FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第十一話 「手紙の行方」

ホライズンの門を出ようとすると、先日出会った銅刃団のララフェルの男が門の前でうろうろとしながら何かブツブツと呟いている。関わりあいになると面倒だと思い、目を合わせないようにしながら脇をすり抜けようとする・・・が、

「あっ! あなたは冒険者さんでありますか!」

と呼び止められてしまう。無視するのも変なので仕方なしに応じると、

「私はこのホライズンを警備する銅刃団のフフルパと申します!  徒歩でウルダハへと行かれるのであればお願いがあるのです!  昔お世話になった連隊長さんにお手紙を出したのですが、一向にお返事が帰ってこないので心配なのであります。とっても、とおっっっても大事なお手紙だったので、無事に届いているかどうか心配で心配でいても立ってもいられないのです!

しかし、自分は命じられた責任ある任務を放棄するわけにはいかないのであります・・・・・。ですのでもしよろしければスコーピオン交易所へ寄って連隊長さんにお手紙届いているかを確認していただきたいのであります!」

スコーピオン交易所の名前を聞いて少し動揺したが、明確な用事を持って訪れる分には問題はないだろう。それにオスェルとも会って話がしたい。私はフフルパの依頼を了承し、その連隊長の名前を確認したうえで一路スコーピオン交易所を目指した。

ちなみに彼が受けている命令は「何もせずここに立っていろ」という命令だった。

私はスコーピオン交易所に着くと、さっそく門の前に立つ銅刃団の男に連隊長の居場所を聞いた。しかし銅刃団の男は訝しげな表情をしながら「ここにはもういない」とそっけなく返してくる。私は続けて「どこ行けば会えるか」を聞いたが「俺にはわからない」としか答えてもらえなかった。

(ひょっとして配属が変更になって、どこか違う地に移動してしまったのだろうか?  そうだ、オスェルなら何か知っているかもしれない・・・)

そう思って交易所内を探し始めた時、

「もし・・・あなたもしかして、レオフリック連隊長さんのことお探しですか?」

と、一人の女性が私を呼び止めた。私は振り向き女性の格好を見るとどうやら行商人のようだ。私がうなずくと、女性は続けて「それはホライズンの銅刃団の方の依頼で?」と聞いていた。女性に詳しく話を聞くと、彼女がフフルパから手紙を預かり行商のついでに運んできたのだが、スコーピオン交易所にレオフリック連隊長はおらず銅刃団の人に聞いても行方が分からないために困っていたらしい。

(ここにいないとなると、私もどうしたらいいか・・・ここは手紙を女性から預かって、もう一度ホライズンへと戻ったほうがいいのでは。)

と思案していたところに、

「おまえ、斧術士の男を倒した奴じゃないか?」

と言いながら、一人の銅刃団の男が近寄ってきた。

(やばい・・・・バレたか・・・・・)

私はその場に凍り付く。私は無言のまま立っていると、ザッ、ザッ、ザッ、と大きな足音を立てながら銅刃団の男は近づいてきた。

(どうする・・・逃げるか!?  しかし、逃げたら逃げたで余計怪しまれるだけだ・・・ならば・・・)

私は覚悟を決め、その場で立っていると・・・

「レオフリック連隊長ならここにはいねぇよ、いや (元) 連隊長か。つい先日ロストホープ流民街ってとこに飛ばされたんだよ。」

と話しかけてくる。男はキョロキョロと周りを確認した後「ついて来い」と一言いうと、すたすたと見張り台のほうに向かっていった。見張り台に上がると見張りをしていた男に向かって「交代の時間だ」と声をかけ、見張りを交代した。

「ここなら誰にも聞かれねぇな。お前さんも気の毒だな、せっかく仕留めたのによ。」

(気の毒?  どういうことだ?)

