FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第十九話 「剣を狙うもの」

あれは・・・・

私はこちらに逃げる剣術士の男と面識がある。
あれは剣術士ギルドに所属している男だ。


私は剣を抜き、逃げる剣術士と入れ替わるように槍術士の男たちの前に立ちふさがる。
こいつ等は・・・シェーダー族か?

シェーダー族は、グリダニアに広がるティノルカの森林地帯(黒衣森)に古くから住んでいた先住民「エレゼン族」の一派だ。

エレゼン族をはじめとする人間種は、森の精霊を恐れて「ゲルモラ」と呼ばれる都市国家を形成し長らく営んでいたが、地上を支配していたイクサル族が精霊の怒りを買い「ゼルファトル大渓谷」に移住したことをきっかけとして地上に入植し、今のグリダニアが生まれた。

しかし、シェーダー族はその際、地上に出るのを拒み続けた者たちの末裔であり、特に後に入植してきた「ヒューラン族」を快く思っていないためか、過剰に敵視しているものも少なくない。
変化を拒み、時代の流れに取り残されたシェーダー族は、生活苦から野盗に身を落とすもの多く、自分の行為を正当化している傾向がある。


グリダニアとザナラーンは地続きとなっているとはいえ、グリダニアの地から出ることを嫌がるシェーダー族がここまで来ること自体珍しい。
シェーダー族の男は私が剣術士だと分かると、槍の矛先をこちらに向けた。
どうやら先ほどの剣術士だけを狙っているわけではないらしい。


シェーダー族の男たちは問答無用で襲ってくる。
相手は槍術士。間合いの違う武器を相手に戦うのは非常に困難だ。
逃げてきた剣術士の男の加勢を期待したいところだったが、どうやら私の後ろで腰を抜かしているらしい。

迂闊に飛び込んでは槍の餌食になる。
私は槍術士の男たちとの間合いを確かめながら攻撃をかわす。
撃ち筋を見る限り、攻撃自体は単調でそれほど熟練した使い手ではないようだ。槍は攻撃範囲が広いが、重量があるため片手で振るうことはできない。それに持ち手のどちらかは必ず体の前に来る。
そこを狙えば・・・


私は敵視を保ったまま流民屈の中に槍術士達を誘い込む。
雑多な物で溢れる流民屈の中では、長尺の槍では満足に振るうことができない。
私は挟撃されないように注意しながら、隙をみながら一撃離脱で腕や手を狙い撃ちしていく。

走りながらの攻撃では、一撃の威力は低い。
しかし、少しでもいい。
繰り返しでも相手の腕にダメージを与えれさえすれば、勝機はおのずとこちらに向かってくる。
剣の間合いとは言えないほど広い間合いを取りながら、相手の攻撃に合わせるようにカウンターを当てていく。

そして、シェーダー族の男たちの攻撃が鈍ってきたところを見計らって、一気に間合いを詰めて一人目の胴を撃った。そのままその男の後ろに回り込み、もう一人の突きを回避する。
味方にあたりそうになる槍を、無理やり止めようとするその隙を見逃さず、私は低い体勢から二人目の胴から肩にかけてを斬り上げた。

浅いか!

シェーダー族の男は槍を捨て、咄嗟に体をひねったことで、私の一撃は皮一枚を切る程度の浅いものとなった。
しかし、これ以上の戦いは不利とわかるや否や、シェーダー族の男たちは逃げていった。


私は逃げていくシェーダー族の後姿を見ながら剣を収め、襲われていた剣術士の元へと駆け寄った。


た・・・・たすかったよ・・・・
ありがとう・・・


私は男に襲われた経緯を聞いてみた。


いや、理由も何もないよ。
突然現れたと思ったら急に襲ってきた。
ただそれだけさ。


剣術士ギルドの男はホライズンにて商隊護衛の依頼を受けて移動中だったとのことだ。
男自身シェーダー族に狙われる理由もなければ、襲われるような問題に首を突っ込んでいるわけでもないようだ。

金目当てというわけでもなければ、特定で狙ったわけでもない。
通り魔にしては、堂々としすぎている。
確かにシェーダー族はヒューラン族を目の敵にしている傾向があるが、わざわざこんなところまできて襲う理由があるのだろうか?


私はとりあえず剣術士ギルドへと戻ろうと促すが、


すまん・・・・逃げる途中で足をひねってしまってね・・・・
助けてもらった手前で・・・言いにくいんだが・・・・手を貸してくれないかな?

