FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第六十二話 「巨躯の影」

(しまった……)

決意を新たにして工房を出たはいいが、そういえば双剣士ギルドと連絡を取る手段がわからない。

(確かジャックはアジトを変えたと言っていたが……とりあえずあの倉庫に行ってみるか。)

私はエーデルワイス商会の倉庫であり、双剣士ギルドのアジトがあったところへと向かった。

 

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やっぱりだめか。

倉庫は閉まったままでいつも立っている門衛の姿もない。
海蛇の舌によって暴かれたアジトをもう二度と使うことはないのだろう。
向こうからの接触が無い限り、私は双剣士ギルドを頼ることはできなさそうだ。

そうだ、溺れる海豚亭のバデロンなら何か知っているかな。
あそこは冒険者ギルドでもあり、町中の噂話が集まる酒場でもある。
噂程度でもいいから、何か情報が得られるかもしれない。

私はそう思い至って街の方に戻ろうとすると、ふと船着き場に一人の少年が船に乗り込む姿が目に付いた。
その少年はどこか見たことのある気がするが、顔をきちんと確認することができずに船は出港してしまった。

 

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よう! 活躍は聞いているぜ!

私の姿を見つけて開口一番にうれしそうな顔で笑っているバデロン。
私は少し照れながらも「それほどでもないさ」と答えると「この街にゃ似合わねえセリフだな!」とトゥビルゲイムみたいなことを言ってきた。
「なんか飲むかい? 最近いいワインが手に入ってね。」と勧めてくるバデロンに「商人をしていた男と巴術士ギルドの女夫婦のことで何か知ってることはないか?」と尋ねてみた。


んん? なんだ突然藪から棒に。
そんなこと俺が分かる訳ねえじゃねえか。
なんだ? もしかしてあの件に絡んでるのか?


私は少し言いよどむ。
確かに「人拐い」を追いかけてたどり着いたものではあるが、この件に関してはどちらかと言えば別件に近い。
私は少しあいまいに「そうだ」と答えると、


次から次へとあんたも大変だな?
工房に戻らなくていいのかい?
親父さん、口に出さないけど随分と心配しているようだったぜ?


とバデロンは溜息をつきながら私に言う。私は「さっき顔を出してきたよ」と答えると「そうかそうか・・・」と頷いていた。

(少し情報が足りないか)

私はトゥビルゲイムが話した内容を思い出しながら「その夫婦の子供が、母親に殺されそうになったって事件なんだが」と話すと、バデロンは少し考え込んで、


ああ、あったなそんな話……
でも、たしか随分と前の話だぞ?
それこそ10年以上前だったような……


私はバデロンにそのことについて思い出せる範囲でいいから教えてほしいと聞いた。


ああ・・・だがうわさ話程度だからあんま信用するなよ。
確かそいつらは再婚した夫婦で旦那には連れ子がいてな、母親は自分の子ではない連れ子を嫌っていたらしい。
でだ、旦那との間にやっとできた子供が死産してしまったらしく、ショックで気の狂った母親が連れ子を包丁で刺し殺そうとしたんだよ。
たまたま居合わせた「バラクーダ騎士団」の連中が止めに入ったから未遂では終わったんだが、その後に母親はどっかに消えちまった。
結局旦那の方も不法な闇取引に手を染めて、殺されちまったんだ。
孤児となった連れ子はどこかに引き取られたって話だが・・・・それ以上のことは分からねえなあ。
ただ、あんとき今のイエロージャケットの奴らが対応してようだから、そっちに聞いた方がはやいんじゃねえか?


バデロンの持っている情報はトゥビルゲイムの情報とほぼ同じ。
だが、それにイエロージャケットが関与していたというのは新しい情報だ。レイナーに聞いてみよう。
私はバデロンに「ありがとう」と感謝して酒場を出ようとすると、


なああんた!
そういえば確かウルダハから来たっていってなかったか?