私は銅刃団の男の言っている意味が理解できなかった。男は続けて、

「あの斧術士の男は結局捕まえられなかったんだよ」

私は「どういうことだ?」と問いただすと、銅刃団の男は私が斧術士の男と対峙していた時のことを話し始めた。

男は私が斧術士の男と闘う一部始終と、その後銅刃団の男と交渉しているところを物陰から伺っていた。その時、私と話していた銅刃団の男こそ「レオフリック連隊長」本人であり、自分たちに周りで待機しているよう指示したのも連隊長本人だった。
私が連隊長から金を受け取り、その場から離れていった後に合流した銅刃団の男に向かって、

「この斧術士の男は逃がす。そのことを黙っていてほしい」

と、口止め料を手渡してきた。
不審には思ったが、そもそも駒に過ぎない下っ端に作戦のすべては伝えられないため、それ以上のことはわからない。
レオフリック連隊長は銅刃団の男達に金を渡した後、倒れていた斧術士を荷馬車に乗せてどこかへと消えたまま、結局スコーピオン交易所には戻ってこなかった。
その後スコーピオン交易所に伝令が来て、レオフリック連隊長は「強盗犯を捕まえられなかった」という理由で降格処分の上、ロストホープ貧民街の警備に異動する旨の通達があった。

とのことだった。

「せっかく苦労して倒したのになぁ。元連隊長のせいで苦労も水の泡だな。いったい何を考えているのかわからねぇぜ。」

と銅刃団の男は悔しそうに話すのと対照的に、私は胸をなでおろしていた。どうやらシルバーバザーとの関係を疑って声をかけられたわけではないらしい。しかしながら、改めて考えてみるとレオフリックの行動には疑問が残る。私は思い切ってその銅刃団の男に、あの斧術士が所属していた「最強戦斧破砕軍団」と銅刃団の関係を聞いてみた。
男の話によると、

ここら辺であの斧術士集団と手を組んで小金を稼いでいた銅刃団の連中は、ある日突然に処分命令が下って全員僻地へと飛ばされた。今ここにいる銅刃団の連中の多くは、他の地から廻されてきた補充要因のため、斧術士集団のことを知らない。

その後もこの辺りをうろついていた斧術士軍団の連中は、上からの命令により捕縛されたが、なぜかこのリーダー格の男だけは解放する旨の命令があり、野に放されていた。
そいつも、時折ここに現れては物乞い紛いに交易品に手を付けるので、いつも追い払っていた。
斧術士の排除を進言してしばらくたったある日、やっと命令がおりたので連隊長と討伐に出たら、お前が先に闘っていた。

とのことだった。
正直この話が信用に値するかどうか分からないが、この銅刃団の男からは不思議と表裏を感じないのも事実。私は恐る恐るシルバーバザーの件も聞いてみたが、男はなんの疑いもなくペラペラとしゃべりはじめた。

シルバーバザー行きの交易便には保険が掛けられている。シルバーバザー側はその保険金目当てで斧術士を雇い、わざと襲わせているという情報が入っていて、シルバーバザーの間者がスコーピオン交易所にいないか警戒していた。

シルバーバザーを擁護した人を商売できないようにしたという話については、警戒中にシルバーバザーに盗品を持ち込んで売りさばこうとしていた闇商人を見つけたのでボコボコにした。

とのことだった。
やはり噂話だけで物事を判断してしまうのは大変危険だと実感する。
だが、それでもこの銅刃団の男はやけに口が軽すぎる。私はひょっとして間違った情報を刷り込まれているのではと勘繰った。
私は銅刃団の男に、なぜこんなにも色々と情報をくれるのか聞いてみた。すると男は少し照れながら、

「俺は冒険者にとって常に味方でありたいんだよ。」

とまっすぐな目で答えた。

「実は俺、孤児だったんだ。食うもんを求めていろんなところを転々としながら、その日暮らしの毎日を送っていたんだよ。生きる希望もクソもあったもんじゃない。明日は死んでしまうかもしれないという恐怖しかない日々には、絶望しかなかった。

その頃は人のものを奪うことに何の悪気も感じ無なかった。だって盗らなきゃこっちが死んじまうんだ。何不自由もなくのうのうと生きていられる奴らのことが憎くてしょうがなくて、そいつらから奪うということは自分にとって正義にも等しかったんだ。

