FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第二十八話 「失われた王冠の行方」

王家の王冠はそもそも、国賓を招いたときや国の行事の時にのみナナモ女王殿下が着用される。それ以外の時は王宮の奥の奥にある宝殿の中に厳重に仕舞われているのだ。

 

・・・その王冠が無くなったのは、ガレマール帝国との戦いで亡くなった多くの者たちを弔い、そして再び怪しい動きを見せ始めたガレマール帝国に対抗するため、ウルダハ・リムサ・ロミンサ・グリダニアの結束を固める目的とした三国合同での「カルテノー戦没者追悼式典」を執り行うために、各国から要人を招いて式典開催会議とその晩餐会が催された日だった。

私は晩餐会後にナナモ女王殿下からその王冠を預かり、宝殿へと持ち込んだ。
そして幾重ものカギが施されている箱の中に確かに入れ、カギを閉めた。
それは同行した我が銀冑団の総長であるジェリンス様と不滅隊隊長のラウバーン局長殿にも確認していただいている。

しかしだ・・・その翌日、ナナモ女王殿下による国民への演説の為に再び王冠を取り出そうと宝殿に入ると、その箱の鍵は開けられていて中に入っていたはずの王冠もなくなっていたのだ。

宝殿へと入る鍵自体は王宮管理であり、王冠の入った箱の鍵に至ってはナナモ女王殿下の承認が無ければ持ち出しはできない。
そもそも宝殿には窓も無く、中に入るための入り口も一つ・・・そればかりか宝殿へ至るためには一本道であり、要所要所に我が銀冑団の団員が交代で常に警護しているため、外部の者がカギを盗んで宝殿にこっそりと入ることなど不可能だ。

 

だから・・・王冠を宝殿に持ち込んだ私が真っ先に疑われた・・・が、先も言ったように私が王冠を収める箱に王冠を入れ、カギを掛けるところをジェリンス様とラウバーン局長殿は確認している。もちろん鍵の返却も含めてだ。
そのため、王宮内での私の無実は晴らされているのだが、誰かが私の失態と噂を流し、町中に広めようとしている節がある。

それは今の王政から商人による完全な自治を目論む共和派の仕業なのかどうかはわからない・・・だが、ウルダハ建国より受け継がれてきた王家の王冠が無くなったことが公然の事実として国内外に広まってしまえば、共和派に付け込まれて銀冑団はおろか王政の取りつぶしにまで発展してしまう可能性があるのだ!

 

オワインの語気が強くなる。
その表情は真剣そのもので、到底演技できるような話し方ではないと思った。
オワインが無実であるとすると、この話は本当に不可解極まりない。
たった一夜のうちに厳重に警備されている宝殿から王冠を盗み、どこかに持ち去されたのだ。道中にはたくさんの人がいて、隠れ進めるようなところでもない。

私はオワインに、宝殿に繫がるような穴が掘られていたのではないかと聞いてみたが、石造りの建物において、石を削っていたら異音で気が付くと言われた。しかしオワインもまた宝殿へと至る王室さえも把握できていない抜け穴があるのではと疑い、さんざん調べまわったそうだ。
だが、石壁を動かしたような跡などはどこにも見受けられず、そもそも人が通れるような抜け穴らしきものもなかったとのことだった。


あまりの不可解さに、我々はそもそも夢を見ていただけなのだろうか・・・なんてことも思ったりもしたのだが、現実として王冠はどこにもない。
カルテノー戦没者追悼式典までに見つからなければこのまま責任をとり、その身を裁くしかないと思っていた・・・。

その時、モモディ女史がある一通の手紙を私に届けてくれたのだ。
差出人は不明・・・だが、手紙には盗まれた王家の王冠のことが書かれていた。


「宝殿に仕舞われている若返りの薬を持ってくれば王冠は返す。」


我々は急いで宝殿に仕舞われている宝物の目録を調べてみると、詳細は不明であったものの確かに瓶に入った薬のようなものがあった。
それはかなり昔の物で、宝殿の奥のさらに奥、雑多に物が積まれて管理の行き届いていない一角に埃まみれの箱に入っていたのだ。
瓶をしまっていた箱になにか古代文字のようなものが書かれていたが、その多くが虫に食われてしまっていて読むことはできなかった。