ふとバデロンに呼び止められる。
私は「以前にいた」と答えると「じゃあベスパーベイからの船に乗って?」と聞いてくる。
私は言い淀みながら「そうだ」と答えると、


いやね、エーデルワイス商会のウィスタンから話を聞いたんだが、あんたウルダハでアイツの命を救ったらしいじゃねえか。
銅刃団の奴らと岩の化け物を一人で退けたってね。
アイツも色々と訳ありのようなんだが、ウルダハってのはそんなに物騒なのかい?
まあ・・・物騒さ加減では最近のリムサロミンサも負けてないと思うけどね。


私はバデロンに対して、ウルダハは王室よりも豪商の方が権力を握っていて、少しでも障害となりうる存在が出ると「抹殺」されると説明する。
ウィスタンは元々ウルダハの不公平な商取引を変えるため、一山あてようと躍起になっていたが、結局目を付けられて始末されそうになっていた。
その場にたまたま出くわして、私は助けただけだと説明した。


権力の集中ってのは怖いもんだな。
まぁこのリムサ・ロミンサは逆で権力が分散しすぎてうまく連携が取れないのも問題だけどな。
そう言えば、半年ぐらい前に「剣術士だけが狙われる」という変な事件が起きていると噂が出ていたが、なんか知っているか?
前職は剣術士だったって言ってたよな。
あんたも狙われたのかい?

私はバデロンに剣術士ギルドと共にその鎮圧に参加していたことを話す。
あまりしゃべりすぎるのもまずいかと思ったが、相手は冒険者ギルドのギルドマスターだ。
不用意に口外することはないだろう。


ほう、剣術士ギルド……ね。
そうかそうか! やっぱりあんたは「資質」を持っているのかもしれねえな!
もし仕事が欲しければ俺に気軽に相談しな。

いまリムサ・ロミンサは揺れている。
あの件も含めていろんなことに冒険者の応援が求められているんだ。
山ほど仕事はあるから遠慮はするなよ!


とバデロンは笑っていた。
ふと酒場の中にイエロージャケットの面々が駆け込んでくる。
そして息を切らしながらバデロンのところに着くと「話し中すまない。ここに小さな男の子が迷い込んだ入りしていないか?」
と聞いていた。


小さい男の子?
いや、見かけねえな。
どうした?

レッドルースター農場からリムサ・ロミンサに来ていた子供がいなくなってしまったんだ。
保護者の老人がちょっと目を離したすきに消えたと言っている。

そうか・・・
なんなら冒険者にも捜索をお願いするかい?

あぁ、頼む。
子供の人相と格好はこんな感じ……


バデロンとイエロージャケットの男との会話を聞いていた時、私はハッと思い出した。
そう言えば、ここに来る途中に少年が一人で船に乗り込む姿をみかけたのだった。
今思い返してみれば、工房の仕事でレッドルースター農場に農具の納品に行ったとき、そこであった少年に似ているかもしれない。


私は二人にそのことを話すと、


なんだと!?
……まずいなそれは。
船着き場から出ているとすれば向かった先はエールポート。
とすると……少年は集落へと向かったか!

なんだなんだ?
何が起きたんだい?

いや、その少年は老人と共に斧術士ギルドに赴く予定だったんだ。
問題となっている老獣「クジャタ」の件を聞くためにね。
その少年は先日クジャタによって壊滅させられた集落の唯一の生き残り。
クジャタの討伐の為少しでも情報が欲しいがためにご足労いただいたんだが……


困り果てたイエロージャケットの男を見て、バデロンは私に、


なああんた。
もし時間があるんだったら先行して少年を追っかけてもらえねえか?
これは正式なギルドからの依頼だ。
ちゃんと金は払う。次のエールポート行きの船の出向まで時間があるから、チョコボポーターを利用して向かったほうが早いだろ。

お願いできるか?
エールポートから北に上がったところにその少年が住んでいた集落があるんだ。
今はもうクジャタの来襲によって壊滅しているが、老人の話だと少年はクジャタに会いたがっていたらしい。準備が届き次第、我々も念のため斧術士ギルドのメンバーを連れてそちらに向かうよ。


そう言って頭を下げてくるイエロージャケットの男。
私は頷いて、急ぎエールポートへと向かった。

 

 

チョコボポーターを利用してエールポートに着くと、私はまずは船着き場へと向い水夫に話しかけて少年の目撃情報を洗うことにした。
運のいいことに初めに話しかけた水夫は少年のことを知っており、集落の生き残りがいたことにとても驚いて、思わず声をかけたそうだ。

少年は「集落に戻って大事なものを取りに行く」と言っていたらしい。
「危ないから一人ではいかないほうがいい」と止めたが、忠告を無視して少年は集落へと向けて走っていってしまったとのことだった。

水夫の話では少年のいた集落はコボルド族の勢力圏の近くにあり、詳しい場所が知りたければその手前にある廃村に住み着いている「猟犬同盟」という元海賊連中に聞いてくれ、とのことだった。

 

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エールポートからしばらく北に向かうと、あたりには木々が増え出し森林地帯へと変わっていった。
その木々に隠れるように、人が住んでいるとは言い難いようなあばら屋が点在する集落を見つけた。
気の木陰から中の様子を伺うと、情報通り海賊服を着た者達がたむろしていた。
私は一度深呼吸をして集落の中に入り、作業指示をしている海賊の男に話しかけた。


あん? 男の子供を見なかったかって?
おいお前ら、ここいらでガキを見たか?

