FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第四十一話 「不透明な旅立ち」

聞いて・・・・・・感じて・・・・・・考えて・・・・・・


何度も聞いたお決まりのフレーズが頭に木霊する。
しかしいつもと違ってクリスタルの姿は無く、あたりには黒一色の暗闇が広がっている。

そうか・・・・

世界が閉じているのではない。

自分の視界が閉じているだけなのか。

 

聞いて・・・・・・感じて・・・・・・考えて・・・・・・


未だハイデリンの声が木霊する。

残念だが、あんたの希望には答えられそうにない・・・

なぜなら私は・・・

死んでしまったのだから・・・


聞いて・・・・・・感じて・・・・・・考えて・・・・・・

しかし、なぜだろうか・・・
不思議なことに、死んでなお自分の存在をはっきりと認識できるのは。


そうか・・・・ここは死後の世界。
現世で朽ちた肉体から離れた魂が寄り集まる「幽世の世界」。
ハイデリンによって再び転生を待つ魂の揺り籠の中。

「肉体は死に、魂は転生を繰り返す」

現世では誰も意識することが出来ず、幽世であるここでしか認識できない常識か・・・。
自分がここにいるということは、私もまた現世に転生するのだろうか?

「新しく与えられる生が幸せであるかどうか」

それを決める尺度がなんなのかはわからないが・・・。

もし願いが通じるなら、慎ましくも争いの無い世界に生まれ変わりたい・・・


そんなことを考えながら、私は何をすることもできずに、ただその場でぼんやりと浮遊している。
すると、スっと何かに引っ張られるように私の「存在」がゆっくりと流れ始める。
そして徐々に加速しながら、何かの周りをまわり始めた。

魂だけの存在だった私に、少しずつ「形」が与えられる。
そして、頭の中だけに聞こえてくる声はより、すべてが聞き取れるほどはっきりと、聞こえ始めた。

 


聞いて・・・・・・感じて・・・・・・考えて・・・・・・
・・・・・・光のクリスタルを手にし者よ
星の声を聞く者よ
我が名はハイデリン・・・・・・
星の秩序を保っていた理(ことわり)は乱れ
世界は今 闇で満ちようとしています
闇は すべてを蝕み すべての生命を奪う存在・・・・・・
闇に屈せぬ 光の意志を持つ者よ
どうか 星を滅びより救うために あなたの力を・・・・・・
光のクリスタルは闇を払う力・・・・・・
世界を巡り 光のクリスタルを手に入れるのです
あなたの戦いが 魔法が 行動が
光のクリスタルを生みだすでしょう
それが 光の意志を持つ あなたの力・・・・・・
光の意志を持つ者よ・・・・・・
どうか あなたの力を・・・・・・

 

いつしか夢の中で聞かされたハイデリンの願い。
私を「光の意思を持つ者」と呼び、闇と祓うためにクリスタルを探せという。

ハイデリンよ。
あんたは生まれ変わる私にもまた、

同じ運命を背負わせるつもりなのか・・・

 

 

 

ふと目を覚ますと、視界の中に怯えたような目で私を見る人々の姿が映る。
私は今の状況がつかめず、思わず周りを見渡す。

 

ここは・・・・

なんとなく見覚えのある風景・・・ドライボーンか?
私はゆっくりと体を動かし、自分の肉体が存在することを確認する。
不思議と体は軽く、頭も随分とはっきりとしている。

転生・・・したわけではない?

そう、私の体は誰でもない、私のままだった。

 


よっ、気が付いたかい?


一人のヒューランの男が、私に気さくに私に話しかけくる。

「あんたは・・・誰だ? どうして俺はここに・・・?」

と混乱気味に話しかけると、


今は多くを言えないんだが、俺は「あんたを知る男」さ。
とりあえずここで話すのもなんだから移動しようぜ。
立てるかい?

