FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第二十三話 「剣術ギルドの光と影」

私は、さっそうとクイックサンドを出ていくアルディスの背中を見送った。


あなたも・・・無事の様ね。


後始末に追われながら、給仕に色々と指示を出し終えたモモディが、ため息をつきながら私に話しかけてきた。


アルディスったら、本当に昔から何一つ成長していないわ。
自分のやりたいように周囲を巻き込んで、悪びれもしないで去っていくの。
まぁ裏表のないサバサバした性格の上に、面倒見も良かったから不思議と人望は厚かったのだけれどね。
アイツが死んだって話、私はこれっぽっちも信じていなかったけれど、やっぱり生きていたわね。
でも、案の定問題ごとを抱えているようだけれど。


と、苦笑しながらモモディはアルディスが去って行った方を見ていた。
私はアルディスの過去が気になり、モモディに聞こうとしたが、


もうすぐ不滅隊の連中がここに着くわ。あなたも早く剣術士ギルドに戻りなさい。
でないと、今回の騒動の件で長時間拘束された挙句、色々と根掘り葉掘り聞かれるわよ?
まぁわたしとしては、その役をあなたが担ってくれた方が楽なんだけれどね!


と、冗談めかしく忠告してくる。
私はモモディの忠告に従い、逃げるようにクイックサンドを後にした。

 

もうミラ達は戻ってきているだろうか・・・
私が剣術士ギルドに着くと、入り口はまだ閉まったままで、扉に貼られた一枚の貼り紙がそのまま残っていた・・・・矢のおまけつきで。
私は刺さった矢を抜き取り、貼り紙を剥がしてくしゃくしゃと丸めた。


もう終わったのですか?


声をかけられふと横に目を向けると、そこにはルルツの姿があった。
私は襲撃者は撃退したと伝えると「そうですか」と言いながら剣術士ギルドの扉の施錠を解いた。

もっと時間がかかると思ったんだけど、案外と早かったのね。
まぁ・・・アルディスのことだから心配はしてはいなかったけどね。

モモディにしろルルツしろ、アルディスへの信頼は思いのほか厚いと感じる。
私と違ってそれだけ長い年月、同じ時を過ごしてきたのだろう。

アルディスはルルツもまた剣術士ギルドに長いこと籍を置いていると言っていた。
であるなら、アルディスのことについて知っていることを教えてくれるかもしれない。
私はいそいそとギルド内の開場準備をしているルルツに、アルディスのことを聞いてみた。


はぁ・・・まあここまで関わっちゃったのなら知らないのもおかしいかもね。
ミラ達が戻ってくるまでの間だけど、教えてあげる。

そう言って、開場準備を終えて元通りになったギルド内を確認して、受付に戻っていった。

しかしいつもと口調が違うな・・・こっちが本当のルルツか?

いつものふざけた様子のないルルツは私にとって新鮮であった。
そういえば、アルディスはルルツは見た目よりも年齢が何とか・・・と言っていた気がする。
とすると、あのふざけた口調は・・・若作り・・・


何か失礼なことを考えてるようだったら、蹴っ飛ばすよ?


と、鋭い眼光で睨みをきかせてくるルルツ。
私は「とんでもございません!」と全力で否定して、改めて話を聞く体勢を取った。


アルディスはね、もともとここのギルドで活躍していた剣闘士だったの。
アルディスが持っている剣はね、剣闘士としての功績を讃えられて王室より与えられた一対の剣。
刀身に「不滅」の言葉が刻まれた黒き鋼の剣は、もう一つの剣と合わせて「ナルザルの双剣」と呼びもてはやされた。

そう・・・実はもう一人アルディスと同じ剣を持つ男がいるの。
そいつもまたこの剣術士ギルドに所属していて、アルディスと共にこのギルドの黄金期を作り上げた男。
そしてその二人を育て上げたのが、ミラの親父さんよ。

アルディスはあの通り、適当で自分勝手で人の話を聞かない男だったけど、面倒見がよくて細かいことを気にしない性格だったから、ギルド内でもとても人気があった。
ギルドマスターの親父さんがまたすごい性格をしていたからね。アルディスという存在は下の者にとっていい緩衝剤になっていたの。

もう一方の男は、真面目で口数も少なく性格的に神経質で「近寄りにくい雰囲気」を漂わせていたから、剣闘士としての敬意はあっても、とっつきにくさから距離を置く人が多かったかな?

