FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第三十〇話 「近衛騎士の誇り」

パパシャンの口上によって士気の上がり切った銀冑団の猛撃はウルダハ侵略を企んでいた男たちをあっという間に倒していく。

 

実戦経験はなくとも、日々積み重ねられた戦闘技術がここで花開いたようだ。
パパシャンの激はオワインを初めとする銀冑団員の恐怖心すら払しょくし、ただただ勝利のみを確信して敵に突進していく戦士に変えた。
まるで呪いや毒によって作ろうとした「不滅隊」の兵士のように、恐怖も躊躇もなく襲い掛かる銀冑団を前に、自身の経験に溺れ、鍛錬を怠った者たちは情けないほどにあっけなく討たれていく。

 

相手が伏兵なり罠なりの策を巡らせた戦場において、武勇に駆り立てられて突っ込むだけの馬鹿正直な突撃は、簡単に隊の壊滅を招く原因ともなりえるが、この場においてはそれは成りたつことはない。

何故なら、相手が張り巡らせていたであろう「策」を事前に排除できたからに他ならない。

相手も決して馬鹿ではない。
例えオワインに一人で来るようにと伝えたとしても、銀冑団の団員が隠れてついてくるだろうと予想はしていただろう。
あの男のそばにいた者はあくまでも一部の者であり、その他にも私たちを取り囲むように、複数の者を待機させていたはずだ。

しかし、パパシャン率いる別動隊はそれを「何らかの方法」で排除した。
そう私が思い至ったのは「騎乗具のつけられていないチョコボ」を見た時である。
人の手により訓練されていないチョコボは夜目が効かないため、暗闇の中で単独で行動することはまずありえない。

今日は満月の月明かりと光草木の発光によって比較的明るいとはいえ、人の誘導なしであそこまでしっかりと走らせるには相当の訓練が必要となる。
それにそのチョコボは野生種とは違い整えられた毛並みが月光によって光り輝いており、相当の手入れがされていると予想できた。

私はそのチョコボを見た時に、それが王室のチョコボではないかと勘繰ったのだ。
王室のチョコボがいる。ということは、銀冑団がここに到着していることを私たちに知らせようとしたのではないかと。もし銀冑団が伏兵に倒されたチョコボが逃げ出したとしても、騎乗具が外れているなんてありえない。

私は推測を確信にすべく、男に話を振って時間を稼ぐことにした。
なにより、例え銀冑団の者たちがこの場に到着し、周りを取り囲む伏兵の排除をしていたとしても、私とオワインは複数の男たちに囲まれている。
オワインが使い物にならない状況で相手が全員で襲いかかってきてしまったら、あっという間に殺されてしまうだろう。

これは賭けでもあったが、幸いなことに男は話好きのようで長々と自分たちの計画を語ってくれた。

その後の紫色のローブを来た男たちの登場。確かに全身をローブに身を包んでいて、見た目では敵の伏兵が戻ってきたという可能性もあった。しかし、ローブの中で鎧の金属がカチャカチャと擦れる音が聞こえてとれた。
この音は、近くにいる私たちにしか届かない。
銀冑団の彼らがここにいる・・・ということは、周囲に潜んでいた者の排除が終わったという合図でもある。

そして私は改めて考えた。次はどう動くべきなのか。
正直、この場に「ウルダハ王家の別の王冠」があっても価値はない。
例えそれが本物であったとしても、すでに歴史の闇に葬ったものである以上、今の王冠が「本物」なのである。その本物が宝殿にあると確認できた以上、問題はほぼ解決された。

ただ一つ、あのゾンビパウダーを除いては。

だが、幸いなことに男は私を仲間に向かい入れようと勧誘してきた。
あの男にとってみれば、勧誘もまた私達に死を与える前の言葉遊びのつもりであって、本当に自分が動くとは思っていなかっただろうが、私にとってみればゾンビパウダーを持つ男のそばに近づくチャンスでもあったのだ。

男がもっと用心深く、ゾンビパウダーを手に入れた時点で躊躇なく殺しに来るような者だったら、銀冑団の応援空しく私達は終わっていただろう。
それを考えれば、我々はあの男の「余裕と油断」のおかげで助かったのだ。


金的による痛みが治まらないのか、内またのまま腕を抑えながら後ずさる男は、口端に泡立った唾をためながら「くそっ!! くそっ!! くそっ!!!」と狂気に狂いながら叫んでいた。
いつしか男の仲間はすべて倒し終え、男一人となる。
オワインを中心に銀冑団の面々は警戒をとることなく男を取り囲む。


だまし討ちとは卑怯だぞ!! 冒険者ァ!!!!

