FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第五十四話 「片目の暗殺者」

ドクンッ! ドクンッ!

急に心拍数が跳ね上がる。
それを隠すように手で胸を抑えた。

アイツは私が死んだ「あの事件」に関わる人物。
あの男が「生きている」ということは何らかの事情を知っているのではないか?
もしかしたらアイツは私を嵌めた側であるかもしれないし、私と同じように雇われた冒険者の一人だったのかもしれない。

どちら側だったとしても、私は「自分が殺された」真実を知りたいという欲求をとどめておくことができない。
その焦りからか、私は不用意に物陰から大きく体を出してしまっていたようで、私のことを不信がったルガディンの男がこちらを指さしながら何かを叫んでいる。

ヤバイ!!

私は再び物陰に身を隠すと、急いでその場から逃げ出す。
後ろから小さな影が追いかけてきている気配を感じつつ、私は路地を曲がるとすぐに狭い排水溝の中に飛び込み、身を隠した。
その後すぐにトテトテという足音が近づいてきて、私が身を潜めている排水溝の前でぴたりと止まった。
私は息を殺しながら身を縮めて気配を殺す。

(バレたらすべてが終わる。)

なぜかそう思えて仕方がなかった。

排水溝の小さな隙間から外の様子が見える。
私はそこから外を伺うと、そこには汚れたローブを身にまとい、フードを目深に被ったララフェルの少女が立っていた。

!!?

何の感情も抱いていないかのような無表情で立ち竦むそのララフェルの少女もまた、私は見たことがある。

肌は浅黒く汚れ、まるで機能していないかのように濁った片目。

そのララフェルは、ウルダハで銀冑団の王冠奪還に協力していた時、首謀者の男を殺しゾンビパウダーを奪っていった巴術士の少女だった。

ララフェルの少女は懐からナイフを取り出すと、木箱が山積みとなった一角に投げつける。
するとその木箱の奥から「ひっ!」という声が聞こえ、一人の男が両手を上げて物陰から出てきた。
偶然なのか、その男は私と似たような恰好をしている。


おまえ、さっきこちらを見ていただろう?

はっ? 何言ってるんだい嬢ちゃん。俺はララフェルのガキに色情を抱くような変態じゃないぜ?そっちの勘違いじゃないか?。

ではなんで隠れていた?
やましいことが無ければ隠れる必要はない。

隠れていた?
へへ、俺はただここで休んでいただけだぜ?
今日は日差しがきついからな。ここは日陰で風通しがいいから昼寝するには最高なんだ。

男とララフェルの少女のやり取りを伺いながら、矛先が自分に向けられていないことにホッと胸をなでおろしながらも、見ず知らずの男を巻き込んでしまったことに申し訳なさをかんじてしまう。

(何事も起きなければいいが・・・)

祈るような思いを胸にじっと身を潜めていると、ララフェルの少女は懐からもう一本のナイフを取り出し、

「酔わないエールはどこで売っている?」

と男に問いかけた。

!!!?

ララフェルの口から聞き覚えのある「言葉」が発せられる。
その言葉は確か・・・

そう、エーデルワイス商会に入るための「合言葉」だ。


なっ・・・・と、突然何を言い出すんだい?
酔わないエール? そんなものあるわけないじゃないか。


男はララフェルから発せられた言葉を聞いて明らかに動揺している。
「売っている」と言う問いかけに「あるわけはない」という答えは明らかに不自然だ。

(なんだ?・・・何が起きている?)

