FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第二十九話 「点と線」

呆気に取られ、言葉を発することすらできないオワインの表情を舐めるように見ながら嘲笑する男。
そしてローブの中から一つの鍵を取り出し、硬直したまま動かないオワインの足元めがけて投げた。オワインは手を動かすもののそれを取ることもできず、鍵もまた王冠と同じように水の底へ沈んでいった。


フフ・・・それもお返ししましょう。我々にとってもう不要なものです。
もっとも・・・・その鍵をウルダハに持ち帰ることはできないでしょうがね。

 

あなたたち亡き後、盗まれたと思われていた王冠が「実は今もなお宝殿の中にある」ことに気が付くものが出るかどうか、お得意のナルザルの神にでも祈りなさい。
信仰が厚ければ、もしや・・・ということもあるかもしれませんよ。
まぁ・・・それまでウルダハが存続しているとは限りませんがね。

ハハハッ!! しかし、信じて疑わぬものに真実を告げる楽しさは格別です。
自信満々な顔が、私の言葉責めによってどんどんと絶望の色に染まっていくその過程を見続けることほど、楽しい時間はありません。


オワインの顔を見て満足そうにしている男に対して、私は王冠と鍵が本当に「王家のもの」と証明できるのかと聞いてみた。
この男たちが何者なのかはわからない。渡したゾンビパウダーを使って何を企んでいるかも未だ不明だ。
喋る保証はない・・・だが語ることに愉悦を抱いているこの男ならば、勝手にベラベラとしゃべりそうだ。

男は私の問いかけに対して、予想通り得意げな顔をしながら、


確かに冒険者の言う通りです。我々にとってこの王冠と鍵はたまたま拾ったものに過ぎません。闇商人の商隊を襲ったときに「たまたま」荷馬車の中からね、ヒヒッ。

盗品というのは常に流れるもの。取り扱う者にとって出自真贋なんてどうでもいいのですよ。
それ自体の価値よりも、売買によって発生する損益にこそ価値があるのです。
いかに「価値の無いもの」と解き伏せ安く買い叩き、いかに「価値を過大に盛って」高く買わせるか。盗品売買にはそれだけにしか価値はありません。

我々も手に入れてしばらくは、それがウルダハ王家の王冠だということすら知りませんでした。


くひひっ・・・と不快な笑い声をあげながら男は話を続ける。


その王冠と鍵はセットになっていました。そして古い言葉で書かれた一枚の紙も一緒にね。我々はそれを暇つぶしに解読したのですよ。価値を上げる手段となるとも思ってね。

ある日、我々の元に奇妙な仮面をかぶった男が訪ねてきました。
そしてなぜかその男は、我々が王冠と鍵を持っていることを知っていて、突然に一緒になっていた紙をみせろと言ってきたのです。

当然我々は突然現れては無礼な態度をとる怪しい男に「お仕置き」をしようとしましたが、逆に彼が呼び出した異界の魔物に蹴散らされてしまいました。

さすがに私もその時は死を覚悟しましたが、男は私たちの命まではとりませんでした。
男は自分のことを「天使い」と名乗りました。
天使い・・・伝承ではアシエンとも呼ばれる混乱をもたらす不死人。

・・・ふふ・・・・ハハハッ!!!

びっくりしましたよ!!!
彼こそ言い伝えの中でのみ存在する、この世の理と異なる「法」を用いて世を乱す混沌の代行者だったのですから。
男はこの王冠がなんであるかを知っていた。そして紛れもない「本物」であると。
男に古代文字で書かれた紙を渡すと解読し、我々に内容を伝えて去っていきました。

それでも彼の言葉に私たちは半信半疑だった。
自分を「天使い」と名乗り、怪しげな術を使うとしてもこの世界には模倣者がたくさんいる。
我々のようなものに擦り寄ってくるものはたくさんいるが、信用に値するものというのはほんの一握りなのです。

・・・・しかし宝殿に忍び込み、我々が持っていた「鍵」によって宝殿にしまってあった箱を開けることができた時、我々の抱いていた疑念は確信に変わったのですよ。

あの男は「本物」であり、手元にある王冠は確かに王家のものであるとね。


古い時代の王家によってもみ消された大失態。天使いによれば、紛失の事実を隠すため多くのものが「口止め」のために消されました。

ちょっとウルダハの歴史を調べればその時の「欠片」が出てくるはずですよ?
ウルダハでは王家を中心に原因不明の病が発生して、多くの官人とその家族が無くなった・・・と。
その事件こそがフロンデール薬学院ができる礎となったとは笑える話ではないですか!