性格は正反対の二人だったけど、馬が合うのか二人は互いを認め合う友人として、お互いに強くなろうと切磋琢磨し続けた。
そしていつしかコロシアムのトップを争うところまで上り詰めたの。
二人の戦績はいつも拮抗していて「互角」のままずっと頂点に君臨し続けた。


でも、それもある事件をきっかけに崩れてしまった。
二人によって幾度となく繰り返された「一番」を決める勝負。
アルディスはついにその男に打ち勝ち「コロシアム」の頂に登りつめた・・・・

しかし、その後予想もしていなかった展開が待っていた。
勝利をつかんだはずのアルディスは八百長の嫌疑をかけられて追われ、ギルドマスターの親父さんはその混乱のさなか、何者かによって暗殺されてしまった。

八百長の嫌疑がかけられた剣術士ギルドの栄光は一瞬で地に落ちて、崩壊寸前にまでなった。
剣術士ギルドには、ギルドマスターも、アルディスも誰もいない。
ほとんどのギルドの者は剣術士ギルドを閉めることを進言した。
でもただ一人、ミラだけは存続を望んだの。

ただ・・・・あの子もまた人望がなかったからね・・・
結局ミラとともに残ったのは、入って間もないの若い子ばかりで、長くともに歩んできた連中は全部出て行ったわ。

でも、そこからのミラはすごかった。
親父さんを失って、ギルドのベテランたちもすべていなくなって、ギルドに汚名が着せられて。
ぼろぼろの状態だったけれど、このギルドが存続できるように一からあの子はあの子なりにろいろ考えて試行錯誤してきた。時には失敗を繰り返しながらも、決して折れることなく・・・ね。


その努力が実って、いまの剣術士ギルドがあるの。
剣術士ギルドは同じだけど、あの時とは全く違う、ミラがギルドマスターの「剣術士ギルド」よ。


私は「ルルツもその支えになったんだね」というと、ルルツは珍しく照れながら「私は受付しかできない能無しだから・・・って話の腰を折るんじゃないっ!」と答えた。


八百長」によって前のギルドは崩壊したけど、私は今でもそれが真実とは思っていない。
ギルドマスターの親父さんはそういう不正を一番嫌う人だったし、アルディスだって不正までして勝利を望むような奴じゃない。

もし・・・一番疑いがあるとするなら・・・・あの男・・・ね。


ルルツは顎に手を当てながら、眼光を鋭く光らせる。


あの男・・・剣術士ギルドが大変になっているにもかかわらず、突然に姿を消したの。
私は初め、アルディスと共にどこかに逃げたのかと思っていた。
そして、風聞でアルディスはどこか遠い地で捕まって殺されたと聞いていた。

でもこの前アルディスが再び戻ってきた。それはもう驚いたよ。
死んだと聞かされていた人間が、最後に会った時と変わらずヘラヘラして現れてんだから。
ミラも相当びっくりしたはずよ。だってミラ、アルディスだけには懐いていたんだからね。

アルディスがここに来たとき私に言った。
「ここに俺を狙った襲撃者が襲いに来る。その中にはあいつがいるかもしれないから急いでここを閉めろ。あいつはこのギルドに恨みを持っている。顔を知っているお前も殺されかねん。」

ってね。
逃げて行った奴に恨みを持たれる筋合いはないけれど、殺されるのはもっとごめんだ。
だから「始末」をアルディスにお任せしたんだよ。

でその時、私は確信したんだ。
あの男が「八百長疑惑事件」に深くかかわっているんだと。

真相を知っている者を排除しに、アルディスを追いかけてアイツもウルダハに戻ってきているんだ。


喋りながら、ふとルルツはうつむいた。


このことをミラに言うべきかどうか・・・
今の私には判断できない。

でも一番の被害者であるあの子にとって、一番の選択をとってあげたいと心から思うんだ。
なぁ・・・どうしたらいいんだろう?


