FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第三十五話 「ハイブリッジの戦い」

ハイブリッジに向かう前に剣術士ギルドに立ち寄ると、数名の剣術士が戻っていた。
みな浮かない表情をしながら、状況を把握できずに戸惑っている様子だった。
話を聞いてみると、街中で誰に聞いてもアルディスのことはおろか、ナナモ様暗殺未遂のことを知っている者がおらず、自分たちの情報が果たして正しかったのか疑問を感じているとのことだった。

ギルドを見渡してみてもミラの姿はない。
まだ戻ってきていないのだろう。

私はルルツに「ミラが戻り次第、全員でハイブリッジに急いでくるように」と伝える。
きょとんとするルルツに「そこにアルディスがいる。そして最悪の場合、明朝の日の出に処刑されるだろう。」と話すと、ルルツは口をあんぐりと開けて驚いた様子だった。

「詳しい話は後で話す。自分は先行して状況把握と時間稼ぎに努めるから、集まり次第急いで来てくれ。」

と伝えてギルドを飛び出る。
後ろからルルツの呼ぶ声が聞こえるが、私はそれを無視して走る。

閉店作業中のチョコボポーターに無理をお願いし、一匹のチョコボを借りる。
今からチョコボで駆ければ何とか日の出前までにハイブリッジにたどり着けるだろう。
アルディスの元にたどり着くには、何かしらの障害があると思って間違いない。

せめてミラたちが駆けつけるまでの間、時間稼ぎをしなければ・・

そんなことを考えながら、夜の街道をひたすらチョコボに乗って駆ける。

 


私がハイブリッジに着くころには、空にうっすらと紫色の色彩が滲み始めていた。
日の出まで時間が無い。
私は対岸の崖からハイブリッジの様子をうかがうと、2~3人が固まってハイブリッジの橋脚部へと降りていく姿を見つける。
あれ・・・か?
少しずつ空は夕闇から明けてきているものの、そのなかにアルディスがいるかどうかはわからない。

賭けてみるしかないか。

私は複数の人影を見たところに向けて伏兵に注意しながら走る。

何だろうか・・・朝方とはいえ、大罪人の処刑が行われるというのに人がいない。
人さらいの多いこの地域で、早朝といえどもここまで警備がいないというのも不自然だ。
罠?・・・・それとも・・・

私の心配をよそに道中になんの障害もなく、高架の下、そして橋脚へと続く階段を音を立てないように降りていくことが出来た。
そして、物影に隠れながら近づいていくと、橋桁の先にナル・ザル教団の司祭と思われるもの達と、手足を縛られた赤い服を着た男を発見した。

(・・・アルディス!!)

アルディスは無抵抗なまま、橋桁の先に座らされる。
どうやら目隠しをされた状態のようだ。


司祭は空の状況を確認しながら、

 

被告人アルディス。
ナナモ女王陛下暗殺未遂という大罪を犯した罪により、死刑に処す。
執行まで幾分時間がある。
懺悔することがあれば、今のうちに言っておくがよい。


処刑の準備が淡々と進められていく。
アルディスに告げる司祭の口調を聞くに、ただただ職務を務めるような事務的な対応だった。


・・・・別に今更話すことなんてねぇよ。
・・・・ただ、リーヴォルドという男に会うことがあったら、

「こんな結末を望んでいたとは、お前には心底がっかりだぜ。」

とでも伝えておいてくれ。
とアルディスは話し、再び口を継ぐみ、頭を下に向けて首をあらわにする。


地平線にジワジワと光が満ちていく。
空は秒ごとに明るさを増していき、今や遅しと一日の始まりを告げてくる。

まずい・・・ミラたちがたどり着くまで待ちたかったが、ここはもう行くしかない!!

と処刑現場に飛び出そうと思った瞬間、木造の階段を下りてくる複数の足音が聞こえてくる。

応援が間に合ったか!?

と思い、振り返ると剣術士ギルドの者・・・・ではなく、紫色の武具に身を包んだ集団が駆け下りてくる。

!!!?

