FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第三十一話 「盲目なる勝利」

・・・・・こいつ・・・どこかで・・・?

私は剣を構えながら、男と対峙する。
黒色のローブを着たこの男と過去に会った覚えはない。
そのはずなのに、記憶の一辺になにか引っかかるものを感じる。

 

ズキンッ!!

・・・くっ!!

その記憶を辿ろうとした時、突然頭の中に痛みが走った。
何だろう・・・先ほどまでとは違い、悪い予感しかしない。
勝てる勝てないではない、もっと根本的な絶望をこの男は持っている。

一人ここに残ったことを後悔しながらも、大きく深呼吸をして覚悟を決める。


なるほど・・・・貴様は「ハイデリン」に侵された者であったか。
どうりで石人形ごときでは敵わぬはずだ。

 

男は淡々と話す。
仮面に隠れて表情は見えないものの、どこか楽しそうにも見える。

石人形・・・? シラディハ遺跡で対峙したあのゴーレムのことか?
そういえば・・・あの戦いの後に意識を失ったとき、誰かを見たような・・・

ズキンッ!!

再び頭を勝ち割るかのような鋭い痛みに襲われて、思わず体が揺らぐ。

まずい・・・・こんな時にっ!

妖異との戦いの後、必ずといっていいほどに起こる謎の意識喪失。
喪失時間は短いものの、例え数秒であったとしても戦いの最中に意識を失うことほど致命的なことはない。
私は意識が突然途切れそうになるのを何とか堪え、こめかみをキツく抑える。
疲れとか病気とか身体的なものではない、何か別の力によって強制的に意識を刈り取られていく感覚が波となって絶えず襲ってくる。

もしやあの男に何かされたのか・・・・いや・・・違う。

あの男の力ではなく、自分自身の内にあるものが、自身を侵そうとしているかのように思考を奪っていく。


くくっ・・・・
まだすべてを受け入れてはいないのか。
賢明なことだ・・・。
あれは真の理を乱す不浄なる存在。
対なる闇を貶め、星を蝕む病巣よ。

だが、いずれ貴様は我々にとって危険な存在となる。
ハイデリンによって「輪廻の呪い」に閉じ込められし可哀そうな仮初の器よ。
せめてすべてを取り込まれる前に、我が引導を渡してくれようぞっ!!


そういうや否や、男の周りにどす黒い妖気の波動が一斉に放出する。
禍々しいほどに穢れた負の力。

 

示せ、創世の理の嘆き声よ。
空虚に有りし夾雑の御霊を呼び出さん・・・・・・。
出よ、深淵の悍魂よ!

仮面の男の呪文に呼応するように、放出された妖気は一か所に凝縮されて密度を増す。
それは先ほど消された男が妖異を召喚した時とはくらべものにならないほど桁外れの圧力を伴い、空間を大きく歪ませた。
空間の歪みの中は「混沌」で満たされている。
無念により死した者の怨念がすべて詰まっているかのように、負のうねりによって胎動する空間の中から一体の妖異が現界する。

 

くそっ!!! くそっ!!

頭の痛みは先ほどよりもさらにひどく、一瞬でも気を抜けば意識が飛んでしまうほど何かの力が脳を圧迫している。

これでは闘うどころの話ではない。
目の前に現れた妖異は先ほどまでの者とはくらべものにならないほどの強敵だ。
例え完全な状態であったとしても、逃げなければ死は必至だ。
しかし今や体の自由は聞かず、立っていることすらやっとの状態。


何とか意識を取り戻そうと短剣で体を傷つけるが、抵抗むなしく「内なる力」はより大きな力の波となって一気に私の意識を奪っていく。
絶体絶命の状況の中、私は強大な力を持つ妖異を前に、再び白い世界へと意識を落としていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

いて・・・・・・て・・・・・・えて・・・・・・


どこからから声が聞こえてくる。


聞いて・・・・・・て・・・・・・えて・・・・・・


いつか聞いたことのあるその声は、脳に直接届いてくる。

 


私はその声に導かれるように目を開けると、夜空を埋め尽くす星空の中のようなところにただただフワフワと浮いていた。

ここ・・・・は?

私は先ほどまで凶大な妖異と対峙していたはず・・・・
そして意識を失って・・・・
ということは、ここは死後の世界なのだろうか?