黙れっ!! 卑怯という言葉の意味を知ってから使え!!
我々を虚仮にするばかりか、王家を巻き込み、ウルダハの治安を大きく乱した。
重罪という言葉だけでは足りんっ!! お前には死よりも辛い刑が待っていると覚悟しろ!!

 

オワインは吠えながら剣を構え、男に突進していく。


ひひっ・・・
これで終わったと思うなよっ!!


男は懐から黒く濁ったクリスタルのようなものを取り出し、自分の魔力を注入する。
すると周囲の空間が不安定に歪みはじめ、その中から1体の魔物が出現した。

キェェェェッ!!!!

なにっ!!


突撃したオワインは突然現れた魔物の攻撃を受けて吹き飛んだ。
咄嗟に盾で防いだようだったが、重い一撃を喰らってその場に倒れこんで動かない。


オワインっ!!
オワインを守るようにパパシャンを初めとする銀冑団が魔物の前に立ちふさがる。
そして一斉に切りかかっていくが、さすがに初めて見る大型の妖異を前に思うような戦いが出来ていない。

あの魔物・・・妖異かっ!!

この男がここまでの力を持つ妖異を召喚できる力を持っているとは到底考えられない。
男は「天使い」と呼ばれる怪しい者と通じていたと話していた。
とすると妖異を召喚する黒いクリスタルは「天使い」からいざというときのために渡された呪宝だったのかもしれない。

私は銀冑団に襲い掛かる妖異に盾を投げつける。
妖異の固い表皮にあたった盾は「ガンッ」という乾いた音をたてて弾かれ、ダメージを与えるほどではないようだったが、敵視をこちらに向けさせるには成功したようで、妖異はこちらを見ると「ギャァァァァ!!」と大きく戦慄いた。

 

あの大きさは・・・ササガン大王樹で初めに出現した妖異と同じ。

あの時、私の攻撃は妖異を傷つけることはできなかった。
あれから色々な敵と戦い、様々な修羅場をくぐってきた。
自分の成長を測るのならば、これ以上ない。

相手にとって不足無し・・・・いざっ!!

私は自分の持てる力のすべてをもって妖異に突っ込んでいく。
以前自分の足を止めた恐怖感は無く、自分がどれだけ成長したか、自分の攻撃が通用するのかを知りたいという欲求に突き動かされる。

ザクゥゥ!!

 

全力を込めた一撃は、妖異の固い皮膚に弾かれることなく切り裂いた。
傷つけられた痛みで後退する妖異を逃がさないように間合いを詰めながら、攻撃の一つ一つに魂を乗せ打ち込んでいく。
私は妖異に攻撃の機会を与えることなく、まるで獲物をしとめる獅子のように容赦なく追い込んでいった。
私の突撃に戦意を触発されて、銀冑団の騎士たちもまた一丸となって妖異に切り込んでいった。

そして妖異は、私と銀冑団の総攻撃によって討ち果たされた。

 

う・・・うぅ・・・


奥の手すら打倒された男は、その場にがっくりと膝をつく。
男の持っていた黒く濁ったクリスタルは、妖異の消滅と合わせるかのように粉々に砕け散った。


今回のことの経緯はウルダハでじっくりと聞こう。
まだまだ喋りたりないのだろう? 最後まで聞いてやるよ・・・いや、話したくないことすべてもすべて、どんな手を使ってでも聞きだしてやるっ!!


まるで悪鬼のように憎悪に歪んだ顔で男に叫んだオワインを、パパシャンは制す。

 

銀冑団は誇りある騎士。どれだけ悪が憎くとも、品位を失ってはならないよ。


パ・・・パパシャン殿・・・・。
失礼いたしました・・・。
それにしても、退役したはずのパパシャン殿がなぜこの場に?

