FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第二十二話 「赤い剣術士」

 

セヴェリアンお手製の「特製ポーション」をもって剣術士ギルドへと戻ると、何やら中の様子が騒がしい。私はせわしなく指示をしているミラに、セヴェリアンからポーションをもらってきたことを報告した。すると「本当に作ってくれたのか!?」と驚きの表情をしている。
・・・・どうやらミラ自体もあまりあてにはしていなかったらしい。
ミラにこの特製ポーションを持ってドライボーンへと向かうことを伝えると、

「いや、ポーションはこいつらに持っていかせるからいい。それよりもだ! 剣術士ばかりを襲う集団の居場所が特定されたんだ。お前にはその討伐に向かってほしい。今回はうちの連中の他にも、不滅隊の応援部隊も一緒に来てくれる。不滅隊はすでに現地に向かった。お前もこいつらと一緒に急ぎ向かってくれ!」

そう慌ただしく指示をしてきた。

(やれやれ・・・休む暇もないな・・・)

と思ったその時、

「相変わらず男臭ェギルドだな、ここは。 お前らちゃんと風呂入ってんのかァ?」

と呑気なことを言いながら、腰に見たことのある剣を下げた剣術士が入ってくる。あれは・・・クイックサンドで出会った男だ。

「お前は ! アルディス!!」


ミラはその男を見て驚きの声を上げる。
しかしアルディスが「よっ」と軽く声を掛けると、驚きの顔から一転怒りの表情へと変わっていった。


「よぉミラ。元気そうじゃねェか。しばらく見ないうちにキレイになったんじゃねェか?」

「アルディス、貴様、どこをほっつき歩いていた!? そして何故、いまごろになって帰ってきた!? 答えろ!」

と、ミラはすごい剣幕でアルディスに問い詰める。

「そうカッカするなよミラ。 いわゆる自分探しの旅ってやつか?  俺、こうみえてもセンチメンタルなんだよな。」

「冗談は顔だけにしろッ! 金輪際、ギルドの敷居を跨ぐな! 今度私の前に現れたら、ニヤけた面をバッサリいくぞ!」

「お~お、眉吊り上げちゃって、まァ。 せっかくのいい女が台無しだぜ。ミラ。 ・・・・・わかったよ、そう怒るなって。さっさと退散するとするか。お~怖ッ。」

アルディスは肩をすくめながら、のらりくらりとミラの口撃を躱す。そして出て行こうとする間際に、アルディスは真剣な顔になりミラに向かって言い放つ。

「だがな、出ていく前に一つだけ言いたいことがある。剣術士を襲う集団の討伐に、なぜお前がいかない?」

「なっ!? 別に行かないわけじゃない!私はギルドの代表として指揮をしなければならないんだ!」

「そうは言ってもな・・・未熟とわかっている奴らに仕事を押し付けて、偉そうにしているようにしか俺には見えんがな。」

「・・・くそっ!! 突然現れたと思ったら好き勝手なことを言って!ここを捨てて出てったお前に何がわかる!」

そういって近くにおいてあった剣を手に取ると「お前はここに残れ!!」と私に言い放ち、ギルドを飛び出していった。呆気にとられる一同であったが、その後をギルドの男たちは焦るように追いかけていった。残れとは言われたが、私も後を追いかけようかと思案していると、

「待て。お前には話がある。」

と、アルディスに制止された。だが・・・と渋る私に対して

「大丈夫だ。あれでもミラは相当に強いからな」

と諭してくる。

「ここではちょっとあれだからな・・・今からクイックサンドに行くぞ。酒でも飲みながら話をしようじゃないか。」

アルディスは手で酒を飲むしぐさをしながら、剣術士ギルドから出ていこうとする。しかし私がここを出て行ってしまうと剣術士ギルドに誰もいなくなってしまう。私は留守番をしなければならないといったが、

