FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第五十三話 「人拐い」

・・・さて

人拐いを捕まえると息巻いたものの、なにか当てがあるわけでもないのも事実である。
不穏な集団の目撃情報が多いソルトストランド周辺もすでにイエロージャケットによって警備が強化されている。
レイナーに忠告されたこともあるが、わざわざ警備が厚いところに行っても仕方がない。
自分は冒険者だ。冒険者は冒険者なりの手段を使って情報を集めよう。

そう思い至り冒険者ギルドである「溺れた海豚亭」へと向かった。


お? あんた親父さんとこの工房の新人じゃねぇか。
どうしたんだいこんな朝早くに? それに冒険者みたいななりして。
あ、まさか・・・やっぱりあんたも親父さんのしごきに耐えられなかった・・・。
いやいや! 俺は決してあんたのことを根性なしとは思っちゃいねぇよ?
親父さんのところを逃げ出した奴に冒険者稼業が勤まるとは思えねぇとか・・・そんなことは言わないからな!

どこか複雑な表情をしながら、遠回しのようで直球な皮肉を言う店主に苦笑しながら、私は「人拐い」についてなにか知っていることはないかと聞いてみた。

!!

店主は「人拐い」という言葉を聞いてビックリとした表情をする。
そしてキョロキョロと辺りを伺いながら「ちょっと声を小さくしな・・・」と言いながら、顔を近づけてきた。


本当にどうしたんだい?
ずいぶんときなくせぇ話をするじゃねぇか。
「人拐い」と親父さんのところの工房となにか関係あるのかい?


私は先日の工房での一件をこの男に話して言いかどうか少し考える。正直イエロージャケットがおやっさんの工房に対して「人拐い」の共謀の嫌疑を掛けていることが街中に広がれば、信用商売でもある工房は一発で潰れてしまう。冒険者ギルドは様々な情報が集まる場所であり、もしこの男から噂話程度でもその話が漏れ出たとしたら私自身が工房を潰す原因を作りかねない。

だが、この店主は親父さんを知っているし弟子の男とも仲がいい。
工房の運命を左右する話を興味本位で口外することはないだろう。

私は小声で店主に先日の工房の一件を話し、自分はその嫌疑を晴らすために「人拐い」のリーダーを探していることを伝えた。
私の話を聞き、店主は「はぁ・・・」とため息を吐く。


ミリララの嬢ちゃんがまた暴走したか・・・
あいつは「海賊」と「人拐い」の件になると見境いなくなるからな。
「疑わしきは罰する」の動きで今までどんだけの人が「冤罪」にかけられたものかわかったもんじゃねぇ。
イエロージャケットのレイナーも、いったいいつまで嬢ちゃんを野放しにしとくつもりなんだ?


過去色々あったのか、ぶつぶつと呟く店主。
そして真剣な表情に戻り、


だが・・・今回の件はどうやら他の奴とは違うようだな。
親父さんが息子に送った斧は相当の業物だからな。
人拐いが持っているという「バルダーアクス」が模造品の可能性も捨てられねえが、あんな特徴的な斧をみ間違えることはないだろうしな。
連絡船の件は噂程度に色々聞いていたが、まさか本当だったとは。
うちに確実な情報が降りてきていないということは、相当な「箝口令」がしかれていたと見える。

まぁ「人拐い」ってのはそれだけ「危険な話」って訳だ。
酒のつまみのよた話としてもおいそれと話題にするもんじゃない。気を付けな。


店主はそういうと近づけてきた顔を離す。


そういうことで残念だがあんたが求めている情報はここにはないよ。
だが、出稼ぎ労働者の輸送で一山当てた奴がいるのは確かだ。人拐いまがいの強引な手段で人を集めている噂もある。
連絡船事故の際に何らかの理由でイエロージャケットが目をつけたらしいが結局証拠という証拠を見つけられずに、逆に「冤罪をかけられた」という理由で訴えられて慰謝料を支払うはめになったらしい。
それからはイエロージャケットの連中は迂闊にやつらに近づけなくなっているんだ。

