FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第六十三話 「捕縛」

……ああ、わかってるさ。
準備は滞りなく進んでる。

………

そっちの方はどうなんだ?
完成は近いのか。

………

そうか、そんなら問題ないな。

………

召喚のタイミングは知らせるようにする。
近いうちにどちらかが先に動く。
だからあんたらは安心して海都を襲いな。

じゃあな。

 

さて……


辺りを見回すと無数のコボルド族の死体が転がっている。
そしてそれを見下ろすように、一体の巨躯の獣が物静かに立っていた。


黙って取引に応じればいいものの、抵抗するからこんなことになるんだぜ?


死体の一体を無遠慮に蹴り飛ばし、崖の下へと突き落とした。
それを巨躯の獣は動くこともできずに見守っている。


まあこれでこっちの準備も整ったようなもんだな。


同胞を殺されたことで、コボルド族の怒りも最高潮になる。
まさか自分達の信奉する「神の使い」に殺されるとは思っていなかっただろうが。
この中に盗掘者たちの死骸も混ぜておけば「誰に殺された」のか勘違いするだろう。

嵐を感じさせる湿気を帯びたモヤモヤとした風が体に吹き付ける。
これからバイルブランド島には大きな嵐が訪れる。
それは人族・蛮族、そして蛮神すべてを巻き込む大きな嵐。
そして、その嵐を吹き飛ばすほどの「巨大な力」によって、

この穢れた大地は焼き尽くされるのだ。


リヴァイアサンの召喚が先か、

タイタンの召喚が先か、

それとも、リムサ・ロミンサの壊滅が先か、


たまらないねぇ


この先に待っている展開が楽しみすぎて、にやけ顔が止まらない。
脚本もなく、筋書きもない。
あるのは役割を与えられただけの演者達。
各々が目的を達成させるために考え動く「演劇」ほど、楽しいものは無い。
何が起こるかわからない群像劇の結末を知ることはできないが、知らないからこそ娯楽たりえるのだ。


ん? アイツは……

人の気配を感じて身をかがむ。
岩陰に隠れるようにがけ下を見ると、そこには子供と一人の冒険者の姿があった。
二人は巨躯の獣を仰ぎ見るように見上げている。

おいおい……
ここにきてのご登場とは、随分と盛り上げてくるねぇ……
あの男は今回の演目において「脇役」でしかないが、俺だけが楽しめる余興ってのは特別感があっていい。

せっかくこいつもいるんだ。アイツが言っていたことが本当かどうか試したいところだったが……
楽しみは取っておいてやらなきゃねえな。
そっちはそっちで楽しい「劇」となりそうだ。

もったいねえだが、お前にはもっとふさわしい舞台で「踊って」もらうぜ。

命拾いしたな。

 

そう言って懐から「笛」を取り出して吹く。
その笛の音は人の耳には聞こえない。
すると動けずに固まっていた巨躯の獣は咆哮を上げ、ゆっくりと森の中へと戻っていく。

子供が何かを叫んでいる。

必死に、
それはもう必死に、
何かを訴えるように、
何かに懺悔するように、
ポロポロと涙を流しながら、
喉を擦切らすほどに叫んでいた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


私は「黒い入れ墨の男」の指示を受けて、リムサ・ロミンサに潜入していた。
目的は「断罪党」と呼ばれる海賊団のメンバーと密会すること。
海賊団から「準備」の進捗を確認し、報告することが今回の「仕事」だ。
冒険者が生きていることを報告したあと、黒い入れ墨の男は随分と慎重になっている。

だったらもっと見つかりにくいところにすればいいのに……

そう思う私ではあったが、黒い入れ墨の男いわく、

「今はリムサ・ロミンサが一番安全」

らしい。
私は指定された船に乗り込むと、船室の奥へと通された。
そしてそこには、海賊と思わしき男達が集まっていた。


あんたが「海蛇の舌」の使いか?
まさか子供だとは思わなかったぜ。

おい、大丈夫なんだろうな?
こんな小娘が代表で来るなんて、随分うちらもなめられたもんだな!
異端の海蛇さんよ!


一人の海賊の男が不機嫌そうに声を上げ、私のことを睨み付けてくる。
私はそれに意を返さず、

御託はいい、進捗を説明して。

と話を即した。
その態度に怒った海賊の男は、


生意気なガキめ! 躾けてやる!!