「若返りの薬」とやらをなぜ盗賊が求めるのか、そもそも王家の王冠の交換条件に見合うものなのか不明であったため、一度錬金術師ギルドに分析を依頼しようという話も出た。
それ以前に、その手紙の主が本当に王冠を盗んだ盗賊なのかどうかすら怪しかったのだが、
近日中に行われることとなっているカルテノー戦没者追悼式典までには王冠を取り戻しておかなければならず、背に腹は代えられなかった。
王室の者と協議した末、それを宝殿から持ち出すこととなったのだ。


その手紙に記載してあった通り、返答を書いた紙を指定の場所に置いた。
次の日にはその紙は無くなっていて、その日に指定の日と場所が書かれた紙が総長室まで届けられた。わざわざ隣にあるフロンデール薬学院の小児病棟に通う小さな子に届けさせてね。
子供に手紙を届けるように言ったのは、茶色いローブを着たララフェルの男の子だったそうだ。もっと特徴を聞きたかったがフードを目深にかぶっていたからよく見えなかったと言っていた。

 

その手紙には、明日の深夜にアンホーリーエアーにて待つと書かれていた。
そして取引には私一人で来るようにと書かれている・・・・・が、こんなことを言うのは恥ずかしい限りなのだが、私は実践に出て戦ったことがない・・・いや、修練は積んではいるのだ! ラウバーン局長殿から直々にお褒めの言葉もいただいている・・・・。
だが・・・最近の襲撃者騒ぎのこともある。

道中で襲撃者に襲われ、万が一取引の時間にたどり着けないことにでもなったら終わりだ。

そこで、貴殿にその道中の護衛をお願いしたいのだ。

恥を承知でお願いしたい・・・。
私の陳腐な誇りなどにこだわっている暇はないのだ。

頼む!

 

そう言いながら、オワインは私に対して頭を下げた。
正直なところ、襲撃者のこと、ミラのこと、そしてアルディスのことと、私が抱えている問題は多い。
それよりさらに王政存続にかかわるような重大な問題に首を突っ込んでしまってもいいかどうか悩んでしまう。

襲撃事件の黒幕とされる復讐者リーヴォルドと、今回の王冠盗難とを関連付けできるようなことは何もない。だが共に国家を揺るがす出来事であることには変わりはない。
なぜこのような重大な手紙が、バルドウィンの机の中から出てきたのかも知りたい。

モモディ女史によると、この手紙が銅刃団の元連隊長の机から出てきたものであることは伏せているらしい。それは経緯の裏付けが取れていないにもかかわらず、王族側である銀冑団と共和派の私兵部隊である銅刃団との対立を生み出してしまいかねないとの判断からだった。

・・・それよりも何も、誇り高き王室直属の近衛騎士であるオワインが、一介の冒険者の私に「頭」を下げる行為は相当の覚悟がないと出来るものではない。
真摯に向けられた「覚悟」と「決意」を無碍にするなど、私にはできそうにはなかった。

私は少し悩んだ後、オワインの申し出を了承した。


それは助かる!!

ここ最近の剣術士ギルドの活躍も、貴殿の影響と聞いていた!
国の大事に冒険者であるそなたを巻き込んでしまうのは申し訳ないのだが、ぜひとも力になってくれ!!

 

 

~アンホーリーエアー~


中央ザナラーンにあるブラックブッシュ停留所の東側、クラッチ峡谷を越えて東ザナラーン地域に続くアラグ陽道の道沿いに、アンホーリーエアーと呼ばれる大岩がある。
ここは第七霊災時にバハムートの攻撃により、巨大な岩がこの地に落ちてきて今のような景観を形成した。周辺の人々は、それを「不浄な存在(バハムート)」の卵に見立て、いつしか大岩の中から、 その「後継者(息子)」が生まれ世界を滅ぼすのではないかと恐れたという。 以来、この大岩は「アンホーリー(不浄な)エアー(後継者)」と呼ばれるようになった。
落下の衝撃により大地の上層部を覆っている岩盤が抉れ、その下を流れる地下水が地上へと吹き出し始め、今のような水場となっており水生動物たちの楽園と化している。

