FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第四十五話 「運命の鎖」

・・・・また知らない天井だ。

目を覚ました私の目に映ったのは、簡素な造りをした部屋の天井だった。

だるい体をゆっくりと起こして、目を擦りながら周りを見渡す。

ここ・・・・どこ・・・・?

なんだか記憶があいまいだ。

私は記憶の一つ一つを探りながら、今までのことを思い出していく。


そうだ・・・・
私はララフェルのお姉ちゃんと一緒におうちに帰るんだった・・・


村に帰れるということ。
それはとても嬉しいことのはずなのに、
なぜか気分が晴れることはなかった。

私は手で右目を覆う。
半分になるはずの視界は、変わらない。

なぜならもう既に、私の視界が半分になっているから。

うっ・・

吐き気にも似た気持ち悪さがこみあげてくる。
受け入れなければならない現実を前にして、拒絶するかのように気分が悪くなる。
ふと、部屋の片隅に小さな鏡があることに気が付く。

私の右目・・・・どうなってるのかな・・・

見てみたいという気持ちもある。
でも真実を知るのが怖くて、本能によって体を動かすことを拒否するかのように固まっていた。

うぅ・・・・

結局私は、自分の右目を確認する勇気が持てずに、現実から逃げるように布団の中に潜り込んだ。

あれ・・・
お姉ちゃんは?

優しいお姉ちゃんがいないことに気が付いた私は「ガバッ」と布団の中から飛び起きる。
キョロキョロと見渡してもお姉ちゃんの姿は何処にもない。

あれ・・・あれ・・・

窓もない小さな部屋に私は独りぼっち。

やだ・・・・やだよ・・・置いてかないで・・・・
一人はやだよ・・・・

私はベッドから這い出て、素足のままよろよろと扉に向かって歩き始める。
扉の外からは、ガヤガヤとした人の声が聞こえている。

お姉ちゃん・・・・お姉ちゃん・・・・

私は扉を開けて、人の声のする一階へとふらふら歩いて行った。

 


一階へ降りると、たくさんの人が一か所にまとまっている。
みんな表情は暗く、中には少し泣いている人もいた。
それを取り囲むように、険しい表情をした男の人が立っている。

うぅ…怖い・・・・怖いよお姉ちゃん・・・

悪夢の中で見たような強面の男の人に怯え、私は二歩三歩と後ずさる。
すると「ドンッ」と背中に何かがぶつかった。

おやおや・・・どうしたのかな?

私はびくっとして、後ろを振り返ると、そこには細身の男の人がびっくりした様子でこちらを見ていた。

あれ・・・・君は?

その男の人は私のことを知っているのか、膝を折ってしゃがむと、私の顔を確かめるように見ていた。

この人・・・・どこかで見たことがある・・・

なんとはなくだが、私もこの細身の男の人を見たことがあるような気がする。
確か村によく立ち寄っていた物売りのお兄さん・・・だったような。

私がきょとんとした目でそのお兄さんを見ていると、お兄さんは、

偶然だね。こんなところで会うなんて。
君、一人なのかい?

と、優しい笑顔を浮かべ私の頭をなでながら聞いてくる。
私は知っている人に出会えたという安堵感に包まれ、首を横に振ると、

そうなんだ。だったら早くお部屋に戻ったほうがいいよ。
あそこには怖い人たちがいるからね。

と言って、入り口の前でたむろしている強面の男の人を指さした。

私は口をパクパクしながら、物売りのお兄さんにお姉ちゃんのことを伝えようとする。
だけど、なぜかは知らないけれど中々言葉を紡ぐことができない。

う・・・あぁ・・・・あ・・・・

と、漏れ出す声にお兄さんは必死に耳を傾けてくれている。

う・・・・・お・・・ね・・・・うぅ・・・・おねぇ・・・・ああ・・・・

お姉ちゃん?

物売りのお兄さんがそう呟くと、私はブンブンと首を大きく振った。

ひょっとして、お姉ちゃんと逸れちゃったのかな?