「クフサド商船団」

霊災後にリムサ・ロミンサは元よりウルダハやグリダニアから人を集めた霊災難民や貧民の「輸送」を生業としている。
難民の自立支援や震災復興への貢献といういい話もあるが、やはり人を扱う仕事上、黒い噂も尽きない連中さ。
羽振りのよさのやっかみからか「サハギン族と手を組んでいる」という噂話すら出ている。
まぁ、なんの根拠もないんだけどね。

前段の通りクフサド商船団はイエロージャケットでも容易におかせない「聖域」となっているおかげで、いまかなり好き勝手やっているようだから今一度きちんと正す必要がある。
そこを追ってみるのもひとつだと思うぜ?

やつらの拠点はエールポートだ。
人の流れを追うだけで見えてくるものもあるかもしれねえ。
もし変なことがあれば俺に報告しな。酒場の店主ではなく「冒険者ギルドのギルドマスター」として援助してやる。要は「他の冒険者」を使って調査を依頼することもできるってことさ。
まあ「金と報酬次第」ってところもあるがな。


そう言いながら酒場の店主は親指を立ててウィンクをする。


あと、あんたのためにこれだけはいっておく。足を使った聞き込みは結構なことだが「人拐い」という言葉は使うなよ。
始めにもいったが、ここリムサロミンサでその行為は重罪中の重罪だ。
当然、海賊の連中もその話題には敏感だ。
どこで話を聞いているかもわからないからな。

これは忠告ではなく、警告だ。
それだけは忘れるなよ?

私は酒場の店主に礼を言って溺れる海豚亭を出た。

ふと視線を感じて振りかえる。
しかし喧騒に包まれる街の中で、その視線の主を見つけることはできなかった。

 

ん?

エールポートに向かう途中、見覚えのある服を着た連中がゴブリン族に襲われていた。
麻袋がたくさん詰まれた荷車があるところを見ると、略奪されそうになっているのかもしれない。
なんとか逃げ出した赤い帽子をかぶった男が必死の形相でこちらに向かって駆け寄ってくる。


はぁっ! はぁっ!! あ、あんた冒険者か!
荷物の配達途中にゴブリン族どもに襲われちまったんだ!
仲間を助けてくれ!


私はわかったと頷き、背中の斧を手に取ると荷車に向かって全力で駆けた。
赤い帽子の男の仲間を襲っているゴブリン達の動きをみる限りそれほど強くはなさそうではあったが、相手が複数である上にこちらも斧の扱いは初心者に近い。
剣であればそれなりに退けることは可能だとは思うが、今回は多少の攻撃をうけてしまうことは覚悟して致命傷だけは受けないように立ち回ることにした。
おやっさんの防具だ。信頼していい。

覚悟を決めて正面からゴブリン達と赤い帽子の男の仲間の間に割って入り、繰り出されたゴブリンの攻撃を斧で受け返す。
突然の乱入者である私にひるんだゴブリン達は一旦間合いを測るように後退し、


増援呼んだゴブ!
汚いゴブ!
約束を破ったのはそっちゴブ!


と叫んでいる。
どうやらゴブリン達は怒っているようで「略奪のために襲われた」と言うのとはちょっと違うようだ。

???

私は状況に違和感を感じながらも、赤い帽子の男の仲間たちに逃げるように叫び、相手の出方を伺うように斧を構えたままゴブリン達をじっと睨み続けた。
動かない私に痺れを切らしたゴブリン達は、互いに目配せをすると背負っていた大きなリュックの中から布で巻かれた丸いものを取り出すと、伸びている紐に火をつけてこちらに投げてきた。

やばいっ!

私は咄嗟にその丸いものを斧で弾き飛ばす。
瞬間、

ドオオォン!!

という轟音を立ててその丸いものは空中で爆発した。

くっ・・・・

ゴブリンの投げた爆弾を弾くだけで精いっぱいだった私は、響き渡る爆音から耳を塞ぐことができない。

「キィィィィィィン」という耳鳴りが脳を揺さぶり、たまらずよろよろと後退する。

今集団で飛び掛かられたらなすすべもない!

