FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第十七話 「正義を銅の刃に宿し」

次の日、私はチョコボポーターを利用してブラックブッシュまで戻り、その先は徒歩でロストホープ流民街へと向かった。

レオフリックは以前と同じところで火にあたりながら、流民街の住人と楽しそうに話をしている。
私はレオフリックに近寄り挨拶をすると、特に驚いた様子もなく「よっ」と軽く返してきた。
ふと違和感を感じ周りを見渡す。
この前にいた銅刃団の女性が見当たらない。
レオフリックにそのことを聞くと「遠くまでお花を摘みに行っている」と笑って答えた。


しかしどうした?
ここの居心地が忘れられなくなったのかい?


と、相変わらずの口調でレオフリックは軽口を言う。
私はその軽口に答えるように「お前の思惑通りに動いているだけだ」と返した。
「全く人聞きの悪い話だぜ」なんて呆れながらも、否定しないところを見ると「思惑通り」なのだろう。


私は盗賊が居ついたクレセントコーヴの状況と、ホライズンを警備するローズ連隊の状況、怪しげな呪術師ギルドの調査団の話をした。私の話を真剣に聞いていたレオフリックは、無言で何かを考えはじめたかと思うと、合点がいったように頷いた。


そうか・・・そういうことか・・・・
いやな、キヴロン別邸跡で爆発した掘立小屋の中から持ち出した盗賊団の資料のこと、前に話したよな。
あれを色々調べていたんだが、どうやらここらで発掘されている希少な鉱石を盗んで、どっかに横流ししているようだったんだ。

その鉱石の名は「ナナシャマラカイト」と言って、カッパーベル銅山でしか採ることのできない貴重な鉱石なんだ。
ブラックブッシュにいる知人に話を聞いたんだが、どうやら採掘量とブラックブッシュに持ち込まれる量に微妙な差があるらしくてな。現場では誤差として片づけられているようだが、ここのところずっとその誤差が出続けていることに、違和感がを感じていたらしいんだ。

そもそも、ウルダハで出回る「ナナシャマラカイト」にはすべてにロットNoが割り振られるから、出自不明のナナシャマラカイトがたとえ闇ルートであったとしても、市場に出まわれば絶対的に足が付く。
では考えられるとしたら国外への輸出だが、国外へ持ち出すとなれば必ずホライズンの検閲所で商品検査が行われる。
もしそこに「ナナシャマラカイト」を持ち込めば、絶対的に横流し品とバレる。

フフルパの話で、検閲所を通らない怪しげな荷馬車という話があったな。
多分それ、足跡の谷での遺跡調査で使われる教団の資材だろう。一度ナル・ザル教団が調査に持ち込む物品を見たことがあるんだが、いまいち用途が不明なものが多くて、検品のしようが無いんだよ。

ここからは俺の推測でしかないが、盗賊団によってホライズンに持ち込まれたナナシャマラカイトは、一旦教団の資材に混ぜられてノーチェックで検閲所を通過する。その後、銅刃団の警備に守られるように呪術師ギルドの連中がナナシャマラカイトを「検閲所を通った空の箱」に詰め替えして、再び盗賊団の手によってベスパーベイ港から船便でどこかに密輸されていると考えられる。

ちょっと強引か?

そう言いながらレオフリックはけらけらと笑う。


だが「ホライズンを通ってベスパーベイ港から輸出する」時点で、ロロリトの関与は疑う余地もない。
自分に利が無ければ、決して犯罪行為を見逃すことは無いだろうからね。
もし見逃したとなればそれは重大な管理問題となるし、ロロリトの信用も一気に失墜する。

