FINAL FANTASY XIV SS

FINAL FANTASY XIV を舞台とした創作小説です。

第六十話 「緊急招集」

 

同日夜 黒渦軍司令部 緊急招集


参加者
メルヴィブ・ブルーフィスウィン(リムサロミンサ 国家党首)
エインザル・スラフィルシン(黒渦団幹部 外洋警備統括)
ブルーエイディン少甲佐 (キャンプオーバールック 担当)
ギムトータ大甲士(モラビー造船廠 警備隊長)
ファルクブリダ中甲佐(キャンプスカイバレー 防衛総指揮者)
ル・アシャ大甲佐(軍司令部 特殊陸戦隊の隊長)

GUEST
レイナー・ハンスレッド(イエロージャケット司令官)
ヴィルンズーン・セルスミンドシン(斧術士ギルド ギルドマスター)
トゥビルゲイム・グルドヴァイツウィン(巴術士ギルド ギルドマスター代理)
バデロン(リムサ・ロミンサ 冒険者ギルド ギルドマスター)

欠席者
ジャック・スワロー(双剣士ギルド ギルドマスター)
ヤ・シュトラ(バルデシオン協会 蛮神調査 特使)

 


(メルヴィブ)
皆の者は集まったか?
・・・・・
さすがに急な招集だけに全員は揃わぬか・・・・
だが時間がもったいない。始めるぞ。
議事をとって欠席者には伝えよ。


さて、貴公らを招集したのは他でもない。
現在リムサ・ロミンサを中心として各地で不穏な動きが出ているのは皆の知るところだと思う。
だが、ここにきてあまりにもその動きを看過できぬ状態にある。
だから今一度ここですべてを整理したい。

まずはファルクブリダ、サハギン族共の動向について報告せよ。

(ファルクブリダ)
はっ。現在スカイバレー北南防波壁の警備隊長からの報告をまとめると、防波壁周辺のサハギン族の数が激増しております。
今のところは小規模な衝突程度で抑えられていますが、なにか殺気立つような不穏な雰囲気を感じます。
またどこからか武具が持ち込まれているようで、サハギン族共の武装が整ってきている印象です。
サハギン族の中に「海蛇の舌」の者も紛れておるため、どうやら海蛇の舌がサハギン族への武具の供給を行っているのではないかと思われます。

(メルヴィブ)
リヴァイアサン召喚の方はどうだ?

(ファルクブリダ)
確実に準備は整いつつあると予想されます。
現在のクリスタルの量に関しては把握できておりませんが、一時期大量にウルダハから持ち込まれていたことを考えると、かなりな備蓄量となっているかと思います。
手下である「海蛇の舌」の人数が増えているところを見ると、さらにペースは上がっているかと。
ヤ・シュトラ様の調査では、かなりのエーテル量を観測しているとのことでした。

(メルヴィブ)
海蛇の舌・・・か。

(レイナー)
海蛇の舌についてご報告申し上げたいことがございます。

(メルヴィブ)
話せ。

(レイナー)
はい。海蛇の舌についてですが、かねてから噂されている「人拐い」の疑いがはっきりしてまいりました。
まだ確証には至っておりませんが、先日人拐いらしきの事件に我々も遭遇しております。
双剣士ギルドを筆頭にヤ・シュトラ殿、そして一人の冒険者の協力の元、人拐いの現場を押さえにいったところ、正体不明の妖異と「幻光の影法師」と呼ばれる少女によって阻まれたとのことです。

(メルヴィブ)
被害者はどうしたのだ? 連れていかれたのか?

(レイナー)
いえ・・・被害者たちは逃走経路の途中で死亡しており、口封じのために殺されたのではと言われています。
被害者たちを扇動した容疑者の男も「幻光の影法師」により抹殺されたとのこと。遺体は既に収容し、サマーフォード庄のシュテールヴィルンにより本人と確認が取れております。
逃走経路であった隠された洞窟は「サスタシャ浸食洞」の奥につながっているのではと予想しておりますが、現在は落盤の為塞がれてしまっております。

(メルヴィブ)
「幻光の影法師」か。
あのやっかいな奴が海蛇の舌の仲間だったとはな。

(レイナー)
そのことですが、「幻光の影法師」は双剣士ギルド達に追いこまれ、谷底へと身を投げたとのことでした。

(メルヴィブ)
仕留めたのか!?