情けない顔で剣術士ギルドの男は懇願してくる。
やれやれと思いながらも男に手を貸し、私たちは剣術士ギルドへと戻った。

 

剣術士の男に肩を貸しながら、剣術士ギルドに入る。


はっ!? ・・・・・これはまさか・・・・・禁断の愛!!?


なんて素っ頓狂なことを抜かし、頬に手を当てて顔を赤らめるルルツは放っておいて、ミラの元へと向かった。私達に気が付いたミラは、あきれながら


久しいじゃないかこの野郎。
お前は一体どこをほっ・・・どうした!?


もう一人の剣術士の男がけがをしていることに気が付いたのか、血相を変えて駆け寄ってくる。


私は剣術士の男を床に座らせると、まずこの男の治療をお願いする。
そして、別の剣術士の者の手で治療が行われるのを確認し、ミラに改めて事の経緯を説明した。


くそっ・・・剣を持っていればお構いなしかっ!


ガンっ!

ミラは悔しそうに壁を叩く。どうやらこの一件について何か知っているようだ。
私は一体何が起きているのか、ミラに聞く。

ミラによると
ここ最近、ウルダハ近辺にて剣術士が何者かに襲われる事件が頻発している。
理由は不明。
襲われるのは剣を持ったヒューラン族ということだけ。
これまでに何人もの襲撃者を撃退したものの、事態の収まりをみない。
銅刃団や不滅隊によりウルダハ周辺の警護は強化されているものの、監視の穴を突くように襲ってくるため中々効果は上がっていない。

ということだった。


今まではうちの連中が襲われることはなかったんだが・・・・


あねさん・・・すいやせん・・・・


お前もお前だ!
襲撃者の一人や二人ぐらい、一人で撃退してこないか!
あまつさえ逃げる途中で足を挫くとは・・・剣術士ギルドの者としてなんと情けない…


ミラはケガを負った剣術士の男に檄を飛ばす。
私は突然襲われたこと、相手は複数の槍の使い手だったことを話し、ミラをなだめた。


・・・いや、すまん・・・・取り乱してしまった。
・・・だが、お前はそいつらを一人で撃退したのだろう?
・・・・・悔しいじゃないか。こいつらに剣を教えているのは誰でもない、私だ。
そいつらが襲撃者風情を相手に逃げ帰ってきているようでは、私自身の技量不足を突き付けられているということなのだからな。


ミラは悔しそうに唇を噛む。


アイツがここを出てって以来、私は闘剣士を育てることだけに躍起になってきた。
剣術士ギルドによって長年守ってきた輝かしい闘剣士の歴史を汚さぬよう、それはもう必死にな。
しかし、私は闘剣士の育成に固執してしまったせいで、命のやり取りを含まない「見世物」の剣技は磨けても、命を懸けた実戦の技量を積まさせることを怠ってしまっていたんだ。

それに気が付かせてくれたのはだれでもない、お前だ。

それ以来、私は積極的に街の外での護衛任務や、モンスターの討伐依頼を請けるようにしてきたんだ。
しかし、実践経験の乏しい連中ではなかなか成果が上がらなくてな・・・

命のやり取りが怖くてやめていった奴も多い。
この先私は、どうしていけばいいのだろうか・・・


がっくりとうなだれるミラ。
私はかける声も見つからず、ただただ立ち竦むことしかできなかった。


いや・・・すまんな。
久しぶりに帰ってきたのに、こんな情けないところを見せてしまって・・・
今日はもう疲れただろうから、明日またここに寄ってくれないか?
そのくらいの時間はあるのだろう?


私は頷き、剣術士ギルドを後にした。

 

クイックサンドに戻ると私を見つけたモモディ女史が

「おおい!」

と大きく手を振っている。
私は少し照れくささを感じながらも、モモディ女史の元へと向かった。


随分と久しぶりじゃない!
あまりにも戻ってこないから・・・その・・・・どうかしちゃったかと思って心配していたんだから。


思えば、モモディ女史からベスパーベイにある「砂の家」に手紙を届ける依頼を請けてから、随分と日が経ってしまっていた。
モモディ女史は私の無事を心から喜んでくれていた。そして、私の格好を見て、


どうやら染色師の方には会えたようね!
うんうん・・・・・素敵じゃない!


