FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第三十三話 「上に立つもの」

その後私は、迎えに来た銀冑団の者に連れられてウルダハへと戻った。

宿へと連れて行ってもらえばいいと言ったのだが、恩人に大事があってはまずいとのことで、半ば強制的にフロンデールの病院へ連れられて行った。
手厚い保護をしてもらえるのはありがたいのだが、いかんせんそういったことに不慣れなこともありなんとも気恥ずかしい。

私を院内に受け入れるために駆けつけてきた病院の女性は、前回毒の治療で入院していた時に私の身の回りを見ていただいた方だった。

彼女は入院するのが私と知るや否や「あら、おかえりなさい。 随分とお早いお戻りで」とニヤニヤしながら迎え入れる。

私は困った顔をしながら「またお世話になります」と答えると「はいはい」と言いながら女性は笑った。

 

診断によると、私の体は肉体を酷使したせいで筋肉組織がかなり傷んでおり、ほぼ全身打撲に近い状態だったそうだ。

「これを飲みなさい」と処方された薬を飲むと、途端にスッと痛みが引いていく。
前回とは違い、対応が早かったおかげもあって感覚障害は残らなかったようだ。
薬ひとつで、すぐにでも動けるほどに回復した。

やはりフロンデール薬学院の薬は一味違うなぁ。

これだけの効能を持つ薬だ。考えなくともとても高価な薬なのだろう。
私の所持金で払えるだろうか・・・
途端に怖くなって、治療代金について恐る恐る聞いてみたが、すでに治療費は銀冑団から支払い済みだから安心していいとのことだった。

私は医師に体の復調を伝え、すぐにでも退院しようと立ち上がると「大事をとって今日一日は入院していきなさい」と医師に止められ、私はまた一日だけここで過ごすこととなった。

贅沢なことを言って申し訳ないのだが、どうにも薬の匂いに慣れない。
健康になるための施設であるはずなのに、薬の匂いを嗅ぎ続けていると気分が悪くなるのだ。

結局私は病室のベッドでじっとしていることができず、暇つぶしに院内をブラブラと散策することにした。

 

フロンデール薬学院のあるウルダハの中枢部「政庁棟」は重厚な石造りで作られており、光を取り入れるような窓が思った以上にない。
政庁棟には王宮や砂蠍衆による合議場があるなど文字通りウルダハ中心部であり、外部から攻め込まれたときに容易に侵入できないように「砦」のような機能を持っているらしい。

しかし一日のほとんどを外の世界で生きてきた自分にしてみれば、太陽の光の届かない密閉された空間というものはどうにも息苦しい。

しょうがない・・・フロンデール歩廊にでも行くか。
あそこは水場があるから、少しぐらいは安らげるだろう。

私はフロンデール歩廊に行こうと病院内を歩いていると、何かがふわっとした感触が頬を撫でる。

???

どこからからか外の風が流れ込んできているようだ。
風が吹く方向を見ると、そこには足元を灯す明かりのない、ひっそりと存在する細い階段があった。
私はそこから時折吹きこむ風に導かれるように、その階段を上っていく。
そして、一番上まで行くとドアが一つあり、ドアの隙間から光りが漏れ出ていた。

おおっ!!

ドアを開けると、暗いところに慣れていた目に刺さるほどの強い光が差し込んできて、思わず視界が眩む。なんとか目を細めながらも周囲を見渡すと、目の前にはテラスが広がっていた。

空中庭園

と言ってもいいほど広く、いたるところに様々な植物が植えられている。


誰です!?


とふいに男に呼び止められる。
あの背の高い男・・・・ダミエリオーか?


冒険者さん!? どうしてここにいるのです?


突然の来訪者にびっくりした様子のダミエリオーだったが、私のことを警戒するようなしぐさをしながら恐る恐る質問してくる。

私は全身打撲で再びここに担ぎ込まれたこと、治療を受けたものの暇だったので病院内を散策していたら、ふと風を感じてここにたどり着いたことを説明する。

すると、ダミエリオーは安心したような顔に戻り、そしてどこか困った顔をしながら「どうやら私・・・やっちゃいましたね」と言った。


ここはフロンデール薬学院で使用する薬草を育てているところなんです。
取り扱いの難しい毒草も多くあるので、たとえフロンデール薬学院の者でも許可なくここに立ち入ることは許されていません。
普段は立ち入りを制限するために階段前にロープを張り、そこの扉も常に施錠するように決められているのですが・・・


どうやら私はその両方とも忘れたようです。


ダミエリオーは恥ずかしそうに頭をかく。
しっかりしていてそうでありながら、所々抜けているところもあるようだ。
院内外の淑女連中から人気があるとは聞いていた(看護婦談)が、なるほどな・・・と納得できる。

女性にとって、どこか「守ってあげたい」という母性本能をくすぐられるのだろう。


冒険者さん、お願いですからこのことは内緒でお願いします。
バレたら怒られるどころの騒ぎではなくなるので・・・。


私は苦笑しながら「悪かったな」と言いながら、庭園を出ようとする。


あっ!! ちょっと待ってください。
せっかくなのでその・・・・ちょっとお話をしていきませんか?


