FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第四十〇話 「罠」

あなた方の帰国手続きは私の方で手配させていただきますよ。
なに、警備が厳しいと言ってもコネさえあればなんとでもなるのがウルダハです。
損得の天秤が「得」に傾けば、規則なんて全く意味はありません。

そう言って商人らしき男は後ろ手に控えていた大柄な者に何かを手渡す。

(それはあんたのような有力者だからできることだろうが・・・)


ただ・・・あなた方の格好では少々目立つ。
・・・特にそちらのララフェルの方はね。
もしよろしければ、渡航用の衣装をこちらでご用意しましょう。
それも報酬のうちと思っていただいて結構ですよ。


それはありがてぇ話だな。
せつねぇ話だが、こっちはあまり自由に金を使えねぇ身でね。
ものの調達にはいちいち気を使わなければなんねぇんだ。


このルガディンの男ですら、組織のお金は自由に使うことができない。
この男の所属する組織にとって「掟」は力によって縛り付けられている。

組織に所属する以上「自分の金」というものは存在しない。

もし自分の金が欲しければ、誰かから奪うしかない。
もちろん、すべて自己責任において・・・・だが。


手配中の船便の出航まで、今しばらく時間があります。
何ならウルダハの観光でもしてみてはいかがですか?


商人らしき男の申し出に、ルガディンの男は退屈そうな顔をしながら、


くたばっちまった講釈野郎に随分と待たせられたからなぁ・・・
正直ウルダハ観光は飽きちまったんだよ。
酒場にでも入り浸ってのんびりしてるさ。
その方がこいつを管理しやすいしな。


と、足先で私のことを指す。
ルガディンの男の答えに商人はピクリと反応して、


そうですか・・・・では、どうです?
小遣い稼ぎにもうひと働きしてみませんか?
お願いしたいことは、命の危険の無いとても簡単なこと。

一方にはある荷馬車に乗っていただき、もう一方は合図に合わせてこの「特製」かんしゃく玉を投げ込んでもらう。
ただそれだけのお仕事です。


ララフェルの男の申し出を聞いて、ルガディンの男の表情が変わる。


なんだいそりゃ。
あんたは俺らに一体何をさせようってんだ?


私の目的は、今後「商売」の障害となりうる可能性のある男の「排除」です。
誤解なきように言いますが、あなた方に命の危険をかけてその男の直接的な排除をお願いするわけではありません。
男を排除するのは、こちらがけしかける盗賊団連中のお仕事です。

あなた方にはその男の誘導と準備をお願いしたいのです。
少なくとも、このお仕事のことはあなたの「組織」には知らせません。
正直に報告するなり、懐に入れるなり、そちらのご自由にしていただいて結構ですよ?

この仕事の報酬として、前払いとしてこれだけ・・・・そして、成功時にはこの位を払いましょう。
もし失敗しても「前払いした金を返せ」なんて言いません。
「時間拘束料」とでもお考えください。


そう言いながら、商人らしき男は指を使ってルガディンの男に伝える。
商人らしき男が示した提示額を聞き、ルガディンの男は驚いたように目を見開くと、しばらくの間黙り込む。
今この男の頭の中では「組織に秘密を作るリスク」と「人生で得ることの出来ない破格の報酬」とを天秤にかけているようだ。

ルガディンの男が「組織には絶対にバレないか?」と改めて確認すると、


もしバレるとするなら・・・
そちらのララフェルの方が組織の方にペラペラしゃべること・・・
ぐらいでしょうね。


と未だ地べたに這いつくばったままの私に視線を向ける。
「・・・・ちっ」とルガディンの男は小さく舌打ちすると、私に対して、


報酬の一部はお前にくれてやる。
だからお前も「共犯」だ。
分かったな?