聞いて・・・・・・感じて・・・・・・えて・・・・・・


私を呼びかける声はどんと大きく、そしてはっきりとしてくる。
私は声が聞こえてくるほうを見ると、
そこには一つの大きなクリスタルの塊が浮遊していた。

 


聞いて・・・・・・感じて・・・・・・考えて・・・・・・


クリスタルはこちらのことなどお構いなしに、一方的に語り続ける。


・・・・・・光のクリスタルを手にし者よ
星の声を聞く者よ
我が名はハイデリン・・・・・・
星の秩序を保っていた理(ことわり)は乱れ
世界は今 闇で満ちようとしています
闇は すべてを蝕み すべての生命を奪う存在・・・・・・
闇に屈せぬ 光の意志を持つ者よ
どうか 星を滅びより救うために あなたの力を・・・・・・


クリスタルは自分をハイデリンと言った。
そういえば・・・仮面の男が言っていたな。闇を貶めし不浄なるものと。

どうやらこのハイデリンと名乗る者と、あの仮面の男は敵対しているようだ。
あの男の言葉を借りるならば、私はこの「ハイデリン」にとり憑かれている・・・ということになるのだろうか。


光のクリスタルは闇を払う力・・・・・・
世界を巡り 光のクリスタルを手に入れるのです
あなたの戦いが 魔法が 行動が
光のクリスタルを生みだすでしょう
それが 光の意志を持つ あなたの力・・・・・・
光の意志を持つ者よ・・・・・・
どうか あなたの力を・・・・・・


ハイデリンと名乗る声は、私に光のクリスタルを探すように語り掛けてくる。
だが・・・あの状態で気を失ってしまった私の命は既に失われているだろう。
何の抵抗も無く、ただ一方的にいたぶられて・・・
たとえこの魂が戻ろうとも、戻るべき体は既にない可能性も大きい。

だからこそ、今私はここから新たな肉体に転生するのだろうか?

あたりを見渡すと、戦士の格好の者たちがたくさん浮かんでは消えていく。
私と同じようにどこかでその命が果て、再びこの世に誕生していっているのだろうか?
たとえ死のうとも、ハイデリンに囚われた我々は授けられた運命から逃れられない。

 

悲願を達成するまで私達は転生を繰り返しながらクリスタルを追い続け、闇の者との戦いに身を投じていく。

それを考えればあの男が言っていた通り私は、

「輪廻の呪い」をかけられている

と言ってしまってもいいのかもしれない。


ハイデリンの声が聞こえなくなると、私の体は星の海の中をゆっくりと流れていく。
私もまた他の者たちと同じように、巨大なクリスタルの周りを回り始めたかと思うと、


光の意思を受け継ぐものたちよ
さぁ・・・行きなさい・・・・


というハイデリンの声と共に、
光の渦の中に吸い込まれていった。

 

 

おいっ!!! 大丈夫かっ!!!

 

耳元で叫んでくる男の声に反応して、私はハッと目を覚ます。
視界に入ってくる景色を見るに、どうやらここは夢の中では無いようだ。
私は地面に突き刺した剣にもたれかかりながら、膝をついていた。
見る限り、私の前にいたはずの凶大な妖力を持った妖異の姿も、それを召還した黒色のローブを着た仮面の男も見当たらない。

私は・・・私は・・・・・生きて・・・・いるのか・・・?

未だぼんやりとした意識の中で、ここが現実の世界かどうかを一つ一つ確認する。


気がついたか!?


相変わらず私の耳元で騒ぎ立てている人の方に視線を移すと、そこには銀髪の青年が心配そうな顔をしながらこちらを見ていた。

・・・・サンクレッド?

 

突然崩れ落ちたからびっくりしたぜ。
体を見るにどこかやられた様でも無いようだが、また突然意識を失ったのかい?


私はサンクレッドの言葉をぼんやりと聞きながら、改めて自分の体を確認する。
防具を見ると、いたるところに見たことのない深い傷がついているものの、肉体を傷つけるには至っていないようだった。
しかし、自分がもたれかかっている剣は今にも折れそうなほどに刃こぼれしている。

何より、目立った外傷は無いものの、全身は筋肉痛のような鈍痛に襲われていて満足に動けそうにない。

・・・・どこかでこんなことがあったような。

未だにはっきりしない意識を総動員して過去を探る。

・・・・・・そうだ。
フロンデールの隔離病棟で目を覚ました時も、こんな感じだったな。
とすると、私は無意識状態で戦っていたのか・・・?

体を動かすたびに軋むように襲ってくる痛みを堪えながら、私はゆっくりと立ち上がる。
痛みを感じる・・・ということは、ここは確実に「現実」の世界なのだろう。
別の空間に放り込まれたかのように不吉な妖気に包まれ、紫色一色となっていた不快な世界も、何も起こっていなかったかのように日常を取り戻している。
大きな力によって抉られたような傷跡を残す岩肌以外は・・・

あれだけの妖異を目の前にして、意識を失った。
例え無意識下で戦っていたとしても、私の実力からみればあの相手を倒すほどの力は無い。
それでも生きてここにいるということは・・・・サンクレッドがすべて倒してくれたのだろうか?

