FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第五十二話 「疑惑」

ある日のこと、いつものように工房で作業をしていると突然黄色い制服を着たララフェルの女が工房の中にズカズカと入ってきた。


ここの店主に話があるの!
何処にいるのかしら!?


ララフェルはキッとした表情でこちらを睨みつけながらぶしつけに叫んでくる。
あの制服はリムサ・ロミンサ周辺の治安維持を担っているイエロージャケットのものだ。
私と弟子の男は何事かと思いながら呆然と立ち尽くしていると「なんだうるせぇな・・・客か?」と言いながらおやっさんが工房の奥から顔を出した。


ここの店主ね?
あなた・・・・人拐いどもの片棒を担いでいる容疑がかかっているわ。
身に覚えがあるなら今すぐここですべてを吐きなさい!

そう言って腰に差していた銃を手に取った。
突然のことにキョトンとする工房側の三人衆。さすがのおやっさんも、あんぐりと口を開けている弟子の男に「おい、こいつは何を言ってんだ?」と首をかしげながら聞いている。
そんな三人の薄い反応に動じることもなく、ララフェルの女はドヤ顔をしながら、


ふふっ・・・しらばっくれようったってそうはいかないわよ?
すでにネタはあがっているのよ!


そう言いながら懐から「ジャジャーン!」という擬音が似合いそうなほどの勢いで一枚の紙を取り出し、私たちの目の前に広げて見せた。
紙には「紋様」のようなものが描かれていたが、小さくていまいち見えない。
「ん、んん?」と眉をひそめながら、私たちは紙に近寄って確認する。


どうかしら?
これに見覚えがあるはずよ。この工房ならね!


キンキンとした声で勝ち誇ったように叫ぶララフェル。
その表情は自信に満ち溢れ「さぁはやく罪を認めなさい!」とばかりに自信満々な表情でこちらを見ていた。

斧が二つ交わる紋・・・これは一体何なんだろうか・・・

わたしがその絵を見ながら首をかしげていると、


確かにこの銘紋・・・おやっさんのに似ているけど、
これが一体なんだってんだ?


と弟子の男がララフェルに聞き返す。
当のおやっさんもまた「はて?」といった表情で紙に描かれた紋様を不思議そうに眺めていた。


しらばっくれてもダメよ!
これが店主の「銘紋」だってことは調べがついているの。
なぜこれが「罪の証拠」にって?
ふふ・・・うふふふ!
仕方がないわね、教えてあげるわ!


一人で問答して勝手に盛り上がっているララフェルの姿を、私達はやはり呆然と眺めるしかない。
まるで劇を演じる役者のようにララフェルの口は滑るように回り出す。

これはね・・・・人拐いの連中が持っていた斧に刻まれていたものなのよ!


!!!

驚きで動きが止まる。
それは弟子の男も、おやっさんも同じだった。
私たちの表情を満足そうに眺めながら、うんうんと頷きララフェルはさらに説明を続ける。


先日人拐いの現場から命からがら逃げてきた人をうちで保護してね、詳しく事情を聞いたの。
その話の中で、人拐いのリーダーと思わしき若いルガディンの男が、この「銘紋」の入った立派な斧を背負っていたと証言したのよ。
その斧があまりに立派だったから鮮明に覚えていたらしいわ。
それを手掛かりに私たちはいろんな工房に出向いて聞き込みに奔走したの。
そして様々な証言から、この銘紋はここの店主が「業物」と認めたものにのみ入れる「刻印」だってことが判明したわ。


「どうかしら?」とばかりにムカつくほどのにやけ顔でこちらを見てくる。
だがその刻印が本物だとしても、人拐いが持っていたからといっておやっさんを人拐いの仲間と疑うのはあまりにも短絡的だ。
売ったものがその先どう流通しようが、こればっかりはおやっさんのあずかり知らぬことだ。

「バルダーアクス」

ララフェルがそう呟くと、おやっさんはビクッと体を震わせた。
その挙動をララフェルが見逃すはずもなく、確信を得たとばかりにクククッと体を震わせながら笑い始める。

調べさせてもらったわよ?
あなたがナルディク&ヴィメリー社にいた時代に作った製品すべてを洗いざらいね。
「バルダーアクス」と呼ばれるその斧はヴァレリア島を起源とする戦斧。
イシュガルドにある古代アラグ帝国時代の遺跡で発見されたものをあなたは再現した。