 


指定された日の真夜中、私とオワインは取引場所に指定されたアンホーリーエアーに向かっていた。特段会話もなくお互いに無言のままだ。
初めて会っての今日であるため、お互いに話題がないのもあるがオワイン自体に余裕がないことが一番の要因であるだろう。

それを表しているかのように、オワインの歩く姿はなんともぎこちない。表には出さないように頑張っているようだが、見てわかるほど緊張で体がガチガチになっているようだ。
もしここで襲われでもしたら、腰を抜かして戦いどころではなくなるような気がする。

・・・・それに、なにかの視線を感じるような気がする。
警戒しすぎて過敏になっているだけかもしれないが、常にどこからか見張られているような、そんな気配を感じてならない。殺気・・・というよりは監視に近い。

そういえば、実戦経験がないとも言っていたな・・・

例え相手が在野の盗賊だったとしても、今襲われたら、オワインも私もひとたまりもないだろう。ただでさえ経験不足で、しかも緊張状態のオワインを守りながら戦い抜く自信はあまりない。
それを考えると、フフルパの剣士としての安心感はやはり特筆すべきものだったと妙に実感してしまう。


私はアンホーリーエアーまでの道中、極力人気のある場所、そして明るい場所を選んで進むことにした。目立たないように進むなら街道から少し外れたところを歩くほうがいいが、オワインを落ち着かせるためには致し方ないだろう。灯りは人を安心させるし、暗がりで何かに足を引っかけただけでも今のオワインは大騒ぎしそうだ。

私は少しため息をつきながら・・・ふと空を見上げる。

満月か・・・

暗い空にただ一つ浮かんでいるまん丸い月は、夜空にちりばめられている星々の輝きをも隠してしまうほどに明るく輝いていた。

強い月あかりに照らされた世界は、集落から離れた真夜中の街道にいても視界が得られるほどに明るい。しかもアンホーリーエアー周辺は夜になると光を放つ植物などが生えているため、今宵はランタンを持たなくても十分に明るかった。
しかし、逆に陰影の激しい世界の中では死角も多く、闇から何が出てくるかもしれないという恐怖感が、その薄暗く照らされた世界をより一層不気味なものへと変えている。


違和感をずっと覚えていたものの、私たちは道中で襲われることもなく無事アンホーリーエアーに着くことが出来た。そして私は周囲を見渡す。

・・・・やはり集団・・・・か。

姿は見えないが月明かりの影に隠れるように、複数の者たちの気配を感じた。相手もこちらの気配を感じ取ったのか、一人の男がオワインの格好を確認しながらゆっくりとその姿を現した。それに合わせて私はオワインの後方に下がる。

 


お前が王冠を盗んだ者か!?


と、オワインは姿を現した紫色のローブを着た男を見るな否や、突然に叫んだ。


おやおや・・・盗んだとは随分と人聞きの悪い・・・
私はただ「拾った」だけなのに・・・ひっひひっ


嘘を抜かすな!!
王室から王冠を盗むなど重罪の重罪・・・あまつさえそれを取引の材料にするなど、何度殺されても罪は消えぬぞっ!!

 

しまった・・・

突然始まるオワインと怪しいローブの男との言い合いに私は冷や汗をかいた。オワインは交渉ごとにはどうやら向いていないようだ。

オワインの気持ちは分からなくもないが、この取引の主導権は初めから最後まで相手の手中にある。オワインが胸に溜まりに溜まっていた激情をぶつけようとも、相手にとってはなんの不利益にならない。そればかりか、相手を怒らせてしまったらそもそも取引が成り立たなくなる。

しかも、相手方は複数・・・いまだ姿は見えないが、10をはるかに超える者が月明かりの影に隠れ潜んでいるようだ。

ここで私がするべきことは・・・

相手は取引の成立・未成立に限らず、こちらを殺しに来るだろう。
相手にとって、我々を生かしておく理由はどこにもない。
とするならば、仕掛けられる前に逃げ出す準備をしなければならない。