 

なに・・・ジェンリンス殿から君のことを頼むとお願いされていてね。
彼もまたここに来たいと思っていたようだが、彼までウルダハ王室を離れてしまっては何かあった時に対処ができなくなる。
だから、実戦経験のある私に君のバックアップを依頼されたのだ。

しかし、私達が銀冑団の格好で行動したのでは相手にすぐに感づかれてしまうから、我々は工夫と商隊に化けてそれぞれがバラバラに動いていたのだよ。

闇討ちという卑怯な手を使うのは柄ではなかったのだが、相手が相手な上、事が事だ。
個人的な誇りにこだわることで主君の喪失を招くのならば、本末転倒。
時として我々もまた伝統を捨ててでも主君を守るために曲げねばならぬこともある。

しかし、一旦憎悪で心を満たしてしまえば、オワインとて賊物と変わらん化け物へとなってしまうこともある。

せめて心だけは曲げぬよう、胸にしっかりと刻んでおきなさい。


パパシャンの言葉を受けて、オワインは「ハッ!」という掛け声とともにその場に跪く。


冒険者殿・・・・貴殿には感謝の言葉だけでは物足りない。
ナナ・・・コホンッ、リリラお嬢様をお救いしていただいただけでなく、ウルダハの国家存亡からも救ってくれる働きをしていただいた。
貴殿の功績についてはさる高貴なる方にも是非にご報告させていただきたい。
改めて今回の一件、本当に感謝する。


そう言いながら、パパシャンは私に対して礼をすると、それに合わせるようにオワインはじめ他の銀冑団の騎士たちもまた礼をする。
共に戦った仲間であるからか、以前のような刺々しさはどこにも感じられなかった。

私は慌てながら、あなた方が動いてくれていたからこそ助かったようなもので、感謝したいのはこちらの方だと伝えると、パパシャンは感慨深そうな顔をしながら「そういう謙虚なところ・・・・誇りだけにしがみ付くしかない今の銀冑団の面々にも見習わせなければな」と言いながら手を差し出してきて、私たちは握手を交わした。

 

男とその仲間達は銀冑団の者たちに拘束され、商隊を装ってきた荷馬車に乗せられていく。
相手方に死傷者は出たものの、銀冑団員には命を落としたものはいなかった。

銀冑団によって連行される途中、男は私の方を向くと無理やりに足を止め、ニヤッと不気味に笑いながらつぶやいた。


覚えておけ冒険者よ・・・・我々は根を同じくする個別なる集団の一。
たとえ我々が倒れたとしても、決してウルダハの悪夢は終わらない。
それに・・・リーヴォルドの悲願の一つは近く達成される。
ウルダハ王室の「人形」の消失をもってな・・・


それが「すべての終わり」の始まりだ。


刹那、呟く男の眉間に一本のナイフが突き刺さった。

 

 

ナイフの刺さった額からダラッと赤黒い血が流れる。男は歪んだ笑顔を浮かべたまま、力が一瞬で抜け落ちたように「ドサッ」とその場に崩れ落ち絶命した。


残党か!!!


慌てる銀冑団員に対してパパシャン氏は、


狼狽えるな!! 荷馬車を背に防御の陣を展開しつつ、攻撃者を補足せよ!


パパシャンの指示に合わせて銀冑団は荷馬車を取り囲むように展開し、盾を前面に構えて襲撃に備える。パパシャンは続けて、


オワインは賊物を荷馬車に収容完了次第、護衛を数人連れてウルダハへと急ぎ向かえ!
この件に関してはいざというときのために内々でブラックブッシュに駐留する鉄灯団の協力も取り付けている。
王冠が宝殿にあるとわかった以上、共和派の連中を気にする必要はない!
ブラックブッシュの衛兵長に事情を説明し、護衛を強化したうえで輸送の任に当たれ。

どこに襲撃者がいるかわからん。くれぐれも警戒だけは怠るな!!


パパシャンはオワインに捕えた賊の輸送の任を命ずるが、


わ、私も残党殲滅の任に・・・・


戦線から離脱することに不満があるのか、オワインはパパシャンに進言する。


馬鹿者ッ!!
せっかく捕らえた奴らをここで失ったらそれこそ笑いものだぞ!!
相手の狙いは我々でなく、捕らえた賊の口封じだ!
誰一人逃がさず、殺されずにウルダハへと護り届けることこそが今一番重要な役目だと自覚しろ!

 

ハ、ハハッ!!