それほど危険な密輸行為が行われている時点で、ロロリトとその手下の銅刃団の関与は限りなく黒に近いグレーだと思うんだよ。

そう思う理由としてはもう一つ。
「ナナシャマラカイト」ってのは高額で取引ができる商材だが、鉱石自体は採掘権を持つアマジナが押さえている。
アマジナはナナシャマラカイトが流通過多になって値崩れを起こさないように、逐次流通量を調整しているから実は市場にあまり出回っていないんだ。
だからロロリトは「誤差」で済まされる量のナナシャマラカイトを盗賊団と手を組んでこっそり盗み、国外へ横流しして利益を得ようとしているんだろう。

だが、呪術師ギルドの連中がそういうことに加担する理由がいまいちわからない。
ロロリトに多額の献金との交換条件で加担を依頼されたのか?
だとしても、王政のご意見番でありウルダハにおいてより頂点に近い立場にある連中が、希少とはいえ石ころ如きの密輸に手を染めるというのは考えにくいんだが・・・

レオフリックは、この件について呪術師ギルドが関与していることに対しては違和感を覚えているようだった。

 

まぁ呪術師ギルドの思惑は置いておくとして、一番の問題はどうやってナナシャマラカイトをくすねているのかってところなんだが・・・
簡単に思い付くところで言えば、カッパーベル銅山を管理するアマジナの連中とつるんでいるか、働いている工夫に金を渡して持ち出しさせているかというとろこか。

でもまぁ・・・アマジナって線は薄いか。あいつら銅刃団の傍若無人な態度にいつも腹を立てているって言っていたからな。
工夫にしても、鉱山への入退場が厳しく管理されているあそこから持ち出すのは無理だろうし。
運搬中に襲って奪うという線も薄いしなぁ・・・・いや・・・これはまいったなぁ・・・
いつも頭の切れるレオフリックだったが、今回ばかりはさすがに頭を抱えて悩んでいた。


ふと私はコッファー&コフィンでアマジナの連中がしていた会話を思い出した。
一か月ぐらい前から、カッパーベル銅山は急に湧いて出たモンスターのせいで閉山中である。
出入り口は鉄灯団にて警備されているものの、銅山の中には誰もいない。

私はそのことをレオフリックに伝えた。
すると、レオフリックは不思議そうな顔をしながら「それってナナワ銀山」のことじゃないのか?
と聞き返してきた。

いや、確かに「カッパーベル」と言っていたはずだ。
私はアマジナの連中が間違いなくそう言っていたことを話すと、レオフリックはしばらく考え込み、何かに気が付いたかと思うと、突然頭を抱えた。

そうか・・・・俺が思い違いをしていただけなのか。
採掘が止まっているのは「ナナワ銀山」ではなくて「カッパーベル銅山」の方だったか・・・
いや、俺も「ナナワ銀山」にモンスターが湧いて採掘が止まっているって噂を聞いていたんだ。
ブラックブッシュで知人と話をした時もその話題になったが「どこの鉱山で」という話までしなかったから、てっきりナナワ銀山のことを言っていると思っていた。
しかし、この前ブラックブッシュ停留所にお忍びで行った時も普通に精錬所は動いていたし、ナナワ銀山方面からの高山鉄道も動いていたから、おかしいとは思っていたんだよ。


しまったなぁ・・・・あまり影響ないと思って情報の裏を取らなかった俺のミスだ。
あぁ・・・これはなんとも恥ずかしい・・・・


あ・・・あの「レオフリック」が狼狽えている。
これはすごく貴重な場面に出くわしたかもしれない。
斥候にとって、情報の真偽を正しく見定めることこそ重要な任務である。伝える情報が間違っていれば、それはすなわち味方を窮地に貶める事態に直結するため、自分の思い違いを信じてしまっていること自体、恥ずべきことなのである。

レオフリックは気持ちを切り替えるように気をとり直し、


今カッパーベル銅山は閉山されているのか。
でもそうなると、さらに銅山からナナシャマラカイトを持ち出すのは不可能・・・
・・・・いや、まてよ?

