FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第十二話 「貧民街の連隊長」

ロストホープ流民街は中央ザナラーン北東部、ブラックブッシュ停留所の北側にある集落だ。ザナラーン中央部には「ストーンズスロー貧民窟」など、たくさんの貧民街が存在する。それは、中央ザナラーンには水辺が多く存在することと、自然洞窟など身を隠せるところがたくさんあるというのが一つの要因だ。

 

「乾きの大地」とも呼ばれるザナラーン地域にとって、熱い陽の光や、突如として吹き荒れる砂嵐から身を守るということ、生きるために必要な水を確保すること、の二つが容易に手に入る中央ザナラーンは、金を持たない難民にとっては理想の土地であった。しかしながら、貧民街が地域の治安を乱す盗賊団の温床ともなっているらしく、貧民街には治安維持と監視を目的として、銅刃団が派遣されていることも少なくない。
ただ、貧民街に派遣される銅刃団の多くは、任務に失敗した者や、犯罪に手を染めた者のため、また新たな犯罪に加担する者や、自身も盗賊に身を落とすものも少なくないという。


ロストホープ流民街にたどり着き、私は集落を見渡した。

なんだか懐かしいな・・・・

そこは、私が旅立ちを決意した集落とすごく似ていた。ガレマール帝国のアラミゴ侵攻、第七霊災による環境破壊により、家や土地、そして家族を失った者だけではなく、商売に失敗してウルダハにいられなくなった者、様々な理由で身障を抱えた者、白痴と差別され捨てられた孤児や、奴隷商人から逃げ出してきた者など、この世の暗部に晒されたものすべて集まり、溜まる場所となっている事実は否めない。

人々は当たり前の暮らしを諦め、ただただ生きることだけに執着している。ここには夢も、希望も、何一つない。それほど「心の死」にとても近いところなのである。

私は集落の中で銅刃団の男を探し始めると、ほどなくして見つかった。男は顔当ても頭巾もかぶっておらず、顔が露わになっていたが、あの時見た口元とあごの感じが同じように見えた。私はその男に「お前がレオフリックか?」と聞いた。男は私を見て驚いたものの、一瞬何か考え込んだ後に、やれやれといった感じで私に答える。

「なんだお前か。格好が普通すぎるから誰だか分らなかったぜ。まったく・・・・さてはスコーピオン交易所で何かを聞いたのかい? 「行くな」と忠告したのに、人の言うことをきかない冒険者だな。そうだよ、わたしがレオフリック “元” 連隊長さ。」

と、あきらめ顔でハハッと笑った。私は矢継ぎ早に斧術士を逃がした件を聞こうとするが、レオフリックは私の言葉を遮ると、

「まぁ立ち話もなんだ。ここじゃ俺たちの話を盗み聞きするような連中はいないから、そこでゆっくりと話そうじゃないか。」

と、火が焚かれているところに案内された。レオフリックが座ると近くにいたもう一人の銅刃団の女性が、火にかけていた鍋から温まった白湯を注いだ器を差し出す。
一瞬躊躇したが、その白湯を飲むと疲れた体にじわっと染みわり、高ぶった気が落ち着いていくのが分かる。私はその銅刃団の女性が気になってしまいチラチラと盗み見していると、レオフリックは困った顔をしながら、

「あぁ、こいつも別のところでやらかしたらしくてな。俺が来る前からここに赴任していたんだ。女だてらにこんなところに飛ばされるんじゃ、相当なことをやっちまったんだろうけどな。聞いてもはぐらかされるだけで教えてくれねぇんだよ。」

レオフリックは銅刃団の女性の顔を見ながらそう話すと、女性はバツが悪そうに顔を背けた。

「まぁ! 俺はこう見えてもフェミニストだからな!!しゃべりたくもねぇことを無理やり吐かせることなんざしないさ。女ってぇのは人には言えない秘密を二つ三つ持っているほうが妖艶さが増すってもんだしな!」

ハハッ!! とレオフリックは高笑いをする。この銅刃団の女性が信用に値するかどうかはわからないが、レオフリックが気を許しているのなら、私も気にする必要はないのだろう。