「お前がここに残ったところで何をできることもないだろ。おいっ! ルルツ!」

アルディスは受付嬢のルルツに何かを伝えると、ルルツはびっくりしたように驚き、アルディスの話をうんうんと真剣に聞いていた。私の知っている内でルルツがあんなにまじめな応対をしている姿を見るのは初めてだ。

「今日はもう剣術士ギルドは閉めるとよ。どうせミラだって戻ってくるのは夜になってからだろうしな。」

いそいそと閉める準備をしているルルツ。
突然の展開についていけずにオロオロとしている私に

「何をしてるのですかこのグズ! ノロマ!」

と、ルルツは私の知っているいつもの口調で罵った。


(アルディスに一体何を吹き込まれたんだろうか・・・)

「ほら、受付がそう言ってんだからさっさと出る」


私はアルディスに強引に肩を掴まれ、クイックサンドに強引に連れて行かれた。



クイックサンドに入ると、いつもに比べて人が少ないことに気が付いた。確かに時間帯的には混みだす前には早い時間ではあるものの、いつもたくさんの冒険者で賑わっているクイックサンドにしては閑散としている。
私達が席に座ると、珍しいことにモモディ女史が注文を取りに来た。

お久しぶりねアルディス。あの一件ぶりってところかしら?」

そういいながら、水の入った器をテーブルに置いた。どうやらモモディ女史とアルディスは顔見知りであるようだ。

「ご機嫌麗しゅうモモディ。いつも変わらずお綺麗で」

と言いながらモモディ女史の手を取ると、軽く口づけをする。

「ふふっ、あなたは相変わらずね。」

こんなおばさんを口説くなんて、あなたかサンクレッドぐらいなものよ?  まあ残念だけど、お世辞で釣れるほど私は安い女じゃないけれど?」

「俺は女性の前では本当のことしか言わないポリシーでね。それともモモディは若い男性の方がお好きかい?  あんなヒョロヒョロの若造より、俺の方が女性を喜ばす自信はあるんだがね。」

そんな大人な会話が目の前で繰り広げられている。
冗談なのか、それとも本気なのか。
色恋沙汰に疎い私にはいまいち理解できない。


「それはそうと、久しぶりにモモディの手料理を食べたくてね。とびっきりのやつをお願いしたんだが?」

そう言ってアルディスは机の上に「どんっ」と大金が入っているであろう大きさの金袋を置く。モモディ女史はその大金を見たあと、動揺することもなくアルディスの顔を見る。
そしてモモディはアルディスの意図を察したのか「はぁ・・・」とため息をつくと「そういうことね」と呟き、テーブルから離れていった。
そして、他のテーブルに座っている客に何かを説明し始めた。

モモディの話を聞いた客は、慌てて飛び出していくもの、やれやれと言った感じで出ていくもの、はたまた頷きその場に留まるものと、人それぞれの反応を示していた。ただ、酒場に残るものには冒険者らしき者しかいない。

一通りテーブルを回った後、モモディ女史はアルディスに「これでいいかしら?」というと「迷惑をかけるな」とアルディスは答えた。そしてモモディ女史は私に対して「あなたも厄介な人に見染められたわね。」と言いながら、どこか哀れむような目で私を見ていた。

 

私は今の自分の置かれている状況が全く分からない。いや・・・ただアルディスという男の誘いでクイックサンドに飯を食いに来ているだけなはずだが、嫌な予感がしてならないのは何故なのだろう。私はアルディスに説明を求めたが「じきにわかるさ、気にするな」としか答えてくれなかった。

程なくして出来立ての料理と酒が運ばれてきた。おいしそうな湯気と共に食欲を掻き立てる匂いが充満する。アルディスはさっそく酒を手にして「俺たちの出会いに」と言いながら乾杯した。
その後しばらく、アルディスはクイックサンドの料理を食べては「ふほっ!相変わらず絶品だぜ!」なんて言いながらガツガツと料理に手を伸ばしては、グビグビと酒をあおった。私もアルディスの食いっぷりと鼻孔をくすぐる旨そうな匂いに負け、食事に手を付けた。

