FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第五十八話 「望まぬ結末」

終わったか!?


崖下に「人拐い」を追っていったジャックたちが戻ってくる。
しかし重い空気が流れる状況を察したのか言葉を詰まらせた。


ま・・・まさかぺリム・ハウリムの奴が・・・


ジャックはぺリム・ハウリムが横たわったままであるところを見ると、目をつむってグッと歯を食いしばる。


ちくしょう!! 土壇場になって女に惚れやがって、このマセガキが!!
だが安心しな・・・お前が守ろうとした人はちゃんと生きてここにいるぜ・・・
だから・・・迷うことなく成仏しなよ・・・
頼むから、迷ってシーソング慰霊碑のところに行くんじゃねえぞ・・・
なんせお前は陸の上で死んだんだからな・・・

そう言って胸に手をおいて空を見上げた。
目には涙のようなものが見え隠れしている。
どうやら上を見上げて涙が零れ落ちるのをこらえているのだろう。

(い・・・・言うべき・・・かな・・・)

私はペリム・ハウリムが死んでしまったと勘違いをしているジャックに、生きていることを伝えようか迷ったのだが、


ア・・・・アニキィ・・・・勝手に殺さないでくださいよ・・・・


いつの間にか意識が戻っていたのか、横たわるぺリム・ハウリムから弱々しい声が上がった。


ぺリム・ハウリム!!! この野郎!! 生きていたか!!


ジャックは遠慮も手加減もなくペリム・ハウリムい抱き着いた。
当のぺリム・ハウリムは「痛だだだだっ!!」と叫び声をあげ、激痛に耐えきれず再び気絶した。


あ・・・・あれ?

その子は蘇生に成功しただけで体の傷は回復していないわ。ご愁傷様。


ミコッテの女が気だるそうにそう話すと、ジャックは再び「ペリム・ハウリムぅ~!!」と叫びながら嘆いていた。
そんなジャックの肩をヴァ・ケビがポンポンと叩き、慰めると思いきや「ジャックが悪い」と追い打ちをかけていた。

まるで喜劇のような光景に張り詰めていた空気が若干和らぎ始める。
それでも、私の心は晴れることはなかった。

(あの少女は泣いていた・・・)

私は片目の少女が谷へと落ちる時、目から涙が零れ落ちるのをはっきりと見た。

 

その涙は、体中の痛みに耐えきれなかったからかもしれない。
その涙は、死を直前にして感極まっただけかもしれない。

しかし・・・

あの少女の懇願するような目。「死」という絶望に迫られながらも、少女の目は何か希望を見つけたかのように光っていた。

それに・・・

「私を止めたければ、みんなを助けてみなよ。」

弱々しい声で呟いたたったの一言。
あの言葉の意味することはなんなのだろうか・・・


私は少女が落とした本を拾い上げる・・・と、本の間から滑り落ちるように一つのペンダントが地面に転がった。

(???)

私はそのペンダントを拾い上げて装飾部を開いてみると、そこにはララフェルの少女と母親らしき女性が写った写真がはめ込んであった。


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しばらくすると騒ぎを聞きつけたイエロージャケットの一団が駆け込んできた。
ジャックは「ちっ・・・間に合わなかったか・・・」と呟いている。
ジャックとしては、イエロージャケットが駆けつける前にこの場を離れたかったのだろう。

ジャックは「はぁ・・・」とため息をつくと、イエロージャケットのリーダーに経緯を説明しはじめた。
すると「詳しい話が聞きたい」とのことで本部への出頭を依頼されている。
ジャックは快諾する(表向き)とこっちを振り向き「俺はここで起こったことがわからねえから、あんた達も来てくれ」と話を振ってきた。
正直、嫌疑をかけられている工房の一員である私が、イエロージャケットの本部に赴くことに抵抗があったが、確かに「人拐い」を追いかけて崖下へと降りていったジャックはここでの戦いの一部始終を見ていない。
ミコッテの女はというと、何とか歩けるまでに復調したようだったが「キッ!」とこちらを睨んだかと思うと不機嫌そうに「面倒だからあなたが全部説明して」と言って早々に歩き去ろうとしている。それをイエロージャケットの隊員が引き留めようとするが、ミコッテの女が何かを話すと途端に態度が変わり解放されてしまった。


(やはり私の戦い方がまずかったか・・・すごく怒ってたしな・・・)

戦いの最中に聞こえてきた罵声のような叫び声を思い出しながら私は青ざめた。
こっちとしてはミコッテの女に聞きたいことが山ほどあるのだが、

(行ってしまったし、なんか怖いので今回はやめておこう・・・そうしよう)

