FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第三十二話(外伝) 「海賊」

・・・・・という段取りでお願いしたい。


ガヤガヤとした喧騒に包まれる酒場で、今まさに国を混乱に貶める密約が交わされようとしている。なによりここは酒場であり、エオルゼア全土で活動する冒険者のためのギルドでもある。

なぜ敵の手先のような機関のところで、こんなきな臭い話をするのか・・・

甚だ疑問ではあったけれど、下手に口を出せば殴られるだけなので、私は無表情のままただじっと椅子の上に座っている。

テーブルの上には、出来立てで湯気が立っている料理がたくさん並んでいる。
その湯気に乗って、さっきから香しい匂いが私の鼻孔を通り、食欲をガンガンと刺激している。


本当においしそう・・・・一体どんな味がするのだろう・・・・
そういえば・・・・まともな食事をとったのはいつだったっけ?

いつも私に「与えられる」のは固くてボソボソした粗末なパンのようなものと、濁った水のような味のしないスープ。
たまに「ご褒美だ」と言って残飯の入った器を投げてよこすけど、床に散らばったものなんて例え腹が減っていても食べる気にはならない。
でも、それを食べないと「せっかくの施しを無碍にしやがって」と言って乱暴してくるから、一つ一つ拾ってしょうがなく食べている。
土がついてジャリジャリとした触感だから、噛まずに呑みこむことが食べるコツだ。


そちらの方は食べないのですか? ここの料理は絶品ですよ?


密約相手の紫色のローブを着た男が、いつになっても料理に手を付けない私を気遣って料理を勧めてくる。無意識だったかもしれないが、どうやら私は目の前の料理に目を奪われてしまっていたようだ。

私と同行する男はそれを制し、どこかイラついた顔をこちらに向けながら、


こいつのことはほっておいてもらいたい。
こいつは我々の飼い犬だ。お気遣いいただかなくてもちゃんと「餌」は与えている。
人様の食い物を犬風情が食べて、腹でも壊されたら困るしな。


同行する男は私を見ながらニヤニヤと笑う。


そうですか・・・


と紫色のローブを着た男は言い、私のことを同情の目で見ている。

バカバカしい・・・・お前だってこいつと変わらないくせに・・・・

私は茶番に辟易しながら、再び視線を虚空に戻す。
別に腹なんて立たない・・・・お腹は空いているけど・・・

だって私は・・・・


全てが終わっているのだから。

 

 

明後日の夜に、ウルダハ、リムサ・ロミンサ、グリダニアの三国の代表者が集まり「カルテノー戦没者追悼式典」開催の打ち合わせが行われます。
その後にちょっとした晩餐会が開催される予定で、ナナモ女王が王冠を身に着けて出席されるそうです。

宝殿への潜入を狙うタイミングは、晩餐会後に王冠を宝殿に戻す時。
明くる日、ナナモ女王によるウルダハ国民への演説のため、再び宝殿の扉は開きます。
その間にゾンビパウダーの捜索を、もし難しそうであれば王冠の入った箱をもう一つの箱と入れ替えておいてください・・・・箱の鍵を開けてね。

そう言いながら、紫色のローブを着た男は懐から一枚の紙切れと一つの鍵を取り出し、同行する男に渡す。


これは?


同行する男は紙と鍵を受け取ると、不思議そうにその鍵を眺めた。


それは宝殿にあるもう一つの箱の鍵・・・・であるはずです。
紙にはその箱のありかを記してあります。

であるはず・・・ということは、違う可能性もあるのか?


同行する男は中途半端な話に対して訝しげに紫色のローブを着た男に問う。


実はこれもまた盗品でしてね。
しかし、これが本物である可能性は限りなく高い。
「天使い」の男が言うのだから、問題ないでしょう。

うさんくせぇ話だな・・・伝承上でしか存在のしねぇ奴が突然現れて、それは本物ですってか?

あなたもあの男と対峙してみればわかりますよ。第一我々はその男一人に全員殺されそうになりました。それに・・・

あの男は妖異を呼び出しました。


あまりにも眉唾な話を聞いて、あからさまに呆れていた男の顔色が変わる。


妖異って・・・・あの妖異かい?


