FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第六十七話 「激動への序曲」

クジャタとコボルド族が去った後、私はイエロージャケットと斧術士ギルド、そして応援に駆け付けた「猟犬同盟」達と共にけが人の手当てに追われた。回復魔法が使える巴術士がいればいいのだが、残念なことにその姿は無く、持ち合わせのポーションと傷薬で応急処置を施していく。
幸いなことに、これだけ甚大な被害が出たにもかかわらず、死んだ者がいなかったことは奇跡に近い。
それは民間人の迅速な誘導と、機転を利かせた冒険者たちの立ち回りのうまさがあったからに他ならない。

(私は役に立つことができたのだろうか)

その問いが、常に胸の中を駆け巡っている。
ウィズンルーンは私のおかげと言ってはくれたが、命を賭して戦った彼らの方が輝いて見える。
あの後少年は泣きつかれたのか、張り詰めていた糸が切れるように気を失った。
だが少年の思いはクジャタにきっと届いたはずだ。

例え理不尽を前にしても、決して信じることをあきらめなかった少年の姿が私の心に刺さる。私が迷いそして見失いかけたものを、少年はその小さな体で最後の最後まで守り続けたのだ。

(弱いな、俺は……)

半ば自暴自棄になりかけていた自分の心に、ポッと熱い魂が再び宿る。
そうだ……誰の為でもなく、私は自分の信じる道を進み通せばいいのだ。


大体の指示を終えたヴィルンズーンが私のもとに戻ってくる。
ウィズンルーンは私の顔を見ると、なんだかとても意外そうな顔をして、


どうした?
なんだかさっきと違うな。


と笑いかけてきた。
私はそこまで違うかなと思いながらも笑い返すと、


さっき連絡が入ったんだが、モラビー造船廠の方も何とか襲撃者の鎮圧に成功したそうだ。
今は街中の火の消火に手間取っているらしいが、港だからな。
消火する水には困らないだろう。
ヴィクトリー号も大分破損したそうだが、爆破による沈没は免れたみたいだ。
黒渦団に何人かの犠牲は出たようだが、民間人含め造船師たちはみな無事ということだ。


私はヴィルンズーンの話を聞いて顔を青ざめた。
いまさらながら「軍艦に搭載した砲で港に集まる賊を撃つ」という随分と乱暴な方法を提案してしまったことに身が震える。もし黒渦団にでた犠牲者がその砲撃に巻き込まれたせいであるとしたら、責任の一端は私にもあるだろう。

「戦いに犠牲はつきもの」

それは正論ではあるが、決して安易に認めてはいけない。

(そう言えば……)

私はヴィルンズーンにあの黒い入れ墨の男と密会していた不審者が切り立った岩陰から出てきたことを伝える。


なに? 岩陰から?
確かあの男は海蛇の舌の一員だって話だよな。
ってことは、そのあたりにアジトに通じる抜け道があるってことか!?


ヴィルンズーンは驚きながらも顎に手をあてながら思案する。


いま西ラノシアはサハギン族と海蛇の舌共が共同で防波壁を越えるために侵攻をしているらしい。とすれば、アジトが手薄になっている可能性も高いということか。
たしかサスタシャ浸食洞の奥にある「霧髭のアジト跡」を根城にしているのではないかと噂されているが、入り口を守る魔獣共に阻まれて未だ突破できていない。


私は、もしサスタシャに溢れる魔獣共が先ほどの黒い入れ墨の男によって管理されていたとすれば、男亡き今状況は変わっているかもしれない。
また不審者が出てきた岩陰に隠れた入り口があるとすれば、そこは海蛇の舌だけが知っている「安全なルート」かもしれないことを伝えた。


そうか!
よし! お前、至急リムサ・ロミンサに戻ってレッドルースター農場の襲撃は鎮圧したことを伝えるとともに、黒渦団に応援を要請してこい!
数は集まるだけでも構わん。浸食洞の前に集合させるようにいってこい!
こっちで動ける奴は何人いる!?

