FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第十四話 「成功の表と裏」

ブラックブッシュ停留所は、中央ザナラーン北部中央にある鉱石の精錬施設を中心とした集落だ。元々、古代アラグ帝国時代に築かれたとされる「アラグ陽道」と「アラグ星道」の二つの街道が交わる交通の要所として、キャンプ・ブラックブッシュという銅刃団の拠点となっていた。

しかし第七霊災後のエーテライト網再編と、復興需要による鉱山資源の増産に対応するため、アマジナ鉱山鉄道社により鉱山鉄道の敷設と、鉱石に関連する製錬施設が拡充され、今の形となった。現在はナナワ銀山方面とウルダハ操車庫方面とを結ぶ鉱山鉄道の停車所となっているため、ブラックブッシュ停留所と呼ばれている。

ブラックブッシュは鉱山鉄道で結ばれているナナワ銀山の他にも、アマジナ鉱山社が最近採掘権を獲得したカッパーベル銅山からでる鉱石も精練の為に搬入されている。

ブラックブッシュ停留所は、ホライズンのような商人による交易拠点ではなく、鉱山開発による資源開発が中心の町であり、現在はアマジナ鉱山社により管理運営されているため、アマジナ鉱山社の自警組織である「鉄灯団」により警備されている。
しかしながら、元は銅刃団の拠点であったため、銅刃団も警備に加わっている。


この辺りには盗賊団をはじめ、多くの犯罪集団の根城があるとされている。
貴重な鉱石運搬の護衛として鉄灯団の人員が割かれ、ブラックブッシュ停留所の衛兵が手薄になることから守るため、銅刃団の協力は不可欠となっている。
ただ、同じ集落を協力して警備している二つの組織は、実は交流は少なくあまり仲もいいわけではない。


アマジナ鉱山社にとって最大の鉱山であるナナモ銀山は表層の鉱脈はほぼ掘り尽くされており、現在はより深い層の再開発が進められている。
深層の採掘は表層の採掘以上に多大な労力と危険が伴う作業のため、人手の欲しいアマジナ鉱山社は貧民達を工夫として雇い、鉱山発掘や鉱石運搬に従事させている。
ブラックブッシュ停留所にほど近いロストホープ流民街の住人もまた、ここで働いている割合が多い。
鉱山開発の仕事は常に危険と隣り合わせの作業であるため、使い捨てにできる貧民達はより危険度の高い仕事に回される。結果、落盤や有毒ガスの発生、更には怪我や粉塵による健康被害など、労働災害によって工夫の入れ替わりが激しく、慢性的に人手不足の状態となっている。

 

私はブラックブッシュ停留所からホライズンへと向かう道中、途中にある酒場「コッファー&コフィン」へと立ち寄った。


コッファー&コフィンの主人とは、以前に食材の採取の依頼を受けて以来の顔見知りである。
ここ最近はご無沙汰であったし、腹も減っているので寄っていくことにした。

入口へと向かうと、酒場であるはずの周りに、貧民の子供たちが集まっている。


私は不思議に思いながらも中に入ると、小奇麗な格好をした一人の青年が、傭兵と思われる男と何か揉めていた。

食べ物と酒を注文しつつ、会話の内容を盗み聞きしていると、青年はどうやら何かの護衛するため傭兵を募集していたらしい。しかし、定員がいっぱいになったため募集を締め切ったことを傭兵らしき男に説明しているらしかったが、男はせっかく来たのに断られたことに腹を立てているようだった。
押し問答の末、剣呑な雰囲気が漂い始めていた時、入り口から銅刃団の連中がドカドカと入り込んできて、青年に声をかけた。


青年に絡んでいた傭兵らしき男は、銅刃団の連中に睨まれると、臆したのか舌打ちしながら乱暴に入り口を開け放って酒場を出て行った。
銅刃団の連中が青年に何かを話すと、青年は興奮したように喜んでいた。
青年は銅刃団の連中と酒場を出ようとしたが、何か思いついたのか、銅刃団の連中を先に行かせる。
そして周りをキョロキョロと見渡したかと思うと、私に向かって声をかけてきた。

 

冒険者の方ですか?
一つお願いがあるのですが、聞いてはもらえませんでしょうか?
私は「簡単なことであれば」と答えて話を聞く。


青年の頼みとは、外にいる子供たちにお菓子をあげて帰るように説得してほしいとのことだった。
青年は子供たちと遊んであげるつもりだったらしいが、急用ができて今すぐにでもここを出て行かなければならない。
しかし子供たちに会ってしまうとバツが悪いので、私がここにいないことを伝えて、お菓子を渡して家に返してほしい。