レオフリックは何かに気が付き、眼光に鋭さが戻る。

カッパーベル銅山ってのは300年以上前から採掘されていた銅山で、ずっと閉鎖されて放置されていたんだよ。
そこをアマジナが最近再開発を初めて、より深ところでの採掘を始めた。
ただ、これまでに掘られた無数の坑道が、まるで迷路の様に張り巡らされていると言っていた。
ということは、カッパーベル銅山内部に入るだけなら、アマジナでも把握できていない旧坑道がある可能性もある。
そこから誰もいない鉱山のなかに侵入して、採掘されてそのままになっている鉱石をこっそり運び出してるんじゃないか?

確かに危険は伴うが、盗賊団のような隠密性に優れた奴らなら、モンスターに気が付かれずに鉱石を集めることなんて容易いだろうし。

取って付けたような推測だが、あながち間違ってはいないとは思わないか?
よし、それはこっちのルートでもう一度洗ってみよう。


やはりこの男、非常に頭の回転が速い。
私の聞いた話から、ここまでの推測を導き出すとは。
斥候というものは、頭がよくないと務まらない職種なのかもしれない。


情報ありがとな!! やっぱりおまえ、俺との相性は抜群な気がするな!
どうだ? 不滅帯に入っておれと組まねぇか?
俺とおまえとだったら、もっといろんなことできると思うんだがな。


嬉しそうにレオフリックは笑う。
私としては、この男と組んだらとことんうまく乗せられて利用されそうだ。


私は今のところ、どこかに所属する気は無いことを伝える。
レオフリックは心底残念そうに、


そうか・・・
でも、気が変わったらいつでも声をかけてくれよ!
お前だったらいつだって大歓迎だからな!!

と、私の背中を「バンッ」と叩いた。
私は苦笑いをしながら、最後にローズ連隊の連隊長であるバルドウィンについて聞いた。


ああ・・・あいつか。
アイツは元々俺の部下だったんだよ。
自己顕示欲の塊みたいなやつで、ロロリトに気に入られたくて点数稼ぎばかりするやつさ。
平気で仲間を売るわ、責任を他人に押し付けるわで、連隊内部での評価は最悪だったが、目上の奴等へのごますりだけは一人前だったからな。結果として副隊長までの地位までのしあがってきた。

俺がローズ連隊の連隊長だった時、クレセントコーヴの地上げが主任務だったんだが、俺は強引な立ち退きではなくて、クレセントコーヴの村民たちに自主的な移転を決意させることを目指して動いていたんだよ。
あそこもシルバーバザー同様、先のねえところだからな・・・・
故郷を守りたいという思いは強いかもしれねぇが、残念ながら時代の流れには逆らえねぇ。

だったら、この先もずっとひどい目に遭わされて追い出されるより、納得の上で自主的に出ていった方が絶対後味はいいだろ?
例え故郷を亡くしたとしても、また新たに故郷となるところを作ればいい。
そうやって人は今まで栄えてきたんだからな。


レオフリックは、クレセントコーヴの村民たちを思い出しているのか、懐かしそうに、そしてどこか悲しそうな表情をしていた。


そう思って、俺はまずは村民たちと良好な関係性を築いてから、新たな移住地の提案をもって時間をかけてでも説き伏せていこうと思っていたんだよ。
だが、そんな俺を見てバルドウィンのやつは「村民に懐柔させられいる」って上に垂れ込みやがってな。
銅刃団の本部から呼び出しを受けたときに、俺の思い描いていた作戦を詳しく説明をしたんだが、どうやらそっちの手回しもばっちりしてあってな。抵抗空しく俺はローズ連隊長の任を解かれて、スコーピオン交易所に異動させられたんだ。

あいつは偉そうにはしているが、剣の腕も微妙だし人望もない。
ロロリトにとって、これ程「使い捨てにしやすい奴」はいないだろうな。
自分もまた利用されていることに気付かず、喜び勇んで「犯罪」の片棒を担いでいるんだろうよ。

とにかくだ、あいつが絡んでいるのであればこっちとしても好都合だ。
アイツは傲慢なだけの馬鹿野郎だからな。
調子に乗らせればぺらぺらと「余計なこと」を喋るだろう。

それをどうにか引き出してもらえねぇか?

