FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第十三話 「その男、サー・キヴロン」

「ただ・・ちぃっとばかし問題があってな・・・誰もサー・キヴロン男爵Ⅲ世の顔を見たことがないんだ。」

さすがの私も言葉を失った。そういうことは、早く言ってほしい。
ハメられた・・・・という腹立たしさで胸がいっぱいになる。

結局のところ、この急襲作戦で一番重要なことは「誰一人逃さない」ということしかない。何せ間者の男ですら、キヴロン男爵の顔はわからないとのことだった。というのも、盗賊団はみなララフェル族であり、同じローブ姿でフードを目深に被っているため、顔をはっきりと顔を見ることはなかったらしい。買収した間者の先導により、顔すらわからない目標を討ち果たす。

一見用意周到に見えた作戦は、実はまるで虫に食われたぼろ服のように穴だらけだった。


大きな不安を抱えたまま、「まぁなんとかなるさ」というレオフリックの根拠のない号令のもと、なし崩しにキヴロン別宅邸急襲計画は実行に移された。強風が吹き荒れる夜、私はレオフリックの仲間10名とキヴロン別宅跡のある丘の下に張り付いていた。

話を聞くと、彼らはウルダハのグランドカンパニーである不滅隊の隊員で、ラウバーン局長の直属部隊にして精鋭だった。私がいなくても十分に作戦を完遂できたのではないかと思ってしまうのだが・・・レオフリックのことだ。作戦が失敗した時に備えてのことなのだろう。

まず盗賊団と内通関係にあった流民街の男が、睡眠薬入りの酒を持って見張りに近寄っていく。この男は、ロストホープ襲撃の際に間違って襲われないよう、こちらに逃げてくる算段に元からなっていたようだ。
見張りは近づいてくる男を一度静止し、顔を確認するとまるで仲間のように向かい入れていた。男は早速手に持っていた酒を見張りに振る舞い、見張り達はその酒を疑うことなく嬉しそうに飲んでいた。そして、間者の男はさらに奥へと進んでいき、こちらからは見えなくなった。

間者の男がこちらに戻ってくると怪しまれるため、突入のタイミングは見える範囲の見張りが居眠りを始めてからとなる。しばらくすると、作戦通り見張り達は眠そうに地面に腰を下ろし、うつむいたまま動かなくなった。

私はその様子を確認し、不滅隊の部隊に作戦開始を命じた。とはいえ、大声をあげて一気に攻め込むわけではない。この位置からではまだキヴロン別宅邸は見えないため、実際何人がアジトに残っているかわからない。暗闇に身をひそめながら、静かに居眠りを始めた見張りへと近づき、物音を立てないように一人ひとり確実に「処理」していく。
キヴロン別宅跡がある高台の上まで登り、影に身をひそめながら確認すると、残っていた盗賊団は思っていた以上に少なかったものの、別宅邸に近いからか襲い来る眠気を何とかこらえながらも監視を続けていた。

さすが「別宅跡」というだけあって、元の建物は既になく、後から建てられたみすぼらしい掘立小屋が一つあるだけだった。

(これ以上時間はかけられないか・・・)

時間をかければかけるほど、襲撃部隊が戻ってくる確率が高くなる。
私は覚悟を決めて、不滅隊の部隊に突入を命じる。

私の突入命令に呼応するように不滅隊は散開しながら一気に盗賊団に襲い掛かる。
侵入者の突撃に気が付いた盗賊団は応戦体勢を取ろうとするが、眠気で意識が朦朧としていたこともあり初動が鈍い。満足な応戦もできないまま打倒されていく盗賊団の間を駆け抜けるように、私は一気に建物へと目指した。

私はアジトの入り口にとりつくと、私の後を付いてきた2名の不滅隊に裏手に回るよう指示をする。外の騒ぎはすでに建物の中にも伝わっているだろう。裏手は崖になっているのだが、ひょっとしたら逃亡用の仕掛けを用意しているかもしれない。
二人が裏手に回ったのを確認すると、私は入り口のドアを蹴る。そして即座に窓へと移動し、ガラスを破って一気に内部に突入した。