今回の件はあまりにも多勢に無勢だ。
・・・そういえば、ここのすぐ近くにはロストホープ流民街があったはず。
そこまで逃げ込めばなんとかなるかもしれない。

私は視線だけを動かしながら退路を確認する・・・
すると、一羽のチョコボが街道を横切っていくのが見えた。
外套がつけられていないところを見ると、どこからか逃げ出したのだろうか。

ん?・・・・そうか・・・・そういうことか・・・

私は改めて前に視線を戻し、ただただ感情をぶつけているだけのオワインを大げさに諫めた。そんな私たちのやり取りを見て男は卑しく笑いながら、


そちらの冒険者のほうがよっぽどわかっていると見える。
オワイン君、そんなことだから王冠を紛失してしまうのですよ。

 

ひっひっひっ、と卑屈な笑い方をしながらこちらを嘲る。


・・・しかし、一人で来るように言ったのに、約束を破るとは忠義の騎士たる銀冑団も地に落ちたものですね・・・それともあれかな?

こんな真夜中に一人で来るのが怖かっただけなのかなぁ?


おのれ賊の癖に!! 愚弄するにもほどがあるっ!!
そこになおれっ!! 我が剣による一刀で切り捨ててやる!!
この悪党めが!!!

素直に挑発に乗せられたオワインは、溢れかえる激情を抑えきれないまま剣を抜こうとする。


私は慌ててオワインを引き止め「このままでは王冠を取り戻すことなど不可能になる。何とかこらえよ」と伝えると、オワインはぐっ・・・と声を詰まらせ、悔しがりながらも引き下がった。
男はそんなオワインの姿を満足そうに見ながら「そうそう、王冠を返して欲しくば何をすべきかを冒険者から教わるといい」と言葉にて追い打ちをかけながら高らかに笑った。

どうせ薬の有無を確認したら、集団でこちらを襲うつもりなのだから余裕なのだろう。

私は男にまずは王冠を見せるように促す。それと同時に私もオワインから「若返りの薬」の箱を受け取り、中身の瓶を男に見せると、男もまた懐から王冠を取り出して天高く掲げた。
私は頷くと、少し離れた岩の上に薬を置き、それが入っていた箱を男に向かって投げた。
男は箱を確認すると「中身をすり替えてはいないだろうな?」と聞いてきた。


「そんな卑怯な真似をするかっ!!」とオワインは叫ぶ。
馬鹿正直だとばれているオワインの答えに男は満足し、私にその薬のあるところから離れるように指示を出してきた。


「王冠を返すのが先だ!!」と声を張り上げるオワインを押しとどめながらも、私は素直に男の指示通りに従い、薬のある場所から大きく離れた。

男は私が離れたことを確認するとその薬の元に駆け寄り、中身を確かめるように振った後、蓋を開けて水辺にいた一匹のオロボンにその薬を振りかけた。


ギャァァあぁぁっ!!


薬が振りかけられたオロボンは突然、苦しむような大きな奇声を上げる。
そしてその姿はみるみる腐りだし、まるで死体のような姿へと変貌していく。
しかしオロボンは死ぬことはなく、飛び出た目をグルグルと動かしながら飛び跳ね、男に向かって襲い掛かっていった。

ズザンッ!!!

刹那、男のすぐそばの闇の中から複数の矢が飛び出し、飛びかかるオロボンを何重にも射抜いた。ほぼ致命傷となる部位を何か所も射抜かれたオロボンはそれでも死ぬことはなく、ギョ・・ゲギョ・・と深いな音を立てながらビチビチとのたうち回っている。


く・・・くくっ・・・ははははっ!!!

 

ついに・・・・ついに手に入れたぞぉ!!
人をゾンビーと化し、真に不滅の兵と成す、 ウルダハの禁忌・・・・・・。
近衛騎士でなければとても入ることができない、 王宮の宝殿の奥に秘蔵されていた幻の霊薬


ゾンビパウダー!