私は驚き、咄嗟に隠れる場所を変え、身を隠す。

くそ・・・・ここで敵の増援・・・・。

私の頭の中に「絶望」という二文字が浮かぶ
紫色の防具に身を包んだ集団、あれは多分リーヴォルドのグループで、大方アルディスの処刑を見物に来たのだろう。手練れとも思えるような屈強な武者達を引き連れて、処刑場を取り囲むように立ち止まる。

ここで私が飛び出たとしても、多勢に無勢な上、例え張り合えたとしても戦っているうちにアルディスは処刑されてしまうだろう。

剣術士ギルドの応援はまだない。


な・・・なんだお前ら!!

???

紫色の集団に取り囲まれて狼狽する司祭。

・・・おかしい、彼らは仲間ではないのか?

 

どけっ。そいつは俺の獲物だ。
お前らなんぞの汚い手で始末されてたまるか。

と、リーダーと思わしき男が腰から剣を抜く。

あれは・・・・

男が抜き構えた剣は、アルディスが持っていたのと同じ、

「ナルザルの双剣」の片割れだった。

 

アイツがリーヴォルド・・・

剣を抜いたリーヴォルドに恐れを抱いた司祭は「ひぃ・・・お助けを・・・」と言いながら命乞いをする。


アルディスが「ここから立ち去れ」と怯える司祭に向かって言うと、男は慌てて逃げ出すように走り出す。足を縺れさせながら無様に走る司祭の肩を一度捕まえると「アイツらに伝えておけ。約束を違えた代償はいずれ貰いにいく」と言い捨て、男をグイッと後ろに押しのける。

橋桁の先には、手足を縛られ目隠しをされた状態のアルディスだけが取り残される。


その声は・・・・・リーヴォルド・・・だな。
へへ、久しぶりじゃねぇか。7年ぶりってところか?
今まで随分と汚ねぇ手を使って俺を炙り出そうとしたなァ。
そんな卑怯なことしなくても、直接言ってくれればいつでも応じたのによォ。


今の状況を知ってか知らずか、余裕な様子でリーヴォルドに話しかけるアルディス。
そんなアルディスにリーヴォルドは近寄り、剣先を使って縛っていた縄を切る。


おー痛てて。縄が食い込みすぎて手がちぎれるかと思ったぜ。


アルディスは縄によって赤くなった皮膚にフーフーと息を吹きかけ、目隠しの布を取り去った。


おいおい・・・随分と絶景じゃねぇか!


目隠しが解かれ、突然視界に広がる深い谷を目の当たりにして、嬉しそうに驚くアルディス。
そして「よっ」と軽い掛け声と共に、橋桁の先でぴょんと立ち上がり、リーヴォルドの方へと振り向く。


俺から逃げ続けていたお前が何を言う。
素直に俺の前に現れていてさえすれば、こんな面倒なことをせずに済んだのだがな。


そう言って、リーヴォルドは剣先をアルディスに向ける。


おいおい。
久々の再会なんだから、もっと喜ぼうぜ相棒。
どうだい? 近くに親父の墓もある。一緒に墓参りと洒落込まないか?


黙れっ!!!


アルディスの軽口にイライラが積もったのか、突然リーヴォルドは怒号を上げる。
そんなリーヴォルドに対してアルディスは「やれやれ」といった表情をする。


まだ俺に負けたことを恨んでるのかい?
それとも八百長を仕掛けられたことを恨んでいるとか?
そんなこと、お前だって嘘だと知・・・


知っているよ。初めから、すべてをね。
なんせ、

八百長側に回っていたのは俺だからな。


リーヴォルドの発言に、凍ってしまったかのような沈黙に場が包まれる。
リーヴォルドは続けて、


正しくは、コロセウムに蔓延っていた八百長関係者を洗い出すために、八百長側に潜入していたんだよ。

そしてお前との仕合・・・・

お前は俺に勝ったと思っているかもしれないが、俺は八百長を成立させるためにお前との勝負にわざと負けた。


アルディスはリーヴォルドの発言に言葉を失っているのか、口を噤んだまま何も話さない。
そんなアルディスを見てリーヴォルドはニヤッと笑い、


嘘ではないぞ。
それに・・・この話は他でもない、

ギルドマスターである親父から持ちかけられた話だ。

親父は公然と横行する八百長を正すために、中々尻尾をつかませない胴元を潰そうとしていた。
そして、八百長側への潜入者としての任を俺に与えたんだ。お前には内緒でな。

もちろん、その時は俺だって「そんなことできない」って断ったさ。

だが、成功報酬として時期ギルドのマスターの座と・・・・・ミラの結婚相手を約束すると言われて、俺は乗った。


どこか照れているのか、リーヴォルドは顔を少し背けながらも話を続ける。


お前はずっと勘違いしているようだが俺は剣の腕前以上に、ギルドでお前より上に立ちたいと思っていたんだ。どんなに頑張っても親父はお前を見る。そしてどんなに頑張っても、ミラはお前のことしか見ていない。

