FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第三十八話 「晩餐会への招待」

法務庁の突然の訪問により、和やかな雰囲気だったギルド内の空気が一気に張り詰める。
その空気を法務庁の者達も察したのか、


いや・・・驚かせてしまってすまない。
こちらの者の不手際により、ギルドの皆さんに迷惑をかけてしまったようだ。
首謀者はいまだ逃走中の為、事件の全容把握のため少しでも情報が欲しいのだ。
ご協力願えないだろうか?


と、丁寧に頭を下げた。
私とミラは顔を見合わせると、ほっとした表情に戻り、ミラは法務庁の者に対して「できる限りの協力はさせていただこう」と伝えた。

 

法務庁の者の話によると、ある情報筋から7年前に起きた「八百長」事件に関係する詳細なリストのタレコミがあり、それをもとに刑を逃れた人物の特定に乗り出すはずだった。

しかし法務庁内部にも八百長に加担したものがいたらしく、その者達は他の関係者と結託して犯罪者集団の助けを借り、形だけの「ナナモ女王暗殺未遂」を計画。
その犯人役として、アルディスという死んだはずの男を持ち出し、混乱の内に偽造したリストと差し替えようと企んでいたらしい。

現在手元にあるリストを見ると7年前に捕まっている人物しか載っておらず、既にリストは入れ替えられたと思って間違いないとのことだった。


私とミラは法務官に、その計画に関わっていたリーヴォルドという男の死を伝えるとともに、その男もまた7年前、八百長事件を明るみにしようと尽力をしていた人物であり、行き違いによって犯罪者の烙印を押されてしまったことを説明する。

今回の一件は剣術士の襲撃事件も含め、最近ウルダハで起きた様々な事件と繋がっており、ウルダハの国家転覆を画策していたグループの壊滅とリーヴォルドの死によって一応の解決は見たものの、ウルダハ近郊には未だ犯罪の因子がくすぶり続けていることを説明した。


貴重な情報をまことにありがとうございます。
我々も大きく動きたいところなのですが、なにせ根幹にウルダハの有力者達が関わっていると予想されるため、なかなか思うような捜査ができていないのが現状なのです。
今回のリストによって、もっと踏み込めると思ったのですが・・・

富と名誉に溺れてしまったものは悪事ごとのために「法」を掻い潜る知恵を働かせるのです。
そもそも「法」を力で捻じ曲げられてしまっては「法」の意味がない。


法務官は熱が入ってきたのか、やや興奮気味に話し始める。
それをたしなめるかのように、もう一人の法務官が自制を促す。


コホンッ!! すみません・・・話が脱線してしまいましたな。
皆さんによって広められた「アルディスによるナナモ女王暗殺未遂」のうわさについては、近くナナモ女王様直々のお声により国民に説明がなされるでしょう。その時、アルディスという方の無実は晴らされるかと思います。ご不便をおかけいたしますが、今しばらくお待ちいただければ・・・

それに国内の混乱が収まったとあれば、不滅隊の方にもご協力をいただいて真相究明に務めていきましょう。王党派のラウバーン局長殿であれば、我々の相談にも乗っていただけるでしょうしな。


もしこちらでお手伝いできることがあれば、我々も尽力いたします。
その時は遠慮なくご相談ください。


と、ミラは法務官に答えると、感動したような表情をしながら「かたじけない」と言い深々と礼をした。

一通り話をし終えた法務官達は、今一度丁寧な一礼をした後、ギルドを立ち去っていった。

 

私は剣術士ギルドを出て、クイックサンドへと向かった。

あの日ワイモンドと出会えていなければ、アルディスを救うことはできなかっただろう。
その取り次ぎをしてくれた冒険者ギルドのモモディ女史にはお礼をしなければならない。
詳しい情報を提供してくれたワイモンドにもお礼をとも思ったが・・・・
まぁ、どこかで会ったときにすればいいか。

どうせアイツが望んでいるのは「感謝」ではない。
私に報酬を支払ってもらう必要が出た時に、さも当然のように現れるだろう。
こっちが探し回るのにはもう疲れた・・・。

クイックサンドへ入ると、モモディ女史と銀冑団の男が何やら会話をしていた。
モモディ女史は私が入ってくるのを見つけると「おーいっ!」と言いながら大きく手を振った。銀冑団の男も私のことに気が付くと、深々と礼をした。


おかえりなさいっ!!

 

モモディ女史は大きな声で私のことを迎え入れてくれる。
そして、真剣な表情でじっと私の顔を見つめてきた。


・・・・その表情を見ると、アルディスは助けられたのかしら?