私達は、ウルダハやモモディ女史のことを話のネタに雑談をしながら、一通り出てきた料理を食べ終わると、一息ついたように酒をゆっくりと飲み干し、新しい酒を注文する。

「それにしてもお前、随分とミラの奴に信頼されているんだな。」


と、アルディスは急に切り出してきた。私はそんなことはないと謙遜するが、

「いや、あいつは人に頼ることを苦手にして生きてきた奴なんだよ。自分のことは自分でやらなきゃ気がすまねぇというか、自分の考えと違うことをするやつを平気で見下すような奴だった。まぁ自分の親父を一番の誇りにしていた奴だからな。
虎の威を借りるっていうかな、自慢の親父の娘である自分の意見は間違っていないと勘違いしていた「お嬢様」だったのさ。そんなんだから表向きはチヤホヤされながらも、周囲から孤立を深めていてな。親父さんの頼みもあって俺はそんなミラをかまってやっていたんだが・・・・

ある事件で親父さんが亡くなって、俺もこのウルダハから出て行かなきゃならなくなった。偉大な指導者を失った剣術士ギルドを閉めようかって話になったんだが、ミラは続けると言い出した。案の定、人望なんて皆無に等しかったミラについていく奴なんてほとんどいなくて、栄華を誇った剣術士ギルドは不名誉な烙印を押されて長き歴史に幕を閉じようとしていた・・・・が、

剣術士ギルドは未だこのウルダハにあるじゃねぇか!」

アルディスは運ばれてきた酒を受け取ると、一気に飲み干すように酒をあおった。そして嬉しそうに顔をほころばせて、話を続ける。

「二度とウルダハには戻ってくるつもりはなかったんだが、やっぱりミラと剣術士ギルドのその後が気になってこっそりと戻ってきたんだ。ついでに親父さんの墓参りもしたかったからな。剣術士ギルドがどうなっていようと、ミラがどうなっていようと俺は現実を受け入れる覚悟をしていたんだ。

で、どうだい!

確かに全盛期に比べりゃ小さくなっちまったし、昔いた奴も数えるほどしか残ってねぇ。だがそれでも親父さんや先代達が受け継いできた剣術士ギルドは今も残っている。
ここまで来るのにどれほどの苦労をしてきたのかはわからねぇ。
しかしだ、ミラは折れることなく自分の掲げた信念を突き通したってわけだ!

どうやら俺の取り越し苦労だったようだ。

人は人に出会うことによって変わっていく。そして別れることでまた強くなる。

若い奴ってのはそれが当たり前のように出来るからうらやましいぜ、ほんとによ。」

アルディスの目には少しだが涙のようなものが浮かんでいた。私は剣術士ギルドに戻って手伝うつもりはないのかと聞いてみるが、

それは藪蛇ってもんだろ。俺は一番つらい時期にあいつ一人を置いて出て行ったんだからな。どんな理由があれど、俺はもうアイツから信頼を獲得することはできねぇンだよ。だが、もしお前さえよければミラを支えてやってほしいと思ってるんだがな。」

そう言いながら、にやついた嫌らしい笑顔で私を小突いてくる。自分だってそんな柄じゃないというと、心底残念そうな顔をしながら、

「ほんと面白くねぇ奴だなぁ・・・お前は何を楽しみに生きてるんだ?  真面目に生きているだけじゃ、短い人生なのになんの楽しみもねぇんだぞ?」

なんて失礼なことを言ってきた。正直心外ではあったが、確かに一理はあるかもしれない。今までがつらい人生であったのならば、この先の人生を楽しむかどうかもまた自分の選択による。だが不器用な私にとってその選択をすること自体が難しいのである。
いまいちノリの悪い私をいじるのに飽きたのか、急に真剣な表情に戻り、

