FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第十五話 「ウルダハの闇」

これは・・・・夢?


私は、夢の中であの銀髪の青年を見ている。夢にしては随分とはっきりとした感覚。
でも実体は無く、私はふわふわと空を浮遊するように、ウルダハの街を俯瞰で視ていた。

同じようで、どこか違うウルダハの街並み。
そして、銀髪の青年は幾分か顔立ちが幼い。

これは・・・過去視か?

第七霊災で記憶を失って以来、ごく稀にこんな夢を見ることがあった。
いつもの夢のような幻視とは違う、現実のようにはっきりと知覚できる夢。
過去視で視たことが果たして現実なのかはわからないが、人の過去を言い当てて気味悪がられたこともある。
とすれば、本当に過去を視ているのかもしれない。

銀髪の青年は、ウルダハの女性に取り囲まれながら、楽しそうに街を歩いている。
時折耳に入ってくる噂話に耳を傾けては何か思慮に耽ったりもしているが、女性に声を掛けられると青年は気を取り直したように甘い言葉で女性を口説いていた。


ふと空を見上げると、そこには赤く輝く天体が見えた。
太陽? いや違う・・・・・・・あれは別の何かだ。
禍々しいほどの妖気を漂わせながら、まるで迫ってくるかのように怪しく輝いている。
その赤い天体を見た時、無くしたはずの記憶の奥底におぼろげな影が揺らめき始める。


多分・・・・・・私はあれを見たことがある。
思い出そうとしても、まるで蜃気楼のようにゆらゆらと揺らぐ記憶は決して像を結ばない。

突然、記憶の一端を黒く塗りつぶすように目の前が暗転し、場面はこちらの意思とは関係なしにチカチカと変わっていく。
エーテル・・・・・アマルジャ・・・・穀物の値段・・・・ササガン大王樹?

何だろうか・・・この夢は・・・・一体俺に何を伝えたい・・・・?
視界は再び闇に呑まれ、はっきりとしていたはずの意識も、ゆっくりと・・・・ゆっ・・・・くりと、

深い闇へと沈んでいった。

 

 

ハッとして目を覚ますと、視界の先には銀脈を追う青年の顔があった。

あっ!! 目を覚ました!!!

青年は意識を取り戻した私を確認すると、脱力したのか「へたり」と地面に腰を落とした。

本当に・・・・本当に良かった・・・
騙された僕を救うために、助けに来てくれたあなた自身が命を落としてしまったら、死んでも死にきれなかったよ・・・

でも、大丈夫なのかい!?
突然糸が切れたように倒れたから、死んでしまったかと思ってびっくりしたよ。
やっぱりどこか大きなけがをしているとか・・・


私は自分の体を確かめる。確かどこも怪我はしていないはずだ。
もっとも、あの妖異の攻撃を一度でも喰らっていれば怪我どころでは済まされなかっただろう。

私は問題ないと立ち上がると、青年もホッとしたように顔に笑顔が戻る。


あっ!! 調査団の人達は!?


青年は慌てて立ち上がろうとする。

あれ・・・あれ?
・・・・すまない・・・腰が抜けてしまって動けない・・・・

青年は情けなくうなだれた。

私は青年に無理をしないように言い、急ぎ気を失って倒れている調査団のもとへと向かう。
強いショックを受けて気絶しているものの、外傷自体はあまりない。
私は気絶している調査団の者の口にポーションを流し込み、無理やり飲ませて治療にあたる。
ほどなくして調査団の男たちも目を覚ました。

全ての人の治療を終え、私は青年の元に戻り改めて今回の経緯を聞いてみた。

ははっ・・・なんとも情けない話さ。
俺は銅刃団の連中に初めから騙されていたんだ。

青年は顔を俯かせながら、とつとつと私に話を始める。


僕はもともと第七霊災の時に故郷を失って、貧民街に流れついた流民なんだ。商売の国であるウルダハになら、再起のチャンスがあると思ってここに来たんだよ

でも、現実はとても厳しいものだった。貧民街の人たちはろくな仕事に就くこともできずに、その日を生き延びるのだけで精一杯の状況だった。たとえ仕事に就けても、貧民であるというだけの理由で満足な金をもらうことができなかった。

