FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第三十六話 「折れたザル剣」

アルディスは剣をリーヴォルドに向けながらも動かない。

 

どうした? こんなところで情に走るなんぞ、愚か者のすることだぞ?

と、リーヴォルドは自分に剣を向けたまま動かないアルディスを煽る。


リーヴォルド・・・馬鹿なお前に教えてやるよ。


リーヴォルドを追い込んでいるはずのアルディスは、表情をこわばらせたまま訥々と話し始めた。


親父が自分の後継者として、お前を剣術士ギルドのマスターに据えることはかなり前から決まっていたんだよ。
俺は親父の娘のミラを、お前とくっつけるように頼まれていたんだ。
適当で女ったらしの俺にミラはやれんし、ギルドを任すつもりもないってね。

でも、俺はそれでいいと思っていた。お前がギルドマスターになることに異議はなかったし、自分のことを表に出すのが苦手なお前の右腕になることも、嫌じゃなかった。
お前とはしょっちゅう喧嘩していたけど、なんだろうな・・・兄弟がいたらこんな感じなのかなって思えたら、喧嘩することさえも嬉しかったんだ。
体面なく素直に意見をぶつけ合える関係って最高じゃないか。

しかし、俺が色々とおせっかいを焼いてやっていたのに、どっちもどっちで色恋沙汰に不器用だから苦労したさ。


アルディスはその当時を思い出しているのか、ハハッと笑いながら話を続ける。


俺はお前が親父に頼まれて八百長グループの間者になっていたことも知っていたよ。
汚れ役なら俺がやるって親父に掛け合ったが、お前じゃすぐにぼろが出て必ず失敗するって言われてね。


アルディスはリーヴォルドに向けていた剣を下ろす。

 

・・・・それに、俺は分かっていたぞ。
あの時の仕合、お前は俺に本気で勝つつもりだったってな。


アルディスの言葉を聞き、リーヴォルドの表情がピクッと反応する。


確かに初めは剣に迷いがあった。「あぁこいつ、俺に負けるつもりだ」と分かったさ。
だが、いつしかお前の剣は俺との闘いを楽しむかのように踊っていた。
そう・・・今日の様にね。

お前はいつも冷静さを装っている。周りから「何を考えているかわからない」と言われるほどに。
だが、俺は何年お前と向き合ってきたと思っているんだ?
お前の変化を見間違えるほど、俺の目は節穴じゃねぇ。
だから俺はお前に全力でぶつかって、全力のお前に勝ったんだよ。

へへ、お前には悪いが・・・今日で2戦2勝だ。
まぁ・・・・引き分けは数えきれねえがな。
再戦したいなら、いつでも受け付けているぜ?


アルディスは少しおどけながらリーヴォルドに話す。
しかし精一杯の笑顔をつくろうとしているが、不安からかうまく笑えていない。


なぁリーヴォルド、もう一度・・・・やり直すつもりはないか?
ミラが剣術士ギルドを守ってきた理由・・・・それは俺たちが戻ることの出来る「居場所」を残しておきたかったからなんだぜ?


そう言って手に持っていた剣を床に置き、手を広げるアルディス。
ミラもまた思いつめた顔をしながら、リーヴォルドを見ている。
その二人の顔を見比べながらリーヴォルドは、

 

ハハッ!
・・・・全てはもう遅い。
俺の手はもう取り返しのつかないほどに汚れきっている。
今更常人の振りをして日常に戻れると思うか?
俺のわがままのせいでどれだけの者が傷つき、死んでいったかわかるか?
そこでくたばっている奴らだってそうだ。俺は俺自身の復讐のために多くの者を利用し、命を枯らせたんだ。

・・・・そう・・・・俺の「復讐」は今ここで終わるんだよ。
もし・・・・俺に悪いと思うなら、アルディス・・・

お前も俺と一緒に死んでくれるかい?

 

とリーヴォルドが言うや否や、二人の会話に呑まれ、立ち竦んでいた剣術士達の間を縫うように走り抜ける、ローブを着た者がアルディスの後ろに迫る。
ローブを着たものは走りながらポケットから一本のナイフを取り出す。

アルディス!!!

