第二十四話 「蠍の尻尾」
私はコッファー&コフィンへと戻り、剣術士ギルドから来た救援部隊と合流した。
そして怪我をした男を手配してもらった荷馬車に乗せて、フロンデール薬学院が運営している病院へと向かった。
~病院の解放について~
依然として減ることのない剣術士への襲撃事件について、事態の深刻化に苦慮していたウルダハ王政は、事態収拾の目途が立つまでの間、本来有料である病院利用を「襲撃にあった剣術士」に限り無償化することを砂蠍衆に提案。合議の末に可決されそれにかかる費用はウルダハ王政並びに砂蠍衆に名を連ねる豪商達による寄付金により賄われることとなった。
病院に着き怪我をした剣術士の身柄を引き渡す手続きを行う。
その際一人の錬金術師ギルドの者と思われる女が
「この方に例の薬は使用しましたか?」
と小声で耳打ちしてきた。
私は周りを見ながら小さく頷くと「わかりました・・・ごくろうさまでした」と何事もなかったかのように私のそばを離れ、怪我をした剣術士を連れて院内へと入っていった。
その後、私は剣術士ギルドへは戻らず剣術士ギルドの連中と別れてクイックサンドへと向かった。
この指輪・・・・モモディなら何か知っているのではないか?
今はミラに聞くわけにもいかないし、アルディスならわかるかもしれないがそもそも会う手段がない。
とすると、私の知人の中で知っていそうな人物を考えると、モモディ女史しか思い当たらなかった。
クイックサンドに着くと、モモディ女史の元へと向かった。
なんだかすごいことになってしまっているわね・・・
モモディ女史は神妙な顔をしながら私に話しかけてくる。
襲撃事件のおかげでウルダハを訪れる剣術士の冒険者の数が激減しているわ。
一部の有志が残って、不滅隊と協力して掃討に加わってくれているけれど、最近おかしな襲撃者も増えているらしいの。
不死人のように死を恐れないというか、だれかに操られて思考を失っているような連中だって話よ。
アルディスとは関係ないようだけれど・・・
まるで古代シラディハの不死の戦士達が、ウルダハへの復讐のため蘇ってきたかのようでなんだが気気味が悪いわ。
モモディ女史は今回の襲撃事件の気味の悪さから、ウルダハ全体を揺るがすような何か「大きなこと」が怒り始めているのでははないかと思っているようだ。
私は襲撃者が落としたかもしれない「蠍の刻印」の入った指輪をモモディ女史に見せて、見たことはないかと聞いてみた。
・・・・・ごめんなさい・・・見たことはないわね・・・
でも・・・とても趣味が悪い指輪ね・・・・一生の内一度でも、はめたいとは思わないわ。
モモディ女史はその指輪のことを知らないようだったが、
彫金師ギルドへ行ってみたら?
あそこは指輪を初めとする貴金属や宝石加工を生業とするギルドよ。
そこのギルドマスターなら何か知っているかもしれないわ。
私はモモディ女史の助言を受けて、彫金師ギルドへと向かう。
~彫金師ギルド~
彫金師ギルドは名門宝飾店「エシュテム」に併設された私塾である。
古くから豊かな鉱脈に恵まれたザナラーンにおいて、必然的に掘り出された鉱石や原石を加工する「彫金」の技術も古くより発展してきた。さらにウルダハが交易都市として栄えたこともあり、民を彩る華やかな装飾品への需要、また交易品としての需要の高まりにより、緻密にして精巧な彫金文化が花開いた。
ウルダハを代表する名門宝飾店「エシュテム」は現状に満足することに溺れず、常に新しい技術を取り入れることに余念がない。
また、東方など他地域の名工を招いて職人たちに技を伝授させるなど、常に新風を吹き込ませて「流行」を生み出し続けている。
さらに「エシュテム」の現オーナーであるロロリト・ナナリトの卓越した経営手腕により、今やエオルゼアだけでなく他地域ですら名前を知らぬものがいないほどの名門装飾店としての確固たる地位を築いている。
彫金師ギルドはその彫金技術の開発や、技術者の育成を主としている。
彫金師ギルドに入ると、受付にギルドマスターに会いたい旨を伝えた。
「入門希望の方ですか?」と聞かれたが「ある指輪を鑑定してもらいたい。今起こっている襲撃事件にかかわるものかもしれない」と言うと受付は「わかりました、ではこちらへどうぞ。」とすんなり通してくれた。
彫金師ギルドを運営するエシュテムは、ロロリトが運営する「東アルデナード商会」の傘下商店だ。
相手がどう思っているかはわからないが、正直なところ銅刃団絡みでちょっかいを掛けている自分がそのお膝元のギルドに情報を持ってくるのは気が引けた。
だが私はただの一介の冒険者だ。私ごときのことをロロリトが気にしていると思ってしまうのは、ただの自信過剰だろう。
銅刃団の女に忠告を受けてからというもの、目立って何かロロリトの邪魔になるような動きをしている覚えはない。この襲撃事件にロロリトが絡んでいなければの話ではあるが・・・
私は受付の案内を受けて、一人の若い女性の前へと通された。
だがその女性は傍らにいた魔法人形とバタバタと問答をしていた。
こ、こらっ!! なんで私のお尻をさわるんですかっ!!