オワインはパパシャンに一喝され、護衛につく数名を指名すると、いそいそと出発準備を始める。パパシャンはその間も警戒を解くことなく、


冒険者殿・・すまぬ・・。
今一度貴殿の力を借りねばならぬようだ。


と私に謝った。
それに対し私は一言「誰一人欠けることなく、この危機を乗り切るために尽力しましょう」と答えた。


捕らえた賊の収容が終わり、オワインの指揮の元、賊を乗せた荷馬車はウルダハへと向かい走り出す。


ご武運を!!


オワインはこちらに敬礼をし、チョコボに手綱を打ち付けて去っていく。
パパシャン以下この場に残った銀冑団と私は、盾を前に出しつつ、お互いに背中を合わせるように隊列を組み直し、全方向からの襲撃に備えた。


・・・・?


ふと、少し離れた岩の上に、ローブ姿のララフェルらしき姿が視界に入る。
その傍らには、光りを放つ獣らしきものがいた。

 

あれは・・・・?

光輝く獣は「形」を保っているにもかかわらず、肉体らしきものがない。
よく見ると輪郭も曖昧で、エレメンタルのような霊的エネルギー体のようにも見える。
しかしながら、まるで意思を持っている生き物のようにララフェルの周りをウロチョロと歩き回っていた。


あれは召喚獣
・・・・とするとあのララフェルは巴術士か。

しかし、召喚獣を使役する巴術士が賊へと身を落とすとは何とも珍しい。
そもそも人との繋がりよりも、霊体を通じて「内なる力」との交わりを重要視するためか、外部との関わりを極限まで排除する変わり者も多いと聞く。

リムサ・ロミンサに巴術士のギルドができてから、幾分か「人嫌い」は薄れたと聞くが、巴術士は幻術士や呪術士以上に「潜在力」が必要なうえ、召喚獣を呼び出すために必要な魔術書自体が貴重で高価なもののため、賊に身を落とすほど困窮した者が巴術士になることはまずありえない。

・・・それにしても

巴術士の賊がここにいるという以上に、私を困惑させることがある。
それは、ララフェルの巴術士が「そこにいる」ことを確証できない自分がいるのだ。


ララフェルと私たちとの距離は意外に近い。
しかも、ララフェルが立っているのは水場のど真ん中にある岩の上。
私の膝高ぐらいの水深の浅い水の中を、音を立てないようにゆっくりと歩こうとしても、必ず水音や波紋が立つはずだ。
水に足をつけることなく飛び跳ねられるような足場となる岩も近くにはない。
先ほどの乱戦の最中にその場についていたとしても、我々が今まで気が付かないはずはない。


ララフェルは初めからずっとそこにいたかのように、ただただこちらをじっと見ている。
多分…だが、男にナイフを投げつけたのはこのララフェルであろう。
近いとはいえ、この距離から正確に男の眉間に向けてナイフを投擲する技術を持っているララフェルは、巴術士以外にも戦闘スキルを有していると予想できる。

しかしながら・・・
対峙する巴術士を視覚でしっかりと捕らえているはずなのに、その存在感はひどくおぼろげだ。
それはまるで、「無造作に転がる石ころ」のように存在自体があやふやで、ちょっと目を離すとどこにあったかすら思い出せないほどに存在感がない。
そもそも既に夜は明け、ララフェルの姿を遮るものなど存在しない。
にもかかわらず、本当にあそこにいるのか、もしかしたら人の形に見えるだけの流木なのではないかと疑ってしまうほど、私の心を動揺させる。

「存在を消せるもの」

このララフェルこそ、始末された男が言っていた、従者に成りすまして宝殿へと忍び込んだ本人なのかもしれない。


冒険者殿・・・変なことを聞いてしまって申し訳ないのだが・・・
あの巴術士は・・・あそこに本当にいるだろうか?
我々は術によってあり得ないものを幻視させられているだけなのではないだろうか?