「俺もそろそろけじめをつけなきゃならねぇンだよな。いつまでも逃げ回っていたんじゃ、頑張ってきたアイツに顔向けできねぇ。だがやっぱり俺一人ではできねぇこともあるんだよ。

そこでだ・・・ミラも頼るお前に俺も頼らせてくれ。」

そう言いながら、腰に下げていた一振りの剣を手に取る。

「伝説の武具職人ゲロルトの最高傑作「フレンジー」。 コロセウムの英雄たちに贈られた名剣のひと振り・・・・・・俺には過ぎた得物だがね。 そしてもう一人、同じ剣を持っている男がいた。 かつてはミラと同じく、信念という名の炎をその瞳に宿した男だった・・・・・・。
いいか、頼みってのは・・・・・・」

その時、ドカドカと複数の人がクイックサンドに駆け込んできたかと思うと「ヒュンッ」という風切り音と共に矢が目の前を通り過ぎ、アルディスの持っていた酒の器に風穴を開けた。

「来たか・・・」

アルディスはそう呟いて、突然の攻撃に動じる様子も見せずに、矢で射貫かれて中身がすべて零れ落ちた器を残念そうにテーブルの上に置くと、乱入者の一団に目を向ける

「チッ・・・・はずれかぁ・・・まぁ・・・しゃあない。」

乱入してきた一団を見て、自分の予想と違っていたのか、とても残念そうな顔をしたものの、場内に残っていた周りの冒険者たちに目配せをしている。冒険者たちも目で合図をするように答えていた。

「剣術士アルディスだなッ!? 貴様の命、頂きに来たッ!」

襲撃者たちは、アルディスに対してご丁寧にも前口上をする。

「いやなこった、やんないよ。」

まるでやる気がなさそうな「ぐでっ」とした体勢で襲撃者の口上に答える。しかし、いつ襲い掛かられてもいいように、剣にはしっかりと手が掛けられていた。

「ほざくなッ! 覚悟しろッ!」

「やれやれ、冗談の通じないヤツらはこれだから。 酒を味わう暇もありゃしねェ。
まぁ・・・女に囲まれるのは嫌な気がしねぇが、小汚ねぇ悪党どもに囲まれたんじゃ酒を飲む気も失せるわな。何を覚悟すればいいのかわからんが、こんなところで揉め事を起こした自分たちの身は案じたほうがいいと思うがな。」

そう言ってアルディスはゆっくりと立ち上がると、まるですべてが打ち合わせされていたかのように周りに残っていた冒険者たちもまた各々が持つ武器を手に取り、立ち上がる。

「さて・・・襲撃者諸君。賞金首の俺を打倒して大金せしめようと集団で襲ってきたまではいい。だがな「どこの誰が」流したかわからんような情報に踊らされて、こんなところにほいほいと来るもんじゃあなかったな。
何処から流れてきた奴かは知らねぇが、荒事を起こすには時と場所を選んだほうがいい。」

と、突然解放されていたクイックサンドの扉が「バンッ!」という大きな音を立てて閉まる。そして「ガチャン!!」という甲高い音が場内に木霊した。

「突然のことに焦った襲撃者の一人が、閉まった扉を開けようとするがどうやら「外側」からカギが掛けられたらしい。私は改めて酒場の中を見渡すと、いつの間にやらモモディをはじめとする従業員の姿が忽然と消えていた。」


「くそっ! 図ったな!!」


「くくっ・・・その言葉は俺に言わせたかったんじゃねェのか?
ちゃんと周りを見てみろよ。ここが「どういうところなのか」ってのがわかるからよ。」

私はアルディスの言葉に釣られるように場内を見渡してみる。

(!?)

