FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第三十四話 「ナナモ女王暗殺計画」

ミラは復帰しているだろうか・・・

剣術士ギルドにつくと私は入り口のドアを開け、そーっと中を覗き込んだ。

???

剣術士ギルドの入り口は開いていたものの、中に人の気配がない。
私は不思議に思いながらもこっそり中に入ると、

コラァァァァッ!!!!!

と耳元で怒号が上がる。
年甲斐もなく「ウヒャァ!!」と変な声を上げながら、私はヨタヨタとふらつき「どしんっ」としりもちをついた。


今までどこほっつき歩いていたんだっ!!
このろくでなし!!

怒声に続いて、罵声を浴びせかけてくるのは受付のルルツだった。
いつの頃からか私に対しては猫をかぶらなくなったルルツの顔は、イライラしているというよりは、どこか焦っているような鬼気迫る表情だった。
私はただならぬ気配を感じて立ち上がり、ルルツに事情を確認する。

ルルツの話によると、アルディスがウルダハの法務庁に捕まったらしい。
しかも、ナナモ女王陛下暗殺の容疑を掛けられてだ。
王宮に忍び込み、酒宴の杯に猛毒を仕込んだということらしい。

はぁっ?

私はあまりのことに素っ頓狂な声をあげてしまう。
あのアルディスがナナモ女王を暗殺?
あり得ない・・・というか、アルディスにナナモ女王を殺める理由が見当たらない。

アルディスもリーヴォルドと同じく、故郷を追われた腹いせに「復讐」に走ってしまったとでもいうのだろうか?
私はうむむッ・・・と悩んでいると、


アルディスがそんなことをするわけがない!
アイツのことだ・・・ふらふらして何かに巻き込まれたんだ!


ルルツは半ば発狂気味に叫んだ。


・・・確かに、リーヴォルドが犯罪者集団の手を借りてアルディスを嵌めた可能性は十分に考えられる。そういえばあの男・・・

「リーヴォルドの悲願の一つは近く達成される」

と言っていたな。
とすれば、やはり一計を講じてアルディスを嵌めたと考えるのが妥当だろう。

私はルルツに今までの経緯と剣術士襲撃を先導していた犯罪者集団のことを話し、その集団がリーヴォルドと繋がっていたことを説明する。
その話を聞いてルルツは苦々しい顔をしながら、


アイツ・・・どこまで逆怨みをすれば気が済むんだ!


とダンダンと地団太を踏む。

ん?

私はふと違和感に気がつき、ルルツに「アルディスがナナモ女王暗殺未遂容疑で捕まったのはいつのことだ?」と確認する。
ルルツの話では、アルディスが捕まったと連絡が入ったのは今日の午前中。
犯行はその二日前の夜、銀冑団の連中がどこかに行って警備が薄くなった時間に行われたらしい。

・・・・とすると、犯行に及んだ日は私と銀冑団とで王冠奪還に向かった日だ。

私は再び考え込む。
あの日、酒宴が催されるという話はなかった。
それは私に伝える必要がないことだからか?
確かに、パパシャン氏は銀冑団総長であるジェンリンスの代理として現場に駆け付けた。
ジェンリンスは人手の少ない中、酒宴警護の指揮のためにウルダハに残っていた可能性はある。で、そこを狙われた・・・と。

しかし・・・

「ナナモ女王陛下暗殺」というのは、たとえ未遂であったとしても国を揺るがすような重大な事件だ。
国政への王室の影響力が低下しているとはいえ、ナナモ女王陛下の国民からの支持はいまだ高い。
それなのに動けなくなった私を迎えに来た銀冑団も、担ぎ込まれたフロンデール薬学院でも、休憩中のセヴェリアンでさえも、特別ざわついたところは何もなかった。
あまりにも重大な事だから、情報統制が敷かれていたとか・・・?

私はその報を誰から聞いたのかとルルツに聞くと、思い出すにつれて何かに気が付いたのか、すこし言い淀むように

ギルドの剣士が街で聞いた話・・・。

と力なく言った。
私はルルツに、その日の夜も翌日も銀冑団やフロンデール薬学院の者と会っていたが、ナナモ女王陛下暗殺未遂の話は一切なかったし、変わった様子はなかったと伝えた。

ひょっとして私たち、ガセネタをつかまされた?
でも・・・一体なんのために・・・

ルルツは頭が混乱しているのか、その場をうろうろと歩き始める。

私はルルツに「ミラは復帰したのか?」

と聞くと「えぇ・・・」と小さく頷いた。
そして「剣術士の皆は?」と聞くと「情報収集のため街に散らばってる」と答えた。
アルディスが捕まったという情報を聞き、顔色が変わったミラが全員に情報をかき集めるように指示を出したらしい。