「さぁて、それじゃあ順を追って話そうか。まずはお前と別れたあたりからかな。あの後周りにいた銅刃団の連中に口止め料を払って、俺は転がっていた貨車に斧術士の男を乗っけてシルバーバザーに運んだんだ。

そうだ! そん時にキキプには説明しておいたよ。何だかハイカラな格好をした男が襲撃者を倒したってことをね。ロロリトの目があるから挨拶には来られないって説明したら・・・・・まぁしぶしぶ納得していたよ。

「会うことがあれば伝えておいてほしい、本当にありがとう」

だとさ。そして俺は斧術士の男をシルバーバザーで箱詰めして、船でクレセントコーヴに運んで、ベスパーベイからリムサ・ロミンサへと「荷物」として出荷したのさ。その後すぐに「斧術士の男を取り逃がした責任」を取らされる羽目になってね。ここに飛ばされたんだよ。」

男はなんの悪びれもせずペラペラと顛末を語る。あの時も感じたが、やはりどこか信用の置けないところがある。この話を信用すべきかどうかすらさえ、判断ができない。
正直なところ、斧術士のその後などにはまったく興味はないが、「私は何をするために利用されたのか」それだけを知りたかった。

「あの斧術士の正体だって?・・・んん・・まぁ・・・・いいか。今までの話もこれからの話も、信じるかどうかはお前次第だ。信じようが、信じまいが、お前には何の関係も影響もない話だからな。ただ、俺にとっては命につながる重要な話だ。それだけを心して聞いてほしい。

あの男の所属する「最強戦斧破砕軍団」ってのは、元々リムサ・ロミンサの海賊の一派が興した傭兵団だ。その一部の落ちこぼれ共がウルダハに流れてきて、色々と問題を起こし始めたんだ。前に言ったよな。俺はシルバーバザーの取り巻く環境の情報を方々に流していたってこと。その情報は遠くリムサ・ロミンサの耳に入ることになった。
ウルダハとリムサ・ロミンサは、今こそガレマール帝国打倒で団結しているように見えるが、その前まではお互いを牽制しあう仲だったんだよ。まぁ、交易を除いてだがな。リムサ・ロミンサ出身の者たちがウルダハで問題を起こしている事態は、リムサ・ロミンサにとっていい話ではない。ウルダハに弱みを握られてしまえば現状維持している「対等関係」が破たんしてしまう危険性があるからな。
しかし、リムサ・ロミンサ側からそいつらを討伐にウルダハに向かうとなると、国家間の問題となりうる。そこで、リムサ・ロミンサ側は商売で強いパイプを持っている東アルデナード商会を通じて、ロロリトに対して秘密裏に事態収拾の協力要請をしたんだ。新たな独占交易権を交換条件としてな。
ロロリトは私兵集団である銅刃団を使い、その斧術士共を排除しようとしたが、あろうことか一部の銅刃団の者が斧術士の集団とつるんで悪金を稼いでいることを知り、斧術士達を捕縛すると共に、銅刃団内部の粛清も行ったんだ。だが、せっかく捕まえた斧術士達の内、リーダー格だった男を解放するようにと命令が下りてきた。
真意は不明、おそらくは使い出のある問題児達をただ返すのがもったいなくなって、リムサ・ロミンサに送る前にひと暴れさせようとロロリトは企んだのだろう。シルバーバザーの件もあるしな。ほどなくして、用無しとなった斧術士に対しても討伐令が出て、私はその男を捕縛後リムサ・ロミンサに送り返したということさ。」

レオフリックの話には腑に落ちない点がある。それは、なぜ銅刃団の連中に口止め料を払ってまでリムサ・ロミンサへの移送を隠したのか。そしてなぜ「斧術士の男を取り逃がした責任」を取らされて降格の上ここに左遷されたのか。

「それは斧術士集団を捕縛した時点で「すべて」リムサ・ロミンサに強制送還されたことになっていたからだ。わかるか? 「ウルダハに斧術士集団はいない」・・・・ということだ。実は斧術士集団を捕縛した時点で、表向きには斧術士のリーダー格の男は「死亡した」ことになっていた。リムサ・ロミンサの条件では「やむ負えない場合は殺しても可」とのことだったからな。