僕は貧しい暮らしに身を置くことしかできない貧民達を見て、我慢がならなくてね。
ウルダハで一旗揚げて、貧民達を貧困から解放したいと思ったんだ。

とにかくがむしゃらに働いたよ。人脈を広げて、どんなに小さい依頼でも受けてさ。
長い商売ってのは、結局のところ人脈と信用がすべてだからね。
努力の甲斐もあって僕は商人として成功して、より大きな商売を興そうとしたんだ。

でもウルダハでの商売には、越えられない壁がある。


青年は熱が入ってきたのか、ぐっと顔を上げる。

ウルダハの法律は王宮のご意見役である「ナル・ザル教団」の司教たちが策定しているんだ。
そもそもウルダハには商人以外に納税義務がない。そしてその税金のほとんどが国庫へと入っていく。
規模を維持するために多額の費用が必要だったナル・ザル教団は、国から割り当てられる予算以外の活動資金として、信徒である商人から長きにわたって献金を受け取ってきた。
だから教団に献金をすればするほど、強力な発言権を有することができる仕組みが出来上がっているんだ。

で、今の「商取引法」はロロリトの多大な献金によって「東アルデナード商会」に有利な内容になっているんだ。
ここで大きな商売をしようものなら、必ず「東アルデナード商会」を通さなければならない。他国との交易品は特にね。

交易拠点のホライズンにしろ、他国との玄関口となるベスパーベイ港にしろ、スコーピオン交易所にしろ、実質的な支配権を握っているのはロロリトだ。
そして今の商取引法では、ウルダハに持ち込まれる物品はすべて交易所で事前に検閲し、合格した物のみが商品としてウルダハに持ち込みできることになっている。

そして、その検閲行為を教団によって任命されているのが「東アルデナード商会」なんだよ。

ということはだ。
ロロリトに睨まれでもすれば、売るどころか、ウルダハ内部に商品を持ち込むことすらできなくなるんだよ。
あ、シルバーバザーだけは別だけど・・・・・・あそこはもう・・・ね。


僕は銀脈の採掘権を獲得して、そこで出た利益を献金につぎ込んで、今の不公平な商取引法を公平なものへと変えたかったんだ。

今のような一部の有力商人ばかりが利権を握る構造ではなくて、実力さえあれば誰でも商人としてのし上がることの出来る健全な商売環境を整えることが出来さえすれば、新しい商売だっていっぱい出てくるし、雇用だって自然と生まれる。

そうすれば、職に就くこともできずに無為な生活を送るしかない貧民にだって、真っ当に働いて金を稼ぐことが出来るようになるんだよ。

シルバーバザーがダメになって、ロロリトが牛耳っているベスパーベイ港が交易中心地となって以来、ウルダハの経済は実は弱体化しているんだ。商人たちが自由に交易出来なくなったせいでね。
商売と富の国なんて威勢を張っているけど、いまやリムサ・ロミンサやグリダニアのほうがよっぽど活気に溢れている。
それは、各国のマーケットの賑わいを比べれば、一目瞭然だよ。

それに・・・

青年は、悔しさで顔を歪ませる。

それに、特に許せなかったのはアマジナ鉱山社で働かされている貧民達の待遇さ。
ほとんどタダ同然で、長時間・休みなく働かされているんだ。それも飛び切り危険なところでね。

アマジナは貧民達を奴隷のように使い、タダに近い労働力で掘り出した鉱石を売って、ここ数年飛躍的な成長を遂げてきた。
でも、そんな不健全な労働構造で長く続くと思うかい?