(レイナー)
いえ、たしかに双剣士ギルドによるナイフの一斉掃射を浴び、もはや死に体だったとのことでしたが、未だ遺体の発見には至っておりません。

(メルヴィブ)
それでも生き延びていると?

(レイナー)
現在も捜索中ですが、ささやきの谷の滝つぼには地中へと流れ込む水穴がいくつもあるため、そこに呑み込まれた可能性も捨てきれません。

(トゥビルゲイム)
「幻光の影法師」のことで一つご報告したい。
その少女が使っていた魔導書は、巴術士ギルドのメンバーが使っていたものと判明した。
その魔導書は御禁制品持ち込みの臨検時に「デュースマガ」により強奪されたもの。
どうやら闇ルートを通じてその少女の手に渡ったと思うのだが・・・一つおかしな点があった。

実はその魔導書の魔紋の一部が書き換えられていて、それが伝説の「召喚士」の扱う魔紋と酷似していたのだ。

(メルヴィブ)
召喚士だと?
・・・レイナー。一年前の連絡船事故の生き残りの少女は確か「召喚士の村」出身と言っていなかったか?

(レイナー)
正確には「召喚士の末裔が住む伝えられる村」ですが、ミリララの調査報告によるとそれは間違いないかと。

(トゥビルゲイム)
その集落のある地方の入り江で見つかった「原書なる魔導書」。
それに描かれている魔紋と「幻光の影法師」によって書き換えられた魔導書の魔紋が酷似していることを考えると、その少女が「召喚士」であることは疑いようはないだろう。

(レイナー)
その少女は連絡船を襲った一味の仲間で、襲撃時に仲間と逸れ、我々を利用してエールポートまで移動。そして仲間と合流して姿を消した・・・
我々はそう推測しております。

(メルヴィブ)
・・・そうか、あの少女が。
人違いであってほしいものだが「幻光の影法師」があの少女であり、しかも伝説の「召喚士」であるのならば、確かに死体をみるまでは油断はできぬな。
しかし、なぜそこまでの者が「海蛇の舌」なんかに組いっていたのだ?
しかも年端のいかない少女だぞ?

(レイナー)
少女は谷に身を投げる際に「私を止めたければ、みんなを助けてみなよ」と呟いていたそうです。

(メルヴィブ)
・・・その言葉からすると、何か弱みを握られていたということか?

(レイナー)
おそらく・・・
予想できるのは村から消えた住人達のこと。
海蛇の舌は捕らえた住人の命を人質にして、召喚士の少女に殺しをさせているのではないかと。

(ヴィルンズーン)
ちっ下衆共が!
しかし海蛇の舌の人数が増えているということは、ひょっとして拐った連中を団員にしてのか!?

(レイナー)
そう考えたほうが自然だと思います。
団員になることを強要されるというより、強制的に団員となっている。
海蛇の舌は蛮神「リヴァイアサン」を信奉し、サハギン族と行動を共にしている異端の海賊団。
奴らはサハギン族の力を借りて、捕らえたものを何らかの方法で「溺れる者」にしているのでしょう。

(エインザル)
それが本当の話だとすると、海蛇の舌の団員をむやみに切り捨てるわけにもいかぬか。
「溺れる者」になり果てたとはいえ、元は普通の者だったのだからな。

(ファルクブリダ)
そのあたりは問題ないでしょう。
団員数が増えているとはいえ、元が元だけに戦いに向いている者は意外と少ない。数で押されない限りは手心を加えることは可能です。
ただ「溺れる者」から脱する方法が見つかっていない現状、捕らえたとしても隔離し続けなければなりませんけど。

(メルヴィブ)
それはそれで問題か・・・
であれば、やはり早急に海蛇の舌の中枢を壊さなければならないな。
ファルクブリダ、サスタシャ浸食洞の内部調査の首尾はどうだ?