案の定、ドアの前で待ち伏せしていた盗賊団の男は、窓から侵入してきた私に意表を突かれて驚いていた。私は間髪入れずにその男を切り伏せ、飛びかかってくる別の者の初撃を躱しつつ、足払いをして床に倒す。
右のほうから物影が動く気配を感じた・・・・・瞬間、

シュンッ

という空気を切り裂く音と共に、一本のナイフが私の目の前を通り過ぎる。
私は即座に右側に盾を構え直し、盾に身を隠しながら気配の先を目指して突進する。そして、人らしきものを盾で押しつぶし、そのまま勢いよく壁へと叩きつけた。盾で殴るように何度も何度も壁にぶつけると、ナイフを投げた男はぐったりと動かなくなった。
視線を戻すと、槍を持った男が私に向かって突っ込んできていた。

(ぐっ!!)

私は無理やり体をひねり、男の攻撃を間一髪のところで避けると、突きの一撃は動かなくなった男の肩へとグサッと刺さった。痛みで強制的に意識を呼び起こされた男は悲鳴を上げて、肩に刺さった槍を掴む。その槍を何とか抜こうと焦る男を、後ろから剣で力いっぱいに叩き伏せた。

(はぁ・・・はぁ・・・くそ・・・、男爵は何処にいる!!)

私は部屋の中を見渡し、閉じられていた扉を発見する。私はそこへ駆け寄り、扉を開こうとした・・・瞬間、

ダァァァン!!

という轟音と共に突然扉は爆発し、私はその爆風に巻き込まれて吹っ飛んだ。何とか盾を構えていたおかげで爆発のダメージは避けられたものの、爆風によって吹き飛ばされた私の体は受け身も取れないまま地面へと叩きつけられ、勢いそのままに激しく壁にぶつかった。そのショックで、私の意識はゆらゆらと遠のいていく。爆発音をまともに受けて音が聞こえない、爆発の閃光をまともに受けて視界が真っ白だ。

(くそ・・・こんなところで気を失っては・・・・)

私は唇をかみながら、何とか混濁する意識の回復に努めている・・・と


「ふんっ・・・これではどちらが盗賊かわからぬな・・・。高貴なるキヴロン家に乗り込んでくるとは、とんだ鼠共だ。」

耳鳴りが収まらない中、しかしなぜかはっきりと聞こえてきた。いまだ回復しない視界の中で、ぼんやりと自分の目の前に一つの気配を感じる。


「身の程を知れ」

という言葉と共に、目の前に熱の塊が渦巻いていることに気が付く。

(・・・呪術師か!!)

防御体勢をとろうにも、未だ体は満足に動かない。仲間の到着も期待できそうになかった。いわゆる絶体絶命状態だ。私はそれでも希望に縋り付き、必死にもがいていると、ふと右手にナイフのようなものが当たる。このナイフはどうやら先ほど盗賊団の男が投げたナイフのようだった。私はとっさにそのナイフを握ると、残る力を振り絞って目の前の男に投げた。

ゴツッ

ナイフが何かにあたる音と共に「ウガッ!」という呻き声が上がる。ナイフはどうやら刺さりはしなかったものの、呪術師の男の顔に命中したらしい。一瞬だが集中力を失ったせいか、目の前を覆いつくしていた熱が一気に収まる。

(今のうちになんとかこの場から離れなければ・・・)

と床を這いつくばっていると、

ガシャンッ!!

というガラスを割る音と共に、バタバタと複数の足跡が近づいてきた。

(くそ・・・どっちの増援だ!?)

意識と体はなんとか回復してきたものの、もし盗賊の増援であれば複数を相手にできるほどではない。

(逃げ切れる自信はない・・・・・ならば、せめてこの呪術師と刺し違えるまで!!)