突然の展開の連続に思考がついていかない。
そんな私の動揺をよそに、確信を得たかのようにララフェルの少女はゆっくりと男に近づいていく。
男は咄嗟に剣を構えて後ずさった。


お前らがこっちのことをこそこそとかぎまわっていることは知っていた。
どうせあの「間抜け野郎」に張り付いてこっちの動向を伺っていたんでしょ?
ご丁寧に港にいる「冒険者」と同じ格好に擬態してね。
バレたらそいつを囮にして逃げるつもりだったんだろうけど、残念だったね。

その程度のことじゃ、私のことは騙せない。

つまらない鬼ごっこは終わり。

バイバイ


そう言うな否や「ふっ」と姿が消えたかと思うと、いつの間にか男の首筋に飛びついていたララフェルの少女の持っていたナイフが、深々と男の首に刺さっていた。
「ドサッ」という音を立てて崩れ落ちる男。
男は声一つ上げることもできず、ただの一撃で絶命させられていた。


ララフェルの少女が男から離れ、路地の外に目線を送ると荷車を引いた男達が現れた。
みんな商人の格好をしているが、顔には特徴的な青い入れ墨が見え隠れしていた。
そして男達はナイフが刺さったままの男を着車に積んだ木箱の中に乱暴に投げ入れると、まるで行商を行っているかのように会話をしながらどこかへと運んでいった。

 

すべての「処理」が終わった後もララフェルの少女は動かない。

(やはり見逃してはもらえないか・・・)

そしてゆっくりと私の隠れている排水溝に顔を向け、


おいそこに隠れているドブネズミ。
あんたの始末は私の「仕事」に入っていないから今回は見逃してやる。
でも、今見たことすべて他言無用だ。
でなければ、今度はお前があの男と同じ目にあうことになる。
命が惜しくば「なかったこと」として忘れてしまうことだ。


そう言って、フードをかぶり直すと何事もなかったかのように宿屋の方に戻っていった。

 


足音が消え、人の気配がなくなると私は「はぁぁぁ・・・」と大きく息を吐いた。
心臓は今もなお激しく鼓動を続けている。
体中から溢れだす冷や汗が止まらない。

剣であればまだしも、まだまだ使いこなせていない斧ではとてもではないがあのララフェルには敵わない。
例え殺されたとしても生き返る。だがそれはウルダハの時と同じように自分の居場所を失うことを意味する。
おやっさんの工房の件も中途半端にして投げ出して、私は誰にも見つからないようにリムサ・ロミンサを去らなければならない。

(それだけはごめんだ・・・)

排水溝から這い出してあたりを伺う。逃げ込んだ時は焦っていてわからなかったが、暗い路地は狭いうえメインストリートからは死角となっているため、人殺しがあったとしても声さえ出さなければ警備にあたっているイエロージャケットでさえも気が付くことができなそうだ。
このままエールポートにいるのは危険だと判断し、離れようとフラフラとした足取りで歩き始めた時、

動くな・・・・

と、再び背後から声が聞こえてきた。

首筋に冷たい金属の感触を感じる。
ナイフだろうか・・・ピリピリとした痛みを伝えるほどに、それは私の肌に強く押し付けられていた。

(くそ・・・気配を感じることができなかった)

私はとりあえず手を挙げて抵抗の意思はないことを示す。
一難去ってまた一難。色々なことが続きすぎて思考が追いつかない。
反撃するにも相手のことがわからない上、ちょっとでも抵抗すればさっき殺された男と同じような目に合うような気がする。
だが一撃で命を屠りに来なかったということは、何か目的があるのだろう。


そのまま動かないで。ちょっと質問に答えてもらえれば解放する。
お前、殺された男とララフェルの会話を聞いていたか?


・・・こいつ、殺された男の仲間か?

どうやら女のようだが「あんたは何者だ?」と聞いたところで答えてはくれないだろう。
私は素直に「聞いていた」と短く答える。続けて「何を話していた?」と聞いてきたので、できるだけ簡潔に説明した。

背後の女は「そう・・・」と納得した後、今度は「お前あのララフェルに気づかれていたね? 何を言われた? それになぜ殺されなかった?」と聞いてきた。
私は「仕事の内じゃないから見逃してやるが、誰かに話したら殺す」と言われたことを話す。

その答えを聞いて背後の女は無言になる。どうやら少し動揺したようで希薄だった気配が少し濃くなる。
私は少し腹いせに「素直に話した俺をあのララフェルから守ってくれるのかい?」と聞くと「それは・・・無理かも」と言って首に押し当てていたナイフをスッと引っ込めた。

その瞬間、私はバッと間合いを取り背負っていた斧を手に構える。
しかし、背後にいたはずの女の姿は何処にもない。そればかりか気配自体が完全に消えていた。

(・・・どこかにいるのか?)