 

 

私はレオフリックと別れて、ホライズンへと戻る。
バルドウィンをけしかけてシッポを出させるという宿題をもらったものの、面識もなく接点すらない私に何ができるだろうか。

ここはやはり部下であるフフルパを頼るしかないが、バルドウィンが鉱石の密輸に一枚かんでいることを伝えた時、フフルパは何をしでかすかわからない。それにその「密輸への関与」ということ自体レオフリックの推測の中の話でしかない。
もしその推測が間違っていたとき、無実の罪を浴びせられたバルドウィンがフフルパに何をするかもわからない。
フフルパには盗賊団の密輸のことだけ話をして、ホライズンで怪しいことが起きていないかを監視してもらうことにしよう。

 

私はホライズンに着くと、相変わらずの位置で監視に励むフフルパに声をかけ、盗賊団がナナシャマラカイトを国外に密輸しているらしいことを伝えた。


するとフフルパは、

そ、そ、それは、ほ、ほ、本当でありますか?!
なんてことでありますか!
ウルダハの貴重な資源を密輸するなんて、とんでもないことを聞いてしまったであります!
自分はこのことを、「足跡の谷」にいるバルドウィン連隊長殿に報告するであります!
銅刃団の誇りにかけて、 盗賊を必ず捕らえるであります!!


しまった!!!

と、制止するよりも早くフフルパは足跡の谷へと駆け出して行ってしまった。
私も慌てて追いかけるものの、フフルパの足は相当に早く、追いつくどころかどんどんと引き離されていく。

盗賊団の密輸に関与している疑いがあるバルドウィン自体にそのことを報告したとすれば、フフルパに危険が及ぶことは間違いない。
私はもつれそうになる足を何とか動かしながら、持てる力のすべてを使って走った。
しかし、それでもフフルパには追いつけず、私がフフルパの姿をとらえた時には、すでにバルドウィンに一生懸命何かを話している途中だった。


ば、バルドウィン連隊長殿!
大変であります!! 盗賊どもがカッパーベル銅山の貴重な原石を密輸しようとしているでありま・・・・・・連隊長殿、その石はなんなのであります・・・・か?

フフルパは、バルドウィンの奥で山積みになっていた鉱石を見て言葉を失う。
バルドウィンはため息をつきながら、

・・・・・・ったく、命令を破って持ち場を離れるとはな。
お前ってやつは余計なことばかりしてくれるぜ。

まさか、そ、そそ、それはナナシャマラカイトでありますか!
な・・・なぜその石がここにあるのでありますか!
その石は希少資源として輸出が厳しく制限されているもののはずであります!

お前には関係のねぇことだ。
だが、見られてしまってはしょうがねぇ。

バルドウィンが目配せをすると、遺跡の影から複数の男達が現れる。
銅刃団の連中と共に、キヴロン別宅跡を根城にしていた盗賊団と全く同じ格好をした男が現れた。


まさか・・・・盗賊!!
バルドウィン連隊長殿は、盗賊と手を組んでいたのでありますか!!
とすると・・・・この鉱石も密輸するつもりだったでありますか!

ほう? 馬鹿にしては随分と察しがいいじゃねぇか。
お前はどうせ死ぬんだ。冥土の土産にいいことを教えてやろう。

俺はある方の命を受けてこの盗賊団の連中と共にナナシャマラカイトの密輸を手助けしている。
呪術師ギルドのお偉いさん方の協力も得てな。これがどういうことを意味するか分かるか?


わかりたくもないであります!
それにこんなこと、ロロリト様がお許しになるはずがない!!

ハハ・・・・・ハハハハハハッ!!!!

バルドウィンはフフルパの言葉を聞いて思わず高笑いをする。

馬鹿正直だとは思っていたが、ただの馬鹿だったか!!
いいかよく聞けよフフルパ。
このことは誰でもない、ロロリト様直々の命令なんだよ!

