいる定期便の収入のみでなんとか存続している。先のない漁業を捨て農業に転身しようとする動きもあるものの、海岸線沿いの限られた土地でどこまでできるかはわからない。

住人の話のよると、最近この集落に盗賊団が居ついてしまい好き勝手に暴れ回られて困っていらしい。生活もままならない集落を襲撃する理由に困るのではあるが、近くにあれだけ銅刃団がいるにもかかわらず盗賊退治に乗り出さないところを見ると、やはり何か繋がりがあるのではないかと疑ってしまう。

私の推測でしかないが、もしシルバーバザーが高級住宅地へと置き換わった場合、リムサ・ロミンサとの交易路を持つベスパーベイの有用性が格段に上がる。しかし決して広くはないベスパーベイ港に小型船舶の乗り入れが多くなってしまうと、大型船舶の停泊に支障をきたす恐れがあるため、クレセントコーヴを副港として再開発しベスパーベイ港の一部とすることで複合湾港として機能をさせることを狙っているのではないかと思う。だからシルバーバザーと同様、立ち退きを拒むクレセントコーヴに盗賊団を仕掛け、無条件での土地権の奪取を目論んでいるのではないのだろうか。


ちなみに、第七霊災で「潮目が大きく変わった」というのは、海流の大きな変化のことらしい。それまでアルデナート小大陸とバイルブランド島の間に広がる外洋は、基本的に穏やかで荒れることが少なかったため小型帆船での往来も充分に可能であった。
しかし霊災の影響による地殻変動により海域に暴風が吹き荒れるようになった結果、海流の流れが複雑化し難所へと変わってしまった。大型の動力船であればその海流を乗り切れるものの、小型帆船では強い海流と暴風によって簡単に流されてしまい、満足な航行ができなくなってしまったため、ルバーバザーにせよクレセントコーヴにせよ、遠洋での操業ができなくなってしまったのである。

私は足跡の谷を抜け、揚重用のウィンチが設置してあるホライズン・エッジと呼ばれる急坂を登りホライズンへと出た。ホライズンはさすがに最近できた拠点だけあって、スコーピオン交易所とはくらべものにならないほど施設が整っていた。中継拠点とはよくいったものでチョコボを利用した運送手段も大規模に整備され、ベスパーベイ港で荷揚げされる物品や、ザナラーン各地から運ばれてくる物品をここから直接輸出入できるように徹底的に整備されていた。

しかしながら、ここで荷捌きされる商品のほとんどはロロリト率いる「東アルデナート商会」と一部の限られた商人の荷物で、それ以外の商品についてはすべてスコーピオン交易所へと運ばれているとのことだ。
街の人の話では、東アルデナート商会では表向き高級商品である「宝石」と「衣類」の販売を行っているが、裏では武具の輸入や兵装の売買も行っているらしく取引先に関しても帳簿上で偽装隠蔽されているらしき正体不明の相手先が複数あり、その相手はガレマール帝国なのではないかと噂されているらしい。しかし東アルデナート商会の物品はすべて専門の荷捌人のみが行っているため真相はわからないとのことだった。

きょろきょろしながら町中を歩いていると、入り口の門付近で一人の銅刃団の服をきたララフェルの男が何かをしているのが見えた。

???

ここは物流の要所で人やチョコボなどの往来が多い。にもかかわらずララフェルの男はその街道上に横一列に隙間なく罠を置いている。確かに今の時間帯は荷捌きや受け入れの谷間の時間のようで往来はないが・・・

「よしっ!! 設置完了なのであります!!」

ララフェルの男はやり遂げたという表情で、意気揚々と持ち場へと戻っていく。

(これは・・・・だめなんじゃないのかなぁ・・・・・)