(ファルクブリダ)
それが・・・サスタシャの内部調査についてですが、以前には見かけなかったような凶暴な魔獣で溢れており、倒しても倒しても再びどこからかともなく湧いてくるため中々奥まで進めていないのが現状です。もっと調査に人員がいればいいのですが、ただでさえサハギン族の動向に注視が必要な状態で、防波壁の防衛に回している人員を割くわけにもいきません。

(メルヴィブ)
バデロン、そのあたりの調査護衛を冒険者に募れないか?

(バデロン)
分かりました。では正式に公募を募りましょう。
ただ・・・手練れの冒険者はイシュガルドやアラミゴの解放運動への参加、そして最近では東方の国「ドマ」へと流れているようで集まっても新米揃いになるがそれでもかまいませんか?

メルヴィル
選んでいる余裕はないからな・・・
新米の公募者については事前に訓練を受けさせるようにしろ。
必要ならば武具も支給してやれ
とにかく、戦死者が出ないよう人選は慎重に頼む。

(バデロン)
了解しました。

(ル・アシャ)
しかし解せないのは、それほどまでに侵入が難しい洞穴内に不審な集団の出入りがあったことですね。
海蛇の舌は先ほどファルクブリダさんが言った通り戦闘訓練のしていない寄せ集めの集団ですから、個々人の戦闘技術は並み以下です。
にもかかわらず黒渦団ですら苦戦する深部に到達できるとは到底思えません。

(エインザル)
まさか魔獣どもを手なずけているとか?

(ル・アシャ)
どこかに安全な秘密の抜け穴がある・・・とか?

(ファルクブリダ)
抜け道は探しましたがどこにもありませんでした。
魔獣に関しては・・・どうでしょうか?
ヴァナ・ディールにいる「獣使い」がもし海蛇の舌にいるとしたら、それも考えられますが・・・

(メルヴィブ)
召喚士の少女を拐う連中だ。
「獣使い」をどこからか拐ってきたということは否定は出来んだろうな。

(ヴィルンズーン)
魔獣について一つ俺からもいいか?
リムサ・ロミンサ勢力圏内の魔獣討伐はうちの斧術士ギルドが担っているが、現在サスタシャに限らずラノシア全土で魔獣が増えだしている。
みな知っているかとは思うが、害のねえはずの獣までもがとち狂ったように人を襲う例も増えている。
原因は獣の王とされる「老獣達」が凶暴化したことにあるな。
縄張りを犯さない限りは襲ってくることが無かった奴らが、狂ったように人里を襲う事態が頻発している。

(ル・アシャ)
クジャタのことですか?

(ヴィルンズーン)
いや、クジャタだけじゃねえ。ちょっと前にはプアメイドミルがクアールの王に襲われた。
まあそんときゃプアメイドミルの廃村に住み着いた「猟犬同盟」の奴らが何とか追い返したようだし、コスタ・デル・ソルに出現した蟹の王「キャンサー」はゲゲルジュの雇った冒険者達によって何とか追い返したらしい。スウィフトパーチのあたりじゃドードーやグリダニアにしかいねえはずの妖花のバカでかいやつが居座り始めた
対抗戦力に宛てがあるところはなんとかなっているが、クジャタのように神出鬼没な老獣には対応しかねている状態だ。

(メルヴィブ)
ラノシア全土での魔獣の凶暴化か・・・
それは蛮神召喚の影響・・・とも考えられないか?

(ヴィルンズーン)
それもあるかもしれんが、考えれば蛮神召喚が行われたことは過去幾度とあった。
もちろん召喚強度の大小はあるが、過去の蛮神召喚時にここまで獣が荒れたことはない。
もちろん老獣にしてもな。
それを考えれば、蛮神召喚の影響は間接的にはあるだろうが、それ以外に理由がありそうな気がする。
とすれば「獣使い」って奴の存在もあながち間違いないんじゃねえか?

(ル・アシャ)
「獣使い」にそれだけの数の魔獣を使役する力があるのでしょうか・・・?
一匹二匹ならまだしも、大陸全土の魔獣を配下に置くレベルの「使い手」というのは聞いたことがありません。

(ブルーエイディン)
その他大勢の獣については分からんが、クジャタに関して少し気になることがある。
コボルド族の勢力圏に入り込んで盗掘している奴らのことなんだが、奴らはどうもクジャタの縄張りに入り込んでいたようだ。
押収物を見る限り前までは希少鉱物が中心だったんだが、最近は「クリスタル」が多い。
もともとクジャタの住む森はクリスタルの宝庫で、コボルド族の蛮神召喚時の燃料庫となっているんだが、それを盗掘されたことに怒ったコボルド族共が盟約を放棄して南下を始めやがった。
俺としてはクジャタに関してはその影響が強いと思っている。
クジャタに関して「操られている」のではなく、怒っているのだと。
クジャタは山の神「タイタン」の使い。その子らであるコボルドの怒りに共鳴しているんじゃねえか?

