FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第六十四話 「造船所炎上」

痛たたた……

体中をズキズキとした痛みが走る。
一度解かれたはずの縄で再び拘束され、いわゆる「尋問」を受けた私は床に転がされている。

私はどうやら気を失っていたようだ。
痛みに耐えきれず、思わず「特別な者」であると言ってしまったが、やはり「はいそうですか」とすんなり信じてはくれない。
何一つ嘘は語っていないはずなのだが、都市伝説ともいわれるような存在を素直に信じるバカはそうそういない。
諜報のプロである双剣士であればなおさらだ。
しかも土壇場になっての発言は、相手には見苦しい言い訳にしか思えなかっただろう。
たった一度の共闘戦で一方的に仲間意識を持ってしまった自分が恥ずかしい。


私は自分の発言でかえって疑られてしまったことを後悔しつつ、腫れで思うように開かない瞼を何とか開けて部屋の中を見渡した。
中には私が座らされていた椅子が一つだけ。
尋問の際に私と一緒に椅子も倒れ、今もなお横倒しになっている。
それ以外には廊下に通じる片開きの小さな扉と、光を取り込める程度の小さな窓が一つある。
どうやら「牢屋」というわけではなく、どちらかと言うと「物入」のような部屋であった。

さて……どうするか……
くそ……なんでこんなことにっ!

必死に冷静さを装おうとするが、頭の中を様々な「負」の感情が駆け巡る。

怒り、恐怖、不安、後悔、そしてあきらめ。

そのすべてが混ざり合い、私は自分の運命に絶望する。
冷静であろうとする唯一の理性もじわじわと闇に浸食されていった。


私は悪くないのに、

私は嘘は言っていないのに、

皆のためにがんばったのに、

私が命を賭してまでしてきたことは、

一体何だったんだろう……


積み上げては簡単に崩されていく自分の運命を呪い、
いつしか自分を「特別な者」にしたハイデリンを呪った。

はは……
ここでの生活ももう終わりだな……

これからどうなるのかはわからないが、
決していいことは何一つ待っていないだろう。
おそらく、全員が全員私を罪人にする。
私はウルダハで活躍し、死んでいった冒険者のを語った偽物」として、

この先の人生を歩むことになるのだろう。


ふと「片目の少女」の顔が頭に浮かぶ。

そうか、あの少女も……
自分の運命に呪われているんだ…

私はハッと気が付いた。
死ぬことすら否定され、不死であるその事実を利用されている少女。
今だからこそ彼女の気持ちがわかる。

彼女は絶望に等しい運命に贖うことをやめた。
心を閉ざし、自我を押し込み、
ただただ「道具」として、
生き続けることを選んだんだ。


仲間を、守るために。


(なんだ、簡単な事じゃないか)

人ならざるものならば
人ならざる生き方を。

捨てれば拾うものもあるだろう。
私もまた自分の運命を受け入れて、
これからの生き方を選択しなければならない。


私は窓を確認する。
幸いにも窓は嵌め殺しではなく、なんとか大人一人が身を乗り出せるくらいの大きさだった。
私は芋虫のように床を這いつくばりながら、ズリズリと窓の方へと移動する。
そして壁に背中を押し当てて、縛られたままではあるが何とか立ち上がった。

(絶景だな……)

窓の外に広がるは一面の海。
見下ろせば切り立った崖に激しい波が叩きつけては崩れ、海面は複雑に動きながら白ばんでいた。
飛び降りれば、待っているのは確実な「死」。

でも、死なないとすれば?

私は窓台の上に何とか体を乗せて、窓の外に身を乗り出す。
すると、強烈な海風が私の顔を叩いた。
しかし、その風は今の私には心地よく、
眼下に広がる光景を見ても、不思議と恐怖は感じられなかった。

一度は生き返った。
だが、二度目があるとは限らない。

死んだその時は、
おやっさん……約束を果たせなくてごめん。

私は目を閉じて、
その身を海へと投じた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~


メルヴィル提督への報告を終わらせた俺は、心を殺して冒険者のいた部屋まで戻る。
双剣士は影からリムサ・ロミンサを守り「掟破り」には制裁を下す。
海都に仇なす敵ならば、たとえ親兄弟であっても容赦はしない。