・・・・これはまずいぞ。

確証はないものの、アルディスが暗殺未遂を行った事実はない・・・というよりも酒宴の杯に毒が仕込まれたこと自体起きていない。
だからこそ王宮に近しい者達にさえ目立った変化がなかったのだ。

しかし「アルディスが女王暗殺未遂で捕まった」という間違った情報は、今まさに剣術士ギルドの面々によって街中に拡散されているのだ。

情報信度の薄い噂は中々広まりにくい。しかしウルダハで一定の地位を確立している剣術士ギルドの者達が街中で聞いて回っているとなれば、信じてしまう者も出てくるだろう。

このことによってその「噂」は独り歩きして、あたかも本当に起きたかのように街中に広がる。ウルダハ国民に大きな影響力を持つ「ナナモ女王陛下」のことだ。その伝達スピードは計り知れない。

これによってアルディスが本当に捕まり、無実の罪で殺されたとしても誰も騒がない。
あたかも公然の事実として、人々の心には「反逆者アルディス」という汚名が刻み込まれることになる。

私の考察を聞き青ざめるルルツは、ぺたりとその場にへたり込み「ど・・・どうしよう」と言いながら震えている。

剣術士ギルドの面々が散らばったのは昼前頃。今は夕刻だから今からギルドの剣士達を止めに走っても遅いだろう。

考えろ・・・考えろ・・・

私は眉間を指で叩きながらひらめきを絞りだす。

・・・・情報には・・・・情報・・・・か。

とすれば、非常に癪だがアイツを頼るしかない。
私はルルツに、ギルドの者が戻ったら今のことを説明して、できる限り火消しに回ってもらうよう頼む。

きょとんとするルルツは「どこへ行くの?」と聞いてくる。

それに対して私は「情報屋を探してくる!」と答え、ギルドを飛び出した。

 

 

情報屋のワイモンドを探してウルダハ内を駆け回る。
思えば、こちらからあの男を探すのは初めてかもしれない。
いつもならば、まるでこちらのことをずっと監視していたかのように、必要な時にだけ絶妙なタイミングでこちらに接触してくる。
だがこちらにしてみればワイモンドの居場所はおろか、連絡先すらわからない。

私は以前に会ったところを中心に、マーケットやパールレーン、不滅隊本部前と人の多いところを中心に探すが、ワイモンドの姿はどこにも見当たらない。

それは当たり前といえば当たり前だ。
ウルダハ内にすらいると限らないのに、当てもなく人探しをしたところで見つかるわけはない。

それでも「もしかして」と思いながら無計画に飛び出てしまった自分の浅はかさに落胆しながらも、少ない望みをかけてクイックサンドへと向かった。


あらっ!!
ウルダハを救った英雄さんじゃない!


モモディ女史は私を見つけると、満面な笑みを浮かべながら嬉しそうに駆け寄ってくる。
モモディ女史に英雄なんて言われると、ちょっとこそばゆい。


オワインさんから話は聞いたわ!
大事をとって入院していたと聞いたけれど、体の具合はもういいのかしら?


と、ちょっと心配そうに聞いてきたが、私は「もう大丈夫です」と両腕で力こぶを作りながらおどけてみせると、モモディ女史は安心したようで顔に笑顔が戻る。
クイックサンドのうまい飯を食いながら、モモディ女史に自分の冒険譚を語りたいところだが、残念ながら今はそれどころではない。

私はモモディ女史にワイモンドの居場所を知っているかを尋ねてみた。
するとモモディ女史はいったん不思議そうな顔をしながらも、みるみる真剣な表情に変わり「もしかして・・・アルディスのことかしら?」と、ズバリのことを聞いてくる。

私はモモディ女史に「何か聞いてますか?」と聞くと、


ここに来たお客さんがね、剣術士ギルドの人に、

「アルディスという男が捕まったらしいが、何か知っていることはないか?」

と聞かれたらしいの。
それが一人二人の話ではないのよ。

何事かと思って聞いてみると、

「ナナモ女王陛下の暗殺未遂の容疑がかけられている」

というから驚いたわ。
そんな話どこからも聞いたことがなかったのだけれど、根も葉もない噂ならまだしも、剣術士ギルドの人が言っているのだから私も完全に嘘と信じることもできなくてね。


と、モモディ女史は戸惑った様子で話す。
私はモモディ女史に銀冑団はもちろんのこと、フロンデール薬学院のダミエリオーや錬金術師ギルドのセヴェリアンですらも知らなかったということは、十中八九偽情報であるだろうと説明する。