モモディ女史は私の表情から事の結果を推測しているようだ。
私は「おかげさまでなんとか間に合いました。」と笑顔で答えると「それはよかった!」と満面の笑顔になる。

私はモモディ女史に、アルディスとリーヴォルドのこと。その後、剣術士ギルドに法務庁の者が来て「アルディスによる女王暗殺未遂」は虚報であったことがナナモ女王陛下直々に説明なされるということ。
そして、7年前に起こった八百長事件に絡む今回の事件の全容解明に向けて、剣術士ギルドは協力することになったことを説明した。


そう・・・アルディスは出ていったのね。
せっかくウルダハに帰って来て、無実の罪も晴れるというのに・・・

 

・・・まぁでも、アルディスのことだからまた忘れたころにひょっこりと顔を出しそうね。
生きていればまた会うこともできる。
もしひょっこり顔を出したら、もう二度とウルダハを離れられないようとびっきりの料理を用意しましょう!

モモディ女史は少し寂しそうな顔をしながらも、どこか吹っ切るような声で話題を変えた。


そうそうっ!
銀冑団の方があなたのことを探していたのよ。


と、手持無沙汰な感じで隣に立っていた銀冑団の男に視線を移した。


冒険者殿っ!
先日は大変お世話になりました。
銀冑団としてぜひお礼が言いたくて貴殿を探していたのであります!
今少し、お時間はございますか?


正直なところ連日連戦が続いていたこともあり、ここにきて体の疲労が辛い。
ここ最近起こっていた様々な問題がとりあえずの終息を見たこともあり、一度緩んでしまった精神力を復調させるには休息が必要だ。
クイックサンドのうまい飯と酒を飲んですぐにでもベッドに飛び込みたいところあるが、銀冑団の直々な招待とあれば行かぬわけにはいかない。

私は銀冑団の男の依頼を承諾し、銀冑団員と共にフロンデール歩廊の一角にある総長室へと向かう。
クイックサンドを出る時、モモディ女史は「とびっきりの料理を用意して待ってるわ!」元気に声を掛けてくれた。

何故だろうか・・・・体の疲れは酷いものの、不思議と心は軽い。

私にとっての一番の報酬は「人の笑顔とおいしい食べ物」なのかもしれない。
ここを牛耳る商人達にとってみれば「安い」と思うかもしれないが、人の幸福の尺度なんて人それぞれだ。

例え1000万ギル詰まれようとも、得ることのできないものだってある。

私の本当の幸せは、そちら側にあると信じよう。

 

銀冑団の総長室に入ると、あの日共に戦った団員達の他に、騎士装備に身を包んだパパシャン氏の姿もあった。
私の来訪を見ると、皆何か満たされた顔をしながらこちらに敬礼をしてくる。

初めに来た時とは大違いだな・・・
あの時は「冒険者である」というだけで軽蔑にも似た視線を感じたものだが。

私は団員達の大きく変わった態度に苦笑しつつ、喜びを抑えているのか真剣な表情をしながらもどこかそわそわとしているオワインの元へと歩いて行った。

 

よくぞ参られた冒険者殿っ!
貴殿の活躍によって銀冑団の、いや、ウルダハ王家の名誉は守られた!

銀冑団一同、冒険者殿に感謝の意を! 敬礼!!

オワインがそう言うと、一糸乱れぬ動きで団員たちが一様に私に向かって敬礼をする。
一介の冒険者に過ぎない私に向かって銀冑団員が敬礼をしている姿は壮観ではあるのだが、こういったことに慣れていない私は満足感よりも気恥ずかしさのほうが先に立つ。

「直れ!」という号令と共に起立の状態に戻る。
そして、パパシャン氏がにこやかな笑顔で私に話しかけてきた。

 

冒険者殿、私からもお礼を言わせてもらいたい。
若き騎士達の手助けをしていただいたこと、感謝の言葉だけでは足りぬことじゃ。

リリラお嬢様・・・いや、貴殿に対して隠し事は失礼ですな。
サガン大王樹の元にてナナモ女王様を妖異からお救いいただいただけでなく、まさか王冠の件まで解決に導いていただけるとは思わなんだ。

これはもう、何かの縁を感じてしまいますなっ!