と声をかけるが、既にローブを着た者はアルディスが振り向く間もないほどに接近している。そしてアルディスの背中に迫り・・・

 

 


ローブを着た者はアルディスを避けるように通り過ぎて、一気にリーヴォルドに駆け寄る。

トスッ

雨音に包まれる中で、体を合わせる音だけがやけに耳に響く。
そして、リーヴォルドは駆け寄った者のフードに手をかけ顔を確認する。


まぁ・・・・俺の人生の終わりなんて・・・

・・・・こん・・・なもの・・・・か・・・


と、ローブを着たミコッテの女を両腕で抱きしめる。
そして、よたよたと後ろによろめきながら、ゆっくりと下がっていく。
アルディスは慌てて二人に駆け寄るが、間に合わない。

そしてミコッテの女は

信じてたのに!!

という言葉を叫びながら、リーヴォルドと一緒に崖から落ちていった。

 

リーヴォルドォォッッッ!!!!!!


無情にも霊災によって引き裂かれた大地の溝に、決して戻ることのなかった双剣の一刃に刻まれた名が木霊する。
ちょっとした思い違いで行き違い、取り戻すことの出来なかった思いすべてを、そこの見えない谷が呑み込んでいくように、二人の姿はゆっくり・・・ゆっくりと小さくなり、消えていった。

 

リーヴォルドの死に涙するかのように雨は強さを増し、容赦なく体に打ち付けてくる。
しばらく谷底を見つめながら立ち竦んでいたアルディスの体から、フッと力が抜けるのがわかる。そして肩を落としながらゆっくりとこちらに振り返り、


すまねぇ・・・随分とみっともねぇところを見せちまったな。
しかし・・・こういう時の雨っていうのは本当に便利なもんだ。


とアルディスは照れ臭そうに鼻を掻く。
アルディスの顔は激しい雨にうたれてびしょびしょになっているが、目は真っ赤に充血していた。
その姿を見て、私はなんて声を掛けていいかわからない。


ハハ、これですべて一件落着って感じかな?
そう言いながら、アルディスはちらっとミラの方を見る。


ミラもまたアルディスの視線に気が付いたのか、どこか恥ずかしそうに視線をずらしながら、

 

全く・・・本当に面倒なことをしでかしてくれたな。
お前を助け・・・・コホンッ!!
事件の首謀者を捕まえるために私たちがどれだけ奔走したと思っているんだ?

それに誤解無いように言っておくが、私がギルドを守ってきたのはお前たちの為じゃない。

ここにいるギルドの者達の為なんだからなっ!!


と、顔を赤らめながら答えた。
ミラの顔もまたアルディスと同じように、泣き腫らしたような表情だった。


そんなミラのツンデレな受け答えを聞いて安心したのか、アルディスの顔に幾分か余裕が戻ってきている。そしてミラに、


お前には言ってなかったけど・・・・まぁそんなことになっていたんだよな。


と言い訳がましく呟く。
ミラはそんなアルディスの言葉に耳を傾けることなく歩き始め、床に落ちていたリーヴォルドの剣を拾い上げた。
そしてアルディスに聞き取れないような小声で、


そんこと・・・私だって薄々気が付いていたさ。


と呟き、手にした剣を持ってゆっくりと歩きだし、二人が落ちていった谷に掲げた。


死者を見守るザル神よ。
願わくば、世の非情に惑いし者たちの罪をお許しください。
生者を見守るナル神よ。
新たに与えられる生に、多くの幸をお与えください。


目を閉じて祈ると、ミラは剣から手を放す。

 

所有者を失った剣は、落ちて行った二人を追いかけるように一直線に谷底へと落ちていく。
その光景を見ながら、この場にいるすべての者が胸に手を当てて、二人の死を弔った。
そして、ミラはゆっくりと振り返り、


帰ろう・・・みんなの待つ剣術士ギルドへ・・・

 

と呟き、ゆっくりと歩き出した。

 

 

 

戻る気はないのか?


剣術士ギルドに戻ると、ミラは遠慮がちにアルディスに問いかける。


なんだァ? ミラは俺に戻ってきて欲しいのかァ?