と問題を先送りする。ミコッテの女とはまたどこかで会えるだろう

(多分・・・・いや、きっと・・・)

私はミコッテの女のことを考えないようにしながらジャックの申し入れをのみ、イエロージャケットともにコーラルタワーへと向かった。

 

ふむ。

レイナーは私とジャックが一緒にいるところを見て、何処か満足そうに頷いている。
イエロージャケットの司令本部ある「コーラルタワー」に着くと、司令官であるレイナーと斧術士ギルドのヴィルンズーンが待ち構えていた。
気楽そうに入っていくジャックを、レイナーは溜息をつきながら出迎える。


応援が欲しいならもっと早くに行ってほしかったんだが?
人伝手でこっちに情報を流すとは、あいかわらず随分と面倒くさいことをする。

ははっ、もっと面倒な「後始末」をあんたらに押し付けたかっただけさ。
俺らにとって大事なのは「結果」だけだからね。
まあ取り逃がしちまったから偉そうなことも言えねえんだが、そっちにはとびっきりの「お転婆」がいるだろ?
あいつの耳に入ったらそもそも「作戦」どころじゃなくなるしな。


ジャックは軽い感じでレイナーに言い返す。
そもそもミコッテの女の登場とペリム・ハウリムの暴走によって「作戦」どころではなかったはずだが、まあ一部始終を見ていない人にとっては知りようの無い話ではあるし、黙っておこう。


時間がもったいねえからさっさと話すぞ。
まずは俺からだ。


ジャックは今回の「人拐い現場」の導入と、ジャックが追った「顔に入れ墨の入った集団」のことの説明を始める。
ジャックの説明によると、あの崖の下には小さな洞窟があり、顔に入れ墨のある連中はその奥へと逃げていったとのことだった。
赤い帽子の男に連れられてきた連中はその洞窟の途中で死んでいて、ジャックの推測によると

「逃げる際に足手まといとなるから口封じも含めて処分されたのだろう」

とのことだった。結局追いかけたものの途中で洞窟を爆破され、落盤によって道を塞がれてしまったとのことだった。


顔に入れ墨の入った集団・・・アイツらは間違いなく「海蛇の舌」の連中だろうぜ?
今回が「人拐い」の現場だったかどうかはなんとも言えねえが・・・誘導した奴も着いてきた奴らもすべて死んじまったからな。
だが、限りなく「黒」に近いグレーであることは間違いねえと思う。


私はジャックに「その中にバルダーアクスを背負った男はいたか?」と聞いたが「ん~・・・多分いなかったと思うぜ?」と答え、「じゃあ今度はお前の番だ」と話を促した。

私はジャックと語り手を交代する。
ミコッテの女が谷に消えていくのを見かけてジャックと共に突入し、現場に着くと妖異「岩のゴーレム」が現れた。
ミコッテの女を庇い、ゴーレムの攻撃によって絶命した双剣士ギルドの団員を蘇生している間、私は岩のゴーレムの討伐を請け負ったことを説明する。

ゴーレム討伐後、岩陰に隠れていた赤い帽子の男「セヴリン」を発見するも、いつの間にか現れていた片目の少女によって抹殺され、その少女との戦闘の末、少女は深い傷を負ったまま谷底へと落ちていったことを説明した。

「妖異を倒すたあ、ちょっと見ないうちに随分と成長しているじゃねえか!」とウィズルーンは感嘆の声を上げる。私が「以前戦ったことがあるだけさ」と返すと「模擬仕合で秒殺された奴とは思えねえ」と笑っていた。

私は、レイナーに少女が持っていた本を手渡す。


これは・・・魔導書か?


私はその少女が、これを使って幻獣を使役していたことを伝えた。
レイナーはその魔導書を見ながら何かを考え、思い至ったような表情に変わる。

・・・・その話が本当だとすると、そいつは「幻光の影法子」かもしれない。
実はここ一年間の間で暗殺事件が増えているんだ。
殺された奴の多くは「闇」に手を染めたものがほとんどだからあまり表ざたにはなっていないが、殺人現場の近くで「幻光に照らされる影」を見たという目撃情報からそう名付けられている。
「実際うちのもんもそいつに結構やられてんだよ・・・」とジャックは付け加えた。

(ヴァ・ケビがあの片目の少女に容赦がなかったのはそれが理由か・・・)

私はその少女が「片目」であったことをレイナーに伝え「連絡船の生き残りか」と言う問いに動揺していたことを話す。
それを聞いたレイナーは、思考が追い付いていないのか目をしばたかせながらしばらく沈黙したのち、

なに!!