ルルツは真剣な目をしながら、まっすぐに聞いてきた。
知らないほうが幸せなこともある。
もしミラ自身、その時のことが今もなお心の重しになっているのであれば、すべてを話して解放してあげればいい。だが過去の出来事から決別し、今を大事にしているのであれば、このまま言わないほうがいいだろう。

だがまだ何も終わっていない。

私はルルツに、アルディスが襲撃者を見て「はずれだ」と言っていたことを話す。
確かにあの襲撃者の中に、アルディスと同じ「剣」を持つ者はいなかった。


そう・・・


ルルツは悔しそうな顔をしながら地面を見つめた。


なら今はそのことをミラに言うのはやめよう。
剣術士を襲う集団と襲われたギルド所属者、そしてアルディスの登場とが続いて、今とても混乱していると思う。
ここであの男の話をしたら彼女、何を言い出すかわからないから。
だってミラって、あまり深く考えることが苦手だからね。


と、何かを思い出すようにフフッと笑った。
その表情は自分の娘をみて笑う母親のように穏やかで、慈愛に満ちていた。

私はその温和な感じを出すルルツに「長く見ているだけあって、まるで母親の様だな」というや否や、ルルツの顔が急に鬼のような形相になり、


剣術士ギルドのアイドル少女たる私に向かってなんてこと言いやがる!!


と言いながら私の顔に分厚い本を投げつけた。
油断しきっていた私は、笑顔のまま近距離から本の直撃を受け、倒れて悶絶する私のもとにつかつかと歩いてきたルルツは、「ゲシッ」と私の顔を足で踏みつけた。


アイドルは歳をとらない、そしてトイレにもいかない!!
分かったかこの朴念仁!!


その小さな体躯に似合わず、やはりララフェル族の力はヒューランをはるかに超えている。
その小さい足に踏みつけられているにもかかわらず、顔は一切動かすことが出来なかった。
まぁ・・・ルルツの優しい本質が見れたから、これはこれでいいかと納得する私だった。


・・・・お前ら・・・一体何をやっているんだ。


襲撃者のアジト制圧から帰ってきたミラは、ルルツと私の姿を見て呆れていた。
ルルツは慌てて私から飛びのき「おかえりなさいッ!」とかわいらしい声を出そうとするが、動揺からからちょっと裏声になっていた。

私も起き上って、ミラに「お帰りなさい」という。


・・・・・ただいま。


と、ミラは納得がいっていないような表情で挨拶を返してきた。

 

 

納得のいかないような表情をしながら戻ってきたミラに、襲撃団アジト制圧の首尾はどうだったか聞いてみた。

ミラの話によると、
先に到着していた不滅隊によって既に制圧は終わっており、先行した不滅隊の話では留守を任されていた数名の者がいただけで、呆気ないほど簡単に作戦は終わったとのことだった。
その後不滅隊は増援部隊と合流し、戻ってくるであろう襲撃者集団の本体を待ち伏せるとのことで、剣術士ギルドの面々は戦わせずしてお役御免となったようだった。