(レイナー)
次に狙われるとしたら・・・・

(ブルーエイディン)
間違いなくレッドルースター農場だろうな。
あそこは勢力圏境に近いこともあって昔からコボルド族に農作物が被害にあっている。

(レイナー)
分かりました。
レッドルースター周辺の警戒を強化しましょう。

(メルヴィブ)
ふぅ・・・「蛮族」に「蛮神」に「魔獣」に「逸れ海賊団」か・・・
復興が進んできたとはいえ、日増しに問題ごとが増えるばかりだな。
救いなのはガレマール帝国の奴らが大人しいということぐらいか。

(エインザル)
海賊団といや、海蛇の舌以外にも不穏な動きがあります。
リムサ・ロミンサで最大規模を誇る海賊団「断罪党」は、第七霊災後に姿を消した党首「ヒルフィル」不在の影響で、後継者を争って派閥が分かれてきているのは承知かと思います。
その内の急進派の連中の動きが活発化しており、どうやらそこにリムサ・ロミンサを追放された海賊共が合流しているようです。
一年前に巴術士ギルドによる臨検に引っかかった偽装密輸船に乗っていた「デュースマガ」。
リムサ・ロミンサを追放された奴が姿を現したのもその影響かと。

(ギムトータ)
それならば掟破りの罪で船をはく奪され陸に上がった海賊「アーツァフィン」の姿を見かけたとの報告もあります。
モラビー造船廠のリーダーであるアートビルムの父親だけに難しい問題ではあるのですが、最近ではモラビー造船廠近郊でよく見かけるとのことでした。
現時点では何か問題を起こしたということはありませんが、目的がはっきりしていないため、動向を注視しているところです。

(レイナー)
それを言うなら、猟犬同盟を離れた「闘犬一家」も断罪党急進派と接触していると噂があります。

(メルヴィブ)
独立独歩が主の「海賊」の集まりであるが故の弊害か・・・
とてもではないが「一枚岩」とはなりきれんな。
民を思えば反感が生まれ、のさばらせれば国が倒れる・・・
全部を押さえて「排除」するのが正しいのか、譲歩により問題を先延ばしするのが正しいのか。
判断の難しいところだな。

(エインザル)
我々は誇り高き海賊です。「掟」破りには正しき「制裁」を。
私は前者が正しいかと思いますよ。

(メルヴィブ)
そうか・・・そうだな。
すまん、柄にもなく弱気なことを言ってしまったな。
エインザイル。奴らの会合を押さえられんか?

(エインザイル)
やつらはどうやら外洋にて隠れて集まっていることが分かっております。

(メルヴィブ)
どこだ?

(エインザル)
……シェルダレー諸島、魔の海域の中です。

(メルヴィブ)
……なに? 霧髭の?

(エインザル)
……オホン!
どこかに安全な「航路」が存在するのでしょう。
魔の海域にいる船を押さえるのは難しいため何とも言えませんが、どうやらそこで船を乗り換えたり積み荷を移動しているようです。
トゥビルゲイムよ、海都への持ち込み品に代わったところはないか?

(トゥビルゲイム)
ふむ・・・特段ご禁制品や危険物が不法に持ち込まれている様子はないな。
・・・しいて上げるとすると、断罪党からはここ最近はガレマール船から強奪してきたとみられる「機械の部品」の持ち込みが増えてきている。
使用目的は「設備修理のため」ということだ。部品だから特に違和感は感じなかったのだが。

(エインザル)
断罪党が「機会の部品」?
浮島と化しているアスタリシア号もさすがにガタつき始めているのか?