と叫びながら飛びかかってくる。
私は海賊の男の攻撃をひらりと避けて、首元にナイフを突きつけた。
そして各々の武器を手に取る他の海賊たちにナイフをばら撒き、


先を急ぎたいのなら「送って」あげるけど。
どうする?


と忠告した。


ナイフを突きつけられた海賊の男は小さく「すみませんでした……」と謝り、他の男たちも無言のまま武器をしまった。

(うん、躾けは完了かな)

私は心の中でそう思いながら、ナイフをしまうと、再び海賊の男連中に「進捗」の確認を行った。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

私はアジトで黒い入れ墨の男に「海賊」連中から聞いた話を報告する。


まずヴィクトリー号の件だけど、火薬の調達はほぼ完了しているって。
ただ、安全に仕掛けるには「協力者」が必要って言っていたけど。

ああ分かった。
それはこっちでやるから、お前らは突撃の用意だけをしておけと言っておけ。

分かった。
あとスウィフトパーチの方は、一時的にでもいいから近くにいるドードーを何とかしてほしいって。
アイツらに騒がれると気が付かれる可能性があると言っていた。

たく……面倒くせえなあ。
ドードーの処理は俺の管轄外なんだが……
そうだ、ドードーの処理をスウィフトパーチの警備の奴らに任せるか。
確か今は産卵期だったな。
卵を割っちまえば騒ぎ出して混乱するだろう。
一石二鳥って奴だな!
そっちの作戦にはこっちからも人を出そう。
混乱に乗じて何人かさらえるかもしれねえ。
そう伝えとけ。

うん。
あと黒渦団の軍艦についてだけど、不審船を装って接舷させて爆破するっていってた。
あと「もし可能だったら船を奪ってもいいか?」 っていってたけど。

なんか失敗しそうな匂いがプンプンするな。
まあ俺らではどうしようもねえし、こいつに関しちゃサハギン族共に追加で援護をお願いするしかねえ。
代理に土下座してでも確約してこいって尻叩いてやるか。

あと最後に、
リムサ・ロミンサについてだけど「組み立て」は全部終わってるって。
ただ、すごく大きくて重いから荷物にまぎれて置いておくことはできないんだって。
今は倉庫に隠してあるから、実行の時は移動が必要と言っていたよ。

しゃあねえか。まあそのための「陽動」ではあるしな。
この作戦の鍵は如何に「リムサ・ロミンサ」を空にするかだ。
各地で起こる襲撃はすべて陽動。
狼煙を上げるからお前は見晴らしのいいところで動向を伺え。
そしてリムサ・ロミンサの街中が手薄になったところを見て断罪党の連中と設置しろ。

あと、そいつは時限式ではないからな。
スイッチポン、即ドカンだ。
だから設置が完了したら、速やかに実行しろ。
海賊共の退避を確認する必要はねえ。

お前が自分の手で「爆破」させるんだ。

いいな。

・・・・わかった。

 

 

 

泣き崩れたまま動かない少年を斧術士ギルドのメンバーに任せ、私はコボルドの亡骸の前に向かった。
私の後をついてきた猟犬同盟の男も「何だこりゃ!?」と声を上げた。
「これ、あんたがやったんじゃねえよな?」と聞いていくる。
私は「違う」と答えると「だよな。これは踏みつぶされたような死に方をしてる……どういうことだ?」と首をかしげている。
私は猟犬同盟の男にここで起こったことの顛末を話した。