私はサンクレッドに「君があの妖異を倒してくれたのか?」と聞くと、サンクレッドは驚いた顔をしながら、

 

何を言っているんだ?
あの妖異を倒したのはあんたじゃないか!
俺はあんたが妖異を倒すあたりに駆けつけて、遠くから狙っていたローブの男を始末しただけだよ。

 

全てを倒し終えたと思って駆け寄ろうとしたら、あんたが突然崩れ落ちるもんだから、今度こそ死んじまったんじゃないかって肝を冷やしたぜ。
なんせあれだけの強い力を持つ妖異に対して一人で立ち向かったんだ。
倒しただけでも奇跡に近いからな。

サンクレッドの言葉を聞いて私は呆然とする。

あの妖異を・・・私が倒した?
・・・・どうやって?

私はサンクレッドの言葉を信じれず、妖異が現れたあたりからの状況をサンクレッドに事細かく説明する。そして、夢の中で出会った「ハイデリン」というものについても話をした。
サンクレッドは「ハイデリン」という言葉を私の口から聞くと、また驚いた顔をしながらもどこか納得のいった表情に変わって、


これが・・・・超える力・・・・か


と小さく呟いた。


私は「なにか知っているのか?」と聞き返すと、


いや・・・今はまだ詳しくは言えないな。
だが、またあらためて君とはしかるべき場所で会うことになるだろう。
詳しくはその時に「しかるべき人」の口から説明させるよ。


と、どこか楽しそうな、無邪気な顔をしながら答える。
私はその表情を見て、悪気のようなものはなさそうだと感じる。

サンクレッドによると、意識を失いながらも戦っている姿は、まるで鬼神のようだったと話す。人の限界を超えるような動きと力によって、あの妖異ですらなすすべもなく追い込まれ、あっけなく倒れていったとのことだった。

 

妖異を召喚したローブの男もまた、妖異と同じように初めから存在しなかったかのように消え去ったとのことで、彼等もまたこちらの者ではないとサンクレッドは話す。
サンクレッドは妖異を召喚するローブの男たちを知っているようだ。

アシエン・・・・

私がボソッと呟くと、サンクレッドは「なぜその名を知っている?」と驚いていた。
私はサンクレッドに、王冠盗難事件の首謀者の男が「天使い」と呼ばれる男に知恵を授けられ、王宮の宝殿に眠っていた「ゾンビパウダー」を手に入れ、不死なる兵隊「不滅隊」を作り、ウルダハから権力者を締め出そうと画策していたことを説明した。
銀冑団との共闘によりその首謀者を捕えたものの、突然現れた刺客によって殺され、その混乱のなか取り戻したゾンビパウダーもまた盗まれたことを話す。

機密情報を話していいかどうか迷ったものの、この男はパパシャンとも通じていることを考えれば、信用していいのではないかと思い至った。


そうか・・・・そんなことになっていたのか。
でも、王冠が無事と聞いて安心したよ。
エオルゼアの安定のため、ウルダハには例え形だけであったとしても国民を束ねることが出来るナナモ女王陛下の存在が必要不可欠だ。
金と利権争いに明け暮れる共和派が全権を握ってしまったら、国を分かつような事態になっていただろうからね。
たった数人の権力争いが原因で国が乱れるなんて、ベラフディアの悲劇を繰り返すようなものだ。欲に溺れる者ほど盲目になる。自分がもたらした罪の大きさを理解することすらできなくなるんだよ。
結局、巻き込まれて不幸を被るのはより多くの国民だ。

 

・・・・・それを考えれば、その男が行おうとしたことはわからないでもない。
でも、力によって強制的に変えられたものはすぐに崩壊する。
結局のところ、無法地帯になって国は荒れ果てて、最悪犯罪者の国になっていただろうね。

しかし、ウルダハが今のままでいい・・・とも思わないけどね。


サンクレッドはウルダハのある方向を向きながら、ため息をつく。


あぁ、話が逸れたな。
まぁ・・・・ゾンビパウダーのことはあまり心配しなくてもいいと思う。
理由を知りたければ錬金術師ギルドのギルドマスターにでも聞いてみるといい。
彼はその分野が得意だからね。

それより、体は動くようになったかい?


私は自分の体を確かめながら、首を横に振る。
動かないでいると痛みは幾分緩和されるが、ちょっとでも体を動かすと途端に全身が激痛で軋む。


そうか、ならそこでちょっと待っててくれ。
俺がひとっ走りウルダハに戻って、銀冑団の連中に話を伝えてくるよ。
あんたは王冠事件を解決した功労者だ。邪険に扱うことは無いだろうさ。

では、またすぐにでも会うことになるだろう。
その時はよろしく。


そう言いながら、サンクレッドは手を振りながら近くに係留していたチョコボにまたがり、ウルダハに向かって去って行った。

私は近くにある草むらにゆっくりと腰を下ろす。
ふと空を見上げると、アンホーリーエアーの巨岩の脇からまぶしいほどの光を放つ太陽が顔をのぞかせている。

 

生き残ったことを喜ぶべきなのか・・・

陽炎のように消え始める夢の中での出来事を思い出しながら、私は自分という存在に思いを馳せる。

第七霊災で失った記憶。
その空白に、私の本当の自分がいる。

 

私はその時、一体何をしていたのだろうか?