そう・・・あなたが自分の息子に送るためにね。


私は驚きのあまりおやっさんの方を向く。おやっさんは反論すること無くうつむいたまま動かない。
それをみた弟子の男は慌てた様に、


い、いや!
それはおかしい!
おやっさんの息子さんは連絡船の事故に巻き込まれて亡くなったはずだ!
だとすればその斧は海の底に沈んでいるはずなんじゃないのか!?


と反論する。
それを聞いたララフェルの顔から笑みが消え、どこかつらそうな顔をしながら話を始める。


そう・・・連絡船は確かに沈んだわ。その残骸はコスタ・デル・ソルの浜辺に打ち上げられていたからね。
でもね・・・その船に乗船していた船員・乗客含めて、誰一人の遺体も上がらなかったのよ。


これが何を意味するか、分かるかしら?

 

これが何を意味するか、分かるかしら?


ララフェルの女の言葉を聞いて、俯いていたおやっさんが顔を上げる。
その表情はすこし怒りを帯びていた。

俺には分からなねぇな・・・あんたがそう思う理由をよ。


怒気をはらむおやっさんの声にも怯むことなくララフェルの女は睨み返す。


あなたの息子さん・・・彼は私たちと同じイエロージャケットだった。
私は彼のことを知っているの。気の合う「同僚」としてね。
だからこそ私だって信じたくはなかったわ。
でもね、逃げてきた人の証言から得たリーダーらしき人の人物像と、彼の特徴がよく似ていたの。
そしてその斧は磨かれたように綺麗だった・・・ともね。


ララフェルの女は手に持っていた紙をペラペラと揺らしながら、問い詰めるような口調で捲し立てた。


あなたの作った「バルダーアクス」はここリムサ・ロミンサではあなたしか作れない。
そんな業物、誰でもメンテナンスできるものじゃない。
じゃあなぜその斧はなぜ綺麗だったのかしら?
使っていないから? いえ違うわ。 作者である店主、あなたが整備しているからよ!

私はね、あなたの息子さんが生きていると考えている。
残念だけれど「人拐い」のリーダーとしてね。
そしてあなたはその息子さんの手助けをしている。
それは「人さらい」の手助けをしていることに他ならないわ!


そう言ってララフェルは手に持っていた銃の銃口おやっさんに向けた。
私と弟子の男はあたふたと慌てふためく。
しかしおやっさんは銃が向けられていることを気にすることなく、ゆっくりとララフェルに近づいていった。


俺のことを悪く言うのは構わねぇ。
だが、死んじまった人間をどうこういうのはいけ好かねぇな。
確かにうちの息子はいろんなことを中途半端にするようなダメな奴だったさ。
だがN&V社を辞めてまでイエロージャケットに移ったのはなにも正義の味方ごっこがしたかったわけじゃねぇ。
色んな奴との交流を深めて、ゆくゆくはN&V社の販路拡大に繋げようとして外に出ていったんだ。
連絡船の護衛なんてちんけな仕事をかってでたのもそれが理由よ。
そんなアイツが人拐いになるなんて、天地がひっくり返ってもあり得ねえ話だ。


ララフェルの真ん前まで行くと、しゃがみこんで目線を合わせる。
そして無骨な手で銃身を掴み、強引に自分の眉間に銃口を向けた。


撃ちたきゃ撃ちな。おれはてめえ勝手な正義ごっこに付き合うつもりはねえ。
勝手な推論で人を犯罪者扱いするような奴らに話すことなんざ一つも何もねえよ。
なにより・・・おれは何かありゃ武器に頼って、簡単に人様に向けやがる奴が大っ嫌ぇなんだ!


おやっさんの何事にも動じることの無い強い目力に、さすがのララフェルも押し負けたのか銃のトリガーから指を外す。


きょ、今日のところは大人しく引きましょう。
この件についてはもっともっと調査する必要がありそうだしね。
でも・・・・私は連絡船の事故のこと、あきらめるつもりはないわよ!