しかし思いに反して足取りは重く、自問自答に心を潰される。

本当に自分の選択は、
正しかったのだろうか……と。

いつだってそうだ。
表向きは無慈悲を装っていても、心のどこかでは後悔している。
完全な「悪」などどこにもいない。
人が「悪」に落ちるには必ず理由があり、そこまで追い込んだのもまた人なのだ。
人は人によって歪められ、悪に逃げ場を求めていく。
当の自分だって、そうだったんだから。

アイツだってそう。
尋問しても何一つ態度は変わらなかった。
どう考えても嘘をついているような感じではない。
「特別な者」という眉唾な話ではあるが、俺は逆にそうであってほしいと心の奥では願っているんだ。

ただ誰かに操られているだけだとしても、本当のアイツに罪はない。
しかし俺はそのことに目をつぶり、「無実」の者を殺してすべてを闇に葬り去るのだ。
俺は「掟の番人」としての責務を果たさなければならない。

(ヴァ・ケビ)
ジャック……


陰に潜むように佇んでいたヴァ・ケビが俺に声を掛けてくる。
その声はか細く、どこか不安げだ。

(ジャック)
なんだ?

(ヴァ・ケビ)
本当にあの冒険者、殺すの?

(ジャック)
……ああ。
それが俺の仕事だ。

俺の答えを聞いて悲しそうに俯くヴァ・ケビ。
いつも敵に容赦のないヴァ・ケビのその表情を見るのは珍しい。

(ヴァ・ケビ)
私にはあの冒険者が嘘を言っているようには思えない。
なんの確証もないけど……

(ジャック)
ヴァ・ケビ。
今リムサ・ロミンサは不穏な影に揺れている。
蛮族共は騒ぎ出し、獣たちもまた殺気立っている。
それに加えて、追放したはずの奴らの不穏な動き。
俺たちはちょっとした疑惑の芽を見逃してはいけないんだ。
その小さな芽を見逃したことで、大樹を枯らすことだってある。

リムサ・ロミンサを守るため、
俺たちはやるべき仕事をやるしかないんだよ。


俺は誰よりも自分に言い聞かせるように言葉を吐き出す。
腰に下げた短剣を力強く握りしめながら、うつむいたまま動かないヴァ・ケビの横を通り過ぎる。

(ヴァ・ケビ)
ジャック……辛そうな顔しているよ?
私は……ジャックの方が心配……

(ジャック)
………

俺はヴァ・ケビの言葉を無視して歩いた。
冒険者を閉じ込めている部屋の前に立つと、上を見上げて一度深呼吸をする。
「掟の番人」として、いつもの俺に戻るために。

ん?

目の前からなっている音に気が付き、確認してみると扉がガタガタと揺れていた。

なんだ…?

ドアの揺れに不審を感じ、短剣を手にしながらドアのカギをゆっくりと開けて中へと入ろうとする。

(カチャン…ガチャ… びゅうううううっ!!)

扉を開けると強烈な風を受けて扉が煽られた。
突然のことで体が持っていかれる。

(ジャック)
な、なんだ!!?

強烈に吹き込む風を手で遮りながら部屋の中を見ると、閉めていたはずの窓が開いていることに気が付いた。

!!!!?

慌てて見渡すと、部屋の中に冒険者の姿が無い。

まさか!!

私は開け放たれた窓に駆け寄り、崖下を見下ろす。
そこに冒険者の姿はない。
それもそうだ。
ここから飛び降りれば、待っているのは岩だらけで強い波が叩きつける崖だ。
手足を縛られていなくとも、待っているのは確実な「死」。
例え万が一があったとしても、とても命は助からないだろう。

「特別な者」でなければ。

私はどこか小さな「希望」を胸に、再び提督のいる部屋まで戻ろうとする。

すると、磯の匂いにのって、何かを焼くような臭いがすることに気が付いた。
私は崖下ではなく、窓から見える景色を注意深く見ると、
エールポートのあるスカイバレーのあたりから、煙のようなものが立ち上っていた。

 