ここは狭い路地の中だ。隠れたとしても場所は限られている。
神経を張り詰めながら必死に気配を探る。
しかし結局私は見つけることができずに、手に構えていた斧を下ろし近くにあった木箱にどっかりと座った。
脅威は去ったと分かっていても「どこかでまだ見張られているのではないか?」という疑心で未だ動悸が収まらない。緊張で胸が張り裂けそうだ。

私はウルダハで命を賭けた戦いを幾度となくしてきた。
でもそのほとんどが「相手が見える」戦いだった。
例え強大な相手だったとしても、見えている限り対処もできれば逃げの算段をうつことだってできる。
しかし今起こったことはそれが通用しない。
相手も見えず、敵か味方かもわからない状況では完全に「思考」を奪われてしまう。

(巻き込んでしまった・・・・のではなく、ひょっとしたら巻き込まれてしまったのかもしれない)

路地の隅から街道に目を向ける。
なぜだろうか・・・今となっては普通に身をさらすことに恐怖を感じてしまう。
情けないことに「あの排水溝の中をたどれば街の外に出られるのではないか?」とまで考えてしまうのだ。
私は心が落ち着き、覚悟ができるまでしばらくの間、その狭く奥まった路地の中で途方に暮れていた。

 

結局夜になるまで路地裏にとどまっていた私は、警戒しながらエールポートのメインストリートに出る。
日中あれだけ人に溢れていた港も、船の乗り入れの少ない夜になるとさすがに閑散としていた。
見かけるのは港の警備をするイエロージャケットや黒渦団、そして冒険者の姿ぐらいだ。
商取引を終えた商人たちは、大方酒場で今日の上がりを弾きながら酒でも飲んでいるのだろう。

とりあえずスウィフトパーチまで戻ろう・・・

夜の移動は危険ではあるが、ここエールポートに留まるよりはましだ。
あの黒い入れ墨の男と片目の少女がまだここに滞在している可能性もある。
私はチョコボポーターを利用して、闇夜に紛れるようにスウィフトパーチへと向かった。


暗い街道をひたすらに駆け抜けスウィフトパーチに着くと、前回利用した宿に再び泊まった。
ここが安全であるとは限らないが、エールポートより寂れているものの、集落規模以上にイエロージャケットの警備が厚いここの方がまだましだろう。
部屋に入ると着替えもそぞろに、ベッドわきにある椅子にドカリと座る。
その衝撃に「ぎいぃっ!!」と悲鳴を上げる椅子であったが、私は構うことなく背もたれにもたれかかり、安い酒を飲みながら頭の整理をする。
思えば、本当に色々なことが起きた一日だった。

偶然見つけた赤い帽子の男を追ってみれば、ウルダハで自分が死ぬ原因となった依頼に関わっていた黒い入れ墨の男と繋がっていて、その男の指示で動いたのはアンホーリーエアーで王冠紛失事件の首謀者を殺し、混乱の中でゾンビパウダーを奪って逃げた片目の少女だった。
そして巻き込まれたと思った男は、むしろ私を利用しようとして殺されその仲間と思わしき女に尋問を受けた。

片目の少女が黒い入れ墨の男の指示で殺しを行ったことを思えば、黒い入れ墨の男はあの依頼で私の殺人に加担していたのは間違いないだろう。
となれば、王冠事件と私の暗殺事件の黒幕は「同じ」可能性が高い。大方王冠事件で目を付けられた私は利を害する「危険分子」と判断され、処分の対象となったのだろう。
あの少女とルガディンを捕まえることができれば私は真実にたどりつける。そして私を嵌めた首謀者を突き止められさえすれば、再びウルダハに戻ることも可能になるだろう。