 

それに天使いの男は王冠のことに加えてもう一つ。
我々に面白いことを教えてくれました。

ウルダハ王家の宝殿の中には、人を不死にする「薬」が眠っているとね。

そう・・・これのことですよ。


そう言いながら、男は薬の入った瓶を振る。


建国時のウルダハとシラディハの物語はウルダハの民なら誰でも知っているササガン大王の英雄譚にて語られている・・・が、それはウルダハにとって耳障りのいいところだけを切り取り創られたおとぎ話。

本当は国民すべてを不死人にし、未来永劫滅ばぬ国をつくろうとしたシラディハと、ササガン大王の号令の元、誰一人残すことなくシラディハの民を殺し尽くしたウルダハの兵隊の血塗られた歴史の物語なのです。
自らの死すらも恐れず、ただ駆逐することだけにのみ猛進するウルダハの兵隊にその当時の近隣諸国は震えあがり、畏怖を込めて「不滅隊」と呼んでいました。

しかし、考えてもみてください。
不死であるはずの人々を、なぜ殺すことができたのか。

答えは簡単です。
シラディハの作った「不死薬」は不完全であり、ウルダハの兵は完全な「不死人」だったということなんですよ。
サガン大王率いるウルダハは禁忌の法に手を出して、それが源流となって今の錬金術の繁栄にも繋がっている。

そしてササガン大王を手引きをしたものこそ、彼ら「天使い」だったのです。


しかし、自らが生み出した力の暴走を恐れたササガン大王は、シラディハとの戦争後に自身の親衛隊である「不滅隊」を計略にかけた。
毒を盛った上にアマルジャ族と結託し、イフリートを呼び出して焼き殺したのです。

命からがら逃げ出したものもいたようですが、飲食に含まれていた「毒」にやられて脳は腐り、自我のないままに今も南ザナラーンを今もなお延々とさまよっている。死してなお生きる「不死の化け物」としてね。

 


我々はずっと彼らを見てきました。
そして第七霊災後にアラミゴを初めとして各地から住処を失った人々が、安住を求めてウルダハに集まり、権力者たちに甘言で利用され、必要がなくなれば簡単に捨てられていることもね。一部の者はリムサ・ロミンサの海賊に売られてもいましたよ。


人を人と思わず、国のため、そして個人の利益のために多くの人が利用され、殺されていく。
慈悲を謳いながら、無慈悲を突き付ける。
害となるものは追い出されて、利のみを守る。


我々はそれを我慢ができないのですよ。我々とて権力に負け、闇に落ちるしかなかったもの。
一時期はウルダハを牛耳る共和派の実力者と手を組み、新たな時代の幕開けに期待をしたこともあった。でも結果は語るに及ばず、彼らにとって我々もまた使い捨ての「道具」でしかなかった。

そんな我々は思い至ったのです。

今のウルダハにそれができないのならば、

「一から始めればいい」とね。

そして一から始めるには「一度すべてを壊さなければならない」。


ウルダハに負の感情を持つものはたくさんいます。
あらゆるところから流れ込む移民・霊災の影響で働くことができず追い出された難民。
商売に失敗して追い出された商人連中、体が不自由で働くことができない障害者。
人族が利を守るために追い出したキキルン族やゴブリン族。
野盗に身を落とすことでしか生活できない者たち。
そのすべてが今、我々と繋がってきているのです。

そんな彼らは、我々にとっては「兵」そのもの。
しかし、戦の経験のない彼らに武器を持たせたところでなんの役にも立たないし、統率を取ることすらできない。

では・・・どうするか?

我々は思い至りました。
名を借りただけのおままごと部隊ではなく、ササガン大王が作った本当の「不滅隊」を作ろうとね。


そして我々は人を不死にする薬が必要になりました。
しかし、それだけでは彼らを戦に赴かせることができない。
彼らの心のすべてを復讐心で満たし、他のことを考えられないように意識を誘導しなければならないのです。


我々は精神を侵す「毒術」について誰にも負けない技術を持っている。
・・・・そして人の精神を誘導する「呪言」に優れた男が我々の意に賛同し、合流したのですよ。


・・・それがリーヴォルドか。

 

私は男の言葉にかぶせるようにつぶやいた。


彼は逸材でした。
リーヴォルド君の中には復讐心しかない。
なぜそこまで復讐心を掻き立てているのかはわかりませんが、彼は我々の理想を具現化したような復讐者だった。アルディスという男には感謝の言葉もありません。