窓や灯具が少なく、いつも薄暗いクイックサンドなので、今の今まで気が付かなったが、柱や床、そして装飾品を改めてみてみると、無数の切り傷や、何かが刺さったであろう穴、そして大きく破壊されたのか、新しい木で継がれた跡など、酒場にしては穏やかではなさ過ぎるほどの痕跡で溢れかえっていた。


ようこそ「地獄の一丁目へ」・・・なんて安っぽい口上、俺に言わせた罪は大きいぜ!


そういって椅子を「ガンッ!」と蹴り飛ばし、闘いの合図を出す。
それに呼応するように冒険者たちは一斉に襲撃者達に襲い掛かった。


アイツらの狙いはこの俺だ!
俺が槍術士共をひきつけておくから、お前は冒険者と一緒に弓術士や呪術士どもを蹴散らしてくれ。なにこの人数だ。あっという間に終わっちまうよ。

そう言いながら「ヒューッ!!」と奇声を上げながら楽しそうに敵陣の中に飛び込んでいく。とはいえ襲撃者は、私たちと冒険者を合わせても倍以上の人数がいる。しかしアルディスは迷うことなく、一直線に敵へと肉迫していく。繰り出される攻撃や飛び向かう矢をいとも簡単に打ち払い、あっという間に間合いに入ったかと思うと、相手に防御を取らせる暇もなく一気に薙ぎ払う。
さらに、アルディスへと向けられる攻撃自体が自然と避けていくように見える。それは攻撃予測が神がかっているからなのか「攻撃する前にすでに避けられている」という摩訶不思議な光景であった。

私はアルディスへの攻撃に夢中になっている遠距離攻撃陣へと突っ込み、攪乱する。そして冒険者達と共に統制を失った襲撃者達を囲み、一人一人を確実に打倒していった。そしてクイックサンドでの闘いは、あっという間に圧倒的な勝利で幕を閉じた。

「なんだ・・・随分と不甲斐ねぇなあ。もちっと楽しませてくれてもいいのにな。」

そういいながらアルディスは近くにあった酒の入った器を手に取り、

「おぉ!!!」

と高らかに勝鬨を上げて、ぐびぐびと酒を飲みほした。戦闘に参加した冒険者達も合わせるかのように武器を高らかに上げて叫んだ。そして「カチャンッ」と音が鳴ると「ギギギッ」というきしむ音を立てながら閉じられていた扉が開く。そして扉の間からモモディがひょこり顔を出した。

あら、もう終わったのかしら?  随分とあっけないものね。

扉の外から様子をうかがっているモモディに対して、アルディスは大きく手を広げて喜びを表現する。

さすがはモモディ率いる冒険者ギルドだ!

活きのいい連中が揃っているもんだから、あっという間に終わっちまったよ!  まぁ、あまり派手に暴れ回られてもこっちは困るんだけれどね。

そう言ってモモディ女史は荒れた店内を見渡し「まだましな方かしらね」とため息をついた。そして、いつの間にか戻ってきていた給仕の者達は、先ほどアルディスがモモディに渡した金袋の中から金をとりだし、小分けにして戦闘に参加した冒険者たちに配っていった。そして金をもらった冒険者たちは「毎度あり!」と言いながらほくほくした顔で店を後にしていった。

「ほれ、これがお前の分だ。」

そう言ってアルディスは金の入った袋を手渡してくる。中身はずっしりと重く、労力の割には報酬はよかった。私はアルディスが、襲撃者がここを襲ってくることをなぜか知っていたこと、冒険者との連携が仕組まれていたのではなかと思うほど自然だったことがどうしても気になった。

「ん? 襲撃者がここを襲うことを知っていたのかって?・・・・しょうがねぇ。お前にだけはネタばらしをしておくか。あいつらがここを襲うように仕向けたのは俺だからな。ここを襲ってきた連中は、俺にかけられた懸賞金目当てでここらへんに流れてきた傭兵崩れの連中だ。
だが懸賞金つってもギルドが扱うような表立ったものじゃねぇ。
何せ俺は、とうの昔に「死んでいる」ことになっているからな。
今もまだ俺が「生きていること」をまずいと思う連中がいる。そういうやつらが、俺の首に懸賞金をかけているのさ。