女体ノ神秘ハ 神ノ最高傑作! 究極ノ美!
きやすく女性の体を触るのはいけないことなんですよ!!
せれん 尻大キイ 触りゴコチ バツグン!
失礼なっ!! お、大きくなんてありませんっ! 人並み・・・人並みですっ!!
デモせれん、オ菓子食ベスギ オ尻ハイイケド 指太ク ナッテ、 彫金デキナクナル! 注意!
アレレ? デモ せれん 胸ハ 太ラナイ ノハ ナンデ? 人体ハ フシギ!!
も~~ッ!!!!
このセクハラ人形~!!
私と受付がそばにいることに気が付かず、ポカポカと人形を叩いている若い女性。
そんなやり取りにも動じず、受付は「この方がギルドマスターのセレンディピティーです」と冷静に紹介してくる。
私は「はぁ・・・」としか答えられなかった。
受付の方が「コホンッ!!」と大きく咳ばらいをすると、やっと私たちの存在に気が付いたのか「きゃぁぁぁっ!!!」と大きな悲鳴を上げて驚いていた。
すす・・・すみません!!!
気が付きませんでした! これはまたお恥ずかしいところを見せてしまって・・・・
えっと・・・その・・・あのぉ・・・・お二人はどこから見てました?
恐る恐る聞いてくるセレンディピティーに対し「お尻を触っただのあたりからです」とこれまた冷静に答える受付。それを聞いたセレンディピティーは一気に顔を真っ赤に染めて「はわわぁぁぁ・・・」と変な声を出しながら、頭をくしゃくしゃにしながらその場にぺたりとへたり込んだ。
せれん 迂闊! ギルドマスターノ ジカク ナシ!!
すべての原因はこの魔法人形にあると思うのだが・・・・
魔法人形はさらに追い打ちをかけるように言葉を浴びせるとセレンディピティーは「ガンッ!」と無言で
魔法人形を叩いた。
ギルドマスター、お客様が見えられているのでそろそろお立ちください。
と、驚くほど冷静さを保ったまま受付の方がセレンディピティーを促した。
ただその言葉に棘があるというわけではなく、どちらかというと温かさを感じるものであったので私もほっとした。
はっ!! ジェマイム・・・とお客様? あぁっ!! すみませんでしたっ!
とセレンディピティーは慌てて立ち上がり、くしゃくしゃになった髪を指で整えながら身なりをただした。
よ・・・ようこそ彫金師ギルドへ!! ご入門希望のお客様かしら!?
違います。
と間髪を入れず絶妙なタイミングで突っ込みを入れる受付。
ジェイマムと言ったか・・・・こいつ・・・なかなかできるな・・・。
えぇぇっ!!! では・・・なんの御用で?
おろおろと焦るセレンディピティーに私は「この指輪を見てほしい」と言いながら、蠍の文様の入った指輪を差し出した。
セレンディピティーは不思議そうに受け取り、色々な角度から指輪を見ていく。
指輪を見るセレンディピティーの顔つきは、先ほどまでの頼りなさは一切なく、若い身ながらギルドマスターとしての風格を感じさせるほどの迫力があった。
・・・・この指輪は何処で?