と、ルガディンの男は不満げな表情をしながら私に言い放った。

正直、金なんか貰ったところで私の「不自由」は変わらない。
それどころか、私が金を持っていると組織にバレた時点で、組織の金に手を付けたと言いがかりをつけられて、取り上げられた挙句にひどい目に合うだけだ。

そうなることを分かっている上で、この男は私を「金」で縛り付けたいのだ。

私の返事など聞かず、ルガディンの男は商人らしき男の提案を受けた。

 


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商人の男に指示された通り、俺はウルダハの大きな門の前に止められた荷馬車に待機する。
話によると標的に怪しまれないように、事情を知らない冒険者達も数名乗り込んでくるらしい。
その内の一人が商人の協力者で、機を見て標的に睡眠薬入りのポーションを飲ませるとのことだ。
それまでの間、俺は標的の男に因縁をつけ、同行する冒険者と徒党を組まれないように孤立させることが仕事らしい。

・・・ただ荷台に乗ってりゃいいだけじゃねぇのかよ・・・

このウルダハで「ただ仕事」ほど危険な物はない。
何かしらでも仕事をしていたほうが、後腐れはない。

そう、約束違いに苛立つ自分に言い聞かせる。

ん・・・?
そういえば・・・・

標的の男のことを聞くのを忘れていたな・・・。
協力者が誰かも俺は分からねぇ。
どうすんだこれ・・・

俺は少し慌てて荷馬車の前に座っている商人の男に声を掛ける。
俺が「そういえば標的の男が誰なのか俺は知らねえんだが」と聞くと、商人の男は小声で「見ればわかりますよ・・・」とだけ答えた。

・・・・声が違う?

深々とフードをかぶっているものだからわからなかったが、こいつぁのさっきの商人の男じゃねぇ。
しかし、事情を知っている・・・ということは、関係者か?


俺は少し用心して「本当に信じてもいいんだろうな?」と聞くと「もしここで嵌めたとしたら、あなたの組織に我々は全力で潰されるでしょうね」と返してきた。

・・・確かに、それもそうか。
そもそも、ここで俺たちを処分する理由が向こうにはねぇはずだ。
用心にこしたことはねぇが、疑いすぎて相手の不信をかっては面倒だ。

と、覚悟を決めて荷台に戻る。
そして、時を待たずしてひとり・・・またひとりと冒険者達が荷馬車に乗り込んでくる。

乗り込んでくる冒険者たちは、俺の顔を見るや否や、驚いた表情をしてすぐに目を逸らす。

・・・なんだ。こいつら新米冒険者か?
どいつもこいつも装備もままならねぇ腑抜けどもばかりじゃねぇか。
戦うことはないとは言っていたが、こいつらとパーティーを組むなんてこっちが願い下げだぜ。

腕を組みながら「むすっ」とした表情で座っている私を避けるように、冒険者たちは荷台に設けられた席に座っていく。

はいはい・・・ごめんなさいね~。

その中で、少し雰囲気の違う弓を背負った男が乗り込んでくる。
そして、自分の姿を見るや否や、


おやおや・・・随分と勇ましい方がおられるようだ。
はじめまして・・・・短い間ですが、よろしくお願いしますね。


と言いながら、飄々とした男はニコニコと笑顔を顔にたやしたまま、俺に握手をもとめてくる。キツく睨み返す俺に臆することなく、男は俺の目をジッと見つめていた。

・・・底が知れんなこいつは。
そうか・・・・こいつが協力者か・・。

俺は「よろしくな」と言いながら飄々とした男の手を握り返すと、男はニヤッと笑った。


しばらくして、一人の冒険者が乗り込んでくる。


おいおい・・・・・こいつは!?


最後に乗り込んできた冒険者の男。
そいつこそ、

銀冑団と手を組み、俺の取引相手を見事に返り討ちにした男だった。

 

 

(こいつは面白れぇことになってきなぁ!)

俺の中の嗜虐心が好奇に震え始める。
そして開口一番、

おせぇーぞ!