私は防御に徹し、斧を前に構えつつ攻撃に警戒しながら身構える。
しかしそれ以上のゴブリンの攻撃はなく、土煙が晴れるころには忽然と姿を消していた。
どうやら爆弾の爆発に乗じて逃げていったらしい。

私はその後もしばらく周囲を警戒し、安全を確かめるとホッと息を吐き構えを解いた。


だいじょうぶか!?


声のする方を見ると、退避していた赤い帽子の男とその仲間たちが戻ってきていた。
私は「大丈夫だ」と答え「ゴブリン達が約束を破ったのはこっちと言っていたが」と続けて聞くと、赤い帽子の男は急に態度を一変させ「あんたは獣人の肩を持つ気なのか?」と突っかかってきた。
私は「彼らが言っていたことをそのまま伝えただけだが?」と返すと「ちっ!」と舌打ちしてこちらを睨みつけてくる。

助けられておいて随分と態度の悪い奴だな。
しかし・・・この態度からするとゴブリン達に襲われた理由はどうやらこいつらにあるようだ。

どこかきな臭い雰囲気を感じながらも、怪我をしている者を放って睨みあっているわけにもいかない。
私は赤い帽子の男に「早く仲間のケガの手当てをしたほうがいい」と言うと「そんなことわかっている!」と吐き捨て、けが人に肩を貸しながらサマーフォード庄の方に歩き出した。

・・・この荷車はどうするんだ?

荷物を積んだままの荷車を放置したまま歩いていく男たちに「この荷車はここに放置したままでいいのか?」と聞くと、赤い帽子の男は振り向いて「あんたが代わりにラザグラン関門のオシンまで届けてくれ」と言い去っていった。

おいおい・・・命を助けたというのにこの仕打ちか。
ずいぶんと酷いものだ。

私は「はぁ・・・」と溜息をつきながら荷車を見る。
荷車の荷台には収穫されたオレンジの入った麻袋が満載されている。
私一人でこの荷車を押せるかどうかわからない。

正直そこまでする義理はないのだが、ふと頭の中にシュテールヴィルンの困った顔が浮かんできた。

しかたがないか・・・

私は荷車のハンドルに手をかけ、何度か勢いをつけて荷車を何とか動かす。

「これは止まったら終わりだな・・・」なんてことを考えながら、勢いを止めないように力を入れ続けながら荷車を引き、何とかラザグラン関門までたどり着いた。
ダラダラと滝のような汗をかき息も絶え絶えな私に、心配そうに門衛が話しかけてくる。

だ・・・大丈夫かい?
そんなにたくさんの荷物を積んでどこ行くんだい?

と聞いてきた。私はサマーフォード庄の者からこれをここに届けるように依頼されてきたと伝えると、門衛は驚きの表情をしながら「珍しいこともあるもんだ!」と意味深なことを言いながら私に代金を渡してきた。

 


納品が終わって空になった台車を引きサマーフォード庄まで戻り、ラザグラン関門の門衛から受け取った代金をシュテールヴィルンに手渡した。
シュテールヴィルンは「うちの奴らの代わりにあんただけで届けてくれたのかい!?」と驚きの表情をすると、すぐにバツの悪そうな顔になり私に頭を下げた。


何があったか知らねえが、途中で怪我したってうちの奴らが手ぶらで戻ってきやがったから、別の奴らをかき集めていたところだったんだ。まさかあんたに配達を頼んでいたとはな。
本当にすまねぇ・・・


そう言ってシュテールヴィルンは渡した袋の中から銅貨を取り出すと「配達の駄賃だ。受け取ってくれ」と私に渡してきた。


しかし何があったんだ?
俺が聞いても「転んだだけだ」としか言いやがらねぇ。
だがあの傷は転んでできるような傷じゃねえし、なにか厄介ごとに巻き込まれたんじゃねぇかって心配していたんだ。
何か知っているかい?