だから存在してはいけないリーダー格の斧術士を秘密裏に討伐し、初めから「無かった」ものにしなければならない。幸いあの時スコーピオン交易所にいた銅刃団の連中は別のところから回されてきた奴ばかりだったから、斧術士集団を知るものは少なく、一部知っている奴らも金と待遇で口封じさせられていたから、あの斧術士と銅刃団の関係を疑うものはいなかった。」

私は「なぜすべての銅刃団の者を入れ替えなかったのか」と聞いてみる。

「いっぺんにすべての銅刃団の兵士が入れ替わったら、さすがに荷捌き人たちに怪しまれるだろう?だから一部の兵だけを残して、あとの兵は「研修」という名目で新兵を配置させたのさ。」

と、男は答えた。

そうか、だからスコーピオン交易所であった口の軽い男はいろいろと情報を持っていたのか。金で口封じ・・・・とはいかなかったようだが。

私の中で新たな疑問が浮かぶ。なぜ討伐令が下っていたのにも関わらず、何故斧術士の男をリムサ・ロミンサに送り返したのか?

それは、王党派側の理由でな。ロロリトが行っている悪事の一端を掴むために、我々もあの男を利用しようとしたのさ。ロロリトってのは稀代の商人と言われるほどの商才と同じくらいに、悪事に対しても頭が回るんだ。根回しというか、用意周到というか、行動は目立つくらい大胆な癖に、絶対に裏をつかませねぇんだよ。何か事が起こったとしても結局はいつも通りな黒い噂が出るだけで、それを証明できるほどの核心にはいつもたどり着けない。
トカゲのしっぽきりってのがあるだろ? 悪事を追ってもいつもどこかで途切れてしまう。日頃の行いの悪い、銅刃団という「しっぽ」をいっぱい持っているだけあって、結局は「銅刃団の一部が独断でやったこと」で片づけられてしまうんだよ。

ただ今回の件に限っては違う。我々王党派とリムサ・ロミンサにある斧術士ギルドとは協力関係にあってな。こちらで問題を起こしていた「最強戦斧破砕軍団」はリムサ・ロミンサでも色々とやらかしているらしくて、生きているのならば身柄を引き渡してほしいとの連絡があったんだ。こちらとしても願ってもない話だったんでな、斧術士の男をリムサ・ロミンサのギルドへと送り、今回の件のことも含めて吐かせようとしてるんだよ。
で、斧術士をリムサ・ロミンサに送った後、スコーピオン交易所に戻る途中に、俺はあえなく斧術士を取り逃がした罪でつかまり、ここに左遷ってわけさ。やっぱり金ごときで口は封じれねぇな。」

レオフリックは「ハハハッ」と呑気に笑う。

「捕まった時は心底焦ったが、リムサ・ロミンサに送ったことはバレてはいないようでほっとしたよ。まぁシルバーバザーの連中は銅刃団には絶対に協力しねぇから心配はしてなかったんだが。ただ、どこからのタレこみかは知らねぇが、俺が「情にほだされて逃がした」ということになっているらしい。
そして、この流民街へ飛ばされた、ところまではいいが・・・実は一番厄介な問題があってな・・・・」

レオフリックはそう言うと、顔から笑顔が消え真剣な表情になる。

「ここ最近、ロストホープ周辺で襲撃被害が多発しているんだ。名目上、その襲撃者からここの住人守るために俺が派遣されてきたことになっている。だが、銅刃団がこの集落を守る必要が本当にあると思うかい?
銅刃団は所詮ロロリトの私兵集団だ。ロロリトにとってメリットが無ければ守る必要はない。ということは、ここに何かしらのメリットが存在するわけだ。