俺たちは全然いけるぜ?
駆けつけた時にはもう終盤だったから、正直物足りねえぐらいだ。


そう言って猟犬同盟の面々が集まってくる。
その中には大立ち回りを繰り広げていたララフェルの少女の姿もあった。
先ほどまでとは打って変わって、どこかを見ながらぶつぶつと何かを呟いている。

結局、猟犬同盟の他斧術士ギルドのメンバーと鎮圧に駆け付けていた冒険者達が、海蛇の舌のアジトへの侵攻作戦に集まった。
イエロージャケットは大きく傷ついたレッドルースター農場の普及とけが人の搬送のため現地に残ることになった。


おまえもくるんだろ?


黙ったまま何も言わない私にたいして、ヴィルンズーンは一本の斧を私に差し出してくる。少し戸惑う私に、


英雄ってのは最後まで尻を持たなけりゃならねえんだ。
それにお前は「親父さんの斧」見つけなきゃならえんだぞ。
最後までやりきる覚悟を決めたんなら、俺はお前にとことん付き合ってやるぜ?


そう言って笑いながら強引に私に斧を押し付けた。
すると仲間の斧術士の男が、


アニキ!
格好つけセリフを吐くのは構わねえが、右目を腫らしたまんまじゃしまらねえぜ?
まるで奥さんに殴られたときのアニキ見てえだ!

と叫ぶと、周囲で笑いが起きる。
確かに先ほどはあまり気にならなかったが、私が投げた石がぶつかったと思われる左目のあたりがぷくりと腫れていて、変な顔になっている。


う、うるせえ!
こんな時に嫁のことを思い出させるんじゃねぇ!
せっかくの気分が台無しになるじゃねえか……


そう言いながら、ヴィルンズーンは斧術士ギルドのメンバーに指示を出すと、手渡された仮面を装着した。
頭から顔全体までを覆う非情に暑苦しいその仮面をかぶったヴィルンズーンは「やはりこの仮面をかぶると落ち着くなっ!」と籠った声で笑っていた。

(息苦しくないのだろうか……)

私はどうでもいい心配をしながら苦笑する。
本当にこの男には敵わない。
どんなに困難な状況でも、見方でいてくれる人がいるというだけですごく心強い。

私は手渡された斧を背中に背負い「仲間達」と共にアジトに続くであろう「隠し通路」を探しに向かった。

 

さて…
こっからどうすっかな?


双剣士の女を人質にとり、あのガキを逃がしたまではいいがその先については実はノープランだ。
俺自身別にとっ捕まったところでなんの害もねえが、自由を奪われるというのは俺の主義に反する。
見せしめにこの女を殺してもいいが、その後こいつらから逃げ切れる自信はねえし、この女を連れて「徒歩」で逃げるのも正直面倒くせえ。
耳を澄ませても未だ獣の気配は感じない。

(とりあえず、時間稼ぎのために煽るだけ煽っとくか)


さて、双剣士ギルドの諸君。
あーー、この女の命がおしくば、俺をここから逃がしてくれないか?


あまりにも棒読みな口上に、双剣士ギルドの面々はきょとんとした顔をしている。双剣士のリーダーと思わしき若い男はあきれた声で、


バカかお前は。
「はいわかりました」と言って逃すと思うか?

それもそうだよな。
おれも馬鹿なこと言ったよ。
しかたがねえ、せっかくだからこの女を道連れにして死んじまうか。


そう言って俺は女の首を腕でギリギリと締め上げる。
女は声にならない声を上げながら苦しそうにあえいでいる。
その間に双剣士の男はキョロキョロと視線を動かしながら「まて、少し話をしようじゃないか!」と叫んできた。
片方の手を私の死角になるように後ろに回している。
多分あればどこかに潜んでいる仲間に指示を出しているのだろう。

(あっちも時間稼ぎか……なら、ここだとちょっとあぶねえな)


話し合いで何とかなるならこっちもそれに越したことはねえ。
お互いにとっての妥協点ってやつを見つけ出そうぜ。


そう言いながら腕の力を弱める。
すると首を絞められていた女がゲホゲホと咳き込んだ。
俺は女を引きずるようにしながら、背面と側面から襲われないような場所へと移動した。
袋小路のようなここではもはや私に退路は無い。

しかし、死角からの攻撃ができないここであれば、相手にとっても手詰まりとなる場所である。
攻め手を失った双剣士の男は舌打ちをしながら質問をしてくる。


ちっ……おまえ、海蛇の舌の奴だな。

なんだ、随分と当たり前のことを聞くな。
そんなこと、とっくの昔に調べはついてるんだろ?