と大きな声を上げた。
驚きで固まるレイナーに自分の考察を伝える。

ミリララが保護し、エールポートで消えたという少女は「人拐い」の仲間ではなかったのかと。
そして何かしらの理由で逸れ、仲間と合流するためにイエロージャケットを騙したのではないかと。

私の推論を聞いたレイナーは、ハッとした表情をしながら顎に手を当てて頷いた。


確かに・・・それなら色々と説明がつく。
その少女はリムサ・ロミンサのエーテライトプラザで保護された。
船の残骸が打ち上げられたコスタ・デル・ソルではなく、だ。
またミリララの報告によると、血だらけの体には「傷一つなかった」とのことだった。
そのあまりにも不可思議な状態で見つかったことから、我々はその少女を「特別な者」と決めつけたんだ。
今にして思えば、もしその少女が「特別な者」だったとすれば「片目が直っていない」のは不自然だ。
もちろん先天的なものであるという可能性もあるが、片目が見えないことに異常に反応していたところを鑑みれば、君の推論の方がしっくりくるのは確かだ。

要はそのゴタゴタのうちに「失明した」と。

私はレイナーの話を聞きながらしきりに出てくる「特別な者」という言葉が気になり質問してみる。


ん? 特別な者か?
ああ、それはここリムサ・ロミンサで存在が噂されている「星の加護を受けた不滅なる存在」のことだ。
霊災時に活躍した「光の戦士たち」もまたそうであると言われている。
母なるエーテルの海に溶け込むはずの魂は、そこ戻ることなく再びエーテルの地脈より現出し、朽ちるはずの肉体はクリスタルの力借りて健全である「記憶」のままに復元される・・・と言われている。

まあ実際のところ、都市伝説に近い話ではあるのだがな。


レイナーの説明を聞いて私の胸がドクンと波打つ。


(そうだ・・・私もまた、死から戻された者・・・)


どうした? 顔色が悪いぞ?


突然言葉を失う私を心配してレイナーが声をかけてくる。
私はレイナーの話を聞いて少女が「特別な者」である可能性を否定できなくなった。
その理由は私の中で引っかかり続ける少女の吐いた言葉の意味。

あれは「死ぬことのできない呪い」を知っているからこそ出た言葉ではないのか。

(私を止めたければ・・・)

それは死を前にした者が言う言葉ではない。
少女にとってそれは「終わり」ではなく「まだ続く」ということではないか?
逃れることのできない「不滅」の鎖。
少女の言葉は、それから解放されることを望む「叫び」ではなかったのか?
なんにせよ、その後に続く「みんなを助けてみなよ」という言葉の意味を調べる必要がある。

(もっと知らなければならないな・・・)

私は少女のことをミリララに聞きたいとレイナーに願いでた。
するとレイナーは明らかに動揺した様子で、


こ、このことをアイツに話すのか?
確かにいずれは知ることになる話ではあるが、まだ件の少女がその子だと決まったわけでもないし・・・


あからさまに躊躇するレイナー。
静観を決めていたジャックでさえも「それはさすがにやめておいた方がいいんじゃねえか?」と忠告してくる。
確かにただでさえ暴走するあの女隊員に「少女は人拐いの仲間です」と言ったら逆上されなにをされるかわからない。
だが・・・あの少女を知る人物はミリララの他にいないのも事実。
ほんの少しでもいい。何か手掛かりになることだけでも情報を得られればいいのだ。
一対一で会うわけでもないし、さすがに殺されはしないだろう。

私は覚悟を決めて懐からペンダントを取り出し、レイナーに見せた。


そ・・・それは・・・あの子が持っていたペンダントじゃないか!
それをどこで!?

私はこのペンダントが魔導書にはさまれていたと説明する。

あの少女は確かに「顔に入れ墨のある集団」と行動を共にしていた。
だがあの少女の顔には「入れ墨」が入っていなかったのはどういうことか?
少女は私の問いかけに「何も知らないくせに!」と感情を露わにし、谷へと落ちる間際に言葉を遺した。
とすれば、その少女は「顔に入れ墨のある集団」に組しなければならない、何らかの事情を抱えているのだろう。

レイナーは私の訴えにしばらく沈黙し、

この件は日を改めよう。あいつはまだ謹慎中の身でここにはいない。
準備が整ったら連絡するよ。

としぶしぶではあったが了承してくれた。