それに彼の負の感情は周りに伝播する。

「純粋」と言ってもいいほどの復讐心から出る言葉には、一切の迷いも妥協もありません。
ただただ純粋に、真摯に相手を憎み、怒り、恨み通している。

彼の言葉は聞き手の呵責心を簡単に刈り取り、建前を壊し、本当の感情だけを呼び覚ます。
才能と言ってしまっていいほどの「呪言」は、まるで聖職者が救いを乞う貧民に解く救いの言葉のように簡単に相手の心の「迷い」を取り払い、心赴くまま「復讐」に駆り立てるのです。

それは我々の取り扱う「毒」ととても相性がいい。

彼は初め、ウルダハの権力者と組んでアルディスという男を炙り出すために、傭兵崩れのものに報奨金を出すと嘘をついては片っ端から剣術士を襲わせていた。
そんな彼と出会い、我々は意気投合した。

彼はアルディスと剣術士、そしてウルダハのすべてに憎しみを持っていた。

だから我々は彼に持ちかけたのですよ。

「そんなに憎いのならば、すべてを壊したくはないですか?」

とね。

 

 

我々はリーヴォルド君と行動を共にするようになってから、金を求める傭兵崩れの賞金稼ぎやウルダハに対して負の感情を持つものを中心に彼の手下となるよう洗脳し、剣術士を狙って襲わせました。

剣術士を襲えば剣術士ギルドが動く。そうすれば剣術士ギルドと関係深いアルディスという男も出てくるだろうと考えてね。

しかし、彼の力で一人ひとり洗脳してもらっていてはさすがに効率が悪い。

その時、我々の元に再び現れた「天使い」の男の力を借りて、彼の「呪言」を言霊化し「毒」と合わせました。見たこともないやったこともない「法」だったので半信半疑ではありましたが、手始めに彼が率いていた「アラクラン」という小さな盗賊集団に使ってみたら効果は驚くべきものでしたよ。

彼の言葉のまま動き、人を襲うことになんの躊躇もない。
例え自分では敵わないような強大な相手を前にしても、一切の迷いもなく飛び掛かっていく。
「殺戮者」として完成されていました。

 

唯一誤算だったのは、毒に対する錬金術師ギルドの対応の早さです。
今では抗体が作られせっかくの「毒」も対策されてしまいました。

・・・ですが、原料を変えて調合さえし直せば再び毒は作れます。
それに・・・・これを混ぜ込めば我々は完全なものを作れるのです。


そう言いながら、男は手に持ったゾンビパウダーを高々と掲げた。


決して死ぬこともなくリーヴォルドの命の下、ただ一つの目的のために突き進む最強の部隊。

ここに古の「不滅隊」の復活です!!


ふふ・・・そこの冒険者。私にはわかりますよ・・・・
あなたも今まで絶望の淵をさまよった経験があると見える。
死を宣告されているこの状況において、冷静さを保ち続けていられるところ見ると、今までたくさんの修羅場をくぐってきたのでしょう。
そして我々の計画にも動揺しないのは、ウルダハを蝕む病巣の正体も、建前に納まらぬ非情な現実も知っているのでしょう?

・・・・どうです?
あなたも我々と一緒に、理想郷作りに参加しませんか?
なに、あなたも不死兵になれとはいいませんよ。
国づくりには「まとも」な思考の人間が必要ですから。

それにリーヴォルド君は・・・・復讐を果たした後に正気でいられるか不安がありますからね。
目的を失った彼は、自らその命を絶つ可能性もありますしね。

ひひ・・・と男は笑う。
リーヴォルドを担ぎながらも、用無しとなれば彼らは容赦なく切り捨てるのだろう。

私は男の提案に対し、少しだけ考えた。
例えこのまま王政が続いたとしても、共和派による実質的な支配は変わらないだろう。権力を持つ者だけが潤い、力を持たぬ者は骨の髄まで搾取された挙げ句に、簡単に捨てられるという社会構造が変わることはない。
・・・・確かに今の構造を壊そうと思う者もいる。
しかし、まるで蔦が建物を覆うようにウルダハを縛り上げている怪物を前にしては、簡単に潰されて終わりである。

事実、不平等な商取引法を改正しようとしたウィスタンはウルダハを追われ、ロロリトの悪事を暴こうとしたレオフリックは姿を消した。

 

 