おやっさんが銃から手を離すと、ララフェルはいそいそと腰のホルスターに銃を入れて工房を後にしようとする。
そして扉の前に立つと、

私は正義ごっこのためにここに来たわけじゃないわよ・・・・
私はじめに、誰一人の遺体も上がらなかったと言ったわね。
実はその連絡船に乗っていた子供がリムサ・ロミンサで発見されたのよ。
裸の状態で、全身血まみれ、そして片目は失明していたわ。
よっぽど辛いことがあったのか、その時の記憶は閉ざされていた。

私は・・・私はその子すら救えなかった・・・
だから・・・だから私は、せめて連絡船事故の真実にたどり着かなければならないの。
もしあなたが嘘をついていたとしたら、私は絶対に許さないから!


そう意味深な捨て台詞を吐きながら、扉を乱暴に開けてのしのしと工房を出ていった。

嵐が過ぎ去った後のように工房内には静寂が包んでいた。
誰も何も話そうとはしない。
いや、話すことがはばかれるような雰囲気に縛られていた。

その後しばらくして「今日は工房閉めるぞ」と言うおやっさんの一声で、私たちは無言で工房を閉める。
今回の件は弟子の男でさえもショックだったのか、いつもの軽口で場を和ませるようなことはなかった。
それでも弟子の男は精一杯の作り笑顔で「また明日な・・・」と私に挨拶すると、トボトボとした足取りで街中に消えていった。

 


翌日、イエロージャケットの司令官であるレイナー・ハンスレッドが工房に現れた。
どうやら昨日の一件を謝罪に来たらしい。
おやっさんは無言のまま取り合おうとしなかったため、結局私と弟子の男で対応することとなった。


昨日は本当にすまなかったな・・・
うちの部下が店主にずいぶんと失礼なことをしてしまったようだ。
アイツは厳重注意の上、無期限の謹慎処分としているよ。


頭を下げるレイナーに、今回のことの顛末の説明をお願いする。
正直、いきなりな事の連続でいまいち状況がつかめない。
弟子の男は何か知ってそうな気はするが、私の言葉に口を挟もうとはしなかった。


今回迷惑をかけた奴は「ミリララ」と言ってな、うちで陸士長をやっている。
仕事に実直なのはいいのだが、いつもどこかやりすぎるキライがあってな。
本来であれば陸士長以上の役職を与えてもよいくらいの功績を残しているのだが、独断専行が過ぎるために権限を与えられずにいるんだ。
アイツを見た君たちならわかるだろう? 表も裏もない、あれがミリララのすべてだ。
強い権限を与えてしまったら、アイツは自分の正義感だけで海賊共と戦争を始めかねないんだよ。


レイナーはやれやれと言った表情で頭を掻きながら「一年前に起こった連絡船の事故のことは覚えているかい?」と聞いてくる。
弟子の男は頷くも、私はその頃はまだリムサ・ロミンサにいなかったこともあり頭を横に振った。


掻い摘んで説明すると、ここと大陸とを往復する連絡船が一隻沈没したんだ。
その船にここの店主の息子さんもイエロージャケットの隊員として乗船していたことはもう知っているな?
その船の残骸がコスタ・デル・ソルの浜辺に打ち上げられたのだが、その中に乗船者の亡骸が誰一人たりとも見当たらなかった。
その後も事故海域を調べたのだが、結局乗員を見つけることは遂にできなかったんだ。
ただ一人、リムサ・ロミンサのエーテライトプラザで見つかった少女を除いてね。

その少女を保護したミリララは、故郷に送り届けるため私のところまで直談判しに来たよ。
その時たまたま居合わせたメルヴィブ提督の配慮もあって、黒渦団の軍船で故郷に送る手はずだった・・・。
だがエールポートでその少女が忽然と姿を消してな。必死に探したんだが結局少女の消息を掴むことはできなかったんだ。