そう続けるお兄ちゃんに、私はさっきよりも強く頷いた。


そうなんだ・・・・宿屋のご主人に聞けばわかるかな・・・
よし。僕がお姉ちゃんを探してきてあげるから、お部屋に戻ろう? ね?

と、優しいお兄さんは私の手を取る。
私は小さく頷くと、お兄さんは私の頭をなでながら「えらいえらい」と言ってくれた。

お部屋に戻ると、安心したのかお腹が「くーっ」と小さくなった。
その音を聞いたのか、優しいお兄さんは「ぷっ」と噴き出して、

何か食べるものを持ってきてあげるから、大人しくしててね。

と言って、部屋を出ていった。

よかった・・・

安堵感に包まれて、大分気持ちが落ち着いてくる。
お姉ちゃんに会いたい気持ちは強いけど、あのお兄さんがいてくれると心強い。
ふと、頭の中での村の光景が浮かんだ。


小さな村を訪ねてくれる人はほとんどいないけど、
あのお兄さんは荷馬車にたくさんの見たことのないものを積んで、
村に度々来てくれていた。
あのお兄さんが村に来ると、村中の人達はお祭り騒ぎだ。

綺麗な洋服を体に当てながら、嬉しそうにする女の人達。
見たこともない道具を手にして、あれやこれやと話し始める男の人達。
初めて見るような食べ物を摘まんでは、みんな嬉しそうに笑っていた。

私は人見知りだったから、いつもその様子を物陰から見ていただけだったけど、
そんな私を見つけては、優しいお兄さんはこっそり近づいてきて「ないしょだよ」と言って甘いお菓子をくれたんだ。


程なくして、優しいお兄さんは湯気の立つスープを持ってお部屋に入ってきた。
「今の時間だとこんなものしか用意できないけど」と言って、テーブルの上に置く。
私はスプーンを貰って、ふーっ ふーっ と息を吹きかけてスープを口にする。
スープは、村でいつも食べているような素朴な味がする。
リムサ・ロミンサで飲んだスープとは違うけど、今はこの味の方がほっとする。

そういえば・・・・お姉ちゃんのスープ、残しちゃったな・・・

お姉ちゃんからもらったスープは、温くてちょっとしょっぱかったのだ。
でも、スープの味よりも苦しい胸を我慢するのが辛くて、サンドイッチを食べるだけで精いっぱいだった。
残してしまったことに後悔しながら、もくもくとスープを口に運ぶ。

食事をとる私のことを見ながら「お姉ちゃんのこと、好き?」

と、優しいお兄ちゃんは聞いてくる。
私はこくんと頭を縦に振ると「じゃあその気持ちをちゃんと伝えなきゃね。」と言って、一枚の紙とペンをテーブルの上に置いた。
「文字は書ける?」と聞いてくるお兄ちゃんに、私は小さくうなずいた。

本当のところ、文字を書くのは得意ではない。
一生懸命に書くんだけど、いつもお姉ちゃんに「へたくそ~」と笑われた。

・・・でも、そうか・・・
喋れないのなら、書いたらいいんだ。

私は食事を終えると、ペンを手に取った。

“おねえちゃん、ありがとう。”

「そう書くだけでも君の気持ちは伝わると思うよ。」と、優しいお兄ちゃんが教えてくれた。


さて、じゃあ僕はその間お姉ちゃんを探してくるから、がんばってね。


そう言って、お兄ちゃんは手を振りながら、お部屋から出て行った。

私は少しでもきれいな字を書こうと、一文字一文字、ゆっくりと書いていく。
でも、安心したのか、それともお腹が満たされたからなのか、なんだかとっても眠い。
瞼が重くて閉じようとするのを必死に堪えながら、なんとか感謝の言葉を書き終えた。

やっ・・・・・た・・・・・

私は達成感に包まれながら、テーブルから滑り落ちたペンを拾い上げることもできず、
再びベッドの上で眠りの中に落ちていった。

 

 