私はシュテールヴィルンにゴブリン族に襲われていたことを説明する。


ゴブリン族に?
そういや・・・最近ゴブリンの一団がここら辺に住み始めたって話を聞いていたな。
ゴブリンは商売が目的の温和な奴らだから滅多な事じゃ人は襲わないと言っていたが、あいつら何しでかしやがったんだ?

私はゴブリン族が言っていたことをシュテールヴィルンに言うか言うまいか悩んだが、大事になってからじゃ遅いと思った私はシュテールヴィルンに聞いたすべてのことを話した。
私の話を聞いたシュテールヴィルンは「やっぱりアイツらが何かしやがったんだな」と呟き、眉間に青筋を立てている。


ありがとよ!
アイツらにはみっちり「お仕置き」が必要なようだな。
陸に上がった俺らに「掟」もくそもねえが「ケジメ」は必要だ。
事情次第ではゴブリン族の奴らに謝りにいかなけりゃならねえしな。

ほんと、厄介ごとしかおこせねぇのかアイツらはよ・・・


と言いながら大きなため息をついた。
私は少し気になってシュテールヴィルンに「なぜそんな問題児たちを追い出さないのか?」と聞いてみた。
するとシュテールヴィルンは苦笑いをしながら、


今は問題児揃いのアイツらだって元からあんなのだったわけじゃねぇ。
だが、霊災で船を失って陸で働くようになってからというもの、みな腑抜けになってしまってな。

「俺たちは農作業がしたくて海賊になったんじゃねぇ」

ってな。海に生きた者は海を忘れられねえのさ。
小さな船でもありゃいいんだが、モラビー造船廠が「ヴィクトリー号」の建造にかかりっきりなもんだから、金があっても船を作ってもらえねえんだよ。
今はメルヴィブ提督にここを紹介してもらったこともあるから何とか引き止めちゃいるが、いよいよ抑えきれなくなってきたってことかなぁ。


とあきらめにも似た声で答えた。私がそのことに何も言えずにいると、


あんたには関係のねぇことだったな。つまらねぇ話をしてしまってすまねえ。
それよりもどうしたんだい? 冒険者みてえな格好してよ。
まさか親父さんの工房をやめたんじゃねぇだろうな?


と言って話題を変えてきた。
私はシュテールヴィルンに「工房はやめていないが、ちょっと探し物があってね」と答えた。
私はこの先のことをシュテールヴィルンに伝えていいものかどうか迷った。冒険者ギルドの店主に忠告された通りおいそれと言葉にすることはできない。
私の雰囲気からただ事ではないと察したシュテールヴィルンは、


何を探しているかまでは聞かねえが協力できることがあれば何でも言ってくれ。あんたには世話になりっぱなしだからな。
一つでも恩を返しておきたい。


と言って、私の肩に手を置いた。
私は「一つだけ聞かせてくれ。ここ最近エールポートのあたりで変な噂とか聞いたことはないか?」と聞いてみた。
私の質問にシュテールヴィルンは少し頭を捻りながらも、


そういやエールポート近くの「サスタシャ浸食洞」ってところに不審な集団が出入りしているって噂が出てるな。
その洞窟はスカイバレー沿岸部の入江に繫がっていて海賊王「霧髭」のアジトがあったところに通じているんだが、霊最後にわんさかモンスターが湧いて手におえないから閉鎖していたはずなんだよ。噂が本当か嘘かは分からねぇが、不滅隊の奴らが調べているって話は聞いたぜ?