その頃からかな、ミリララが今のように「独断専行」するようになったのは。

その後の調査で、流れ着いた破片の一部に爆弾か何かで破壊された跡が残っていたんだ。
我々と黒渦団はこの連絡船は「事故」で転覆したのではなく何者かに「拿捕」された上、乗員すべて「拐われた」と結論付けている。
だがこのことを公言してしまうと拐った連中が身を隠してしまうだけでなく、海賊団諸派に無用な疑念を向けてしまうことを恐れて表向きは「事故」という話となっているんだ。
「人さらい」はここリムサ・ロミンサでは重罪中の重罪だ。黒渦団やイエロージャケットが海賊達を疑いだせば、ただでさえ怪しくなってきている海賊団同士の相互不信を生み、結束の崩壊を招いてしまうからな。だから今なお慎重な捜査を続けているんだよ。

その事故からしばらくは「人拐い」に関する動きはなかったんだが、最近になって再び不穏な目撃例が報告されるようになってな。
そこに来て「人拐い」から逃げてきたという人物を保護することに成功したんだ。そいつの話では「人拐い」達は顔全体を布で覆っていたため特徴を掴むことはできなかったが、その中で立派な斧を背負ったリーダーと思わしき人物だけは顔を露わにしていたらしい。
そのリーダーと思わしき人の人相が店主の息子さんと一致するところがあって、ミリララが「犯人」とあてを付けたようだ。
そしてその立派な斧が店主さんの「一品」であることを突き止めて、昨日の顛末になってしまったのさ。


レイナーはすまなそうな顔をしながらも厳しい表情へと変わり、


まぁ・・・こんなことを言ってしまうのはあれなのだが、我々イエロージャケットとしても店主にまったく疑いを持っていないとはいえない。
感情的な部分を抜いて見つかっている証拠と今回の証言をつなぎ合わせた時、どうしても店主の息子さんが浮かび上がってきてしまうんだ。
だからこの先この工房は我々の「監視対象」となる。すこしでも不穏な動きがあれば商売の停止を勧告することになるだろうよ。それだけは心に留めておいてくれ。


と強く言った。レイナーの話にショックを受けた弟子の男はよろよろと後ずさり「ドンッ」と壁にもたれかかる。頭が混乱し何をどうすればいいのか考えあぐねているようだった。

私は冷静にレイナーに対して「こちらとして無実を晴らす手段はあるのか?」と聞くと、レイナーは少し驚いた顔をしながらも「店主の斧を持つ人拐いのリーダーを捕まえれば手っ取り早いだろうな」と答えた。
私はただ一言「そうか」と答えると、弟子の男を向いてこう言った。


「しばらく工房を休む」とおやっさんに伝えてくれ。

 

「しばらく工房を休む」とおやっさんに伝えてくれ。

私がそう言うと弟子の男は驚いた顔で、


おいおい! お前まさか「人拐い」を追っかけようってのか!?
やめとけよ! お前ひとりで何とかできる相手じゃねえぞ!?
別に今まで通り普通にしておけばいいだけの話じゃねぇか。
危険に首を突っ込む必要なんてどこにもないんだぜ!?


と、私の腕を掴んで制止する。

確かに弟子の男の言う通りだ。おやっさんを含め私も弟子の男にもやましいことなんてない。
今は監視下に置かれたとしてもイエロージャケットが真実にたどり着けば自然と無実は証明され、工房は解放されるだろう。
だがそれがいつのことになるかわからないし、何よりおやっさんの息子が「生きているかもしれない」という事実はおやっさんに大きな動揺を生むことになる。

「迷いは仕上がりに出る」

それはおやっさんとて例外ではないだろう。
おやっさんのことだ。自分が満足にものを作れなくなってしまえば「この工房を閉める」と言い出しかねない。
だからこそおやっさんの息子が生きているにしろ死んでしまっているにしろ、白黒をはっきりつけなければならないのだ。

私は弟子の男に自分の思いを伝えると、手からスッと力が抜け掴まれていた腕が解放される。
そんな光景を見ながらレイナーは厳しい表情のまま、


お前の決意は立派だが、我々はお前に協力はできないぞ。なにせ容疑の掛けられている工房の関係者だからな。
もし本当に協力者だった場合、我々の動きを「人拐い」側に流される危険がある。

それでもやるのか?