生命線であるナナワ銀鉱の採掘量が激減している今、アマジナは優秀な人材の不足に陥っているんだ。
アマジナは労働力として、使い捨て出来る貧民たちの割合を増やし続ける反面、優秀な技術を持つ採掘者を育てることをやめた。
人を育てるにはたくさんの労力と金が必要だからね。
確かに容易に露出している鉱石を掘るだけならば、例え一人あたりの生産性は低くとも、安く使い捨て出来る貧民を使った方が遥かに効率はいい。

でも、今やっている深層開発という難易度の高い採掘ではそうはいかない。
技術を持たない貧民では人数の割に効率がまったく上がらず、結果業績を大きく落としているんだ。

ナナワ銀山の深層開発が思うように進んでいない原因がそれだよ。

だって一生懸命働こうが、手を抜いて働こうが、貰える賃金が一緒だとしたら真面目に働くかい?
特に貧民達は採掘師として成功したくて働いているわけでもなく、ただ日銭欲しさに働いているだけなんだし。

技術者を育てることなんて、一朝一夕でできるものじゃない。
確かに募集をかければ、自分は出来るなんて言ってくる採掘者も中にはいる。
でもそういう奴に限って、頭に知識だけを詰め込んで一著前なことを言うくせに、現場経験の未熟さからくる自分の失敗を、環境のせいにするような輩だったりする。

本来、技術者はたくさんの困難を経験し、それを乗り越えることでやっと一人前になる。
会社が業績に目がくらんで人を育てることを怠れば、そのしわ寄せは必ずその身に帰ってくるものなんだよ。

それに、貧民をタダ同然で使うことによって確立されてしまった今の労働構造のせいで、アマジナは新たに雇う労働者に賃金を高く払うことができない。
当然募集をかけても誰も寄ってこず、日銭を求める貧民ばかりが集まってくる悪循環に陥っているんだ。

大きな会社ってのは、一度舵取りを誤るとどこまでも負の連鎖が付きまとう。
利益だけを追い求めて、労働者をないがしろにすれば、いつかは破たんする。

でもこの状況は、実は私達のような新興商人にとっては喜ばしい状況なんだよ。
銀のような利益率の高い鉱物を採掘することができれば、適正な値段で優秀な工夫を雇えるし、採掘環境を整えて効率を挙げさえすれば、まともな商売でも絶対的な利益に繫がっていく。
そしてそこで作り上げた採掘のシステム自体を売り物にすれば、さらなる儲けになるんだよ。
僕は今まで、ウルダハ以外の商人達とも関係を築いているんだ。そこから技術の輸出ができれば、他の国での商売にも繫がっていく。

それにザナラーンにはまだまだ採掘調査が進んでいないところがたくさんあるんだ。
新たな霊銀鉱の鉱脈や、金脈なんて噂がごろごろしている。

確かに眉唾物の噂が多いけれど、地質学的に探せば、場所の特定も容易に行えるはずだ。
アマジナのように金がかかった大掛かりな機材を使わなくても、鉱脈は発見できる。
そして利益が確実になれば、アマジナから経験豊富な人材を引っ張ることだってできる。 

今のウルダハには商売のチャンスがごろごろ転がっている。
でも、現在の「商取引法」のままでは、そのチャンスはずっと無価値な石ころのままなんだ。
何をやろうが、結局は一部の有力商人に利益のほとんどを持っていかれて、彼等の懐を温めるだけ。

そのしがらみを、この銀脈採掘で壊したかったんだ・・・・・


商売について熱く語っていた青年の方ががっくりと落ちる。


でも、僕はもうここで終わりだ。
ロロリトは本気で・・・・・・本気で僕を消すつもりだったんだろう。
しかも、口封じのために銅刃団ごと・・・・・・。
ロロリトに目を付けられてしまった僕が、この地で商売をし続けるのはもう無理だろう。
今後は身を隠し、新たな生き方を探すよ・・・・・・。


一見商人にとって夢の国に見えるウルダハは、裏では有力商人による醜悪な利権闘争が渦巻く魔境ともいえる。
それは今までずっと続いてきた王族体制から、完全なる自治を目論む商人達と王族との対立を産み出してしまうほどだ。

人の欲はどこまでも限りない。
そこまでの財を築いて、そこまで権力を有して、国の未来を食い潰して、その上さらに、彼等は一体何を得たいというのだろうか?

