FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第二十話 「渇きの大地の黒き蜥蜴」

わたしはチョコボポーターを利用し、急ぎドライボーンのある東ザナラーンへと向かった。
少しでも早く辿りつきたいところではあるが、道中ですれ違う可能性もある。
私は大きな街道を逸れないように、途中途中にある集落に寄っては門番に聞き込みをしながら移動した。しかし、どこの集落でも見かけてはいないと言われてしまう。


結局、道中で剣術士の護衛する商隊とは出会うことなく、私はドライボーンに辿りついてしまった。


ざわつく心を抑えながら、私は早速情報収集を始める。
しかし、窪地にあるドライボーンでは外の様子を伺い知ることが難しいせいもあってか、商人と剣術士を見かけたものは誰一人いなかった・・・とすると、ドライボーンにも寄っていないことになる。

街頭での聞き込みをあきらめかけた時、


ここら一帯を警備している不滅隊の連中なら何か知っているかもしれない。
あそこに詰所あるから行ってみるといい。


と、一人の男がわざわざ追いかけてまで教えてくれた。

 

不滅隊の施設の中に入ると、突然の訪問者である私を見て、隊長と思わしき人物を取り囲むように立っていた不滅隊の面々がざわついた。

私が剣術士ギルドの者であること。ウルダハへと向かう商人の護衛を請け負ったが、商人も護衛も未だ戻って来ないため捜索に来た。

ということを伝えると、不滅隊の隊長らしき人は「あぁ」と声を漏らし、警戒する不滅隊の隊員をたしなめて、部屋の外へと退出させた。

???

なんだろうか・・・確かにここはウルダハの軍隊ともいえる組織の施設だ。
だが、別に一般人は元より、冒険者が訪ねてくることなんて普通にあるだろうに。
まさか銅刃団よろしく、不滅隊もまたおかしなことになっているのか?


私の不審感を感じ取ったのか、不滅隊の隊長らしき人は、

いや、驚かせてしまってすまなかった。
実は今、ラウバーン局長から届いた勅令について話し合っていてな。
セキュリティ上、本部からくる勅令はすべからく部外へは秘匿しなければならない決まりになっている。
最近じゃガレマール帝国の間者が不滅隊に入り込んでいるって噂もあるくらいなんでね。

そこに君が突然の訪問してきたので、驚いてしまったんだよ。

万が一にも無いとは思うのだが、
なにか・・・・私たちの話を聞いてしまった・・・・とかいうことはあるまいな?


不滅隊の隊長らしき人はニコニコと笑っていたものの、こちらの表情から何か変化を探るような目つきでこちらをじっと見つめている。

そういう態度をとること自体、さらに怪しさが増すだけだということに気が付いていないのだろうか。
とはいえ、実際のところ何一つ聞いていないのだから「聞いていない」としか答えようがない。

私の表情の変化を神経質そうな目で読み取りながら、言葉に嘘は無いと思い至った隊長らしき男は、


君は商人とそれを守る剣術士についての情報を探しているとのことだったね。
実は先日、アマルジャ族に商人が襲われているという目撃情報を受けて、捜索に出たばかりだったのだよ。
街道沿いを中心にその近辺も含めて捜索したのだが、結局見つからなかったんだ。
街道近くには襲われた形跡すら無かったからな・・・
ガセだったのか、もしくはうまく逃げきったのだろうと思って捜索は打ち切ったんだが、そうか・・・見つかってはいなかったのか・・・


不滅隊の隊長らしき人は、わざとらしいほど大げさに嘆き、残念そうな顔をしながら話を続ける。


ここ東ザナラーン地域の東の方にはな、アマルジャ族の軍事拠点があるんだよ。


ドライボーンはアマルジャ族の領土侵略から守る最前線基地でもある。
だが・・・情けない話ではあるのだが、ドライボーンとアマルジャ軍陣屋との間に広がる草原地帯は、アマルジャ族によって実効支配されているんだ。


荷馬車ごと誘拐された、もしくは何かの理由で草原に立ち入ったせいで、アマルジャ族の手にかかったとなれば、こちらとしても手の出しようがない。
こんな言い方しかできなくて申し訳ないのだが、諦めてもらうしかないだろう。

 

不滅隊の隊長らしき人は、しまったな・・・とばかりに腕を組みながら唸っている。
私はどのあたりまでを捜索したのかを聞くと、街道沿いを中心としてその周辺の草むらの捜索は行ったとのことだった。それ以上内側については、うっかり踏み込んだところをアマルジャ族に見つかってしまうと、宣戦布告したと勘違いされる恐れがあるために捜索は行っていないとのことだった。


私は不滅隊の隊長らしき人に礼を言うと、踵を返して駐屯所から出ようとする・・・と、

「ちょっとまて」

と不滅隊の隊長に呼び止められた。


もし捜索に行くのであれば、我々も手伝おうじゃないか。
そう言って、周りで待機していた不滅隊の隊員に声をかけると、捜索に同行するように指示をした。

・・・・・監視か?