例え剣でお前に勝とうとも、ギルドでの地位はお前の方が上だったろう。

俺はその話に乗らなければ、一生お前の後塵を拝することになる。
そんなこと・・・・我慢できると思うか?


リーヴォルドはハハッ、と乾いた笑いをしながら話を続ける。


今だから言うが、あの時点で俺はお前より強かった。それは親父も認めていた。
八百長っていうのは、勝てる奴がわざと負けるからこそ成立するものだ。
だからこそ、親父は俺にその話を持ちかけてきた。

もしお前が俺より強かったら・・・・話は違っていたかもしれないがな。

俺は親父の話通り、八百長を先導するグループに潜入して、不正仕合に加担する人物の特定とリストアップに努めた。

そして俺たちの最後の仕合・・・・知っているか?

あの仕合で俺の勝利にかけられた掛け金は数十億だ。下馬評の情報操作によってね。
今までずっと「引き分け」だったからな。一部の者が大量に賭け出したら、他の者もつられて俺に賭ける。そして、

俺はお前に負けた。
俺とお前との実力差によって、俺はより自然な敗北を装ったのさ。

その後、俺がまとめたリストによって八百長加担者の一斉摘発が行われた。
俺は、八百長を明るみした功労者として、ギルドに凱旋する・・・はずだった。

しかし、ギルドに戻った俺に親父はなんて言ったと思う?

「これでしばらくの間身を隠せ。」

渡されたのは袋一杯に金貨の入った袋一つ。
俺は親父が言ったことが理解できずに問い詰めたよ。
そしたら親父は「しばらくの間は剣術士ギルドも八百長加担を疑われる。それはお前も例外ではないから自体が沈静化するまで身を隠せ」だとよ。
俺はふざけんなと怒鳴ったよ。
ここで俺が逃げたら完全に八百長側だって疑われる。

そしたら親父「お前とアルディスはすでに捕まったことになっている」と言ったんだ。
さすがの俺もキレたよ。今まで我慢に我慢を重ねて汚したくもない手を汚してきたってのに、結局犯罪者の汚名を着せられた上に、こんな惨めな結末を迫られるなんてね。

だから・・・殺したのさ。

親父をね。


随分と簡単だったよ。
あれほど恐ろしいと思っていた親父だったけど、やってみればあっけなかった。
ハハハ・・・寄る年波には敵わないってやつかな。
剣の腕は俺の方が遥に勝っていたよ。

俺はその後、ウルダハを後にした。
八百長をばらされた俺を恨んで殺しに来る刺客も多かったからな。


リーヴォルドは何かに耐えるように顔を歪ませている。
細められる目には涙のような輝きも見てとれる。
彼の中では未だ自分への疑問が残っているのだろう。
だが、それが最後に残された「良心」と呼べるものかどうかは、私にはわからない。


その後、しばらくしてウルダハで剣術士ギルドがミラの手によって復興したとの噂を聞いた。おまえと俺を「悪者」にして許されたってね。

正直不快だったよ。
無実の罪を着させられたばかりか、故郷を追われた俺の名を利用し、悪名として残されていることにね。

だから、いっそのことお前一人にすべての汚名をかぶってもらおうと思ったのさ。
お前についてはどこか遠い地で「始末された」と聞いていたしな。

ウルダハに戻って、俺はウルダハの不情に苦しむ奴らをけしかけて剣術士を襲わせた。
「アルディス」という死んだ人物に懸賞金をかけてね。
実に簡単だったよ。俺と同じくらいウルダハを恨んでいる者が多くてね。
やがて剣術士を志す者がいなくなれば、剣術士ギルドも終わりだ。

 