そうです。この世界とは違うところに存在している言われている凶気の魔物です。
それも、ボムやインプ程度とは比べ物にならないほど桁違いの妖力を持つ魔物を、空間の歪みからいとも簡単に呼び出しました。

彼は私達と根本的な「存在」が違う。
長き刻を生き、常にこの世の混乱の影に暗躍するもの。

彼が我々の話に乗ってきたということは、今まさに混乱の中心がここにあるという判断なのでしょう。


・・・・・・。


同行する男は「トントン」と指で机を叩きながら、口を噤んで何かを考えている。
この男の所属する組織がこの一件に噛むかどうかは、男の判断に委ねられている。
「トンっ」とひときわ大きく机を叩くと、男の指の動きが止まる。

まぁいいや・・・・そちらの話は信じよう。
で、肝心の報酬は?

密輸手配中のナナシャマラカイトの独占交易権と、アラミゴから流れてくる貧民共の斡旋。
そして・・・・ゾンビパウダーの半分をあなた方に。


紫色のローブを着た男はニヤッと卑屈に笑う。
それに対して同行する男は表情を変えず、


人を不死者に変えるゾンビパウダーか・・・。
正直、そんな眉唾なものにはあまり興味はないが、貧民の斡旋というのは助かる話だ。
こちらは島国で頭数が限られている上「同業者」も多いんでね。
「金」にも「道具」にもなる奴らをうまく扱うこと、それが我々にとっての「錬金術」だ。餌も死なない程度に与えればいいし、死ねば海にでも捨てればいい。こんなうまい商売が成り立つなんて、エオルゼアもいいところだよな。


なぁ? という表情で同行する男はこちらを見てクククッと笑う。


交渉成立だ。


同行する男がそういうと、紫色のローブを着た男と握手を交わす。


では、もしも作戦が失敗したときの対処ですが・・・・


紫色のローブを着た男が話し出すと、同行する男は話を切るように、


心配はいらねぇ。
そん時はこいつを首謀者として捕えさせるさ。


と、私のことを顎で指す。


「ですが・・・」と紫色のローブを着た男は、同行する男の答えに狼狽する。


大丈夫だ。
こいつはどんなことをされても口を割らねぇ。
そういう風に調教してきたし、こいつには俺らを裏切れねぇ理由もある。

汚ぇ犬だが、生意気にもこいつには守りてぇものがあるからな。
どんな目にあっても、見捨てることができねぇようだ。

それになによりこいつ、

 

どんなことをされても死なねぇしな。

 

・・・・いつまで待たせるつもりだ!?

 

同行する男は苛立ちを隠せないのか、声を荒げて紫色のローブの男に叫ぶ。
あまりの怒号に周りに聞こえていないか気にはなったものの、酒場のガヤガヤとした喧騒にまぎれ、誰も気にしてはいないようだ。
元々荒くれ共が集う酒場のせいもあって、揉め事こそ起きないものの、言い争うような怒号はあちこちから聞こえてくる。


落ち着いてください!
あまり声が大きいと・・・


紫色のローブを来た男のほうが周りをキョロキョロと見ながら、同行する男をなだめる。


落ち着いてられるか!
こっちの仕事が終わってどのくらい経っていると思っている!?
確かにゾンビパウダーこそ見つけることはできなかったが、そもそも宝殿とは名ばかりで、ただ遺物を放り投げて目録管理しかしていないゴミ蔵から手掛かりなしで見つけ出せというほうがおかしい。
それでもこちらはそっちの要求に答えて王冠の盗難偽装は完璧に終わらせた。

なのに・・・そっちはどうだ!?

ナナシャマラカイトの密輸は摘発にあって頓挫するわ、そのゴタゴタのおかげで銅刃団の警備が強化されてベスパーベイからの貧民移送も難しくなってしまった。
そればかりか、ゾンビパウダーの取引に銀冑団はまったく乗ってこない。

これ以上はもう待てないぞ!?
まさか契約を反故にする気か!? もしそうであれば・・・
例え異国の地であろうとも、穏便にはすまさねぇぞ!!

