FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第五十五話 「巴術士の女」

それがあんたにも深い因縁のある「黒い入れ墨の男」の存在だよ。

そいつは普通の海蛇の舌の奴らと違いがあってね。
海蛇の舌の奴らの入れ墨は「青」なんだが、そいつの入れ墨だけは「黒」なんだ。理由は分からねぇがな。
だから初めは海蛇の舌とは切り離して考えていたんだが、最近「人拐い」の現場から逃げてきた奴の証言で「黒い入れ墨の男」を見たという話が出たんだよ。
それからずっとその男をマークしていたんだが、どうやらうちの「合言葉」が流出してしまったみたいでね・・・こっちの存在がバレてしまっているようだから、どうしたもんかと悩んでいたんだよ。


ジャックは自分の頭をポンポンと叩きながら途方にくれた顔をしている。
「そこまで情報を得ているのならグランドカンパニーである黒渦団に調査を移管したほうがいいのでは?」と聞くと、


実はまだ海蛇の舌の正確なアジトが特定されていないんだ。奴らの船は幻影諸島の北に消えていくと噂されている。だがその先にあるのはサハギン族の勢力圏内で迂闊に近づくことすらできない。
連絡船の事故があっただろう?
あれは連絡船がサハギン族の勢力圏にある秘密航路を航行する奴らの船を偶然見つけてしまい、確認信号を送ってしまったために襲われたんじゃないかと俺は思っている・・・まあ確証はなにもないがな。

勢力圏に攻め込んでサハギン族とガチで戦争をおっぱじめられるほどリムサ・ロミンサの軍力は回復していない。そもそもリムサ・ロミンサの軍力の中心は独立した海賊諸派との連合であって、黒渦団単独だけでは兵力不足だ。
ガレマール帝国とのドンパチのように国の存亡をかけた戦いならまだしも、いち海賊団の討伐程度じゃ理解は得られない。だからよっぽどのことが無い限り黒渦団は動けないのさ。

それこそ、蛮神「リヴァイアサン」の討伐ぐらいのインパクトが無ければね。

海蛇の舌が「人拐い」に加担していて拐った奴らをテンパード化して兵隊にしているとしたら、リヴァイアサンの召喚も無視できねえ話になる。
そのあたりの確証を得られさえすれば、もうちょっと何とかなるんだろうけどな。
とにかく俺らもアイツらにバレちまった以上、今までのような調査はできねえ。
やり方を変えていかねえとな・・・


そういえばサマーフォード庄にいる赤い帽子の男がその黒い刺青の男と接触していたことを思い出し、私はジャックに説明する。
正確には「商人らしき男」と接触していたのだが、その現場にルガディンの男がいたのだ。
ジャックは私の話を聞き、どこか浮かない顔をしている。


サマーフォード庄ってぇと、シュテールヴィルンの旦那のところか・・・
すまねえ・・・そこはあんたが聞き込みをしてもらっていいか?
いや、情けねえ話だがアイツらとは昔ちょっとした因縁があってね。うちらが出向いたところで塩まかれて追い払われちまうからよ。
もちろん、バックアップはさせてもらうからよ!

顔の前に手を合わせて「頼む!」とお願いしてくる。
こちらとしても協力を得たくて訪問したこともあるので快諾した。


そうか! やってっくれるか!
じゃあこっちからはこいつをあんたの補助につけてやるよ。


そう言って、ジャックは一人のララフェルの男を指さす。
突然指名された男は「うえぇっ! 俺もいくんですか!」と抗議の声を上げる。


「お前変装が得意だろう? 中までついていく必要はないから変な奴が張り付いていないか見張ってやんな。」


ジャックがそう言うと、ララフェルの男は「はぁ~・・・」と溜息をつきながらも「あぁ・・・えっと、ペリム・ハウリムっていいます。よろしくお願いします。」と頭を下げてきた。


こいつは見かけによらずうちのギルドじゃ1・2を争うほどの腕利きだから安心しな!
じゃあよろしく頼んだぜ!


ジャックに送り出されるような形で、私とぺリム・ハウリムはサマーフォード庄に向かう。ペリム・ハウリムは特徴的だった緑を基調とした服装からどこにでもいるような新米冒険者のような恰好に着替えていた。多分私に合わせてくれたのだろう。
道中無言のままでは気まずいので、私はペリム・ハウリムにリムサ・ロミンサの裏事情を色々聞いた。話によると霊災時にメルヴィブ提督の元団結した海賊団諸派だったが、霊災後に復興が進むにつれ、その団結にも綻びが発生しているらしい。
なかには掟を破り外洋で海賊行為を働くものや、海賊団内でも意見対立により派閥同士の抗争が発生したりと「共通の敵」の動きが弱まってからというもの急進派の動きが活発化しているとのことだった。