私は男の言葉に促されるように、体の動きを確認しながらゆっくりと立ち上がる。
体には傷はない・・・が、鎧はボロボロだ。

たしか私は・・・・
キキルン盗賊団に囲まれて殺された・・・・はずだが・・・。

私は自分がなぜ生きているのかを理解できていない。
ひょっとして、あれは私が見た「夢」だったのだろうか・・・

立ったまま黙り込む私にしびれを切らしたのか、私を知っていると名乗る男は、


早く移動しようぜ。
あんたは今の自分のことわからないかもしれねぇが、顔から体から全部血だらけになっているもんだから、ここの連中、あんたのことを「ゾンビ」と勘違いしているんだぜ。


と笑いながら話す。
私は思わず手で顔を拭うと、べっとりと血が手についた。
私は驚いて体中を確認するが、全身血だらけにもかかわらず、傷はおろか痛みもない。

 

私は戸惑いながらも男に促されるように宿屋へ向かい、湯浴みをして体中の血の汚れを洗い流した。

確かに体に一切傷が無い・・・
しかしポーションなどの回復薬があったにせよ、あれだけの傷を回復させるだけのものは無いはずだ。
であるなら、私が死んですぐに誰かが蘇生魔法を唱えてくれた・・・とか・・。
ならばなぜ、私はドライボーンのエーテライトの前にいたのか・・・

何もわからない・・・
ただ一つわかること、それは

「私は死んでいなかった」

ただその事実だけだ。

 


湯浴みを終えて出てきた私を、男は待っていた。

男の顔を改めて見ても、知っている顔ではない・・・・はずなのだが、どこか懐かしい感じがするのはなぜなのだろう。
一つ一つのしぐさを見ていると、どうにもどこかであったような気がしてならないのだ。

「落ち着いたかい?」と男は語りかけてくるも、私は未だ頭の整理ができておらず、思うように言葉を返すことが出来なかった。
そんな私の気持ちを知ってか「そりゃそうだよな・・・簡単に説明してやるからまずは座りなよ」と椅子に座ることを促してきた。


さて、あんたが覚えているのは「キキルン盗賊団によって殺された」ってところまでか?
そして、なぜか知らないが生きてここドライボーンにいる。
それはなぜなのか?

あんたの疑問はそんなところだろう。

 

男はどこか楽しげに話をする。
話し手によっては神経に触るような喋り口調であるはずなのに、聞き覚えがあるのかどこか憎めないその語り口調に、私は逆に助けられるような気持ちになった。
私は男の話にうなずくと、男はうんうんと頭を縦に振りながら、


残念ながら、あんたは確かにあそこで死んだんだよ。
今は、その日から一昼夜経っているんだ。


私は男の話を理解できない。

死んだのに生きている・・・・?

どういうことだ?


私の微妙な顔を楽しむように眺めながら男は、


まぁ簡単に言えば「生き返ったの」さ。
蘇生魔法とか、そういうの無しにね。
あんた、街や主要拠点にあるデカいクリスタルの塊「エーテライト」については知っているよな?


男は私の疑問に対する答えを言う前に、逆に質問をしてきた。

いくらなんでも「エーテライト」ぐらいは私でも知っている。
大地の地下深くに流れる、全ての生命と力の源である「エーテル」の地脈。

 

エーテライトはその地脈から溢れ出たエーテルの結晶体だと言われている。
その歴史は、古くはアラグ文明の文献にも載っており、その文献によればその時代よりも更に古くから存在していたらしい。

 

現在は、地下深くに張り巡らされている地脈の結合点であるエーテライトを「道標」として利用することで「転送魔法」の補助装置として活用されている。

一昔前までは、エーテライトのそばには必ず転送魔法を唱えることの出来る専業術者がいたのだが、シャーレアンの技術によりエーテライト自体に転送機能を取り付けることに成功して以来、エーテライトに触れ、行き先を頭に思い浮かべるだけで転送が可能になった。

しかしながら、転送時には体だけでなく精神にも強い負荷がかかるため、一般人の利用は大変な危険を伴う。
そのため、エーテライトは一部の適性を認められた者にのみ使用を認められている。