アルディスにけしかけられ意気込んで現地に飛び込んでいったミラだったが、不戦という歯切れの悪い幕切れに振り上げた剣の下ろし場所にこまっているようだった。


私は「戦わないにこしたことはない」となだめたが、それでも機嫌が直ることはなく、終始周りに当たり散らす始末であった。

扱いに困っている私にルルツは小さな声で「放っておきなさいな」と助言をしてくる。


一旦取り乱すと始末に負えないの・・・ここがミラの一番の欠点かしらね
ミラの気持ちが落ち着くまで無理にとめないほうがいい。
高ぶった気持ちが落ち着けば、いつも通りに戻るよ。


長いことミラを見てきたルルツの言うことだ。
それが正解なのだろう。

 

 

それから数日後、聞いた話によると襲撃者集団のアジトに張り込んでいた不滅隊だったが、いつまで待っても本体が戻ってくることはなかった。その後クイックサンドへの襲撃者の急襲と、冒険者たちによる迎撃成功の一報が掃討作戦部隊にももたらされ、作戦は一応「完了」という形で幕を閉じた。

襲撃者集団の掃討により、剣術士を対象とした襲撃事件は幕を閉じた・・・・・かに見えた。

しかし新たにウルダハ近郊に流入した別の集団により、その後も剣術士への襲撃はあとを絶たず、潰してはまた新たに発生するという「いたちごっこ」が繰り返されていた。

一向に減る気配を見せない襲撃者の対応に苦慮する不滅隊は、銅刃団やアマジナの私兵組織である鉄灯団にも協力を依頼したが、銅刃団については団内で不義を働いたものの粛清と、規律強化のための再教育のため人員が不足中で、鉄灯団もまたナナワ銀山にて発掘されるクリスタル原石の盗難事件が発生中とのことで、協力ができる状態ではないと断られたらしい。

そのため現在では剣術士をはじめとし、ウルダハ内で「戦技」を主とする各ギルドから有志が集められ、いまだ収束をみない襲撃者の掃討に当たっている。

 

ミラっ! ブラックブッシュでまた剣術士が襲われたらしい!!


そう言いながら、剣術士ギルドの男が駆け込んでくる。


くそっ! 一体何が目的なんだあいつらはっ!


まるでヒステリーを起こしたようにガンガンと手すりを叩くミラ。
男はその姿に少し怯えながら、


今回襲われた剣術士は相当の手練れだったらしい・・・
だがいつもと違って、一人の格闘士の女にやられたってことだ。
アイツらも腕利きを揃えだしたのかもしれない・・・


男のその言葉に、ギルド内の空気が重くなる。
不滅隊やほかのギルドから人員を出しているとはいえ、一向に事態は収束しない。
襲撃者はいまや複数の集団が入り乱れ、剣を持つものを手当たり次第襲っている状況である。

目的も不明、主導者も不明。
クイックサンドを襲った襲撃者は「アルディス」を狙ってきたが、今の襲撃者達の目的はそうでは無いようだ。

しかし今回の襲撃事件・・・いつもと様子が違うな。

襲撃者といっても、そのほとんどは傭兵崩れでどこにも所属できないような「はみ出し者」の集まりでしかない。複数 対 一人では対処が難しいが、複数 対 少数 であれば容易に撃退できる程度の者達だ。
特に各ギルドから駆り出されている連中であれば、一人であっても勝てる。

だが今回は違った。
手練れの剣術士が、たった一人の襲撃者に負けたのだ。


と・・とにかく! その剣術士はコッファー&コフィンに何とか逃げ込んだらしいが、怪我をしてしまって動けないらしく、救援要請が出ている。
急いで回復薬を持って向かうよ!