聞いて……感じて……考えて……

頭の中に懐かしい声が響いている。
自分の姿かたちは無く、まるでクラゲのように星の海の中をフワフワと漂っている。

一つ一つ輝いている星は、多分私と同じ存在。
それを考えれば、私と同じような「星の意思を継ぐ者」と言うのは世界中にたくさんいるのだろう。
空を埋めつくす星々は、今か今かと誕生を待ち望むかのように健気に光り輝いている。

これだけの数の「特別な者」にクリスタルを探させてまで、対峙しなければならない「闇」とは一体何なのだろうか。


そう言えば、ハイデリンの声を聞くのも久しぶりかもしれない。
リムサ・ロミンサに移り住んでからと言うもの、ハイデリンと名乗るクリスタルの夢を見ることはなかった。

今再び私は夢をみる……
と言うことは、私はまた生き返るのであろうな。

そう思った瞬間、再び海流に流されるかのように私と言う存在がゆっくりと動き始める。
そして大きなクリスタルを回り始めると、まるで存在がはっきりするかのように肉体を感じ始める。
そして一際大きく光ったかと思うと、空に現れた光の渦の中に呑み込まれていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ふと目を覚ますと、

そこは戦場だった。

!!!?

私は再び生き返ったという余韻を味わう暇もなく、飛び起きて状況を確認する。
エーテライトがあるということは、どこかの集落であることは間違いない。
周りを確認すると、あちこちから火の手が上がり怒号と悲鳴が響き渡っている。その中にはひときわ大きな作りかけの船の姿があった。

(ここはモラビー造船廠か!!)

いやあぁぁっ!!

女性の声がする方を見ると、一人のララフェルの女性が海賊風の男に追いかけられている。

(ワフフ!!?)

私は咄嗟に走りだし、ワフフを追いかける男の足にタックルして転ばせる。
何事かとこちらを見る男の顔を思いっきり殴りつけて気絶させた。

大丈夫か!?

私はワフフの元に駆け寄り、その身を抱き寄せる。
恐怖でカタカタとその身が小刻みに揺れていた。
ワフフは私が知り合いであることがわかると、目から涙があふれ出して泣き始めた。

(ここは危険だ!)

そう思ってワフフを抱きかかえると、石づくりの建物の影へと駆けこんだ。
私は身を縮こませながら泣いているワフフに、何が起こっているのか聞くと、

突然建造中のヴィクトリー号から爆発音が聞こえて、火の手が上がり始めたかと思うと、モラビー造船廠に海賊の男たちが一斉に街中に駆け込んできたらしい。
そして警備をしている黒渦団に襲い掛かった後、今度は町のあちこちで爆発が起きて火は造船所全体に広がり、逃げ惑う造船師たちや街の人たちは捕縛されたとのことだった。


ははっ!!
随分と呆気ねえもんだなぁ!


私はワフフの口を手でふさぐ。
直ぐ近くから海賊の声が聞こえてきた。
周りの海賊の男連中に対して偉そうなところを見ると、襲撃団のリーダーだろうか。


おいっ! 造船師の奴らは確保したか?

とりあえず確保した奴らは民間人と一緒に宿屋の中にぶち込んでます。
ただ、まだ何人かが警備の奴らとヴィクトリー号に立て籠もって抵抗してやがります。
ヴィクトリー号にせっかくつけた火も消されちまったようです。
どうやら新型の不燃材が船体に処理されているようで……


アートビルムの姿がねえな……
アイツ、まだ抵抗してやがるのか?
おとなしく捕まっちまえばいいものを!


すこしイライラした声で海賊団のリーダーらしき男が叫ぶ。


黒渦団の軍船は後回しだ!
舵を折って動けなくしとけ!
お前らは火矢を放ってヴィクトリー号に何としても火をつけろ!
爆弾に引火さえしてしまえばひとたまりもねえはずだ。
新型だか何だか知らねえが、そもそも木は燃えるもんだ!

残った奴らを炙り出せ!!