とのことだった。
その程度のことならばと私は快諾し、料理が運ばれてくる間に外にいる子供たちに、青年からの言伝とお菓子を渡すと、残念そうではあったが素直に帰っていってくれた。青年に対して相当な信用があるのだろう。
それにしてもあの子たちの格好、みんな貧民街の子供達のようで、ロストホープで見かけた子供も何人かいたようだが・・・

私は酒場へと戻り、子供達が帰ったことを伝えると「ありがとう」という言葉と共に、私にお金の入った小袋を差し出した。
私がその小袋を受け取ると、窓から子供たちがいないかを確認し、酒場を飛び出していった。
小袋を開けて中身を確認すると、お使い程度の仕事にしては多すぎるほどのお金が入っていた。


私は酒場の主人にあの青年の事を聞いてみると、

あの青年はウィスタンという貧民上がりの実業家で、ここから近いシラディハ遺跡の奥で新しい銀鉱脈が見つかったことを聞きつけて、調査団を派遣しているとのことだった。
ザナラーン一体の鉱山開発は「アマジナ鉱山社」が一手に行っているが、シラディハ遺跡の銀鉱脈についての情報は出回ってないらしく、アマジナを出し抜いて採掘権を獲得しようと躍起になっているらしい。

ウィスタンは危険が伴う遺跡内部に調査団を派遣するため護衛を募集したところ、早々に銅刃団の連中が名乗りをあげてきた。
一刻も早く調査に向かいたいウィスタンは銅刃団の警護の申し出を即決。そして先ほど、先発していた調査団が銀脈を発見したと銅刃団の連中が報告してきて、ここを飛び出していったとのことだった。


最近は銅刃団がらみの事件が多かったせいもあって、不穏な気配を感じるものの、銅刃団にもそんな連中もいるのかと主人の話を聞き流しながら、運ばれてきた料理を食べて腹ごしらえをする。

クイックサンドの料理もおいしいが、ここコッファー&コフィンの料理もまた絶品だ。
主人に話を聞くと、ここの材料はウルダハの国王であるナナモ・ウル・ナモ女王陛下が直々に資金提供を行った王立ナナモ菜園から、独自のルートで極上の食材を仕入れているとのことだった。また、ウォウォバルという腕利きの料理人もいるため、ここはいつも銅刃団や冒険者、旅行者から商人まで幅広い客でいつも溢れている。
そのため、カッパーベル銅山にモンスターが湧いて閉山中だとか、どこかの盗賊団が潰されたとか、ここにいると色んな噂話がいつも飛び交っている。

ちなみに王立ナナモ菜園は、ナナモ女王陛下が食べ物に困っている難民を憂いて作られた菜園だったが、農作物の育成には向かないザナラーンの痩せた土地の開墾には莫大な金がかかったという。
そのため、貴重とされるナナモ菜園産の農産物は高値で取引されることとなり、結果として貧民がその恩恵にあずかることはなかった。

 

腹が満たされて満足感でいっぱいの私は、意気揚々と酒場を出てホライズンへと向かおうとする。
すると店の軒先で、先ほど青年に食い下がっていた傭兵の男が、イライラした様子で酒を煽っている。


私はその傭兵らしき男に声をかけた。


あぁ? 何だてめぇは?


私はいらだつ男に、先ほど青年からもらった金の入った小袋をそのまま渡し、先ほどの話が聞きたいといった。

男は私をジロジロと見ながら少し考えていたが、乱暴に私の手から金を奪うと、


せっかく一儲けできると思って遠路はるばる来て見りゃ、間に合ってるからいらねぇと言いやがるんだ、畜生が!
しかも護衛に雇ったのが銅刃団の連中だって?
アイツ馬鹿じゃねえのか! ここいらの連中が慈善で動くかっての。
どうせあいつもおいしいところだけ銅刃団の連中に持ってかれるに決まっている。
せっかくそれを教えてやったのにアイツ・・・!!


イライラが最高潮に達したのか、店の柱をガンッと殴った。
傭兵らしき男は、殴った手の痛みを隠すように顔を奇妙に歪めた。

「どういうことだ?」と私が聞くと、


銅刃団の連中はその調査団護衛を「無償」で請け負ったってことさ。
ありえるとおもうか? 遠方まで悪評が届いている銅刃団がだぞ?