キヴロン男爵Ⅲ世が誰なのかはわからないが、今の私にとってはこの呪術師こそが目標であることを信じるしかない。だが次の瞬間、呪術師の手から黒い波動が放たれたと思うと、私の視界は闇に包まれた。

(くそっ! ブラインドか・・・・)

「ハハハハッ!!!  もう終わりだよネズミ君。君はここで死ぬんだよ。」


迫っていた足音もまた部屋にたどり着く。

(さすがにここまでか・・・・)

あきらめかけた時、

「ギャァッ!!」

という悲鳴と共に、室内に踏み込んできたたくさんの足音は、男の周りを取り囲んだようだった。同時に「大丈夫か!?」という声と共に、私の体がふっと軽くなる。どうやら不滅隊の者が私にケアルをかけてくれたようだ。暗転していた視界もゆっくりと回復する。
「助かった」と礼をいい、私はゆっくりと立ち上がる。その二人は私が建物の裏側に行くよう指示した二人であった。裏手で逃走の用意をしていた盗賊団の手下を倒した後、こちらの増援に駆けつけてくれたようだ。その後すぐに、正面で闘っていた不滅隊の隊員とも建物内に合流し、呪術師の男を取り囲んだ。

私は床に組み伏せられたままの呪術師の男に「おまえがサー・キヴロン男爵Ⅲ世か?」と問いただす。

「だったらどうする?」

男は不気味に笑いながら答えた。
私は「誰の指示でなんの目的で集落を襲った?」と聞くと、男は、ハハハハッ!! と声を出して笑う。

「聞かれてはいはい答えるかと思うのか? お前らなんぞ蛮人に語ることなんて何一つもないわ!」

男がそう答えると、不滅隊の男が剣を抜きキヴロン男爵の首元にその切っ先を突き付けた。しかし呪術師の男はそれに動じることなく、

「殺すなら早く殺すがいいぞ。でなければ、お前らは必ず後悔することになる。」


とニタニタと笑う。


我々はお前たち偽善者どもの欲の影。
例えこの身潰えようとも、決して影は消えることはない。
ゆめゆめ、それを忘れないことだな。


そういうと、呪術師の男の体から膨大な魔力が渦巻き始めた。


私は危険を感じ、周りを取り囲んでいた連中に「逃げろ!!」と怒号を発し、建物の外へと駆け出した。同じく危険を察知していた不滅隊の隊員たちもまた一斉に建物の外へと飛び出る。瞬間、

ドォォォォォォォンン!!!!!!

という大きな音を立てて、掘立小屋は粉々に爆発する。私たちは完全に逃げることかなわず、その爆風に巻き込まれ大きく吹き飛ばされた。

朦朧とする意識をなんとか繋ぎ止め、周りの被害を確認する。吹き飛ばされた不滅隊の隊員はいたるところで動かなくなっているか、痛みでもがき苦しんでいる。運よく爆発に巻き込まれなかった不滅隊の隊員たちは負傷者に駆け寄り、必死にケアルやポーションを使いながら手当にあたっていた。

(最悪だ・・・)

不滅隊の隊員たちはほぼ壊滅。今ロストホープを襲撃に行った残りの盗賊団が戻ってきてしまったら、全滅も有りうる状況だ。ここはレオフックが凌いでくれていることを祈ろう。

私は無事だった不滅隊の隊員による最低限の怪我の手当てを受けながら、キヴロン別宅跡を見る。建物は爆発によって大きく崩壊。その後ついた火によって、建物の残骸は轟々と燃え盛っていた。呪術師の男は、最後に自らの呪力を暴走させ自爆したようだった。

(男は最後、確かに笑っていた。自分の死など何の意味も無いかのように

「我々はお前たち偽善者どもの欲の影」

男が最後に残した言葉を反芻する。死ぬことすら厭わないほどの覚悟。この男をこれ程までに狂わした人生には、いったいどんな苦難と、苦悩があったのだろうか。人はこの世に生まれた瞬間から「罪」を背負う。人はその「罪」から許されるために、善行を重ねて神に許しを請う。しかし、神は時として人を苦難に貶める。人はそれを「神が与えもうた試練」といい、その試練を乗り越えてこそ人は罪から解放されるという。

(・・・では神よ。人が背負う罪のそれぞれの大きさは、一体何で決められているのか?)