だが・・・

国をまたいで活動しているという時点で、相手は相当な規模を有していると考えていいだろう。
それに比べてこっちはたったの一人だ。ウルダハの時と違い、ギルドやグランドカンパニーのバックアップは期待できない。
あまつさえリムサ・ロミンサの治安維持部隊であるイエロージャケットのレイナー司令にも「協力はできない」と釘を刺されている身なのだ。
私の暗部への不用意な接触は、逆に関係性を疑われて工房共々無実の罪を着せられかねない。

斧術士ギルドもイエロージャケットの一部門・・・・これでは八方ふさがりだな・・・

私は途方に暮れながら酒をグイッとあおる。喉を焼くほどの強い刺激が胃の中を熱く燃やす。
久々に自分が「孤独」であることを実感してしまう。
何か突破口はないか・・・と頭を悩ませていると、ふと少女が呟いた「言葉」が頭に浮かんできた。

(酔えないエールはどこで売っている?)

あの言葉はエーデルワイス商会の合言葉だったはずだ。
とすると、その言葉に動揺した男はエーデルワイス商会の人間だったことになる。

そういえばレイナーに「手に負えなくなったらエーデルワイス商会を頼れ」と言われていた。
ウィスタンが勤めているエーデルワイス商会に「裏側」があることは知っていたが、それがどんな組織かは教えてくれなかった。。
だが治安維持部隊の司令であるレイナーが「頼れ」ということは、少なくとも敵ではないのだろう。
エーデルワイス商会があの黒い入れ墨の男を探っているということは、私の利害も一致するのだ。

もう頼るところはそこしかないか・・・

私は一縷の望みをかけてエーデルワイス商会へと向かうことを決意し、眠りについた。

 


翌日リムサ・ロミンサに戻った私はさっそくエーデルワイス商会のある倉庫へと赴いた。
場所については以前にウィスタンから聞いていたため、迷わずに行くことができた。

扉の前に行くと門衛はどこか威圧するような目でこちらを見ている。
私は門衛に「酔えないエールはどこで売っている?」と聞くと、男は表情を変えないままこちらをジッと見た後「ドンッドンッドンッ」と扉を三度叩く。
そして「入りな」と言って扉を開けた。

???
何かの合図だろうか。

私は訝しながらも「どうも」と答えて建物の中に入っていった。
建物の中は窓一つなく、中にはとても商人とは思えない連中が突然の来訪者である私をにらんでいる。
居心地の悪さを感じながらも奥へと進むと「ガチャン」という音共に扉が閉められた。
そして私の前に一人のララフェルの男が立ち、


ようこそエーデルワイス商会へ・・・でも誠に残念です。
「酔わないエール」をご所望とのことですが、あいにくうちでは「もう」取り扱っておりません。


そうララフェルの男が言うと、周りの連中が武器を取り出し私のことを囲み始めた。
全員が全員、両手に短剣を持っている。

(レイナーめ、話が違うじゃないか・・・)

私は背中に背負っていた斧に手を掛けるとララフェルの男は「あなたに勝ち目はありませんよ」と冷たい声で警告してくる。
私はララフェルの男に「そんな気はないさ」と言って手にした斧を床に置いて手をあげる。
自ら武装を放棄してもまったく警戒は解かれず、ララフェルの男は他に武器を持っていないか私の体を確かめてきた。

そんな緊迫なやりとりをしている時、裏口からホクホク顔で手にしたエッグサンドをハムハムと頬張りながら、ミコッテの女が入ってくる。
ミコッテの女は剣呑な雰囲気に包まれている室内に驚きながら、囲まれている私の顔を確認すると、しっぽを「ピィィンッ」と立て慌てて一人の若い男に駆け寄り何かを耳打ちした。
ミコッテの話を聞いた若い男は「なに?」と声を漏らすと、スタスタと歩いてきて私の前に立った。


あんたエールポートで襲われていた奴か?


と若い男は聞いてくる、私は「そうだ」と答えると、


もしかしてだが、うちの合言葉を知っているということは、レイナーが言っていた工房の男だったり?