 

パパシャン氏は体全体で嬉しさを表現する。
歳をとっていても、所作の一つ一つに可愛らしさを感じてしまうのはララフェルだからか。
しかし、あの戦いの中に身を置くパパシャンの戦いぶりは圧巻だった。
小さな巨人・・・そう言って相違ないほどに強く、絶対的な勝利への確信に包まれていた。
その勇敢な姿を見た時、私はふとフフルパのことを思い出していた。


実は私は元銀冑団でしてな。
今は退役し、ウルダハ操車庫の所長をやっておりますわい。

じゃが、ナナモ女王陛下がお生まれになった時から王宮内での世話役を仰せつかっていたこともあって、お忍びで外出されるときにはよく私を頼って訪ねてきてくださったのだ。
それからというもの、畏れながらお目付け役をやらせていただいておるのじゃが・・・

サガン大王樹で貴殿に助けられたあの時、王家の王冠を盗まれてしまったことにナナモ女王陛下は大変心を痛ませておってな。
ウルダハ建国の父であるササガン大王に申し訳が立たぬと、一人大王樹の元に向かわれてしまっておったのじゃよ。


パパシャン氏は当時の様子を振り返りながら、懐かしそうな表情で語る。


ナナモ女王陛下は先代の不慮の死去により、5歳という若さで王位についた。
その時、共和派の面々は幼き王の自治に不安を感じて、王政廃止の動きを活発化させ始めたのじゃ。
幼き王の元、合議制とは名ばかりな共和派主導による寡頭制政治が色濃くなり、徐々に王党派の力は弱まっていった。
今はまだナナモ女王陛下の人気によって形は保たれているが、王政は「ウルダハのお飾り」と評され、どんどんと立場が追い込まれているのが現状じゃ。

そこにきて王家の王冠が盗まれたとあれば、共和派によって王室は糾弾され、王政の崩壊を招く結果となったじゃろう。


パパシャンは神妙な面持ちで話を続ける。


今のウルダハにとって「王政固辞」が正しいのか「共和派による完全な自治」が正しいのか・・・
年寄のわしにはわからぬが、ナナモ女王陛下が悲しむことだけは避けたいのじゃ。

王室の実権衰退に呼応するように、現銀冑団の影響力も残念ながら低下していっておる。
王室の近衛騎士である銀冑団に魅力を感じなくなってしまっておるのじゃ。

だが貴殿が見たと思うが、普段のたゆまぬ鍛錬のおかげもあって銀冑団の実力は一級であり、不滅隊隊にも劣らぬ実力を持っていると自負しておる。
そして今回の一戦こそが、銀冑団員の自信につながったことは、まごうことなき事実であろう。

あれから無事に王冠を宝殿内にて発見し、王家に返還いたした。
ナナモ女王陛下も、それはそれはお喜びじゃったよ。

貴殿の尽力によって王室の権威は保たれた!
そして、銀冑団もまた権威復興への第一歩を踏んだのじゃ!

おぉーーーっ!!

という団員たちの勝鬨が上がる。
あの時の銀冑団という「誇り」だけにすがった目ではない。

護るものは何か。

その真意を取り戻したかのように、そして自分達も「戦える」という自信を取り戻したように光り輝いている。


その掛け声を合図としてか、銀冑団総長室の扉が開かれ、王宮の侍従が入ってくる。
そして「コホンッ」と小さく咳ばらいをし、


ナルザルの神子にしてザナラーンの守護者、
第十七代ウルダハ王
ナナモ・ウル・ナモ陛下のおな~り~


と、声高らかに口上をあげる。
そして総長室の扉の外から、二名の銀冑団員による護衛の元、威風堂々たるヒューランの男と、豪奢な衣装に身を包み王冠を被ったララフェルの少女が、入ってきた。

 

あの少女は・・・・

 

ナナモ女王陛下と呼ばれた少女が部屋に入ってくると、銀冑団の者は揃って膝を折り、深々と頭を垂れる。
タイミングを失った私は戸惑い、そのままの体勢で固まってしまったが、ナナモ女王陛下はそれを気にすることなく私の前まで歩み出てくる。

 

服装は違うものの、確かに見覚えがある。
美しいほどに手入れのされた桃色の髪に、まるで宝石のようにエメラルドグリーンに輝く瞳。
幼さを称えながらも、強い意志を感じさせる端正な顔。

その少女・・・いや、目の前にいる女性はササガン大王樹で会ったララフェルと同じだ。


久しいな・・・冒険者よ。
サガン大王樹で大変世話になったばかりか、王宮の危機を救ってくれたとは・・・。

一国の王として、礼を言いたい。

 

とても朗らかな笑顔を讃えながら、ナナモ女王陛下は私に対して、まるで国賓を相手にしているかのように礼節にのっとった礼をする。

エオルゼアを代表する一国の王に頭を下げられるなど畏れ多い話なのだが、私はナナモ女王陛下の真摯な表情に見惚れてしまって動けなかった。
サガン大王樹であった時、お転婆で無鉄砲に見えたリリラ。

まだまだ幼き王であるものの、信念と情熱に包まれた高貴な姿を目の当たりにして、国民からの支持が高いこともうなずかせる。

 