モモディ女史は私の口からダミエリオーの名前が出たことにびっくりしている様子だったが「ではなぜ剣術士ギルドの人たちはそんな情報を信じて街中の人に聞きまわっているの?」と不思議がっていた。

私はふらっと突然現れたアルディス、そして闇に落ちたリーヴォルドと再会した後、ミラの様子がおかしいことを話し、続けて

「確証はないが、アルディスに汚名を着せる目的で剣術士ギルドの者に偽情報を流し、それを信じたミラが考えなしで動いてしまったのだろう。」

と説明した。

今ミラの指示により、意図せず剣術士ギルドの手によって偽情報を流布してしまっている状況にある。それこそが相手の目的ではないかと。
だからこそ、その噂の火消しのためにワイモンドの力が必要だと話をする。


モモディ女史は私の推測を聞いて納得した表情をすると、酒場の中をきょろきょろと見渡し始めた。
そして誰かを見つけると「ちょっと失礼」と言ってその人の元へと走っていった。
モモディ女史が駆けつけていった先にいた人は、特にこれといった特徴のない男だ。
その男はモモディ女史からの話を受けて、軽く礼をして外へと出て行った。

私の元に戻ってきたモモディは「もう少しここで待ってて。今ワイモンドがここに来るから」と答えた。

 

そしてしばらくすると、いつものようなヘラヘラ顔でワイモンドが現れた。


おいおいっ、だれかと思えばウルダハを窮地から救った英雄さんじゃないか!
しかし、あそこまでのことをやるとはねぇ・・・。
あんたに声を掛けた俺の見る目は間違ってなかったということだな!!


ハハハッと、場の雰囲気にそぐわない様な軽い感じで笑うワイモンド。

おかしいな・・・モモディさんと同じことを言われたはずなのに、腹が立つのはなんでだろう。

私から言わせれば、秘密裏に行われていた昨日の今日の出来事を既に知っているワイモンドに恐怖する。


「で、俺に何のようだい? こう見えても忙しいんだ。手短に頼むよ。」と、とぼけたように言うワイモンドに対して「言わなくても分かってるだろ?」と返す。


なんのことだかさっぱりわからないが、もしかして街中で噂になっている「アルディス」のことかな?


と、やはりピンポイントで私の知りたいことに答えてくる。
こいつのことだ。呼ばれた時点で何のことなのか鼻からわかっていたのだろう。
私は「そうだ」と言い、続けて、

「アルディスがナナモ女王暗殺未遂の罪で捕まった」という情報が今剣術士ギルドの者によってウルダハ中に拡散されている。しかし王宮近辺の動きを見る限り、それは偽の情報だろう。
だから、あんたら情報屋の力で火消しをお願いしたい。

と言い、下げたくもない頭を下げる。
ワイモンドはそんな私を見て、何か考えるようなしぐさをしながら私に答える。


ふむ・・・おしいっ! 

と言ったところかな。
推理力は悪くないが・・・まだまだつめが甘い。
まあ少ない情報の中で、物事の真贋を見極めるのは俺にだってできる話じゃないけどな。

さて、まずはあんたの願いに対して返そうか。

答えは「NO」だ。


ワイモンドは両腕を体の前で交差させ、×をつくる。
私は間髪入れず「なぜだっ!」と聞くと、

理由は二つ。
人のうわさに戸を立てられるほどの力を俺たちは持っていない。
ウルダハ中に一度広まった噂を消すなんてこと、集団で記憶を消さない限り無理な事さ。

そもそも俺たち情報屋は「情報を集める」のが仕事であって、止めることはできない。
まぁ・・・偽情報を偽情報で上書きさせるってことなら出来なくもないがね。


ワイモンドは人差し指を立てながら、私に講釈をするように話をする。
そのしぐさはどこか「あの男」を思い出させる。
無知な人に対して高みから講釈をたれる行為は、人にとって快感を感じることなのかもしれない。


そしてもう一つの理由。
噂の火消しをする必要はないってことさ。


私はワイモンドの答えた理由に言葉を失う。
こぶしを握りながら、殴りにかかりたい衝動に駆られるのをぐっとこらえる。
ワイモンドはそんな私のことを知ってか知らずか、


誤解するなよ。誰もアルディスを見捨てると言っているわけではないんだ。
しょうがねぇ・・・ウルダハを悪者から救ってくれたよしみだ。
今回のことで我々情報屋が掴んでいる鮮度抜群の情報を「ただ」で教えてあげるよ。

 