と、ダミエリオーは慌てながら私のことを引き止める。
私はもともと外の空気を吸いたくてここまでたどり着いたのだ。
こちらに断る理由などどこにもない。

 


ダミエリオーは私に色々なことを話してくれた。
自分の身の上のこと。昔イシュガルドで大怪我を負い、長い間昏睡状態に陥る奇病にかかってしまったこと。
父や母、そしてフロンデール薬学院の人たちの献身によって奇病から立ち直ったこと。
父の死と、母の死。そして、フロンデール薬学院を取り巻く問題など、様々なことを途切れることなく話し続ける。

若くしてウルダハ財界のトップグループの総裁となり、右も左もわからない中でただひたすらに今まで歩んできた。
若い自分の迷いによって周りを不安にさせないよう、常に余裕を見せながら。

しかし、そんな彼もまた人の子であり、他の誰とも同じ存在だ。
誰にも打ち明けることのできない苦悩や迷いが、胸の内にずっと溜まり続けていたのだろう。
彼にとって人のいないここは唯一安らげる場所だったのかもしれない。

何故私にここまでのことを話してくれるのかはわからない。
しかし私に心を開いてくれていることに、喜びを感じる自分がいる。
私は彼の言葉を遮ることなく、頷きながらゆっくりと話を聞く。


あぁっ!! す・・すみませんッ!!!
つまらない話をしてしまってっ!!


自分がずっと愚痴っていることに気づいたのか、ダミエリオーは慌てたように話を切った。
そして恥ずかしそうにしながら、


なぜなのでしょうね・・・・
冒険者さんになら、話してもいいと思ってしまったんですよ。

私は、人に囲まれながらも常に孤独を感じています。
フロンデール薬学院の方だけでなく、王室の方々も砂蠍衆の方々も、みんなすごく優しくしてくれます。
唯一むちゃくちゃなことを言ってくるのはセヴェリアン先輩ぐらいなものです。


・・・・でも、私はそれが不安で仕方がないのです。
誰も本当の心の内を見せてくれない。
口先だけの優しさに覆い隠されて、本当の姿を見ることができない。


暗い表情をしながら、ダミエリオーは心情を吐露していく。
ダミエリオーの話を聞いていると、何故かミラの顔がフッと浮かんだ。


・・・なんか似ているな・・・・性格は真逆なのにな。


私が心から願っているのはウルダハの平和です。
今はまだ表立った争いこそ起きていないものの、裏では醜い利権争いが繰り広げられています。
誰かが誰かを貶めて、自分にとってだけ都合のいい国にしようとしている。
それはいずれ、国を分かつ内紛へと繋がっていくのではないかと思っているのです。

私にはそれを止めることができない・・・

冒険者さんは・・・・冒険者さんは今のウルダハをどう思いますか?

 

 

私はダミエリオーの質問に言葉を詰まらせてしまった。

思い返せば、ウルダハに居着いてからの短期間で様々なことを見てきた。
ウルダハに集まる貧民達の悲哀、ウルダハ王室の衰退、有力商人の暗躍、自警組織の腐敗、盗賊団や犯罪集団たちの策謀。

変革を求める者は潰され、暴こうとしたものは闇へと消えた。

一見色々な問題が複雑に絡み合っているように見えるが、結局のところ元を辿れば特権階級による権力集中がすべての問題に繋がっている。

もしこの支配構造を一気に壊そうと思ったら、あの男がやろうとしたように「力による革命」を起こすしかない。

しかし・・・

力による革命は副作用の強い「劇薬」である。
無計画な革命による崩壊は、権力者の圧力によって押さえつけられていた民衆の欲望に火を付け、無秩序は国を一気に狂乱へと堕ちるだろう。

結局のところ混乱を伴わずに国を変えるには、特権階級の座に居座り私腹を肥やす者達が考えを改める他方法はないのだ。


私はふとダミエリオーの顔を見る。
そういえば、彼はその特権階級に程近い地位にいる。
先代の死去によって砂蠍衆から外れたとはいえ、国内の医療を一手に引き受けているフロンデール薬学院は、ウルダハにおいて五本の指に入る重要機関である。