それが俺がここに飛ばされた理由だよ。トカゲのしっぽきりってやつだ。

確かに斧術士の男をリムサ・ロミンサに「生きたまま」送ったことはバレちゃいねえが、逃したこと自体がロロリトにとっちゃ計算外だったんだろう。今も躍起になって探させているようだが、まぁ見つかるはずもねぇよな。ここロストホープ産の「夢想花」を使った「ソムヌス香」をたっぷりと嗅がせて昏睡状態で出荷してるから、船旅の道中でもまず起きることはねぇ。
俺も取り調べん時はタレこみに乗っかって「斧術士の境遇が哀れになって逃がしてやった。もし見つかったら銅刃団として雇ってやってほしい」としか喋ってねぇしな。本当はすぐにでも俺を「処分」したかったんだろうが、“元”とはいえ、連隊長の立場にあったものが、強盗一人取り逃がしたぐらいで死刑となっちゃあ、他の者への士気へと関わる。最近じゃしっぽを切り過ぎて「トカゲのしっぽ」が不足気味だからな。
だから、俺を襲撃にあっている貧民街の警備に回したんだよ。警備中に襲われて死んでしまっても、だれからも疑われない。まぁそこまではいいんだが、この集落はを守るにはさすがに人数が少なくてな・・・。流民街の奴らも別に死んでもいいと思っているような連中ばかりだから話にならんし、素人に武器持たせて立たせても的にしかならんしな。
だが、このまま大人数で襲撃されたらさすがの俺でもやばい。そこで折り入って冒険者のお前に依頼したいことがあるんだ。」

真剣な表情をしていたレオフリックの表情は、不敵な笑みへと変わる。

「あんた、そいつらのアジトにいって盗賊団の頭目を退治してきてくれないか?」

 
私は突然の依頼に驚くものの「お前に義理立てする理由は無い」と断った。しかしレオフリックは「まぁせっかくだから話だけは聞いてくれよ」と食い下がる。

「ブラックブッシュ停留所の南東側、クラッチ狭間と呼ばれるところに「キヴロン別宅跡」と呼ばれる廃屋があるんだ。そこに、ここを襲ってくる盗賊団の根城がある。

キヴロンって知っているか?・・・・って、そういやお前はここいらのもんじゃなかったな。
エオランデ=キヴロンっていう人は、第七霊災前までフロンデール薬学院理事長を務めていて、砂蠍衆の一角までになった大人物だ。エオランデ=ギヴロン女史は第七霊災の時に死亡してしまったんだが、そこに住み着いた盗賊団の頭目は自分のことを正統なる後継者として「サー・キヴロン男爵III世」と名乗っている。
だがそいつはキヴロン家とは血縁もなにも関係もない、ただこの跡地に住み着いただけの小悪党だ。そもそもⅢ世の前に“男爵”をつけること自体おかしいことに気が付いていない。元々キヴロン別宅があったところに掘立小屋を一つ建てて、貴族ごっこして遊んでいる迷惑な奴らなんだよ。

でもな、生意気にも相手には結構な数がいる。
そんなところにお前ひとりで乗り込んでいって、全部倒してこいとは言うつもりはないよ。それはお前に「死んで来い」って言っているようなもんだ。実は今、王党派の仲間と連絡を取っていて、盗賊団の殲滅戦の為に人数を揃えているんだ。本当は俺がそいつらと行動する予定だったんだが、やはり銅刃団の男が他の兵隊と一緒に動いているところを見られるとさすがにまずいと思っていてな。

ちょうどそんな時に、お前が俺を訪ねてきた。「俺ってツイてる!」 と思ったぜ!」

ハハハッ、とレオフリックは陽気に笑うと「相変わらずタイミングが神がかってるな!」と言いながら私の肩をバンバンと叩く。

「まぁ強制はしないさ。元々はお前がいないことを前提として仕組んでいた作戦だし、大きな危険が伴うことには変わりはない。確かに、お前が倒した斧術士を「逃した」俺に建てる義理なんてものはないのはわかっている。ただ、ここで俺が死んでしまったらロロリトの悪事を暴くことができなくなるし、バレでもしたら王党派の立場もさらに危うくなる。この討伐戦は、国が変わってしまうかもしれない「大きな戦い」でもあるんだ。