私はその申し出を深読みする。


理由はどうあれ、見つけられなかったのはこちらの落ち度だ。
一人より二人、二人より三人いたほうが見つかる確率は広がるだろう?
見つかった商人達を運ぶのも、どこからが不可侵領域となるか知る上でも、居ても困らないはずだ。
君の自由に使ってもらっていい。

頼んだぞ? お前たち。

不滅隊の隊長らしき男の命令に「ハッ!」と大きな声を出して敬礼する。

私は一抹の不安を感じつつも、その申し出を断ることもできずに、不滅隊の隊員を連れて捜索に出た。

 

~ ハイブリッジ ~

ハイブリッジは東ザナラーン地域の北東部、ウェルウィック新林とドライボーン地区の境目にある峡谷にかけられた橋である。


元々この辺りはザナラーン平原の一部であったが、第七霊災時、ダラカブ落下の衝撃で起こった地殻変動により大陸ごと地割れを起こし、今のような渓谷が出来上がった。
その後、グリダニアとの交易路の確保のために木で組まれた簡易的な橋が建設された。

しかし谷の深さにしては貧弱だった上、断続的に起こる小規模な地震で不安定に大きく揺れる橋は「通るのも命がけ」との悪評が経ち、怖がって往来を拒むものも多かった。
それもあって、ウルダハは巨額の建設費用を投じて石による強固な橋へと架け替えを行った。

ハイブリッジの建設作業時に、渓谷の断面の一部に石造のような人工物の一部を発見、度重なる発掘調査の結果、それはベラフディア王朝時代の遺跡と断定された。


ハイブリッジの建設費用にて財政を圧迫されていたウルダハは、それが大きな観光資源になると予想。
ウルダハは元より、グリダニアからの観光客の集客も期待して、ハイブリッジに渓谷遊覧用の飛空艇発着場も併設したが、予想に反して集客にはつながらなかった。
というのも、この辺りにはキキルン盗賊団の根城があり、アマルジャ族へと売り飛ばす目的としての誘拐騒ぎが頻発しているため、のんびり観光に来ようと思う一般人はいなかったのである。

 

閑話休題


私はまず不滅隊の隊員たちとハイブリッジの前まで行き、荷捌きを行っている人に剣術士が護衛する商隊を見ていないか聞き込みから始めた。
すると「その商隊のことかどうかはわからないが・・・」という前置きをしたうえで、一つ一つを思い出しながら話しを始めた。


荷捌き人の話によると、
若い剣術士の男が護衛する商隊がここを通る際に、つい先日にあったハイブリッジ防衛戦でついた生々しい被害の跡を見て、ショックで貧血を起こしたのか地面にへたり込んでしまった。
それで、少しの間気持ちが落ち着くまでここで休憩していったとのことだった。
あまりにも顔が真っ青だったものだから、なんとなく記憶に残ってしまっていたらしい。
出発したその後についてはわからない。

とのことだったが、商隊が出発した後すぐに天候が変わったので、心配はしていたらしい。


ハイブリッジを通過して、ドライボーンへは来ていないことを考えると、行方不明となったのはその道中に限られてくる。北西側にゴールドバザーはあるが、そこへ寄り道することは考えにくい。
とすれば・・・・やはりこの草原の中か・・・・あまり考えたくないがアマルジャ族の連中に捕まったかのどちらかだろう。

考えていても仕方がない。私は荷捌き人に礼を言い、情報料として金を渡した。
受け取った荷受人は「これで新しい毛生え薬が買える!」と大喜びしていた。
・・・・その頭ではもう・・・いや・・・・これ以上はやめておこう。


私はまずは目撃情報のあったところを中心に捜索を始めた。
不滅隊の隊員に、すでに捜索を終えているところを聞きながら一つ一つ確認していく。
しかし、東ザナラーンは平坦で遠くまで見渡せるとはいえ、足元に生える低い草木やゴロゴロと点在している大きな岩のせいで死角も多く、決して探しやすいとは言える環境ではなかった。


幾ら荷馬車が大きいとしても、死角に倒れていたとしたら、すぐそばまで近寄らない限り発見することはできないだろう。また不滅隊の隊長が言っていた通り、アマルジャ族のテリトリーで不用意には近寄ることが出来ない範囲も多いため、商隊自体を見つけることはできそうになかった。

人を探したのでは見つからないか・・・
私は捜索方法を切り替え、足元を見ながら不自然なところが無いかを重点的に探した。
もし、荷馬車が街道から外れたのであれば、不自然に草や木が倒れていたり、車輪の轍があるはずだ・・・

私の狙いは当たり、ほどなくして不自然になぎ倒された枯れ木を発見する。
傷ついた幹を見る限り、人の手でできるものではない。
不滅隊の者は、近くに放牧されているアルドゴートの仕業を疑っていたが、この傷は硬いもので引きずらないとできない傷だ。