人は罪深くとも、元からの悪ではない。
悪に染まる者は、必ず悪意によってその身を削られているのだ。

私は、轟々と燃え盛る建物の残骸に向かって、祈りをささげる。願わくば神より背負わされし罪に絶望し、無慈悲に与えらし試練に心を潰された者たちに、幸せな来世を・・・

 

ほどなくして、レオフリックは別動隊の不滅隊を率いてこちらへと到着した。
別動隊は貧民の服を着ており、どうやら住民と貧民をそっくり入れ替えて応戦していたようだった。

「すまん。俺の方は下手こいちまったよ。こっちはどうだ? キヴロン男爵Ⅲ世は仕留めることができたか?」

レオフリックの問いに対して、私は「さぁ」としか答えられなかった。ここにいた盗賊団はすべて排除できたとは思う。しかし、ここにキヴロン男爵Ⅲ世がいたかどうかについての確証は何もない。最後に自爆した呪術師が、果たして「サー・キヴロン男爵Ⅲ世」であったかどうかは、結局のところわからずじまいであった。

「これで終わりっていうわけではなさそうだな・・・だが、とりあえず生きていて何よりだ。ケガのほうは大丈夫か?」

不滅隊の者に手当てをしてもらったものの、張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、実は先ほどから痛みが全身を覆っている。しかし、うつぶせのまま動かない隊員や、痛みをこらえきれずに泣き叫ぶ隊員たちの姿を見ていると、自分の状態がまだましであることを実感する。私は「とりあえず大丈夫だ」と答えると、

「そうか・・・すまない。俺も急ぎ負傷者の手当てに回らないといけない。
詳しい話は後でしよう。」

レオフリックは私にそういうと、負傷した仲間の元へと駆けていった。

(そういえば・・・)

ふと、フフルパから預かっていたレオフリック宛ての手紙を渡していないことを思い出す。レオフリックを見ると、仲間のケガの手当てに奔走している。
今は渡す時ではないか・・・私はフフルパの手紙をポケットにしまい直した。

私は息を大きく吸い込む。いつの間にか空は雲に覆われ、ぽつぽつと雨が降り出していた。ジンジンと響く痛みを感じるということは、生きているという何よりの証拠だ。これが私にとって「与えられた試練」であるのならば、

私は一体、何の罪から解放されたのであろうか。



ケガの療養もあって、私はブラックブッシュ停留所に数日間留まっていた。
結局キヴロン別宅跡での闘いの後、激しさを増す痛みにこらえることができず、気を失ってしまった私は、ブラックブッシュにある医療施設に担ぎ込まれていたらしい。全身打撲と複数個所の骨折。生きていることが不思議なほどひどい状態だったらしい。
私が気を失っている間にかけられた高位の回復魔法によって、ケガの多くは回復し一命を取り留めることができたとのことだったが、麻酔の代用として使ったソムヌス香の副作用でしばらくは意識が朦朧としていたのである。

ここへ来て以来、レオフリックと会う機会はなく、フフルパの手紙も渡せずじまいだった。今日は体の調子もいいようなので、あらためてロストホープ流民街に行ってみようかと思案しながら街中をふらふらと歩いていると、フードを目深にかぶった一人の男とすれ違いざまにぶつかってしまった。

「すみません」と声をかけると、男は「いえいえ」と答えていそいそとどこかに去っていった。ふと私は違和感を覚え「これはひょっとしてやられたかな・・・」と思い、腰に下げていた金袋を確認してみると、そこには一枚の紙きれが挟まっていた。

「ブラックブッシュ 建物の裏で待つ」

私は不審に思いながらも紙をポケットにしまうと、何もなかったかのように歩き出し、指定の場所へと向かった。

 

指定された建物の裏で待っていると、突然後ろから「動くな・・・」という低い声が聞こえる。やはり罠か・・・そう思いつつ剣に手をかけつつ、男を突き飛ばして距離を置いた。そこには「ようっ!」といいながら気さくに手を挙げるレオフリックが立っていた。

「こんなのにホイホイついてくるなんて、警戒心が足りなすぎなんじゃねぇか?」

と、相変わらずヘラヘラ笑うレオフリックに「呼び出しておいて何を言う」と私は答えた。実はレオフリックの書く文字には癖があり、さっきの紙を見た瞬間ピンときてはいたが、レオフリックが口封じのために私を処分しに来た可能性もぬぐえてはいなかったのだ。

「おいおい剣から手を放してくれよ。別にお前をどうこうしようとして呼び出したわけじゃねえんだから。いやいや、回りくどいことしてすまねぇな。規律の薄い銅刃団とはいえ、左遷させられた奴が任地を離れてフラフラしているところを見られるとさすがに事なんでな。」