崖の上にクジャタが?
マジか……
あそこに行くには迂回しなけりゃならねえんだが、しょうがねえ。
危険を承知で行ってみるか。
あんたもついてきてくれ。

私は頷くと、猟犬同盟と斧術士ギルドのメンバーと共に崖の上へと向かった。


~~~~~~~~~~~~~~~~


な……なんじゃこりゃ……

崖の上に広がる光景に、私たちはみな言葉を失った。
そこには、無数の死体が転がっていた。
それも10や20では効かないほどの数のコボルドの死体。
その中に紛れるように、盗掘者と思わしき人族の死体も混ざっていた。
そのどれもが、踏みつぶされたり、大きな力で跳ね飛ばされたような死に方をしている。


まさか……これ、クジャタがやったのか?


猟犬同盟の男が思わず声を上げる。
驚きを隠せないという表情で、凄惨な光景を眺めながら、


でもなんでだ?
コボルドはクジャタにとって仲間みたいなもんだろ?
なのにこんなことになるなんて、なにがどうなっているんだ?
仲間割れってこと、なのか?


斧術士ギルドの男は盗掘者の死体を確認しながら、


死体の中に盗掘者が混じっているところを見ると盗掘者を追い詰めたか?
しかしそれではコボルドも殺されていることの説明がつかんな。コボルドも盗掘者も死因は似たようなものだ。であればこのコボルド族の連中が盗掘者共々密会しているところをクジャタによって殺されたのか?

コボルド族の奴らにも裏切者がいるということか?
確かにコボルド族には「序列」があると聞いたことがある。
序列下位の落ちこぼれ連中は罵られて住処を追われるらしい。
だから人里を荒らしたり商人を襲って略奪に手を染めて、盗んだものを献上して序列をあげるらしいが……

敵であるはずの人族の盗掘者と組んで何のメリットがあるんだ?

う……それは分からん。
だが、この状況は非常にまずい。
これが他のコボルドに知れたら、確実に奴らは怒りに震えるだろう。蛮神召喚という最悪の事態だけは避けねばならん。

処理を急がなければ! 協力を頼む。

分かった! うちの者を総動員させる。
おいお前! 至急プアメイドミルにいる仲間の元に伝達に走れ!

私もここを動くわけにはいかないか…
冒険者よ、頼みがある。
少年を連れてエールポートまで戻り、イエロージャケットに応援を頼んでくれ。
少しでも人手が欲しいと伝えてくれ!

私は頷き、少年を背中に背負い急ぎエールポートまで戻る。
少年は泣きつかれたようで、背中で寝息を立てながら寝ているようだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


エールポートに着くと私はイエロージャケットに声を掛け、クジャタに襲われた村まで応援が欲しいと伝える。
イエロージャケットの男は不思議そうな顔をしながらも詰所に向かい責任者らしき男と話をすると、焦った顔をしながら数人をかき集めて村の方に走って行った。
私は保護した少年を椅子の上におろし、イエロージャケットの男に「この少年が目を覚ましたらレッドルースター農場まで送ってやってくれないか」と頼むと「分かったと」言っていまだ眠る少年に毛布を掛けてベッドへと移動させた。

私は近くにある椅子に座り考え込む。
人里を襲うクジャタ。
ここリムサ・ロミンサではそういう評価となっているが、私はあの獣が悪さをするとはとても思えなかった。
村を壊滅させられ、両親を殺されたはずの少年の思い。
討伐することを拒み、ただただ会いたいと懇願していた。
恨みにのまれることもなく、ただひたすらに謝っていた少年の姿。
そして、涙を流すクジャタの姿。

必ずなにかの理由があるはずだ……
クジャタもまた何かに縛られている。

私にはそうしか思えなかった。


黙考をしている私の元に、先ほどとは違うイエロージャケットの男が駆け寄ってくる。


なぁ、あんた。申し訳ないが上からあんたを「捕縛」しろとの命が出ているんだ。おとなしくしててくれよ。


そう言って突然私の手を後ろ手に回し、縄で縛りあげた。

!!!!?

突然のことに驚きながら、
私は「何をする!」と言って暴れたが、
いつの間にか周りを取り囲んでいた複数の男に取り押さえられ、私は床に組み伏せられた。

そして何かを嗅がされると、次第に意識が遠くなっていく。

く……そ……

薄れゆく意識の中、目を覚ました少年が怯えた目でこちらをジッと見る姿見えた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

目を覚ますと、私は椅子に座らされていた。