もしかしたら彼ならば・・・。

 

わたしは今までの体験を有りのままに伝え、すべてを包み隠すことなくダミエリオーに話した。
ダミエリオーは私の答えを聞き、沈痛な表情になる。
しかし私は続けて、


ダミエリオーはその人達が自分に向ける優しさは偽りだと言っていたが、それは違うと私は思う。
それまで何色にも染まっていなかった君が、ただ一滴の「黒」に触れてしまったがために人間不信に陥ってしまっているに過ぎない。

確かにフロンデール薬学院のトップであるダミエリオーと良好な関係を築いておいたほうがいいと画策するものいる。
しかし君の本当の魅力は「富」でも「地位」でもなく、ウルダハの有力者の身でありながら、表も裏もなく誰にでも平等に接することのできる人間味だ。
それはフロンデール薬学院で働く人たちの君への評価を見ていればよくわかる。

たとえ初めは裏向きの目的があって近づいたとしても、君と接触しているうちにいつの間にか毒気を抜かれるのだと思う。


今ウルダハを支配する病巣は「金」と「力」と「権力」によって強制的に人を縛っている。
しかし、君はそのどれにも当てはまらない「心」で人を惹きつけることができる。
いずれそれは君にとって代えがたい武器になる。

だから今はまだ焦らずに分け隔てなく人脈を培い、広い視野を持って見聞を広げ、色々なことを知ってなお君が今のままの君で居続けることができるのであれば、いずれ向こうから「機会」は訪れるだろう。

だから、孤独を感じて「一人」に逃げることだけはやめておいたほうがいい。

今は小さな点でしかないが、ウルダハの現状を打破したいと思う者は少なからず存在している。
多分君ならばその点を線で繋ぎ、ウルダハを根本から変えていく原動力の中心となると思う。


私そう話すと、ダミエリオーはきょとんとした顔をしたまま口を開けて立っている。
まさか自分が変革の中心に据えられるとは思っていなかったようだ。

 

いいい・・・っ、いやいやいや!!
僕ごときが国を変えるなんてできませんよっ!!
今だってみんなにおんぶにだっこで迷惑をかけているのに。
こんな僕なんかに誰もついてきてくれませんよ。


それはもう全力で否定するダミエリオー。
そういう部分こそが人が自然と寄ってくる要因だということを知ってほしい。

頼りないからこそ、人はその人の「足りない部分」を補おうと着いてくるのだ。


カーン・・・カーン


何処からか鐘の音が鳴り響いてくる。
それは夕刻になったことを示す合図だ。


あれっ!! もうこんな時間!?
いけないっ!! 早く戻らないとみんなに怒られてしまう。

冒険者さん。僕の話を聞いていただいてありがとうございました。
なんだかとても心が軽くなりました。
冒険者さんの期待に答えられるかどうかは分かりませんが、僕は僕なりにウルダハの為、頑張ってみたいと思います。

あと・・・その・・・・


ダミエリオーは言い淀みながら、


冒険者さんさえよければ、また話を聞いてもらえないですか?
いえっ、冒険者さんの時間さえよければの話ですが・・・


私は思う。
私は私なりにウルダハで点を集め、ダミエリオーへと繋げていく。
そしてダミエリオーの人柄によって点を線へと結び付けることができれば、いずれ大きな力となるかもしれない。

今のところ、権力者にとってダミエリオーの存在は脅威ではない。
例えそこに点で集おうとも、怪しまれることもないだろう。

「ひとつひとつは点であり、すべては意を同じくする群体である。」

奇しくも、あの男からその存在の脅威を学んだことが、今の発想に繋がるは思わなかった。
良くも悪くも「人生は学問ではなく、経験の積み重ね」なのだなと実感する。


私は快く頷くと、ダミエリオーは純粋な笑顔を向けながら「ありがとう」と言った。

 

 

 

 

 

 

翌日、私はフロンデール薬学院の病院を退院し、剣術士ギルドへと足を向けた。

リーヴォルド・・・

アルディスと共に名声を極めた「ナルザルの双剣」の一刃。
国家転覆を目論む連中の仲間となり、「復讐心」を利用された者。

その核となる首謀者は捕らえたものの、点なる群体である彼らが今度は何をしでかすかわからない。
また別のグループと合流し、新たな「復讐」のシナリオを考えているかもしれない。


私は立ち止まって物思いに耽っていると、突然「ドンッ」という軽い衝撃を受けて体が揺らぐ。
私は何事かと思い焦るが「失礼・・・」という言葉と共に、ミコッテと思われる女性が歩き去っていった。

・・・・何かされたか?