 

と、ニヤニヤしながらアルディスは答える
ハイブリッジで見せた真剣みとは打って変わっていつものアルディスに戻っている。
「違うわ馬鹿者!!」と慌てたように否定するミラ。
一体いつぶりだろうか。ミラの活き活きとした姿を見るのはとても久しぶりなような気がする。

二人のやり取りをみて、剣術士ギルドの者達もまたホッと胸をなでおろしたようで、時折笑い声も聞こえてくる。
張り詰めていた空気が緩み、ギルド内はいつもとは違う温かさで包まれる。


剣術士襲撃事件発生からアルディスの登場、そしてリーヴォルドとの再会。
7年という空白を経て待ち望んでいたはずだった感動の再会は、ミラが望んでいたものとは大きく違っていたのだろう。
自分ではどうすることもできない焦燥感に駆られ、ミラはいつしか自分を見失いかけていた。

「リーヴォルドの死」

これがあの二人にとってどんな意味を持っているのかは、私にはわからない。
その胸中を私に話してはくれないだろうが、それでもあの二人が一緒ならその悲しみからも乗り越えられるのだろう。

強がりとも取れるような二人の掛け合いを耳に入れながら私は、


(やっと終わった・・・と言えるのかもしれない・・・)


と近くにあった椅子にどっかりと座り込み、大きく息を吐いた。
ずっと気を張り詰め続けていたせいか、今になってどっと疲れが体全体を包み込む。


お疲れ様。


気が抜けてだらしない格好で座っている私にルルツが話しかけてくる。


・・・・・そして、ありがとう。


ルルツの方を見ると、既に痴話げんかレベルで言い争うに二人の姿を安心した様子で眺めていた。
そして目には涙のような輝きが見え隠れしている。


ほんと・・・あんな元気なミラを見るのは久しぶり。
私、さすがにもうこのギルドも終わるんじゃないかって思ってた。
ミラの剣術士ギルドだもん。ミラがいなければ終わってしまう。

「悲しい思いをするならば、いっそのこと来なければいいのに」と思っていた今日が、まさかこんなに笑顔でいられるなんて、

本当に良かった。


そう言いながら、ルルツは自分の小さな手を差し出して、私の手をギュッと握る。
私たちがハイブリッジに向かった後、ずっと留守を任されていたルルツ。
もしかしたら「ミラは帰ってこないかも」という不安にずっと襲われ続けていたのだろう。


それもこれも全部、あんたのおかげ。
どうせミラは恥ずかしがって言わないだろうから私から言わせて。

ミラとアルディス・・・そして、剣術士ギルドを守ってくれて、
本当にありがとう。


そう言うルルツを見ると、目元からスッ・・と涙が零れ落ちた。
私はそんなルルツに「俺だけじゃない。ルルツもだし、ここにいるギルドの皆で守ったんだよ。」と答えると、「あんたのそういうところ、ずるいと思うわっ!」と顔をくしゃくしゃにしながら笑った。


あーーー・・・いちゃついているところ悪いんだが・・・


ふと目を戻すと、そこにはニヤニヤ顔でこちらを見ているアルディスの姿があった。
私とルルツはびっくりして飛び上がると「いや・・そういうつもりじゃないんだ・・・」と言い訳がましく言う。


まぁ二人とも手を繋ぎながら顔を真っ赤にさせているところを見ると「色々」あるんだろうが、ミラの手前もあるから内緒にしておくぜ!
俺も男だしな! なぁ兄弟!!


ガハハッ!!
と、既にアルディスは本調子に戻っていた。
私とルルツはいそいそと手を離し、何事もなかったかのように装う。
ミラもまた微笑ましい表情でこちらを眺めていた。

ルルツはアルディスが身支度を整えた様に荷物を背負っていることに気が付き、別れを感じたのか再び表情が曇る。


アルディス・・・

そんな顔をすんじゃねぇよルルツ。
残念だがこのギルドに俺はもう必要ねぇんだ。

そんなっ! それはあんたが決めることじゃないよっ。

いや、俺という存在はもう死んだんだ。アイツと一緒にな。
そんな奴が剣術ギルドにいたら、また変な迷惑を掛けちまう。

それに、今生の別れってわけでもねぇんだ。
親父の墓参りにまたフラッと立ち寄ることもあるだろうから、そん時はよろしくな。


ルルツの目から止めどなく流れる涙をアルディスは指でふき取り、ルルツの頭をくしゃくしゃっと乱暴に撫でる。そして自分の方を見て、

あんたには本当に世話になったな。
初めて会ったときは「こいつすぐに死んじまうんじゃないか」って思っていたが、ここまでやる男とは思わなかったぜ。

 