他の者は「いや? 見なかったが」と言って首を振っている。
私はその男に事情を説明する。


なに? そいつ、あの集落の生き残りなのか……
可哀想に……
俺らはその集落の奴らに「危ねえから場所を変えたほうがいい」と何度も忠告したんだがな。
コボルド側の土地に盗掘に入る奴らを見張るからと言って聞かなかったんだよ。
助けてやりたかったんだが、そん時は俺らもクアール共に襲われていたからな。

そう言ってその男は周りを指さした。
確かに掘っ立て小屋のような建物には大きく傷がついていて、まるで戦場のような雰囲気だった。


こちとら腕っぷしに覚えのある連中ばかりだから、ヴィルンズーンの旦那から近隣の獣退治とコボルド族の撃退を請け負いながら生計を立ててんだ。
もちろんあの集落も含めてな。
だが、まさか同時に襲われるとは思いもしなかったぜ……
こっちは何とか撃退できたが、戦い慣れてねえ奴しかいねえあの集落はひとたまりもなかっただろう。

ここは元々「プアメイドミル」と呼ばれていた集落跡だ。
魔物や蛮族が跋扈するここらで働く木こりたちは、すぐ行方知れずになる。
そして残るは、貧乏な未亡人だけ……
だから「貧乏女の製材所」なんて不吉な名で呼ばれている。
それほど危険なとこなんだよ、このあたりはな。
最近じゃクアールの王どころか、この奥にある「愚か者の滝」にバカでかい怪鳥まで現れやがった。
ジャッカル共も騒がしいし、コボルド共は盗みに来るしで治安がさらに悪化していたんだよ。


やれやれといった表情で話す男。
私は危険と分かっていて何故ここに住み続けているのかと聞いてみると、


簡単な事さ。行き場所が無いんだよ、おちぶれ海賊団にはね。
俺達「猟犬同盟」と言えば、一時期は黒渦団を凌ぐ規模を誇っていた海賊団だった。
だが意見の対立、考え方の相違もあって内部抗争が激化。
それに加えて第七霊災ん時に全ての船を失って「猟犬同盟」は崩壊した。
かなり派手なことをして来ていたからな。自ら崩壊の道をたどった俺らをみんなあざ笑った。
ここに集まった連中は「猟犬同盟」を復活させるという目標に意を共にした者達だが、どこにも居場所なんてなかったよ。

確かに、メルヴィブ提督による霊災後の入植地開拓に乗っかるのも一つの手だったが、うちらはみんな自由を縛られるのが嫌でね。
だからと言って、海賊団まるまるが移り住めるところなんて中々ねえから、第七霊災の混乱で廃村となったここに移り住んだんだ。
もちろん提督の許可は取ったぜ?
金が溜まったらまた船を買って海に戻るつもりだったんだが、獣や蛮族以外に干渉の無いここは思いのほか居心地がよくてね。
俺らはこのまま陸に移り住むことを選んだのさ。

確かに、ここにいる海賊団の団員たちはサマーフォード庄の海賊とは違い、今の生活を受け入れているかのように各々黙々と働いている。
リムサ・ロミンサにはイエロージャケットや黒渦団がいるが、辺境の地の守護まで手が回っていない。
その部分を実戦に強い海賊団が補うことで、穴を埋めているのだろう。
私は改めて男に集落の場所を聞くと、

正直、ガキ一人
がフラフラあるけるところじゃねえからな。
集落の生き残りってことは、おそらく森の中の「抜け道」を使った可能性が高い。
ただ、それでも早く保護しねえと命の保証はねえ。
今日は特に獣共がざわついてやがるしよ。
おい! 何人かついてこい!


とその男が声を上げると、猟犬同盟のメンバーの数人が駆け寄ってきた。


なに? 狩りに行くの?


男の声に反応するように背中に立派な斧を担いだララフェルの少女も近寄ってくる。


ん? これから木こりの集落跡にガキを探しに行くが、お前もついてくるか?