 

同行する男が興奮してドンッと大きくテーブルを叩くと、テーブルに乗っている料理の乗った皿がガチャンと大きな音を立てる。

・・・確かに、同行する男の言い分は分かる。
既にこちらが仕事を終えてから早一か月。
それに対して相手はいまだ何一つ対価を支払ってはない。

もしここがこちらの国の中であったら、紫色のローブを来た男の組織はあっという間に潰されているだろう。それだけの「失態」である。
こちらのお国柄、良くも悪くも「掟」に厳しい。

まぁ・・・私としては帰りたいとも思わないけど。
帰ったところで、待っているのは今以上の地獄だ。
待遇は変わらないけど、人が少ない分マシだ。


もう少しだけっ・・・・もう少しだけ待ってくれませんか!!
我々とてただ何もせずに釣り糸を垂らし続けている訳ではありません!

あちらを見てください・・・


そう言って紫色のローブを来た男は、二つほど離れたところにあるテーブルを小さく指さす。


あそこに座っているララフェルは、ホライズンとベスパーベイの地域警備を任されている銅刃団ローズ隊の隊長です。


・・・・あんな子供が?
ハッ!! 子供に治安維持部隊の隊長を任せるとは、ウルダハは随分と人不足だなっ!


同行する男はやけくそ気味に酒の入った杯を一気にあおる。

子供の私に「汚れ仕事」をさせている男の言うセリフではないな。

そんなことを考えながら、私はふと視線を感じてそのテーブルの方を見る。

・・・・あれ?

私の視線にローズ隊隊長の男は慌てて顔を背ける。
なんだろう・・・・チラッとしか顔を見れなかったけれど、どこかで・・・
いやいや、私には村の人以外に同族の知り合いはいない・・・でも・・・もし・・・・いるとしたら・・・

おいっ!!


同行する男は私の目の前のテーブルを「ドンッ!!」強くと叩く。

お前はよそ見すんじゃねぇ!
飼い犬は飼い犬らしく大人しく、ただ前見て座っていろ。

ローズ隊隊長のいるテーブルに見惚れていた私のことを、同行する男は一喝する。
紫色のローブを着た男は、私たちのやり取りを気まずそうに見ながら、


確かに野心に溺れたローズ隊前隊長のバルドウィンが粛清されたことで、我々の計画は大きく乱れてしまいました・・・
あの男を使って銀冑団に我々の「手紙」を渡す予定だったのですが・・・。
どうやってあの手紙を取り戻すかに随分と時間を弄してしまいました。

しかし運のいいことに、今あの現隊長はその「手紙」を持ってきています。

・・・・なに?

あの手紙をどうするつもりかは分かりませんが、この件は確実に進展します。
自分で銀冑団に持ち込むのか、他の誰かに相談するのか・・・


おいおい、大丈夫なのか?
随分と穴だらけの作戦にしか見えねぇぞ。
それに事が公になれば、お前らの危険の方が高くなるだろう?


紫色のローブを着た男はどこか自慢げに、


それは大丈夫でしょう。
王室直属とはいえ、今の銀冑団は形だけの組織。力も実力、国民からの信頼もありません。
隊員も不足していて、傭兵を雇わなければ護衛が機能しないほどに貧弱です。

かぁっ! 呆れた話だぜ。
まがりにも国の王を守る近衛騎士が、なんとも情けねぇ話だなあ・・・。

例えその銀冑団が取引時に策を講じたとしても、たかが知れています。
人殺しに躊躇のない実戦経験に富む我々の敵ではありません。

しかし、不滅隊が出しゃばってくる可能性があるんじゃねぇのか?
グランドカンパニーを束ねるラウバーンは王党派って聞くが。
国の大事とあればさすがに銀冑団に手を貸すだろう?

不滅隊は我々がザナラーン各地で起こしている剣術士襲撃事件の対応と、活性化する現地蛮族のアマルジャ族の対応に追われていて人員を割くことができないはずです。
あそこもまたウルダハの正規軍と名乗ってはいるものの、第七霊災時の戦闘で兵力の大部分を失い、未だ慢性的な人不足が続いています。

しかもあそこは軍規が厳しすぎるせいもあって、そこら辺から流れてくる在野の傭兵崩れでは決して所属できない
それでも人員確保のため、最近では臨時部隊として見込みのある冒険者を積極的にスカウトしていますが、肝心の冒険者達はドラゴンとの戦いが激化しているイシュガルドに流れている。