(トゥビルゲイム)
まあ念のためその部品がどう流れているのか調べてみるよ。
急進派の手に渡っているとすれば、さすがに疑わなければなるまい。
奴らは「反メルヴィブ派」だからな。

(メルヴィブ)
リムサ・ロミンサ内の内偵には双剣士ギルドにも協力させよう。
「掟破り」が見つかれば、彼らに裁いてもらった方が早い。
バデロン、各拠点での情報収集のため冒険者の力も借りたい。
サスタシャの件と重なるが、頼めるか?

(バデロン)
話を聞くだけなら問題ないでしょう。
ただし、あまり突っ込んだことはやらせませんよ?

(メルヴィブ)
それで構わない。

問題は山積みではあるが、一つ一つ解決していくしかない。
各所連携の上、改めて情報を集めよ。
緊急性の高いところから潰していくぞ!

では解散!

 

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(エインザイル)
提督、お疲れさまでした。

(メルヴィブ)
ふぅ・・・皆よくやっていると思うが、ここまで問題が多岐にわたるとさすがに頭が痛い。
蛮族共を押さえるだけでも大変だというのに、ここにきてまさか異端の海賊団に翻弄されるとは。
海蛇の舌か・・・サハギン族に身売りした小悪党程度にしか思っていなかったが、まさかそこまで規模を拡大していたとはな。

(エインザル)
正直なところ、コボルド族によるタイタン召喚については彼らの地を不用意に犯さなければ対処は可能でしょう。
彼等の領地は不毛な地であるオ・ゴロモ山にあり、コボルドは慢性的な食料不足に嘆いていると聞きます。
人による盗掘を徹底して排除し、食料の提供を交渉材料にすれば再び対話の道も開けましょう。

しかし、サハギン族は違います。
彼らは我々人族が起こした第七霊災の煽りをくらい住処を追われた。
新しい定住先を求めた彼らは自らの神である「リヴァイアサン」を召喚。
リヴァイアサンの放つ「大海嘯」により荒れ地になったハーフストーンは、今や彼らの産卵地となっています。
種が繁栄すれば新たな住処が欲しくなるのは人と同じ。
彼等は再びリヴァイアサンによる大きな「大海嘯」を起こして、我々の住むラノシア地方を水没させようとしています。
種族の生き残りをかけ、産卵地を広げたい彼等には決して対話は通用しないでしょう。

(メルヴィブ)
リヴァイアサン・・・か。
前回は海雄旅団のおかげで退けることができたが、万が一にも召喚されたとして今の軍力でリヴァイアサンを退けることはできるのだろうか。
身動きのとりにくい入り江に追い込んだと言われているが、さすがに2度目は通じまい。

(エインザル)
・・・・

(メルヴィブ)
いや、すまぬな。
人がいなくなるとどうにも弱気になってしまう。

(エインザイル)
提督にも休息は必要ですよ。

(メルヴィブ)
そうも言っていられまい。
それに追放した奴らについては完全に私の責任だ。
状況が状況だったとはいえ、情けなどかけるべきではなかった。
誇り高き海賊に情けをかけてしまうとは、ただただ誇りを貶すだけの愚策であった。
それをわかっていながら時勢に流されてしまったとはな……

(エインザル)
あの時は国を失うかどうかの国難
私は判断を間違っているとは思えません。

(メルヴィブ)
ふっ、そういってくれるのはお前ぐらいだよ。
しかし……いいのか?

(エインザル)
なにがですか?

(メルヴィブ)
……いや。
何でもない。

エインザイル。
各海賊団の取り纏めはお前に任せる。
せめてカルヴァランとローズウェンはしっかりと押さえておけ。
断罪党の急進派についてはいい機会だ。しっかりと膿みを出し切ってやる。
不逞を企む奴らすべて、その名の通り断罪してくれようぞ。


(トントン)


(エインザル)
だれだ?

(バデロン)
バデロンです。
一つお耳に入れておきたいことがありまして・・・

(エインザル)
入れ。

(ガチャ……バタンッ)

(バデロン)
すみません。一つ言い忘れていたことがありまして。

(エインザイル)
なんだ?

(バデロン)
いえね、先の会議で報告にあった「人拐い」を追って双剣士ギルドと行動を共にしている、冒険者の男についてなんですが、出自が奇妙なんでちょっと調べてたんですよ。

(メルヴィブ)
ほう?