ハァ・・・ハァ・・・こ・・これで・・・終わりかしら・・・。


暴れるドードーを押さえこみながら、私は他の隊員達の状況を確認する。
他の隊員達も息を切らせながらも、何とか抑え込みに成功したようだった。

スウィフトパーチに駐屯しているイエロージャケットの責任者が私に駆け寄り、

「ありがとうございます!本当に助かりました!」

と私に対して深々と礼をする。

しかし、どうしてこんなことになったのかと聞いてみると、誰かがドードーの巣にある卵を壊して回ったらしく、それに怒った親鳥たちが暴れ始めたとのことだった。
街道沿いを行き来する人や商人を襲い始め、スウィフトパーチまで集団で襲ってくる危険性があったため、やむを得ず応戦する形となったとのことだった。

第七霊災のせいで野良化したドードーは害獣として扱われているが、もともとは人が食糧確保のために家畜として島外から持ち込んだものだ。
それを人にとって脅威になるからといって、今度は一方的に駆除するというのは都合のいい考えだ。
しかし、スウィフトパーチの人達にとっては生死に関わることだけに、私は不用意に意見を述べるわけにはいかなかった。


疲れたでしょうから、スウィフトパーチでお休みください。

と責任者の人は気を使ってくれたが、思っていた以上に時間を取られてしまった私は宿屋に置き去りにしてしまった少女が心配になり、移動用のチョコボ一羽の貸し出しだけをお願いし、急ぎエールポートへと戻った。

 


宿屋に戻ると、中はシーンとした静けさに包まれていた。
まぁ深夜だしみんな寝ているのだろうと思いながら、うとうとと転寝をしている宿屋の亭主に戻ったことを伝える。

そして2階に上がり、少女が泊まっている部屋に入る。

???

おかしい、人の気配がない。
ベッドを見るが、シーツに包まっているようでもなく、ベッドから転げ落ちているわけでもなかった。
その代り、床には見たことのないペンが一本落ちていた。

・・・こんなペン、ここにあったかしら?

私は床に落ちていたペンを拾い上げ、ふと机の上を見ると食事をした跡が残る食器とともに、文字が書かれた一枚の紙切れがあった。
そしてそこには、

「おねえちゃん ありがとお」

とだけ、拙い文字で書かれていた。

私は言葉を失って、慌てて宿屋の亭主の元へと走った。
宿屋の亭主は私が戻ってきたことで、あくびをしながら店じまいを始めている。
そんな中、血相を変えて駆け込んだ私に驚いた亭主は「何事ですか!?」と目を丸くしていた。

私は「ララフェルの少女が部屋にいない」と話すと、亭主は「えっ?」という表情をしながら「私が見ていた限りでは、同行されていた少女は宿からは出ていませんよ?」と話した。

私は続けて、部屋にあった食事のことを聞くと、逗留していた商人の男の頼みで、残っていたスープを分けてあげたということだった。
商人の宿泊している部屋を教えてほしいと頼んだが、急に船が到着したとかどうとかで、宿泊予定だった集団を連れて出て行ってしまったとのことだった。

私は宿屋を飛び出し、急いで船着き場まで走る。
しかし、船着き場に船の姿はどこにもなかった。
途方に暮れて立ちすくんでいる私を見て、帰り支度をしていた船着き場の作業員が「どうしたんだい?」と声をかけてきた。

私は今日の夜に出て行った船のことを聞くと、

連絡船が行方不明となったせいで、ここ最近船舶の入出港に大きな遅れが出てしまい、足止めを食らう人が多発している。
それを見かねた私掠免許を持つ商船団の一つが「どうせ我々はリムサ・ロミンサに戻るのだから、乗船していけばいい」と、連絡船代わりとしての利用をかってでてくれた。

そして宿屋で足止めを食らっていた希望者を先ほど全員乗せ終え、出航していったばかりだと話す。
私はその中に、桃色の髪をしたララフェルの少女を見かけなかったが聞いたが、作業員は顎に手を当てながら、乗船客の中にララフェルはいなかったと思うと話す。
その表情を見る限り、嘘をついているような感じではなかった。