私の説明に男はうんうんと頷きながら、私の説明に付け加えるかのように語り始めた。


エーテライトは主に「転移の導」として利用されているが、実はさらにごく一部の者の「転生装置」にもなっているらしいんだよ。

そもそも「空間転移」ってのは、魂と肉体が強く結びついているからできるらしい。
まず先にエーテライトを憑代として共感した魂が、地脈を通る。
そして、器である肉体は魂によって強制的に引っ張られ、地上に現界した魂を受け止める・・・。それが転移魔法の仕組みらしい。

そのため、死んで魂と肉体のつながりが消えてしまえば、魂は地脈に残ったまますべての命の源であるエーテルとなり、母体に宿った肉体の器を得て新しい命として転生する。

だが一部の者は、死んで離れたはずの魂が、地脈を通ってエーテライトから復活するんだ。
失ったはずの肉体がどうやって復活するのかについては、実は分かっていないんだけどね。


まぁくどくどと説明はしたが、所詮俺も聞いただけの話だからな。
ちんぷんかんぷんな話だが・・・・まぁあんたはその「一部の者」ってわけだ。

・・・・「超える力」

この言葉に、聞き覚えはあるかい?


その言葉を聞いて、私の胸がドクンッと脈動する。
サンクレッドが私に言っていた「超える力」。
妖異との戦いで無意識下に発動した、私の知らない力の本流。


聞いたことはあるって顔だな。
面倒くせぇ説明はもうやめよう。
とりあえず「特別」なあんたは生き返ったんだよ。
全ての命の源である「エーテル」の導きによってね。


ハイデリン・・・
そういえば、夢の中で私のことを「光の意志を持つ者」と言っていた。
私の蘇生は、そのことと何か関係があるのだろうか。


男から笑顔が消え、真剣な表情へと変わり語り始める。


さて、ここからが本題だ。
あんたが思っている通り「ある者」の指示で嵌められたんだよ。
まぁ簡単に理由を言ってしまえば「目立ち過ぎた」ということだ。
あんたの存在は、そいつらの利権を脅かす「危険分子」と判断された。

だから「粛清」されたんだよ。


ふと頭の中にワイモンドの顔が浮かんでくる。
街で出会った時のあいつは、どんな思いで自分のことを見ていたのだろうか?
情報を金で売り、それによって殺されるとわかっていた人物を前にして、

アイツは確かに笑っていたんだ。

悔しさよりも、どこかでアイツを信用しきってしまっていた自分の愚かさに打ちのめされる。
そんな私の表情を読み取ったのか、男は、

まぁ全部が悪い方向にいっているわけではないさ。
幸いなことに、あんたが「特別製」であり生き返ったことをそいつらはまだ知らない。
あんたがキキルンに殺された後、ご丁寧にちゃんと死体の確認をしていたしな。
そして、あんたの遺体はここドライボーンに運ばれて「夜盗に襲われて死んだ哀れな冒険者」として埋葬された。

遺体で身元が判明しない様に、すぐにな。

もう一つの幸運は、あんたの顔にはぽっかりと穴が開いていて、その死体が誰なのか見ただけでは判別がつかないほどズタズタだったこと。
だから埋葬に関わったドライボーンの奴らやアダマランダラ教会の司祭達が今のあんたを見たって、生き返ったとは思っていないってことさ。

まぁ・・・さっきの血だらけのあんたをみて「死霊が甦った」と思ったかもしれないけどな。


とにかく、あんたはしばらくウルダハを離れたほうがいい。
このままウルダハに居続けたとしても、生きていることが分かればまた命を狙われるだけだ。
あんたは何度でも甦るだろうから、死ぬ恐怖と痛みを何度も味会わされるかもしれないし、死なないことがわかったら錬金術師ギルドのマスターに何をされるかわかったもんじゃないぞ?