男はその薬を天高く掲げると、狂ったように笑い続ける。
その笑い声に呼応するように、暗闇の中からぞろぞろと仲間と思われる者達が姿を現した。

 

くっ・・・! 卑怯だぞっ!!

 

そう言いながらオワインは後ずさりながら、腰の剣を抜いた。

男は愉悦を抑えきれないのか大げさな手振りで腕を横に広げ、不自然に歪んだ表情で「そもそもこちらは一人とは言っていませんがね」と言い放った。
まわりの男たちもまたこちらを見下すようにゲラゲラと嘲り笑う。


まぁこちらとしても約束を反故にするつもりはありませんよ?
・・・これがあなたが欲しがっているものかどうかは・・・わかりませんがね。


そう言いながら男は手に持っていた王冠を、ゴミを捨てるかのように雑に放り投げた。


なっ!!


オワインは慌てて走り出すが、空中に投げ出された王冠は弧を描きながら、足元の水の中に「ぼちゃん」と落ち、水底へと沈んでいく。
オワインはじゃばじゃばと水飛沫を立てながら王冠が落ちたところに駆け寄り、水面に顔をつけながら水底に沈む王冠を手探りで探し、なんとか拾い上げる・・・・が、


な・・・・なんだこれはっ!!!


全身ずぶ濡れになったオワインは、拾い上げた王冠を見て絶叫する。


これは王家の王冠ではないっ!!
おのれ・・・・・謀ったな!!


オワインは男に対して激昂する。
その身は怒りで震え、口角は張り裂けんばかりに吊り上っていた。


私は「やはりか・・・」とどこか冷静に納得しながら、あの薬を取り戻す方法に思考を巡らす。裏切られたことに我を忘れたオワインをとどめることはこれ以上は無理だろう。

最悪あの薬を破壊さえすれば一矢は報える。

退路は考える必要なし。
今はいかに自然に隙を作り、薬の元へと近づくか・・・・そのことだけに注力する。

私は不意に男に対して話しかける。


「お前らが我々を生かして返すつもりがないことはわかった。どうせ多勢に無勢だ。冥土の土産に一つ教えてほしい・・・・・お前、リーヴォルドという男を知っているか?」


男は私の問いかけに対して明らかに表情が変化する。

 

随分とあきらめのいい冒険者ですね。
それにあの男を知っているとは・・・・あなたの目的は迂闊者のオワイン君の護衛だけではないと見える・・・。


私は「少々因縁があってね。知らずに死ぬのは未練が残る」と話すと、男はにやりと笑いながらまるで自分が慈悲を与えるかのような言いぐさで

いいでしょう。何も知らぬままに殺してしまうにはあまりにもかわいそうだ。
王冠のことも含めて教えてあげましょう。
それではまず、間抜けなオワイン君に教えてあげようか。

本当に王冠は宝殿から盗まれたのかな?


どういう意味だ!


「そのままの意味ですよ」と男は下卑た笑いをしながらオワインにいう。


オワイン君は不思議に思っているはずです。
厳重な管理下にある王冠を我々がどうやって盗み出したのか?

知っていましたか? この世の中には完全に気配を殺すことのできる者がいることを。
もしそのものが、あなたたちの後ろを着いてきていたとしたら・・・


そんなことできるはずはない!
例え私が気が付かなくとも、その道中には警備にあたる銀冑団員がたくさん配置されている。不審者とわかれば誰かは気が付くはずだ!


ふふ・・・気配を消すというのは何も「姿を消す」ということだけではないのですよ。不自然さを完全に消し、自然にその場に溶け込む・・・それもまた気配を消す極意でもあるのです。

ではオワイン君に聞きましょう。あの時、あなたたちの後ろにいたのは「誰」でしたかね?


それは・・・・・・・・王室の侍従・・・・?