ラウバーン!
例の物をここに・・・

「ハッ!」という掛け声とともに、後ろで控えていたが体のいいヒューランの男が、小さな箱をナナモ女王陛下に手渡す。

 

この男がグランドカンパニー「不滅隊」の長、ラウバーン局長か・・・

幾度とない死線を乗り越えてきたからこそ醸し出すことのできる圧倒的な存在感。
国軍である「不滅隊」を創設し、一つにまとめ上げる手腕は確かなもので、動きが活発化するアマルジャ族やガレマール帝国からザナラーンの領土を守る壁となっている。


この度の褒美の品じゃ。取っておくがよい。


ナナモ女王陛下は、ラウバーン局長から手渡された小さな箱を私に差し出す。
私は慌てて膝を折り、銀冑団と同じく頭を垂れながらその箱を受け取った。
ナナモ女王陛下は朗らかな笑顔を湛えながら、


ラウバーンよ。
後日に晩餐会が予定されておったであろう?
この者も、その場へ。
国を救った英雄として、皆に紹介しよう。

 

私は突然の展開に驚き、思わず「ガバッ!」と顔を上げる。
その時の私の表情が面白かったのか、ナナモ女王陛下は少し顔を背け手を口元にあてながら小さく「フフッ」と笑った。
その表情だけ見れば、年相応の女性にしか見えない可愛らしさがあった。

国を統べる王でありながら、彼女もまた一人の女の子なのだ。
その笑顔をみてそう実感し、私の緊張も幾分ほどけた。


ナナモ女王陛下の右後ろに座していたラウバーン局長は「仰せのとおりに・・・」と言うと、すっと立ち上がってナナモ女王陛下と入れ替わるように私の前に立つ。

 

貴様が噂の冒険者か。
噂は方々から聞き及んでいるぞ。ウルダハのためにかなり活躍しておるそうだな。
吾輩はラウバーン・アルディン。ナナモ女王陛下の元でウルダハの政(まつりごと)を担う者だ。
貴様のような有能な冒険者が我が国を訪れたことは僥倖につきる。

女王陛下直々の仰せだ。
ぜひとも晩餐会に出席してほしい。


威圧感はあるものの、勝手知ったる者に話すかのように不思議とトゲは感じない。
思い返せば、不滅隊とは色々と接点があった。
私のことに関する報告も、ラウバーン局長の耳に入っていたのだろう。

しかし晩餐会か・・・

記憶する範囲内でだが、そんな高尚な宴に参加するなど初めてだ。
しかも王室主催の晩餐会となればなおさらだ。
私如きがそんな宴に参加していいのだろうか・・・。

押し黙る私の表情を見て、ナナモ女王陛下は私が感じている不安を推し量ったのか、

 

なに、そこまで構えんでもよい。
晩餐会と言っても、酒を飲んで会話するだけの簡単なものだ。
それにそなたに会いたいと願う者もたくさんいる。
冒険者として見聞と人脈を広げるいい機会と思って、身構えずに参加してほしい。


と、穏やかに話す。
そしてラウバーン局長もまた「貴様の冒険譚は我が部隊の活力剤になろう。是非参加願いたい」と手を差し出してくる。
私は緊張からか反射的に手を差し出し、握手を交わしてしまう。
ギュっと固く握られた手が痛い。

そんな二人に押し切られるような形で、晩餐会への参加を承諾した。

 


ナナモ女王陛下一行が退室した後、オワインは興奮した様子で、

 

晩餐会に招待されるなんて大変名誉なこと!
私も貴殿の話を聞きたいものだ!


と言うと、周りの銀冑団の者も「我々は我々で冒険者殿と祝勝会を開いたらいいんじゃないか?」「それは名案だ!」「場所はやっぱりクイックサンドだな」「じゃあ料理は・・・」とざわついていた。
そんな光景を楽しそうに見ていたパパシャンが私の元に歩いてきて、

 


国を守る若い者達の手引きとして、ぜひとも付き合ってくだされ。
なに・・・晩餐会よりは気を遣わんだろう。
若い者には力強きものの手引きが必要だ。そのことをジェンリンスももう少し理解してもらいたいのだがな・・・。


パパシャンは「はぁ・・年寄りの説教は長くなるぞ・・・」と言いながら溜息をつく。


私は苦笑いをしながらも「・・・お手柔らかに」と短く答えた。

 

 

銀冑団総長室を出て、クイックサンドにある宿へと向かう。
ここ数日色々なことがあり過ぎて、肉体的にも精神的にもそろそろ限界が近い。
眠たい目をこすりながら街中を歩いていると、


冒険者殿!!


と、血相を変えた商人らしき男に声をかけられた。