ナナモ女王陛下の酒宴の杯に猛毒は仕込まれてはいない。
それはあんたの推測通り正しい。そもそも酒宴も開催されてないしな。

でも「ナナモ女王陛下暗殺計画」自体は確かにあったのさ。

あくまでも、アルディスをおびき寄せる「餌」としてのね。


アルディスは「女王暗殺」の情報をどこから入手して、その阻止へと動いていたんだ。
それで計画者のアジトを突き止めて踏み込んだ時、暗殺に使うつもりであったであろう「ラールガーの猛毒」を発見する。
その時「偶然」駆けつけた銅刃団によってアルディスは捕らえられたんだ。


俺がわからないのは、姿を隠していたはずのアイツが安っぽい正義感に駆られてこんなことに首を突っ込んだのかってところだ。
アイツは行動が大胆に見えて、実はかなり思慮深い。
確実性が得られるまで、決して動かない奴なんだ。


「今回の件、もしかしたら誰かさんに影響されたのかもしれんがな。」といいながら、ニヤニヤとした表情で私のことを見てくるワイモンド。
しかし、ワイモンドがアルディスのことをどうしてそこまで知っているのか不思議に思って聞いてみると、


昔アイツには「女」のことで色々と世話になってな。まぁ・・・若気の至りってやつかね。
アルディスとは親友・・・とまではいかねぇが、旧知の仲ってところかな。
それにアイツがこっちに戻って来てからの世話を、俺が面倒見てやっていたんだよ。


ワイモンドは少し照れくさそうに話す。
なんだか気持ちわるい。


まぁ・・・考えられる理由としたら「リーヴォルド」の存在だろう。
今のアイツは「静かなる狂人」だからな。
例えアルディスをおびき寄せる目的だったとしても、本気でナナモ女王暗殺を実行に移していたかもしれない。

そういう怖さがあったからこそ、アルディスは罠と分かっていながらも首を突っ込んだんだろう。
本当はお前に動いてもらいたかったんだろうが、そん時のお前は色々と大変そうだったしな。

で、銅刃団に捕えられたアルディスの身柄は法務庁に移されて、現在は執行官に引き渡されている。
ということは、近いうちにアルディスはナナモ女王陛下暗殺未遂の罪によって、処刑されるだろう。

無実の罪によってね。


全身の血の気が引く。
最近全く姿を見せないと思っていたら、まさかこんなことになっていたなんて・・・。
私は思考をフル回転してアルディスを救う道を探す。
そして、私は急いでクイックサンドを飛び出そうとするが「おい待て!! どこ行くつもりだいっ!」と強引にワイモンドに引き止められる。

私はワイモンドに「銀冑団に説明して止めてもらうように掛け合いに行く」と話すと、ワイモンドは呆れたような顔をしながら、


銀冑団のところに行ったって意味ないぞ。
アイツらには法務庁を止める力なんてない。
そもそも法務庁は「共和派」に牛耳られているからな。

それに今回の事件の本当の黒幕は、7年前にコロシアムの八百長疑惑に関わったやつらだ。
そん時に八百長に関わっていた色んな奴が摘発にあったが、中にはうまいこと逃れた者もいる。
アルディスがウルダハに戻ってきたことを知ったそいつらが、復讐を恐れてアルディスを犯罪者に貶め、公式に処刑するのが目的だ。

さっき俺は「色んな奴」って言ったろ?
その中には有力商人だけでなく、ナルザル教の幹部や役人だって含まれているんだ。

リーヴォルドは結局、アルディスに対する「復讐心」をそいつらに利用されているに過ぎない。
どうせ作戦が成功しようが失敗しようが、リーヴォルドは用済みということで消すつもりだろう。
まぁ・・・「消せれば」の話ではあるがな。

そんな状況の中で、あんたがやること・・・・
いや、やれることは一つしかないと思うんだが?


ワイモンドは問答するような口調で私に言う。


最後に、俺は噂の「火消しをする必要はない」といったな。
その理由は単純明快。

「そんなことをしている暇なんかない」

ってことさ。事態は一刻を争う。
アルディスを救いたいのなら、処刑される前に助け出すしか方法はない。
実はすでにアルディスは東ザナラーンにある「ハイブリッジ」に移送されたとの情報も入ってきている。

もしそれが本当であれば・・・・
早ければ明日の朝、通例通りであるならば、日の出と共に処刑が実行される。


ワイモンドは顎に手を当てながら、


そうだな・・・今から走ればギリギリ間に合うだろう。
さて、どうする英雄さん?


私はワイモンドに

「ありがとう、くそ野郎!!!」

と言葉を吐き捨てて、今度こそクイックサンドを飛び出した。