歩き去っていく女の後姿を見送りながら、私は体を触り無事を確かめる。
特に痛みもなければ傷もないようだが・・・
何か盗まれたとか・・・?


なんだ、パントマイムの練習か?


突然声を掛けられ、振り向くとそこには錬金術師ギルドのギルドマスターであるセヴェリアンが不思議そうな顔で立っていた。

私は女がぶつかって来たことを説明すると、


そんなところでボーっと突っ立ってるからだ。
もしくは美男子と思ってぶつかってみたら「おっさん」だったので逃げていったのかもしれんな! 残念だったな。ハハハッ!!


と、失礼なことを平然と言う。
セヴェリアンの場合、冗談が胸に刺さるから始末に置けない。


そういえば最近全然こっちに顔を出さないが、もう正義の味方ごっこは飽きたのかい?


セヴェリアンは再び冗談にもならない冗談を言いながら、私の肩をポンポンと叩く。
私はセヴェリアンに話せる範囲での経緯を話し、同時に剣術士襲撃事件をはじめ、ここ最近起こっている混乱はひとまず沈静化するだろうと話した。


なんだ・・・つまらん。


本当につまらなそうな顔をしてがっかりするセヴェリアン。
・・・まぁ確かに、あれだけのことが起きない限り新薬研究は進まない。
何より被検体に溢れ、公然と治験を行えたあの期間は研究者にとってはご褒美みたいなものだろう。

ひょっとしたら関係のない試薬も投与されていたかもしれない。まぁ錬金術師ギルドのことだから問題はないのだろが・・・。

セヴェリアンによると私の言葉通り、昨日を境に襲撃にあった剣術士が病院に担ぎ込まれることが無くなったとのことだった。

私はふとサンクレッドが言っていたことを思い出した。

「ゾンビパウダーは脅威ではない」

その言葉の理由をセヴェリアンなら知っていると。
私は周りに人がいないことを確かめたうえで、セヴェリアンに聞いてみた。


ゾンビパウダー?
あぁ・・・王宮内の宝殿にあるとされる「不死」の薬か?
どうした。そんな骨董品に興味があるのか?
もしや「不死者」になりたいとか?


私は言葉を濁しながらも、ウルダハの存亡にかかわることだと説明する。


ゾンビパウダーが?
あんなもので?


セヴェリアンは無知な私を見て大げさに笑う。


確かにゾンビパウダーは脳の細胞を変化させて人を不死にする。
だが、不死になるのは脳だけであって肉体は別だ。
薬の効果によって肉体の限界を超えて動き続けることによって、傷んだ肉体組織は死に腐り機能不全を起こして動けなくなる。

それでも「死ねない」という絶望によって自我を失いながらも生き続けると、腐らない脳を持った「泥」になるんだ。

たまに下水とかで見るだろう?
「プリン」や「スライム」と呼ばれているものはそのなれの果てだ。

ゾンビパウダーは「秘薬」とされているが、実はそれほど特殊なものではない。
呼び名は違えど、普通に世界各地で存在するただの「毒薬」だ。
そして、今の時代はそれを直す薬も不死者を滅する手段もある。


私はセヴェリアンの話に唖然とする。


おいおい・・・既知の物が今も「秘薬」であるはずはないだろう?

もしそんなものがあるとしたら、フロンデール薬学院や錬金術師は無能の集団だ。
人の手により作られた物は、どんな秘薬であろうとも後の人の手によって成分を解明される。

そもそも、本当にゾンビパウダーが危険な物だったとしたら、そんなに簡単に盗み出せるようなところに仕舞っておくはずがないだろう?
まぁそれでも、ゾンビパウダーを飲めば一時的に犠牲者は出るだろうが、少なくともウルダハでならいくらでも対処はできるよ。

既に対抗策がある以上、脅威にはならないさ。

・・・まてよ。もしそれが諸外国に出回った場合だ・・・。
その回復薬をネタに、普段手に入れることが難しい新たな「材料」を獲得するチャンスかもしれん。

おお・・・なんだかちょっとワクワクしてきたぞっ!!


と、セヴェリアンは一人変なテンションになっていた。

そうか・・・確かに、秘薬中の秘薬であるはずの「ゾンビパウダー」が、杜撰に管理されていた。それはゾンビパウダーは「過去の遺物」として保管していたにしかすぎないからだ。


久々に面白い話をきけて楽しかったぞ!
最近「あれ」を持ってこない件については許してやろう。

 

気分転換になったのか、セヴェリアンは大きく伸びをしながら、「またな」という言葉を残して錬金術師ギルドへと戻っていった。