と教えてくれた。

私はシュテールヴィルンに礼を言うと「またなにか情報が入ったら教えてやるよ」と笑いながら見送ってくれた。

 

サマーフォード庄を後にする頃には、既に太陽は西に大きく傾き始めていた。
エールポートまでの道のりはまだまだ遠い。
夜の移動は怪しまれる危険性があるため、途中にあるスウィフトパーチで一泊することにした。


~スウィフトパーチ入植地~


スウィフトパーチ入植地は、西ラノシア東部のクォーターストーンにある小さな集落である。
サマーフォード庄やレッドルースター農場と同じく、スウィフトパーチも霊災後に開拓された入植地であるものの、他の入植地と比べてあまりうまくいってはいない。
原因はスウィフトパーチの周辺の土地は岩盤質が多く農業に向かない痩せた土である上、家畜の放牧地として期待されていた北側の牧草地帯に、他から移ってきた野生のドードーが大挙として住み着き土地を占拠されてしまっている。
そのため今は農業というよりはエーテライト網の再整備で設置されたエーテライトの警備と、エールポートまでの陸路の中継宿場として得られるお金で細々と生活している。
余談ではあるが「スウィフトパーチ」という名前の由来は霊災前にこの周辺にあった雨燕塔(Swiftperch Tower)という灯台にあり、現在の集落名は霊災時に破壊されたその灯台を惜しんでつけられた。

 

スウィフトパーチに着くころにはすっかり夜が更け、私は集落に入るとこじんまりとした宿屋に立ち寄った。
宿屋には私以外の宿泊者はおらず、どこか寂れた雰囲気が漂っている。
どこかシルバーバザーにも似た雰囲気をもつスウィフトパーチに、懐かしさを感じてしまう。


キキプは元気にやっているかな・・・

斧術士との一件以来、訪れることのなかったシルバーバザー。
再開発から故郷を守るため、キキプは一人で奮闘していたのだ。
今考えればすごい精神力だ。ただ一人で巨大な権力と戦っているのだから。

今になってキキプと会って話をしたいという感情が湧きあがってくる。
キキプだけじゃない。モモディやミラ、ルルツにフフルパ。パパシャンにセヴェリアンにオワイン。
昔話を酒の肴に、みんなの笑顔を見たいと心で思う。
目を閉じるとウルダハでの日々が甦ってくる。
久々に冒険者として動いているからだろうか。
色々な人に出会い作り上げてきた思い出を子守唄に、私は眠りについた。

 


翌朝、私は改めてエールポートに向けて移動を始める。
山側に広がる広い牧草地に目を移すと、たくさんのドードー達の姿が見えた。
昨日泊まった宿屋の亭主の話によると、あのドードー達は逃げ出した家畜が野生化したもので、イエロージャケットによって幾度となく駆除作戦が決行されたものの、ドードーの繁殖力の方が強く未だ解決には至っていないとのことだった。
また最近では霊災の影響なのか巨大化したドードーまで現れ、本来では天敵であるはずのジャッカルの縄張りを犯し始めたことで獣同士の小競り合いも頻発し、手に負えなくなっているらしい。
今は繁殖の季節ではないからか、のんびりと草原を闊歩するドードー達の姿を横目で見つつ、私はエールポートへと先を急いだ。

 


~エールポート~

エールポートは西ラノシアのスカイバレーにある港である。
リムサ・ロミンサに商船が一極集中することを緩和するため「第二の港」として開港された。
港としての規模は小さいものの大型船の停泊も可能であり、港の利用率を上げるためにここで荷下ろしされる酒類への税優遇措置がとられた。
そのため世界中から「エール」が集まる港として有名となり、それにちなんで「エールポート」と名付けられた。
商業港として成功したものの、リムサ・ロミンサに比べて税関の監視の目が弱かったせいで、「禁制品」の裏取引も横行した。
果てには「掟破り」の海賊行為により入手した物品の売買も公然として行われるようになり、事態を憂慮したメルヴィル提督の指示によってイエロージャケットの支部が築かれ、捕えた者を一時的に拘留する「牢屋」も整備されている。

 


エールポートに着いた私は、思わず上を見上げてしまった。
港はまるで砦のように高い城壁で囲まれている。城壁の上には大きな砲台が何台も配置されており、そこには黒渦団の制服を来た兵士が立っていた。
まるで戦争でもしているかのようにものものしい雰囲気に気圧されながらも、私は門をくぐって港の中に入っていく。