・・・・・・な・・・・・・な・・・・・・・・・・・・なんですとおおおおおおおおおッ!

 

お前の言うような「正義」なんぞ、この銅刃団にはコレっぽっちもねェんだよ!


バルドウィンの言葉を受けて、がっくりと地面に崩れ落ちるフフルパ。
自身が信じて疑わなかった正義を折られたショックで、フフルパは肩を震わせていた。


さて・・・・最後の余興としては中々の見世物だったぞ・・・フフルパ。
俺を楽しませた褒美として、せめて苦しまずにあの世へと送ってやるよ!!

そういってバルドウィンは剣を振り上げ、フフルパの首元めがけて一気に振り下ろす。

私はフフルパへと飛びつき、その小さな体を突き飛ばす。

ザクッ!!!

がぁっ!!!

左腕に鈍い痛みが走る。
私は左腕を確認すると、ダラダラと血が滴っていた。
どうやら運の悪いことに、防具のつなぎ目から剣先で切られてしまったようだった。


ぼ、冒険者殿?!!!!


突然突き飛ばされたことで呆然としていたフフルパだったが、腕から血を流す私の姿を見て我に返ったのか、血相を変えて私の元へと駆け寄ってきた。


だ、だ、大丈夫でありますか!!


気が動転したようにガタガタと震えながら、私の左腕を見てくる。
血で真っ赤にはなっているが、傷自体はそれほど深くはない。
私は「大丈夫だ」と答える。
フフルパは震える手で、自分の腰に下げていた布をほどくと、私の腕にきつく巻きつけた。


ち・・・・余計なことをしてくれるな冒険者ぁ!!
お前もまとめてあの世に送ってやる!!


切りかかってくるバルドウィン。
だが、バルドウィンの行く手を塞ぐように盗賊団の男が立ちふさがった。


おい!!!?


戸惑うバルドウィンをよそに盗賊団の男は、私に向かって


青い防具の冒険者・・・・青い防具の冒険者・・・・・
・・・・・おまえ・・・・俺のオヤジを殺したか?


私は突然のことで一瞬思考が止まる。
しかし、すぐにこの盗賊団の男が何者であるか思い当った。
私は「それはキヴロン男爵のことか?」と聞き返す。

すると、フードに隠れていた呪術師の男の顔が狂気に歪む。


・・・・そうだ・・・・サー・キヴロン男爵Ⅲ世は俺のオヤジだ!
よくもヤってくれたなこのくそ野郎!!!!


怒号と共に盗賊団の男は手を体の前に構えると、体から一気に魔力を放出する。
そして放出された魔力は一瞬で盗賊団の男の手の前に球状に圧縮され、私目がけて放たれた。

やばっ!
剣を交ぜ合う間合いではないものの、遠距離攻撃を主とする盗賊団の男との距離はほとんど無いに等しい。
咄嗟に避けることができるわけでもなく、切られて力の入らない左腕で盾を構えることもできない。
無防備な体勢の私目がけて、盗賊団の男が放った魔力の塊は容赦なく迫る。

 

その時、足元で一瞬何かが動いたかと思うと、私に迫っていた魔力の塊はあらぬ方向に弾き飛ばされ、爆ぜる。
ドンッ! という衝撃音。そして次の瞬間には盗賊団の男は地面に組み伏せられ、その後ろで呆気にとられていたバルドウィンに鋭い剣の一撃が眼前に迫る。
バルドウィンは間一髪のところでその剣戟を躱し、大きく後ろに飛びのいた。

フ・・・フフルパぁ!!!!!!


フフルパは一度間合いを確かめて、再び剣を構える。
町を警備していた時の危なっかしさは何処へやら。
その小さな体躯に似合わず、圧倒的な存在感が感じられた。


冒険者殿! 自分はこいつらを相手をするであります!
だから今のうちに逃げるであります!!
銅刃団の誇りにかけて、自分はこいつらに制裁を加えるのであります!!