そう言って棚に常備してある回復薬を取り出し、ギルドを出ていこうとする男を制止して「私が代わりに行く」ことを伝えた。
戸惑いながらミラと私の顔を交互に伺う男に「気にするな」と言い、私はミラに確認をとることなくギルドを出て行った。
ミラは私のことを見ようともせず、制止することもなかった。

 

実はあの一件以来、ミラは私に指示することが無くなった。
ことの発端はクイックサンドでの襲撃騒ぎに、私とアルディスが絡んでいたことをミラが知ってからだ。
モモディ女史の手回しもあってか、不滅隊経由で情報が漏れることはなかったのだが「人の口に戸は立てられぬ」という故事通り、騒ぎにいあわせた人のうわさ話を封じることはできなかった。

鬼の形相をしたミラに問い詰められたが、私はかたくなに「ただ居合わせただけ」と説明した。
しかし「アルディス」と一緒にいたことに意図を感じていたミラを納得させること叶わず「隠し事をするような奴を信頼できん」と吐き捨てられ、今に至る。


その後はずっと剣術士ギルドに顔を出しては剣闘士と手合わせをしながら修練に励み、時折舞い込んでくる襲撃情報に耳を傾けながらも、ミラの指示がない限りは決して自分から動くことはしなかった。

周囲にしてみれば、お互いの意地と意地との張り合いのように映っているようで、まるで腫物を触るかのような態度で接してくる。ただ私の思いも察してくれているのか、決して邪険に扱われることがないのは救いではあるが・・・・このことについては、どうやらルルツが裏で間を取りもってくれているようだった。

それに、私は意地を張るためにギルドに居続けているわけではない。


私が欲しいのは、末端の襲撃者達の情報ではない。
この事件には、必ず「首謀者」がいる。
それは多分、アルディスが追っている「本命」。

その「本命」を討ち果たすことこそ、たくさんのものを奪われたミラの敵をとることになるのだ。

あの一件以来アルディスはウルダハに姿を見せてはいないが、あの男は今も「本命」を探している。
そして、お互いにその「本命」に近づいた時、再び出会うだろう。

そのためにも、私は首謀者の糸口をつかまなければならないのだ。

今までとは毛色の違う今回の一件にその一片が残っていることを信じて、私はコッファー&コフィンへと向かった。

 

コッファー&コフィンに着くと、傷ついた剣術士は酒場の片隅で介抱を受けていた。

ぼろきれできつく縛られ血止めはしてあるものの傷は相当に深く、よくその傷でここまで逃げてこれたなと、感心してしまうほどにひどかった。

熱が上がっているのか呼吸が荒いものの「意識を失ったら二度と目を覚ますことはできない」と感じているのか、いつ切れてもおかしくない意識をかろうじて保ち続けているようだった。
私は急ぎ傷ついた剣術士の男のもとに駆け寄り、ギルドから持ち出したポーション・・・ではなく、セヴェリアンお手製の特製ポーションの方を男の口から流し込む。

するとまるで手品を見ているかのように、致命傷とも見える体に刻み込まれていた無数の傷は、みるみるとふさがっていった。

相変わらずこのポーションの効きはすごいな・・・。

単純な回復量だけでいったら、私が銅刃団の女から受け取ったエクスポーションを軽く超えている。
市販されているどんなに高級な回復薬とも違うその特製薬は、傷を癒すだけでなく毒や麻痺にも効果がある総合回復薬の様だった。

実は、初めにセヴェリアンに特製ポーションを作ってもらった後も、ずっと錬金術師ギルドに通っている。それはセヴェリアンと「ある契約」をしたからである。
私はパールレーンのランドベルドから「草の入った袋」を受け取り、セヴェリアンの元に持っていく。
その報酬として「特製ポーション」を受け取っている。

だが、その特製ポーションはウルダハで使用認可を受けていない「未認可薬」であり、表立っての使用は禁止されているらしい。効果の実証実験は終えているものの、未認可の理由は単純に「治験不足」とのことだった。
ただ効き目が強すぎて、健常者に使用すると逆に体調を悪くすることもあるとのことで、使用者は重傷者に限るとのことだった。

そこで、私はギルド内に備蓄しているポーションの中にこの特製薬を混ぜ「錬金術師ギルドからの支給品」との名目で、特製薬をギルドの連中に持たせていた。
評判は上々の様で、この薬のおかげで一命を取り留めた者も多く、目立った副作用もでていないようだった。