そう言って、アルディスもまた手を差し出してくる。
私もまた手を差し出し、互いに握手をする。


あんたがここにいてくれるから俺は安心して出ていけるんだ。
所詮ウルダハは「富」と「名声」で縛られている魔境だ。
清廉潔白に見えたアイツでさえ、「欲」には勝てなかった。
この先も、ここウルダハでは大なり小なりいろんなことが起きるだろう。
そん時は、どうか困難かミラのこと、そして剣術士ギルドのことをこれからも守っていってくれ。

おっとそうだ・・・餞別に一つだけ忠告しておくぞ。
あんたはあんまりそういうのに疎そうだからな。


そう言いながらアルディスは私の耳元に近寄り、小声で、


くれぐれも、女の扱いには気を付けろよ。
誰彼構わず優しくすると、大変なことになるからなっ!!


と呟き「ガハハハッ」と笑いながらバンバンと私の肩を叩く。


じゃあなっ!! また会う日まで! 元気にしてろよ!!


アルディスは担いだ荷物を抱え直すと、散歩にでも出かけるのような気軽な雰囲気のまま剣術士ギルドを去っていった。

 

去っていくアルディスの後姿を見ながら、私はミラに「引き止めなくてよかったのか?」と聞く。

そうだな・・・未練がないかって聞かれると、抱えきれないほどある。
でも、私以上にアルディスにとってリーヴォルドの死はショックが大きいのだと思う。
最後の最後で真実を伝えあい、和解できる・・・と思ったんだろうしな。
ああおどけて見せていても、まだ心の中では整理はついていない。

だがアイツのことだ。一人で考えて、寂しくなったらどうせひょっこり顔を出すだろう。
だから、今アイツを無理に引き留める必要はない。
そう思ったんだ。


ミラは少し顔を赤らめながら、話し続ける。


アイツのいない今だから言えることだが、実は昔の私は、アルディスに好意を抱いていたんだ。
今思えばそれは「恋心」ではなくて、ただの「憧れ」。
当時はそんなことわからなかったけどね。

私はアルディスに好意を抱いているのに、アイツはリーヴォルドのことばかりを話してくる。
お転婆の世間知らずだった私はそれに腹を立てて、リーヴォルドから距離を置くようになったのさ。

今思えば、リーヴォルドもまた私と同じく孤独を感じていたのかもしれない。
そして、私と違ってアルディスのような人望に溢れる人を嫉妬した。

今でもずっと思うんだ。
あの時、私がもう少し大人だったら・・・いろいろと気が付くことができたら、二人が闘うことなんてなかったのに・・・なんてね。


・・・でも、終わってしまったことをくよくよ考えても仕方がない。
去っていくヤツのことも然り・・・だ。

こんな私にでもついてきてくれるみんなの為、私は今の剣術士ギルドを守っていかなければならない。

だが・・・お前も分かっているだろうが、私はまだまだギルドマスターとして未熟者だ。


もし・・・・また私が暴走することがあれば、お前に止めてもらいたいんだが・・・。


と、ミラは少し恥ずかしそうに言い淀む。
いつも気丈なミラにしては随分としおらしいことを言う。
そのギャップに耐えかねて、私は思わず爆笑してしまう。


なな・・・なんでそこで笑うんだっ!!
私は別におかしな話はしていないぞ!!


戸惑うミラの姿を見て、ルルツやほかのギルドの者もみなつられて笑い始める。
そんなみんなを見て何が起こったか戸惑うミラではあったが、笑顔に包まれるギルドメンバーの姿を見て、ミラも自然と笑顔になっていた。

 

そして私は、

「こちらこそよろしく、マスター。」

と言いながら、ミラに手を差し出す。
それにこたえるように、ミラもまた私の手を強く握り返してきた。

 

バンッ!!!

突然ギルドの扉が大きく開かれる。
何事かと思い扉の方を見ると、王宮の者とみられる者3名がズカズカと中に入ってくる。

我々は法務庁の者だ。
ここのギルドマスターはどちらにいる?

と、ぶしつけに聞いてくる。


ミラは真剣な表情に戻り「私だが?」と答えると、法務官を名乗る男は、


アルディスによる「ナナモ女王陛下暗殺未遂」について聞きたいことがある。

と話してきた。