と忠告してくる。だがそれでも私は強く頷き「もし無実が証明されたときは、あんたらは全員おやっさんに土下座な!」と、まるでミリララを真似るかのようにレイナーを指を指しながら言い放つ。

するとレイナーはプッと吹き出し、


命知らずの職人に一つだけ助言してやるよ。
不穏な集団の目撃情報はモラビー造船廠の西側、ソルトストランド周辺で目撃されている。
そこは重点監視区域にしていしためにうちのものが多く配備されているから注意しなよ。
あんたがそこでうろちょろして工房の関係者とバレたら、一発で疑われるからな。

あと一人ではどうにもできないような状況になるなら、エーデルワイス商会を頼れ。
入り口に立っている男に「酔わないエールはどこで売っている?」と言えば中に通してくれるだろう。

では、健闘を祈る。


そう言うと、レイナーは深く礼をして工房を後にした。

 


本当にやるのか?
何度も言うが、あんたがそこまでやる義理なんてないんだぜ?


レイナーが工房を出て行ったあと、弟子の男が心配そうに話しかけてくる。
私は「無理はしない。だからおやっさんのことを頼む」とお願いすると、弟子の男は目に涙を浮かべながら「パンパンッ」と自分の頬を叩き「任された!!」と力強く叫んだ。

私と弟子の男はがっちりと握手を交わし、工房を後にした。

 


その日の夜、ベッドに横になったものの寝付けずにいると小屋の扉のあたりに「ゴトッ」という物音が聞こえた。

・・・もう嗅ぎつけられたのか?

もしそうであれば工房内での話を誰かに聞かれていたことになる。
私は物音を立てないようにベットから這い出て、窓から死角になるように動きゆっくりと扉のそばに近寄る。
立てかけてあった木の棒を手に取り、神経を集中して外の物音を探る。

・・・・・?

外に人の気配を感じられない。
私は扉のノブに手をかけ、ゆっくりと開く。
そこから見える景色には、いつもと何ら変わりはなかった。

猫か何かかが通っただけか?

私は扉から外に出てあたりをうかがうと、扉の脇に防具らしきものと一振りの「斧」が置いてあった。
その斧はおやっさんの指示で私が試行錯誤を繰り返しながら製作していたものに似ている。
しかしその斧を持った瞬間、それが自分が作ったものではないとはっきりとわかった。
飾り気はないものの完璧に完璧を極めた感触は、振るうまでもなくおやっさんが作ったものであると分かった。
よく見ると、斧の側面に小さく「銘紋」が刻印されている。

「交差する斧」

それは紛れもない、おやっさんの「銘紋」だった。

改めて周りを見回すと、物陰の間から不自然な人影が映っていることに気が付いた。
どうやら月の光に照らされて、地面に影が伸びていることに気が付いていないようだ。

私はその影に気が付いていないふりをしながら、

「確かにおやっさんを越えるなんて無茶なこと言いましたけど、おやっさんの背中は絶対に見失いませんよ」

と聞こえるような声で呟く。その言葉に安心したのか、フッと人影は消えていった。
私はそれを見届け、決意を新たに置かれていた防具を部屋にしまい込んで眠りについた。

 

 


翌日、決意も新たに伸び放題になっていた髪を切ることにした。
どうしても雑になる部分は結上げて、とりあえず見てくれだけを整えるのが自分のスタイルだ。
髭も剃ろうかどうか迷ったが、どうせ伸びるのでこのままにしておくことにした。
情けない話、肌の弱い私が手持ちのナイフを使って雑に剃ると、すぐに肌が荒れてしまうのだ。

そして、昨日の夜に置かれていた防具を着込む。

おお・・・

防具はまるで計ったかのようにぴったりで、継ぎ目もしっかりと防護されているにもかかわらず、非常に動きやすい。
また、見た目以上に軽く感じるのは、防具自体の重量バランスがよいことを表している。
さすがはおやっさんの仕立てた防具だ。
見た目の派手さはないものの、防具としては完璧だ。

私は昨日の弟子の男と同じように「パンパンッ!」と両手で頬を叩き気合いを入れ、颯爽と小屋から出ていった。