それでも、秘密裏に人体実験に加担していることは否めない。
確かに作ったのは錬金術師ギルドだが、使っているのは私だ。
もしこのことがバレでもしたら、私は剣術士ギルドを追い出されるどころか、ウルダハからも追放されるだろう。
そんな危険な橋だと分かっていながらも、助かる命ならば手段を問わずに助けたいと、私は思うのである。

すがった藁で、溺れ死ぬこともあるのだが、セヴェリアンが作った「真面目」な薬であるのならば、万が一も無いだろう。


特製ポーションの効力をもってしても、致命傷を負った男の傷は全回復とまではいかなかったが、痛みから解放されて落ち着きを取り戻した男に「大丈夫か?」と声をかけた。
男は「大丈夫だ・・・ありがとう・・・」と言葉を返しながらも、死線を彷徨い続けながら生きるために保ち続けた精神力は限界の様で、ぐったりと体を弛緩させ、息も絶え絶えのようだった。

この状態で聞くのは流石に酷か・・・・

私は男に「よかった」と言い立ち去ろうとすると、


お前・・・今回の襲撃の件を聞きに来たんだろ・・・・
俺は大丈夫だから、聞いてくれよ。


そう男は言い、無理やり体を起こそうとする。
その男をずっと介抱していた店員は、倒れないように支えながら男の意思に従った。


あの女・・・・とんでもねぇ強さだったよ。
俺もエオルゼア全土をまたにかけて魔物退治を生業にしてきたが、あそこまでの奴と出会ったのは初めてだ。
なにより、何か暗示にかけられているかのように目が座っていたよ。顔色も死人のように真っ黒だった。
ブツブツと何かを言いながら、防御なんてろくにせずにただただ攻撃してくるんだ・・・まるで不死人を相手しているような不気味な感じだった。

それに・・・女の持っていた武器にはどうやら毒が塗られていたようだ。
初めは何とか女の攻撃を避けていたんだが、次第に体が重くなっていって、視界も霞みはじめたんだ。

これはやばい・・・と思って、もつれる足を何とか動かしながらここまで逃げてきたんだが、その時に攻撃をもろに受けてしまってこのざまよ・・・


男は諦めたような顔でうなだれている。


だが、逃げる途中に投げた盾が女にあたったとき、何かを落としたようだったな・・・
もう拾われてしまったかはわからないが、何かの手掛かりになるかもしれない。
こんな姿でお前に頼むのも情けない話だが・・・頼む・・・・

敵を・・・・とって・・・・くれ

そういうと、なんとか保っていた精神力が限界に達したのか、がくっと体の力を失って倒れこみそうになる。それを介抱していた店員は何とか支えた。


傷は回復しているため、命には別状はないだろう。
私はコッファー&コフィンのマスターに、剣術士ギルドに使いを出して救援部隊を向かわせてほしいと打診する。

マスターは「まかされた!」と言って、一人の店員を使いに走らせた。
私は剣術士の男の介抱を改めてお願いし、コッファー&コフィンの外に出た。


まだ盾はそのままあるのだろうか・・・
ブラックブッシュ停留所へと向かう街道沿いを中心に、くまなく見て回る。
すでに拾われていたら終わりだな・・・と思いながらも、一縷の希望を胸に探した。
そして程なくして、街道の片隅に打ち捨てられたように地面に転がっている盾を見つけた。運がいいのか悪いのか、その盾は草の影に隠れるように転がっていた。
私はその盾を拾い上げ、その周りの草むらをくまなく見る。
落としたものが何かはわからない・・・・だが、逃げる途中で「落とした」と分かるものだ。
何か光るものかもしれない・・・

そしてしばらくの間、地面を這いつくばるように草をかき分けながら探すと、一つの指輪を発見した。


これ・・・は?

それは「サソリの刻印」が入った不気味な指輪だった。