この男の言うとおり、支配構造がガチガチに固まっているウルダハを変えるには、物理的にでも一度完全に壊さなければ無理なのだろう。

この男達が目指しているのは「革命」に近い。
しかしその手段は、復讐の名のもとに自我を失わせた寄せ集めの兵隊に攻め込ませ、官も民も分け隔てなく殺戮する「侵略」そのものだ。まるでシラディハを滅ぼしたササガン大王のように、ウルダハに住むものすべてを彼ら率いる「不滅隊」に襲わせ、そっくりそのまま自分たちの物にしようと企んでいるようだ。

私は男に「それではただの虐殺者だ。国は民がいなければ回らない。一から始めようとも、滅んでしまっては意味がないのでは?」と問いかけてみた。


フフフ・・・冒険者君。
権力者というものを甘く見てはいけません。特に損得の物差ししかないウルダハの商人など

「復讐者として不死になった貧民がウルダハに大挙として攻め込んでくる」

という情報を垂れ込めば、蜘蛛の子を散らすようにウルダハから逃げだしていくでしょう。
「金」と「自分の命」を天秤にかけた時、どちらをとるべきなのかを狡猾な彼らは知っている。
我々の一番の目的は、権力に失着する彼らの追放です。元々「一般の民」を手にかけるつもりはありませんしね。

多少の手違いはあるかもしれませんが・・・

我々の解放に不満を持ち一時期的に人口が減ったとしても、入植を募ればすぐに集まりましょう。
権力者から解放し「自由」を取り戻したウルダハ。
縛るものは何もありません。商売も自由、住み方も自由です。
これ以上のうたい文句があると思いますか?

我々にとって障害となるのはグランドカンパニーの「不滅隊」と戦闘系のギルドのみ。
特に強い力を持つ「剣術士ギルド」を潰すことこそが重要でした。
しかし、彼等もまた我々の作戦によって消耗しきっています。

小悪党と蔑まされる我々のような集団は、決して群れ固まることなくそれぞれが独立している。
しかし、今やそのすべての集団において目的はすべて同じ。
一つの「盟約」を下において「個でありながら群である」。それが我々です。
例え一つの集団が殲滅されたとしても、また新たにより固まって集団は生まれる。
しかもウルダハには金を求めてくる流れ者が尽きることは無いから、人材には事欠かない。

 

だからこそ、我々には共通の「意思」はあれど、本拠などは存在しない。
例えここで我々が倒れたとしても、ウルダハの悪夢は終わりません。
絶つ根がなければ、全てを駆除することなんて不可能なのですから。


男は自分に酔っているのか、まるで歌劇の演者かのように大げさな手振り身振りで話す。
私は「ウルダハを奪取したとして、不死となり自我を失ったものはどうするのか」と聞くと、


我々はアマルジャ族の神下ろしの手伝いもしているのですよ。


と不敵に、そしてまるで悪魔のような目をしながら男は言う。
私は新たに複数の気配を感じて後ろを振り向くと、紫色のローブに身を包んだ複数の男たちが私とオワインを取り囲むように立っていた。

・・・・どうやら準備は整ったようだ。

私は腰に下げていた剣を抜き、そして地面へと突き刺す。
そして、手ぶらのままで男の元へと歩みはじめた。

 

武装を捨てて近づいてくる私をみて、男は嬉しそうに手を広げて迎え入れる。


クククッ・・・・
言い判断ですよ冒険者。
何もせずにただただ死を待つのは間抜けのすることです。

よく言うでしょう?

生きて何もしないのは馬鹿、何もせず死を待つ者は大馬鹿

だってね。


オワインは私の突然の行動に呆気にとられている。
今何が起きているのか・・・現実を理解できていないのか、きょろきょろと目が泳いでいる。


さてさて・・・オワイン君。
君はどうしますか?
こう見えても私は慈悲深い・・・例え迂闊者のオワイン君だとしても、温かく我々の仲間に向かいいれましょう。
なに、ただ単に無駄でしかない「忠義」を捨てるだけの簡単な話です。こちらにつきさえすればあなたが背負う「不名誉の烙印」もチャラにできる。
「忠義を貫いて死ぬ」というのは耳触りはいいですが、ここであなたが忠義を守って死んだところで、国の滅亡のきっかけを作った男という汚名を歴史に残すだけ。

なんなら、新しい国を建国後にあなたを栄光ある親衛隊の隊長職の座に取り立ててあげましょう。名ばかりで実力もなく、今や落ち目でしかない「銀冑団」にいるよりはよっぽど名誉なことだと思いますがね。


ひひひっ・・・と口端を釣り上げて笑う男。
オワインは男の提案にも反応せず、目線はどこを見ているかもわからない。
細かく震えるその体からは、もはや絶望感しか感じられなかった。

私は、

「最後に一つ・・・・あんたらには勝算はどれだけあるんだい?」

と男に聞くと、ニヤニヤと笑いながら、


100%ですよ。


と自信満々に答えた。

私は「そうか、それはなによりだ」と短く答えると、懐から取り出した短剣で男の腕を切り裂き、ついでとばかりに膝蹴りで金的を入れる。


ぐぁぁっ!!!