……今起きている襲撃はすべてお前らの仕業か?

だとしたら?

なぜこんなことをする。
お前らはサハギン族の軍門に下ったはみ出しもんだが、人の国がなくなればお前らの居場所もなくなるんだぞ?

んーー、一つ間違ってるな。
海蛇の舌ってのははみ出し者の集団だってのはあってる。
人から略奪することでしか生きるすべを持たなかった馬鹿どもだ。
だが、サハギン族の軍門に下ったってのはちょっと違う。
今でこそサハギン族によって祝福を受けた「溺れた者」が増えてるのは事実だが、初期メンバーは祝福を受けていない者が多い。
これがどういう意味を持っているかわかるかい?

…サハギン族とは対等ってことか?

正解。というのはもはや建前だがな。
リヴァイアサンという存在はお前らに対抗できる唯一の武器だったんだよ。
海蛇の舌はそれにすがったんだ。
はみ出し者という烙印から脱却するため、徹底的な破壊から新しい「秩序」を生み出そうとした。
バカはバカなりに考えているだろ?

そんな奴らに国を動かせるとは到底思えんがね。

その通り!
力による革命って奴は、目標と過程に目が行くばかりでその後のことなんか何ら考えちゃいなんだ。
結局混乱をもたらすだけで何一ついいことなんてないことに誰も気が付かない。
だから海蛇の舌も理想に燃えるあまりに現実から目を背け、対等だと思っていた関係もただただ利用されていたことに気がついてもいなかった。
最近やっと気がついたようだが、時すでに遅しだったがな。

……おまえ、海蛇の舌の一員じゃないのか?

心外だな、一員だぜ? 「溺れる者」ではないがな。
命を張ってリヴァイアサン様の為、サハギン族様のために四方八方に駆けずり回る毎日さ。

嘘だな。命を賭けさせていたのはあの片目の少女のだろ?
お前はなんもしちゃいない。

あれは「悪党」として最高の逸材だ。
育てがいのあるやつには経験を積ませなきゃならねえしな。
だが、どうやら少しここで綻んでしまったようだが。


俺はそう言って奥の方で抱きかかえられているイエロージャケットの女を見る。


どちらにせよ、お前らのたくらみは失敗したんだ。
素直に投降してすべてを吐けば、命ぐらいの恩赦が与えられるかもしれねえぜ?

はっ! あり得ねえこと言うなよ。
俺がお前らの仲間をどれだけ屠ってきたかわかってんのか?
略奪・奴隷売買・強姦・殺人。
ありとあらゆる悪事を侵してきた俺に恩赦を与えるような「軟弱者」なんざ逆に信用できねえよ。
所詮この世の中は「強者」か「弱者」かの二つしかねえんだ。

「死んだ方が負け」

そんなシンプルなルールで十分だ。
さて……おしゃべりの時間はそろそろここまでにしとこうか。
あんたらのお仲間の配置も終わったんだろ?
たとえ気配を殺そうとも、俺を仕留めようとする気配がビンビンに伝わってくるぜ。
俺自身ここで死ぬのは別にいいんだがな。

だったら御託はもういいから素直に死んでくれねえかな。

まぁそんなにイライラしなさんなって。
ここでこの女を殺されて、怒り狂うお前らにめった刺しにされるってのも一興だが、残念だがもっと面白いことが待っているんでね!

瞬間、空の上から一匹の魔獣が落ちてくる。
その巨体の獣は、俺と双剣士の間を分かつように立ちはだかると、咆哮を上げた

!!!!!?