と、俺が声を張り上げると、ボロボロのホーバージョンに身を包んだ男はびっくりした様子で「すまない」と申し訳なさげに言葉を返してきた。

 

参加冒険者の全員揃った荷馬車は、ゆっくりとウルダハを離れていく。

俺はその道中、好奇な目でそのボロボロの男の様子とずっと伺った。
男は私の視線に気が付いていないのか、随分と疲れた様子で目を擦っていた。
しかし・・・防具もそうだが、腰にぶら下げている剣なんて刀身に亀裂が入っていてすぐにでも折れてしまいそうだ。

いちゃもんを付けるならここだな・・・

俺はボロボロの剣をネタに、難癖をつけ始める。
いや・・・これは難癖なんてもんじゃねぇ。
至極当たり前のことを指摘しているだけだ。
強引に参加を強要されたのかどうかは知らねぇが、それにしたって装備の手入れを怠るような奴は冒険者の風上にも置けねぇ。

自分が死ぬのは勝手だが、それに巻き込まれるこっちの身にもなれってんだ。
こっちの世界じゃ、一人の失敗は全員の責任になる。
たまにこういう奴がいるから、俺らは無駄にババを引かされるんだよ。
それを分かってねぇ奴は、どんな奴だろうが消えちまえばいいんだ。

ついつい熱が入っちまった俺の追及に疲れたのか、ホーバージョンの男は捨て台詞を吐きながらぐったりとした様子で荷馬車の背にもたれかかった。

いちいち癪に障る奴だ。
戦う必要はねぇって言っていたが、俺の手で始末してやりたくなってきたぜ。

男の対応に血の気が沸き立つ俺だったが、

まてまて・・・
随分とお疲れの様子だが、あの化けもん相手に一人で立ち向かったやつだ。
こんな状態だったとしても、何をしてくるかわからねぇな・・・

俺は自分の気持ちを押しとどめるように、男から目線を外す。


それを好機と見たのか、協力者の男がホーバージョンの男に一本のポーションを差し出した。そしてホーバージョンの男は、疑うことなくありがたそうにそのポーションを一気に飲み干した。

本当に、迂闊な奴だぜ・・・

俺は内心そう思いながら、ほくそ笑む。
そして程なくして、睡眠薬入りのポーションを飲み干したホーバージョンの男は、疲れも相まって深い眠りについていた。

 


荷馬車が止まると、チョコボを操っていた商人の仲間の男が、


さて、目的地に着きましたよ。
ただ、どうやらキキルン達は二か所に分かれているようです。
せっかくなので、二組に分かれて攻めていきましょう。


そう言って、隊を分けようと進言してくる。
基本戦力が低い場合、本来であればこういう場面では最大戦力での各個撃破がセオリーなのだが、新米冒険者の集まりであるこいつらにそれを指摘できるものはいなかった。


おいあんた、俺についてこい。
それとそこで気持ちよさそうに眠っているこいつは、こっちで引き取ろう。
現場についたら顔を殴って叩き起こしてやるよ。
命を懸けた戦いがどんなものであるか、身をもって教えてやる。
後はそっちで勝手にやりな。

そう言って、弓を背負った協力者の男とホーバージョンの男を指名する。
俺の提案に新米冒険者共はどこかほっとした顔をしながら、ワイワイと荷馬車を降りていく。

そうだ。クズはクズ同士、群れあってりゃいんだよ。


では、人数の多い冒険者様のグループは、あちらの集落へ急襲をお願いいたします。
少し数が多いようですが・・・・あなた様方の腕前なら問題ないでしょう。
それにすべてを倒せない場合は足止め程度でも結構です。

そしてこちらの方々は、もう少し上に行ったところに強奪された荷物のある拠点があります。キキルンの数は見張りほどしかいないと思いますが、それを片づけた後に荷物をこの荷馬車に積み込んでください。

全ての積み込みが完了次第、こちらに戻ってきます。
キキルンが残っていたとしても、うまく逃げてこちらに戻ってきてください。
念のため、こちらで用意した回復薬をいくつか渡しておきます。
決して無理はしない。それだけを心がけてください。


以上が今回の作戦です。
何か質問はございますか?