(バデロン)
その冒険者は半年前くらいからリムサ・ロミンサのとある工房で働いている奴なんですが、イエロージャケットに「人拐いの協力者」の嫌疑をかけられた工房の潔白を証明するために、今は冒険者として動いています。

(エインザイル)
ん? なぜその工房が嫌疑をかけられたのだ?

(バデロン)
連絡船に乗っていた乗組員の一人が、そこの工房の息子さんだったんですよ。で、先日「人拐い」の現場から逃げてきた奴の証言で、人拐いのリーダーらしき人がその親父さんが息子に贈った斧を持っていたのを見たらしいんです。

(メルヴィブ)
その程度のことが嫌疑の理由か?
今日日斧などどこにでもあろう?

(バデロン)
その斧と言うのが特別製で「バルダーアクス」と呼ばれる逸品なのです。
それを作った工房の店主こそ、伝説の武器職人「ゲロルト」が師事した親方ですよ。
証言によるとバルダーアクスはきれいにメンテナンスされていたとのこと。
その斧をメンテナンス出来るのはゲロルトの親方だけでしょう。

(エインザイル)
なんだと!?
そんな大物がこのリムサ・ロミンサにいたのか!?
私は初耳だぞ!

(バデロン)
これは最重要機密でお願いしたい。本人の強い希望で今までずっと名前を伏せていたんですよ。
斧術士ギルドのヴィルンズーンは工房の店主がゲロルトの親方であったことをなぜか知っているようでしたがね。
あのゲロルトの師匠ともなれば注文は殺到するでしょうが、魂を入れた武器を戦いに使うでもなく趣味で集めるような嗜好家たちにうんざりした彼は、自分が作りたいときにしか作らないと決めたようです。
で、それまでの工房をたたんで雲隠れした後、隠れ蓑としてN&V社の前社長のところに転がり込んだんです。今はそこから独立して3人ばかりの小さな工房を営んでいて、農具やら船の部品やらを主に作ってますよ。

(エインザイル)
これまた驚きの事実だな・・・
しかし、そこまでの話を聞く中では冒険者は称賛される人物ではないか?
主を思い、自ら人拐いの現場を押さえ「幻光の影法師」を追い込んだのだろう?

(バデロン)
冒険者がリムサ・ロミンサに来たのは大体半年前。
しかし調べたところ、その冒険者は「正規のルート」で入国していません。

(メルヴィブ)
どういうことだ?
不法入国者・・・ということか?

(バデロン)
いえ・・・
それがどうやら、ウルダハからの「秘匿飛空艇」で入国したようなのです。

(メルヴィブ)
(エインザイル)
!!?

(エインザイル)
確かに、半年前と言うことであればウルダハ王室発起よる三国同時の「カルテノー戦没者追悼式典開催」に関する「密史」が秘匿便にて入国していたが、とてもじゃないが冒険者が務まるような男ではなかったぞ?

(メルヴィブ)
秘匿艇は両国の了解が無ければ往来できない。
・・・とすれば、ウルダハ側が冒険者をこちらに入国させるために偽装したと? 何のために?

(バデロン)
理由は不明です。
それに気が付いてからずっとあの男を見張っていたのですが、現在のところ特に怪しいそぶりは見せません。
誰か怪しいものと接触した形跡もない。
それが逆に不思議なんですよ。

(エインザイル)
では何のためにこの海都にいるのだ?
ただ働きたいのであれば、なにも普通の船で入国すればいいものを・・・
それにしてもウルダハめ。
同盟がどうだとか言っておきながら、我々を欺くとは・・・
一体何を考えている?

(バデロン)
それを今一度調べ直す必要があるかと思います。
この話は我々冒険者ギルドだけでは扱えない。
そう思い、報告させていただきました。

(メルヴィブ)
分かった。こっちとしても冒険者の動きを注視しよう。
何かつかめた時は、遠慮なく報告しろ。

(バデロン)
よろしくお願いします。


(ギィ・・・バタンッ)


……

……

(メルヴィブ)
さて……聞いていただろう?
そう言うことだから、お前らも動け。
ここ最近じゃお前らが、

一番「身近」な存在だ。

冒険者の素性を丸裸にしろ。