獅子の体に生えるヤギと竜の頭、そして蛇の尾に蝙蝠のような羽をもつ異形の『化け物』。
まるでこの世のものとは思えないそのちぐはぐな造形は、ある意味で芸術品を思わせる前衛的な美しさがある。


何だこいつは!?


双剣士たちは化け物との距離を一旦あけながら、短剣を投擲する。しかし、固い皮膚に守られるようにナイフはことごとく弾かれた。
獅子が咆哮をあげると竜頭の一つが炎を吐き散らす。
双剣士はそれを避けるようにちりじりに散開した。

話に付き合ってくれてありがとなっ!
おかげで「奥の手」が間に合ったぜ。

高笑いをしながら俺は化け物の顔をなでる。
化け物はグルルと喉を鳴らしながらも気持ちよさそうに声を上げた。
こいつはザナラーンに行った時に見つけた掘り出し物だ。
自然界では存在しないようなつぎはぎのような成りをしているところを見ると、人の業によって生み出され、失敗作として破棄された獣のなれの果てなのかもしれない。
いつの時代から生きているのかはわからねえが、飼い主なら最後まで面倒を見るのが筋って奴だろうに。
正直手懐けるのは骨がいったが、頭の中身は犬程度の知能しかなく、一旦落としてしまえば懐くのは早かった。


さて、形勢は逆転ってところかな。
まだしゃべり足りないことがあるのなら聞いてやるが、どうする?


俺はニヤニヤしながら双剣士の男に話しかける。。
双剣士の男は苦々しい顔をしながらも、メンバーに色々と指示をしながら対策を練っているようだった。

(ここでこいつらを殺してやってもいいが、せっかくの舞台があるのだからそこに招待してやるか。観客は多ければ多い方が盛り上がるってもんだしな!)

拘束していた女をグイッと引き寄せ、

『サスタシャに来な』

と耳元で囁く。
そしてまるでコマを回すように女の拘束を解くと、キマイラに飛び乗り空へと飛びあがる。
下からナイフが投擲されるが、キマイラの羽ばたきによる風圧を受けてこちらに届くことなく地面に落ちていく。

(さて、最後の舞台の幕を開けに行くとするか)

小さくなっていく双剣士共の影を見ながら、サスタシャまでの空の旅を楽しむ。西ラノシア、スカイバレーのあたりからは未だ煙が立ち上っている。
しかし前線は変わらず防波壁周辺であるところを見ると、リヴァイアサンの召喚はまだ成っていないようだ。

(何をもたもたしてやがんだか……)

リヴァイアサン召喚の儀ははサハギン族によって行われる。
召喚の準備は既に整っていたはずで、侵攻が始まった時点で神おろしが行われるはずだった。
サハギン族が渋っているのか、召喚できない事情があるかはわからない。
あそこはエルムスイスが作戦の指揮を行っているため、俺は管轄外だから近寄るわけにもいかない。
どちらにせよ、レッドルースター農場の襲撃とタイタン召喚は失敗に終わり、肝心要の「ミズンマスト」の爆破も不発というふがいない結果に終わった。
例えリヴァイアサンの召喚が成ったとしても、作戦は既に失敗しているのである。

(すんじまったことに後悔しても仕方がねえ、ここはあのガキの「可能性」に期待しようか)

まだ少し仕込みは足りないような気がするが、代理の奴がどうやら「封」を解いてしまったようだ。
あの場に残されていた「契約の短剣」。
あれはアイツを縛る「証」ではなく、「封」が解かれたことを知らせる「印」。

もしかしたらだが、それがあるからタイタンも弱く、リヴァイアサンも召喚されていないのかもしれない。

(結局はあのいけすかねえ商人の手のうえだったか。)

次元の穴から妖異を呼び寄せ、自在に姿を消す「人ならざる者」。
海蛇の舌をかどわかし、サハギン族をも手玉に取る。
ガレマール帝国の偽装船から「箱」の部品をわざと盗ませ「箱」の正体をリークし、爆破を企てさせる手腕。

あの優しげな商人の姿は、すべてを騙す虚身にしか過ぎないのだろう。

(しかし、閣下はなぜあのような怪しい者と……まてよ、もしかしたら覚醒したアイツを喰わせるつもりか?)