モモディ女史は染色後の装備の色を褒めてくれた。
本当に、この人には感謝の言葉だけでは足りないものをたくさん貰っている。
モモディ女史を守るために命を捨てなければならない状況になれば、私はすすんで命をかけるだろう。


でも・・・・・既に随分とくたびれてしまっているのね。
本当に、いったいあなたはどんな冒険をしているのかしら。


モモディ女史は苦笑する。
私もモモディ女史に言われて気が付き、改めて自分の防具を確認してみた。

ここを出てからというもの、命がけで盗賊団のアジトを潰し、妖異のゴーレムと闘い、銅刃団と盗賊の残党と闘い、そしてシェーダー族の襲撃者と闘った。
思えば、そのどれもが一歩間違えれば即死につながるようなものばかりだ。今生きてここに立っていることが奇跡に思えてくる。

それは、この剣とこの盾、そしてこの防具があったからこその命なのかもしれない。

私はすでにこの武具たちに愛着が沸いているようだ。
確かにボロボロになってきてはいるものの、まだまだ変える気にはならなかった。


モモディ女史は、武具を見る私の顔を見ながら、小さく「フフッ」と笑った。
そして、依頼料の支払いも兼ねて、とのことでクイックサンドの料理をふるまってくれた。
コッファー&コフィンの料理もうまいが、やはりここの料理が一番だ。

安心してくつろぎながらゆっくりと食べられるというのは、当たり前でいて何物にも代えられない極上のスパイスだ。

私はむしゃむしゃと出てくる料理に手を付けながら、ぐびぐびと酒をあおる。
そして、食べ終えるとともに急激に襲ってきた眠気に打ち勝つことができず、そのまま宿にある自室へと戻り、気を失うようにベッドへと倒れこんで眠った。

 


翌日、私は身支度を整えて剣術士ギルドの元へと向かった。
その途中、ばったりと(?)ワイモンドと出会った。


よぉ!! 久しぶりだね!! 冒険者!

何だかこの感じ、とても懐かしい。
この男の醸し出す「気の置けない」雰囲気は、アイツのものと似ていた。
・・・・・・レオフリック。


噂には聞いているよ!
随分と派手に大活躍しているようじゃないか!


ニコニコと笑いながら大げさなジェスチャーをつけながら話をしてくる。
どこまで知っている・・・いや、こいつのことだ。
たぶん全部知っているんだろう。

私はそんなこともないと謙遜すると、


ハハッ!! 謙虚さってのは大事なもんだ!
それを忘れた奴が「傲慢」になっていくんだからね!
だけど、見ている人はちゃんと見ているよ。

困ったことに、人ってのは目立ちすぎるのもあんまりよくない。
ここはそういったことに面倒くさい街だからね。
だから「ほどほど」が一番さ!


何だろうか・・・・能天気に軽口を言っている風なのに、何か警告ともいえるようなメッセージが含まれているような気がする。
ふと、銅刃団の女の言葉を思い出す。

「詮索をするな」

そういえば、ロロリトが自分を「気にしている」とも言っていた。
ということは、私はロロリトに「邪魔もの」として目をつけられてしまったんだろう。
それをこの男は私に対して「警告」しているように思える。


私はワイモンドに「忠告ありがとう。以後気を付けるようにするよ。」
と返した。するとワイモンドは「なんのことだい?」とおどけて見せた。


そして私は先を急ぐからとワイモンドから離れようとしたとき、


おっと! そういえば君宛てに預かっているものがあるんだったよ。


そういいながら、ワイモンドは私に一枚の便箋を手渡してきた。

??

その便箋を受け取り、差出人を確認する・・・が、表にも裏にも何も書いていなかった。
私は訝しみながらその便箋を受け取ると、ワイモンドは私の耳元まで近寄り、


「また会おう」だとさ。


と呟くと、手を振りながら颯爽と去っていった。

私はしばらく立ち竦んでいたが、その便箋を胸に仕舞うと、はぁ・・・と溜息をつく。
しかし、何故だか顔がにやついて仕方がない。
私もまた、アイツに毒されていたのかもしれないな。
なんて思いながら、再び剣術士ギルドへと向けて歩き出した。

 

剣術士ギルドに入ると、ミラは落ち着かない雰囲気でうろうろとしていた。
そしてギルドに入ってきた私を見つけると

いいところに来た!
実は頼みたいことがあるのだが・・・

と、慌てながら話をしてくる。


実は、黒衣森の南部森林にあるトランキルから、ここウルダハまでを行き来している行商人から、護衛の依頼を請けていてな。
本当は私が行く予定だったんだが、不滅隊の本部から「ここ最近起きている剣術士の襲撃事件についての対策会議」に招集されてしまってな・・・。