 

吐き捨てるように言いながら、男は私が渡した袋の中を確認した途端、顔色が変わる。


まぁアイツがどうなろうともう関係ねぇがな!
ここまで来た労力には釣り合わねぇが・・・・まぁ路銀ぐらいにはならぁな・・・・はぁ・・・
とため息をつきながら、傭兵らしき男は去って行った。

 

なにかとても嫌な予感がする・・・
ウルダハ周辺の鉱山採掘権については、アマジナ鉱山協会が握っている。それを出し抜いて採掘権を得ようとするまでの話はいい。
しかし、その護衛に銅刃団の者が手を挙げることに大きな違和感があるのである。しかも「無償」でだ。

確かに、ザナラーン周辺の鉱山採掘権のほとんどをアマジナ鉱山協会におさえられている状況において、この銀脈調査に無償護衛という形で一枚噛んでいれば、銀脈採掘が本格化したときに、銅刃団は護衛業務の立ち位置を獲得しやすくなる。
そしてロロリトならば、銀鉱の採掘施設や工夫の募集に対して多額の資金提供を申し出ることにより発言権を強め、裏で支配権を握る算段まで出来ているであろう。

だが、もしこの銀脈の話が本当であったと仮定したとき、非常に大きな利権と利害が動くこの話は、

本当にアマジナ側には漏れてはいないのだろうか?

というより「調査団の護衛」という募集をかけている時点で、更にはその護衛に銅刃団の者が名乗りを上げている時点で、情報の秘匿性は既に失われている。「うわさ」が出ている時点で時すでに遅いのだ。

にもかかわらず、今もまだアマジナ鉱山協会が動いていない理由はなんなのだろうか。
「うわさ」程度では動かないからだろうか・・・いや、現にアマジナ鉱山協会は霊銀鉱の鉱脈のうわさを聞きつけてどこかで調査採掘を行っていると聞いたことがある。
ましてや、ナナワ銀山での銀鉱の再開発に苦戦し、業績の悪化を招いている状況において、ブラックブッシュ停留所にほど近いシラディハ遺跡であたらしい銀脈が見つかったという話に、アマジナが飛びつかないはずはない。

そのアマジナ鉱山商会が動いていない理由。

それはやはり、

「シラディハ遺跡に銀脈がある」という話は「嘘」だということを知っているからだ。


とすると・・・・あの青年は銅刃団に騙されている!
何が目的なのかはわからないが、護衛が「無償」であることから考えれば、青年の命を狙っているのか!?
確か、シラディハの遺跡はここの近くにあったはず・・・・

私はシラディハの遺跡へと急ぎ走った。

 

シラディハの遺跡が見える高台に立ち寄り、一旦現地の様子を眺めてみた。
どうやらあの青年はまだ遺跡まで辿り着いていない様だったが、銅刃団の男たちが調査団らしき者達を蹴り飛ばしている姿が見える。

やはりこの話には裏がある!

急がなければ、あの青年もまた銅刃団の餌食となってしまうだろう。
だが、この高台からシラディハ遺跡の前まで行くには、崖沿いを大きく迂回しなければならない。

間に合うか!?

私は全力でシラディハ遺跡へと走った。

 

シラディハ遺跡前までたどり着くと、酒場にいた青年はその場に膝をつき、銅刃団の男に向かって叫んでいた。

護衛対象であるはずの調査団の男達は、銅刃団の足元にみな倒れているようだった。


くそっ!!俺のことを騙したのか!!


銅刃団の男はニヤニヤとしながら、

まさかこんなちんけな噂話に引っかかってくるとは思わなかったぜ。
そうさ、ここに銀脈があるって嘘っぱちな噂を流したのは俺達だ。


何のためにこんなことをする!!

馬鹿だな。それはお前が一番わかっているだろう?

くっ・・・


青年は悔しそうに顔を歪める。


お前がロロリト様に盾突こうとしていることなんざ、とっくの昔にバレてるんだよ。
貧民出身者のくせに、ちょっと成功したぐらいで意気がりやがって。
貧民は貧民らしくドブでもさらっておとなしく生きていりゃ、騙されて死ぬこともなかったろうにな!!


銅刃団の男は剣を抜き、青年ににじり寄る。


まずい!

青年の元まではまだ距離がある・・・
ここからでは銅刃団の男の攻撃を防ぐには間に合わない・・・ここは一か八か!