サマーフォード庄の前に着くと、ペリム・ハウリムは「じゃあ俺はここいらで見張ってますんで」と言ってスッと姿を消した。


私はシュテールヴィルンを探しながら仲間の団員の方に目を向ける。赤い帽子の男を探すがパッと見で見つけることはできなかった。
相変わらず頭を抱えているシュテールヴィルンの元に着くと「赤い帽子の男のことで少し話が聞きたい」と話す。
するとシュテールヴィルンは「アイツがまた何かしでかしたのかい
?」と険しい顔をしながら答えてきた。
私は「ここでは話しにくいので、話を聞かれない場所に移動したい」と話すと「俺にそんな気はないんだがな」と冗談を言った後「ついてこい」と言って農場内にある小さな納屋の影に移動した。

「さて、話と言うのは?」とシュテールヴィルンは聞いてくる。
私は、赤い帽子の男が先日エールポートで「商人」らしき人と密談をしていた件を説明する。そのグループの中に私がウルダハにいた時に因縁のある男がいたこともあり、何か知っていることはないかと聞いてみた。

赤い帽子の男・・・あいつはセヴリンと言ってな。問題児ばかりが集まるここの中でも一番の問題児だ。
まともに働かねえばかりか、今も仲のいい不良連中を連れてどっかに行ったまま戻ってこねえんだ。
どっかで酒でも飲んでいるんじゃねえかと思っていたが・・・
セヴリンと会っていた奴らはきな臭い野郎なのか?

シュテールヴィルンの問いに「商人風の男のことはわからないが、少なくとも私と因縁のある男は「善人」ではない」と答える。
それを聞いたシュテールヴィルンは腕を組みながら何かを考え、そして私に話し始める。

実はセヴリンは元々俺の海賊団の団員ではねえんだ。
ここサマーフォード庄が拓かれてからきた奴で、初めは随分とまじめに働いていたもんだ。
しかし悪い仲間とつるみだしてから様子がおかしくなり始めてな。今じゃまともに働くどころか、うちの農作物をコボルドの連中に高値で横流しして不当に金を稼いでいるらしい。
あまりにも酷いんで追い出そうと考えたこともあるが、アイツも実は霊災孤児らしくてな。ここを追い出しちまったら行く当てもないだろうから、何とか更生させたいと思って今までやってきていたんだ。
厄介なことに巻き込まれてなければいいんだが・・・

シュテールヴィルンは重い溜め息をつく。
私はセヴリンの身の回りで気が付くことがなかったか聞いてみると、

そういえばうちの団員の奴らがセヴリンに「おいしい儲け話」があるから一口乗らねえかと勧誘されたらしい。
たしか・・・シーソング石窟の慰霊碑の下にお宝が埋まっているだとかなんとか言っていたな。
あそこは海で亡くなった奴らの慰霊碑だから、墓荒らしなんてできないとうちの連中は断ったらしいが、もしかしたら今そこにいるかもしれねぇな。

私はシュテールヴィルンに「私が様子を見てくるよ」と話すと「俺がこんなことをいうのもなんだが、穏便に頼むぜ。」と頼まれた。

 

なにか情報は得られましたかい?


サマーフォード庄から出ると、いつの間にやらぺリム・ハウリムが私の脇を歩いていた。
私はぺリム・ハウリムに赤い帽子の男はセヴリンと言って、サマーフォード庄の中の不良グループの一人だということを伝える。そして儲け話があると言ってシーソング石窟に人を集めようとしていたことも伝えた。


シ…シーソング石窟ですか・・・
あそこ・・・・死んだ人の幽霊が出るって有名なんですよねぇ・・・
ってまさか、いまからあそこに行くつもりですか!?

急に怯えだすペリム・ハウリム。ひょっとして幽霊が怖いのだろうか。シーソング石窟はサマーフォード庄からほど近く、少し歩くだけでたどり着ける距離にある。私はそのつもりだと答えると、


や、やめましょうぜ?
だって今日はもう日も暮れてますし、一旦報告に戻ったほうがいいと思うんっすよ。
それにほら・・・・灯りもないはずなのにほのかに明る・・・・ひっ!


シーソング石窟があるあたりで、不自然な光がユラユラと揺れていた。
やはり誰かいるのだろうか・・・

私はぺリム・ハウリムに「ここで見張っていてくれ」と頼むと、草陰に紛れるように一人でシーソング石窟の入り口前まで歩みを進める。
そして様子を伺うと、洞窟の両脇に松明が灯されていて中は明るい。
私は周囲を警戒しながら洞窟の入口へと張り付き、中の様子をうかがう。
すると、奥に一人のミコッテの女性が立っていた。

 

奥に一人のミコッテの女性が立っていた。
よく見ると顔には機械のような面をつけている。

(あれは!?)