そう聞いてくるセレンディピティーに、今ウルダハ近郊で起こている剣術士だけを狙った襲撃事件と、その襲撃現場に残されていたであろう指輪を拾った話をした。
その話は私も知っています。とても不気味で・・・不可解な事件ですよね・・・。
でも・・・すみません。この指輪のことは私も分かりません・・・
なにせ私はここのギルドマスターになって日が浅いもので・・・
ただここで作られたものではないのは確かだと思います。
この指輪は私たちが取り扱うような装飾品の類ではありません。
造形もあまいし、彫金も雑・・・・リングの幅も特定の誰かに合わせて作られたものではなさそうです。
・・・・おそらく「何かの目的」のため作られたものでしょう。
「ここを見てもらってもいいですか?」とセレンディピティーは指輪のアームの部分を指さしてくる。
その先を見てみると、小さな棘のような突起が付いていた。
多分ですが、ここには「毒」が塗ってあるのではないかと思います。
どんな効果を持つ「毒」なのかは私たちではわかりませんが、この指輪をはめた瞬間に傷口から体に毒が打ち込まれる仕組みになっているんだと思います。
血が付いていないところを見ると、この指輪は未使用品なのでしょう。
それに蠍の紋様・・・多分ですが「繋がり」を表すものではないでしょうか?
・・・さすがはギルドマスターを任されるほどの人物だ。
先ほどまで見せていた「年相応」の女性の感じとは全く違う。
ものを見極める「審美眼」にとびぬけた才能を感じる。
せれん お尻イガイは未熟! ダケド オ胸イガイハ 発展途上!!
もぉぉぉぉ!!! ネジはまた余計なことを~!!
そういいながら、再びセレンディピティーと「ネジ」と呼ばれた魔法人形はバタバタと追いかけっこを始めた。
追いかけられる魔法人形に表情もなければ言葉に抑揚もないが、何か「喜んでいる」と感じさせるものがあったのは不思議だ。
私は受付のジェイマムに礼を言うと、報酬の入った金袋を差し出す。
だが、ジェイマムは受け取りを拒んでこういった。
この件は国家の大事に通ずること。惜しまず協力することこそギルドマスターの本意でありましょう。
そういって一枚の便箋を手渡してきた。
指輪についてわかったことを簡単にまとめてあります。
「毒」については錬金術師ギルドのセヴェリアン師をお尋ねになれたらよろしいでしょう。
あのお方・・・「毒」については並々ならぬご興味があるようですので・・・。
・・・・やはりこの受付、ただの者ではない。
こうなることを予想していたのか、私とセレンディピティーの会話の内容を書きまとめていたのだ。
決して前に出ることはないが、半歩後ろで事の全体を見極めて、必要に応じて指示される前に自らが動く。それをまるで当たり前のように自然に行うさまに、美徳を感じるほどだ。
私は受付のジェイマムに深々と礼をする。いまだ追いかけっこに夢中のセレンディピティーは私が帰ろうとするのを見て「お役に立てましたかっ!!」と叫んできた。
私は「ここにきて正解だった。ありがとう。」と感謝の言葉をいい、私は通いなれた錬金術師ギルドへと向かった。
錬金術師ギルドに入るとまず私は受付に挨拶をした。
ここ最近通い詰めだったためか、すでに顔を覚えられているようで向こうも軽く会釈を返してきた。
私はセヴェリアンがいつもいるあたりを指さすと、受付の者は「こくん」と頷いた。
私はそのままギルドの中に入っていき、セヴェリアンを見つけると後ろから声を掛けた。
ん? あぁ・・・お前か。なんだ、もうあれを持ってきたのか?