「おーっ!!」という掛け声と共に海賊の連中は一斉に造船所へと向かっていった。

私は周囲に誰もいなくなったことを確認すると、ワフフを抱きかかえたままモラビー造船廠の出口まで走る。
幸い襲撃している海賊団はヴィクトリー号の方に集中しているため、見張りの数が少ない。
私は物陰に隠れながら、時には後ろから襲って確実に排除しながら、なんとかモラビー造船廠を脱出した。

近くにある丘まで駆けあがり周りに人影が無いことを確認すると、ワフフを地面に下ろした

あ…あぁぁ…

モラビー造船廠が燃えている。
あちこちから火の手が上がり、夜であるはずなのに赤く光っている。
その光景を見て、ワフフが絶望に震えている。
目からは涙が止めどなくあふれ、くちは閉じられることなく小さな嗚咽を吐き出していた。

辛い光景をこれ以上見ては、心が折れてしまうかもしれない……

私はそう感じてワフフの視界を遮るように抱き留めようとした……その時、


ワフフを放せぇ!!


という怒号と共に、私は突然の衝撃を感じて体が吹き飛ばされる。
そして複数の足音が私を取り囲むと、手足を拘束されて組み伏せられた。


お前ッ!! 賊か!!


私を取り囲む連中の一人が斧を振りぬく。
それを見たワフフが


やめて!! その人は私を助けてくれたの!!


と叫び、組み伏せられた私に必死にしがみついてきた。


ワフフ!?


驚きの声を上げる男の顔を見ると、見覚えのある顔。
私を突き飛ばした男はモラビー造船廠の造船を取り仕切っている、アートビルム本人だった。

 

す、すまねえ!


ワフフと一緒にいたのが自分であることがわかると、アートビルムは慌てながら拘束を解かせた。
私は体を動かしながら立ち上がり、自分のことを押さえていた連中を見てみると、どうやらアートビルムと同じく造船師の様だった。


リムサ・ロミンサの本社会議に出ていて留守にしていたんだが、戻ってきてみりゃ造船所は燃えてるわ、泣いているワフフを見つけるわで色々と気が動転していてな。

しかしあんた、なんで鎧なんか来てるんだ?
あんたは親父さんとこの職人だろ?


私は言葉に詰まらせながらも、工房を去ることになったことをアートビルムに話す。
そしてたまたまモラビー造船廠に着いたとき、ワフフが賊に襲われているところに遭遇したと話す。


そうか……
助かったぜ。ワフフが無事ってのは何よりな話だ。


そう言ってアートビルムは立ち上がり、炎上するモラビー造船廠を呆然とした表情で見つめ「なんでこんなことになっちまったんだ……」と小さく呟いた。
彼ら造船師たちが魂をこめて作り上げているヴィクトリー号は、絶えず放たれる火矢を受けてあちこちから火の手が上がっている。
資材は轟々と燃え、作り上げた部品は見る影もなく破壊されていた。

ただただ見守ることしかできない私たちの元に、黒渦団と思わしき部隊が駆けつけてきた。
アートビルムは黒渦団のリーダーと思わしき女性と面識があるようで、モラビー造船廠の状態を説明すると苦々しい表情を浮かべた。


アートビルム、心を落ち着かせて聞け。
今回の襲撃の首謀者の名は「アーツァフィン」。
あんたの親父だ。


アートビルムは驚きの表情を浮かべると、悔しそうに顔をしかめさせる。


くそ親父がっ!!
こんなことをして何になるってんだ!!


そして、アートビルムは感情剥き出しのまま黒渦団の女を睨み付ける。


ギムトータ。お前このことにうちの親父が関わっていたこと知っていたんだろ。
何故俺に話さなかった!

主犯の息子に話せるわけがないだろう!
それ以前に、ヴィクトリー号建造の遅れは団内からも不信がる声も上がっていた。
そこにきての「アーツファイン」の不穏な動き。
おかしいと思わない奴がどこにいる!?


て……てめぇ……
俺を疑いやがっていたのかぁ!!?

アートビルムはギムトータと呼ばれた女に歩み寄り、乱暴に胸倉をつかみ上げた。
後ろに控えていた黒渦団の兵隊が武器を構え、アートビルムの仲間達も工具を手に構える。
状況は一発触発の状況だ。

なんだ……
なんなんだこれは……

私の中に感情が湧き上がる。
ワフフは不安そうな顔でその光景を見つめている。

見るべきものを見ず、
考えるべきを考えない。
まるで「責任」を押し付け合うかのように、
どうでもいい争いに心を奪われている。
もうたくさんだ。
こんなの、

もうたくさんだ!!