私を逃がし、一人で戦おうとするフフルパ。

フフルパは突っ込んでくるバルドウィンの槍の攻撃を華麗に避けながら、私に逃げるように促す。
そんな中でも隙をみては懐に潜り込み、一撃を入れては再び距離を取る。
それほど素早い攻撃の中でも、周囲への警戒は怠っていないためか、他の銅刃団の攻撃ですらも相手の動きを読んでいるかのように躱していく。フフルパは次から次へと立ち位置を素早く変え、相手に的を絞らせない。

まるであらかじめ決められた殺陣を見ているかのように、フフルパはひらひらと蝶のように攻撃を躱し、蜂の如く鋭い一撃を打ち込んでいく。

ひょいひょいと華麗に攻撃を躱していくフフルパの動きには何一つ無駄がなく、美しいほどに洗練されていた。
これは地道な稽古を怠ることなく、日々鍛錬に励んできた証拠だ。
剣士としてのセンスもさることながら、基礎に裏付けされたフフルパの体裁きは一瞬たりともぶれない。

 

私はそんな気高き戦士を一人置いて逃げるわけにはいかない。
切られた左腕で持っていた盾を捨て、大きく深呼吸をする。
そして、私もまた剣を構えた。

冒険者殿!? あなたには関係のない戦いなのであります!!
それにその怪我では・・・・早く逃げるであります!!


フフルパは私の退路を守るかのように動き、敵を寄せ付けない。
確かに、怪我をした者がいるだけで勝利は数倍困難なものとなる。
常に攻めるのと、守りながら戦うのでは、難易度が断然違うのである。


しかしこの戦い・・・・自分も深く関係あるのだ。
フフルパの放った足払いで地面に組み伏せられた盗賊団の男がゆっくりと立ち上がる。
その表情は怒りに狂い、すでに正常な思考を失っているようだった。
構えた手には再び魔力の塊が凝縮している。

お前のせいで・・・・・お前のせいでぇぇ!!!


こいつは・・・先に仕留めないと厄介だ・・・
私は第一目標を盗賊団の呪術師に定め、フフルパに目配せをする。
フフルパは私の意図を察してくれたのか、そのままバルドウィンと他の銅刃団の連中を釘付けにするように立ち向かっていった。

幸い、復讐に狂う呪術師の男は私以外に気を逸らすことはなさそうだ。
呪術師は攻撃の威力こそ大きいものの、魔力を放出するまでに時間がかかる上、集中力を常に維持しなければならない。
そのため、攻撃距離の広い呪術師は大体後方から攻撃を行う者がほとんどだ。
しかし、呪術師の男は怒りで我を忘れているためか、前に突出したまま後ろに下がる気配もない。

今回はフフルパと二人とはいえ、相手は呪術師の他に槍術士や弓術士までいる。
さらに切られた私の左腕では盾を持つことすら難しく、あらゆる攻撃から身を守ることができない。

とすれば、やることは一つ。
攻め続けて、攻撃される前に仕留めるしかない!

私は呪術師側の加勢に加わった銅刃団達には目もくれず、呪術師めがけて突進する。
右方から放たれた矢をなんとか掻い潜り、地面に落ちている石を呪術師めがけて蹴り飛ばしながら、一気に間合いを詰める。
飛び向かってくる石に集中力をそがれた呪術師は満足に魔法を撃つことができないでいる。
それでも、呪術師は下がることもなく敵意を私に向け続けた。
呪術師の目はすでに理性を失っている。周りの状況などお構いなしに、私に対してただ復讐することにのみ全力を向けている。

ガツッ

と、満足に整備されず、木の板が捲れあがっている木道に足をとられて一瞬私の体がよろめく。
その隙を逃すまいと呪術師の男は凝縮された魔力の塊をよろけた私の体めがけて一気に解き放つ。

狙い通り・・・・!