俺はその役目を、冒険者のお前に託したい。
信用に値する、お前にな。」

レオフリックは本当に卑怯な男だ。ここで王党派とウルダハの将来を俺にゆだねようとしてくる。たとえこの依頼を断ったとしても、自分にかかる火の粉はない。
もしあるとするなら私自身の心にのみ「作戦が失敗した」時の後悔と罪悪感が残り続けるだけだ。
乗り掛かった舟・・・ではなく、無理やり船に乗せられた、というべきか。

「実はここの集落にはその盗賊団と内通している奴がいてな。俺はそいつを「買収」したんだ。」

「買収」と聞いて、話の展開が雲行きが一気に怪しくなる。

「まぁそんな渋い顔をするなよ。俺だってそいつのすべてを信用しているわけじゃねぇ。こちらとしても情報が洩れている可能性も考えているし、そうなったときのための保険ももちろん用意している。
とにかくお前は俺の代わりに指揮を執ってくれさえすればいい。実質盗賊団の連中と戦うのは仲間の連中だ。それに俺はお前の闘いを間近で見ていた男だ。だからこそ自信をもって言える。お前なら確実にやってくれると。

どうだい?  やってくれるかい?」

レオフリックはまっすぐな目で俺を見る。その表情からはそれまで感じていた胡散臭さは感じられない。それでも私は、即答はできなかった。

そもそも、自分にこの件は何の関係もない。私としては斧術士の男の件が分かればそれでいいのだ。だが・・・レオフリックの置かれている立場も分かる。この殲滅戦の最中にレオフリックの存在がバレてしまえば、銅刃団に王党派が間者を送っていたことが発覚してしまい、王党派の立場が一気に不利になるだろう。万が一にも、そんなヘマをする男ではないとはわかるのだが・・・世の中「絶対」という保証はどこにもない。

(仕方がない・・・少しでもこの人に関わってしまったのが運の尽きだと思ってあきらめよう)

私はゆっくりとうなずいて、盗賊団殲滅戦の依頼を受けた。

「そうか! やってくれるか!!」

レオフリックは満面の笑みを浮かべながら「報酬は期待しろよ! なんせ王党派の後ろ盾があるからな!」と弾んだ声で言った。


「作戦はこうだ。この盗賊団は延べ30人からなる大きい集団だ。通常正面から乗り込んでいっては消耗戦の上、最悪キヴロン男爵に逃げられて終わりだ。そこで、盗賊団が作戦行動中の手薄な時を狙う。
間者の情報だと、近々ロストホープを襲いに来る計画があるらしい。狙いはここの住民をさらってアマルジャ族へと売り飛ばすことにあるようだ。アマルジャの奴らが貧民をさらって何をしているのかについて詳しくはわからねぇが、結構な金になると聞いたことがある。

お前たちはその襲撃に合わせて、キヴロン邸に急襲をかけてもらう。なに、ロストホープの連中は事前に避難させておくさ。キヴロン邸跡は見晴らしのいい高台にあるから、気が付かれずに忍び込もうとしても隠れるところがない。

それに見張りが何人も立っていて生意気にも警備は強固だ。たがその見張りについてはこちらの間者に一服盛ってもらう予定だ。遅効性の睡眠薬入りの酒をね。こっちにはとびっきりの夢想花があるからな。効果は折り紙つきだぜ。そして見張りが眠った隙を狙って、一気に急襲をかけるんだ。

この盗賊団は、頭目である「サー・キヴロン男爵III世」を名乗る男によって組織されている。だからお前はそいつだけを狙ってくれ。他の雑魚連中はこちらの応援部隊が相手をする。応援部隊っつっても、みんなウルダハ随一の兵どもよ。安心してくれてかまわねぇ。それにあんたがいれば、こんな作戦あっけなく終わるよ。

レオフリックは何の根拠もなく私を信用している。こういうところがいまだ信用できない。しかし、突然バツの悪そうな顔をしたかと思うと、少し言い淀みながら、

「ただ・・ちぃっとばかし問題があってな・・・誰もサー・キヴロン男爵Ⅲ世の顔を見たことがないんだ。」