手は椅子の背板に括り付けられ、足も縛り付けられている。


ここは……どこだ?


気がついたかい。
いやいや、手荒な真似をして申し訳なかったな。

レッドルースター農場の少年救出、ご苦労様だった。
そんな功労者に随分と無礼なことをしていると分かっちゃいるが、

これも仕事なんでね。


そう言って姿を現したのは、
双剣士ギルド、ギルドマスター。
ジャック・スワローだった

 

手荒な真似してすまねえな。
おい、縄を解いてやれ。


ジャックがそう言うと、ぺリム・ハウリムが私の手を縛っている縄を切る。
私は自由になった手をさすりながら、ジャックに説明を求めた。


あれはパフォーマンスって奴さ。
実はあんたにはいろいろと嫌疑がかかっているんだ。
他の奴らにとっ捕まるよりゃ、顔見知りの俺らの方がましだろ?


そう悪びれもせずに言ってくる。

(嫌疑? 何のことだろう? まだ人拐いの仲間を疑われれいるのだろうか)

私は自分の置かれている状況が全く把握できずに「なんのことだ?」とジャックに問い返した。


それを今からあんたに聞くのさ。
正直に話をしてくれればいい。
NOは無しだ。すべて答えてもらうぞ。


そう言ってジャックは厳しい顔を私に向けた。


なああんた、ウルダハで冒険者していたんだろ?
なぜここリムサ・ロミンサに来たんだ?


あまりにも直球な質問をされて私は押し黙る。
それをジャックは見逃すことなく、


口ごもるということは言えねえ理由があるのか?
まっとうなことをしてきているのなら、別に隠すことはねえはずだ。
ならこっちの掴んでいるあんたの情報を教えてやるよ。
ウィスタンの奴から色々聞いたが、あんたをこちら側で出迎えたのはアイツだったんだな。
前にウルダハの豪商に嵌められたっていってたな。黒い入れ墨の男に片目の少女とその時に会っているってね。
それが原因でこっちに流れてきたんだろ?


私はジャックの問いに静かに頷く。


ウィスタンの奴は助けられたよしみでこっちの働き口を紹介したようだが、ウィスタンにあんたの受け入れを依頼をした「商人」は姿を消していた……というより、初めから存在しなかったよ。
ウィスタンには色々問い詰めたが、どうやらアイツもそれ以上は知らないようだ。
だから、そっからのことをあんたの口から聞かせてもらう。


ジャックの目は本気だ。
なぜこのようなことになったのかはわからないが、私が押し黙れば押し黙るほど状況は不利になりそうだ。
私はジャックに、

ジャックの言う通り、私はウルダハの誰かに嵌められこのリムサ・ロミンサに逃げ込んだこと。
詳しく話せないのは、リムサ・ロミンサにいることがバレてしまうと追手が来るかもしれないということ。
そして私をウルダハから脱出させ、リムサ・ロミンサでの生活の手配をした人物については面識もなく、私も分からないと説明した。


う~ん……
とすると、あんたはウルダハじゃお尋者ってことだな?
じゃあ聞くが、なんであんたは追われる身になったんだ?
闇の組織に目を付けられているならまだしも、相手は一介の商人なんだろ?
よっぽどのことをしでかさねえと、目を付けられるとは思えねえけどな。


私は話すか話すまいか迷ったが、ここで話を切ってしまってもなにも事態は好転しないだろう。
私は覚悟を決めて、自分はウルダハの王室直属の近衛騎士団と共に動いていたことを説明した。内容はウルダハの極秘事項に触れるので話せないが、ウルダハ王室の権威を守るために動いていたことを説明した。
また、それと同時にウルダハを騒がせていた「剣術士襲撃事件」の黒幕も追っていて、剣術士ギルドとともに首謀者の男を追い詰めたことを話した。


ふむ……ようは「目立ちすぎた」ってことか。
確かにウルダハは王室よりも有力商人からなる砂蠍衆の合議によって国家運営は決まり、その中でも商人達による完全自治を望む「共和派」の方が実権を握っていると聞く。
王室に牙をむく共和派の誰かが、邪魔をするあんたに刃を向けたってのも分からねえ話ではねえが……。
それにしても不自然なことは、もしあんたの言うことが本当で、あんたをここリムサロミンサに避難させる際に「秘匿飛空艇」を使ったことだ。
もしそうであれば、メルヴィブ提督の耳に入っていてもおかしくはねえ話だ。
あの便は両国の同意のうえでしか運航できねえからな。
ウルダハの王室とリムサ・ロミンサの黒渦団とはエオルゼア軍事同盟締結時より密な関係にある。
なのにあんたは、搭乗員を偽装した秘匿飛空艇を使ってこっそりとリムサ・ロミンサに入り込んだ。

だからな、あんたは今、