私はあの機械の面を知っている。
そう、あれはサンクレッドが調査で使っていた面と全く同じものだ。
私はゆっくりと歩きながらシーソング石窟内の慰霊碑に近づいていく。するとミコッテの女は私の存在に気が付いたのかこちらを一瞥すると、


私は支える波であり、

私は導く風である。

私は夜の星であり、私は朝の空である。

私は海で生を受け、そして、海で死に向かう・・・・・・。


と、女はまるで唄を歌うように詩を口ずさむ。
そして顔につけた面を外しながら私の方に振り向き、

 

この碑石に刻まれた、船乗りたちの鎮魂歌よ。

「海で生まれて、海で死ぬ・・・」

リムサ・ロミンサに生きる民の生き様ね。

海に帰ることができた船乗りには、 海難事故が起きぬように祈りを。
大地に散った船乗りには、 彼らの魂が海へ戻るための祈りを・・・。

目を閉じ、胸に手をあてて祈りをささげるミコッテの女。
ゆっくりと一言一言紡がれる言葉は流れるようでいて、寄せては返す波のように静かな抑揚を繰り返す。それはまるで夕凪の海辺で黄昏ているようで、思わず心を奪われてしまった。


あなた・・・ウルダハから来た冒険者ね?
噂の「人拐い」を追ってたんだけど・・・これはいい収穫だったかもしれないわね。


祈りを終えたミコッテの女はそう呟くと、懐から木の枝のようなものを取りだし何か呪文のような言葉を紡ぎ始める。
するとミコッテの女性の周りに大量の魔力の波が渦巻いた。

(・・・・敵だったか!?)

私はすかさず斧を手に取りミコッテの女性と対峙する。
その姿をみたミコッテの女性は「どこを見ているの?」と呟き、手に集約された魔力の塊を放った。

(くっ!!)

私は斧を盾代わりに構えて魔力の塊から耐えようと身構える。しかし魔力の塊は私の脇をすり抜け、轟音と共に何かにぶつかり破裂した。

(!!?)

ぐぉぉぉぉ・・・

 

後ろから獣の呻き声が響き「ドスンッ!」という轟音を立てて倒れる音が洞窟内に反響する。
振り向くとそこには焼け焦げたグゥーブーの姿があった。
ミコッテの女性はまるで何事もなかったかのように歩き出し、私の脇を通り過ぎて倒れたグゥーブーを調べ始めた。
そして何かを見つけたのか「これを見て」と言って一つの短剣を私の前にかざした。

 

この短剣はロープを扱う船乗りたちが使うものね。
それに・・・


ミコッテの女性は頭にのせていた機械の面を顔にはめ、つまみをいじりながらその短剣を調べ始めた。


歪められたエーテルの残留反応・・・この短剣には何かが仕組まれていて、この子は暴走したようね。
この子が狙ったのは私か、それともあなたか・・・
どちらにせよ、私たちのどちらかを「消したい」者がいるということかしら。


そう言いながら、ミコッテの女性は「ふふ・・・」と静かに笑った。
その笑みは妖艶であり、どこか冷酷でもあった。
思わずゾクッと鳥肌がたつ。

 

なっ・・・何事ですか!!


声を振りしぼるように震えた声をあげながら、よろよろとした足取りでぺリム・ハウリムが洞窟内に入ってくる。


あら、お仲間がいたのね。
私はお邪魔だろうから、お先するわ。

では・・・

また。


そう言いながら、ミコッテの女性はゆっくりとした足取りで洞窟を出ていった。
焼け焦げたグゥーブーを唖然とした表情で見ているぺリム・ハウリムの脇を通るミコッテの女性。ペリム・ハウリムはその女性に気が付くと、今度は呆けた表情で女性を目で追い始めた。
女性が洞窟をでて行くまでジーっと見つめたあと、バッとこちらに振り返り血走った目で、

だ・・・だれですかあの美女は!!
あんたの知り合いですか!!
年齢は!? 趣味は!? 好きなタイプは!?
詳しく!! 詳しく!!!

とペリム・ハウリムは食いついてくる。
どうやら彼の好みにあのミコッテの女性はどストライクだったようだ。
しがみついてくるペリム・ハウリムを引き離しながら、私は彼女とは初対面だということ、あそこで焦げているグゥーブーはあのミコッテの女性の一撃によってああなったこと、そしてそのグゥーブーは何者かによってけしかけられていたことを伝えた。
しかし当のぺリム・ハウリムは「そんなことよりも彼女のことをしりたい!」といった表情をしている。そんなペリム・ハウリムの表情を見ながら私はニヤニヤしていたが、ふと気が付いた。