私は剣から手を話し、警戒を解いた。

「その後体の調子はどうだい? しかし、普通にしゃべっていたお前の状態があそこまでひどかったとは思わなかったぜ。あらかた手当てを終えてあんたのところに戻ってみりゃ、口から泡を吹いて気絶しているもんだから、思わず死んじまったと勘違いして思わず叫んじまったよ。」

レオフリックは恥ずかしそうに頭をかく。

「盗賊団の奴もまさか自爆なんてするとはさすがに思わなかった。俺の考えの甘さもまたお前を危険にさらさせてしまったようだ。本当に申し訳なかった。」

そう言ってレオフリックは私に頭を下げた。

「でもお前の指揮のおかげで、あれだけの惨事になりながらもこちら側に誰一人死亡者が出なかったよ。なにより、あそこに残っていた盗賊団を誰一人逃がすこともなく制圧できたのは大きい。こっちはほとんど逃げられちまったからなぁ・・・・」

レオフリックは頭をかきながら、キヴロン別邸跡襲撃時のロストホープ流民街での出来事を話し始めた。

盗賊団達とレオフリック率いる貧民に変装した不滅隊は、予定通りロストホープ流民街にて交戦状態となったが、盗賊団は貧民達が素人では無いことを見抜くないなや、申し合わせたかのように引く波の如く一瞬にして撤退していった。焦ったレオフリック達は追撃をかけたが、盗賊団はアジトが爆発炎上したのを見ると、ちりじりになって逃げていったとのことだった。

「盗賊団のくせに、あんなに組織だって動く奴らだとは思わなかったよ。決断が速いというか、躊躇がないというか。初めからそういう風に訓練されていたのかは知らないが、そこらへんにいる野盗共とは比べ物にならねぇ。
それにアイツら、どうやらロストホープの襲撃とは別に何かデカいことに手を出していたようだ。証拠品はあの爆発でほとんど吹き飛んでしまったんだが、一部だけ持ち出せたものがあってな。今それを調べているところなんだ。

逃がしちまった盗賊団の動向は気にはなるが、とりあえず本拠は潰したんだ。たとえ立て直すにしても時間はかかるだろう。捕縛した何人かの盗賊にも口を割らせているところだから、そう時間もかからん内にいろんなことがわかるだろうよ。

おう、そうだった。大事なもん渡すのを忘れていたよ。」

レオフリックはそういうと、私にずっしりと重い袋を手渡してきた。

「今回の報酬だ。また何かあったら懲りずに頼むぜ!」

そういって「にぱっ」と笑う。幾ら入っているのだろうか。私が今まで貰ってきた報酬の中で一番多い。さすがに命を懸けたことだけはある・・・ということか。私はハッと気が付いて、フフルパから預かっていた手紙をレオフリックに渡す。

「ん? フフルパから? なんだ懐かしいなぁ! あいつ元気にしていたかい?」

レオフリックにホライズンでのフフルパの出来事を説明すると、

「ハハハハハッ!!  あいつのくそ真面目なところは変わらねぇなあ!
俺んところの下にいた時も、生真面目過ぎていっつもどこか抜けてたんだよ。
あいつの素っ頓狂な行動にはいつもいつも頭を抱えさせられていたんだが、なんだかほっとけなくてなぁ。
あれやこれやとかまってやっていたら、いつの間にか懐かれちまってたんだよ。でも、門の前にトラバサミを仕掛けまくるとは・・・

ックク、ハハハハハッ!!」

ひいひい言いながら一通り笑った後、レオフリックは手紙を開けて読み始める。読み進めるにつれて、レオフリックの顔から笑顔は消え、真剣な表情に変わっていく。そしてフフルパからの手紙を読み終えると、

「なぁ、申し訳ねぇがもう一つだけ依頼を請けてくれねぇか?なに、依頼は簡単さ。このダガーをホライズンにいるフフルパに届けてほしいんだよ。」

そういって、レオフリックは懐から一振りのダガーを取り出した。

「たいしたもんでもねぇんだが、なんというか・・・フフルパへの餞別っていうもんかな。満足に別れの挨拶もできずにいたから、手紙のお礼と言って渡してくれよ。」

私がダガーを受け取ると、

「今回の件は本当に助かったよ。また会おう。」

レオフリックはそう言って、去って行った。