ウルダハから送り込まれた「密偵」ではないかという疑いがかけられているんだよ。


私は顔が真っ青になる。
事態が呑み込めずに黙っていると、


じゃあもう一つ。
こっちが掴んでいる情報を教えてやる。
共に「人拐い」を追いかけたよしみだ。

あんた、ウルダハではとっくの昔に死んだことになってるぜ?


私は唖然とした表情のまま固まってしまう。
ジャックはすべて知っている。
私がウルダハで殺されたことを。
私はそのことを今までひた隠しにしていたのだ。
これでは疑われても仕方がない。


あんたはキキルンの盗賊に強奪された貴重品の奪還を商人から請け負って、他の冒険者と盗賊団のアジトに奇襲をかけた。
その際に、あんたは下手こいてキキルン族共に囲まれて殺された。
他の冒険者達が駆けつけた頃にはもう見る影もないぐらいズタズタにされていたってよ。
奪還作戦はあんた一人の犠牲で無事完了。
その後身に着けていたものがあんたのものであるかを、ウルダハお冒険者ギルドのギルドマスターが確認済みだ。

あんたの業績を称えてちゃんと墓も建ててあるらしいぜ?
王室出資による立派な墓がね。
さて、ウルダハで英雄のまま死んだ人間がここにいる。
しかも秘匿飛空艇を使い、巧妙に偽装までしてだ。

なあ……
死人の冒険者さんよ。

あんたは一体何者なんだい?

 

 

(エインザル)
捕らえたか?

(ジャック)
はい、今は部屋に監禁しています。
とりあえず抵抗する意思はないようですぜ。

(メルヴィブ)
それで? 吐いたのか?

(ジャック)
いえ……質問には答えるものの、どこか頭がイカかれちまっているようで。
多少荒っぽいことはしましたが、これ以上の進展は見込めねえようです。

(エインザル)
どういうことだ。

(ジャック)
いえね、その冒険者は自分のことを「特別な者」だと言い張るんですよ。

(エインザル)
は? 特別な者?

(ジャック)
ええ。ウルダハで死んだ自分はエーテライトプラザの前で生き返って、見ず知らずの男から「秘匿鍵」をもらったって。
何度聞いてもそれしか答えません。
隠している感じもないところを見ると、本当か暗示にかけられているかのどちらかでしょうね。

(メルヴィブ)
怪しい以外の言葉が無いな。精神がおかしくなっているとすると、何か口封じに薬でもうたれたのか?
たしかお前のところの若いものがその冒険者をリムサ・ロミンサで出迎えたらしいな。
そいつはなんと言っている?

(ジャック)
こっちも似たようなもんで、突然現れた商人風の男に「ウルダハからお前の命を助けた男が来るから、助けてやってほしい」と言われ、工房を紹介したとのことです。
アイツも商人の端くれ、突然の話に「はいそうですか」と乗るような浅はかな男ではありませんが、その商人風の男に「サンクレッドからの依頼だ」と言われ信じたようです。

(メルヴィブ)
サンクレッド?
誰だそいつは。

(ジャック)
ウルダハで蛮神召喚調査を行っている「暁の血盟」の一員です。

(メルヴィブ)
何!?
とするとヤ・シュトラ殿の仲間か!?

(ジャック)
そうです。ウィスタン自体ウルダハからエーデルワイス商会に引き取られる際、暁の血盟の一員であるサンクレッドの手引きがありました。
ウルダハからの難民を、働き手として雇ってくれないか…と。

(メルヴィブ)
ならばその冒険者もそうであるということか?
であればなぜ「秘匿飛空艇」に忍んでいた?
我々に嘘をついてまで。

(エインザル)
その件ですが、バデロンからの報告が上がってきております。
ウルダハの冒険者ギルドを通じてその男のことを調べ上げたのですが、かなりの成果を上げているようでした。
少し前にウルダハ全土で起こっていた「剣術士襲撃事件」を解決し、リムサ・ロミンサに不当に密輸されていた希少品の盗掘グループの摘発。
その他様々な犯罪集団の壊滅に関わっておりました。
その功を讃えて、ウルダハ王室のナナモ女王陛下より直々に晩餐会への参加を要請されていたようですが、その矢先に戦死しております。

(メルヴィブ)
死んだ者が生き返る……
確かにそれは「特別な者」ではあるが……

(エインザル)
この話を聞き、ウルダハ側は驚いていたとのことでした。
死んだはずの冒険者が生きてリムサ・ロミンサにいるということを。
冒険者を「秘匿飛空艇」に乗せた事実もない……。
では、あの冒険者はいったい誰なのか?

(ジャック)
考えられることは二つ。
まず一つは本当に「特別な者」であり、それを表ざたにしたくない「誰か」が運航予定だった「秘匿飛空艇」に紛れ込させた。