私の代わりにうちの「エース」に行ってもらったんだが、一向に戻ってくる気配がないんだよ。
東ザナラーンあたりからこっちに来た連中に話を聞いてもみたんだが、見ていないといわれるばかりで。

過保護なのは承知の上だが、ドライボーンのあたりまで行ってみてきてくれないか?
ここ最近の剣術士襲撃もある。今はもうお前にしか頼れないんだ・・・頼む。

不安そうな表情のまま、私に頭を下げるミラ。
私はあわてて頭を上げるように言い、快くその願いを請けた。


そして私は、ミラの依頼を請けて、ドライボーンへと向かった。

 

 

~ ドライボーン ~

ドライボーンはザナラーン地方の東側、北にグリダニアに属する黒衣森の南部森林にほど近い所にある軍事拠点である。

元々ザナラーン地域はサヴァナ気候帯上にあり、全体的に「渇きの大地」とも呼ばれるほどに気温が高い。気候は大きく夏場の雨季と冬の乾季に分かれているものの、夏場は特に海側から流れ込む湿気と、一部地表に露出しているティノルカ森林地帯から流れる大量の地下水によって、空気は思いのほか湿潤であり、肌に粘りつくような厳しい暑さが特徴である。

気候に似あわず水が豊富なザナラーンではあるものの、地下水は硬い岩盤の下を流れている上、地表の土壌はその岩盤が風雨によって風化し堆積したものであるため、植物が育つために必要な有機物に乏しく、農業には適さない土地となっている。特に南ザナラーンは砂漠化が進んでおり、その影響はウルダハまで迫っている状況にある。

東ザナラーンは海から離れているせいもあり、中央・西ザナラーンに比べると空気は乾燥している。空気が澄んでいる影響もあってか太陽から直接地表へと届く日射量も多く、肌を刺すような暑さが特徴的である。ただし、日陰に入ると思いのほか涼しいため、慣れてしまえば湿度の高い中央・西ザナラーンよりもすごしやすい。


ドライボーンの由来となった「乾いた骨」というのは、太陽の日射と極度の乾燥状態により、この地で行き倒れてしまうと体の水分が蒸発し、干からびてミイラの様になることから来ている。
ただし最近では、第七霊災の影響で大きく地割れを起こしたことにより、ティノルカ森林地帯から流れてくる地下水が露出したことで湿度が上がり、ごくまれに雷を伴う雷雨となることもある。


ドライボーンは元々、北に栄えるグリダニアとの国境に近く、ウルダハとグリダニアを結ぶ交易中継地点として栄えていた。
ドライボーンは窪地にあり、平原の多い東ザナラーンとしては唯一ともいえる、強い日差しから身を守ることの出来る天然の洞穴が開いていたほか、一部地下水脈が露出していたこともあり、自然と集落として発展していった経緯がある。


厳しい気候によって食料資源に乏しいこの地域で度々起こる飢餓問題を解決するため、ラノシアからドードーが持ち込まれていたが、ドライボーンの厳しい環境においてなかなか繁殖には至らず、今はより高効率で環境適応に強いクルザス産のアルドゴートが放し飼いにされ、ドライボーンの食糧事情は一定の安定を見せている。

しかしながら、一部のアルドゴードが野生化し独自にテリトリーを作り、暴れることがあるため、その討伐に苦慮している現状にある。

 

ドライボーンにある聖アダマ・ランダマ教会は、偉大なる商人とされた「アダマランダマ」を聖人と讃えて、ナルザル教団によって建築された信仰建築である。
アダマ・ランダマはこの地を活動の拠点として、商人として成功したことから、死後「商売の神」としてこの教会に奉られ、教会にはその商運にあやかろうと多数の商人が訪れていた。


しかし、南からはアマルジャ族の領土侵攻、北はグリダニアとのウェルウィック新林をめぐる国境線問題により、ドライボーンは次第に商業拠点としてよりも、軍事拠点としての重要性が増していった。
バザーが開かれていた洞穴内部は不滅隊により接収され、警備隊が多数常駐することにより、ただでさえ狭いドライボーン内部での商隊の往来が制限されることとなり、次第に交易中継点としての機能を失っていった。

軍事拠点化するライボーンを嫌った商人達は、ドライボーンの北側にある山岳地帯へと移り住み、ゴールドバザーを開いた。