しかし俺にも誤算があった。それはお前が生きていたことだ。
そしてウルダハにいるってこともね。
だから、お前が生きているってことは俺にとって不都合が大きい。
お前は名だけが存在していれば十分だ。


それに・・・お前が俺に実力で勝ったと思っていること自体が不快で仕方がない。

だから、ここで俺が直々に引導を渡してやる。


そういって剣を構える。


アルディスはリーヴォルドの話を聞き、頭にきているようだ。
そして、


まぁお前のことはわかったよ。
あのくそ親父め・・・・伝えるにしても言葉が足りなすぎる。
いいよ。お前が満足できるのなら、俺も相手してやる。
だがその前に・・・・


そういってアルディスはリーヴォルドの後ろに目を移して、

あんたらの部下は納得いってない様子だぜ?


と、顎を使って後ろを指す。


リーヴォルドが剣をアルディスに向けたまま、横目で後ろを見ると、
リーヴォルドに対して剣を向ける部下の姿が映った。

 

リーヴォルドはそのままの体勢のまま、

なんのつもりだ?

と言い、不快そうな顔を仲間の男たちに向ける。
それに対して男たちの一人が下卑た笑い顔を浮かべながら、

 

へへ・・・俺達はあんたによって見せられていた「悪夢」から覚めたんだよ旦那。
よくも俺たちを騙して好きなように「使って」くれたなぁ?
その代償はでかいぜっ!!


と言い放ち、反逆者たちはそれぞれに武器を構える。
リーヴォルドは「ちっ」と舌打ちをして、元仲間となった男達にゆっくりと剣を向ける。


あんたとそっちの男を始末すれば、俺達は雇い主から使いきれねえほどの金を貰えるんだ。
これまでの雇い賃と思って、おとなしく死んでくれよっ!!


そういって一斉にリーヴォルドとアルディスに向かっていく。

私は咄嗟に物陰から飛び出て襲撃者たちを後ろから急襲する。
そして一人を薙ぎ払い、

「我々は剣術士ギルドだ! お前らの悪事をくじかせてもらう!!」

と声を張り上げる。
未だ剣術士ギルドの応援は無い。
だが、隙を作るにはこれしかない。

突然の伏兵の登場に思わず足を止めた襲撃者たちの隙を見逃さず、リーヴォルドもまた男たちに突っ込んでいく。
挟撃状態に陥った襲撃者たちは混乱状態に陥るものの、剣術士ギルドを名乗った伏兵が自分ひとりだと分かると徐々に落ち着きを取り戻し、体勢はすぐに劣勢へと追い込まれていく。

(腐っても盗賊連中如きとは統率が違うか!)

リーヴォルドも相当の手練れだが、襲撃者達はこれまで戦ってきた傭兵崩れとは違い、一人一人が技量をもった武者である。冷静さを取り戻されては複数人相手にすることはできない。
そして襲撃者の一人が混戦から抜け出し、アルディスへと襲いかかる。

ガンッ!!!!!

アルディスに襲いかかる者を止めるかのように、一本の剣がアルディスの足先に突き刺さる。そして、ハイブリッジの上に目を向けると新たに表れた複数の影が見えた。


我々は剣術ギルド!! 陰謀を画策する者達よ!!! 正義の刃によってそのたくらみ、すべて壊させていただく!!


剣を天高く掲げて、闘気を鼓舞するように口上をするミラの姿がそこにあった。

「いけ!!」という号令のもと、戦場の中に剣術士ギルドの面々が突撃していく。


くそっ!!
アイツらを潰せ!!

そういって一部の者達が応援に駆け付けた剣術士ギルドの集団へと向かっていく。


随分となめられたもんだなぁ・・・


投げ込まれた剣を引き抜き、肩に担ぐアルディス。
その剣は誰のものでもない。
闘剣士の頂点を極めし者に与えられた「ナルザルの双剣」の一刃であった。


たったこんだけの人数で俺らに立ち向かうってのかい?
肩慣らしにもならんかも・・・なぁ!!

そう言いながら楽しそうに戦場に飛び込んでくるアルディス。


ふんっ!
俺と戦うまで死ぬんじゃねぞ!!

お前もな!