ならそこの奴に渡しておけ。
とセヴェリアンは一旦振り向いたものの、声をかけたのが私だと分かると再び作業に戻っていった。
「別件で来た」と話すが、セヴェリアンは無言のまま黙々と手を動かし作業に没頭していた。
その反応にすっかり慣れてしまっている私は、彫金師ギルドの受付が言っていた通り「毒について聞きたいことがある」と言葉を続けると、セヴェリアンのせわしなく動かしていた手がぴたっと止まり、顔だけをこちらに向け「ほう・・・・毒か・・・」と呟いた。
私はセヴェリアンに「蠍の刻印」の入った指輪を目の前に差し出し「どうやらここに毒が塗られているらしい」というと、面倒そうな面持ちではあったもののどうやら興味を惹けたようだった。
セヴェリアンは私の手から指輪を取ると、先に綿が付いた小さな棒を手に取り、棘の先端あたりを念入りに拭う。そしてその小さな棒を近くにいたギルドの者に渡し「分析してみろ」と指示を出した。
これをどこで?
と聞いてくるセヴェリアンに「剣術士の襲撃現場近くに落ちていた」と伝えた。そして彫金師ギルドの受付から預かった手紙をセヴェリアンに渡した。セヴェリアンは渡した手紙を無言で読む。そして「これは彫金師ギルドの受付が書いたやつか?」と聞いてきたので「そうだ」と答えた。
そしてしばらくの沈黙の末、
うーーーーん・・・・・やはりあの受付は有能だな!
と突然声を張り上げた。
前々からあの女には光るものがあると感じていたんだが、ここまで要点のみを簡潔にわかりやすくまとめた文章を書ける奴なんてそうそうにいないからな。
こっちの無能な受付と交換してほしいと常々思っていて、一度うちに来ないかとオファーを掛けてみたんだが・・・・あの受付の女、最近就任したギルドマスターの小娘の世話があるからと断ってきたんだ。
「この私からの誘いを小娘の世話ごときで断るなどと言語道断だ!」 と怒鳴ってしまって以来、疎遠とはなっていたのだがな・・・。
セヴェリアンには珍しく「しまったな」というような顔をしながらも「あの女さえいれば俺はもっと研究に没頭できたのに」と嘆いていた。
私から言わせると仮にあの受付の女性がいたら、セヴェリアンはかえって行動と言動を厳しく管理されてしまうと思うのだが・・・・・それはあえて言わないでおこう。
話が逸れたな。指輪に付着していた「液体」については分析してやる。国の大事には全くを持って興味はないが、あの女に私の実力を知らしめるいい機会でもある。それにもしこれが人を操る類の「毒」であるとするならば、私にとっても一つの新しい研究テーマとなるだろうからな。
じっくりと時間を掛けて隅々まで分析させてもらうぞ!!
テンションが上がっているのかいつになく協力的なことが気になるが、やる気になってくれているのならそれに越したことはない・・・・まぁどうせやるのは弟子達なのだろうが、セヴェリアンが直々にやったとしたら完全にわかるまでは教えてくれないだろうし、しつこく聞くとキレられそうなので、有能な弟子たちにお任せしたほうが私にとっては助かるのも事実である。
私は少しでも何かわかったのなら連絡してくれといい、錬金術師ギルドを後にした。
その後、私は剣術士ギルドに戻ろうか悩んだ。分析結果が後日となる以上、これ以上の行動は意味がない。そういえば、いったいどのくらいで分析が終わるのか聞き忘れたな・・
そんなことを考えながら街中を歩いていると、
よう!! そこの冒険者!!
と威勢のいい声で呼び止められた。
私はその声につられて声の方を見るとそこには、ワイモンドが手を挙げて立っていた。
・・・・しまった。こいつがいたのを忘れていた・・・
ワイモンドはニコニコしながら私に向かって手を振っている。
彼はヘラヘラしていて、終始軽軽しい雰囲気を漂わせているが、素性の一端をも掴むことができないほど徹底して人格を装っている。
情報の収集と管理を生業とする「情報屋」というものはかくあるべきものなのだろう。
私は「人」としての彼を信用していないが「情報屋」としては高く評価しているつもりだ。
その彼ならば今回の事件について「何も知らない」ということこそ「あり得ない」だろう。そしてこのタイミングで私に出会い、声を掛けてきたということは「私が知りたい情報」を渡しに来たに違いない。
いやいや! なんだか大変なことになっているね!