私は空気が振動するほどの怒号をあげる。
突然叫んだ私に驚いたのか、アートビルムも、ギムトータと呼ばれた女も唖然とした表情でこちらを見ている。
私は怒りに震える感情を何とか押しとどめながらも、二人に怒鳴った。

お前らはここで何をしている!
未だお前らの仲間は共にヴィクトリー号に立てこもって必死に戦っている!
ヴィクトリー号を守るため、このモラビー造船廠を守るために、増援を信じて戦っているんだ!
なのにお前らときたらなんだ!
疑わしいだのなんだのと……
守るべきは何なのだ!?
救うべきは誰なのだ!?

何より、戦うべき相手は
今もなおあそこにいるじゃないか!!

私の怒号に皆呆気に取られている。
アートビルムはギムトータから手を離し、一言「すまん……」と呟いた。
ギムトータも気まずそうに顔を俯かせながら、部下たちに武器を下ろさせた。

私はギムトータの前に立ち、先ほど隠れていた時に聞いた話を伝える。

ヴィクトリー号にはまだ捕まっていない造船師と黒渦団の隊員たちが必死に抵抗を続けているが、ヴィクトリー号には爆弾が仕掛けられており、爆発したら一巻の終わりだ。
捕らえられた造船師や民間人は宿屋に集められている。
今襲撃者の多くはヴィクトリー号に集中しており、街中の見張りは思いのほか少ない。
また黒渦団の船は舵を折られて航行はできないが、こちらも今現在は手薄になっている。

私は以上を踏まえたうえで二人に提案する。

アートビルムは仲間を率いて宿屋に潜入し、捕らえられた者達を連れてモラビー造船廠を脱出。
黒渦団は自身の船に乗り込み、積まれている砲でドッグを艦砲射撃。
合わせて海面を砲撃し、水しぶきで火を消す。
襲撃者の混乱に乗じて一転攻勢。襲撃者を一掃する。

とにかく、今は一刻を争う。
決断の遅れはすべての崩壊を招くぞ!

私の提案に目を白黒させながらも、ギムトータは部下たちに人員の割り振りと突入の用意をさせると、

アートビルム!
まず我々の先行部隊が突入し、見張り共を一掃する!
後に続いて宿屋に潜入。捕らえられた者と一緒にモラビー造船廠を脱出しろ!!
我々はその後ヴィクトリー号に取りついている襲撃者共を牽制しつつ時間を稼ぐ。
その間に別動隊は我らの軍艦を奪取。
制圧完了次第砲撃を開始しろ!!
くれぐれも味方には当てるなよ!!

おうっ!!

先ほどまでの険悪な雰囲気が嘘のように、二人は阿吽の息で答え合う。
そして、

あんたには迷惑をかけっぱなしで申し訳ない。
ここから先は俺らの戦いだ。
だからワフフを連れてここを離れてくれ!

キャンドルキープには行くな!
どうやら賊はあそこから侵入したようで、いまだ伏兵がいる可能性が高い!
オシュオン大橋までいけば我らの後方支援部隊がまだ駐屯しているだろう。
この手紙をそこの者に渡して増援要請を伝えてくれ!

私は頷くと、ワフフを連れて丘を離れる。
不安そうな表情は変わらないが、ワフフの目からは涙は消えていた。


~~~~~~~~~~~~


オシュオン大橋にたどり着いた私たちは、黒渦団の者にギムトータから預かった書状を渡し、モラビー造船廠の件を伝える。

後は祈るしかない……

駐屯所に通されてワフフを引き渡す。
ずっと緊張状態が続いていたせいか、ワフフは水を飲んですぐに気を失った。
私は警備の者にワフフの保護をお願いすると、建物を出て考える。

このまま後方支援部隊と共にモラビー造船廠に戻るべき……か。

心の中で様々な葛藤が生まれている。

私は、私はお尋ね者だ。
あそこに戻ったとしても、どうせまた捕まえられる。
あそこに私の居場所はない。

健闘を祈る。

私は顔をの前に手を握り、作戦の成功を祈った。