戦いの中、まるでお互いを励まし合うように言いあうアルディスとリーヴォルド。
その意気はぴったりで、双剣を体で表すかのようにお互いがお互いを補いながら戦場を舞い踊る。
それはまるで舞踏のように美しく、それでいてお互いの力を最大限に引き出しあいながら一体となって相手をなぎ倒していく。

私は不覚にも戦う手を止め、その舞に見惚れてしまった。
その隙をついて襲撃者の一人の凶刃が目の前に迫る。

ガキィィン!!

という音共に、斬撃は盾によって防がれ、襲撃者は後ろから迫ってきた剣術士ギルドの者によって切り捨てられた。


油断し過ぎだぞっ!!!


と私を攻撃から守ったミラが叫ぶ。
「すまない」と謝って私は、剣を構え直して再び戦場の中に飛び込んでいった。

 

 


戦闘が終わるころには、顔を見せていたはずの陽は厚い雲の中に沈み、いつの間にか降り出していた雨は乾いた大地をあっという間に湿らせていく。
ミラは暗く淀んだ空へと剣を高く突き上げ、勝鬨を上げた。

 

アルディス、リーヴォルド、そしてミラ。
離れ離れになってしまった彼らが、今ここに集う。
アルディスはミラを一瞥すると、リーヴォルドに向きなおって、

へへ・・・やっぱりお前はすげぇな。
7年前と比べても剣の腕前は全然鈍っていねぇ。


と声をかける。
それに答えるようにリーヴォルドは「そんなお前はちょっと鈍ったんじゃないか?」と返す。


・・・・・じゃあ、どちらが強いか?

「試してみるか?」
「試してみるか?」


と、言葉が合わさるや否や、二人は一対の剣を交える。
さっきまでは互いを守るように振り回されていた剣が、今度はお互いを倒すために打ちあわされていく。
私はそれを止めに入ることもできず、二人の戦いを固唾をのんで魅入る。

二人の間合いに立ち入ることなど、私ごときが出来るわけはない。

「真剣試合」

命ではなく「魂」を賭けた勝負に割って入るような無粋なことはできない。
それほどまでに神々しさを感じるような戦いだった。

私と同じように押し黙って二人の戦いを見るミラは、他の剣術士ギルドの者に対し、


よく見ておけ。あれがウルダハ最強と呼ばれた闘剣士達の死合だ。
お前たちが目指すはあの高み。
一挙手一投足を、目に、そして心に焼き付けておけ。

 

表情には出さないものの固く握られた手を見ると、二人の戦いに複雑な思いを巡らせているのだろう。
志を共にした二人が、今相手を打ち負かすためだけに闘っている。
二人の喪失によって多くを失ってきたミラに対しても、私はかける言葉を見つけられない。

息もつかせぬほどの激しい打ち合い。
まるで初めから決められた殺陣のような攻防が、自分の胸を熱くする。
私のただ「勝つ」だけの粗暴な戦いとは違う。
自分の持つすべての力を出し切ってなお、まるで舞踊のように流れるような剣裁きを合わせていく。

見る者を魅了し、熱狂の渦に落としいれる「闘剣」のすべてがここに詰まっている。


両者の実力は7年の時を持って今なお「拮抗」。
だが、一つの綻びが均衡を打ち壊す。

お互いの踏込みに絶えかねた木床の一部が「バキッ」という音共に折れ曲がる。
それに足をとられ、ふらつくアルディスに対してリーヴォルドは一気に畳み掛けに飛び込んでいく。
アルディスは咄嗟に床に落ちていた箱蓋を拾い構えて、そのまま飛び込んでくるリーヴォルドに体ごとぶつける。
自分の飛び込むスピードが仇になって強い衝撃を喰らったリーヴォルドはよろよろと後退する。
その隙を見逃さなかったアルディスの一撃が、リーヴォルドの利き手を引き裂いた。

 

ぐぁっ!!!


という声と共に膝をつくリーヴォルド。
そんなリーヴォルドに剣先を向けたままアルディスは一言「勝負あり・・・だ」と言った。

 

リーヴォルドは切り裂かれた右腕を確かめるように動かそうとするが、腱が切れて満足に動かせないことがわかると、腕を抑えながらゆっくりと立ち上がり、


「さぁ・・・殺せよ。」


と不敵な笑みを浮かべながらアルディスに言った。