 

覚えていませんか・・・ハハッ!!
なに、これは間抜けなオワイン君とその仲間たちだけではないのです。毎回同じことが繰り返されていると、当たり前のことが意識から抜けてしまうものなのですよ。あなたたちは王冠の管理ばかりに意識が集中して、それに付き従う侍従の存在に対する意識が曖昧だっただけです。

でもそれでは、侍従が本物であったか・・・・なんてことはわかりませんよねぇ。


・・・・・・


オワインは口を噤む。


分からない・・・といったところでしょうかな。
そう・・・それなんですよ。それが「気配を消す」ということなのですよ。


し、しかし! 侍従が偽物であるとしたらまず王室が騒ぐはずだ。


では・・・・・侍従の中に我々の手の内の者がいたとしたら?


・・・・・なんだ・・・・・と・・・?


元々あなた方に同行するはずの侍従が入れ替わっていたとしたら?
それに気が付くものが、その場にはいました?


・・・・・・・・っ


オワインはひどく動揺しているのか、言葉に詰まりながらわなわなと体を震わせている。


あなた達が宝殿に入った時、その侍従の内の一人が宝殿内に忍び込んだ。
そう・・・その時付き従う侍従が一人少なくなっていることに気が付かなかったでしょう。
まぁそもそも「何人」着いてきたかさえ覚えていないのでしょうがね。


だ・・・だが! 私は確かに箱に鍵を掛けたし、その鍵も私がずっと持っていた。
例えお前らの刺客が宝殿に忍び込めたとしても、なぜ鍵を開けることができたのだ!?


くくっ・・・・だから先ほど私は言ったのですよ。

「本当に王冠は盗まれたのですか?」

とね。


男はオワインに講釈を垂れるように自慢げに話を続けた。


我々にとっての狙いは王家の王冠ではなくこの「ゾンビパウダー」です。

本来は王冠ではなく、この薬を探し出して盗みだす計画だった。
次の日もまた宝殿に王冠を取りに来ることは内通者の情報で知っていましたからね。それまでに探し出すつもりでした。

しかし、明かりもなくたくさんの物品が保管されている宝殿の中から一夜で探すことができないかもしれない。
そこで私たちは念のために一計を講じていたのですよ。

オワイン君、知っていましたか?
宝殿の中にはもう一つ、全く同じ形の箱があることを。


オワインは驚きで声を上げることもできずにその場で固まっている。


オワイン君が王家のものではないと言い放ったその王冠は、紛れもない「ウルダハ王朝」の王冠であるのですよ。遠い昔にウルダハ王室から盗まれた本物の王冠。
言いなおすならば、今ウルダハ王朝が「王族の王冠」として使っている王冠こそ偽物なのです。

王冠が盗まれた事実は王室外に口外することを禁じられ、その時のウルダハ王朝は秘密裏に代わりとなる王冠と、それを仕舞う宝箱を作らせた。急ごしらえだったからか王冠は元のと比べると細部が異なるようだがね。
箱については鍵もまた紛失したこともあり、残っていた箱と全く同じ箱と鍵を作らせた。

不要になった元の箱は閉じられて、宝殿の中に仕舞われていた。
その箱のありかについては、事前の内偵で我々は知っていた。


ここまで言えば愚かなオワイン君でもわかるかな?

君が見た鍵の開いた箱は、元々王冠が入っていた箱ではない。
同じく宝殿にある、鍵のかかっていない空っぽの箱のほうなんですよ。


!!!!?

 

オワインは混乱しているのか、口をパクパクを動かしている。


し・・・しし・・・しかし・・・あの箱の鍵は・・・・鍵はお・・・おなじ・・・・


オワイン君、あなたに失態があるのはここです。
あなたはその時、元の箱の鍵をどうしました?


オワインは頭の中でその時の自分の行動を再び追いなおす。
そして何かを思い出したのか、みるみる顔が蒼白になっていった。


そう・・・オワイン君。
あなたは元の鍵をその場にしばらく置いたままにしてしまった。
王冠が盗まれたことに動転してね。
その時を見計らって、従者に化けて宝殿の中に潜んでいたこちらの手の者がこっそり鍵をすり替えたのですよ。我々の手元には「本物の王冠」の他に鍵もありましたからね。

ではオワイン君、もう一度聞きましょう。


君の探している王冠は今どこにあると思いますか