そう思いながら仕掛けられた罠を見ていると、

「おいっ! そこのお前!! なにやっているか!!」

と別の銅刃団の男が怒鳴り込んできた。どうやらその罠を仕掛けたのを自分と勘違いしているようだった。私は銅刃団の男に経緯を話すと、

「あちゃぁぁ・・・あの馬鹿者!  害獣駆除用に罠を仕掛けてこいとはいったが、門の前に設置するアホがどこにい・・・・あぁぁあそこにいたぁ!」


私は頭を抱えている銅刃団の男に事情を聞くと、ここ最近ホライズンで食料の盗難が頻発していて、犯人を捕まえるために罠を仕掛けるようにと指示したら、ララフェルの男は馬鹿正直に門の前に設置していたらしい。


「おおぉぉまぁぁえぇぇわぁぁぁっ!!!」

銅刃団の男は顔を真っ赤にしてララフェルの男に駆け寄り頭を殴ると、急ぎ戻ってきて罠の解除を始めた。慌てて作業しているものだから振動でガッチャンガッチャンと閉まるトラバサミにあたふたしながらも、チョコボの往来が来る前になんとか撤去を完了出来たようだ。
撤去を終えた2人の銅刃団の男は背中を合わせながらぐったりと門の前に座り込んでいる。

「きな臭い銅刃団にもいろんな奴がいるんだなぁ・・・」

と一人納得しながら、私はベスパーベイ港へと戻っていった。



3日後の昼、私は大きく深呼吸をし気合を入れて急ぎ待ち合わせ場所へと向かった。遅刻はしなかったと思うが「変な人」改め染色師の女性は既にその場で不機嫌そうに待っていた。染色師の座っているあたりを見渡してみたが防具らしきものは見当たらない。

(・・・・これはどういうことだろう?  もしかして本当に水玉に染色されてしまったのではないか・・・・?)

ビクビクしながらも私は染色師の女性に話しかけた。染色師は私の挨拶に反応することもなく目線を合わせようともしてくれない。私は改めて染色師に後から来たことについて謝罪すると、

「喉が渇いたわ。オレンジジュースが飲みたい」

とだけ話す。私は言葉の意味を理解するのにしばらくかかったが、仕方がなく近くのショップにてオレンジジュースを買い、染色師に渡す。

ズッッ!!!!!!

何だろうか・・・まるで手品を見ているかのように、長細いストローから吸われたはずのオレンジジュースは一瞬で無くなった。そして再び沈黙・・・我慢できずに私が話しかけると今度は、

「グリルドカープが食べたい」

と染色師はまた注文してくる。さすがの私も怒りが込み上げてきたが、防具が人質に取られている以上ここで突っぱねたらこれまでの辛抱が防具と共に泡と消えてしまう。ぐっと我慢しながら私は言われたとおりにショップでグリルドカープを買い、染色師に渡す。染色師は屈辱に震える私の顔をみて満足したのか、手渡したグリルドカープをペロッと一口で食べきると、

「防具はあそこに用意してるわ。あんなセンスのかけらもない防具なんて何の価値もないけれど、あなた程度にはお似合いかもね。」

と、つっけんどんに言い放つ。私はあの大きさの食べ物が「食べる」というより、飲むように口の中に消えていった瞬間を目の当たりにし、しばらくあっけにとられていた。ハッと我に返って、の防具の置いてあった場所へと向かい、手に取って仕上がりを確認した。そして私は感嘆のあまり思わず声を漏らす。

まるで新品のように塗り替えられた防具は、それまであった傷すら修復してしまったかのように消えていて、留め具から細かい部品のすべてにわたって一切の手抜きを感じられない仕上がりとなっていたのだ。

「礼なんていらないからね。私をこんなに辱めたのはあなたが初めてよ。もしそれでも礼がしたいのなら、リムサ・ロミンサにきて私に奉公することね。その時はじぃっっっっっっっっっくりと、手取り足取り夜も寝ないで「美」について教えてあげるわ。」

そう言いながら私に投げキッスをして、ちょうど入港してきたリムサ・ロミンサの定期便に向かって歩き去っていった。染色師の女性は終始変な人ではあったが、あれほどの技術を持っていることに憧れを抱いてしまう私であった。

私は早速その武具を装備し、ひとまずウルダハへと戻ることにした。