私はそうですか・・・と言いながら、港の逆側にある入場門の方に向かい、守衛にもララフェルの少女のことを聞いてみた。
しかし、自分をはじめとするイエロージャケット達が出て行った後に、ここを出入りしたものはほとんどおらず、もちろんララフェルの少女の姿も見かけていないとのことだった。

その後も私はエールポートの中を必死に探し回ったものの、ついにララフェルの少女を見つけることはできなかった。

とぼとぼと宿屋に戻ると、私を心配した宿屋の亭主が待っていてくれた。
ドードーの撃退任務を終え、しかも少女を探すために走り回った私の体は、疲れで悲鳴を上げている。
うなだれながら椅子に座ると、宿屋の亭主は暖かな飲み物をそっと出してくれた。
私は亭主に「ありがとう・・・」と力なさげに言うと、明日にでもエールポートの人達に少女を見たものはいないか聞いて回ってくれるとのことだった。

宿屋の亭主からいただいた暖かなスープを飲むと、体にじんわりと染み込んでいく。
気を使ってくれる宿屋の亭主に感謝しつつ、私は机に置いてあった紙を改めて見る。

文字はお世辞にも綺麗ではないけれど、一生懸命綺麗に書こうとしているのは痛いほどに伝わってくる。
最後の方は眠かったのか、文字が随分と伸び伸びになっていた。

ふと、紙が途中で破かれていることに気が付いた。

・・・何回か書き直したのかな?

そんなことを考えながら、私はその紙を四つ折りにして、大事にポケットへと仕舞い込んだ。

たった一日二日のことだったのに、少女と過ごした時間がとても愛おしい。
それなのに、自分が逃げたいがために少女の元を離れてしまったことに後悔する。

私は何をすることもできずに、少女が寝ていたベッドに倒れこむと、彼女の存在を感じるようにシーツについた残り香を嗅ぐ。

・・・・どこいっちゃったんだろう。

忽然と姿を消した少女のことを思い、明日のことを考えながら、眠りに落ちていった。

 

翌日、エールポートを再び駆けずり回って、方々にララフェルの少女のことを聞いたが、結局目撃情報はおろか、なに一つのことも得られることが出来なかった。
少女を送るために停泊していた黒渦団の船に、事情を説明したうえで頭を下げた。
船の運航を任されていた船員は心配してくれたが、私はただただ謝ることしかできなかった。

リムサ・ロミンサにいったん戻り、上官にその経緯を伝えると、上官はあきれた顔をしながら、

スウィフトパーチを管轄とする部隊から、君への感謝を伝える伝言が届いている。仕事熱心なのはいいが、元の任務をおろそかにするのは君の悪い癖だ。
なにより、今回のことを言いだしたのは誰でもない、君だろう?
別に少女の捜索願が出されているような案件ではなかったことが救いではあるが、連絡船襲撃の被害者であり、メルヴィル提督からも色々手を回してもらった経緯もある。
君は目先の正義感にとらわれて、提督の行為に泥を塗るような真似をしてしまったことを反省しろ。

イエロージャケットとしては継続してその少女の捜索を行うが、君は少々休んだ方がいい。

休暇を取れと言う上官に対して、私も捜索に参加すると食いついたが、上官は、

今の自分の顔を鏡で見てみろ。
そんな顔では、とてもではないがだれもお前にはついてこないぞ。

と叱責する。

見つかった時、あの子が頼れるのは誰でもない、君だけだ。
その時は、決して少女を見失うな。
話はそれだけだ。

と言って、上官は私を強引に退席させた。

上官室から外に出ると、イエロージャケットの部下が心配そうに私に声をかけてくる。
私は「だいじょうぶ・・・ごめんなさい・・・」とかすれた情けのない声を出すと「我々で探しますので今は自分の体をご自愛ください」と励ましてくれた。

それでも、今の私にとってはその励ましですら辛かった。