呪術師の手から魔力の塊が放たれると同時に、私は大きく身を翻して迫りくる魔力の塊をすんでのところで躱し、呪術師の懐に一気に飛び込んだ。
私はわざと隙を作り、障害となる魔力の塊を撃たせた。一か八かではあったが、避ける準備さえしておけばたとえ距離が近かろうと避けることはできる。

その勢いのまま、私は盗賊団の呪術師の胸に剣を突く。

ザクゥ・・・・

骨に閊えることなく、ズブズブという感触を手に伝えながら、私の突き出した剣の切っ先は
呪術師の胸に深々と突き刺さった。

ぐふ・・・・・

呪術師の男は、口から血を溢れさせながらも、決して私から目を背けなかった。
弱々しく震えながらも、自分の胸に刺さった剣を握る。

血が溢れ出す口をパクパクと動かし、何かをしゃべっているようだった。しかし行き場を求めて湧き上がり続ける自身の血によって声帯を震わすことができず、それは決して声となることはなかった


冒険者殿!! 後ろ!!!


フフルパの声に反応して後ろを振り返ると、銅刃団の剣術士がこちらに迫っていた。
呪術師の胸から剣を抜こうとするが、肉に深く刺さった剣はビクともしない。
私は咄嗟に足を呪術師の胸に当てて、蹴り飛ばすように力を入れて何とか剣を抜く。
そしてそのまま勢いのついた剣で、銅刃団の剣術士の攻撃を受ける。

ガギィィィン!!
ビシャァ!!

金属と金属がぶつかる甲高い音が響く。
剣にべっとりと付いていた呪術師の血が、飛沫となって剣術士の男に降りかかった。

ウガッ!!!

その血の飛沫がどうやら目に入ったらしい。
目の痛みに悶絶する剣術士の男を、間髪を入れず剣で薙ぎ払った。

ガァン!!

私の剣は血で濡れ、切れ味が鈍っていたためか、剣術士の着ていた鎖帷子を切り裂くことは敵わなかった。
しかし、剣術士の男は強い衝撃に耐えきれず気を失ったようだった。

はぁ・・・はぁ・・・


残るは・・・・
私は血で滲む視界のなかで、何とか周りを確認する。
バルドウィンと距離をとっていた弓術士一人を残し、他の銅刃団の男たちはすべてフフルパ一人によって打倒されていた。

フフルパを見ると、あんなに激しく動いていたにもかかわらず、少しも息を乱していない。
本当に一人ですべてを打倒できたかもしれないと思うほど、その小さな体躯から想像できないほどの強さを持っていた。
当然、私に比べても段違いの実力だ。

フフルパはそのままバルドウィンのみに照準を絞り、再びとびかかっていく、

それならばと、私は残された弓術士に狙いを定める。
しかし、私から敵意を向けられた弓術士の様子がどうもおかしい。
弓術士は私のことを恐れ慄いているようで、ゆっくりと近寄る私を拒むかのように後ずさりを始めた。
そして「わぁぁぁ!!」という声を上げて逃げていった。


くそっ! 逃げるなぁぁ!!


バルドウィンは無様に逃げていく銅刃団の仲間に声を張り上げるが、声が届くこともなくただ一人となった。

 

もはや多勢に無勢!! 大人しく観念するであります!!


バルドウィンに投降を呼びかけるフフルパ。
バルドウィンは予想外の展開に納得がいかない様子で、


な・・・なんでそんなに強いんだよ!
くそっ!! ほかの盗賊の奴らは何やってるんだ!! 呪術師ギルドの連中は!?


キョロキョロと周りを見ながら、バルドウィンは後ずさりを始める。
確かに呪術師の男以外に、盗賊団の連中が加勢に来ないのはなぜだ?

私は奇襲を警戒して構えを崩さない。


そこまでだ!!


突然、女性の甲高い声が周囲に響き渡る。
声がする方を向くと、そこには別の銅刃団の者たちが複数立っていた。