不滅隊の隊員に、周りにアマルジャ族の連中がいないかどうかを警戒してもらいながら、傷跡を辿るように地面に残る痕跡を探していった。
そして、街道から大きく離れ岩の段差から落ちたせいで壊れたとみられる、横倒しになった荷馬車を発見した。


私は急ぎその馬車へと駆け寄り、横倒しになった荷台の中を見てみると、傷ついて身動きの取れない剣術士の男と、介抱する商人の姿を確認した。

商人は私の姿を確認すると、一瞬「ヒッ」と怯えたものの、私がヒューランだと分かると「助かった!!」と大きく声を上げて喜んだ。
剣術士もまた、私の姿を見ると「よかった・・・」と小さく呟き、なんとか繋ぎとめていたのであろう意識を失って倒れた。
私は気を失った剣術士を背負い、商人と共に荷台から外に出る。そして、不滅隊の隊員から受け取った水の入った袋の一つを商人に渡し、もう一つの水袋のふたを開けて剣術士の顔にかけた。

若い剣術士は、無意識の中でも水の気配を感じたのか、ぱくぱくと口を動かして水を飲もうとしている。
私は若い剣術士の口元に、ポーションの入った瓶の口を当てて少しずつ飲み込ませた。

しばらくすると、若い剣術士の男の意識は回復し、目を覚ました。
不滅隊の隊員から今行える最低限の手当てを受けて、落ち着きを取り戻した剣術士に今回の経緯を聞いた。


若い剣術士の男によると、
トランキルを出発して、ハイブリッジを越えたあたりで突然天候が悪化。強風吹き荒れる雷雨の中を急ぎドライボーンに向けて移動していたが、北側の山の方から突然矢による攻撃を受けた。
運悪く矢を体に受けたチョコボはパニックになり暴走。
制御が効かないまま草原内部へと暴走し、窪みになっているこの場所に落っこちた。

荷馬車が落下する際、衝撃で大きく投げ出される商人を何とか抱きかかえたまではよかったが、露出する岩肌に叩きつけられて怪我をしてしまった。

その後、商人の力を借りて何とか荷馬車の中へと移動した。
雷雨がやんだ後も、襲撃から身を守るためずっとここに身を潜めていた。

商人はこの草原の中にいることの意味を知っていたらしい。
アマルジャ族に襲われる恐怖のため、外に助けを呼びに出られない状態だった。
とのことだった。


若い剣術士の男はすべてを話し終えると、自分の不甲斐なさに打ちひしがれた様子で、ぐったりとうなだれる。目からはポロポロと涙を流し、悔しそうに歯を食いしばっていた。
私はそんな若い剣術士の男に「よく商人を無傷のままで守ってくれたな」と優しく声を掛けた。

天候が悪く視界と聴界が効かない中、どこから襲われたかすら把握できない状況で、暴走する荷馬車から商人を怪我ひとつさせずに守り、今の今まで生き延びたということ自体、僥倖に近い。


私は剣術士の男を背負うと、不滅隊の隊員に商人を送り届けることをお願いし、ドライボーンまでの帰路に着く。若い剣術士の男の傷はポーションだけでは直せないほど酷く、意識はあるものの痛みで動けそうにもなかったため、怪我の療養のため、宿屋の一室を借り若い剣術士の男を留まらせた。

一通りの段取りを終えた私は、不滅隊の施設に顔をだし、隊長らしき男に礼を言った。
隊長らしき男は「見つかってよかった。我々が役立てたこともな。」と喜んでいた。
私は剣術士の男の容体を伝え、いい回復薬がないか聞いてみたが、少し前に起こったハイブリッジでの大規模な戦闘の時に、備蓄分はすべて使ってしまったとのことだった。

私は宿へと戻り、店主に宿代とは別に金を渡し、戻ってくるまでの間の剣術士の世話をお願いして、急ぎウルダハへと戻った。

 

剣術士ギルドに戻ると、私はミラのもとに駆け寄り、商人の護衛をしていた剣術士の男を見つけたこと、道中で何者かに襲われ、重傷を負ったこと、商人は無事なことを伝えた。

先日の槍術士のこともある。
私はミラに剣術士の男が襲われた時の状況をこと細かく説明し、無事商人を守ったことを強調した。


ミラは私の話に少し納得のいかない表情をするものの、

・・・・そうか。
なんにせよ早く回復薬を届けなければならないな。
だが、今ここにはお前の持っているものと同じものしかないのだ・・・
お前を使ってばかりで申し訳ないのだが、錬金術師ギルドへ行って急ぎ特製の回復薬を作ってもらえるよう依頼をしてきてもらえないだろうか?

・・・ただ、あいつは偏屈な奴だからな・・・
一応紹介状を書いておくから、断られても無理矢理でもいいから直接渡せ。もしそれでも嫌がるようだったら、


バラすぞ」といえばしぶしぶでも受けるだろう。