私は咄嗟に銅刃団の男に向かって盾を投げ、こちらへと注意を引こうと試みる。

ガツッ!!

私が投げた盾は、運よく銅刃団の男の左脇に当たった。


完全に不意を突かれた形で突然の衝撃に襲われた銅刃団の男は「うがっ!!」というだらしない声を上げてその場に膝をつく。
周りにいた連中も何が起こったのか分からずに慌てていた。

私はその隙に、銅刃団の男と青年の間に割って入る。


くそっ!?・・・なんだてめぇは!!

突然現れた私の姿に驚きながらも銅刃団の男は立ち上がり、再び剣を構え直す。
銅刃団の男の顔は驚きから段々と怒りへと変化していく。


・・・・・あんたは、酒場にいた冒険者さんか?

青年はあっけにとられたような顔で私を見ていた。
私は青年に下がるように言うと、青年を背に守るような体勢をとる。

くそっ!! 冒険者風情が随分なことしてくれたなぁ!!
お前も俺たちに逆らうってのか!?
それがどういうことを意味するか、分かっているんだろうなぁ!

先ほどの不意の一撃を受けて、銅刃団の男は激昂している。
私は無言のまま男を睨み、ゆっくりと剣を抜く。


ククっ…ハハハハハッ!!!
てめえ、こっちは何人いると思ってるんだ?
お前一人で俺たちに勝てると思ってるんだったら、とんだ愚か者だぜ!
とにかく・・・さっきの落とし前を付けなきゃならねぇ・・・・
馬鹿者通し、全員仲良く仲よくあの世に送ってやるよ!!
お前ら、やっちまえ!!

銅刃団の男達は、リーダーと思われる男の合図と共に一斉に切りかかってくる。
相手は4人。普通であれば決して相手にはできないが、幸運にも相手はすべて剣術士たちだ。

間合いの違う槍術士や、素早い上に攻撃パターンが複雑な格闘士、遠距離から狙ってくる呪術師や弓術士達で連携されたとしたら、万が一にもこちらに勝機は無いが、剣術士だけであれば対処のしようがある。それに相手は銅刃団だ。剣の構え方を見ただけでそれほど剣術士としての練度は高くないとわかる。


私は冷静に銅刃団の男たちの動きを見ながら、攻撃のタイミングを伺う。
こちらは相手より目線の低い階段下だ。攻撃の届きやすい足を潰してしまえば勝機はある!


ドンッ!!!

突然、突き上げるような強い衝撃で地面が揺れる。

なんだ!?

銅刃団の男達も突然の衝撃に驚き慄いた。
そして衝撃がやんだかと思うと、今度は銅刃団の後ろに転がっていた大きな岩の塊が動きだし、一つに固まり出した。


・・・・・この不吉な感じは・・・・まさか!?

私はこの狂気にも似た不吉な気配を感じたことがある。
それは、ササガン大樹で対峙した「妖異」と呼ばれる異界の存在と同じ気配が、ここ一体に溢れかえっている。
固まり出した岩の塊はやがて巨大なゴーレムとなり、大気を震わせるほど大きな咆哮を上げた。


なぜここで妖異が現れた!? しかも突然に!
私は混乱しながらも、一度距離をとり直し、攻撃対象を銅刃団から岩の妖異に切り替えた。


ヒ、ヒィィ!!! 化け物!!!

逃げ出そうとする銅刃団の男達に、妖異の容赦ない一撃が迫る。


ダン!!!


無造作に振り回された妖異の一撃は、銅刃団の連中をまとめて薙ぎ払った。
まるで塵のように軽く吹き飛んでいった銅刃団の男たちは、岩や遺跡の柱に叩きつけられ、絶命していた。

ゾクッ・・・・

私の体は恐怖によって蝕まれ始める。
たったの一撃で銅刃団の4人を屠る力を持つ妖異を、私一人で倒せるのだろうか。
サガン大王樹の時はあの銀髪の青年がいたからこそ倒せたのだ。
確かに、あの頃に比べれば私も戦闘経験を積んできたとはいえ、駆け出しの冒険者である私ごときが対峙できる相手ではない。
幸いにもここシラディハ遺跡には身を隠すことのできる場所がたくさんある。今なら全力で逃げれば、逃げ切れるかもしれない。

私の頭の中を「撤退」の言葉が駆け巡る。
「命がある限り負けではない」
モモディ女史から言われた言葉が頭をよぎった。

・・・・しかし、周りには銅刃団によって意識を失っている調査団、後ろには恐怖でうずくまったまま動かなくなった青年。
私が逃げ出してしまったら、ここにいるすべての者はこの妖異によって殺されてしまうだろう。

私は緊張で張り詰めた体と思考をほぐすために、一度大きく深呼吸をする。

覚悟を決めろ。
退路はすでになく、進む道は一つしかない。
命を賭して進むのならば、持てるすべての力を一つに!!