なんて至れり尽くせりな作戦だ。
異議はないのか、テンションの上がっている新米冒険者たちは、意気揚々とお互いを鼓舞するかのように声を掛け合っている。

俺はその光景を冷めた目で見ながら、商人の仲間の男に「行くぞ」と伝えた。

 

 

誰もいない高台の上から、
新米冒険者たちの奮闘を眺め見る。

おうおう・・・メチャクチャだなおい・・・

統制というには程遠く、各々がバラバラにわちゃわちゃと動いている様に思わず笑う。
確かに、パーティーには必ず「リーダー」の立場が必要なのだが、即席混成パーティーでしかも新米連中の中にそんな役を立ち回れる奴なんていない。

あ~あ、あっちこっちで勝手に戦端を開きやがって・・・あれじゃ回復役が可哀そうだな。
あんなに逃げ回ってたんじゃ、補助もできねぇよ・・・。
ぴょんぴょん飛び跳ねてるアイツは、何がしたいんだ?

混沌とする戦場を喜々としながら観戦していると「はぁ・・・はぁ・・・お待たせいたしました。」と、商人の仲間の男が息を切らして戻ってくる。
「あらかじめ」物陰に用意していた荷物の積み込みが完了したらしい。


で、俺はどうすりゃいい?
早くしねぇと、あいつら全滅してしまうかもしれねぇぜ?


と、笑いながら後ろの戦場を指さす。
商人の仲間の男はその様子を見ながら「死んでしまったのならそれまでですよ」と下卑た笑みを浮かべていた。


もう少し上がったところに、キキルン盗賊団の本拠があります。
今新米冒険者たちが戦っているグループは、そことはなんの関係のない野良集団です。
その集落の近くに、この冒険者を捨ててくる。
そして我々が安全なところに避難したところで、もう一方に「かんしゃく玉」を投げ込んでいただければ、お仕事は完了です。

新米冒険者が生きて残っていたとしたら、もちろん回収していきますよ。

「一名の尊い犠牲は出たものの、奪還作戦は成功。」

というシナリオが、我々にとっては一番ありがたいのですから。

 


商人の仲間の男が言うとおり、少し上がった丘の上に、先ほどとは比べものにならないほど大きな集落が見えてくる。
見えるだけでキキルンの数は先ほど集落の倍。
建物の中にいる全てのキキルンが出てきたら、いったい何人いるかどうかわからないほどの大所帯だった。

おいおい・・・大丈夫なのか?
見張りに見つかりでもしたら、こっちの命もあぶねぇぞ?

情けない話、その規模のデカさを目の当たりにして俺は少し躊躇してしまった。
幾ら一匹一匹が雑魚だったとしても、あんだけの数で囲まれたら俺でもやばい。

その俺の心配をよそに、商人の仲間の男は、


大丈夫ですよ。なぜなら、

あのキキルン盗賊団は我々の商売相手ですから。


と、これまたびっくりなことを普通に話す。


あんたら本当に何者だ?
ウルダハで名を馳せる豪商でありながら、こんなでかい盗賊団と繫がっているなんてな。


我々は彼らと密約を結んでいます。
我々の商隊を襲わないことを条件に、彼等が奪った荷物を我々が買っている。
そして彼らが欲しいものを調達しては、格安で提供しています。
また、他のグループとの取引の橋渡し役もさせていただいておりますよ。
ちょっとした仲介料を頂いてね。

そんな危険を冒してまで、あんたらにとってのメリットはあんのかよ?

ありますとも!
このウルダハにおいて、商隊の安全が守られるということ以上のメリットはありません。
それに、あのキキルン達はウルダハが生んだ暗部でもあるんですよ。


熱弁を振い始めた商人の仲間の男の姿に、私は「しまった・・・」と声を漏らす。


元々キキルンはゴブリン族と共にウルダハ内でも自由に商売を行っていました。
特にキキルンは商才に優れ、どんどんとウルダハ経済への影響力を増していく姿を見て、当時のウルダハの人々は「獣人に国を乗っ取られんじゃないか」と恐れを抱くようになりました。

そして事態の悪化を見かねた十数年前の砂蠍衆によって、獣人排斥の方針が打ち出されてからというもの、ゴブリン共々キキルン達は資産剥奪の上、無条件でウルダハを追い出された。

彼等は、己の利益を守ろうとして自分たちを不条理に追い出したウルダハを憎んでいます。
そして自分たちを悪者にし、言いがかりをつけて排除しようとして来る冒険者達にもね。