私が洞窟にいる間、ペリム・ハウリムは洞窟の外で見張りをしていたはずだ。であるならこのグゥーブーが洞窟に入るところを見ないわけがない。だがペリム・ハウリムが駆けつけた時「何事ですか!」と言って入ってきたのだ。
私はぺリム・ハウリムに「なぜグゥーブーが洞窟に入ってくるのを見落とした?」と問い詰める。
するとペリム・ハウリムはどこか気まずそうな顔をしながらもじもじとした後「突然現れたウィスプに囲まれて逃げ回ってました!」とものすごい勢いで頭を下げて言い訳を始めた。


いやっ、ウィスプってのは成仏できなかった人の霊魂が具現化したものと言われているんすよ! ここらじゃ難破船が漂着するコスタ・デル・ソルの浜辺で大量にでるって噂されてますが、ここで出くわすなんて・・・やっぱりここは死んでも死にきれなかった水夫たちの霊が集まるんスよ!
早くアジトへ帰りましょう!


恐怖を思い出したのか、かくかくと膝を震わせながら慌てているぺリム・ハウリムの反応を見ながら私は黙考する。
態度からして嘘を言っているようには見えないが、相手は諜報活動を得意とする双剣士ギルドのメンバーだ。双剣士ギルドが私を嵌める理由があるかどうかを考えながら、私はペリム・ハウリムと共に双剣士ギルドへと戻った。

 

首尾はどうだったかい?


ギルドに戻るとジャックが私たちを出迎えた。
私はジャックにサマーフォード庄でシュテールヴィルンから聞いたこと、そしてシーソング石窟で一人のミコッテの女性と出会い、突然グゥーブーに襲われたこと、そのグゥーブーは誰かによって暴走させられていたことを報告する。


ミコッテの女ねぇ・・・・ひょっとしてそいつ、機械の仮面を首から下げた幻術士じゃなかったかい?


ジャックは「ショートボブの銀髪で、手に木の枝のようなものをもった奴だ」と身振り手振りを加えて補足する。私は「そうだ」と言おうとするとペリム・ハウリムが「アニキも知っているんですか!?」と言葉をかぶせてきた。
ジャックは驚いた顔をしながら

な、なんだおまえ・・・突然によ、びっくりするじゃねえか。そのミコッテの女はシャーレアンからリムサ・ロミンサ周辺のエーテル調査に来ている偉いさんだ。蛮族共の蛮神召喚を防ぐために各地を回っているらしい。名前は何っていったっけな・・・そうそう、確かヤ・シュトラとかいう名前だったな。

ああっ、あの方、ヤ・シュトラさんと言うんですね!

あまりの食いつきっぷりに「お、おう・・」と引いているジャックをよそに一人テンションの上がるぺリム・ハウリム。すっかり会話を乗っ取られ唖然としている私にジャックは、


なあ、あんた。こいつどうしちまったんだ? こいついつも硬派を気取って「女には興味がねえ」って感じてすかしていやがるのに、そいつに変な魔法でも掛けられたんじゃねえのか?


「私にもさっぱり分からない」といいながら首を横に振ると、ぺリム・ハウリムはどこか遠くを見つめながら、


それは一目惚れでした・・・
まるで絹を思わせるような艶やかな銀髪・・・
宝石のように輝く美しい瞳・・・
妖艶な輝きを放つ濡れた唇・・・
そして思考を惑わす甘い芳香・・・

あの方は大人の女の色気をすべて持ち合わせた麗しきヒト。
私の理想そのものなのです!

・・・・・。

(・・・・・。)


愛を囁く自分に酔うペリム・ハウリムを見て、変な魔法をかけられたというのはあながち間違いではないのかもしれないと思ってしまった。
魅力的な情勢であった問ことに関しては、異論はない。


・・・・まあこいつのことはどうでもいいや。
結局その「お宝」ってのは本当にあったのかい?


私は慰霊碑の周りを確認したが、特に荒らされた跡は見当たらなかったことをジャックに話すと「やはりそれは人をおびき出すための口実だったかもな」とあごに手を当てながら考えを巡らしている。


まずは赤い帽子の奴を見つけ出さねえと話にならねえな。
ペリム・・・は使い物にならねえな・・・ヴァ・ケビ! 溺れる海豚亭にいるイ・トルワンに赤い帽子の男の情報を集めさせろ。イエロージャケットには絶対に気取られるなよ。あの派手女に知られでもしたらすべてが台無しにされちまうからな!


ヴァ・ケビと呼ばれたミコッテの女は「わかった」と短く答えて敬礼すると、スッと暗闇の中に姿を消した。


あんたは一旦戻って明日の夜にまた顔を出してくれ。時間はねえが糸口ぐれえは掴んどいてやるからよ。


ジャックはそう言うと未だ夢見心地なペリム・ハウリムの尻を思いっきり蹴り上げると「いくぞオラッ!!」と言ってアジトの奥に消えていった。