ある時、俺はやばい連中の商売品を盗んじまってな。すぐにとっ捕まって、死んじまうんじゃないかってほど袋叩きにされた後にアジトに監禁された。あいつらは俺が苦しみながら死んでいく様を酒の肴にしやがったんだ。
なんて俺のクソ人生にお似合いな死に様なんだろうかって強がってみたけど、いざ死を目の前にするとやっぱり悲しくてな。自分の人生を呪って泣いている時にその人は現れたんだ。

正直、別に俺のことを助けに来てくれたわけじゃねぇのはわかっている。それでも、たった一人で複数人を相手に蹴散らしていく冒険者の後姿を見た時、俺はさっきと違う涙を流していた。こんな自分にも神様は救いの手を差し伸べてくれたってな。俺をついでで助けてくれた冒険者は、なぜか孤児だった俺のことを引き取ってくれた。その後は冒険者と一緒にいろんなところを回ったよ。大変だったけど、毎日が充実感に溢れていてすげぇ楽しかった。そしてそんな毎日がずっと続くかと思った。」

銅刃団の男は、ふっとうつむく。

「あっけなかった・・・・俺を引き取ってくれた冒険者は、依頼がらみで恨みを買ったやつに騙されて後ろから襲われてな。あっけなく死んじまったよ・・・・本当にあっけなく・・・・な。

おれは別れの言葉すら言えなかった。いくら強くたって人であることには違わねぇ。死んじまう時は誰だって死ぬんだよ。思い返してみれば、その冒険者もまた孤独だったんだな。
俺は冒険者にとって、寂しさを癒すための道具に過ぎなかったのかもしれねぇ。
けどよ・・・・それでも・・・・命を救われたこと、生きる意味を教えてくれた冒険者には感謝しているんだ。
その後、俺も冒険者になることを決意したんだが、やってみると俺には向いてなかったみたいでな。不器用なのが祟って依頼を中々こなすことができなくて落ち込んでいた。そんな時に銅刃団に入らないかって声をかけてもらってな。守る側であれば俺でもできると思って銅刃団に入ったんだよ。」

男は苦笑し、

「しかし入ってみたら入ってみたで銅刃団ってのは糞みたいな連中ばかりでな。自分のことしか考えてねぇような奴ばかりか、それ以上に雇い主も真っ黒だったよ。そんでもやっぱり、何かを守りたいと思っている奴らも少なからずいる。俺はそいつらと出会って新しい傭兵団を作りたいと思ってるんだよ。本当の意味で、救いを求めている奴を守れるような傭兵団をね。

気まぐれでも俺を助けてくれた冒険者のように。

俺もまた「自分自身の人生のため」に冒険者の手助けをできればいいと思ってるんだ。
おっと・・・話が大分逸れちまったな。そういうことで、お前みたいに単純でわかりやすい冒険者に会っちまうと、思わずお節介しちまいたくなるんだよ。なんだか同じにおいもするしな!」

銅刃団の男は、鼻を掻きながら、照れ隠しをするように目線を泳がせる。やはり似たもの同士というのは、どこか惹き合うのだろうか。私もまた同じ苦しみを味わってきた。
不安と絶望の間でもがき苦しみ、出口の見えない暗闇をさ迷い歩いてきた。そして、私もある人に助けられて、今を生きている。

私は「情報をくれてありがとう」という言葉とともに、情報料としていくらかの金を渡すと、銅刃団の男は嬉しそうに、

「俺にもお得意さまってやつができたかな! なんだってしゃべるからいつだって聞きにこい!」

と言いながら笑っていた。こういう人には長生きしてほしいと思うのだが、それを世が許さないのは「神」がへそ曲がりだからだろうか?



私は行商人の女性の元に戻り、レオフリック元連隊長宛ての手紙を受け取る。
そして、一路ロストホープ貧民街へと向かった。斧術士を逃したという腹立たしさより、何故レオフリックは斥候の身でありながら、危険を顧みず斧術士を逃す必要があったのか。頭の中で考えていても、真意を得ることはできない。居場所がわかるならば、そこへと行くだけだ。私は好奇に突き動かされるように足早になっていた。