数々の仲間の死を経て、彼等の憎しみは自分達の存在意義になってしまっている。

我々は、彼等の本部である商売を通じてその憎しみを和らげようと接触を図ってきました。
幾度とない折衝を通じて、やっとここまでの協力関係を築くことが出来ました。
そんな彼らと良好な関係を築ければ、我々の利する部分は非常に大きいのですよ。

ウルダハは所詮「商売人」の国。
商売に長けた者が、天下を取るのです。


流暢に喋る商人の仲間の男の話を横耳で聞きながら、俺と協力者の男とでホーバージョンの冒険者を岩陰に下ろす。


さて、準備はできたぜ。


そう言いながら周囲を見渡すと、少し離れた高台の上にララフェルの影を見つける。
あそこならば、死角も多くすぐにでも身を隠すことが出来るだろう。

相変わらずぞっとするほど気配がねぇ・・・
アイツの服に反応薬を仕込んでおいて正解だったぜ。


それでは行きましょう。
今ここでこの男が目を覚ましてしまったら元も子もなくなってしまう。


そう言って荷馬車に飛び乗る商人の仲間の男に「ちょっと待て」と言い止める
俺はホーバージョンの男の持つ剣を手に取ると、近くにある小さな岩に立てかけ、精いっぱいの力を込めて踏みつける。

パキンッ!!

という小気味のいい金属音を立てて、ボロボロの剣は根元から折れた。
そしてその剣の柄部分を男の腰に戻し、もう一方の刃の方はそこら辺の草むらに投げ捨てた。

 


確認のために協力者の男を現地に残したまま、俺と商人の仲間の男は荷馬車に乗って新米冒険者共のいるところへと向かう。
移動の道中「なぜそこまで?」と聞いてくる商人の仲間の男に対して「あんななりをしているが、アイツはデカい妖異を一人でぶっ殺すような化けもんだ。念には念を入れねぇとな。」と答えた。


もう一つの集落に戻ってみると、残念なことに、満身創痍の新米冒険者共は誰一人死亡者を出すことなくキキルン達を打倒していた。
商人の仲間の男が「作戦成功」の報告をすると、新米冒険者共は「おーっ!」と勝鬨を上げた。
その中で、一人憔悴しきった回復役の者に「お疲れさん」と声をかけると、回復薬の者は恨みがましい目をしながら「はぁーっ」と大きく息を吐いた。

この中では、こいつが一番見込みあるかもな。

と言いながら、俺はニヤついた。
荷馬車に乗り込む際に、一人の冒険者がこちらの人が少ないことに気が付いた。


一人の男は陽動の為、別ルートで帰還中。
あのホーバージョンの男は・・・言わんでもわかるだろ?
あんな装備で戦場に出て生き残れるわけがねぇ。
あいつのせいでどんだけ俺らが苦労したと思っている?

ホーバージョンの男の死は必然だ。

お前らもそれを重々胸に刻んでおけ。


と面倒くさそうに話すと、先ほどのテンションはどこへやら、気まずそうに言葉を飲む新米冒険者たちだった。

 


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岩陰に寝かされた冒険者がよく見える位置で、私は気配を殺しながら待機する。

それでも、こちらのことをはっきりと確認してくるルガディンの男。
なぜかアイツには私の気配が察知されてしまう。
だからこそ、あいつは私のお目付け役としてここにいるんだ。

あれは私を縛る「鎖」の一つ。

あの程度の男であればいつだって殺せるけど、殺したところで私を待っているのはよりキツイ「報復」だ。

私だけが苦しむのなら問題ない。

私がもし「天涯孤独」だったら、

すぐにでもあいつらを殺し尽くした末で、

自分で自分の命を絶つというのに。


少し離れたところに止めてあった荷馬車が静かに走り去っていく。
その場に残ったもう一人の男は、周りを確かめながら男から距離を取り、物陰に隠れた。

そして、程なくしてホーバージョンの男は目を覚ます。


国のために悪と戦った男。


その名誉はとても素晴らしいものかもしれないけど、それで私が救われるわけではない。

私は、

私の大切なものを守り続けるために、

この男を「見殺し」にするんだ。

そう呟きながら、私は男の足元に「かんしゃく玉」を投げ込んだ。