何より「王冠が盗まれた」ということはほんのごく一部の者だけが知っていること。
噂程度には知っている者もいますが、不滅隊が不用意に作戦行動をとれば、どこからか必ず情報が漏れてしまう。
それは守るはずの王室を窮地に追いやってしまうことになるでしょう。

それは王冠盗難偽装から今までの動向をずっと見張っていて思い至りました。

この件に関して「不滅隊」は動けない・・・と。


展開される男の持論を聞き飽きたのか、同行する男は適当な感じで、

まぁ・・・・そうならいいがな。
どっちみち我々はきちんとした「対価」を支払ってもらえればそれでいい。
この前は面白いもんも見れたしな。

この際ナナシャマラカイトも貧民の斡旋もとりあえずはいい。
あれさえ持ち帰れれば、うちの「ボス」も納得してくれるだろうよ。


分かっています。未完成でも我々の兵隊の力を見たでしょう?
あれにゾンビパウダーを仕込めばすべてが完成しま・・・・あっ!!


紫色のローブを着た男が何かに反応して声を上げる。


今、ローズ隊の隊長が冒険者ギルドのマスターに手紙を渡しました。

冒険者ギルドのギルドマスターにだと?
何度も聞くが・・・本当に大丈夫なのか?

ここのギルドマスターは銀冑団、しかも王冠の管理を任されていたオワイン君の知り合いです。これは近日中に動きがあるでしょう。
今度こそ、我々は成功させます。

そしてあなた方の功に報いましょう。

今度こそ頼むぜ、本当によ。
・・・しかし、あそこに同席している冒険者は何者だ?
あの手紙を渡すところにも同席しているところを見ると、全くの無関係ではなさそうだが。


紫色のローブを着た男は神妙そうな顔をしながら、


彼こそ我々の計画を邪魔し続けている男ですよ
・・・まぁどちらかと言えば「巻き込まれている」と言ったほうが正しいですがね。

確かにあの男は危険だ・・・。
しかし、彼はどうやら一連の事件の黒幕を「ロロリト」であると勘違いしている。
そして彼は、ロロリトの実質的な私兵部隊である銅刃団を敵視している。
そこに付け入る隙があると思うのです。

元々彼は何処からかウルダハに流れてきた霊際難民だったと聞きます。
そしてこの地でウルダハの暗部を嫌になるほど見てきている。
正義のため無駄に厄介ごとに巻き込まれて、何度も命を危険に晒してまでいる。

彼もまた、今のウルダハを良くは思っていないでしょう。
だからこそ、彼の思いと我々の目的は一致するはずです。


あぁ? 仲間に引き入れるつもりか?
いやいや無理だろ、どう考えてもよ。
話し合いでどうにかなる相手にはどうやってもみえねぇぞ?


同行する男のもっともな意見に対してどこからその自信がくるのか、勝ち誇った表情をしながら紫色のローブを着た男はニヤッと笑い、


たとえ本人の意思でこちら側についてもらうのは無理でも、手段はいくらでもありますよ。
そもそも我々の「秘薬」を使えさえすれば、彼の意思など関係ない。

彼は一度我々の「毒」に侵されて自我を失いました。
その時見せた力は本当にすごかった・・・。

彼さえいれば、我々の作り上げる「不滅隊」は完全に完成するのです!!


紫色のローブを着た男は、まるで自分の演説に酔っているかのように恍惚とした表情を浮かべている。
同行する男はその姿にあきれ果てた表情をしながら「幸運を祈るよ」と一言だけ告げ、酒場を後にした。

 

 

 

 


おい・・・・アイツの作戦、うまくいくと思うか?


宿への帰り道に、同行する男は視線を向けることなく私に聞いてくる。
私は考えることもなくただ一言「無理」と答えると「だよなぁ・・・」と小さく呟き、ため息をつく。そして、


お前、取引の現場に張り付け。
もしあの連中が負けるようだったら、何としてでも「ゾンビパウダー」だけは奪って逃げてこい。

失敗したら・・・どうなるかわかっているな?


男は再び不快な笑みをこぼしながら、拒むことのできない命令を告げる。

私は何を思うことなく、ただ素直に「はい」とだけ答えた。