と聞いてきたので、私は少し皮肉を込めて「初めまして」と笑顔で答えた。
すると若い男は「そういうことは早く言えよ!」と言って周りの連中の警戒を解かせた。


もう使っていない「合言葉」を使うもんだから敵だと思ったぜ。
まあ使用禁止にしたのは「昨日の夜」の話なんだけどな。

改めて・・・

ようこそエーデルワイス商会・・・・いや、双剣士ギルドへ!

 

改めてようこそエーデルワイス商会・・・・いや、双剣士ギルドへ!

俺はここのギルドマスターをやっているジャックってもんだ。


そう言ってジャックと名乗る青年は手を差し出してくる。
私はその手を握って握手を交わす。


いやいや、あんたには話を聞きたいと思っていたんだが、こいつがやりすぎちまったせいでどう「接触」しようか考えていたんだ。
まさかあんたからこっちを訪ねてくれるとはね。飛んで火にいる夏のなんちゃらだぜ!


さっきまでの対応とうって変わって軽い空気が場に漂い始め、私はホッと胸をなでおろした。
ジャックの後ろを見ると、口の周りにエッグサンドの卵をつけたままのミコッテの女性がすまなそうな顔でこちらを見ていた。
ミコッテの女性を見ている私に気が付いたジャックは、


あぁ、こいつはヴァ・ケビっ・・・・っておい、口の周りに卵いっぱいついてんぞ!


とジャックが指摘すると、ヴァ・ケビと呼ばれた女性は慌てて口の周りを布で拭いていた。


なんかしまらねぇなあ・・・まあいいや。
あんたを尋問したのはこいつだ。
まあうちの仲間が一人やられちまったすぐ後だったから、無礼は勘弁してもらえると助かる。
ここにわざわざ来たってことは「人拐い」の件を追っかけてるんだろ?


どうやらレイナーはあらかじめ自分がここを訪ねてくるかもしれないとジャックに伝えてくれていたようだ。
話が早くて助かると思いながら私は頷いた。そういえばさっき「双剣士ギルド」とジャックは言っていた。
確かに周りを取り囲まれたとき皆両手に短剣を持っていたが、どうやら世間一般には開かれていないギルドのようだ。

銃術士ギルドのような特別職なのだろうか?

私はジャックに双剣士ギルドについて聞いてみると、

エーデルワイス商会」というのは表向きの偽名さ。ウルダハからウィスタンというやつを引き取ってからは結構「表側」も潤っているがな。
俺たちの真の名は「双剣士ギルド」という。 「双剣士ギルド」はリムサ・ロミンサの影の存在として厄介な依頼を請ける武装組織なんだ。
リムサ・ロミンサが海賊の拠点として発展してきた都市だってことは知っているよな?
海賊っていうのは無法者の集まりだが略奪品を売買したり、同じ島に居座るにあたって、守るべき暗黙の「掟」が存在してたんだよ。

曰く、リムサ・ロミンサの民からは略奪するべからず。

曰く、略奪品の取引で詐欺を行うべからず。

曰く、奴隷は売買するべからず・・・・・・とかな!

今じゃメルウィブ提督が海賊行為そのものを禁止してるが、目の届かない裏側では相変わらず「掟」こそが唯一のルールなのさ。
その「掟」の番人といわれる存在が俺たち双剣士だ。 リムサ・ロミンサの暗部に目を光らせ掟破りには制裁を下す。
不当な略奪が行われたなら略奪品を奪還し、必要とあらば「殺し」もするが、正規の治安維持部隊である「イエロージャケット」からは野蛮だと疎まれているんだ。
最近じゃよっぽどのことが無い限り「殺し」はしないが、昔は「命までをも盗む者」と裏社会でも畏れられるほど容赦なかったんだぜ?
だが、綺麗ごとだけじゃ海賊共と渡り合おうなんて不可能だ。そもそも海賊がいなくなればこのリムサ・ロミンサも成り立たなくなる。だから表立って手を汚せねぇ連中に代わって汚れ仕事をかってでているのさ。