港の中は想像以上に活気に溢れていた。商取引をしている商人たちはもちろん、冒険者の姿も多く見受けられる。聞けばここエールポートはサハギン族との国境線に近く、現在は更に西にある前線を押し上げたものの未だ小競り合いが絶えない。
またコボルド族との境界線も近いことから、現在は軍事的な補給拠点としての側面を持っているとのことだった。

さて、着いたはいいがどうするか・・・

聞き込みをするにもストレートに「人拐い」について聞くわけにもいかない。
港を散策してみると、商人や冒険者に紛れて集団で行動する若い農夫たちの一行に目が留まった。
みな衣服は最低限で、大きな荷物を背負っている。暗いというわけではないが表情はどこか不安を感じているような表情であった。
にこやかな笑顔を浮かべる商人風の男の指示で、その一団は停泊していた船に乗り込んでいく。

あれが出稼ぎ労働者の一行か?

私は船の係留作業をしている港夫に聞いてみると「あれはクフサド商船団の一行だよ」と教えてくれた。農夫の一団が乗り込んだ船は綺麗に整備されている立派な船であった。
港夫の話によると「クフサド商船団はエールポートを本港としてリムサ・ロミンサだけでなくエオルゼア各地に労働者を輸送する商売を行っている」とのことだ。

溺れる海豚亭の店主が言うとおり、クフサド商船団は「労働者への仕事の斡旋」ではなく、あくまでも「労働者の輸送」を主業務としているようだ。
人材を必要としている先と希望する労働者をマッチングさせ、「送り届けること」だけに限定することにより「人身売買」というリスクを避けているのだろう。
人身売買の片棒を担いでいるのでは? という疑いはついて回るが、あくまでも「輸送賃」のみを収入としている以上「その先のことは管轄外」と言えばそれまでとなる。
依頼者が労働者を奴隷のように扱おうが何しようが、クフサド商船団には関係のない話なのである。

私はしばらく「クフサド商船団」と「出稼ぎ労働者」の動向を観察するため、冒険者として仕事を請け負いながらエールポートに滞在することにした。

それから数日の間、クフサド商船団の動向をうかがい続けたがこれといって不穏な動きはない。
逆にエールポートに戻ってくる労働者も多く、決して「労働者の輸送」は一方通行ではなことがうかがえた。
家族の出迎えを受けて再開を果たす労働者たちの笑顔を見る限りでは、特段疑われることをしているようには見えなかった。

(これはひょっとしたらはずれかもしれないな)

そう思った私はエールポートでの情報収集を諦め、サスタシャ浸食洞の入り口があると言われているところに向かってみることにした。
門をくぐりエールポートを出ようとしたとき、見覚えのある格好をした男がこちらに向かってくるのが見える。

あの赤い帽子・・・サマーフォード庄の?

私は咄嗟に物陰に隠れ、赤い帽子の男をやり過ごす。


相手はこちらには気が付かなかったようで、キョロキョロとあたりをうかがいながらある宿屋へと入っていった。

あからさまに怪しい動き・・・
今度は何を企んでいるんだろう・・・

私はそのまま宿屋の入り口が見える物陰に張り付き、再び赤い帽子の男が出てくるのを待った。
そしてしばらくすると赤い帽子をかぶった男は、商人風の若い男と一緒に宿屋から出てくる。
そしてそのさらに後には、顔に特徴的な入れ墨が入ったルガディンの男の姿が見えた。

・・・!? あれは!!

私はそのルガディンの男を見て唖然とする。
ルガディンの男に見覚えがあった。
「顔」というより「入れ墨」にだ。
もしかしたら見間違いかもしれない、だが私があの男を見間違えることはないと信じたかった。

私はそのルガディンの男の顔を確かめたくて、物陰からさらに身を乗り出す。
何度確認しても私の記憶の中の男に間違いはない。

その男こそ、ウルダハで「盗品の奪還」と偽り私を嵌めた依頼に同行していたルガディンの男だった。