ウルダハでこんなに大騒ぎになっているのは第七霊災以来じゃないかな!
まるでお祭り騒ぎを見ているような雰囲気で喜々として話してくるワイモンド。
私は溜息をつきながら「私はその時のウルダハのことは分からないが」と前置きし「これについて知っていることはないか?」と言いながらワイモンドに「蠍の刻印」が刻まれた指輪を見せた。
・・・・その刻印・・・どこかで・・・・
さすがウルダハの情報がすべて集まる男。一目指輪を見た瞬間に何か思い当たったようだ。
ワイモンドは私の手から指輪を取ると、蠍の刻印を見ながら「どこで見たんだっけなぁ・・・・?」と首をかしげながら記憶の断片を掘り起こしているようだった。
・・・・多分・・・多分だけど。
これは最近この辺りで力をつけている「アラクラン」って犯罪者集団の紋章に似ている・・・・ような気がするな。
だけどあの組織は裏で砂蠍衆や銅刃団と繋がりがあると噂されている集団だ。もしその噂が事実だったとして、特定の人物やウルダハにとって邪魔な集落の排除のために動くことはあっても、ウルダハ全体を揺るがすようなことを起こすとは考えられない。この騒ぎ自体、砂蠍衆にとって商売上でなんの得もないからな。
ワイモンドは少しまじめな顔をしながら、話を続ける。
実はこのウルダハ内でもかなり情報が錯綜していて、何が真実で何がガセなのか分らない状況なんだよ。
もっともらしいが情報の出どころ自体が不明だったり、ちゃんとしたところから聞いた情報がガセだったり、今混乱に混乱を極めている状況だよ。
剣術士の襲撃事件にアラクランが関与しているのか、そしてこの指輪が何を意味しているかは今の僕には判断ができない。情報屋の端くれとしては悔しい話だけれどね。
と、ワイモンドにしては随分と弱気なことを言う。
私はこの指輪についているかもしれない「毒」の解析を錬金術師ギルドのセヴェリアンに依頼してきたことを話し、何かわかったようだったら自分に教えてくれないかとワイモンドに聞いた。
へへっ! その程度のことならお安い御用だ!
あそこは国内外に口外できないような極秘研究をしているくせに、セヴェリアンのせいで情報統制ができずにガバガバだからな。あそこの情報なら俺に任せな!
しかもこの指輪の構造を見抜いたのが彫金師ギルドの新しいギルドマスターってなら、アラクランの関与も洗ってみなけりゃな!
何かわかったら必ず知らせる!
じゃあな!
と言ってワイモンドは自分の元から立ち去ろうとしたが、
あぁっ!! 本来の用件を忘れるところだった。
そう言いながらワイモンドは体を「グネッ」と曲げ、急旋回して私に向き直る。
だが無理に体を捻ったせいでどこかの腱を痛めたのか「痛たたっ・・・!」と言いながら突然地面に崩れ落ちた。
「大丈夫か?」と声を掛けると、
す・・・すまない・・・いたたっ・・・き、気にしないでくれ。
そう言いながら、ワイモンドは腰を抑えながらよろよろと立ち上がり、一枚の紙きれを懐から取り出し私に差し出した。
今君が一番会いたがっている人物からの手紙だ。彼が一番事情を知っていそうだけど、俺が聞いても「さあな」とだけ言って何も話してくれないし、彼に関する情報は前回に起きたクイックサンド襲撃事件の他には何も得られていないんだ。
まぁクイックサンド襲撃事件のように「懸賞金目当て」だったら調べるまでもないけど、今起こっている事件は同じなようで全く違うから関連がつけられなかったんだ。
でもこの手紙を預かったとき、君がこの襲撃事件解決において重要な立ち位置にいるってことは感じ取れた。君なら何か情報を持っていると思って話しかけたが、やっぱり正解だったようだね。
現時点でウルダハの将来は君にかかっているといってもいいだろう。
何とか解決の道筋を見つけてくれ。
そう言って、よろよろとその場を離れていくワイモンドを見送りながら、私は紙切れに書かれた文字を読む。そこには、
「聖アダマ・ランダマ教会」
とだけ書かれていた。