もう一つは、あの冒険者が「偽物」であるということ。
冒険者の「記憶」についてですが、小せえ頃から「特殊な訓練」を積み重ねた者であれば、本人を装うことは不可能ではありません。
薬を補助に使えば、姿かたちをそっくりにすることだって可能ですから、顔を知っているウィスタンが疑わなかったのも説明が付く。
まあそれは、禁忌中禁忌ではありますがね。

(メルヴィブ)
もしあの冒険者が暁の血盟と接触しているのであれば、ヤ・シュトラ殿に聞いた方が早いのだろうが……
今どこにいるかわからんしな。

(ジャック)
提督。一番手っ取り早い方法があります。

(メルヴィブ)
なんだ?

(ジャック)
それは、あの冒険者を「殺してみる」ということです。

(メルヴィブ)
(エインザル)
!!!!?

(ジャック)
冒険者の言うとおり本当に「特別な者」であれば死んでもまた生き返るでしょう。
もしその冒険者が「偽物」だった場合「始末した」ということだけです。
あの冒険者にこれ以上のことをしても、多分何も情報は得られません。

(メルヴィブ)
だが……

(ジャック)
かつて「人の命をも盗むもの」シーフとして名をとどろかせた双剣士。
それは「秩序の番人」として闇を生きる道を選んだ者達。
その意義は今もなお変わってません。
汚れ仕事はうちの専売特許。
提督が何を思うこともありませんぜ。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~


(メルヴィブ)
エインザルよ。
私の決断は正しかったのだろうか……

(エインザル)
リムサ・ロミンサを不穏な空気が包む今、小さな芽は早めに積んでおくのが得策でしょう。
ウルダハ側が存在を否定している以上、外交上の問題はありません。

(メルヴィブ)
……しかし大罪を犯した者ならいざ知らず、白黒はっきりしていない、しかも一般人を手にかけるというのはいささか胸に刺さるものがあるな。

(エインザル)
そのための「猫」、双剣士ギルドです。
ネズミは猫に追わせればいい。
ただそれだけのことです。


(ドンドンドン!!)

(ガチャ!……バタン!!)

(伝令)
き、緊急伝令です!!
失礼します!!

(エインザル)
なんだ! どうした!

(伝令)
カイバレー防波壁防衛隊より連絡!
サハギン族との本格的な交戦状態に突入!
相手の数多数! 至急増援を願う!
とのことです!

(メルヴィブ)
くそっ!
遂に動き出したか!
エインザル!
リムサ・ロミンサに停泊中の軍艦に増援を乗せ、エールポートに向かえ!
海上から地上部隊を援護させろ!
各海賊団の連中にも手伝わせろ!
久々の実戦だ。褒章をちらつかせ、欲しくば武勇を示せと尻を叩け!

お前たちはモラビー造船廠のギムトータに修理中の軍艦の中で動かせるものをエールポートまで回すように伝えよ!
少しでも手が欲しい。冒険者ギルドのバデロンに冒険者の参加を緊急募集させろ!

(伝令)
はっ!!

(エインザル)
斧術士ギルドにも動いてもらいましょう。
ヴィルンズーンのところにも伝令に走れるか?

(伝令)
斧術士ギルドですが、現在レッドルースター農場にコボルド族とともに「クジャタ」が出現!
また、スウィフトパーチ周辺のドードー達が一斉に暴れはじめ、その対応にイエロージャケットのメンバーと共に対応に出向いているようです!

(メルヴィブ)
なに!?
このタイミングでか!!

(エインザル)
……やはり作為的な何かを感じますね。
スウィフトパーチの混乱・レッドルースター農場襲撃は陽動。
主戦力である黒渦団はサハギン族の侵攻にくぎ付け。
……そこから導き出される答えは。

(メルヴィブ)
ここリムサ・ロミンサか!!

 

(バン!!)

 

(ジャック)
メルヴィブ提督!!
すまねえ!!
冒険者に逃げられた!!

(エインザル)
逃げただと!!
どうやって!?

(ジャック)
窓から飛び降りやがった!

(エインザル)
窓からって……
あそこは崖に立つ塔の最上部。
海面に飛び降りたとしても、とてもではないが生きてはいられないぞ!!

(ジャック)
急ぎ確認にでてきます!

(メルヴィブ)
まてジャック!
お前はギルドメンバー総出でリムサ・ロミンサの警備に当たれ!
不審なものがいたら片っ端から捕まえろ!
これは国家元首メルヴィブからの命令だ。
全ての責任は私がとる!

(ジャック)
西ラノシアから上がってた煙……
それと何か関係があるんですかい?

(メルヴィブ)
ああ……
戦争の始まりだよ。