さて、こっちの自己紹介はこれくらいにして本題に入ろうか。
あんた「人拐い」を追っているんだってな。
一年前の連絡船事故の件で、あんたが働いている工房の嫌疑を晴らすためにね。
だが先日エールポートで痛いほど味わったと思うが、ここリムサ・ロミンサで「人拐い」に関わるってことは相当危険な事だってことは覚悟しなよ。
表向きは「ありえねぇ」ってことになっているんだからな。
うちらだってその調査でもう何人も仲間を失っているんだ。
そのくらい命がけになるってこと、理解しておいてほしい。

さてまずはこっちからの質問だ。
ヴァ・ケビからある程度報告は受けてはいるが、もう一度エールポートでの一件を教えてくれ。

私は頷くと、ジャックにエールポートでの一件を詳しく説明する。
そしてそこで見かけた「顔に黒い入れ墨のある男」と「片目のララフェルの少女」は、ウルダハで冒険者だった頃に因縁があることを伝えた。
ただ、殺されて生き返ったことだけは不審に思われるから話すことを控えた。


へぇ・・・あんた冒険者だったのか。ただの職人だと思っていたよ。
しかしウルダハからの因縁っていうのもすげえ話だな。まさかアイツらがウルダハでも活動してたなんて知らなかったよ。
あんたが見つけた「顔に入れ墨のある男」ってのは、ここリムサ・ロミンサにいる海賊団「海蛇の舌」って奴らなんだ。
海賊団と言っても「掟」から逸脱したいわくつきの奴らで、蛮神「リヴァイアサン」を信奉しサハギン族の群臣に下った頭のおかしい連中さ。

ちょっと前まではエールポート周辺で悪さを働く小悪党程度だったんだが、最近どうやら海賊団としての規模が拡大しているようで看過できない存在になって来ているんだよ。
俺たちはそいつらがどうやって団員を増やしているのか調査し始めていたんだが、その延長上に「人拐い」の疑いが出てきてね。
どうやら拐われた連中が団員になっているようなんだ。
海蛇の舌になった連中はたとえ最愛の人の言葉ですらも聞かなくなって、一心に「リヴァイアサン」を信奉するようになる。
そう、ようはリヴァイアサンの「テンパード」になってしまっているようなんだ。

だから俺らは「海蛇の舌」の連中を見張っていたんだが、なかなかしっぽを出さなくてね。
結論から言うと、彼らは直接「人拐い」を行っていない。
別のところから「人」を買っているようなんだ。

その流れも追っていたんだがこっちもなかなか難儀だったよ。
あんたも見たと思うが、人を助ける替わりに仲間を殺されてしまっている悪循環に陥っちまったんだ。
だが、最近やっとその糸口を見つけることができた。

「クフサド商船団」って奴らを知っているかい?

そう、アイツらはこのリムサ・ロミンサを中心にエオルゼア全土で「労働者の輸送」を引き受けている奴らさ。
霊災難民や貧民なんかの「出稼ぎ労働者」達を仕事があるところに「ただ」で輸送するんだ。
で、そこの仕事斡旋業者に労働者を繋げて、人数に応じて斡旋業者から運賃を上乗せした額の「紹介料」をもらっているようだ。
まぁそれ自体に問題があるわけじゃねぇ。商売としてはうまいやり方だと思うぜ?

だが問題は乗船人数を「ごまかしている」可能性があることが最近の調査で分かってきたんだ。
帳簿上の人数と実際に乗船していた人数が違う・・・ということは、船には行き先不明の「乗船客」が乗っていたことになる。
イエロージャケット共がそのことをクフサド商船団に確認したことがあったが「帳簿上のミスで誤差の範囲」と一蹴されてね。
そこに喰らいついたイエロージャケットの鉄砲玉が「人拐いをしているんじゃないか」ってストレートに聞いたもんだから話が余計にこじれてしまって、それ以降ずっとうやむやになっていたんだよ。

だが、うちのもんの犠牲の甲斐もあって「クフサド商船団」と「海蛇の舌」の接点を掴むことができたんだ。

それがあんたにも深い因縁のある「黒い入れ墨の男」の存在だよ。