突然襲う痛みに驚いた男の手からゾンビパウダーが入った瓶がズルっとこぼれ落ちる。
私はそれを掴むと大きく振りかぶり、オワインの後ろを取り囲んでいたローブの男たちにめがけて投げ放った。
腕を斬られた男の仲間は驚きながらもとっさに私に対して矢を放とうと構えるが、私は男を盾にするように後ろに回り込み、背中に体当たりして弓術士達の前に突き飛ばした。
ばしゃばしゃという水音を立てながら左から拳闘士が手に付けた鉄の爪で攻撃をしてくる。

私はとっさに短刀を持つ手を替え、爪の攻撃を紙一重で躱しつつ、拳闘士の踏み込んだ側の足の大腿部に突き刺さした。
大声を上げながら身動きが取れなくなった拳闘士をまた盾にしつつ、突き刺した短剣を男の足から抜き取り、もう一人の顔めがけて投擲する。
暗闇の中、視界が効かない状況で放たれた短剣を認識することは難しい。
混乱の中で私の攻撃を把握出来なかったもう一人の拳闘士の口の中に、私の投擲した短剣は吸い込まれていった。
ばしゃばしゃっという水音にごふっ・・・というくぐもった音が混じる。
口の中に短剣が刺さった男は、ごぼごぼという汚い声を上げながらゆっくりと倒れて行った。

私は後ずさりながら、統率を失った男とその仲間の元から少し距離をとる。
私の行動を見てオワインの後ろにいたローブの男たちがこちらめがけて突っ込んでくる。
次々と変わる展開についていけず、ただただその場に身構えるオワインを通り越し、ローブの男たちのうちの一人が私が地面に突き刺さした剣を抜き、こちらに投げ放った。
男の投げた剣は私の手前に突き刺さる。私は剣を引き抜き、改めて構えをとる。

紫のローブを着た者達は私と男の間に割って入り、皆それぞれにスラリと剣を抜き、各々に構えをとった。


どういうつもりです!!


腕を斬られたばかりかゾンビパウダーを奪われ、仲間を倒された男は、先ほどの余裕はどこへやら、喉を切らさんばかりに叫んだ。
駆けつけた男達の中心に居たララフェルは、男の問いに答えるかのようにゆっくりとローブを脱ぎ捨てる。
それに倣うように周りの男たちもローブを脱ぎ捨てた。


お・・・・お前らはっ!


我々は王家より賜りし高貴に光り輝く銀色の甲冑に身を包む聖なる騎士。
古よりウルダハの主君を守り、敵を撃ち払うは忠義の剣と忠義の盾。
仕える王も無く、己の私欲のためにウルダハを滅ぼさんと目論む者達よ。
我々銀冑団が主らに正義の鉄槌を打ち与えよう!!

 

ローブを脱ぎ捨てたララフェルの男は天高く剣を突き上げ、男たちに口上を告げる。


パ・・・パパシャン殿!!


オワインはパパシャンと銀冑団の仲間を見て、思わず叫んでいた。


立て! オワイン!!
今はその身を以て忠義を見せるときぞ!
我々は人ではなく、主君の剣であり盾である!
王家に仇なす敵を討ち果たし、功を持って忠義を示すのだ!!!

パパシャンはオワインに激を飛ばすと、左に構えていた盾にガンガンと剣を打ち付け始める。それに習うように周りの銀冑団の男達もまた剣を盾に打ち付けた。

耳障りであるはずの金属音は、まるで闘争心を鼓舞するかのようなリズムとなってあたりを包む。その音にオワインは刺激され、顔から絶望感は消え失せ戦士の顔に変わっていく。
オワインは一度大きく吠え、高らかに上げた盾にガンガンと剣を打ち付けた。

忠を共に、義に結ばれし高貴なる戦士たちよ!
決して怯むな! 決して恐れるな!!
我々は常に厳しい鍛錬の中に身を置いてきた強兵である!
我々の前にあるのは勝利の二文字のみ!

ただただ敵を撃ち払い、主君への忠誠を示せ!!

 

パパシャンは最後に大きく剣を掲げると「オーッ!!!」という雄叫びがその場に響き渡った。