なんだ、子供のおもりか。じゃあいい。


そういってがっかりした様子でララフェルの少女は岩影に座ると、誰もいないところを眺めながらぶつぶつと呟いていた。

海賊の男はやれやれといった表情で「アイツはああいうやつなんだ」と苦笑いしていた。


あんた一人じゃ大変だろうから俺らもついていってやるよ。
救えなかった集落へのせめてもの弔いだ。


私は「助かる」と言って先行する猟犬同盟のメンバーと一緒に集落へと向かった。


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集落につくと、無残に壊された建物の残骸がいたるところに転がっていた。
木造とはいえ、まるで踏みつぶされたかのように家らしきものがぺしゃんこになっている。

(いったいどれだけ大きな獣なのだろうか)

「よし、手分けして探すぞ!」と海賊の男が号令をかけると、散開して少年を探す。
ほどなくして猟犬同盟の男が少年を見つけた。


いましたぜ!

やめてよ! はなしてよ!!

おい! 大人しくろよ!! あんまり騒ぐと獣が寄ってくる!!

僕はクジャタに会うんだ! 会わなきゃダメなんだ!!


何とか取り押さえた猟犬同盟の男の腕の中でじたばたと暴れる少年。
私は少しほっとしながらも、緊張がゆるむことはない。
一度破壊しつくされた集落だ。クジャタが再び襲ってくるとは思えないが、声に釣られて他の獣が現れないとは限らない。

早く移動しないと……

そう思った時、猟犬同盟の男が顔を真っ青にしながら呟いた。

おい、やべえぞ……

ふと耳に何か地鳴りのような音が聞こえた。
木々をへし折るような音。そして、

ォォォォォォ……

という咆哮が聞こえてきた。


おいおいおい!
まじかよ!?
早くずらかるぞ!!


慌てて駆け出す猟犬同盟の男。
私は取り押さえている男に駆け寄り、必死に抵抗する少年の手を掴もうとした。

痛だッ!!

少年は掴んでいた男の手の甲を噛み、取り押さえていた男から逃げ出してしまう。
私は少年を掴もうと必死に手を伸ばしたが、うまくかわされてしまい、つんのめって前に転んでしまった。


馬鹿野郎!! 死にたいのかっ!


少年は叫ぶ私たちのことを一瞥すると、ぐっと唇を噛みしめて森の中へと走って消えていった。


くそッ 逃げるぞ!!
ガキのことはあきらめろ!

そう言って逃げ出す男に、私は「俺は後を追いかける!」と言って少年の後を追った。
後ろから叫び声が聞こえるが、無視して私もまた音のする方へと向かって森の中を走り抜けた。


少年を追い森のなかをがむしゃらに走ると、突然開けたところにでた。辺りを見渡すと少年の姿もある。目の前には高い崖があり、少年はその上を見上げていた。
わたしは少年のところに歩みより、見ている先へと視線を移動させた。

(!!!!?)

崖の上には、ひとつの巨大な塊がこちらを見下ろしている。
まるで巨石のような体躯と、体中を覆う長い体毛。
その隙間から覗く小さな瞳が、しっかりとこちらを捉えていた。

私は慌てて子供を抱きしめて、ゆっくりと後退する。
しかし少年は私の手の中から出ようと暴れながら、


クジャタ!!
ごめんなさい!!
聖域を侵したのは僕たちだ!
ずっと守ってくれてたのに。
山の恵みを僕らに与えてくれてたのに。
裏切ったのは僕たちだ。

謝るから……

だから……

だから泣かないで!!


少年は涙で顔をグシャグシャにしながらも必死に叫ぶ。
集落を潰されたはずなのに、
親を目の前で殺されたはずなのに、
決してクジャタを恨むことなく
むしろ必死に謝っている。

それは多分、クジャタの流す涙のせい。

確かに私の目から見てもクジャタは泣いているように見えた。
何かに縛られているように体を硬直させ、
ジッとこちらを見ている。
その目を見ているとふと、あの片目の少女の目と重なった。

助けてほしい……

そう、懇願しているようにも見えた。
しばらくしてクジャタは咆哮を上げ、巨体を揺らしながらゆっくりと崖の奥へと去っていった。

ここからではもう後を追うことはできない。
崩れ落ちて泣きすさむ少年の体を抱きしめながら、私はふと崖下に一つの「死体」が転がっていることに気が付いた。

あれは……コボルド
なぜこんなところに……
まさか、コボルドを殺された復讐のためにクジャタは現れたのか?

そんなことを考えていると「大丈夫かー!!」と叫びながら、斧術士ギルドのメンバーと猟犬同盟の者達が駆け寄ってきた。