 

青年と話をしていると、誰かがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
その人物は、ササガン大王樹で出会い、そして先ほどの夢の中にも出てきた銀髪の青年だった。
銀髪の青年は顔に奇妙な機械のような面をつけて、こちらに駆け寄ってくる。


あれ? きみは!?


銀髪の青年は私の顔を見て驚いた。


エーテルの流れがおかしくなっているのを見つけて駆けつけてみれば、君と鉢合わせるなんて。
やっぱり君は・・・・


銀髪の青年は何かを言いかけて、一度口を噤んだ。


それはそうと、ここで何があったんだい?


銀髪の青年は気を取り直したように周りの状況を確認しながら、私に聞いてきた。
私は青年の言葉を借りながら、一部始終の状況を説明した。


そうか・・・
やはり妖異が現れたのか。どうりでエーテルの流れが突然歪むわけだ。


青年の顔につけている面のような機械は、周囲のエーテルの流れを検知できる機械らしい。
どういう仕組みなのかはわからないが、シャーレアンが開発した道具らしかった。


それで、君ひとりでその妖異を倒したと。


銀髪の青年は顎に手を当てながら、私をジロジロとみてくる。
居心地の悪さを感じる私をよそに、青年は「やはりか」と呟き、


俺の名は「サンクレッド」だ。
よろしくな。


と、銀髪の青年は突然自己紹介をしてきた。
以前モモディ女史から名前を聞いて知ってはいたが、本人から名乗られたのは今日が初めてだった気がする。
私もまた名を伝えると、握手を交わす。

サンクレッドは、床にへたり込んでいた青年の手を取り「立てるかい?」と声をかけた。
青年は「あぁ、もう大丈夫。」と言いながら、差し出されたサンクレッドの手を引っ張りながら立ち上がった。


近頃のウルダハは何かとキナ臭いんだ。
王家に弓引く者たちに、何者かが異形の力をあたえているようでね。今回の銅刃団の件と、妖異の出現に関係性があるかはわからないが、障害となりえる存在には、ありとあらゆる手段を講じて排除を行っているようなんだ。
モンスターに襲われて死んだのであれば、誰も関与を疑わないからね。

とにかく、ウルダハを離れさえすれば、とりあえず命の危険はないだろう。


そういって、サンクレッドは落ち込む青年に優しく話しかける。


出国までの安全は俺が保障しよう。失敗は繰り返さなければ自分の身となる。
君ぐらいの商才があれば、どこでだって商売は成功するさ。
もし君さえよければ、リムサ・ロミンサにある知り合いの商会に口添えしてあげるよ。
君ならば向こうにとっても大歓迎だろうし、再起の足がかりにはなるだろうしさ。


青年はサンクレッドに「ありがとう」と言葉を伝える。
そしてサンクレッドの言葉に気を取り直したのか、沈んでいた顔が幾分か晴れやかになる。


僕は焦ってしまっていたんだな。
それで周りが見えなくなってしまっていた。
僕の失敗は、当然だったのかもしれないな。

ありがとう、冒険者さん。君は僕の命の恩人だ。
もし次に会えるようだったら、僕は君のことを全力で手助けするよ。
まぁそうなれるように、また一から始めなければならないけれどね。


青年はそう言いながら、調査団と共に、サンクレッドに連れられて遺跡を後にする。
サンクレッドは私に「それじゃあ近いうちに」という言葉を残して、一緒に去って行った。


えらい寄り道をしてしまったな・・・
私は苦笑しながらも、私は改めてホライズンへと向かって歩き始めた。