ウオォォォォォ!!


私は恐怖から自身を解放させるために、大きな雄叫びあげながら岩の妖異へと向かっていく。


この妖異、攻撃力が半端ない反面、幸いなことに動き自体はそれほど速くはない。攻撃動作も大きく隙も多い。
しかし、体が岩でできているこの妖異に無造作に剣撃を打ち込んでも跳ね返されて終わりだ。
では、どこを狙えば攻撃が通るのか。

動きが遅いとはいえ、巨体から放たれる一撃一撃には衝撃波が伴うほどの威力がある。
私は風圧で吹き飛ばされそうになる体を、腰を落として踏ん張りながらなんとか堪える。
けっして妖異の正面に体を向けないように、円を描くように移動しながら弱点となる部分を注意深く伺った。

すると、体を構成する岩と岩とを繋ぎ合わせる魔力の「糸」のようなものが見え隠れしていることに気が付いた。
その先を追っていくと、岩の妖異の胸のあたりに、赤く大きな魔力の塊を発見する。


あれを狙えばもしや・・・

しかしながら、岩と岩の結合部は心臓の鼓動のように律動している。
あの魔力の塊に一撃を打ち込むには、結合部が開いた瞬間を狙わないと岩の鎧に跳ね返されてしまうだろう。
懐に飛び込むということは、岩の妖魔の攻撃を避けることのできない間合いに入るということだ。
失敗すれば「確実な死」が待っている。

私はリズムを図るように岩の妖異の攻撃をよけつつ周りを動きながら、
打ち込むタイミングをうかがう。

すると、岩の妖異は動くのをやめたかと思うと、突然大きく雄叫びを上げながら力を溜めはじめた。
妖異の咆哮に呼応するように周囲の空気は振動し始め、次第に空間が歪むほどの圧力が岩の妖異に集まっていく。

銀髪の青年に言わせれば「エーテルを喰い貪っている状態」なのかもしれない。

しかし、エーテルから力を吸い取っているためなのか、律動していた岩と岩の結合部は大きく開き、露わになった胸の魔力の塊は大きく輝いている。

打ち込むならここしかない!!

私は意を決して、力の爆弾と化している妖異へと飛び込んでいった。
妖異の力の開放が先か、私の剣撃が届くのが先か!

 

ウオォォォォォ!!


私の体は、妖異に近づくにつれてビリビリとした力の圧力で押し返される。しかし一瞬の躊躇も許されない。
大きく息を吸い込み、深く腰を落とし、親指の付け根に全体重を集中させて、地面を勢いよく蹴り上げる。
突き出した剣の切っ先は、周囲の力場を引き裂くように一直線に妖異の胸へと向かっていった。


間に合えっ!!!!

 

バアァァァァァァン!!!

 

一瞬の攻防・・・・私の剣は、妖異の力の開放より先に魔力の塊へと突き刺さっていた。
周囲を捻じ曲げていた妖異の力場は一瞬で解放され、あたりは静寂に包まれる。
そして、魔力の糸が消えるとともにガラガラと音を立てて、妖異から岩が剥がれ落ちていく。
魔力の塊はその形を保てなくなり、消えるようにその姿を消していった。

私は妖異の消滅を確認すると、がくっとその場に膝を落とす。
そして止めていた息を大きく吐き出す。

がはっ・・・はぁ・・・はぁ・・・・

や・・・・やった・・・・なんとか・・・・なっ・・・た・・・


張り詰めていたすべての緊張が解ける・・・
何だろうか・・・体が全然いうことを聞かない。

混濁し始める意識・・・これは以前と同じ・・・

ドサッ

なんとか意識を保とうとするが、抵抗すること叶わず私は地面へと突っ伏した。
ぼやける視界の先に、先ほどの妖異とはまた違う気配を感じる。


・・・・あれは・・・・・だ・・・・れ・・・・・

 

そして突然、ブツッとまるでスイッチを切られたかのように意識が途切れた。