百戦錬磨のパパシャン氏ですら、私と同じように目の前に対峙しているであろう巴術士の希薄な存在に狼狽えているようだ。
私はパパシャンに「私も確信は持てません。ですから周囲の警戒は怠らないほうがいいと思います」と答えると、パパシャンは巴術士に目を囚われている他の団員に周囲の警戒を徹底させた。


しばらくの間動かない巴術士だったが「見つけた・・・」と呟くと手に持っていた魔導書を開き「行け・・・」と小さく言い放った。

 

すると、巴術士の脇にいたはずの召喚獣は一瞬のうちに消え、次の瞬間には我々の間合いまで一気に距離を詰めていた。走るしぐさをするものの、水面には一切の波紋も水しぶきも立つことはない。
召喚獣はまるで水面を滑るようになんの抵抗も無くこちらに一直線に近づくと、その体を大きく回転させて攻撃を仕掛けてくる。

 

不意を突かれた私たちは、召喚獣の放った攻撃の衝撃で大きく陣形を乱し、混乱状態へと陥ってしまった。
必死に隊を整えようとするパパシャンだったが、まるで鼠のように足元とちょろちょろと走り回っては隙をつき攻撃を放ってくる召喚獣を、必死になって追いかけまわす銀冑団員の耳に入らない。


このままではまずいッ!!

私はいち早くその混乱状態の中から抜け出し、俯瞰で状況の確認を行う。
あの召喚獣を止めるには巴術士を狙ったほうが早い。
幸いなことに召喚獣の攻撃力はそれほど高くなく、銀冑団の面々が倒されることは考えにくい。冷静ささえ取り戻せさえすれば、あの召喚獣を討つことも可能だろう。
しかし、パパシャン氏が隊を立て直すには今しばらく時間がかかりそうだ。

私は巴術士のいたところを改めて見るが、混乱に乗じたのか既に姿はない。

しまった!!

と慌ててあたりを見渡すと、混乱する銀冑団の元へと一直線に駆け寄っていく姿が見えた。

手に持っていた魔導書を閉じると、場をかき乱していた召喚獣がフッと姿が消える。
そして、魔導書から今度は両手にナイフを持ち、混乱状態で外部に対して無警戒となっている銀冑団の真っただ中に飛び込んでいった。

 

私は慌てて「巴術士がそっちへ行ったぞっ!!」と声を立てたが、


銀冑団の者たちは隊列に潜り込んだ巴術士の姿をとらえることができないのか、その場を慌てて確認するかのように右往左往している。
私もまた隊列に飛び込んだ巴術士の姿を見失い、隊列へと急ぎ戻った。

皆それぞれに探すも、相手は体躯が小さいララフェルな上、相変わらず存在感が皆無なせいもあってどれだけ探そうとも見当たらない。
そればかりか誰一人攻撃を受けることもないため「飛び込んでいった」こと自体に、私は確信が持てなくなっていた。
私の視覚は確かに、魔導書からナイフに持ち替えて飛び込むララフェルを捕らえていた。
頭ではわかっているはずなのに「見間違い」を否定できない自分がいる。


銀冑団は再び落ち着きを取り戻して、今一度隊列を組み直し自身の無事を確認する。
すると、一人の団員が「あっ!!」と大きく声を上げた。
パパシャンが「どうした!」と声を掛けると「・・・ゾンビパウダーの入った腰袋がありません」と小さく答える。

なにっ!!!

パパシャンと共にゾンビパウダーを奪われた団員を確認すると、確かに腰に巻いていたベルトにはナイフのようなもので切られた跡が残っていた。


計られたか!!


私と銀冑団はあたりを見ると、高台からこちらを見下ろすララフェルの姿を捕らえた。
私達に発見されたことをわかると、スッと姿を消した。

 


追えッ!!


パパシャンの号礼と共に銀冑団は逃げるララフェルの後を追って走る。

???

あのララフェル・・・先ほどとは違い、普通に気配がするような・・・
私はふと頭に浮かんだ感覚に違和感を覚え、パパシャンに私はここで改めて手がかりを探すことを伝えると「まだ何が潜んでいるかわからない。お気をつけて!」と短く答えて、ララフェルを追いかけていった。

 


銀冑団が去り、あたりには静寂が訪れる。
しかし、いつも通りの静寂とは違う。
なにか肌を刺すようなピリピリとした違和感が身を包んでいく。

この感覚は・・・

私は全神経を集中させてあたりを警戒する。
すると悪寒を伴うほどの殺気が私に向けられていることに気が付いた。

私はその殺気を感じる方を向くと、


不気味な仮面をつけた男が立っていた。