俺はリンクシェルを耳に当てて呼び出しをかける。
だが、いくら待っても応答はない。

(捨てられたか? いやしかし……)

ここ数日、目立った動きは無いはずだ。
ザナラーンの基地から移送されたという報告もない。
なによりあのデカいものがここに運ばれれば、嫌がおうにも噂が立つはずだ。

(俺も知らない「何か」があるということか?)

俺は変な胸騒ぎを感じながら、急ぎアジトのある「サスタシャ浸食洞」へと向かった。

 

何とか倒すことができたわね……

ハァッ…ハァッ…と荒く息を切らせながら、重たい体にムチをうち、ゆっくりと立ち上がる。
マグマに囲まれ、身を焦がすような灼熱の大地。
喉はからからに乾き、吹き出していたはずの汗すらもう出てこない。
周りを取り囲んでいたコボルド達は主であるタイタンが倒されるやいなや、一目散に逃げ出した。


早くこの場を離れましょう。
でなければ、私たちも死んでしまうわ。


オ・ゴロモ山の山頂にほど近い洞窟の中で、私と冒険者達はコボルド族によって神おろしされた蛮神「タイタン」の討滅を行っていた。
コボルド族の落ちこぼれ集団「第789洞穴団」とのパイプを持っていたスケートスィス少甲士の手引きのおかげで、私たちは何とか召喚強度が弱いうちにタイタンの討滅に成功した。
彼らの目的は自分たちの序列向上にあり、タイタン召喚により他のグループの地位を挙げてしまうことに恐れた落ちこぼれコボルド達に、使用済みで廃棄される「くず鉄」の支給を条件に、召喚場所へと通じる蛮族エーテライトまでの道案内を依頼していたのだ。
シルフ族は例外として、蛮族というとどこか人と敵対するイメージがあったが、こう話してみると彼らもまた自分の住処を守るために必死に戦っていることが分かった。

(どちらかというと、彼らを脅かしているのは人の方かもね)

そんなことを思いながら、私は冒険者と共に山を下りた。

 

ゴクッゴクッゴクッ……ぷはぁ!!!
生き返るわっ!!

オーバールックキャンプ地へと戻った私たちは、暑さで失った水分を取り戻すように水を飲む。
人の体8割は水でできているというが、なるほど「水」が命の象徴であることを今更ながら実感できた。


タイタンの討滅、お見事だぜっ!


オーバールックキャンプで、コボルド族との最前線を預かるブルーエイディンが拍手をしている。
私は「礼ならここにいる冒険者たちに言いなさい」とそっけなく答えると「相変わらずクールな女だぜ!」と笑って答えた。
思えばエーテルの異常反応によりタイタンが召喚されたことが分かってから、冒険者を集めタイタン討滅を成しえた経験を持つ「元海雄旅団」を探しだし、タイタン討滅に関する情報をもらい、蛮族エーテライトに改造を施して神降ろしの場への道を切り開いた。
落ちこぼれ軍団が色々と同族達の足を引っ張ってくれたおかげで準備不十分で召喚されたタイタンだったものの、それでも一歩間違えば「死」が待っているギリギリの戦いであった。


だが、低地ラノシア方面に向かった奴らのことが気になるな。
クジャタの声も聞こえたとなると、奴らと共に行動している可能性が高い。
レッドルースター農場は今どうなっているのやら。

無事であればいいけれど……
少し休憩したらそちらに向かいたい。
タイタン討滅の後で申し訳ないのだけれど、みないいかしら?


私は休む冒険者達に願うと、快く受けてくれる。

(本当に、このラノシアは冒険者達に守られているわね)

私は冒険者達に「ありがとう」と伝え、つかの間の休息をとった。


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エインザル様!
エールポート付近に展開中の海賊船が爆沈されています!

バカ共が。功を焦り指示を無視して先行するからだ。
周りに浮かんでいる小型船はなんだ?