「生きた標本」

として、永遠の人生を歩むことになるかもしれない。


私は男の話を聞きながら少しずつ冷静さを取り戻す。
そういえば、いろんな人から「目立つな」と言われていたような気がする。

・・・・銅刃団の女もそんなことを言っていた。
もしかしたら、ロロリトが遂に私の排除に動いたのかもしれない。
だとすれば、王冠事件や八百長事件にも関わっていたのだろう。

世話になった人たちに挨拶をすることもできないことに未練はあるが・・・・


そうだ。
実はさる方からこれを預かってきている。


そう言って、男は懐から一枚の鍵を取り出した。


これはウルダハから出ている飛空艇の特別搭乗券だ。
これは「秘匿鍵」と言って、これを使って飛空艇を利用した場合、搭乗手続きも無し、さらに身分が絶対に明かされないことになっている。
乗船口も一般とは異なるし、乗船もあんた一人だけだ。

あしを付けずにこのウルダハから出国するにはこの方法しかないんだ。
それと、ここからはこれを着ろ。今まで来ていた装備のままじゃ、ばれる危険性がある。
どうせもうボロボロなんだ。すべて俺が処分しておいてやるよ。


と、続けて男は一枚のローブを私に手渡した。


どちらにせよ、飛空艇に乗るために一度ウルダハに入らなければならない。
そん時、知り合いに会わないように気を付けろよ。
知人だろうが敵だろうが「バレたら終わり」だ。
話しかけられても、絶対に答えるな。

それがあんたの「生きる道」だ。


急転直下。
昨日までは英雄とおだてられていた私が、今日はお尋ね者よろしくこそこそとウルダハから逃げることになるとは・・・。

人生というものは、常にいばらの道。

「死」にすら拒まれる人生を、

この先私はどう歩んでいけばいいというのだ。


立ちすくんだまま動かない私に男は「しっかりしろ!」と言いながら、私の頬を平手打ちする。


あんたは星に選ばれた人間なんだ。
あんたには天より与えられた使命がある。
今はまだ理解できないかもしれないが、それを知る時は必ず訪れる。
生かされる意味なんて今は考えるな。
生きて走り続けることだけを考えろ!


と、真剣な表情で激を飛ばす。


まずはリムサ・ロミンサに向かえ。
そっちに着けば、こちらの手の者があんたを向かいいれることになっている。
そこに着いてから、落ち着くまでの面倒は見てやる。
そん時に考えたいだけ考えればいいよ。
考えたところで、答えなんて一つしかないんだけどな。

・・・・またすぐにでも会うことになる。

ふと突然、頭の中にサンクレッドの言葉が浮かんでくる。

そうか・・・
私は「私」を知るために、世界に出なければならないのか。

すぅ・・・と一つ、大きく深呼吸をして、両手で顔を思いっきり「パンっ」と叩いた。
そのしぐさを見て男は満足したのか、


覚悟は決まったようだな。
心配するな。ほとぼりが冷めればまたウルダハに戻ってこれるよ。
そのために、こっちだって色々と手を回しているんだ。

それまでに、あんたは少しでも力をつけろ。
あんたを殺すことが、相手にとって「不利益」になるくらいにな。


私は男に「わかった」と答える。
しかし、なぜこの男は私にここまでのことをしてくれるのか。
親切心ではなく、何かしらの「利害」が絡んでいるのは間違いないとは思うのだが・・・
私は改めて男に「君は誰なんだ?」と聞くと、

俺は「誰でもあり、誰でもない」。

そういう人生を歩み続ける男だよ。

と、笑顔で答えた。

 

 

 


空には雲一つない青空がどこまでも広がっている。
太陽の熱を帯びた柔らかな風が、海の匂いを纏いながら頬を優しく撫でる。
眼下に広がるのは一面の海。
そして、振り返れば小さくなっていくウルダハの姿が見える。

・・・・思えば、
私は手に職を付けたいという理由でウルダハに辿りついた。

冒険者になる気はなかったから早々に剣を売った。
しかし、運命に絡み取られるようにその剣は私の元へと戻ってきた。

ただがむしゃらに生きていたはずが、多くの人を救い、多くの者の反感を買った。

霊災前後の失われた記憶。
不死となった自分の使命を知るため、私はその記憶を取り戻さなければならない。

答えはどこにあるのか分からない。
だが・・・・「知っている」ものがいる。

サンクレッド・・・・

アイツに会うことが出来れば、私は自分を知ることが出来るかもしれない。
果たして遠く離れた地であの青年と出会うことはできるのだろうか・・・

期待と不安を胸に、

私は悠々と空を駆ける飛空艇の中で、一人物思いに耽る。