どこからか俺がウルダハに戻っているという情報が流出してしまったようで、この街に俺の首を狙う連中が居着き出した。だが、金に目がくらんだ連中は流れ者が多いから俺の顔を知らねぇ。だから剣術士という剣術士に片っ端から喧嘩をふっかけていたんだよ。
ウルダハで俺を知っていてなお、突っかかって来るような馬鹿な奴はいないからな。
そしてなかなか俺を見つけることができないそいつらは、業を煮やしたのか「剣術士ギルド」を襲う計画を立てていたんだよ。いくらミラが頑張っているとはいえ、今のメンツであの襲撃者の集団と対峙することは難しい。特に狭い場所での乱戦ってのは、勢いがある方が必ず勝つ。なんせ逃げ場がないからな。

だから俺は、襲撃者が襲いにくる日に合わせて不滅隊に情報を流して、剣術士ギルドの連中と一緒に討伐に向かわせて剣術士ギルドの中を「空」にしようと思ったのさ。
受付のルルツは見た目はあれだが、先代の親父さんがギルドマスターだった頃から務めているベテランだ。当然俺のことも知っているから、事情を話せば簡単に察してくれる。まぁ・・・・歳のことは聞いてやるなよ・・・あいつ怒るとほんとに怖いからな。

話しが逸れちまったな。で、動き出しが早かったところまではよかったが、どうやらミラが討伐に向かわないようなことを知った俺は、尻を叩くために剣術士ギルドに顔を出したってわけだ。人員が手薄なところに一気に攻め込まれたんじゃ、ひとたまりもないからな。

まんまとミラを剣術士ギルドから追い出した俺は、ルルツに「ここに襲撃者の一団が襲いに来るから早よ逃げろ」といったんだよ。そして、一枚の貼り紙を渡して入口に貼らせたんだよ。

(クイックサンドで待っている アルディス」

というやつをな。
モモディの冒険者ギルドなら屈強な冒険者連中がいる。だが、もしいなかった時の保険もかねて、お前を連れまわしたのさ。ま、お前と二人だったとしても、あの連中ぐらいならどうにでもなったがな。」

ハハハッ と、笑えない冗談を言うアルディス。

(・・・・・冗談であってほしいと思うのは私の願望か?)

「で、まんまとあいつらは虎穴に誘い込まれたってわけさ。だが本当はあいつらみたいな傭兵崩れの寄せ集めじゃなくて「本命」をおびき寄せたかったんだが・・・ちょっと餌が足りなかったかなぁ?そのためにせっかく貼り紙に「名前」を残したんだがな。やはり「お膝元」では動かんか。

いずれにせよ今回の騒ぎで俺の存在が表ざたになった。時間かけないうちにまた別の手を使って襲いに来るだろう。そん時にはまたお前には手伝ってもらえないだろうか?

剣術士ギルドの将来にも関わるようなことなんだが、あいつらを巻き込むわけにはいかねぇんだ・・・。」

アルディスは真剣な表情で私に依頼をしてくる。まぁ問題ごとに巻き込まれるのはいつものことだ。ましてや所属する剣術士ギルドに関わることなのであれば、断る道理もない。

私が申し出を了承すると、アルディスはにかっと笑い、握手を交わした。

「アルディス! 騒ぎを聞きつけて不滅隊の隊員がこちらに向かっているらしいわ! 出ていくなら今のうちよ!」

モモディ女史が慌てた様子でアルディスに伝える。

「おっ、それはやべぇな・・・俺がここにいたんじゃ話がややこしくなっちまう。さっさと退散するか。
じゃあな、また近いうちに連絡するよ。」

そういいながら、アルディスは急ぎ足でクイックサンドから出て行った。