ハッ! 報告によると商船のようでエールポートから脱出したものと思われます。
その中に爆弾を積んだ船が混じっているようで、思うように対応が取れていないようです。

ふんっ
黒渦団艦隊はこれより小型船を一掃し、制海圏を奪取する!
単横陣を取りながら各船前方の小型船をすべて補足せよ。
いまならいい感じに海賊共の船が燃えているからみやすいだろ。
補足完了後、全艦は今爆沈した海賊船の後方、200ヤルムのあたりに前門砲により一斉射撃。
慌てている馬鹿どもにこちらに目を向けさせろ!
その後すぐに通信士は海賊団連中に「後退」指示を打診。そこまでやっても気が付かない奴は放っておいて構わん!
そんな奴らは海で戦う資格はなかったってことだ!

後退してくる海賊船と入れ替わった瞬間を狙い、陣形を単縦陣に。
片側全門を一斉砲撃し、補足した小型船に鉄玉をぶち込め!
行き足は絶対に止めるなよ

し、しかしそれでは民間人が……

馬鹿野郎!
この混乱の中に狡猾な商人どもがいるわけなかろうが!
何故この混乱の中エールポートが無事なのか考えてもみろ!
相手の目的は「陽動」と「足止め」。
船に乗っていた奴らはどうせサハギン族の手を借りて爆破前に船から逃げ出しておるわ!
一切の手心は不要! 一隻たりとも逃すなよ!

ハ、ハッ!

その後サハギン族共が船に強襲をかけてくるかもしれん。
甲板員は銃をもち、一匹に対して複数で対応しろ。
焦る必要はない。しっかり頭を狙い打て!
モラビー造船廠から双胴船は到着しているか?

い、いえ……姿は見えません。

く……ひょっとしたらモラビー造船廠も襲われているか。
仕方がない。小型船の掃討が完了し次第、海面変動に注意せよ!
リヴァイアサンの姿を確認したら各々の判断で散開!
エールポートに逃げ込め!
あそこには冒険者が待機しているはずだ!
船を固められれば足場にもなる!

今のうちに通信士はエールポートに民間人の全員退避を勧告しておけ!
黒渦団員は防波壁の上にある砲門を準備しておけとも伝えておけ。

~~~~~~~~~~~~~~~~


ヴァ・ケビ! 大丈夫か!!


地面にうずくまったまま動かないヴァ・ケビに駆け寄る。


う…うん、大丈夫。
ごめん……油断しちゃった。


ヴァ・ケビは体を起こすと、自分の腕をさすった。
縄のようなもので縛られていたところが赤く腫れている。
どうやら縛られていただけで特になにかをされていたわけではなさそうだ。
俺はヴァ・ケビの無事に胸をなでおろしながらも、頭上高く舞い上がっていった異形の獣の姿を目で追った。

(あれは一体……)

少なくとも、ラノシアでは見たことの無い魔獣。
「自然界によって生み出された」と言う感じではなく、人の手によって強引に作られたようなちぐはぐな化け物だった。


ジャック、あいつなんだったの?

多分だが、ひんがしの国のさらに東に広がる大海の先にあるとされるヴァナディール大陸にいるとされる獣使い「ビーストテイマー」ってやつだろう。
分かつ国であるあの大陸からどういう経緯でこっちに流れてきたかは知らねえが、獣共の使役にたけた一族がいるって話は聞いたことがある。
ただ、あの化け物については俺も分からねえ。

ジャック、あの男私を開放するときに「サスタシャに来い」って言ってた。

サスタシャ?
海蛇の舌のアジトがあるとされるあの場所か?

うん。それ以外は何も言わなかったけど。

……どういうことだ?
自分自らアジトの場所をバラすなんてな。
……罠…か?


俺は腕を組んで考える。
あの男は自分を海蛇の舌の一員と言っていたが、あの話しぶりからするとどうも一線を置いているような気がする。
海蛇の舌に所属しながらも、別の何かによって動いているような。
あれはスパイと言うよりは「利用している」立場にあるような物言いだ。

リムサ・ロミンサを追い詰めることに理のある組織といえば……

まさか! 帝国か!!

俺は双剣士ギルドメンバーに撤収指示とアジトでの戦闘待機を命じると、巴術士ギルドまで走り出した